第七章 不吉な前兆と預言





−ミッドチルダ市街地−

制服を着た男性局員が夜の街中を歩いている。名前はさておき、彼は所属部隊の当番でパトロール中。
傷害や殺人事件が多いミッドだが、その発生件数は夜に多い。犯罪者が身を隠していそうな路地にまで入って、念入りにパトロールを行う。
路地を歩いていた彼は背後に妙な気配を感じて振り返った。が、誰もいない。
「気のせいか」と呟き、早く家に帰って暖かい鍋でも食べたいなぁと思いながらパトロールを再開する。その直後、彼の後ろで何かが光った。
次の瞬間、路地に何かを叩きつける音と男性の悲鳴が響いた。



翌朝、路地の入口には数台の警邏車両が止まっていた。周辺には赤い光線が張り巡らされ、関係者以外立ち入り禁止となっている。
入口から少し進んだ場所に数人の局員がおり、女性の局員もいた。腰まで伸びた長い水色の髪を青のリボンで結び、優しくも凛とした眼をしている。彼女の名はギンガ・ナカジマ。陸士108部隊に所属する捜査官だ。
彼女の視線の先には大きく凹んだコンクリートの壁があり、その前には壁の破片が散らばっている。
昨日、この場所をパトロールしていた局員は何者かに襲われて病院に搬送されたのだ。幸い大きな怪我もなく、大事にはいたっていないのだが。
傍にいた局員から被害者の資料を渡された彼女は目を通し始める。と、文字を追っていた彼女の目の動きがはたと止まった。
彼女が引っ掛かったのは、被害者がレアスキル保有者だということ。
実は、レアスキル保有の局員が襲われる事件が立て続けに3件起きているのだ。今回の事件で4件目。偶然にしては少し怪しい。
嫌な予感がした彼女は、かつて自分の上司だった人物に相談するべく地上本部へと向かった。





−ミッドチルダ地上本部・はやての特別捜査官室−

「……というわけなんです」

1時間後、ギンガははやての捜査官室にいた。局員連続襲撃事件について一通りの話を聞いたはやてはうーんと唸る。
一緒に話を聞いていたフルサイズのリイン、美月は黙ってはやてを見た。

「せやなぁ……こんだけ立て続けっちゅうんは、ちょい気になるなー」

話を聞いていた美月にも事の不可解さは分かった。例えるなら、同じ服を着た人が次々と襲われていくようなもの。これを偶然と呼ぶにはかなり無理がある。
同時に彼女の頭に一抹の不安がよぎった。美月やはやて、リインもレアスキル保有の局員なのだ。(古代ベルカ式魔法を使う術者が希少なので、古代ベルカ式魔法を使える人物は即座にレアスキル保有者となる。リインがレアスキル保有者と扱われるのはこのため。)
もしかすると、彼女達も襲われる可能性があるのだ。総合SSランクのはやて、いつもはやてと一緒にいるリインは大丈夫かもしれないが、美月は大丈夫とは言えない。
無理矢理これは偶然やと自分に言い聞かせて落ち着かせようとするが、少しでも疑ってしまうと考えを変えるのは中々難しいものだ。いつの間にか、美月は俯いてしまっていた。

「で、ナカジマ三佐はどないするって?」

美月の顔がだんだんと下を向いていくのを心配しながらはやてはギンガに聞いた。
ギンガが所属する陸士108部隊の部隊長であるゲンヤ・ナカジマ三佐ははやてとは7年前からの付き合い。おそらく彼も何か考えているのだろうとはやては推測したのだ。

「内密に4件の関連性の調査を開始するそうです。もし、同一犯だとしたら今後の被害を防ぐことができるかもしれないと」

はやては頷くと手元の資料を美月に回した。気落ちしているので少々かわいそうな気もしたが、仕事上そうも言ってられない。
美月は深呼吸をして気持ちを落ち着けると、資料を読み始めた。
資料には4件の事件の詳しい情報が書かれている。いずれの事件も発生したのは深夜の路地。被害者の状況はさまざまであるものの、共通しているのはレアスキル保有の局員であるということ。被害者全員、リンカーコアなどに異常はなく、肉体的な怪我が治ればすぐに復帰できる状況なのが不幸中の幸いか。
ふと美月は首を捻った。被害者の傷が打撲、刃物による傷など1つとして同じものがないからだ。同一犯にしては少しおかしい気がする。

「同一犯言うても、1人とは限らへんし、同じ手口やとは限らへんで?」

まるで美月の考えを見透かしたように言うはやて。参りましたというように美月は頭を下げた。
考え込んでいたリインが口を開く。

「ということは、何らかの犯罪グループによる犯行の可能性があるということですね」
「ええ。ですから、これまで逮捕した様々な犯罪者グループのメンバーのデータをもう一度洗いなおして検証しています」

美月はもう一度資料に目を落とす。と、通信が来たことを知らせる音が鳴った。
はやてはパネルを出して回線を開く。画面に彼女達を迎えたのは紫のリボンをカチューシャのようにして金髪の長い髪を留め、黒いドレスに身を包んだ女性が現れ、口を開いた。

「はやて、久しぶりね」
「カリム、どないかしたん?」

のんびりした声で応対するはやて。
画面の女性―カリムは軽く微笑むと、話を切り出す。カリムの微笑みがどことなく弱々しいのは気のせいだろうか?

「実は直接会って話したいことがあるの」
「ん、分かった。ほんなら今から行くわ」

はやては通信を切ると、ギンガの方へ顔を向けた。
既にギンガは資料などを片付け始め、立ち去る準備をしている。はやては少し申し訳なさそうな表情で口を開いた。

「ごめんな、出かける用ができてしもた。まあ、今のところは急ぎの案件はないから私らも少し調べてみるわ」
「よろしくお願いします」

ギンガは一礼して部屋を出て行く。彼女を見送った後、3人はすぐに出かける支度を始めた。





−ミッドチルダ北部・ミッドベルカ間連絡高速道(通称ベルカライン)−

高速道路を走る白いミニバン。運転席にははやてが座り、助手席にはフルサイズのリインが、そして後ろの席に美月が座っている。ちなみにこの車ははやて(八神家)の自家用車。
日本の高速と変わらない風景をしばらく眺めていた美月は視線をリインに向けると口を開いた。

「騎士カリムって人はどんな人なんですか?」

先程ちらっと見たカリムの顔を思い浮かべながら美月はリインに尋ねた。外見は今一つ騎士という呼び方とリンクしない。
リインはパネルを表示させ、美月の方へ回した。改めてカリムの顔写真をまじまじと見た美月は思わず「うわ……美人……」と呟く。
美月の呟きにリインはクスッと笑うと、そのまま説明を始めた。

「カリム・グラシア。聖王教会の騎士で時空管理局理事官の少将で、はやてちゃんが11歳の時からの付き合いなんです」
「へぇぇぇ……」

2人の会話を聞きながら、はやては別のことを考えていた。
先程のカリムの様子。あれは間違いなく何かある。はやての妙な予感を現したような寒空の下、車は聖王教会へと走っていった。





−ベルカ自治区・聖王教会本部−

「はい、一応宗教上のしきたりでな。着いひんと入られへんのや」

教会の敷地に入る前に美月がはやてに渡されたのは白いヒシャブとローブ。美月はとりあえず纏ったものの、慣れないものなので自分のヒシャブをしげしげと見ている。
ちなみにリインがヒシャブとローブを纏う(被る)と、パッと見はテルテル坊主のよう。あまりの可愛さに思わず美月は写真を撮りそうになってしまったが、仕事で来たということを思い出したので自重した。
3人がヒシャブとローブを纏い終わったところで、白と黒を基調とした修道服に身を包んだ薄い桃色のショートヘアの修道女がパタパタと走ってきた。

「お待たせしました、騎士はやて」

深々と頭を下げるシャッハを笑顔で制するはやて。
修道女は美月を見ると、軽く微笑んだ。微笑みの中にも厳格な雰囲気が漂っている。

「彼女はカリムの秘書兼護衛のシスター・シャッハや。シャッハ、この子は私の新しい補佐官の森山美月ちゃん」
「森山美月一等空士です」

そう言って、美月はペコリと頭を下げる。ローブのせいで傍から見るとニョロニョロのような白い生物がお辞儀をしているように見えるという滑稽な光景になってしまった。
美月が顔を上げるのを待ってシャッハが口を開く。

「聖王教会修道騎士のシャッハ・ヌエラです。本日はようこそおいで下さいました」

自己紹介をすると、シャッハは手で指し示して3人を案内し始めた。
シャッハを先頭に教会の中を歩く美月達。美月が思い浮かべていた教会のイメージ(ステンドグラスの壁や聖母マリアの像や絵があるイメージ)とは違い、長閑な田舎の小洒落たホテルのようだ。
想像とは違って派手な高貴さが漂っていないので、何となく安心する美月。
敷地内に学校があるのだろうか、制服を着た小学生くらいの女の子達が「あ、シスター・シャッハ。ごきげんよ〜」と言いながら傍を駆け抜けていく。キャッキャッとはしゃぐ少女達を見て、微笑ましいなと思いながら廊下を歩いていると、シャッハが美月の方を振り返って口を開いた。

「森山一士、騎士カリムにお会いする前にお伝えしたいことがあります」
「はい?」
「いくら教会から動かれない方とはいえ、騎士カリムは管理局の少将で、理事官である方です。くれぐれも失礼の無いように努めてください」
「はい」

本来ならば、今の美月がカリムに会うことは不可能の極まりない。カリムに会って話をするのはすごいことなのだ。改めて状況を認識し、かなり緊張した様子の美月。
美月の様子を見たはやてがニマニマと笑いながら美月に念話を飛ばした。はやての表情を見たリインはすぐにはやてが何を企んでいるのか分かったが、あえて黙っておくことにする。

〈無礼をはたらいたらどうなるかっちゅうとな……打ち首になるんや〉
〈う、打ち首!?じょ、冗談ですよね?〉

美月は油の切れた人形のようにギコギコと首を動かしてはやてを見た。本人は平静を装っているつもりだが、冷や汗が流れ、顔が若干青ざめている。リインは忍び笑いをしているのだが、よほど怖がっているのか美月は気が付いていない。
いたって真面目な顔のはやてを見て、ますます青ざめていく美月。これ以上青くなると血流の巡り云々の問題どころじゃなくなるぞという程に美月が青くなったのを見たはやては軽くウィンクした。

〈嘘や。えっらいオモロイ反応してくれるな〜〉
〈は、はやてさん……〉

ホッとして、見る見るうちに元の顔色になっていく美月。堪え切れなくなったリインがお腹を押さえてケラケラと笑い出したので、美月は少しいじけた様な顔になる。
10分ほど歩いくと突き当りにドアが見えてきた。シャッハがドアをノックして開ける。通されたのはさんさんと日光が差し込む明るい執務室だった。

「いらっしゃい、はやて」

彼女達を迎えたのは紫のリボンをカチューシャのようにして金髪の長い髪を留め、黒いドレスに身を包んだ女性だった。彼女こそ聖王教会の騎士カリム。
騎士という呼ぶには躊躇ってしまうほどの高貴さを漂わせている。

「ご無沙汰でごめんなぁ」

はやてはカリムに軽く手を挙げた。まるで親友のようなやり取りをする2人。
そんな2人を見て美月はリインに念話を飛ばす。

〈騎士カリムって少将なんですよね?はやてさん、すっごいタメ口ですけど……良いんですか?〉
〈はやてちゃんにとって、騎士カリムは「面倒見のいいおねえちゃん」って感じの存在ですから。騎士カリムとは結構馬が合うみたいですよ?〉

カリムは美月の方を向き、にっこりと笑いながら口を開いた。

「あなたが新しい補佐官の森山美月さんね?私が聖王教会騎士のカリム・グラシアよ。よろしくね」
「森山美月一等空士です」

美月の自己紹介を聞いたカリムは3人に席を勧めた。テーブルの上には暖かい紅茶とクッキーが置かれている。
着席したものの、美月は教会というところに来るのが初めてなので落ち着かない。何とか平静を装っているものの、キョロキョロと目を動かして室内を見る。
美月達の向かい側に座ったカリムはパネルを操作し、部屋のカーテンを閉じた。そして、懐から古びた紙束を出す。

「美月さんは初めて見ると思うから、少し説明するわね。私には『預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)』というレアスキルがあるの。これは最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き出した預言書の作成を行うことができる能力で、2つの月の魔力がうまく揃わないと発動できないから、ページの作成は年に一度しかできないの。しかも、預言の中身は古代ベルカ語で何通りもの解釈ができる上に、世界に起こる事件をランダムに書き出すだけだから、的中率は割とよく当たる占い程度なんだけど……」

紙束を括っていた紐を解きながらカリムが説明する。すると、バラバラになった紙束が独りでに輪を描いてくるくると回り始めた。
ぼんやりと金色の光を放つ紙。そのうちの1枚が美月の前に飛んできた。紙を見て「げっ」と言いそうになったのを必死で堪える美月。
近頃、ようやくミッド文字とベルカ文字をマスターした美月だったが、紙に書いてあった文字は2種類の文字と似ても似つかなかった。これが、古代ベルカ語の解読が難解を極める理由の1つだ。

「で、つい昨日がその預言書の作成日やってんね?」

はやての問いにカリムは無言で頷くと、はやての元に1枚の紙を飛ばす。
紙を見たはやては暫く考え込んでいたが、やがて口を開いた。

「『怨恨を晴らすべく幾人が立ち上がる。中つ大地の法の塔と数多の海を守る法の船に集いし類稀なる才能を持ちし者はその身を危に晒す』……ざっと、こないな感じの訳かな?」

カリムとはやて、リインは訳の意味が分かっているようだが、美月は首を傾げるばかりだった。美月自身、古典は苦手ではないのだが、はやての訳は古典の文章とはまた違った感じの文だ。
自分だけ話題に入れず、少し心細い思いの美月。そんな美月にはやては解説し始めた。

「『中つ大地の法の塔』ってのは管理局地上本部のこと、『数多の海を守る法の船』っていうんは本局のこと、『集いし類稀なる才能を持ちし者』っていうんはレアスキル保有の局員のこと。ここまできたら分かるんちゃう?」

美月の頭の中で言葉のパズルの組み立てが始まる。『怨恨を晴らすべく幾人が立ち上がる』この文は『恨みをはらすために人が立ち上がる』とい意味。『その身を危に晒す』というのは『危険な目に遭う』という意味。
瞬く間にパズルが組みあがった。『恨みを晴らすために人が立ち上がる。地上本部と本局のレアスキル保有の局員はその身を危険な目に遭う。』という文だ。
その瞬間、美月の眉がピクリと動く。そう、この文はレアスキル保有の局員が危険に晒されるということを予告しているのだ。
美月自身もレアスキル持ちの局員。というより、この部屋にいる全員がレアスキル保有者なのだ。
事の重大さが分かり、深呼吸をして自分を落ち着かせる美月。

「で、報告は?」

静寂に包まれていた場の空気を遮って、はやてがカリムに尋ねた。
カリムの預言書の内容は管理局に報告され、今後の方針を決める上での判断材料となる。カリムは黙って首を左右に振ると、おずおずと話し始めた。
声のトーンは全く変わらないが、目が震えている。

「はやてに相談したかったから。別にそれで何かが変わるという訳じゃないのだけれど……」

カリムの答えを聞いたはやては励ますように頷いた。
自身が襲われることになるかもしれない、局に被害が出るかもしれないという不安でいっぱいだったのだろう。はやては紅茶を飲んで一息つくと口を開いた。

「JS事件から3年。完全ではないけど、管理局の体制は確実に良うなってきてる。今やったらそこまで酷いことにはならんはずや。」

「JS事件とは何やろ」と美月が考えていると、先程からしきりにはやてが何かをチラチラと見ていることに気付いた。はやての視線を辿ると、その先にあったのは鏡だった。何か写っているのかと思い、まじまじと鏡を見ると……はやてと視線が合った。
はやては美月の隣にいるので、普通ならば視線が合うことはない。はやては鏡を通して美月の様子を伺っていたのだ。もしかすると、捜査官室にいた時と同じように自分が被害者になってしまうかもしれないと美月が不安になっていないか心配していたのかもしれない。
美月ははやてに念話を飛ばした。

〈はやてさん、私は大丈夫ですよ?〉
〈ん、そか〉

はやては安心したような表情を浮かべると、カリムに視線を戻した。大丈夫とは言い切れないが、自分がはやての行動が邪魔になるのは避けたいからだ。
カリムはしばらく考えこんでいたが、やがて決意したように口を開く。さっきまで悩んでいた人物とは思えないほどの優しくも鋭い眼光だ。

「とりあえず局に報告しましょう。多分本腰を入れて動くことはないと思うけれど、こっちはこっちで調査を進めてみるわ」
「せやね。何もせえへんよりかはマシやしな」

そこで、カリムは初めて紅茶に口をつけた。
よっぽど緊張して喉が渇いていたのだろうか。上品かつ猛スピードで飲み干していく。
話が一段落したのを見計らって、美月はおずおずと口を開いた。

「あの……JS事件って何なんですか?」

カリムとはやてはごくごく普通に話していたが、美月は初めて聞く単語だった。美月の質問を聞いたはやては少し唸っていたが、しばらくして話し始めた。
言葉を慎重に選びながら話しているらしく、いつものはやてとは違って、一言一言の間に空白がある。

「話すとえっらい長くなるから、かいつまんで話すわな。えっと……かつて、ジェイル・スカリエッティっちゅう犯罪者によって12人の戦闘機人が生み出されたんや。んで……彼と12人の戦闘機人は革命を起こしかけたんや」
「それを阻止したのが当時はやてが設立した試験運用部隊、機動六課だったの。私も後見人として設立に携わっていたのだけれど」
「八神家やなのはちゃん、スバルやギンガも参加していたですよ」

ふんふんと頷く美月。話が途切れたのでそのまま話の続きを待ったが、それ以上話が続く気配はない。美月は「ん?ん?」という表情で身を乗り出すような体制になっている。
しまいにしびれを切らした美月は催促するようにはやて、カリム、リインの顔を交互に見ながら口を開いた。

「あの……続きは……?」

いくら「かいつまんで」といっても、あまりにも簡単すぎる。少し不満げというか消化不良な感じの美月。
すると、はやてが苦笑しながら口を開いた。

「JS事件はほとんどが非公開事項なんよ。どないしても話さなあかんようになったら話すけど、極力は話さんようにしたいんや」

宥めるような口調で言われ、美月は仕方なく頷いた。
ふたたび部屋に静寂が訪れる。クッキーをかじった美月は紅茶を飲んでほっと息をつく。
場の空気が少し緩んだのを感じた美月は先程のカリムの発言を聞いたときに浮かんだ疑問を聞いてみた。

「話は戻るんですけど……さっきの話を局に報告しても、ホンマに対策とらへんのですかね?レアスキル保有の局員は貴重やと思うんですけど……」

新米局員の美月は局内の情勢などには疎いので仕方ないと思うはやて。彼女とリインにはカリムの発言の意味が分かっていた。
美月の質問を聞いたはやては少し難しい顔で口を開く。

「地上本部はカリムの預言を軽視する傾向にあるんよ。近頃はマシな方やねんけどな」

はやての言葉を聞いたリインはやれやれと言うように肩をすくめて首を振った。
リインの仕草を見て微笑んだカリムだったが、すぐに真面目な顔に戻って話し始めた。

「私が報告を躊躇っていた理由はもう1つあってね……レアスキル保有者が襲撃され続ける可能性があるとなると、魔導師自体が襲われる可能性があるという話にまで発展しかねないの」
「そうなると魔導師はアテにならんていう意見が出てくるかも知らへん。そうなるとどうなるか……美月ちゃん、予想つくか?」

はやてに尋ねられた美月は腕を組んで考え込む。が、いくら考えても思いつかない。だんだん彼女の眉間の皺が深くなっていく、しまいには頭から湯気が出てきそうだ。
見かねたリインが助け船を出した。

「魔法以外の防衛手段が必要だという話になるです」
「!」

リインの言葉を聞いた美月の顔が強張った。魔法以外の防衛手段とは質量兵器、簡単にいえば銃器の類だ。
まだ美月が訓練校にいた頃になのはから教えてもらったことがある。管理局は創設以来、安全や平和のために質量兵器やロストロギアを規制してきたと。
しかし、著しい地上の魔導師不足を補うために、必要な手続きを踏めばデバイス扱いでの質量兵器の使用は可能。そして、質量兵器の規制緩和を求める声があるとも言っていた。
理由はデバイス扱いでの使用を許可しても、地上の魔導師不足は改善されていないから。規制を緩めれば、戦力として保有できる非魔導師も増えるからだ。

「可能性としてはありえる話やけど……まあこれは極論や」

美月の不安を取り払うかのようにはやてがフォローする。
カリムはすっかり暗くなってしまった空気を明るくしようと新しいクッキーを持ってこさせた。
すぐに部屋のドアがノックされ、焼きたてのクッキーを持った水色のショートヘアの修道女が入ってくる。彼女の修道服だけ他の修道女のものと違って半袖だ。人懐っこい笑顔からはやんちゃな雰囲気が漂っている。

「はーい、どうぞー」

案の定というか、予想通りというか……陽気な声でクッキーの皿を置く彼女。
はやては彼女と面識があるらしい。香ばしく焼けたクッキーをかじりながらはやては口を開いた。

「セインは相変わらず料理上手いなぁ」

まんざらでもない様子で頭をなでる修道女―セイン。
またしても話題についていけない美月。彼女が困惑する様子を見たリインがフォローをしてくれた。

「修道騎士見習いのシスター・セインです。セインちゃん、こちら……」
「ああ、知ってるよー。森山美月ちゃんでしょ?妹がお世話になったみたいで」

はて?と美月は首を捻る。
そんな人物と話した記憶が全くないからだ。頭の上に疑問符が回り始めた美月にはやてから念話が飛んできた。

〈空戦AAランク試験で模擬戦の相手やったウェンディ、覚えてるやろ?彼女の親戚なんよ〉
〈あ、なるほど〉

「な〜るほど」という顔で頷く美月。
セインについて説明しているときに一瞬だけはやての顔が曇ったのだが、美月は気が付かなかった。
ふとはやてが時計に目をやると、時刻は4時を回っている。あまり長居するのもどうかと思ったはやては椅子から立ち上がった。

「ほな、そろそろお暇するわ。カリム、今日のお茶、美味しかったよ」
「はやて……」

カリムを勇気付けるように言うはやて。カリムにもその気持ちが伝わったらしく、やわらかい笑顔で応えた。
挨拶を残して執務室を後にした3人。夕日が差し込む廊下を歩く彼女達の影が長く伸びる。
美月がぼんやりと夕日に照らされる教会の建物を見ながら歩いていると、はやてのデバイス―シュベルトクロイツに通信が入ってきた。
はやてが回線を開くと、画面にギンガの顔が映し出される。陸士部隊の局員らしき人が動き回っているのがギンガの肩越しに見て取れた。

「はやてさん、今朝の件でお話が……」
「あー、レアスキル保有の局員が連続で襲撃されてるっちゅう話?」

はやてもギンガに先程のカリムの預言の話をしようと思っていた。「ちょうど良いタイミングやな」と思いながら、ギンガに先に要件を話すように目で促す。
ギンガは軽く頷くと、手元のパネルを操作して文書を転送した。はやての前にもう1つの画面が表示され、手紙のようなものが映し出される。

「捜査本部が設置されることになりました。今晩7時から緊急の捜査会議が行われることになったのでお知らせしようと……詳しい場所は転送した文書を見てください。」
「はいな。実はこっちもその件で伝えときたいことがあるんよ。まだ(おおやけ)に言えることちゃうから、会議の前に個別で言うわ。」

通信を切ると、はやてはリインと美月の方を振り返った。はやてから立ち上るオーラを感じた美月は思わず息を呑む。
いつもの真面目さとは違う、張りつめたオーラを纏っているはやて。あえて言うならば、幾つもの苦難を乗り越えてきた人物が放つ独特の気迫とでも言うのだろうか。

「っちゅうことで、急いで戻るで。美月ちゃんは初めての会議やけど、イロハは教えるから緊張せんでええよー」
「あ、ハイ」

ギンガの話を聞いた美月の心に僅かな安心感が生まれる。局が捜査するのならば、そう大規模な事件には発展しないはず。
自分が襲われる危険性もかなり低くなるだろうと推測する美月。
はやてやリイン、ギンガも事件の早期解決を予想していた。はたして、彼女達の予想通りに事は上手く運ぶのだろうか……






〔あとがき〕
どーも、かもかです♪
私事ですが、普通免許の試験に合格しました!!(ホントにMT車は難しかった…)


いや〜、何気なく事件を起こすって難しいですね…

さーて、いよいよ来ますよー!!
でっかいでっかい波(事件)がf(^^;

ここからどのように展開するのか……
お楽しみに!



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