02話


──結局、夢オチとはいかなかった。今、計佑は病院へと来ていて──
「今の彼女の症状を一言で申しますと、お伽話に出てくる眠り姫みたいなもんですな」
丸メガネの老医者の言葉を唖然としたまま聞いていた。
「きっかけがあればすぐに目を覚ますと思いますので、ご安心ください」
随分と大きく髭をたくわえてた、若い頃はきっともてたであろう外見をしているが、
そんなことは今の計佑の意識には留まることもなく・・・
くーくーと、幸せそうによだれまで垂らして眠る幼馴染を呆然として見続けるのみだった。
「まあ目立った外傷もないし、脳も健康な状態・・・普通に眠っている人と何ら変わりありません。
ただ一点・・・左手の小指に小さな針が刺さった跡・・・ほほほほ!
これは面白いですなぁ まるでおとぎ話の眠り姫とまるで同じだ!!」
「ちょっとっ! ふざけないでくださいっっ!!」
話を聞いていた計佑の母・由希子が切れる。
「いや失礼・・・実際はなんてことはない、刺さったのはバラの棘ですよ。
なんてこともない、夏だからどこにでもにでも咲いている普通のバラです。
毒があるってわけもない筈ですが・・・まあ念のため調べてはみます。まあ安心してくださいよ。
私はこれでも日本医師会を代表する睡眠医学の専門家です。必ず彼女の事は救ってみせますよ」
軽い調子で、ウインクまでかましてくる老医師。
それでも、本当に余裕のある態度で保証してくれる姿に、
由希子の怒りもとりあえずおさまりはしたようだった。




「ねえ計佑、なんでくーちゃん、一人で植物園なんかに行ったのかしら・・・あんな遠くまで・・・」
母の問いに答える余裕は今の計佑にはなく─
──何だよこれ・・・
そんな心の声に答えるのは、
「えへへ・・・けーすけー・・・別にまだやせてないよぉ バカー♪」
もぞもぞしながら寝言をつぶやくまくら。
「・・・でも先生がおっしゃる通り大丈夫・・・そうではあるわよね・・・
・・・寝言とかいってるし」
由希子はふうっと大きく息をつくと、
「計佑。アタシは入院の手続きとか済ませてくるから。ちゃんとくーちゃんについててあげなさいね」
──偉いことになった──・・・・・・
計佑の目の前には二人のまくらがいる。
ベッドでニヤニヤと眠る幼馴染と、その脇にしゃがみこむ、ぷるぷるふるえるパジャマ姿の女の子・・・
「んー・・・くー・・・くー・・・」
「・・・私だ・・・」
眠る幼馴染の寝息に答えるように、パジャマ姿の幼馴染がつぶやく。
「なあまくら・・・何度も聞いたけど・・・もう一度きくぞ?
ここにくる前・・・お前はオレと・・ひまわり畑であったよな?
そこでお袋から電話があって、・・こうして病院にきた。・・・一緒にな。
お袋の話では、『まくらが植物園で倒れていた・・・』『眠っていて起きないから救急車で運ばれた』
──だったよな?」
「うん・・・確かにそんな流れだったよ。 私も横で聞いてたから間違いないよ」
ブカブカのパジャマの袖をパタパタさせながらまくらが答える。
「いやいやちがうだろっ! その話を本人がなんで横できいてるかを聞きたいんだよっ!!
じゃあ次の質問だっ。なんでお前いきなり植物園なんかいったんだ? ・・・それもそんな格好でっ」
まくらは一瞬固まったが、
「・・・え? 知らないよ? 植物園のことも覚えてない・・・
だってなんか気がついたらひまわり畑で寝てたから・・・」
「・・・じゃあ・・・バラの傷ってのは?」
「・・・知らない」
「じゃあなんで『死んじゃったかなぁ』なんて思った!?」
声を荒げる計佑にビクりとするまくら。
「それは・・・」
しばらく言い淀んだが、
「そう・・・思ったから・・としか・・・ただそんな感じがしたからつい・・・」
うつむいて、カーテンの向こう側へと移動してしまった。
「おい・・・ふざけてる状況じゃないんだぞ・・・それじゃ何もわかんねーんだよ・・・」
ふわりと浮かんだまくらが、カーテンレールの上から顔をちょこんとのぞかせる。
「お前・・・本当にまくらか・・・?」
胡乱げな目で見られ、思わず上半身を乗り出しながらまくらが抗議する。
垂れ下がった袖でペシペシとカーテンレールをたたきながらのその姿は、可愛らしくはあるが──。
「なっなにいってんのっ! 計佑が忘れてる子供の頃の話だってさっきしたじゃないっ」
「オレが忘れてる話で本人証明なんか成り立つかっ」
(ってツッコミ入れてる場合かっ。漫才やってられる状況なんかじゃねーだろ俺・・・!)
ふうっと息をついて、
「・・・よくあるパターンとして。いや実際あるかは知らんけど……ともかく!!
お前が生き霊とか抜け出た魂とかみたいなやつだとしたって、
こんなに幸せそうにムニャムニャ寝言までほざかれたんじゃあさぁ・・・」
その言葉に、パジャマなまくらの顔がさーっと青ざめる。
「私・・・お化けなの・・・」
いよいよあわあわするまくら。
「いやだって・・・オレ以外の人間は全然浮いてるお前みえてねーし・・・
ていうか、そもそも人間はうかねーし・・・」
そして二人共黙りこんでしまった。何を言えばいいのか、何をどうすれば・・・
「ちょっと・・・頭冷やそうぜ・・・」




二人は海へときていた。
計佑は砂浜に座り込み、波の打ち付ける音を聞きながら物思いにふけっている。
(何もわかんねーし・・・全然わかんねーよ・・・
ただ寝てるだけ・・・確かに顔色いいし、いつものまくらの寝姿どおりだった・・・)
まくらは、まだ落ち着かないのかちょろちょろと飛び回っている。
(原因は・・・小指の傷・・・今のとこそれしか考えようはないよな・・・
てったって・・・何をどうしたら・・)
飛び回るの飽きたのか、いつのまにかまくらは計佑のそばに座っていた。
(オレにしか見えない・・・それってオレになら何かはできるってことなのか・・・)
「なあ、まく・・・」
「ねえ、ケイスケ」
考えがまとまらないまま、とにかくまくらに話しかけようとした計佑の声に
まくらの声がかぶせられた。
「いいよそんなに焦んなくても、さ・・・計佑は今、責任感じてるんだよね。
自分にしか私が見えてないんなら、自分がなんとかしなきゃってさ・・・当たり?」
見抜かれていたことに驚く計佑。
「あははっ、図星って顔してる。ぷぷ・・・」
砂浜から立ち上がるまくら。砂がついたりはしてないハズだが、クセでおしりをはたくと
「よーし、いくぞぉ!!」突然大声をあげる。
「・・・は?」
「今日の太陽が昇るよ」
空の向こうから太陽が顔を出し始めて──
「私が一番乗りだーっ」
かけ出していくまくら。そのまま海へとジャブジャブ入っていき、
「キャー!! 冷たーいっ。 あれーっ、お化けなのにーっ!
わー濡れる濡れるーっ。えーそんなもんなのーっ!!」
キャイキャイ騒ぎ続けるまくをぽかんと見つめる計佑。
・・・ふっと息がもれる。
「何やってんだよ全く」
計佑も立ち上がる。
(落ち込んでるオレを励ましてるつもりか、あいつ?)
苦笑がもれる。
(・・・全く。当事者が笑おうとしてんのに、オレが暗い顔してる訳にゃーいかないよなっ)
「おいでよっ、計佑っ!」
逆光で表情までは見えないが、満面の笑顔で誘ってるだろうことはわかる。
(あいつはそういうやつだもんな)
いつだって元気一杯、喜怒哀楽120パーセントの幼馴染だから。
「おいまくらー!!」
まくらの元に向かいながら、計佑も笑う。
「絶対、なんとかしてみせるからな!!!」




<あとがき>
これが僕の初の小説・・・といっていいんですかね、原作漫画を説明しただけみたいなものなんですが^^;
第一話じゃなく、この第二話から書き始めてみました。
理由は、この第二話では雪姫先輩は登場しませんので、練習にちょうどいいかと思いまして^^;
しかしの第二話を文章化するだけで何時間もかかりました……orz
(26話書き上げてみてからの追加コメント・もうこれは見返すのも怖い。第一話も相当だったから……orz
でもまあ、これが本当に生まれて初めての小説だし、記念ということもあるので、一切推敲しませんでした。
一応、三話からは一話くらいのレベルにまではなってると思うので、
一話耐えられた人は続きをよろしくお願いしますm(__)m)

原作では海のシーンではまくらと計佑はちょっといい感じになってしまいますが、そこは改変させてもらいました^^;
そして鈍感魔王の計佑くんですが、
一応こちらではまくらの意図に気づく程度の器量は持たせてみました(^^)
色恋以外ならある程度は察しよくてもいいですよね?
ちなみに僕は、計佑くんは結構好きなんです。
いや、色恋に関してのウジウジぶりは、ヘビーエロゲーマーだった僕には
見飽きすぎてむしろもう何周かして、んで結局やっぱりイラつくわって思うところなんですが、
雪姫を守りきった後の笑顔のシーンには痺れてしまったもんですから(^^)



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