「イオンが分裂した?」

何のこっちゃ、と首を傾げるアッシュはあくまで平静だ。

自分が考えてたような事態じゃなかった分、衝撃が少ないのだろうか?

会話についてけないのはティアだ。

逆行して来てからのアッシュの行動を知らないのだから無理はない。

アッシュがアリエッタに兄と呼ばれる理由も見等がつかないし、何故こんなにも懐いているのかも解らない。

ある意味蚊帳の外に居るティアだった。

ただその勘でアリエッタがライバル……もとい同士だろうと言う事は直感したティアだった。

「兎も角、もうちょっと詳しく話してくれるか?」

吃驚したからなのかぐしぐしと泣いているアリエッタをあやしつつ、アッシュは聞いた。

しかしアリエッタはぐずるだけだ。

アッシュは溜息をつくと、しょうがないと言わんばかりにアリエッタの頭をぽむぽむすると、ティアに一声かけて全員でイオンの私室へ向かうのだった。


TALES  OF  THE  ABYSS
あっしゅとぅーあっしゅ

第三譜  イオン、雲隠れする。または驚愕の事実 発覚


「……うわぁ」

ずかずかとイオンの私室へ踏み込んだアッシュは、思わず唖然とした。

確かにアリエッタが言うようにイオンが二人居る。

全く同じ姿だからどちらが最初からいたイオンなのか区別がつかない。

「やぁアッシュ」

相変わらず腹黒い笑みを見せるイオンに、アッシュは悟った。

「……今度は何をしたんだ?」

イオンがまたしても何かをしたと云う事を。

アリエッタは解らなかったようだが、アッシュはぴんと来た。

否、『懐かしい』と感じた、と云うべきか。

「なぁ、聞いて良いか?」

「ボクとアッシュの仲じゃない。遠慮なんて要らないよ」

どーぞ、とイオンに言われ、アッシュは口を開いた。

「何でレプリカなんだ? と言うか何時の間にレプリカなんて作ったんだ?」

そう、此処に居る『イオン』のうち、その一人はレプリカだったのだ。

同じレプリカ同士感じるものがあるのか、アッシュは『懐かしい』と云う感覚で其れを知る事が出来たのだ。

其れを聞いて、イオンは良くぞ聞いてくれました、と言わんばかりに笑った。

もっとも、それがニヤリ笑いだったのでアッシュは若干頬が引きつるのを感じた。

「ボクね、ずっと思ってたんだ」

「……何を?」

聞きたくない、と云うよりも聞かない方がいいと思いつつも尋ねるアッシュ。

「導師の仕事って地味なものが多い割りに数が多すぎて大変だ、って」

「……それで?」

「夜遅くまで書類を見なきゃいけないし。そのお陰で肌は荒れるし……」

「肌が荒れるって……女じゃあるまいし」

アッシュがあきれてそう言った。

其れを聞いたイオンはきょとんとしている。

「何。君、二年近くボクの傍に居るのに気が付いてなかった訳?」

「ほへ?」

何に気が付かないのか皆目検討のつかないアッシュは間抜けな声を出す。

後ろに居たティアがアッシュのその姿に悦に浸ってるのには当然ながら気が付いてない。

「ボク、女だよ?

「………ほわぁ!?」

あらびっくり。

実はイオンは女でした。

アッシュは以前もそうだったのだから、今回もイオンは男だと思っていたのである。

イオンと始めてあった時にも特に何も言ってなかったので、先入観からそうだと勘違いしていたのだ。

「……キミさ、変な所で抜けてるよね。普通気付くと思うんだけど」

確かにおかしいと感じた事はあるのだ。

例えば昔こんなやり取りがあった。

『イオンイオンー、一緒に風呂入ろうぜー』

導師だからといってイオンを特別視しないアッシュは、イオンの部屋に入るなりそう言った。

勿論、この時点ではアッシュはイオンの事を男として認識している。

ちなみに、本来ならこのような事をイオンに言うのは禁じられてる。

性別の事は当然として、そうでなくとも一緒に入浴するなどもっての他だ。

『……ッ!?』

ぼひゅ、と赤くなるイオン。

普段の姿からは想像出来ないその様子にアッシュは首を傾げる。

『イオンー? 何で赤くなってんだ?』

『何でもないっ!』

この会話を聞いても解る通り、アッシュはイオンの事を異性とは認識していなかったのだ。

下に恐ろしきは先入観かな。


閑話休題


「ま、良いや。アッシュだし」

それで納得してしまうイオンもイオンである。

「兎も角、ボクは地味な導師の仕事に飽きたのさ」

「いや、飽きたって……」

あっさりとそう言ったイオンに頭を抱えるアッシュ。

ちなみに、この時点でアリエッタもティアも話しについてけずに傍観者となっている。

「だからレプリカか」

「そう。ボクの代わりに導師の仕事をして貰おうと思って」

「レプリカ技術は禁術だろ? たかが、って言うつもりはないけど、それだけのためにレプリカを生み出したんならたとえイオン相手でも怒るぞ」

半眼で睨むアッシュにイオンは笑みで持って答えた。

「勿論、ただボクの身代わりにするだけじゃないさ。キチンとこの子はこの子で扱うよ。当然だろう?」

「俺はレプリカを生み出した理由を聞いてるんだ」

「実際さ、体が持たないんだよね」

イオンはアッシュ達に座るように促すと、自分は部屋に鍵をかけた。

「ほら、アッシュが前にちらっと話してたろう? ボクはアッシュの居た世界では死んでた、って」

そう、実はアッシュはアリエッタとイオンにだけは自分の事を話しているのである。

アッシュは自分を慕ってくれるアリエッタや自分を一人の人間として扱ってくれるイオンに対し、秘密を持っている事を後ろめたく感じてたのだ。

イオンと出会ってから一年とちょっとの月日が流れた時、アッシュは意を決して二人に話したのだ。

自分が未来から来た逆行者である事や自分の居た世界についてを。

「それで少し思う所があってね。それとなく探りを入れたらモースが何か企んでいるみたいだし」

「それで?」

「で、体が持たない発言に繋がるわけ。幾らなんでも仕事の量が多すぎる、って事で探りを入れてみたら案の定」

イオンは底冷えするような笑みを浮かべた。

「あのハゲちゃびん、事もあろうかボクを過労死させようとしてた」

「は?」

よりにもよって過労死。

「ほら、あの禿げってスコア信奉者じゃん? それで邪魔者のボクを排除しようとしたらしいんだけど、アッシュの存在があったからね」

確かにアッシュはアリエッタやイオンと共に行動する事が多かった。

三人で一セットと言っても過言ではない。

「それで直接的な攻撃はまず却下でしょ? で、毒だってボクは自分で料理するから使えない」

珍しい事に、イオンは最高責任者だが料理は自分で作るか外食ですませる事が多いのだ。

毒殺を避ける為でもある。

流石に外の店にまで毒を入れに行くバカはいるまい。

それにしても基本的に自分で作るので料理に毒を入れる暇などある訳もない。

「で、焦ったモースは地味だけど確実そうな手を使ったって訳」

「……それで過労死? 笑えねー」

「ホント、バカだよね? それとなく仕事を増やしたりしてさ。その努力を他の事に使えって言ってやりたいよ」

えっちらほっちらと走り回るモースを想像してかアッシュがぶっ、と吹き出した。

「でも本気で危うく死ぬ所だったよ。こないだ医者に見て貰ったら働きすぎ、って注意されちゃったし」

「それじゃあ文句言えねーじゃん」

「文句は言ってくれて構わないよ。でも納得、ううん譲歩はして欲しい」

真剣な瞳でアッシュを見るイオン。

イオンのこれほど真剣な目を見たのははじめてだった。

「……で、ほんとにレプリカを作ったのはイオン?」

ニヤニヤとアッシュ。

話を聞いているうちに解ったのだ。

イオンはレプリカを作ったのではなく救ったのだ、と。

「………モースさ。ご察しの通り、ね」

ふい、と顔を背けてイオン。

心なしか頬に赤みが増している。

自分でも似合わない、と思ってるのかも知れない。

「で、どうするんだ?」

「とりあえず基本的な事は刷り込んであるみたいだし、ボクから伝えるべき事は伝えた。後は―――」

「―――イオンとこの子の二人でモースを弄くり倒す、か?」

アッシュが続けると、二人でニヤリと笑う。

「そ。ボクはあいつの思惑通り死んだ『こと』にして、この子をまず表舞台に上げる」

「で、イオンは?」

「ボクは仮面でもつけて何食わぬ顔でオラクルに入るよ。そうだね、最後の六神将、何てのはどう?」

「導師のレプリカ、とでも言ってか?」

「ご名答。そうすれば簡単に六神将の空席に入れるさ」

「後は二人でモースを弄くり倒す、って訳か」

ニヤリ。

「その話、俺ものった!」

こうして人知れず一つの同盟が結成されたのだった。

話についていけてなかったアリエッタとティアに詳細を話した後、その日の会合はお開きとなったのだった。

この三日後にモースの思惑通りイオンが過労死する事になる。

あんまりと言えばあんまりな最後なのでその葬儀はイオンの側近(導師護衛役)だったアリエッタの言葉により、アッシュとアリエッタのみで行なわれた。

無論それ以外でイオンの死体を確認したものはなく、書類もアッシュによって作成されたものだった事を明記しておく。

そして同日、六神将最後の空席が埋まる事となった。

シンクと名乗るその少女は仮面をつけていた事を記しておこう。

更に加え、その日よりモースの心労が絶えない日々が続く事となる。

その影にシンクとイオン、アッシュの影があったことは言うまでもない。



尚、アリエッタが『イオンが分裂した』と言ったのは、丁度イオンがレプリカにあれこれ教えている時に部屋に入ってからだった事を付け加えておく。



































後書け!

と、言う訳で解る人には解ったでしょうが二人のイオンのうち、その片割れはレプリカでした。

レプリカちゃんは一言も喋ってませんが、この子の口調は原作(ゲーム版)イオンと殆ど同じものです。

尚、今作でもイオンがにょたい化してるのは仕様です(ぉ

アリエッタやティアが全く喋りませんでしたが、それもご勘弁。

ひとえに私の力不足ですorz

次回からは本編に入ります。

が、ノリは明るく軽くなので、今までの感じが続きます(ぁ

では、また次回にお会いしましょう。

神威



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