13.(コンペイトウ沖海戦−その4)

 アクシズ艦隊旗艦「グワダン」メインブリッジ。
 大勝の昂奮冷めやらずというところか。未だ時折回線から漏れる「ジーク・ジオン」の勝鬨に男は思わず苦笑を洩らす。
 顔をしかめ、何か言いたそうにこちらを見た副官に軽く手を振っていなした。現時点で我が軍唯一の美点といっていい戦意の高さを不用意な叱責で喪いたくはない。
 ハマーンから兵権を預かり、一応所期の目的は達成出来たことに感謝しながら、彼、ユーリ・ハスラーは独り静かに今の戦いを検証していた。大戦果に全軍が湧き返る中、表面上はそれに和しながらも総司令官として最も喜んでいいはずの立場であったが大事をなした疲労感と事が成った安堵を胸に、どこまでも怜悧に彼我を見据えていた。その彼なればこそハマーンも一軍を託したのであろうが。
 勝利とは、戦って勝つこと、だ。しかし我が軍は一度も戦ってなどいない。故に負けなかった、それだけのことだ。
 練度を問うのもおこがましい、初めて編成された艦隊による初の艦隊行動。しかも深刻な定員割れを抱えてのそれだ、機材はともかく人員だけはどうにもならない。1年戦争組の奮闘で何とかそれらしく振舞えはしたが。
 勿論、負けない為の努力は尽くした。
 南米相手の避戦を基本戦略とする永年の外交努力。それを電文一本で反故にしたコンペイトウ勢力。前線部隊の暴走である事は明白であった。当然、その戦力編成は南米の承認を得たものではない。本来であれば各級指揮官に適切な権能分与を行い最後の一兵卒まで戦闘可能である堅牢な指揮統制構造を持つ連邦軍だが、”この”艦隊は連邦軍への根拠薄弱な偏見通りの”烏合の衆”であるはずだ。
 万が一の早期開戦に備えた布陣が、辛うじて危機を救った。常に両略を睨んでアクシズを率いてきたこれはあくまで彼の少女総帥こそがもたらした、”勝利”だ。自分は現場でその成果を確認しただけに過ぎない。
 副官が二言三言コンソールと言葉を交わし、顔を上げる。
「閣下。この『グワダン』にも取材の申し込みが来ましたが…」
 やや呆れた表情で問いかける副官にハスラーは鷹揚に頷く。
「構わん、乗艦を許可する、丁重に応対するように。引き続き広報、取材、可能な限りの便宜を図ってやれ。ムンゾに裏表無い総ての情報を流しこめ」

 コンペイトウの方面からただならぬ気配が漂ってきていたが当面彼に出来ることはない。こうして近隣の哨区を飛ぶことくらい以外には。
 デブリが多いな。さすが1年戦争激戦の地、ソロモンか。
 コウはしかしそれに気付き慄然とする。
 真新しい、まだ熱を持つ、デブリ。
 違う、これは、撃破された友軍機だ。
 呼吸が浅く、早くなる。
 居る、何かが、この宙域に。
 センシング域を絞り込み、検出感度を限界まで上げる。
 感知したそれは星明かりに潜む微小な反応だった。だが何光年も先のものではない。
 MS−14?。
 いや、一度フラッシュして識別結果が書き変わった。
 ** nos **
 心臓が止まったと思う。
 交戦して帰還する機なし。正体は戦後初めて判明した。
 ソロモンの悪夢。アナベル・ガトー。当時と同じその専用機だとデータが伝える。
 コウは一瞬、全く別の事を考えていた。何でこんなデータが。ルセットが機械的に放り込んだのか。
 激しく頭を振る。
 違う、そうじゃない。
 そこに居るんだ、あのガトーが!!。
 惑乱と無縁に体は動き、機体は反射的に射撃準備に移行している。長距離狙撃モード。
 だが、全く当たる気がしない。
 気付かれてはいないと思う、思うが。
 トリガーに掛った指を動かせないまま2秒ほどが経過し。
 反応が、消えた。
 「消えた」
 口にしながらコウの脳裏では戦術機動に関する断片が閃き交錯する。
 彼我の距離は詰まっていた。加速離脱されてはいない。
 つまり敵機は依然自機の進路前方に存在する、はずだ。
 敵機の現在位置は。
 最終位置情報は当てにならない。ダミーをかまされた可能性もある。
 じゃあどこに居るんだ。
 脳髄の物理的限界、コンマ数秒で結論に達したコウは同じく生理的限界で手足に命じ。
 FBは全力制動。
 胃、どころか内臓の総てを口から吐き戻しそうな凄まじいマイナスGがコウを襲う。
 歪む視界の端でモニタが敵機の存在を示す。
 ひょおぉ。
 生暖かい何かが首筋を撫で行き過ぎたのをコウは感じた。
「強制冷却で気配を消したのか?!」敵機の眼前で。なんて大胆なマニューヴァを。
 光学センサでは捕捉できない。闇を斬り落とした様な漆黒の防眩迷彩。
「この間合を外すか」
 ガトーも思わず独語。伊達ではないな、ガンダムドライバー。
 だがガトー渾身の一撃は唯の空振りに終らなかった。コクピットこそ外したものの振り抜いた切っ先はFBの頭部を捉えた。
 コウの眼前で激しいノイズが弾ける。メインカメラを含め殆どのセンサがアウト。
 追い縋るゲルググをFBは蹴り離す。ガトーは両足とも斬り飛ばすがコウは貴重なスタンスを得た。そのまま強引に振り切る。後退しながら連射、命中は既に期待していない。
 そして背を向け。
 それは最悪だ、ガンダム!。
 ガトーは胸中で吐き捨て、FBの背後へ瞬時にエイミングし。
 もちろん、コウにも判っていた。
「なに!」
 FBは2連続バレルロール。射線をすんでにかわし、ゲルググに正対しながら。
 全力加速。
 コウは絶叫していた。貴方は俺が止めてみせる、ガトー少佐!!。
 ぬう!。
 2機は切り結び、互いの刃は互いのコクピット周りを抉り回した。
 コクピット内の総ての光源が落ちる。
 一瞬の暗闇を置いて、赤黒い僅かな光。
 ハネースを外し、身を起し、少しだけ考えた後、コウは決然とハッチを開いた。
 まるで当然の様に、目の前に人影が立つ。
 コウは息を呑んだ。そのジオン仕様のノーマルスーツを必死に睨む。負けないように。
 受ける威圧感は相当なものがあったが、だが今二人の間にあるべきもの、殺気や害意の類の気配は微塵も無かった。銃も構えていない。なのでコウも軽く両手を上げる。
 手が動いた。人差し指が立ち、ちょいちょい。
 コウは、慎重に近づく。
 バイザーが触れ合う。
「デラーズフリート所属、アナベル・ガトー少佐だ。貴官は」
「地球連邦宇宙軍、コウ・ウラキ少尉であります、少佐殿」
 ウラキか。ガトーは呟き。
「覚えておこう、少尉」
 離れた。自機のコクピットへ。
 背後に重圧感を感じ、振り向いたコウはモノ・アイに睥睨された。
 月で遭遇した、MAだ。いつの間に。この機も今は漆黒に塗り代えられている。
 MAはゲルググの残骸を掴むと、こちらにブラストが掛からない様に姿勢制御した上で加速、コウは放心したままそれを見送る。
 ガトーと戦った。
 生き延びた。
 見逃された。
 雑音が聞こえる。いや、呼んでいる?。
「コウ、コウ?!死んじまったのか?!生きてるのか?!なら返事してくれ!!」
「…キース?」





出之です

やーやっぱり月を跨いでしまいましたねぇ…

ガトーさんに何に乗って貰うかでまた悩みました。
(原案はヴァルヴァロ/ノイエで観艦式殴りこみ 
当然アクシズ早期参戦はこの時点ではナシ)
14とFBで相撃ちって06ダム相撃ち並みにヘボくねと
これも悩みましたが、
ご覧の通り、NOSが一種の”ステルス”仕様ということで。
あとコウも原典ほど経験値高くないし。
ま、結果こんなもんですかね、と。

実質@4、5回でしょうか
月内でフィニッシュ出来るといいんですが。

ではまたー 出之でしたー。




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