side.アッシュ

アルビオールの改良が始まって三日。

今日が完成予定日になっている。

俺とアリエッタは三日間泊まった宿を後にして、早速イエモンさん達が居る場所へと向かっていた。

完成していれば今日中に出発になる。

「イエモンさん、どうです?」

「おぉ、アッシュか。たった今完成したところじゃ」

そこには、完全な姿になったアルビオール試作改良型一号機があった。

「あれ、機体の色って黒だったっけ?」

その機体の色は漆黒に染まっていた。

「いや、お前さんにあいそうな色が無かったんでな。あの色よりはマシだろうと黒に塗り替えたのじゃよ」

確かに試作一号機の元の色は青い感じの色だったけど……。

これはこれで良いか、と考え直して早速試運転について聞く。

「試運転だけど、どれ位かかる?」

「微調整の関係上、一日はかかるじゃろうな。遅くとも今日の夜には完成する筈じゃ」

「そっか……。あ、うちの連中は?」

手伝いに出していた部下の事を思い出し、聞く。

「おぉ、お前さんの部下はよぉ働いてくれたわ。微調整に関してはわしらだけでも十分出来る。後は休ませてやると良い」

「あぁそうさせて貰う」

「ほれ、其処で休んでおるから顔を見せに行って来い」

其処でイエモンさんと別れ、俺は部下の所まで行った。

「ご苦労さん」

「あ、アッシュ様」

一箇所に固まっていた部下のうちの一人が顔を上げた。

かなり疲れが見える。

「後はイエモンさん達に任せて、お前達はもう休むといい。アリエッタに頼んで外にグリフィン達を待機させてあるから、空路でリグレットの班と合流してく れ」

その後は休んで良し。

そう伝え、パンパンと手を叩いて立つ様に促す。

「さぁ、合流したら思う存分休んで良いからもう一踏ん張りだ!」

後ろにぞろぞろと部下を引き連れ、俺はその場を後にした。

とりあえずこれで人目を気にせずに空を移動する手段を手に入れる事に成功したわけだ。

もっとも、本題はアクゼリュス崩壊の時の避難時に使う事なのだけれど。



TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh―

ACT.14  崩壊の兆し


あれから大分時間がたち、今は既に夕刻だ。

少し前に微調整が終わり、今は最終確認をしている最中だ。

「うむ、これならもう大丈夫じゃ」

イエモンさんが一つ頷く。

完成したアルビオール試作一号機を前に、俺はこれからの事に思いを馳せた。

そろそろルーク達がアクゼリュスに向かう頃だったという事もある。

「イエモンさん、助かったよ」

「直ぐに出発するのか?」

「あぁ、時間はそんなに無いからな」

「……崩壊、か。俄かには信じられん話じゃが―――お前さんの言うことじゃからな」

信じれる。

イエモンさんはそう言った。

「ありがとう。じゃあ―――行ってきます」

こうしてアルビオールは、俺とアリエッタを乗せて出発した。



◆ ◆ ◆



「アッシュさん」

操縦桿を握るノエルが隣に座る俺に声をかけてくる。

「ん?」

「確認しますけど、目的地はアクゼリュスで良いんですよね?」

「あぁ。あそこはもう少しで崩壊するからな」

何時にも増して甘えてくるアリエッタを膝に乗せ――危ないから駄目だと言ったにも関わらずに座ってきた――髪の毛を撫でつつ返事をする。

「もうそろそろで到着します」

流石はアルビオール。

かなり早い移動時間で到着した。

町に入ると、既に瘴気が充満している所だった。

だが―――人影は無い。

先行していたラルゴやシンクの班が上手くやってくれたのだろう。

目の前には坑道の一つ。

ヴァンは、此処に来る。

この先にセフィロトがあるからだ。

この中には、後々この町の住民に扮装した神託の盾騎士団の団員が入る事になっている。

長時間瘴気の中に居なければ重大な影響はでない、との事なので時間ギリギリに入れば何とかなるはずだ。

「アッシュ様!」

「ご苦労様。避難民は?」

「当初の予定通りこの街から少し離れた場所に避難しています。しかし残念ですが、住民の四割弱は……」

陸路であった事が影響したようで、此処に到着するまでに死人が出てしまった様だ。

自分の選択を悔やむ。

そもそも瘴気が出るのが何時かは解っていなかったと云う事もある。

仕方が無い、と言ってしまえばそれまでだが、そうは言いたくなかった。

そう言ってしまうと『命』が軽くなるような感じがした。

「生き残った人が居るだけ、良しとしよう。案内を頼めるか?」

「ハッ!」

その兵士を先頭に、俺達は一旦アクゼリュスを後にする事にした。

勿論移動はアルビオールで。

「ラルゴ隊長! アッシュ様をお連れしました!!」

「む……ご苦労」

避難民達を守るように周囲を警戒していたラルゴを見つける。

当の避難民達は突如として出現したアルビオールに驚愕している。

「ラルゴ、ご苦労様。こっちの準備は整ったから、今から本格的な避難を開始するよ」

「うむ、了解した。シンクは向こうに居る。顔を出してやるといい」

「あぁ、そうするよ」

ラルゴに別れを告げると、後ろにアリエッタとノエルを引きつれシンクの元に向かう。

「シンク、ご苦労様」

「これくらいはどうって事無いよ」

相変わらず憎まれ口なような口調だったけど、どこか疲れが見えた。

「ラルゴにも伝えたけど、今から本格的に避難を開始する。……大丈夫?」

「平気」

「じゃ、準備宜しく」

シンクとの会話もそこそこに、出発の準備に取り掛かる。

「ノエル」

「解りました!」

ノエルに一声かけて待機をさせる。

避難民にはラルゴ達が説明している。

流石にこれだけの人数を一度に運ぶ事は出来ないから、何度かに分けて避難させる事になる。

さて、問題の避難先だが、それはシェリダンになっている。

イエモンさん達にも話を通して、其処から受け入れの許可を貰った。

ただ、半数は別の場所で保護してもらう予定だ。

―――ケセドニアだ。

勿論話は通してある。

これに関してはちょっと卑怯な技を使った。

確実に協力を得る為にイオンに協力して貰ったのだ。

時間的な問題を解決する為にとった方法だった。

流石に、時間ギリギリに頼むには俺の持つ『カード』が少なすぎる。

最悪、最終手段としてフローリアンを『イオン』と偽って交渉するつもりだった。

ホントは、嫌な方法だけど。

その事をイオンに話したら二つ返事でOKが出た。

そのお陰でケセドニアへの避難許可が割と簡単におりたのだ。

勿論崩壊の部分は伏せ、避難民が出た場合の受け入れ許可だけをとった。

あまり知らせてしまうと余計な混乱を招く可能性があった。

その為崩壊に関しては伏せておいた。

とはいえ、どちらにしろ時期が来れば話さざるえない。

ここもいずれ崩壊する土地になっているからだ。

ノエルには大変な思いをさせるけど、此処は頑張って貰わないと。

この場に残っている避難民の護衛をしつつ、じきに来るアクゼリュス崩壊に思いを馳せる。

後々の事を考え、ルークには崩壊させるつもりはない。

ルークには、ね。








side.ルーク

アクゼリュスに親善大使として行く事。

バチカルに帰還したルークに新たに与えられた『仕事』が、それだった。

その中でヴァンが捕まってたり、それを開放したりと色々あったが、一行はアクゼリュスに向かう事になった。

バチカルを出て四日。

一行はアクゼリュスに到着していた。

「―――人が居ないだと?」

ルークが呆然とするのにも無理は無い。

見る限りでは何処にも人は居ないのだ。

彼等は知る良しもない。

既に民達は二日前の時点で避難を完了していたという事実を。

そして今はアッシュに協力する神託の盾騎士団の団員達がこの町の人間に扮装しているという事を。

「とりあえず探索だけでもしてみましょう?」

ティアの提案の元、一行はアクゼリュスの町をくまなく探索する事となった。

宿屋に入ると其処はガランとしていて、中に居るのは唯一宿屋の主人だけのようだった。

その主人の話だと、既に町の半数以上の人間が死んだといわれた。

そして、この瘴気が最も酷い場所が第十四坑道であるという情報を入手した。

「此処か……」

ルークが呟く。

その目の前には坑道が口をあけている。

ティアはつい先程第七譜石が見付かった、との報告を受け其れを確かめに行った。

ルークはこんな時に…と思ったが、同時に仕事ならば仕方が無いとも思った。

「はわ〜、すっごい瘴気」

アニスが言う通り、坑道の中は視界を覆う程の瘴気であふれていた。

坑道を奥へ奥へと進んでいく。

途中、魔物と遭遇する事もあったがそれなりに戦闘を積んで来たルーク達の敵では無かった。

「ッ! これは―――」

開けた場所にでて、ルークが目にしたもの。

それは苦しみ喘ぐ人々だった。

ルーク達は勿論の事、少し前に到着していたヴァンも知らないが、これは全て演技だった。

確かに少し息苦しい感じを受けてるものの、実はそんなに苦しんでない。

「ヴァン師匠は何処だ―――?」

アクゼリュスに来る前に囮となった師匠を探し、ルークは坑道の更に奥へと進んだ。

後ろにはとことこと何時の間にかついてきたイオンの姿がある。

ヴァンには、瘴気を開放する為にはルークの超振動の力が必要だ、と言われていた。

その全てを鵜呑みにした訳ではないが、ルークはそれが本当に出来るのならば、民の為になると思った。

自分の力が役に立つのなら、それは本望だと思ったのだ。

「さぁ、導師イオン。此処の封印をといて下さい」

「ヴァン……」

イオンは何も言わなかった。

封印をとくと、ヴァンはルークを伴って奥へと進んで行く。

長い螺旋階段を下りる。

パッセージリングはすぐ其処まで迫っていた。

―――其処に、炎より尚赤い髪を持った青年が居た。
next.....

























後書き

ども、神威です。

さてさて、以前のネタバレでヴァンの処遇について話しましたが、どうやら変更になりそうです。

いえ、ラスボスのキャラは変更ありませんが。

今回は割りと短めです。

次回はもちょっと長くなる……と良いなぁ。

今回も沢山の拍手と感想を頂きました。

どうもありがとう。

その中で質問があったので答えようと思います。

>アッシュ(ルーク)の性格が時々分からなくなります、彼はクール系それとも熱血系?

時と場合によってころころ変わったりします。

これには一応理由があります。

まぁ、お分かりになると思いますが、第一話にて別世界のルークの意識と統合されましたよね?

それの影響で微妙な性格になってしまってます。


さて……次回の更新は何時になるかわかりませんが、今回はこれにて。

また次回にお会いしましょう。


2006.8.5  神威


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