確かに最初は怒りを感じていた。

いや、今でも感じている。

悠二を傷つけられたのだから当然だろう。

でも少し頭が冷えて来て、心に余裕が出来た。

そして今は討つ、と言ったものの実際には討滅までする気は無かった。

きっと此処が俺をお人よしと言わしめる所だろう。
マリアンヌ
大切な人を喪ったフリアグネ。

―――そして、ユリカを失った俺。

同じ、一番大切な者を失くした(亡くした)者同士。

だから大切な人が居なくなった、奪われた時の悲しみや憎しみは俺にも良く解る。

彼がトーチを使う事を選んだのにだって理由があったのかも知れない。

どうしてもその可能性が捨てきれず、俺には彼を滅ぼしてしまう事は出来ないだろうと思った。

―――だが、しかし。

同時に其れは、俺自身が悠二を軽く見ている事に繋がる様な気がした。

―――いや、実際繋がるだろう。

フリアグネの悲しみ、怒り、嘆きは解る。

でも彼が傷付けたのは俺が弟の様に、家族の様に感じている悠二だ。

―――葛藤する。

自分がどうしたいのかが見えて来ない。

討滅したくない気持ちと、討滅したい気持ち。

相反する二つの気持ちを抱え葛藤する。

俺にはフリアグネの気持ちが少し理解できると言った。

でも、其れだけじゃない。

今の彼は昔の俺だ。

ユリカを取り戻す為に復讐に走っていたあの頃の俺。

―――救いたい、と思った。

そのままじゃ救われる事は無い、と。

俺が彼女達に顔向け出来なくなったのと同じで。

きっと、彼も苦しむと思う。

後悔すると思う。

そう言った感情を持つ所は、『人』も紅世の徒も同じだと思うから。

彼には『人』を愛する心が残っているのだから。

やっぱり、俺はお人よしだ。

―――悠二は、赦してくれるだろうか?

彼と、彼の『心』を救おうとする俺を。
             
              
灼眼のシャナ
〜闇と焔の二重奏(デュエット)〜

          きた
第六話  妖精来る 後編
                                                                                      著・神威



「覇ァァァァァッ!!」

―――思考中断。

「疾ッ!」

ギィンッ!!

刀と刀がぶつかり合う。

「オォォォォッ!!」

ギィンッ!

大きく弾き返し、バックステップ。

瞬時に刀を何時の間にか腰に挿した鞘に収める。

そして柄に手をそえ―――

「天河式抜刀術、虚空閃・壱乃太刀」

抜刀。

抜刀に伴って飛ばされた真空波がフリアグネを狙う。

純粋な抜刀術だが、錬度によっては如何なる物をも切り裂く刃となる。

そして、それなりに鍛錬をつめば今の様に遠距離にも十分対応出来る。

「疾ッ!!」

しかし相手は紅世の徒。

存在の力を持って無効化される。

それどころか、フリアグネの放った真空波は貫通して此方に向かって来る。

「天河式抜刀術、虚空閃・弐乃太刀」

ならば此方も存在の力で対抗するまでだ。

そして――――
                ついのたち
「天河式抜刀術、虚空閃・終乃太刀」

追撃。

「ヌゥゥゥゥゥゥッ!」

ズガァァァァァァンッッ!!

真空波で傷を負い、衝撃で後ろに飛ばされたフリアグネは校舎に突っ込む。

今の彼には何を言っても通じない。

一度完膚なきまでに叩きのめした所で説得に移る。

それが、俺の考えた方法だ。

―――其処で俺は、自分も変わったものだ、と笑う。

昔の俺では考えられなかった事だ。

いや、ナデシコに乗ってた頃の俺の様だ、と言うべきか?

敵であるフリアグネを助けようとするなんて。

しかし―――

「ガァァァァァァァァァッッッ!!」

ドゴォォォンッ!

破砕音。

ゆらり、と幽鬼の様に立ち上がるフリアグネ。

「ミステスゥゥゥゥゥッ!!」

「グッ!」

ギィン!

「・・・・フリアグネ」

しかしこれ以上戦えばどちらかが死ぬ事は目に見えていた。

「聞けッ!」

準備万端とはいかないが、この際仕方が無い。

俺の言葉に怪訝な顔をするフリアグネ。

「何故、人の存在の力を利用しようとした!?」

「お前程の使い手ならば、『自然』の存在の力を利用する事も出来た筈だ!!」

俺の唯一の疑問。

「なるほど、そういう考え方もあったか」

フッ、と笑うフリアグネ。

「我等紅世の徒は基本的に人間しか喰わない。―――何故だか解るか?」

「人の味を知ってしまったからだよ」

俺が答える前に、フリアグネはそう言った。

「生き物と言うのは美味いと感じるものを食べたがる。つまりは、そう言う事だ」

紅世の徒にとっては、人間の味というものは格別だったのだろう。

「―――そうか、そういう使い方をすれば、私達は幸せになれたのかも知れない」

「フリアグネ、お前は俺と似ている」

また唐突に切り出した俺に戸惑うフリアグネ。

硬直状態が続く中、俺は続ける。

「何?」

「お前は大切な人を亡くした。―――俺も、昔一番大切な人を失った」

「その後の行動もそっくりだ」

「俺は、復讐にはしった」

―――ほら、俺とお前は似ている。

「今なら、今ならまだ間に合う! 間に合う筈だ! 復讐なんて考えは捨てろッ!!」

「―――何を言うかと思えば、今更」

「同じならば、お前にもわかる筈だ」

解る。

解るから、止めたい。

「あぁ、確かに解る」

「だからこそ、俺はお前を止めたい」

ギィンッ!

お互いに距離をとる。

「物好きな奴だ」

それも極度の、な。

「良いだろう」

その宣言にホッとする俺。

「―――但し」

「それは貴様が私に勝ったら、の話だッ!!」

疾走。

「そう簡単には行かない、って事か」

ギィンッ!

ギィンッ!

再び打ち合いが始まる。

ならば、この一撃で終わらせよう。

「―――喰らえ」
               はじゃそうこくせん
天河式抜刀術奥義・破邪双哭閃

ズガァァァァァァンッッッ!!

「やったか?」

果たして、満身創痍のフリアグネが其処に居た。

「馬、鹿な。この私がミステス如きにッ」

「俺の勝ちだ、フリアグネ」

勝負はついた。

後は、フリアグネの心の持ち方次第だ。

「復讐は何も生み出さない」

それに、マリアンヌもきっと望まない。

フリアグネは自分で言った。

自分達の望みは共に居る事だ、と―――。

「私達は、どこから間違えたのだろうか」

呆然と呟くフリアグネ。

「酷な事だが、最初からだ」

そう、最初から。

彼等が人間の存在の力を使おうとした時から。

「お前には悪いが痛み分け、で我慢してくれ」

「ふ、ふふふ」

突然笑い出すフリアグネ。

「まだ、間に合うだろうか?」

「間に合う」

「やり直せるのか?」

「やり直しは効かない。でも、もう一度始める事は出来る」

「―――そうか」

「あぁ、そうだ」

「―――そう、か」

無言。

パチンッ

フリアグネが指を鳴らすと、悠二の友人達を覆っていた膜は静かに消えた。

「私は、もう一度マリアンヌを蘇らせれる方法を探してみようと思う」

「―――それが良い」

きっと、それが幸せへの道だと思うから。

「赦して貰えないだろうとは思うが、ミステス――確か、坂井悠二といったか―の少年にも謝罪しておいてくれ」

「心得た」

そうしてフリアグネは消えた。

―――さて、皆にはどういったものか。




一方その頃のシャナはというと・・・・・。

「アラストール」

「・・・う、うむ」

冷ややかなシャナの声に、コキュートスに盛大な汗を浮かべるアラストール。

「此処、ホントにフリアグネの拠点?」

「・・・・う、うむ。その筈だ」

相も変わらず冷ややかな声。

「―――何も無いけど?」

ひゅー、と風が吹いた―――気がした。

「すまん、移動した後のようだ」

相変わらずコキュートスに汗を浮かべると言う器用なことをしつつ、アラストールは言った。

まぁつまる所、彼女達はハズレを引いた、と言う事だ。

「や、やめろシャナ。何をするつもりだ!?」

無言でコキュートスを持ち、其れを持った手を思いっきり振りかぶり―――

「アラストールの、馬鹿――――ッ!!

ぶん投げた。

そのままずんずんと去っていくシャナ。

コキュートスが、夜空に舞った。

―――そんなのでいいのか? シャナ・・・・。




帰り道。

悠二は怪我が癒えるまで『表』には出れない。

必然的に俺が悠二の妹、命と一緒に帰る事になる。

―――無言。

隣で歩く命は、あの後から無言だ。

あの後級友達から何かを追及される事は無かった。

悠二の親友である、池達が詰め寄ろうとした子達を押し留めてくれたのだ。

そして彼等はこう言った。

『坂井。―――俺達、待つから』

彼等は心の底から悠二を信頼していた。

明日には俺の口から言うつもりだ。

と、唐突に立ち止まる命。

やはり、俺の事が恐いのだろうか?

「・・・・この場合貴方の事も兄さん、と呼ぶべきなんでしょうか?」

そんな事を真顔で聞かれた。

ついつい、コケッとこけそうになったのは秘密だ。

と、言うか実際にはこけた。

「お名前教えてくれませんか?」

「アキト。天河 アキト」

命はいい名前ですね、と言い

「それでは、アキト兄さんと」

と言った。

「速く母さんにも知らせなきゃ♪」

何というか、女は強い・・・・。

今までの沈黙が嘘の様に彼女は色々な事を聞いて来た。
                        ・ ・
こうして次の日から坂井家の表札には三つ、名前が増えた。

『天河 アキト』と―――

ガチャ

「母さん、只今ー」

靴が一つ、多い。
                     ・ ・
「あら、お帰りなさい。命ちゃん、アッちゃん」

・・・・今何かおかしかった様な?

「お帰りなさい、アキトさん」

―――は?

「ふふふ、もう逃がしませんよ?」

わぁい、幻覚が見えるよー。

「探すのに苦労したんですから」

幻聴も聞こえるー。

「あ、そうそうラピスも来てますからそのつもりで」

今は居ないですけどね、と付け加える。

認めよう。

此れは幻覚でもなんでも無い。

その少女は銀色の髪をツインテールにしていた。

その少女の瞳は、俺と同じ金色だった。

そして、その少女は俺が知っている頃の少女より成長して、立派な女性になっていた。

「私ももう二十歳になります。此れで、年齢差も殆どありませんよね?」

そういってニッコリ笑う女性は、間違いなく――星野 瑠璃だった。

「覚悟、して下さいね?」

ほんっと、勘弁してください。

―――『星野 瑠璃』『ラピス・ラズリ』という三つの名前が。


                                                                                         続く



















後書け

あー、マジですんません。

かなり遅れてしまいました(汗)

えっと突っ込みどころ満載ですがスルーして下さい。

特にフリアグネの性格とかフリアグネの性格とかフリアグネの性格とか。

あと、ルリルリでましたが六話ではこんだけです。

申し訳ない。

なんつーか私の力不足です。

それと次回予告は今回から不定期になります。

其処まで考える時間無いんすよ・・・・(泣)


では拍手のレス返し。
10/2
18時     続きがきになります。
>ども、ありがとうございます。
何とか続けますのでこれからも応援お願いします。

10/10
19時     両作品、特にナデシコは昔からのファンなので好きな作品のクロスで嬉しいです。がんばってください!!
>はい、がんばります。
これからも応援宜しくお願いします。

10/31
22時     命達とアキトのからみを・・・・
>今回ちょっとだけからめてみました。
ほんと、ちょっとだけなんですがね?

11/9
23時     速く続きがみたいです!
>ありがとうございます。

11/11
23時     とても面白かったです、早く続きを書いてください
>あい、出来るだけ早めにあげるようがんばります。

11/13
2時     まったり続編希望。
>まったり更新です(笑)

12/11
12時   アキトはすごいやー。
>ですね。
普通ならこんな事出来ないですよ・・・(汗)

22時   ヴィルヘルミナの出番をお願いします。
>本編よりは速く出演する予定です。
多分ラミー編あたりで一度出るかな?

皆さんの拍手にはホントに助けられてます。

これからも頑張りますので、応援宜しくお願いします!!
                                                                       十 二月十九日・執筆完了 神威


感想は雪夜さんに依頼しました。

どうも、今回の感想依頼をご指名いただいた、ホスト雪夜です☆

いや。なんかご指名っていうとそれっぽいじゃないですか・・・(笑)

では、嫌し系と呼ばれた雪夜の感想をお送りさせていただきます〜。



今回のアキト君はあまあまですね。

はっきり言ってあまあまです。プリンの如く甘いです。


だがそれがいい。(何なのか)


敗者は勝者の言いなりという法則の下、フリアグネが潔く退場していったわけですが・・・


その影で潰れてしまったアラストール最 大の見せ場が!!(笑)


まあおっさん(?)だしロリコ・・・いや、可愛い娘が好きな

神威さんの作品ですから仕方ない事ですよね☆


さて、雪夜はこの作品では命命(みこといのちと読んでください)ですがー

悠二復活後の命との展開が正直楽しみでありますよ〜♪


・・・あ、ルリの事忘れてた(爆)

じゃ、じゃあルリとラピスのアキトとの絡み(なんかえろい)とか

シャナ・ルリ・ラピスの昼ドラばりなどろどろした友情関係も期待してます!


―――そんなのでいいのか? 雪夜・・・・。(パクリ)



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