side.アッシュ

目の前に、目を大きくして吃驚しているイオンの姿が見える。

そしてその更に前にはヴァン、そしてヴァンに連れられたルークの姿がある。

「待ちくたびれたぜ、ヴァン」

ヴァンを睨みつける。

「アンタには悪ぃけど、此処で退場してもらう」

「……アッシュよ、本気で私に勝てるつもりか?」

「試して見る?」

不適に笑う。

勝てるとは思わなかったが負けるつもりも無かった。

その為に色々と画策して来たのだから。

勝率は恐らく五分五分。

現状のままだと良くて相打ちだろう。

とはいえ、だ。

俺もヴァンを無傷で帰らせるつもりは無かった。

手傷を負わす事が出来れば、今後の戦況はこちらに有利になる筈だ。

それに、今頃後ろの方に居るアニスにアリエッタからの伝言が届いている筈だ。

ジェイドには不審がられるだろうけど、カモフラージュになっていた連中は既に退却しているだろう。

皆はこっちに向かっているだろう。

―――これで、心置きなく此処を崩壊させられる。

「所詮、イレギュラーはイレギュラーだったか」

「せめてジョーカーって言ってくれよ」

ヴァンの後ろからアニス達が走ってくるのが見える。

「ルークッ!」

先頭を走っていたティアの声。

「さて、役者は揃った」

「アッシュ、貴様まさか―――ッ!!」

ヴァンに向けた視線はそのままに、片手をパッセージリングに向ける。

そして超振動の発動準備にとりかかる。

「最初からそのつもりだったのか!?」

「あぁ! その為に真っ先に住民を『避難』させたんだからな!!」

パッセージリングに向かって超振動を発動する。

後から来た連中は、この街に既に人が居ない事を知っている。

そりゃ目の前で撤退し始めるんだから、解らない方がおかしい。

突然の出来事にわたわたしているティアを見つける。

「ティア、譜歌を謡えッ!」

このままでは彼女達の命に関わるので、そのティアに向かって大声で言った。

「グズグズするな! 崩壊するぞ!!」

普段の俺らしくない、と思いつつも怒鳴る。

その指示に漸く我を取り戻したティアが譜歌を謡いだす。

全く、こんな風に怒鳴るのは俺のキャラじゃないぞ?

「……ふ、貴様の茶番に付き合う必要は無い」

口笛を鳴らすヴァン。

―――が、何時になっても変化は起きない。

それはそうだ。

何せヴァンが待ってるグリフィンは、今頃アリエッタが手懐けているだろうから。

ヴァンが狼狽している。

滅多に無いチャンスだ。

「疾ッ!」

ヴァンに向かって思いっきり走り出す。

そうこうしているうちにティアの譜歌が完成する。

ルークもイオンを伴って譜歌の範囲内に入ったようだ。

「ムッ」

狼狽するのも一瞬で、俺が走り出した時にはヴァンは既に冷静さを取り戻していた。

その事に舌打ちしつつも、走る事は止めない。

その間にヴァンも迎撃準備を整えたようだ。

拳を構えている。

「「―――烈破掌ッ!!」」

同時に炸裂する同じ技。

接点で氣の爆発が起こる。

炸裂すると同時にバックステップで距離を取る。

「そー言うなよ、ヴァン。少しは遊んでこうぜ?」

抜刀。

「……それもまた、一興か」

ヴァンも抜刀する。

「覇ッ!」

「轟ッ!」

剣を撃ち合う。

実際に経った時間は微々たる物――其れこそまだ十分も経ってない筈だ――だろうが、俺にとってはとてつもなく長く感じられた。

最初から手抜きなしの全力。

既に俺の体にはヴァンによって付けられた傷が多数ある。

しかしもう既に崩壊まで時間は残されていない。

時間は無駄に出来ない。

今も地面はグラグラと揺れている。

崩壊の兆しだ。

「受けよ! 光龍槍!!」

ヴァンが繰り出すビームのような一撃。

その一撃を辛くも回避。

「次はこっちの番だ!」

先ずは牽制の一撃。

「魔神剣ッ!」

これはヴァンも予想していたのか、かわされる。

が、しかしその間に俺はヴァンの懐に潜り込んでいる。

時間はもう無い。

この一撃に全てをかける―――ッ!

「魔王絶炎煌ッ!!」

炎を纏った一撃がヴァンに炸裂する。

大振りな一撃だが、回避されても炎で手傷を負わせる事は出来る。

完全に不意をついた。

「グッ!」

ほぼ直撃コースの一撃だった。

しかし、俺はヴァンの様子を確認する前に撤退せざるを得なくなった。

何故なら―――アクゼリュスの崩壊が始まったからだ。

「…………ッ! ア……ュッ!!」

イオン達が呼んでいる気がするが、意識してそれを遮断。

俺はヴァンがどうなったかを確認する間も無く超振動でその場を後にした。


TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh―

ACT.15  崩壊する大地


次に俺の目に入ったのは、いっぱいに広がるフローリアンの顔だった。

「おわっ!」

流石にびっくりして仰け反る。

どうやら跳んで来たポイントの目の前に、丁度フローリアンが居たのだろう。

当の本人はキャッキャッと喜んでいる。

何がそんなに嬉しいのだか。

―――此処はダアトにもっとも近い孤島。

誰も使ってないのを良い事に、俺が勝手に拝借した場所だ。

何故フローリアンが此処に居るのか、と云えばそれは事前に決められた事だったから。

アクゼリュス崩壊の二日ほど前の定期連絡の時、俺がリグレットに指示を出したのだ。

つまり、フローリアンをつれて此処に来い、と。

これからは一箇所に固まってたほうが何かと良いから、と云うのが理由だ。

ちなみに、以前アリエッタの『ママ』達を避難させたのは此処の直ぐ近くにある別の島だ。

「あっしゅ!」

幼い感じの声を出してフローリアンが抱きついて来る。

甘える時は何時もこんな声になる。

普段は、リグレットが教育しただけあってしっかりしてるんだけどな。

「ただいま、フローリアン」

あっしゅあっしゅ、と言ってちょこちょこ後ろについて来るこの子は、犬みたいだ。

軽く頭を撫でてやる。

と、その後ろの方にむくれたアリエッタを見つけた。

どうやら、既に着いていたらしい。

「アリエッタ」

名前を呼んでやると、すぐに笑顔になってこっちに寄って来た。

うん、アリエッタも犬みたいだ。

しっぽがあったらぶんぶん振ってそうだ。

何て事を考えて苦笑する。

超振動による移動方は既に二回とも使ってしまった。

直ぐにユリアシティに行く必要がある。

勿論移動方法は確保してあるから心配は無い。

言わずもがな、アルビオールである。

ユリアシティの長・テオドーロさん―ティアのじいちゃん―には既に話を通してあるので、行くこと自体はどうってことない。

テオドールさんは相変わらずスコアの事を心酔してる。
              スコア
流石に人生の大半を預言に費やした人だから、そうそう考えが変わるとも思えなかったけど。

何故俺がテオドールさんと会う事が出来たのか。

それは今は亡きイオンと何度か行った事があるからだ。

名目上は護衛だったけど、その実最初のは俺の顔合わせみたいなものだった。

俺、つまりレプリカの存在をあらわにしたのだ。

勿論テオドーロさんも知っていた筈だ。

しかし実際に顔を見た訳では無い。

そしてそれは、レプリカが誕生する事はスコアには詠まれていない事だ。

自分からスコアを破っといて今更それを頑なに守る必要はない、とイオンと共に説得したのだ。

そのかいあってか昔程スコアスコアと言わなくなった。

もっとも、根底は変わってない。

人間そんな簡単に変わらないって事だな。

「フローリアン、悪いけどもう暫くラルゴ達と一緒に留守番しててな?」

流石にフローリアンの存在を明らかにする訳にも行かず、フローリアンを連れて行くことは憚れるのだ。

「……うん、解った」

「良し! 時間が出来たら皆でどっか遊びに行こうか。勿論、フローリアンも一緒にな?」

「いっしょ、です」

「うん!」

満面の笑みを浮かべている二人を見ると、俺も幸せな気分になって来る。

そのまま二人の頭を撫でてやる。

「さて、と」

今後の事を考える必要がある。

ルーク達と協力体制を取るか否か。

最終的な目的は一緒な訳だし、いっその事行動を共にするのもアリかと思っていた。

ヴァン達が集めている触媒武器の事も気になる。

その内の二振りはグランコクマのピオニー陛下とマクヴァガン元帥―確かそんな階級の人だったと思う―の元にある。

俺が直接取りに行く訳には行かないのだ。

「取りあえず後一人は連れて行きたいよな………」

とは言えフローリアンを連れて行かない以上シンクは除外される。

万が一にも仮面が外れたら事だ。

「仕方無い。リグレットに頼もうか」

そんなこんなでリグレットを呼び、俺達はアルビオールでユリアシティを目指す事になった。

アルビオールならルーク達よりも若干早く着く事が出来るだろう。

「……と、その前に」

呼んで来たリグレットに向く。

「リグレット。俺の髪、短く切り揃えてくれね?」

ここらへんで、と。

「―――? 急にどうした。別に切る必要はないと思うのだが……」

綺麗な髪なのに、とリグレットは言う。

その隣でアリエッタがもったいないです、と呟いたのが聞こえた。

「んー、と。このままだとルークと区別つかないし。丁度鬱陶しいと思ってたから良い機会かな? と思って」

そもそも今まで長くしていたのにも特に意味が無かったし。

「……ふぅ、解った」

何だかんだ言ってリグレットは優しい。

「わぁ」

アリエッタが可愛いです、と言った。

正直可愛いとか言われても困る。

そんなに目を輝かせないでくれ。

正直、どう反応していいのか判断しかねる。

「サンキュ、リグレット」

「これくらいはどうって事無い。それよりも直ぐに出発するぞ」

そして俺達はユリアシティへと向かうのだった。

「ふー。ノエル、ご苦労様。どうにかルーク達より先に着く事が出来たな」

あれから暫くアルビオールを飛ばした後、俺達はユリアシティへとたどり着いた。

既にテオドーロさんには挨拶を済ませた。

そこで少し一休みする事になったのだ。

そろそろルーク達が到着するだろう。

「さぁて、お出迎えと行きますか」


それがつい一時間ほど前の事。


「うわー、アッシュ髪の毛切ったんだー!」

「……可愛い」

「そちらの方が似合ってますよ」

何ですかこの状況。

いや、つい三十分位前まではルークと一緒に微シリアスっぽい感じで話をしてたんだけど。

何時の間にかこんな状況に。

どうなってんの、これ。

「だー! ウゼェ!! 纏わりつくな!!!」

思わず叫んでしまった。

うわ、俺こんな風に叫べたのか。

いやいやそうじゃ無くて。

「髪の事は置いておいて。あんたらに少し話があるんだ。……そっちの死霊使いサンは何か気になってる事もあるみたいだし」

とりあえず先ずは俺が崩壊させたアクゼリュスの事を話した。

何故アクゼリュスを滅ぼす必要があったのか。

避難した民の行方。

そして次に俺の事。

これから起こる事やヴァンの事は伏せておいた。

今言っても信じられないだろうし、これに関してはティア達にも話してない事だ。

もっとも、先に起こる事は掻い摘んで話してあるけど。

そうでなければ動けない時もあるからな。

「………とまぁ、俺からの話はこれだけ」

話し終わった後、反応を伺う。

正直どこまで信じて貰えるかが分かれ目だ。

「―――それで、貴方は今の話しを聞かせてどうしたいのです?」

真っ先に出たのがそのジェイドの言葉だった。

「ま、はっきり言うと俺等に協力して欲しい。……多分、ヴァンは生きてると思うから」

「ヴァン……ですか。正直信じがたい話ではありますね。貴方が敵ではないという証拠が無い」

「証拠、ね…。イオンとアニスに確認を取って貰えれば良い。彼女達と併せてティアにはある程度話してあったから」

そう言ってチラリとイオンの方を向く。

「えぇ、彼の言葉に嘘はありません」

「そーですよぅ大佐」

「…詳しくは聞いてなかったけど、事実です、大佐」

三人の言葉を聞いたジェイドは軽く頭を振った。

「……解りました。一応は信用して見ましょう」

「さて、まだ納得してないヤツが居るみたいだな」

そして次にルークを見る。

「ハッ! 貴様の事なぞ信用できるか!!」

まぁ行き成り、俺はアンタのレプリカ(複製)だ、何て言われて納得出来るかってのはあるよな。

他にも今後オールドラント全体が崩壊する危険があるとか。

はっきり言うと妄想と捉えられても仕方が無い。

さてさて、どうやってこのお坊ちゃまを説得しますかね。
next.....



































後書き

うはー、八月中に何とか完成しました。

大分差異が出てきましたが、今回の話はどうでしたか?

次回は外殻大地(であってたか甚だ不安ですが)への帰還、そしてベルケンドの話しです。

アルビオールにアレだけの人数(ルーク一行+アッシュ一行)は入れないというのと、タルタロスの事があるのでノエルの帰還にしか使用しないつもりです。

そこら辺の変更もあるかもですが。

恐らくベルケンドの後当たりからは色々とまた違ってくると思います。

さて、頑張りますかな……。


2006.8.22  神威


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