アッシュが『不殺のアッシュ』と呼ばれるようになって既に一年が過ぎた。

その間にこなした数々の任務は、既に教団内では半ば伝説と化していた。

相変わらず敵味方から死者を出さないのだからそれも当然と言えよう。

任務の合間に瘴気やアクゼリュス崩壊に関しての対策を練るのも忘れない。

ついつい忘れがちになるが、アッシュはよりよい未来を作る為に時を遡ったのだ。

尚、この時点でアッシュは既に此処に居るローレライが自分が開放したのと同一存在であると気付いている。

その為、瘴気やパッセージリングに関しては色々と相談しているのだ。

丁度その時もローレライとの便利通信(仮称)を通じて相談をしていた所だった。

その日、アッシュはリグレットの計らいにより一人の少女と再開(……)する事になる―――。


TALES  OF  THE  ABYSS
あっしゅとぅーあっしゅ

第二譜  ローレライからの贈り物


「あわせたい人?」

アッシュが自室で書類整理をしている所に、リグレットが顔を見せた。

アッシュが仕事中にはあまり顔を見せない彼女にしては珍しく部屋に訪れたと思った矢先の事だった。

「そうだ。総長に頼まれて私が教育している子でな」

総長、つまり髭(ヴァン)だ。

アッシュはそこで漸く会わせたいのが誰かを知る事が出来た。

「もしかして」

脳裏に浮かぶのはヴァンの妹であるティアの姿である。

自分の事は知らないだろうけど、ティアに会えるかも、と思うとアッシュは少し嬉しくなった。

果たせなかった約束を思い出すと、今でも胸が痛くなる。

正直な話、向こうの世界―ようは今となっては過去の世界の事だが―で受けた仕打ちを考えれば、ティア達を思う必要は無い。

そもそもアッシュに対する態度とそれ以外への態度に温度差がありすぎで、おかしい事この上ない。

今のアッシュにはそれが理解出来る。

それでも、あの最後の時に皆に言われた言葉に嘘は無かったと思うから。

勿論嘘が無ければいいのかといわれれば、首を横に振らざるを得ないんだけど。

それでもアッシュは仲間を嫌いにならずに、最後の一歩で留まった。

それはひとえに不器用な少女の事を知っていたからである。

まぁ、色々とぐれてからも女の子には優しいアッシュの事だ。

結局は最後に許してしまったのだ。

「ティア」

ぬぼーっと考え事をしていたアッシュは気を取り直して前に焦点を合わせた。

(ティアだ。ティアが居る)

何聞いてたんだこいつ、と思うかもしれないが、アッシュの思考はその一転に集中されていた。

ちょっと感動してたりもする。

そんな間に、何時の間にかリグレットの姿が消えていた。

アッシュが人知れず感動していた間にティアが二人にしてくれ、と申し出たのだ。

「………」

じっとアッシュを見つめるティア。

「あ〜、はじめまして?」

とりあえず此処では初対面のはずなので挨拶から。

「………」

しかしティアからの返事は無い。

アッシュはこりゃ何かミスったか? と思ったが、生憎と何かした覚えが無い。

これはマズイと思い始めたとき、ティアの瞳に涙が浮かんだ。

アッシュがゲッと思うのも仕方ないだろう。

「るーく」

(……?)

るーく、ルーク?

「へ?」

ルーク、確かに彼女はそう言った。

しかし今の自分はアッシュである。

「えっとー、何の事だ?」

こてん、と首を傾げてみる。

今の時点で自分の被験者の事は知らないだろう、という判断からだった。

ようは様子見である。

「ルーク!」

今度ははっきりとそう呼ばれた。

アッシュは何時の間にかティアに抱き付かれて居た。

すすり泣く声と共に、小さく『ごめんなさい』と何度も呟いている。

「ちょ、ちょっと! 俺、もしかして何かしたか!?」

それに慌てたのはアッシュだ。

自分に何かした記憶が無い以上、気付かないうちに粗相していたのかも知れない。

加えて言えば、今のアッシュに謝られる理由が無い。

仕方なく、アッシュはティアの頭を撫でた。他にやれる事が見当たらなかったからだ。

「……ルーク」

相変わらずぎゅっと抱きついてるティア。

「ルークが約束護れそうになかったから、私がきちゃった」

ティアははにかんだ笑顔を向けながら、アッシュにとって衝撃的な一言を放った。

それはつまり―――

「俺のこと、解るの?」

―――ティアもまた、時を遡ったという事だ。

「私の知ってる貴方はお坊ちゃまで世間知らず。……そして、不器用だけれどもとっても優しい人」

戻って来たアッシュには解った。ティアが、自分の『知ってる』ティアだと言う事が。

アッシュは戻って来てから、一度も世間知らずだった頃の面を出していない。

それを知っていると言う事はつまり、以前の自分を知っていると言う事だ。

「ティア!」

それがわかったアッシュはティアのことをぎゅうっと抱きしめた。

ぼひゅっと赤面するティア。

しかしながらアッシュはティアの顔を見ていない為に気付かない。

「でも、どうして?」

ひとしきり抱きついた後、アッシュが聞いた。

「ローレライが色々と良くしてくれたの」

ティアの語った、アッシュが消えてからの事を纏めると以下のようになる。

・ ルーク(現アッシュ)がエルドラントでローレライを解放した二年後に『ルーク』帰還。

・ 『ルーク』はルークの記憶を持っているものの、本人の認識は被験者だった。

・ ルークの帰還は絶望的との宣告を受ける。

・ その後三年間、ティア・アニス・ナタリアなどルークに一時期辛く当たった女性陣と、ルークと親しかったガイの四人は特に悲観にくれる。

・ 夢でローレライらしき存在から啓示を受け、導かれるままタタル渓谷へ―→女性陣集う。

・ ローレライによりルークのその後と、ルークの記憶を知る―→ローレライの計らいで過去へ。

ティアの話を聞く限り、精神のみの逆行らしい。

アッシュは、コンタミネーションを応用した逆行以外ならレプリカ以外でも出来るのかよ、と人知れずローレライに突っ込みを入れた。

ローレライとの会話を思い出してみよう。


『さしあたって、作り出される予定のレプリカとお前をコンタミネーションの応用で一つにする』

「そんな事が出来るのか?」

『我なら可能だ。もっとも、それをする相手が第七音素の塊だからこそ出来る芸当でもあるのだが』


確かにコンタミネーションの応用での逆行は、レプリカでしか出来ないといっている。

が、逆行自体が出来ない、とは一言も言っていないのである。

全く持って屁理屈だ。

ローレライに今度会ったら一度しめてやる、といきまくアッシュだった。

「それじゃあティアの他に、アニスやナタリアも戻って来てるのか?」

「えぇ、そうよ」

自分の事を知っている人が居る。

それを知ったアッシュは嬉しくなった。

が、しかし。

はて、と首をかしげる。

「何でティア達だけなんだ?」

「……」

アッシュが首をかしげる様を見て、つい、と目線を逸らすティア。

勿論、男性陣が逆行していないのには理由があった。

ひとえにアッシュを護る為である。

タタル渓谷に呼び出された女性陣は、まずルークがどうなったかを知った。

そこでルークの生存と過去への逆行を知る。

無論、それを教えるだけなら男性陣も呼ぶ。

しかしローレライの話には続きがあった。

ローレライはこう言ったのだ。

ルークを追いかけたくないか? と―――。

無論それだけで即答出来るのはティア位なものだ。

そこでローレライは裏技、否、切り札を出した。

ローレライはルークがレプリカかつ自分の完全同位体である事を利用して、記憶の複製を行なっていたのだ。

それを見る事によりルークの体験した事を追体験する事が出来る。

勿論、その時その時ルークが感じていた事も伝わる。

記憶の複写し、それを他人に見せるなど卑怯かつ最低とも言える行為だと自覚はしていたが、ローレライはどうにも我慢ならなかったのだ。

そして、ティア達はルークの全てを知る事になる。

ルークの思い。覚悟。

その全てを知ったティアの眼からは、ほろりと涙が零れた。殆ど無意識に流れた涙だった。

そしてそれは、その時泣く事が出来なかったルークの変わりに流れた涙だった。

ティアは決意を新たにした。

今度会ったら思いっきり抱きしめて上げよう。そして、ありがとうと。

ルークの記憶を追体験した、と言う事は、アクゼリュス崩壊の時に感じたルークの『心』痛み等も感じたと言う事だ。

更に突っ込んで言うならば、偶に絡みつくねっとりとしたガイの視線だ とか、必要以上に感じるジェイドの怪しい視線だとかもばっちり感じた と言う事だ。

その時のルーク自身に自覚は無かったのは追体験ではっきり解ったが、ティア達には確りと伝わっていた。

アレは変態の視線だ、と。

そこで漸く、ローレライが自分達を過去に戻そうとした理由が理解出来た。

そうか、あの魔の手からルークを護る為か、と。

ローレライ曰く

『女はまだしも男は駄目。非生産的だ』

との事だ。

ルークの記憶を追体験し、ルークが事のほか自分達を本当に大切に思ってくれてた事を知った女性陣は、ルークにめろきゅん状態になっていた。

あんな可愛い生き物は他に知らない! むしろ惚れた、と断言しても構わないだろう。

そうして女性陣はあの悪魔二人の魔の手からルーク(以下アッシュ)を護る為に時を遡ったのだ。

無論そんな事を知る由もないアッシュは、純粋に男性陣が戻って来てない事に疑問に思ったのだが……。

「ごめんなさい。私には答えられないわ」

全てを知ってるティアからすれば、こう答えるしか無いのである。

「ま、いいや。ティアとまた会えて俺、嬉しいよ」

ほにゃんとした笑顔を向けられ、ティアは自分の胸がきゅんとなるのを感じた。

(可愛い!)

「あ、今度から俺の事は『アッシュ』って呼んでくれよ」

アッシュの笑顔を見て暫く悦に入っていたティアだったが、アッシュの言葉を聞いて慌てて頷いた。

再開を分かち合ってた二人だが、何やら部屋の外が騒がしくなるのを感じ、首をかしげた。

「兄様っ!」

ドアを開けた先から涙目でアリエッタが飛び込んでくる。否、むしろ飛びついて来た。

アリエッタに飛びつかれたアッシュは、尋常じゃないその様子に再び首をかしげた。

「ぇ!?」

隣でティアが何やら驚いているが、今のアッシュにとって優先されるのはアリエッタだ。

「アリエッタ、何かあったか?」

「イオン様が……っ!」

「ッ!」

イオンの名前を聞いたアッシュは息を呑む。

(もしかして、今日が被験者イオンの命日!?)

その可能性に思い至り唖然とするアッシュ。

「イオン様が二人に分裂したですっ!」

「………へ?」































後書け!

妙な所でぶった切って次回、です。

驚愕の新事実が発覚した今回ですが、いかがでしたか?

ちなみに、この作品はこんなノリが続きます。

変態とか変態とか変態とか。



……では、短いですがまた次回にお会いしましょう。

神威




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