オリジナルイオンの死去から二年後。

―――物語は此処からはじまる。

TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh― 

ACT.04  ルーク・フォン・ファブレ

side.ルーク

キムラスカ・ランバルディア王国、ファブレ家の邸宅の一室にて、その部屋の主『ルーク・フォン・ファブレ』は何をするでも無く只ぼーっとしていた。

まぁ、寝起きだと言う事もあるだろうが。

屋敷に軟禁される様になって七年。

外とは一切遮断されるこの部屋で、ルークは時を過ごしていた。

実際には外界と遮断されているだけなので、外の情報については、親友兼使用人の『ガイ・セシル』から色々と聞いている。

勉強自体も、この部屋ではする事が無いので割と積極的に取り組んでいた。

外に出る事が出来ない為、他にする事が無いのだ。

それ以外といえば、ルークにとってヴァン・グランツにより受ける、剣術の指導が唯一娯楽だったと言えよう。

このまま無気力に時間を過ごすのも憚れ、ルークは外に―と言っても家の外には出れないのだが―出る事にした。

ルークはベッドから身を起こし、頭を勢い良く掻いた。

寝起きのせいか若干ぼーっとする頭を振り、何とか覚醒する。

低血圧と言う訳でも無いのに朝は弱い。

屋敷に居るメイド達が見たら何と言うか。

ベッドから降り、ドアノブに手をかけた所で猛烈な頭痛がした。

『……ク、…我が……を…ぐ者よ……我が声に…答えよ』

声、なのだろうか?

直接頭に響く様な、頭の中をかき混ぜられる様な感じがして、酷く吐き気がした。

思わずドアノブから手を放し、しゃがみこむ様に膝をつく。

「……っぐ! 今の声、何時ものやつか!?」

頭痛は治まるどころか酷くなる。

頭が割れるように痛い。

それを振り払うかの様に、ルークは頭を左右に振った。

「……ルーク? また何時もの頭痛か?」

何時の間にか窓際に立っていた、親友兼使用人のガイが聞く。

「…ガイ、か」

ようやく収まってきた頭を抑えつつゆっくりと立ち上がる。

「大丈夫。だいぶ、治まって来た」

完全に立ち上がる頃には、頭痛も声もすっかり治まっていた。

「…チッ! 一体何だってんだ」

先程の頭痛や声にイライラしながら言うルーク。

「この頃頻繁だな。マルクトに誘拐されてからだから……七年近くだな」

「あぁ、そうだ」

イライラしつつ返事を返すルーク。

「あいつ等のせいで頭の可笑しい奴になった気分だ」

不愉快な、とルークは続けた。

「あんまり気にしない方が良いさ。それより今日はどうする?」

「いや、今日はヴァン師匠が来ている」

ルークの言葉を聞いたガイは驚愕した。

「ヴァン、ってヴァン謡将が?」

「そうだ。何でも、父上に話があるらしい」

ルークがそう言った所で、ドアがノックされた。

「ルーク様、宜しいでしょうか?」

メイドが呼びに来た様だった。

「―――おっと、マズイ。此処に居るのは秘密なんでな、失礼させてもらうよ」

じゃ、と軽く言いつつガイは窓から部屋を後にした。

「ルーク様?」

返事が無いのを不振に思ったのか、はたまた別の理由か。

メイドはもう一度ノックすると、ルークに向かって声をかけた。

「待たせたな。入ってくれ」

ドアから少し離れ、メイドに入るように促す。

一拍の後、メイドが部屋に入ってくる。

「失礼します」

そして一礼。

「旦那様がお呼びです。応接室に来るようにとの事です」

「解った」

それだけ答えると、下がれの合図と共に部屋を後にする。

中庭を通る途中、庭師のペールが整備をしているのを横目で見た。

ルークには花のことは解らなかったが、それでもペールが愛情を注いで花を育てているのが良く解った。

一声かけようと思ったが、父に呼ばれていた事を考え、結局はやめる事にした。

少々遠回りになるが、玄関側から応接室に入ろうと思い、玄関側に行く。

「お坊ちゃま、応接室にて旦那様とヴァン・グランツ謡将閣下がお待ちです。お急ぎ下さい」

応接室に隣接している部屋に入ると、すぐそばに居た執事のラムダスがルークに声をかけた。

「解った。……だが! いい加減にお坊ちゃまは止めろ!!」

羞恥でか、顔を赤くしたルークが言った。

「いいえ、成人の儀を迎えるまでは『お坊ちゃま』でございます」

ラムダスに軽くあしらわれ、憮然としたままルークは応接室へと入って行った。

「父上、只今参りました」

「おぉ、丁度良い時に来た。まずは席に着きなさい」

静かにドアを閉め、ルークは席に着いた。

「父上、一体何の様で?」

「グランツ謡将がダアトに帰還されるとの事でな」

「何か問題が?」

自分の師が帰国すると言う事を聞いたルークは、少し顔色を変えながら聞きかえした。

「そうだ」

それにはヴァンが答えた。

「私が神託の盾騎士団に所属している事は知っているな?」

「はい。確か…神託の盾騎士団の主席総長を務めていると」

ルークがそう答えると、ヴァンは頷いた。

「あぁ、そうだ。私の任務は神託の盾騎士団を率い、導師イオンを御守りする事にある」

「導師イオンと言うと…ローレライ教団最高指導者の?」

ルークが聞くと、ファブレ公爵は頷いた。

付け加えて、前導師のエベノスは『ホド戦争終結の功労者』、現導師イオンは『今日の平和の象徴』と言われている事を伝えた。

「そのイオン様が行方不明になられたの……」

ルークの母、シュザンヌが続ける。

「――――ッ!」

声には出さなかったが、ルークの顔は驚愕している事を表していた。

「それ故に私は導師イオン捜索の為、帰国する事になったのだ」

それを聞いたルークは、唯一の楽しみだった剣術の修行が出来なくなる事を知り、残念そうな顔をした。

「そう残念そうな顔をするな。暫く相手が出来ない分、今日はとことん付き合うぞ」

ヴァンはそう言うとファブレ公爵、シュザンヌに一礼すると部屋を後にした。

ルークはすぐに後を追おうとしたが、シュザンヌに声をかけられ立ち止まった。

「剣術の稽古もいいですけど、あまり無理をしない様にね?」

心配の声をかける母に軽く頷くと、そのまま部屋を後にした。


◆ ◆ ◆


応接室を後にしたルークは、そのまま中庭へと足を進めた。

相変わらず庭の整備をしているペールが目に入る。

中庭に入ると、その中央ではガイとヴァンが何やら話している様だった。

遠目に見てるのでその声は聞こえないが、二人の表情は厳しかった。

話に加わる事に一瞬躊躇したが、ルークは声をかける事にした。

「二人で何を話してる?」

その頃には二人もルークの存在に気付いてたようで、話を中断してルークの方を見た。

「ヴァン謡将は剣の達人ですからね。流派は違えど参考になる事が多いのでご教授願ってた所ですよ」

質問にはガイが答えた。

ガイが剣術を使う事―偶にガイとも手合わせする為―を知っていたルークは、特に気に留めるでも無くその話を信じた。

ガイはそのままヴァンに一言声をかけると、今度はルークの方に向き直して言った。

「じゃ、俺は向こうに座って見学する事にするよ」

そう言うと近くにあったベンチに腰かける。

「……では、型の復習から始める」

ヴァンがそう言うと稽古がはじまった。

それから三十分近く型の復習をして、その後技の練習に入る。

技、と言ってもルークがヴァンに教えられたのは基本中の技、『双牙斬』『崩襲脚』『烈破掌』の三つのみだった。

技の内の二つは剣すら使わないので、実質は『双牙斬』のみとなるだろう。

もっとも、ルークが習っている剣術『アルバート流剣術』は盾を持たない剣術なので、開いた片手を上手く使うように『氣』を利用した無手の攻撃法もあるよう だ。

それを合わせれば、三つともがある意味『アルバート流』と言えよう。

技の練習を終えると、ヴァンは稽古はこれで終わりだ、と告げる。

稽古後の汗を軽く拭っている最中、異変は起きた。

何処からとも無く『歌』が聞こえて来たのだ。

「この声は―――ッ!」

声に聞き覚えがあるのか、ヴァンは呻く。

「お屋敷に第七音素術師が入り込んだか!?」

この歌を譜歌だと見破ったペールが叫ぶ。

「……くそ、眠気が襲って来る。警備兵は一体何をしている!?」

遅い来る眠気を必死に絶えながら、ガイは言った。

その膝は既に地面につき、今にも倒れてしまいそうだった。

ルークは一瞬眩暈が襲ったものの、それ以外の変化は特に無かった。

確かに少し体がだるいが、それだけだ。

その時、頭上―丁度屋根の辺り―から知らない声が聞こえて来た。

「―――漸く見つけたわ。裏切り者、ヴァンデスデルカ!!」

その声の主はそう言うと、屋根を飛び降り、鋭敏な動きでヴァンに迫る。

「やはりお前か―――ティア!」

ヴァンが持つ剣と、女―ティア―の持つ短剣とがぶつかり合い、ヴァンはその勢いでティアを弾き飛ばす。

しかし、譜歌の効力のせいか、ヴァンの動きは冴えない。

それを見計らってティアは更に攻撃を加えようとヴァンに襲い掛かる。

しかし、この場で唯一体が動くルークがその間に割って入る。

ルークの武器は訓練中だった為生憎と木刀だったが、それでも何とか受け止めるとルークは叫んだ。

「貴様―――ッ、何者だ!?」

其処に怯え等微塵も存在しなかったが、焦りの色が見えた。

このまま鍔迫り合いを続ければ、木刀とナイフでは圧倒的に木刀が不利だからだ。

しかし、どういう訳かティアの方にも困惑の色が見えた。

『―――響け、我が声よ。我が意思よ、届け! 開くのだ!!』

何時もの頭痛がルークを襲った。

そのせいで集中が途切れ、その隙にティアが距離をとろうとした。

しかしその瞬間、武器の接点を中心に振動が走る。

音素が集結しているようだった。

「第七音素!?」

ティアが驚愕の声を上げると同時に、ヴァンの「第七音素同士が反応しあったか!」という声が聞こえた。

一瞬後、光が集結したかと思うと、その光が消えた後にはルークの姿もティアの姿も見つける事は出来なかった。


◆ ◆ ◆


side.ティア

ティアは目の前に倒れている青年とも少年ともいえない年頃の男をみた。

そしてティアにはその顔に見覚えがあった。

「―――アッシュ」

そう、アッシュだ。

ルークが自分の教官に引き合わされた彼と同じ顔をしているのに、ティアは気が付いていた。

これは一体どういう事なのだろうか?

気にはなったが、此処で気を失っているルークが知っているとは思わなかった。

大体、容姿は似ているが雰囲気が違いすぎた。

自分の教官は随分アッシュの事を気にかけてたようだったから今度聞いてみよう、と思い、ティアはルークを起こすことにした。

「起きて、ルーク。起きて」

軽く揺さぶりながら声をかける。

「―――ッ」

額を押さえ、ルークが身を起こす。

それを支えようとティアが手を添える。

ルークは視界にティアをおさめたかと思うと、その手を猛然と振り払った。

「貴様は―――ッ!」

自分の師に襲い掛かった襲撃者に、ルークは警戒した。

「私はティア。―――私とあなたの間で超振動が起こったみたいね」

やっぱり似てない、とティアは思った。

彼ならこの場面では、首をかしげつつ『君は?』何て聞いて来る筈だから。

それを想像したティアは、思わずかわいい、と呟いた。

「……何か言ったか?」

「いいえ」

ティアはそ知らぬ顔で首を横に振った。

「それにしても、超振動か…」

知識としてはしっていたが、自分のみを持って体験するとは夢にも思っていなかったルークであった。

しかし一拍おくと、ルークはティアに問いかけた。

「貴様は何故あの時、師匠を殺そうとした?」

怒鳴りかけなかったのは殆ど偶然だっただろう。

ルークはヴァンの事となるととたんに冷静さをなくす。

ティアはその問いに答えるつもりは無かった。

もっとも、これを聞いて来たのが彼だったら答えたかも知れないけれど。

ルークが知る必要は無い事だ、という判断からだった。

「貴方に答える必要は無いわ。これは、彼と私の問題だから」

有無を言わせぬ口調でそう言うと、ティアは立ち上がった。

「それより、此処から移動しましょう。此処が何処かは解らないけど、バチカルの屋敷までは送り届けるから」

ルークに立ち上がるように促し、セレニアの花畑を見つめる。

彼に上げたら喜ぶだろうか? と考え、其処で無駄な事だと考えを打ち切った。

「行くあてでもあるのか?」

ルークが聞く。

「あて、って程のものでも無いけれど……」

一拍置き、続ける。

「川沿いに進んで此処を出れば、恐らく馬車が通ってると思うわ」

ティアはそう言うと、先頭にたって歩き出した。

慌ててそれを追いかけるルーク。

この時点では、二人ともこれが壮大な『旅』になる事は想像してもいなかった。

また、同時刻に一人の男が動き出した事など、知る由も無かったのだ。





side.アッシュ

「…今のは」

超振動か、と呟き俺は膝の上に座っているアリエッタの髪を梳いた。

猫のように目を細めて嬉しそうにするアリエッタの顔を見ると、こちらも幸せな気分になった。

「入るぞ」

リグレットの声がしたかと思うと、次の瞬間には声の主が部屋に入ってきていた。

返事を返す前に入るな、と言ってやろうかと思ったが、多少なりとも恩があったのでそれは止めておいた。

「…どうした? リグレット」

俺が聞くと、リグレットは大きく息を吐いた。

「オリジナルが消えた」

簡潔に其れだけ言い、俺の隣―ベッドの上―にドカッと腰掛ける。

普段のリグレットからかけ離れている様子から察するに、この女性はかなり機嫌が悪い事を知った。

「ついさっき超振動が発動したのを感知した。第七音素が収束したのはタタル渓谷」

恐らく其処に居るだろう、と続けて髪を梳いていた手を止めた。

リグレットは軽くため息をついて立ち上がった。

「…ヴァンは?」

「導師の件で帰国なさるそうだ」

リグレットの答えに、こちらもため息をついた。

「…それはモースの命令?」

「恐らく」

また、ため息。

「お互い苦労するね」

と、とりあえず笑って言った。

それでリグレットの機嫌もいくらか直ったのか、フッと笑い返してきた。

「…姉様」

と、膝の上で黙って様子を見ていたアリエッタがリグレットに声をかけた。

「……アリエッタ達は、どうする、ですか?」

「それについて命令が出てる」

それも、モースから、らしい。

「何て?」

アリエッタをひょいっと抱き上げ、立ち上がりながら聞く。

勿論アリエッタはそのままおろした。

「導師の姿をエンゲーブで目撃した、という情報が入っている」

「他には?」

「……お前の記憶通りだ」

やはり、マルクトの兵もちらほらと見られたらしい。

「さて、俺達にはどうしても導師イオンと言う協力者が欲しい」

ついでに、マルクトの力も借りれれば万全だ、と付け加える。

「…この状況を、利用する…ですか?」

ちょこん、と首をかしげつつ聞いてくるアリエッタの疑問を肯定し、続ける。

「表立って動けるわけじゃないから、パイプを作るつもりだ」

その為の、『導師イオン』だ、と。

「あくどい事を考える」

リグレットのあきれたような声に、ちょっとムッときた。

「イオンに接触出来たら出来るだけ伝えてくれれば良い。後は、モースの方にも注意しないとな」

「………そっちは、アニスがやってくれる、です」

解ってる、と答えて軽く頭を撫で撫で。

丁度そのとき、誰かが部屋のドアをノックした。

「…入れ」

答えると、中に入ってきたのは俺の部下の一人だった。

「特務師団長、出撃の命令です」

「解った。すぐに準備する」

どうやらモースはイオンを捕まえる方向に出たようだ。

さて、行きますか。

後ろにリグレットとアリエッタを率いて、俺は部屋を後にした。
                                                                                                          next.....




























後書き

はい、と言うわけでACT.04でした。

何故かぽんぽんとアイデアが出てくるので、当分は新作に付きっ切りになる可能性が高いです。

しかし、書いてて思ったんですが、ルークの口調が微妙だ。

後、ティアの譜歌の歌詞が解んねぇ(ぇ

プラスして言うと戦闘シーンがどうしても微妙になる。

この作品では、アッシュ視点の場合はアッシュが語り手。

それ以外では第三者視点で進めようと思っています。

ころころ変わるので読みにくいとは思いますが、どうぞよろしく。

さて、今回の話でルークとティアが跳びました。

次回はチーグルの森の話です。

ここら辺は本編とあまり変わりません。

では、また次回で。


2006.4.18   神威





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