Op.Bagration



 16.

「求むライダー。ザク系機体1機有り。先着1名。」
 ぱちくり。
 ガレスは思わず我が眼を疑う。
 茨の園。補給作戦統括本部室。
 補助艦一隻余さず出払った、隣の港湾部はもぬけのカラだ。
 そして補給部もまた、弾薬糧食最後の1カートンまで吐き出し尽くし、その業務は、使命は前線の決着を見る前に果たされている。
 否応なしの決戦態勢がここにも見て取れた。
 これが最後の、我々ジオンの戦いなのだ。
 ガレスもそう決意していた。
 そして、自分の戦いはもう終わったのだと。
 戦場を替え、今日まで戦い続けて来た。
 ここでの自分の役目は尽きたのだと。
 今、この瞬間まで。
 戦勝か、それ以外か。
 何等かの結果が報じられるまで、彼らは正に「急いで待て」以外の何者でもなかった。
 データベースを無意味に手動でぽちぽちとクリアしながら、何を期待するでなく機械的に定期メールをチェックしていた手が止まる。
 着信、1。
 開いて呆然としていたガレスは我に返ると猛然と返信していた。
 反応は直ぐだった。内線が鳴る。
 震える手で取り上げた。
「すみません、内線3721、補給部のナンディ・ガレス課長、殿、でしょうか」
「ジャルガ・ンダバル上等兵、か」
 ガレスは咳き込む口調で訊ねる。
「そっス。えーと、高機動ザクっスか。何年前ですか。まあいいか」
 相手はぶつぶつと独り呟く。
「思えば相手が見付かっただけで奇跡ス。こっちもまさか。じゃ最寄のエアロックまで点検兼ねて移動しますんで。着いたらまた連絡しますそれじゃ」
 どこか自己完結気味な相手はそのまま切れる。
 ガレスはまた、しばらく受話器を握りしめたまま凍りついていた。
 今までも前線勤務を志願して来なかった訳ではない、否激しく具申してきた。
 もちろん、それが通るはずがないことも理解していた。
 どちらかといえば供給過剰な、そしてどれだけ言葉を飾ろうが所詮消耗品でしかないライダーに、ようやく育った得難い熟練軍官僚を充当するはずもない。
 それら事情を十分理解した上での、頑迷な、意地でもあり、また自身への言い訳でもあったのかもしれない。
 執務デスクの下に放置していたジュラルミンケースを取り出し、置いた。
 軽く埃を払う。
 鈍く光るそれを暫く眺めた。これは俺の墓だとガレスは思う。
 鎮め、葬り去ったはずなのだ。
 違う。
 ここにあるこれはでは、何だ。
 開いた。
 使い込まれた、ジオン軍制式ノーマル・スーツ。
 俺も、亡霊そのものだった。
 手に取り軽く握る。懐かしい感触が指先に宿る。
 何をしてるんですか、課長。
 怯えの響きが、届いた。
 上げた視線の先で、彼女は震えていた。
「いつも、仰いますよね。矢弾に身を晒すだけが戦いじゃないんだ、戦士としての誇りを以って各自職務を遂行すべし、って」
 マイカ・ベルモント軍曹の詰問、否懇願にガレスは苦笑で応えた。
「嘘だったんだ」
 マイカは目を開く。
「うそ、って……」
「すまんな」
 言葉を失う彼女になんとなく一言詫びてみる。
 そして彼は場違いに思った。軍曹、ヘタに化粧しない方がいいんじゃないか。
 というか、なんでこの娘は突然泣きじゃくってるんだ。
 当惑と共に立ち尽くすガレスの脇で内線が鳴る。

 なんだコイツは。ブースターの化け物か?!。
「ああいや99%使い切りますこれでギリです」
 ガレスの気配に若い男は素早く言い添える。
「てか急ぎましょう乗りましょうコンソル周りは高機動まんまスから」
 メンテじゃないのか君、というガレスの怪訝な視線に。
「タンデムっスこれ」
 ジャルガは再び即答し、自らハッチを開く。

「つまりこれは、どう考えるべきなのかな」
 流れる空気には微妙、というよりも奇妙なものがある。
 グワデンCIC、作戦情報室。
「稼動全力。それ以上でもそれ以下でもないでしょう」
 茫漠とした問いかけに情報参謀が簡明に回答する。
「グラナダのプロペラントは使い切った模様です。フォン・ブラウン政庁にまで余剰物資の供出を要請したとの情報もあります」
 徴発ではなく要請、であるのは未だに連邦議会が今回の”事態”を「戦争」と認証していないが為であり、軍もまたそれを望んでいないから、でもある。
 グラナダからの新規戦力投入。その評価と対応決議の席上。
 進発したのはマゼラン級らしきもの四隻を基幹とする、他、巡洋艦12、補助艦艇4。
 我がデラーズ・フリートを叩くに、必要にして十分な戦力であるとは言える。ソロモン、アバオクからあれだけ毟られたにも関わらず。流石というしかない。
 が、額面上から言えば、先刻撃破したコロニー警護群にケが生えたようなもんだ。
「捨石か。ルナ2本隊の」
 吐き捨てる様な戦務参謀の言葉に。
「いや、寧ろもう少し待つべきだったんだ。それでルナ2と連携出来る」
 航宙参謀が首を傾げながら異議を発する。
「我が戦力を過少評価している可能性も考えられます、例えば、警護群の戦意に不足があったのでは、等と」
「あらかた投降して来たからそれは事実だな」
 苦笑、失笑の細波。
「グラナダで叩き、ルナ2は保険か。大した自信だな」
「いや、逆かもしれん。グラナダは牽制で本隊はあくまでルナ2」
 航宙参謀が再び疑義。
「我が方を分断し、各個撃破か。我らがそれに乗るとでも」
 戦務参謀の皮肉に。
「死兵の可能性は捨て切れん、厄介だな。邀撃戦でいこう、先にMSを叩く。艦隊特攻なら再度殲滅する」
 作戦参謀の総括に各員が同意。

 地球軌道近傍宙域。
 マゼラン級「ベルリン」。
 ハンガーでは多数のデッキ・クルーが激しく”飛び交い”作業に忙殺されている。
 その一、機体整備班でのちょっとした私語。
 あーウチの大将だいじょうぶなんか、なーんかいっつも独りでぶつぶついってっけどさー。目がイっちゃってるし。
 いやそれがさ。大戦では大したエース、だった、らしいぜ。
 ふーんなるほどねえ。まだ若いのに軍もかわいそうなことするよね。
 まったくねえ。やだやだ……。ライダー目指したトキもあったけどさあ、メンテでよかったよオレ。
 うんうん……。

 「……来る」


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 宇宙空間で有視界戦闘ってどうやるんじゃー(挨拶)
 未だに判らない出之です今晩は大変御無沙汰しております大変申し訳ありません。
 バグラチオンっていう出オチなタイトルをひっさげております当83二次。
 有難くも地味にカウンターが回ってます様ですので責任を以って完結まで粛々と進めて参りたいと決意を新たにする所存。いや一時期3行オチ投稿してもう止めちゃおうかと。


 orz


 さて。

 盛・り・上・が・っ・て・参・り・ま・し・た。

 御免なさい禿げしくメンドクサイw。
 だってオチ知ってるんだもん。

 いや、どんどん盛り上がりますよー。
 なんでちょっとミスるとあぼーんします。きゃー。

 二次で火葬なのでヘタすると、いやルセっちとかは確信犯(誤用)ですが。

 今回、ラトーヤが原作より濃い目だったんで、オリ絡みは薄味仕上げに留めました。
 あとスパロボですかGジェネですかと(嬉しく)迷った挙句、リクにもお応えしました。

 ので最後に一行予告。

 ……を殺して未だ判らんのか!!……(お前が言うな)。


 お後が宜しいようで。

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 しかしまーガレスにつきあってケースを引っ張り出して開くだけで時間がかかったことかかったこと……(その先が煮詰まって無かったんだけどね)
 グラナダも当初、それこそ単艦単位での逐次投入で、『全力加速でコロニーに特攻、後は地球パーキング軌道に乗るだけ、か。それを作戦と呼べるのか、既に正気ではないな、連邦軍……』とか(ボツ)連邦は何を考えてるんだと思いつつジオン艦載機群がじわり、と本隊と引き離されたそのタイミングで、とかとか構想してて。


 それではまた出来れば近い内に。
 今年”こそ”完結したい出之でした。ノシ。


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