第十一章 号砲一発!!ヴォルフラム始動!!




−舞浜高校・パソコン室−

死体のトラウマを引きずっていた長い1週間が過ぎ、再びいつもの調子を取り戻した美月。
今は情報の授業でパソコンとにらめっこの最中。
パソコンは得意というわけでもないが、さりとて基本的な操作は余裕でできるので授業についていけないということもない。

「あ、あり?」

授業が終わり、パソコンをシャットダウンさせようとすると、突如としてパソコンがフリーズしてしまった。
美月の奇妙な声に隣の席の拓真が何かあったのかと聞いてきた。確か拓真は電子機器系は大得意だったはず。
フリーズしてしまったことを伝えると、拓真は美月のパソコンの筐体に手をおいた。

「ちょい待っとくのじゃぞ」
「あんたはいつの時代の人や」

拓真の台詞に思わずツッコミを入れるが、拓真は軽く笑って流す。
拓真はそう言うと、軽くパソコンを小突いた。アーク放電のようなジジジ……という音がした気もするが気にしないでおこう。

「ほい、コレでオッケーやで」
「何したん?」

どう見ても一昔前のテレビを直すときに使う荒療治にしか見えない。
特別なことをしたようには見えないのにすんなりと直っているのが不思議だ。

「まぁ、簡単に言うと気合を注入したんや」
「は?」

そうだ、こいつはこういう性格だった。
まともな答えを期待した自分が馬鹿だった。

「そーかー」

棒読み感満々の返事をしながら再びパソコンに向き直る。
無事パソコンをシャットダウンさせ、パソコン室を出る美月。教室へと向かう足取りは弾んでいるように見える。
それを見た拓真が不審がって話しかけてきた。

「どないしたん?妙にテンション高いけど?」
「ん〜?べっつにぃ〜〜」

ニマニマ笑いながら答える美月。
輝かんばかりの笑顔を見た拓真は思わずその顔を殴りたい衝動に駆られるが、グッとこらえる。人間、これ以上ない笑顔を見るとイラッとしてしまうものだ。
そんな拓真を気にする風も無く、美月は妙に高いテンションのまま去っていった。

「変なyグェッ」

美月を見送りながら呟く拓真。しかし、途中で鳩尾に感じた鈍い痛みによりうずくまることになった。
鈍い痛みの原因である人物=「フシュ〜…」と格闘家の構えで深呼吸をしている人物―涼原遥奈。

「美月に何したんや?」
「……別段何もしてないけど」

言葉だけ聞くと何やら改造を施したように聞こえてくるが、
遥奈の後ろにいる悠希と未里がジト目で見てくるが、当の拓真は肩をすくめてみせた。
気のせいか3人から目を逸らしているようにも見える。

「まぁ美月が元気になったんやからそれでいいやんけ」
「そらそうやけど……」

「あんたが関わってた方が(いろいろな意味で)良い(というか面白い)やん」という言葉を飲み込み、黙る遥奈。
一方、成り行きを黙って見ていた優奈が口を開こうとしたその時、拓真の携帯が鳴った。

「悪い、用事が入ってもうたわ。ほななー」
「あっ、ちょい待……」

ヒラヒラと手を振りながら教室を出ていく拓真を遥奈が呼び止めようとするが全く効果なし。
取り残された遥奈達はそろって溜め息をつくが、優奈だけは妙な違和感を感じながら黙って拓真が去った方向を見つめていた。






−時空管理局地上本部・艦船ドック−

「でか……」

遥奈達が拓真に詰問していたことなど露知らず、当の美月ははやて、リインと共に地上本部の艦船ドックにいた。
美月達の前にあるのは全長200mを優に超える大きさの(ふね)
美月自身、何回か船(さんふ○わあと言った客船)には乗ったことがあるのだが、そういった類の船とはまた違った迫力があった。

「これが私らの艦―ヴォルフラムや」

ヴォルフラムに目を向けたままはやてが呟く。
海上警備指令となったはやては所謂オフィス組であるが、時には前線に出て指揮を執る必要が有るのでそのための艦が建造されることになっていた。
その艦の試験航海の日が今日なのだ。美月がワクワクしていたのもそれが理由である。
局員になって半年以上の美月だが、次元航行艦に乗ったことがないのだ。
普通の局員ならば旅行で民間の次元航行艦に乗ることはあるが、地球在住の美月にとっては無縁のもの。
そんな彼女が初めての次元航行艦、しかも管理局のものに乗るとなればそのワクワク度は推して知るべしといったところだろう。

「ほな、早速乗り込んでみよかー」

はやてとリインは何度も次元航行艦に乗っているので、足取りはしっかりとしたもの。それに対し、2人の後を歩く美月は足音がリズムを刻むほどルンルン気分であるのが伝わってくる。
美月の想像 (狭い、いたる所にパイプが張り巡らされている) に反して、ヴォルフラムの艦内はとてもゆったりしていた。
さすが魔法やなと感心しながら、はやてとの後ろについてトコトコと艦内を歩くこと数分。美月達はとある場所に着いた。
その場所は広さ12畳ほどのバルコニーのようになっていて、大きな部屋の中に突き出ている。普通のバルコニーと違うのは縁の部分が手すりではなくコンソールになっていること。
そして、大きな部屋前方いっぱいにはスクリーンが広がっている。美月にも何となくだが、ここが重要な部分であることが分かった。

「ここがヴォルフラムの中枢の中枢、指揮スペース。で、この部屋全体がヴォルフラムの艦橋や」

よく見るとバルコニー―指揮スペースには座席が3つあり、正面に1つと左右に1つずつあった。
右側の席はいつの間にかリインが座っている。リインが座ることを前提としていたのか、高さ調整も他の椅子に比べてやりやすそうだ。
はやてが左側の席のシートをポンポンと叩きながら美月の方へ振り返った。

「ここが美月ちゃんの席な。まぁ機器の使い方はおいおい教えるから、まずは自分の部屋のコーディネートやね」

そう言って、はやてが美月を次の場所へと案内しようとした瞬間、艦内にブザーが鳴り響いた。
何事かとキョロキョロする美月をよそに、はやては素早く指示を出していた。

「何があったか報告して!場合によっては出なあかん。総員、発進準備!」
「了解!」

艦内にカーン、カーンという警報が鳴り響き、局員がパタパタと席に座る。
しばらくして外の状況が報告される。

「ミッドチルダ南西部に所属不明の艦船が出現!詳細は不明ですが、L級艦船程度の大きさと思われます!」
「わかった。最寄りの海上警備隊の艦を急行させて!」
「それが……今すぐに出動可能な艦船がありません」

局員の言葉にはやては唖然とする。が、すぐに表情を引き締めて理由を尋ねた。

「先ほどがちょうど警邏艦の交代時間だったのですが、出航するべき艦が機械トラブルで出航が遅れているそうで……」
「なんちゅうタイミングの悪い……」

思わず片手で顔を覆い、溜め息をつくはやて。泣きっ面に蜂とはこのことか。
そうこうしている間にヴォルフラムの発進準備は着々と整っていく。

「駆動炉に動力伝達!!」
「動力伝達開始、数値上昇します!!」
「動力伝達率120%!!」
「機関スタンバイ完了。いつでも全開で回せます!!」
「全通信回路オープン。送受信状態良好です」
「全索敵システム異常なし!!」
「射撃管制システム全て異常なし!!」
「通常空間用及び次元航行用航法システム異常なし!!」
「艦内全機構異常なし、オールグリーン!!」

矢継ぎ早に報告が上がり、慌ただしかった局員が徐々に静かになっていく。
タイミングの悪さを嘆いていても仕方がない。自分に気合を入れるように深呼吸を一回すると、はやては顔を上げた。

「不明艦にはヴォルフラムが対応する。警邏の交代艦は一刻も早く出航、通常の警邏任務に就くように連絡して!」
「了解!」

局員が返事をした瞬間、別の局員から新たな報告が上がる。

「発進準備完了しました!」

報告を受けたはやてはリインに目で合図する。
リインはコクンと頷くと、息を大きく吸い込んだ。その直後、これまでにないボリュームのリインの大声が響いた。

「ガントリーロック解除です!」

リインの声とともに艦体各所を固定していたロックが解除され、ついに自由の身となるヴォルフラム。
そして、艦橋にはやての凛とした声が響く。

「ヴォルフラム、発進!」

空気を震わせる低音とともにヴォルフラムの巨体が浮かび上がる。僅かな振動を感じながらはやてはホッと息をつき、艦長席に座った。
とりあえず何事も無く発進できたことに安心しつつ、申し訳無さそうにはやては美月の方を振り返る。

「てことで美月ちゃん、いきなり出動になってしもた。詳しい機器の使い方はまた帰って説明するから出る準備しといてくれる?」
「はい?」

出港したところなのに出撃準備とはどういうことなのだろうか。
首を傾げる美月にリインが説明する。

「艦と聞くとどうしても砲撃戦をイメージするかもしれないですけれど、いきなりそんな物騒なことはしません。まずは穏便に臨検するですよ?」
「あ、なるほど……」

臨検の時点でそれなりに物騒な事態になっている気もしたが黙っておく。
はやては艦長席に座ると首をコキコキと鳴らしながらリインに声をかけた。

「私はここで指揮とらなあかん。リイン、美月ちゃんを案内したげてくれる?」
「はいです」

リインに先導されて艦載機発進口へと移動する美月。
着いた場所は倉庫のような雰囲気が漂う部屋だった。倉庫と違うのは何人かのオペレーターがおり、ウォータースライダーの直線コースのような2本設置されているということ。

「ここから出るですよ。普段はハッチから出るですが、今は急を要するのでカタパルトから射出でいくです」

射出と聞いて美月の頭にある光景が浮かぶ。
某ランスロットのようにカタパルトから射出される自分。顔が僅かにこわばり、腰が引けかける。
が、そんな美月をよそにリインはさっさと準備を始める。オペレーターに指示を出し、

「さ、美月ちゃんも準備するですよ〜」
「え、ちょま」

こうなることを予想していたのだろうか、リインの動きは素早かった。
美月をバインドで拘束し、そのままオペレーターに目配せする。

「森山補佐官、すみません!」

その声と同時にオペレーターが2人がかりで美月の脇を抱える。そのままズリズリとカタパルトまで運ばれる美月。
すみませんと言いながら顔ニヤけとるやんけ、と頭のなかで呟く。まぁ変に手荒に扱われるよりかはマシなのかもしれないが……
ちょちょちょ……と言いながら半ば無理やり射出台に載せられた。横でふよふよと浮きながらどこかしてやったり顔のリインが美月に声をかける。

「では行きましょうか〜」
「はい……」

まな板の上の鯉とはこのこと。
美月は観念したように溜め息に近い深呼吸をすると、トリニティをセットアップする。
そして、そのまま射出台の手すりをつかむ。射出台はウォータースライダーのコース―カタパルトに設置されており、恐らくは射出台ごと人間を放り出すのだろう。
この歳になってウォータースライダーもどきで遊ぶことになるとは思わんかった……なんてことを考えながら射出の衝撃に備える。
目の前にウィンドウが幾つか表示され、そのうちの一つにはやてが映しだされる。

「そしたらざっくりと状況の確認とかやってまうわなー。所属不明艦は依然としてミッド上空を航行中。っていうてもほとんど停止してるんやけど……」
「こちらからの呼びかけは?」
「もちろんやってるんやけど、まぁ当然ながら応答はなし。やから、リインと美月ちゃんの仕事は目視による不明艦の偵察」
「了解しました」
「はいです」

いつの間にか頭の上にチョコンと乗っていたリインが美月と同時に返事をする。
画面の中ではやてがニコッと笑った直後、射出台がかすかに揺れ始めた。まるで旅客機のタキシングのようだ。

「そしたらよろしゅうに。発艦!」
「はっkギェェェェェ……」

バシッと決めたかったのだが、はやての「発艦」の声と同時に美月の体が爆音ともにカタパルトを移動し始める。
たまにテレビで見る空母のカタパルトのスピードの比ではない、明らかに音速間近のスピードであっという間に空中に放り出された。
生身の状態ならそのまま地上めがけて真っ逆さまだが、今の美月はバリアジャケットに換装した状態。
2度目の奇声を発することもなく、カタパルトから射出された勢いを活かしたまま飛び始める。

〈ちょっと怖かったかもしれないですけれど、カタパルト射出方式は十分なスピードを得ることができるんです〉
〈な、なるほど……〉

「ちょっと」ではないような気もしたが、何も言わずにリインについていく形でそのまま不明艦へ向かって飛ぶ。
こちらからの呼びかけに応答しないということは相手は友好的ではないと考えるべきだろう。場合によってはそのまま戦闘になる可能性もあるが、その場合真っ先に危険にさらされるのは単独状態同然の美月とリイン。
もしものときは自分一人で自分の身を守らなければならない。
段々と大きくなっていく敵艦を見ながら、美月はトリニティを握る力が段々と強くなるのを感じていた。




〔あとがき〕
どーも、かもかです♪
ヴォルフラム初出陣回、いかがでしたでしょうか?
この後の流れは浮かんでいるけれども、それを文にするのが難しい…

私事ですが、4月から社会人になり、美月と同じ公務員の専門職として働いています。
公務員としての目線で見てみると、この作品で書いてる管理局の体制って結構ザルなんですよね笑

まぁあまりこだわりすぎると逆に窮屈になりますし、大目に見てやってください。

では、次回の更新で(いつになるんだろう……)



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