序章





 それはあまりにも突然だった。
 バイトの配達中、辺りに高らかなサイレンが鳴り始め、何事かと周りを見てみると、皆が呆然と空を見上げている。
 自分も空を見上げると、そこには運河の如く大量の「蟲」が空を飛びまわっていた。
 その「蟲」達は迎撃に上がった戦闘機を次々と落として行き、それだけでは飽き足らないのか、あろうことか地上に降りてきて、辺りの施設を次々に破壊して いった。

 馴染みの食堂が炎に包まれ、よく立ち読みをしていた本屋がミサイルによって吹き飛ばされる。
 60になる気の良いおじいさんが切り盛りしていた喫茶店は「蟲」の銃撃によって蜂の巣になっており、 昔密かに恋焦がれていたお姉さんが働いていた保育園は見る影もない……。
 数時間前まであたりまえにあった日常が蹂躙されていく。
 その光景は自分の足を止めるには十分だった。すぐ近くにいた軍の人に無理矢理連れて行かなければ、恐らくあの「蟲」達によって自分の身体は彼らの銃弾の 餌食にされるか、爆炎の炎によって消し飛んでいただろう。
 そして今自分は多くの避難民と共に地下のシェルターにいる。








「本部! 本部! 応答して下さい!」

「駄目なんじゃない?」

「は?」

「地下がこれじゃあ地上はもう全滅だよ」

 それはおそらく真実だろう。
 先程も、今までとは比較にならないほど大きな振動がシェルターを襲い避難民(自分を含む)が一時パニックになった。
 その様子を顧みると、地上が全滅していると考えるのは不思議なことではない。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「え? あ、ああ、なんでもないよ。」

 この子の名前はアイちゃん。
 このシェルターに避難した際に知り合い、少し話しただけで随分なつかれた。
 仕入れのみかんをあげたときの「デート」発言から、かなりおしゃまな子なのだろう。
 今もみかんを片手に色々と話しかけてくるので、ちょっと対応に困っている。
 助けを求むべく視線を横に移すと、彼女の母親が同じくみかんを食べながらにこにことこちらを見守っている。
 ……どうやら彼女をあてにするのは無理のようだ。
 そうそう、仕入れのみかんだがこれらは全部、避難民の人たちに分けてしまった。
 こんな状況下だし、なにより多くの食料(みかん)を自分一人が独占しているのは気分的に申し訳ない。  もし生きて帰ることが出来たらバイト先の店長に謝っておこう。  そんなことを考えていた直後のことだった。

 ガッガガッ

 シェルターの壁から何かを削るような音が聞こえてくる。
 何事かとそちらのほうを見てみると、壁の亀裂から赤い光が見て取れた。
 途端、嫌な予感がして俺は咄嗟にアイちゃん親子を抱え込んでその場に伏せる。


――爆発


 衝撃と閃光がシェルターを駆け巡り、爆発が収まると、そこには頭上を飛び回っていたあの「蟲」がいた。
 爆発の衝撃波にやられたのだろうか。「蟲」の周りに何人か倒れている。
 途端にパニックになるシェルター内。

「市民を守れ!」

 軍の兵士が「蟲」に向けてマシンガンで応戦するが全くきいていない。
 嵐のような銃弾を受けながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。

「おいっ! なんでそこのロボットを使わないのだ!」

「そいつはIFS対応型で我々には扱えない!」

「IFS適応者は!?」

「みんな前線に出て行ってやられちまったよ!!」

 そんなやりとりが聞こえたのでそちらを見てみるとなるほど、確かにそこには6メートルほどの人間型ロボットがあった。
 右手には小型のビームガンを握り締めており、今すぐにも戦闘ができそうだ。
 俺は迷うことなくそいつに乗り込む。

「おいっ君!! 何をやっている!! 危ないからすぐにそいつから降りろっ!!」

「パイロットがいないんでしょう!? だったら俺が操縦しますよっ!」

「何をいって………!!」

 続きを聞かずにコックピットを閉める。
 そしてすぐさまIFS端子に掌をのせて………よしっいけるっ!

「いけっ!」

 俺は迷うことなく機体を前に押し出し、「蟲」に向かってビームを連射する。
 1……2……3……4発ほど命中させると「蟲」は煙を上げて沈黙した。

 おおおぉーーーーー

「お兄ちゃんスゴイ! スゴイ!」

 スピーカーを通じてそんな声が聞こえてくる。
 モニターを通じて見てみると軍と避難民が一緒になって後ろのシャッターを開けようとしている。
 ……なんとかなったようだな。
 ホッと一息ついたその時だった。

 ピピピピピッ

 なんだ? レーダーに赤い光点…………敵!?
 まずいこの方向は!!

「よーし開くぞーー!」

「だめだっ!開けるなーーーーーー!」


 ――轟音!


 シャッターを開けると同時に閃光と衝撃が再びシェルターを襲う。
 爆発が収まるとそこには十数匹の「蟲」と、多くの物言わぬ骸が横たわっていた。
 どうやら犠牲になったのはシャッターの近くにいた人達のようだ。
 途端に逆流してくる避難民。
 それによって機体が思うように反転できず、また軍の人も動けないでいる。それを知ってか知らずか、流れ込んでくる「蟲」たち。
 ……気付いたときには、既に周りは「蟲」によって包囲されていた。

「……お、お兄ちゃん」

 アイちゃんの今にも泣きそうな声がスピーカーから聞こえてくる。
 ……この子だけでも守ってやらなくちゃ!!
 シェルターへの出入り口は全部で二つ。一つは「蟲」が占拠しているため、脱出は不可能。残るもう一つの出入り口に向かうしかない。
 俺は機体を出口のほうに向け、走り出すと

ザンッ

 先頭の「蟲」を左腕のレーザーブレードによって切り伏せる!

「俺が退路を開きます!軍の皆さんは後方を守ってください!」

 とにかく出口までの道を確保しなければならない。分の悪い賭けだけど今はこれしかない! そうして俺は再びブレードを振るう。
 軍の人達も必死に避難民を守りながら応戦しているが、「蟲」たちにはまるできいてない。
 たったひとつの退路……シャッターまでの道程のなんと遠いことか!

 ズドンッ

 左腕がやられた!? 残った武装は右腕のビームガンのみ………。
 先頭の「蟲」にビームを叩き込むと、そいつを蹴飛ばして「蟲」の集団の中で爆発させる。
 ……だがそれでも「蟲」はまだまだやってくる。後ろを見ると、もうほとんどの人達が犠牲になっている。
 間に合うのかっ!?

 ズガガンッ

「うわあっ!?」

 右脚がやられた!? 戦闘中に余所見をするなんてっっっ!!!
 「蟲」たちの包囲網がどんどん狭まってくる………

「お母さん、お母さん! 起きて……起きてよう……」

 ……アイちゃんのお母さんもやられてしまったのかっ!!

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……怖いよ……怖いよ……」

 ………俺は女の子一人守れないのかっっ!!!


 …………俺はっ……なんて無力なんだっっっ!!!!




















『素人にしては上出来だ。後は任せろ』


 ズドドドドドドド!!!!!!


 途端に目の前の「蟲」たちがはじけ飛ぶ!! 僅か数秒の銃撃で10体あまりの「蟲」がスクラップと化してしまう。
 慌てて正面モニターをみると、そこには自分の乗るロボットより一回り大きい黒いロボットが悠然と立っていた。
 但し、その存在感は圧倒的だ。
 そいつは右手に巨大なバズーカを持ち、左手にはレーザー光波発振器、そして右肩には先ほどの銃撃の元であろう、黒光りする巨大なチェーンガンが立ち上 がっていた。  「蟲」たちは黒いロボットを脅威と感じたようで、一斉に飛び掛かる。

『……フンッ』

 そんな声と共に右手のバズーカが持ち上がり、火を噴く。

 ドンッ!

 ズガンッ!  ズガンッ!

 なんと砲弾は「蟲」の体を突き破り、後ろの「蟲」をも破壊してしまった。そして破壊の惨劇は続く。
 バズーカの砲弾が「蟲」を屠り
 チェーンガンの銃弾が「蟲」にダンスを躍らせる。
 飛び上がる「蟲」たちは光の光波によって斬り飛ばされ
 地面に蹲った所を巨大な脚で踏み潰される。
 ……あれだけ俺達を苦しめた「蟲」をこの黒いロボットはなんの脅威とも思ってないようだ。
 わずか数分であたりに動いている「蟲」はいなくなってしまった。

 黒いロボットは俺達のほうを振り向く。……こちらを助けてくれたわけだが、先ほどの戦闘を見ると、つい警戒してしまう。
 すると、向こうのほうから通信があった。

『脱出を支援する。そんな脚でも動けるはずだ』








 数分後、俺達……いや、俺とアイちゃんはユートピアコロニーを脱出した。
 結局あの脱出劇で生き残った避難民は俺を含め僅か二人だけだった。アイちゃんはまだ泣いている。
 ……無理もない。目の前で母親を殺されたのだから。俺の頭を後悔ばかりが過ぎてゆく。
 もっといい方法があったのではないか?あの場で救援を待ったほうが被害は少なかったのではないか?

『俺にもっと力があれば……』

 そう考えずにはいられなかった………。



 あの黒いロボットは俺達を近くのコロニーまで連れていくとそのまま輸送機に乗って帰っていった。
 俺とアイちゃんはその機影をじっと見つめていた。

「ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

「あのロボットさんってなんなの?」

 何なのか……か。
 俺はあいつを知っている。
 そしてあのロボットの正体も知っている。





 その存在は一騎当千

 その存在は力と恐怖の象徴

 その存在は自由の証

 人々は彼らと彼らの機体をこう呼ぶ

 地上最強の兵器AC(アーマードコア)を駆る者…………「レイヴン」と
























 

地球暦2175年。地球最大規模を誇る総合巨大企業「ジオ=マトリクス」社は、

大破壊以前に進められていた火星探査計画と人工知能搭載型ロボットを利用した

「火星テラフォーミング計画」の概要を入手する。

 ジオ=マトリクスは直ちに大規模な調査隊を火星に派遣し、火星の地球化を発見する。

 その後、火星には多くの企業が進出し、約20年をかけて

大規模な火星社会が形成された。


 火星には地球での企業間対立がそのままもちこまれ、

各地で激しい企業間武力紛争が繰り広げられることになった。

 「ジオ=マトリクス」 「エムロード」 「バレーナ」 「クリムゾン」そして「ネルガル」

 これら企業の対立は、かつて「大深度戦争」以前に活躍した

「レイヴン」と呼ばれた者達の時代が

再び訪れたことを意味していた。 











機動戦艦ナデシコ×ARMORED CORE2

MARS INPACT







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