とある病室の前に、俺は居る。

今は、何時も傍らに居るラピスの姿は無い。

ラピスはイネスに頼んで預かって貰っている。

柄にも無く緊張しているのが解る。

解るから、自嘲的な笑みを浮かべる。

――――今更何を緊張する?

俺は意を決して、ユリカが居る病室のドアに手を掛けた。


灼眼のシャナ
〜闇と焔の二重奏(デュエット)〜
外典 遠き日のオモイデ

第四章  取り戻した物と其の代償
                                                                                      著・神威


何故俺が此処に居るのか?

其れを説明するには少し時間を遡る必要がある。


<回想>


『アキト君、今日にでも来てくれない?』

イネスがそう言ってきたのは丁度朝食をとりおえた時の事だった。

「そう言えば前にも呼ばれたことあったっけ・・・・・」

そう呟きながら、暇な時にでも来てくれと頼まれていた事を思い出す。

結局今日呼び出されるまで行く事は無かったのだけれども。

そういう事で今現在、俺はイネスにあてられた研究室に居る。

「で、話ってのは?」

単刀直入に切り出す。

「貴方の五感、治せるかも知れないの」

イネスの言葉に目をひん剥く。

尤も、現在はバイザーに隠れていて解らないのだが。

「それは本当か!?」

知らず口調が強くなる。

「ええ、本当よ。こんな事で嘘を吐いてもしょうがないでしょう?」

「しかし、何故急に解ったんだ?」

「ほら、『アイちゃん』との別れ際にこれ位の板のような物を貰ったでしょ?」

そう言って手で長方形の形を作る。

確かにそのような物を貰った記憶がる。

金色に輝く板だった。

「其れがどうかしたのか?」

「あれ、ナノマシンについての事が詳しく記されていたの」

イネスは其処で一旦区切り、一息ついてから次の言葉を続ける。

「何故、古代火星人は五感が無くなる事無く生活できたのかしら?」

唐突に聞いてくる。

其れは俺も疑問に思っていた。

しかし、其れがあの板と関係あるのか?

「其れと何の関係があるんだ? って顔をしてるわね。古代火星人はね、己の体に『統括ナノマシン』を打っていたのよ」

「統括ナノマシン?」

聞いた事の無い物だった。

「そう。そしてあの板には、其の統括ナノマシンの精製の仕方が記されていたの」

「―――ただし、少しの副作用があるわ」

イネスの言葉に息を飲む。

今更何を失う物がある?

「その副作用は?」

「容姿が変化するの。銀髪・金眼にね。古代火星人は皆そうだったらしいわよ?」

其れを聞いて一気に脱力する。

もっと危険な物だと思っていたからだ。

「もう一つ。どちらかと言うとこっちのほうが問題ね」

「で、其のもう一つは?」

「身体能力と自己治癒能力の爆発的増加」

今度こそ、絶句した。

つまりは――――

「―――――俺の体は、人間ではなくなる?」

「いいえ、遺伝子上では人間と変わりないわ」

即座に否定される。

「ただ、周りの反応は変わるでしょうね」

暫しの沈黙。

「―――で、ナノマシンの投与、受ける?」

「それで五感が治るなら」

即決だった。

失う物はもう無いと思っていた。

だからラピスの負担を減らす為にも、そしてなにより自分の為に、ナノマシンを投与する決意を示した。

「それじゃぁ、明日にでもユリカさんに会ってきなさい。全てを、清算する為に」

イネスはこれで話は終わりだ、と言わんばかりに机に向かった。


<回想終了>


そんな訳で、今俺は此処に居る。

今の今まで逃げてきた。

だから、向き合う決心をした。

少し遅くなったけれど、 全てにけりをつける為に。。

ドクン

ドクン

ドクン

こんなに緊張したのは何時以来だろうか?

ガチャ

ドアを開けると、其処には俺が最も大切にしている人が見えた。

「ユリカ――――」

万感の思いを込めて、彼女の名前を呼ぶ。

「あの〜、どちら様ですか?

時が、凍りついた。

俺は唖然として彼女を見る。

「ユリカ? 俺が、解らないのか?」

声が震えるのを隠せない。

「えっと、もしかしてアキトのお友達ですか?」

――――絶句。

動揺を無理やり隠し、俺は言葉を発する。

「えぇ、そのようなものです」

そのまま彼女の元へ行く。

「彼に、此れを預かってきました。それからこう伝えてくれ、とも」

そう言って俺達の、結婚指輪といって持っていた指輪を渡す。

「護れなくて、ゴメン」

「傍に居てやれなくてゴメン」

彼女の瞳を見ながら言葉を言う。

俺はこんなにも彼女の為に頑張ったのに。

命を削ってまで、彼女を助けようとしたのに。

俺の思いは、彼女には届いていなかったのだろうか?

彼女は、俺に理想の王子像を被せて居ただけなのだろうか?

それとも、俺が変わりすぎたのだろうか?

俺はこれ以上此処に居れなかった。

居たら、きっと何か酷い事を言ってしまいそうだった。

ガチャ

返事を聞かずに外に出る。

自分でも気がつかないうちに、涙が流れていた。

「ジャンプ」

人が居ないのを確認して、逃げるように、そして涙を隠すようにジャンプした。






再び研究所に戻った俺は、早速ナノマシンを受ける準備をした。

統括ナノマシンを作るのは意外に容易だったらしく、準備は既に整っていた。

先ずはラピスとのリンクを解除する。

始めは渋っていたラピスだったが、全てが終わった後も共に居る事を約束すると、渋々ながら納得してくれた。

今は別室で眠っている。

そして今目の前に、その統括ナノマシンが入った注射器がある。

後は此れをうつだけだ。

プシュッ

首筋にうち込む。

「グッ・・・・」

体が熱い。

自分では気がつかないが、既に変化は現れ始めていた。

髪は徐々に銀色に染まり、瞳も金色に変わり始める。

変化が終わった時、統括ナノマシンはその真の力を発揮した。

「アキト君、これ握ってみて?」

そう言って渡されたのは一つのリンゴ。

グシャッ

リンゴは、あっさりと潰れた。

自分では、そんなに力を込めたつもりはなかった。

身体能力の向上、なんてものではなかった。

力加減がわからないのだ。

次にバイザーを外してみる。

「見える・・・・」

俺の目は完璧に見えていた。

「じゃ、視力を測ってみるわよ?」

結果、両目とも6.0。

ぶっちゃけ人間ではありえない数値が出た。

此れも能力向上に関係するのだろう。

聴覚に関しては既に、イネスの声を聞いているので問題ない。

ただ、かなり遠くに居ても聞こえるようだが。

「最後に、これをなめてみて」

指示通り一舐めする。

「甘い・・・・」

砂糖だった。

味が、する。

少し濃く感じるのが難点だが。

要するに、戻るどころか味覚すら強化されてしまったらしい。

オマケにIFSの紋様が変化している。

既存のものには無い紋様だ。

パイロット用とオペレーター用のナノマシンが融合してしまったらしい。

しかし通常の伝達率の軽く三倍はいくようだ。

「むー」

其処までやると、隣で寝ていたラピスがおきたらしく此方の部屋までやって来た。

ギュッ

寝ぼけ眼を擦りながら、俺の服を逃がさんとばかりに掴む。

「にゅ〜」

鳴き声(?)を発しながら俺の顔を見上げてくる。

すると、其の顔は瞬く間に驚愕で彩られた。

「一緒?」

目の色が同じなのが嬉しいのか、かなりご満悦の様子。

飛び跳ねんばかりの勢いだ。

「ん。一緒だな」

軽く頭を撫ぜながら答える。

ごろごろと喉をならして喜ぶラピス。

丁度その時、新しく受け取ったコミュニケがなる。

ピッ

『や、其の様子だと五感の方は無事完治したようだね』

俺の容姿を確認して、そう言ってくるアカツキ。

「お前は知っていたようだな」

『まぁね。それより、君に渡したい物がある。直ぐに来てくれないかい?』

「了解」

何の用事があるかは知らないが了承する。

『じゃ、待ってるね』

ピッ

通信が終わると、俺はラピスを撫でていたのを止める。

「ラピス、今から本社に跳ぶぞ」

撫でるのをやめると、不服そうな顔をしたものの納得してくれたのか特に不満は言わなかった。

其れだけ成長した、というのもあるのだろう。

喜ばしい限りだ。

「ジャンプ」

そんな事を思いながら、俺は本社にジャンプした。





本社ビル・会長室

会長室に跳んだ俺達を迎えたのは、アカツキとエリナ、そして何故かプロスだった。

「で、用事はなんだ?」

残党との戦闘も近いと考えている為、それほど時間を割く事は出来ない。

今までとは違う、生きる為に戦う。

そして次の戦い、恐らく今まで以上のものとなるだろう。

なぜなら、次が最終決戦だと考えているからだ。

奴さんも、戦力の低下は目に見えているはず。

ならば次で全勢力をつぎ込んでくる。

俺はそう睨んでいる。

「君に渡したい物がある」

一転、真剣そのものな表情で言うアカツキ。

よほど重大な事なのだろうか?

「さて、ついてきてくれ」

プロスを先頭に、何故か格納庫の方に向かう。

そして格納庫に入った時、其れは姿を現した。

全身が銀色に輝き、其の背には一対の漆黒の羽。

普通逆じゃないのか? などと見当違いな事を考えながら其れを見上げる。

ブラックサレナをスマートにした感じの其の姿は、何処か騎士のような雰囲気を与える。

腰に下げる刀の様な物も、それに影響を与える。

ブラックサレナは追加装甲である。

しかし、この機体はどうも違うらしい。

今の技術で此れだけの物を作り上げたのは賞賛に値する。

此れと同じ物を作れ、といわれても二度と同じ物は作れまい。

「君の新しい機体だ。AIはサレナを移植したから、変わりは無い。機体名は君が決めるといい」

アカツキはそういう。

ブラックサレナには、其の名を復讐の意を込めてつけた。

「――――」

この神々しい姿に、其の名はあまりにも似合わない。

だから俺は、これと共に皮肉を込めて。

「――――クロノス。『時の覇王』の字と共に、クロノスの名をお前に」

この、時をも越える『ボソンジャンプ』と共にお前にこの名を授けよう。

さぁ、最終決戦は近い――――。
                                                                           続く

























次回予告

青年は新たな鎧を手にし、希望を手にした。

代償は決して小さくは無かったけれども、それでも青年は光をみた。

蒼き妖精は、其の先に何を見る?

物語は終盤へ。

閉幕の時は近づく。

さぁまわれ、運命の歯車よ―――――。

次回

外典 遠き日のオモイデ

第五章  ボクはキミにサヨナラを言う                         乞うご期待。



















後書き

ども、お久しぶりです。

前回はちょっと私用で忙しかったので、後書きは控えさせて頂きました。

さて、第四章お送りいたしましたが、いかがでしたか?

物語りも終盤を迎え、外典の方もあと残す事少しとなりました。

其れまで暫しのお付き合いを。

え〜、この作品の本編の方で、実は二通りの展開を考えています。

今それで一寸悩んでます。

其処で皆様の知恵を借りたいと思います。

ではそれぞれの案を。

一つ目:このままナデシコキャラはアキトのみ。機動戦などもってのほか!

二つ目:外伝っぽいのでルリ達の動きを書き、そのままジャンプ! 勿論場合によっては機動戦あり!!

大まかに分けるとこの二通りですね。

後者に関しては、ルリとラピスに与える宝具の効果と名前も募集します。

期間は一週間後の二十九日まで。

掲示板に書き込んで下さい。

ではでは、これにて。
                                                                         三月二十日・執筆完了 神威






感想

申し訳ない、諸事情あって掲載が一日遅れました。(汗)

諸事情なんていいものじゃないでしょう! 全く、一体どうするつもりです か!? 私達の宝具を掲示板で募集するという重大事を遅らせるなんて!!

ははは…そうだね、現在通信環境が悪いので昼のうちしかつなげないのは効いてるよね(汗) 遅くとも26日には回復すると思うけど…

で、一体どうするつもりですか? このままでは誰かの所為で遅れたぶんご意 見が減るという事態になりかねませんよ?

うぐぐ…(汗)

仕方ありません、感想を優先しましょう。後でしっかりお仕置きしてあげます からね?

ううぅ…それはやだなあ…でも確かに感想優先だね、それでは先ず最初はユリカ嬢との再会だけど…

当然こうなりますよね、ユリカさんを抹殺する事は事前に決まっている事ですし。私の出番のために涙を呑んで消えて頂きましょう♪

あはは、過激だね…まあ、ルリ派の人ではこのパターンは必須だから仕方ない事だしね、殺したり、他の人とくっつけたりっていうパターンもあるけど過激すぎ るしね(汗)

そしてアキトさん復活!! これで私との結 婚にも障害は無くなりました!! カウントダウンを待つのみです♪

いや、あのね…ラピスもいるしシャナの世界の人もいるからそう上手くいかないと思うよ。

…仕方ありません、最強の宝 具でも作って待っていましょう。

ははははは(汗) でも、どんなのがいいかな…

まあアキトさんを虜に出来 る宝具ならなんでもいいんじゃないですか?

一番無茶な宝具だ…(汗) っと、ともかく、新型エステ、クロノスを手に入れたアキトの火星の後継者との決着楽しみにしています。

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

神 威さんへの感想はこちらの方に。

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