「レプリカよ。私と共に来い」

今現在、ルークは何故かヴァンに勧誘されていた。

元々自分で被験者の変わりにダアトに行くつもりだったので、予定通りといえば予定通りなのだが。

実はルーク自身にも解らなかったりする。

あのファーストコンタクトからどうやってこの状態に持ち込んだのだろうか。

時間は少々遡る―――。


TALES  OF  THE  ABYSS
あっしゅとぅーあっしゅ

第一譜  不殺のアッシュ


コーラル城・レプリカ施設。

中指を立てた上に繰り出された『ファッキン髭』の一言に多大なダメージを受けたヴァンだったが、次の瞬間には行き成り笑い声を上げていた。

ルークは一瞬、

(何だ? 髭がトチ狂ったか?)

などととても失礼な事を考えたが、人間に他人の思考が読める訳でもないので誰にも気付かれる事は無かった。

「面白い! ディスト、予定を変更するぞ!!」

笑い終わったかと思うと行き成りそんな事をのたまうヴァン。

まぁ確かに、生まれたばかりのレプリカがこんな事をすれば珍しいどころの問題ではない。

自分の手元に置こうとするのは当然の帰結と言えた。

しかし、だ。

実はヴァンはそんな事を考えていなかったりする。

何故か? 簡単だ。

考えても見よう。

十歳かそこらの少年が、大人のヴァンを見上げて言葉を発する。

そこに中指おったてての『ファッキン髭』の一言が付随されようが、可愛いものは可愛いのである。

特に、ティア―――メシュティアリカと云う妹を持つヴァンにしてみれば。

このとき、ヴァンの頭からねじの一本や二本は飛んだかもしれない。

ようは一瞬にしてヴァンは絆されてしまったのだ。それはもうあっさりと。

こうして、本人(ルーク)のあずかり知らぬ所でヴァンの計画は中止と相成ったのであった。

そして、冒頭の台詞へと至る。

「何で俺が髭のゆーことなんて聞かなきゃなんねーんだよ」

「お前のそういう所が気に入ったのだ。私と共に来い―――アッシュ」

「アッシュ?」

ヴァンが呼んだ名前に、ルークは首をかしげた。

あ、そこでこういった流れになるのね、と。

「そうだ。それが、お前の名前だ」

手を差し出すヴァン。

「ふーん。ま、退屈しなけりゃそれで良いや」

何てちょっと無責任な台詞を言いつつ、ルーク―――否、アッシュはその手を握った。


◆ ◆ ◆


「はふ……」

あくびをしつつ目を覚ましたアッシュは、自分がヴァンの手を取った時の事を思い出していた。

あれから既に三年が経とうとしている。

今現在、アッシュの位置づけはヴァン、ひいては他の六神将(空席があるので正確には違うが)の弟子と云う事になっている。

その年齢から、教団への入団は見送りにされているのが現状だった。

もっとも、その裏でちょーっとねじが吹っ飛んでいるヴァンの暗躍があった事は周知の事実だ。

其れを知らないのはアッシュだけだろう。

ふと、アッシュは自分の隣にあるこんもりとした山に眼を向ける。

「にゅ……アリエッタ、朝だぞ」

その山を揺すると、中から桃色の髪を持った少女が顔を出した。

導師護衛役のアリエッタだ。

「んぅ……兄様、おはようです」

「ん、おはよう」

アッシュがアリエッタと初めて出会った場所は、アッシュがダアトに来て直ぐに行った、ライガが住む森だった。

逆行して来た利点と色々とあげる内に、ふと自分達と相対していた六神将の事が気になりだしたのが切欠だった。

ぶっちゃけた話、アッシュは六神将と仲良くなりたかった。

特に―――そう、アリエッタとは。

常々思っていた事なのだが、アッシュは兄弟、特に弟や妹が欲しかった。

自分の被験者との関係は兄弟と言えなくもないのだが、その観点で見ればどう考えても自分が弟だ。

そんな訳で、アッシュは第二超振動を応用してパパッとライガの住む森へと跳んだ。

ちなみに、そこへ直接行く事が出来たのはローレライの(半ば余計とも言える)知識があったからだ。

その後の行動は迅速だった。

あの手この手を駆使してアリエッタをダアトに連れて帰ろうとする。

尚、ライガに関しても無駄に多い知識の中から色々と工夫した。

先ず第一に食料。

ライガは基本的に肉食で、特に幼い子供などは人肉を好む。

アリエッタを保護する以上、ライガ達にもキチンとした食べ物を渡す必要があるのだが、流石に人肉は許可できない。

そこで出てくるのがローレライの知識(ほんと便利だ)

その中には、比較的人肉に近い食感と味を持った、魔物の存在についての知識もあった。

流石に人間を襲う事を許容する事は出来ない上に、アリエッタを連れてく為にはライガの新しい住みかも必要となる。

そこでアッシュはライガを孤島に住ませ、食事はその魔物の肉を持ってく事としたのだ。

そうする事で比較的人里に近い場所に巣を持つライガでも住める場所を作り上げたのだ。

ちなみにこの時点でルークはライガ・クイーンに気に入られていたりする。

尚、ヴァンや他の六神将からは割とあっさりとアリエッタと一緒に住む事を許可された。

………のだが、アリエッタの事を気に入った導師イオンの存在があった為に、導師護衛役という名の遊び相手としてめでたく教団入りと相成った。

ちなみに、現時点での六神将(etc...)との関係はこうだ。

・ヴァン

ねじが吹っ飛んだ影響で、アッシュを目に入れても痛がらないほど可愛がるように

完全な親ばか(?)と化した。

もっとも、その愛はアッシュに届いてないのが現状。

半ばアッシュのおもちゃ状態。

現状を憂いてか枕を涙で濡らす日々が続く。

尚、(殆ど必要ないが)アッシュに剣術を指南する。

・リグレット

ヴァンへの恋慕がアッシュの可愛さにやられてそのままシフト。

アリエッタやアッシュには甘くなりがち。

位置的には姉といったところか。

最近の趣味は(アッシュやアリエッタにあげる)お菓子を作る事。

アッシュには譜銃の使い方等を教えている。

・ラルゴ

アッシュに自分の亡くした(と思っている)娘を重ねているのか、その姿は既に立派なパパだ。

教団内で偶にアッシュやアリエッタを肩に乗せて歩く姿が見られる。

その顔は傍目から見ても緩みきってるとか。

アッシュには、武器を手放した時に対応する為に簡単な格闘技を教えている。

・ディスト

アッシュの作り親(?)

最近は他の教団員にあてられたのか、アッシュの面倒を良く見る。

定期健診に来るよう忠告するなど既に親ばかの傾向が見え始める。

傍目に見ても十分絆されてるせいか、巷ではオカンと呼ばれる事も多々ある。

アッシュには譜業やレプリカ知識、譜業の使用法等を教えている。

・被験者イオン

アッシュとは腹黒仲間

どこから見てもシンクにしか見えない。

どうも被験者の導師はシンクよりの性格だったようだ。

アッシュが居た逆行前の世界では病死したらしいが、此方ではぴんぴんしている。

もっとも、本人は最近雲隠れを計画中らしい。

・アリエッタ

兄様っ子。

アリエッタの基準はすべからく兄様。

兄様(とイオン)が居れば後はどうでもいいらしいが、最近はリグレットやラルゴにも懐いてきてる模様。

もはや完全かつ重度なブラコンと化しているのだが、アッシュもまたアリエッタには甘いのでどっちもどっち。

ちなみに優先度と言うか懐き度は、アッシュ>イオン>六神将
>>その他の一般兵等>>>>髭(ヴァン) だったりする。

所により腹黒。

ちなみにヴァンが嫌いなのは大好きな兄様がヴァンを嫌ってるから、というある意味アリエッタらしい理由から。



………もはやヴァンの計画は発動前から頓挫していた。

レプリカ世界? なにそれ、おいしいの? な状態である。

現在のアッシュは、教団内のマスコットのようなものだ。

ダアトを歩くその姿は、団員の眼には微笑ましく映る。

例えそれがヴァンをそれとなく苛めている最中であったとしても、だ。

恐るべしオラクル。


閑話休題


「そう言えば今日は髭が呼んでたっけ……」

「髭……総長ですか?」

「やっと俺の教団入りが決まったみたいでさ」

やっと、というのはヴァンがやっと折れた、と云うことだ。

アッシュに対して過保護なヴァンはアッシュが教団に入る事を拒否していたのだが、アッシュの技によってあえなく陥落した、と云うのがつい先日の事だ。

「配属は入団試験の結果次第になるだろうけど、まぁ多分空席の六神将の席に入るだろうな」

即ち師団長である。

ちなみにこれは誇張でもなんでもない。

実際、現在のアッシュの腕があれば師団長であろうと軽く務まる。

昔(所謂逆行前)ですら被験者と同等以上の力を有していたのだから、鍛錬を積んだ以上今のほうが強い。

そうなれば必然的に被験者より強くなったと言える。

戦力的にみればこの時点で十分に通用すると言えるだろう。

それに加え、今の教団の実に八割以上がアッシュに好意的だ。

人を纏める立場である師団長の任に就くには部下の信頼も必要なので、その点に関しても問題ない。

以上の二点から、今のアッシュは十分に師団長の条件を満たしていると言える。

後は入団試験しだいだが、実技は上記から問題ないし、筆記に関してもローレライの知識があるので問題ない。

現時点で既に六神将入りが決定しているようなものだ。

「兄様も六神将になるですか?」

も、と言うアリエッタだが、実は彼女も六神将の一人だ。

アリエッタが六神将になった理由は簡単。

アリエッタが第三師団の師団長だから。現在は異例の師団長(六神将)と導師護衛役の兼任である。

ちなみに、アリエッタが第三師団の師団長になれた理由は、第三師団が元々魔物を使う部隊だったから。

アリエッタが来る以前は魔物を調教して使役する部隊だったのだが、アリエッタの使役術を見た前師団長がそのまま席を明け渡す形になった。

現在の第三師団は、魔物を使役する点に関しては変わっていないが使役する方法が変わったといえる。

以前は調教して従わせる形だったが、アリエッタの指導によって協力して貰う形に変わった。

そのお陰か、効率的には段違いに跳ね上がったと言える。

コミュニケーションに手間が掛かる分多岐に渡った作戦を練れるようになったからだ。

今では第三師団の中での魔物の位置はペットや友達だ。これもアリエッタの教育の賜物だろう。

「まぁ試験の結果次第だろうけど、十中八九そうなるだろうな。そしたらアリエッタと俺は同僚だ」

「兄様と一緒♪」

アッシュと同じと言う事でご満悦なアリエッタだった。

「それじゃ、行って来る。アリエッタも仕事頑張れよ?」

「はい、です!」

アリエッタの頭を一撫でして、アッシュは部屋を後にした。


◆ ◆ ◆


軽くノックをした後ドアを開ける。

何時もなら足で蹴破るぐらいの事はするのだが、流石に今回は自粛する。

「アッシュか」

「そ。今日は何の用ですか?」

「この間の件だ。オラクルに入団したいという話だったな?」

こちらをまっすぐ射抜くような視線。

その実緩みそうになる視線を懸命に抑えてるのはヴァン(本人)だけの秘密だ。

「えぇ。リグレット達からも許可はとれたし、そろそろ良いんじゃないかなー? と」

「私の方でも最近許可してしまったからな。本日付けでお前の特務師団入りが決定した」

一瞬ヴァンの言った意味が解らず首を傾げる。

「ちょっと待って下さい。入団試験はどうなったんですか?」

「必要あるまい」

こともなげに言うヴァン。

「既に導師の許可も頂いた。お前は本日付けで特務師団師団長となる。同時に、六神将の空席に入って貰う」

アリエッタには六神将になるだろう、と言ったアッシュだったが、実は入団して直ぐに師団長になれるとは思って居なかった。

実力は伴っているが、経験が無いからだ。

なのでアッシュとしては団員としてある程度経験を積んでから、昇格という意味で師団長になるものだと考えていた。

「それって早急すぎない?」

思わず口調が崩れる。

「まぁ異例中の異例だと思え。入団して即師団長になるなど前代未聞だ」

「なら……」

「既に特務師団の団員には通達してあるが、その全員がお前を師団長の地位に推薦して来てな」

つまり、下に居る者が全員認めたのだから、実力がある以上師団長を務めろ、と言う事である。

「そう言う事なら………拝命しました」


◆ ◆ ◆


アッシュがオラクルに入団して一月が経った。

アッシュは既に特務師団の中で確固とした地位を確立していた。

無論、入団以前から教団員に認められていたからこそ出来た芸当だ。

特務師団には主に魔物討伐やS級犯罪者の捕縛、要人警護等の任務がまわって来る。

それ故に特務師団の団員は、平であろうと他の師団員とは比べ物にならない鍛錬を積んでいる。

その結果特務師団は他の師団よりも一回りも二回りも強い人間が集まっている。

その中でも、アッシュは異例と言えた。

たとえどんな任務であろうと、人を殺さない(……)のである。

魔物に関しては止むを得ず殺す事もあるが、人に関しては、どんな相手であろうと殺さない。

当初アッシュの噂が出回った時は、それを聞いた人間全てがアッシュを腰抜けと罵った。

オラクルの中でも多少アッシュ解任の声が上がったくらいである。

しかし―――その一週間後にはアッシュを馬鹿にする人間は誰一人居なくなった。

それは導師やヴァンに一目置かれているアッシュの事を気に入らない一部の人間が企てた事だった。

アッシュが本当に師団長足りえる人物なのか試す、という名目の元、その当時S級犯罪者と指定されていた盗賊団を一人で壊滅させよという司令が下されたの だ。

無論それを聞いた特務師団員は反対したし、アリエッタは勿論他の六神将達も反対した。

しかしアッシュはそれに首をふり、単独でその盗賊団に乗り込んだのだ。

その日の朝出立したアッシュは、殆ど無傷でその日の夕方に戻って来た。

誰もが怖じ気付いて戻って来たと思った。

しかしアッシュからの報告を聞き、それを確認したところ、オラクルは騒然とした。

アッシュは、単独で乗り込み、そして無傷のまま任務を完了させたのだ。

相手の規模はさほど大きくないとは言え、個人の能力が高い為中々討滅出来なかった盗賊だった。

それを、無傷のまま、それもたった一人で壊滅させたと言うのだから驚きだ。

しかし、話はそこで終わらなかったのである。

―――盗賊団に死者は居なかった。

即ち、殺さずに無効化(…)してしまったという事だ。

その報告を聞いた時、アッシュに任務を言い渡した一派は言葉を失った。

殺さずに無効化する方が格段と難しい事を知っていたからだ。

無論これを聞いた各国の首脳陣は戦慄を感じた。

そしてその日以来、アッシュは畏怖と尊敬を込めてこう呼ばれる。

―――不殺(ころさず)のアッシュ、と。




































後書け!

ども、神威です。

なにやら需要がありそうだったので、先に書き上げて見ましたがどうでしたか?

本来なら今回の話はアリエッタやその他六神将とのほのぼの、というかアッシュの一日、見たいな感じで書こうとしたんですがね……。

気がついたらこんな話になっていましたorz

プロットも碌に書かない人間なので、自業自得ですが(ぁ

であ、また次回にお会いしましょう。

神威



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