アッシュが逆行を果たしてから七年の月日が流れた。

前・第三譜終了時点から更に三年が流れた事になる。

その間にまぁ色々とあったのだが、詳しくは割愛させて頂く。……そこ、手抜きとは言わぬように。

それはさておき。

キムラスカ・ランバルディア王国、首都バチカル。

此処に一人の青年が居る。

その名を『ルーク・フォン・ファブレ』といった―――。


TALES  OF  THE  ABYSS
あっしゅとぅーあっしゅ

第四譜  開幕の時、来る


窓から綺麗な青空が見える中、ルークはその空を見上げながら憂い下に溜息をついた。

このルーク、十年前に起こった何者か(マルクト)に連れ去られると云う事件のせいで半ば屋敷に軟禁状態になっていた。

とはいえ、屋敷の人間に一言声をかければ、護衛付きならば町を歩く事も出来るという何とも微妙な事になっていた。

ルーク本人としては完全に軟禁するか一人での外出の許可を出すかどちらかにしろ、という両極端な選択肢にこだわっていたりする。

閑話休題(それはさておき)

ルークはぼーっと空を見上げ、もう一度溜息をついた。

最近のルークはこうする事が多くなっている事を、屋敷の人間で知らない者は居ない。

屋敷のメイドの中には、そんなルークの憂い下な様子をほぅと溜息をつきながら見る者も少なくは無い。

さて、そのルークは一体何を考えているのかと云うと―――

(はぁ、これで漸く屑に会う事が出来る)

―――つまりはこう云う事である。

何を隠そう、このルーク。

実は未来からの逆行者である。

なんと!

ルーク・ガイ・ジェイド・ほか他数は執念によって完成させた第七音素と『ルーク』の第二超振動を応用した精神逆行装置によって、この時代に遡ってきていた のだ!(ずがーん)

実はこのルークはルーク曰く屑、つまりアッシュがこの時代に遡っている事を突き止めていた。

理由は至って簡単だ。

ティア達が逆行してから二日経った後、真っ先にルークが異変に気がついた。

―――ナタリアの姿が見えないのである。

王政で忙しいとは言え二日も連続で顔を出さなかったのは初めてだった。

査察に向かってるとしても、自分に一言声をかけてく筈だ。

そう考えたルークは謁見の許可を得て王に直接聞く事にした。

するとおかしな事にナタリアの父である王も、ナタリアの所在を知らなかった。

これはおかしいと感じたルークは早速ナタリアを探す為に行動を開始した。

この時点で既に屑ことアッシュに熱を上げていたルークとは言え、そこはそれ。

ナタリアも大切な人に変わりは無い。

もっとも、この時点で既にナタリアからの信頼が失われている事に気がついていないルークだった。

尚完全に蛇足だが、ナタリアは『ルーク』帰還後は戻って来たルーク
に対し純粋に喜んでいた。

もう一人の幼馴染が帰って来なかったにせよ、だ。

それだけルークを好いていたともいえる。

がしかし、だ。

幾らなんでもあれだけ毎日しつこい位にアッシュの事を話題に出せば、千年の恋も一気に冷めるというものだ。

ようはルークは傍から見れば(しつこいくらいの)アッシュマニアだったのだ。

それなんてツンデレ?

ナタリアでなくとも呆れる。

閑話休題

真っ先に移動手段を求めたルークはシェリダンに向かった。

ギンジ、もしくはノエルが操るアルビオールを求めたのだ。

一日をかけてシェリダンに到着したルークはそこでまたしても不可解な情報を得る。

ルークを迎えたのは慌てた様子のギンジだった。

曰く妹であるノエルの姿が消失した、と。

それもどうやら三日前、つまりナタリアが消えた日と同日に姿を消した事になる。

尚、これまた余談だが女性陣でティア・ナタリア・アニスの他にノエルも逆行を果たしている。

女性陣の逆行説明時には全く登場していなかったが、陰ながら居た。

………作者が見事に忘れていたとも言う。ごめんよノエル。

ともあれ、その話を聞いたルークはますます疑問を感じる。

しかしノエルとナタリアだ。

二人はあの冒険の時を一緒に過ごしたとは言え、それだけだ。他に共通点が見当たらない。

ルークは首を捻りつつもアルビオールの借り出し許可を貰いダアトに向かう事にした。虫の知らせを感じたのかも知れない。

ダアトについた一行は、更に驚愕の事実を知る事となる。

彼らを迎えたのは普段は魔界(クリフォト)から姿を現さないテオドーロと、トリトハイムだった。

彼らの話を聞くに、やはり三日前からティアとアニスの姿が見えないという。

姿が見えなくなったティアを心配したテオドールが教団に居るかと思い確認を取る為にダアトに来日。

トリトハイムに連絡を取った所、此処暫くはティアの姿を見て居ないという。

心配になった二人はアニスを呼び出し、ティアがどこに居るか知っていたら教えて貰おうと思い、アニスを呼び出そうとしたという。

しかしその時には既にアニスの姿は無かったと言う。

両親に今生の別れのような挨拶をしていった事から、もしかしたらもう戻って来るつもりが無いのかも知れない、と話した。

何だそれは。ルークは呆然とした。

当然だ。『自分』の記憶が確かならばアニスは両親を捨てるような事はしないと思っていたのだから。

ソレが盲点だったともいえる。

そして漸くルークは気がつく事が出来た。その全員が一本線で繋がったのだ。

そう、つまりは―――アッシュである。

先にナタリアとノエルの共通項があの旅だけだった、と云うことは既にあげてある。

つまりはそれが正解だったのだ。

姿を消したナタリア・ノエル・ティア、そしてアニス。

この全員の共通項は『苦楽を共にした旅』。

ティアに至ってはアッシュに向かって恋慕の感情を向けて居たではないか!

そうしてアッシュという一つの線で全てが結ばれた時、新たな事実が判明した。

三日前、という日にちにも意味があったのだ。

即ち―――アッシュの命日。

その日は丁度三年目の命日ではなかったか!

ルークの脳裏を電撃が貫いた、ような気がした。

つまりルークの脳内で一つの仮説が立ったのである。

女性陣行方不明=逆行、という一つの仮説が。

凡そ普通考え付かない事だが、正直な話この時のルークはテンパっていた。

とはいえ、例え逆行という荒業に出ていなかったとしても此処で自分が逆行すれば………むふふ。

ルークの脳裏にバラ色の未来が広がった。これは使える。

得てして逆行と言う答えは正解だった訳だが、バラ色の未来を描くルークは知ったこっちゃ無かった。

そのまま直行で(癪だったが)ジェイドに相談を持ちかけ装置の開発に(執念の結果)二年をかけ、遂に逆行を果たしたのだった。

閑話休題(話しは現代に戻り)

そんなこんなでバラ色の未来、もといアッシュとの逢引、いやいやアッシュとの出会いが近づいている事が憂い下な溜息として表に表れていたのだ。

(待ってろよ屑。俺がお前を幸せにしてやるからな!)

とことん幸せな脳みそである。

ちなみに、こんな事を四六時中考えてるルークに対し過保護すぎるローレライはぷりぷり怒っていたりする。我のアッシュに手を出すな!

本人はアッシュとしか会話する気が無い為ルークに対してはノータッチだが。こいつも大したアッシュマニアだ。

アッシュマニアと言えば忘れてはいけないこの人―――

「ルゥゥゥゥゥク!」

―――スケベ大魔王・害ことガイ・セシルである。

窓を蹴破っての登場だ。何とも過激な。

ルークは何時の間に窓とは反対側に移動している。

「……ガイ、何時も言うが、危ない

危ないどころの問題ではない。

当たったら怪我ではすまないだろう。

しかしここではソレはもはや日常茶飯事だ。何て危ない屋敷なんだ。

ガイのほうもやはり気にした様子は無く、変わりに何やら興奮している。

やはり逆行者である彼もアッシュとの未来でいっぱいいっぱいなのだろう。

出会いの時が近づいている事を感じ、興奮が隠せないらしい。

もはや害と成り果てたガイを適当にあしらいつつ、ルークはアッシュとの(バラ色の)未来に思いを馳せるのだった。

無論思いを馳せたのはルーク一人では無かったが。

尚、現時点でルークは知る由も無かったが、女性陣はその全てがアッシュと再会している事を明記しておく。

ルーク、ご愁傷様。ちーん。





同日・某城にて。

そこには恋する乙女なお姫様が居た。

名をナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア。前述した通りこの国の姫である。

頬を赤く染め上げ、吐息をつくその姿を男が見れば一瞬で恋に落ちるであろう。

「……はぁ」

他の逆行者達と同じように溜息をつく。

彼女はその立場上そうそう国をあける訳にも行かない。

二年と半年前に(むりやり剥ぎ取った)査察でダアトに行って以来アッシュとは会っていない。……お姫様は相変わらず行動派だった。

自分の立場がこれほど恨めしいと思った事は無い。

「……アッシュ」

思うのはやはりアッシュの事だった。

逆行前はルークにお熱だった彼女だが、ある事実を突きつけられてて以来、その熱はすっかりと冷めていた。

その分がローレライの‘思惑通り’アッシュへと移る形になったのだ。なんてこと考えてるんだローレライ!

そんな彼女は親(ローレライ)公認・本人(アッシュ)未公認の愛人一号さ んだ。(どーん!)

次に会えるのは何時になるのか、と遠いアッシュに思いを馳せるナタリアだった。





同日・マルクト、首都グランコクマにて。

「……ふっふっふっふっふ」

一人の眼鏡が興奮を隠せないように笑った。

普段の男の様子からは想像がつかない状態だった。正直言って不気味である。

その正体は鬼畜大王の名を欲しいままにする逆行者のジェイド・カーティスである。

ふと、ダアトがある方を向くとニヤリと悪役ばりの笑顔を浮かべるのだった。

「………ところで私の出番はこれだけですか?」

えぇこれだけです。





更に同日・シェリダンにて。

一人の少女が鼻歌を歌っている。とても上機嫌だ。

少女の名はノエルと言った。やはり逆行者の一人である。

ティアの計らいにより二年と三ヶ月前にアッシュと再会して以来、ノエルの機嫌はうなぎ上りだった。

その後色々とあったのだが、今や晴れて親(ローレライ)公認・本人(アッシュ)非公認の愛人二号さんだ(どどーん!)

着々とローレライのアッシュハーレム化計画は進行中である。やったねローレライさん!

ユリア? ふっ、所詮彼女は過去の人間だよ。今の我の一番はアッシュなのだ!!

アッシュが良ければそれで良いとも言う。なんて意識集合体だ。

そんな彼女は数日後にアッシュと会う事になっていた。

アッシュと会うのは久しぶりだった。此処数ヶ月は写真だけで我慢したものだ。

……彼女も立派なアッシュマニアだった。下に恐ろしきかなアッシュの魅力。

「アッシュさん……」

ほぅ、と溜息をつくその姿に心奪われる男は数知れない。

「お前らなんぞにわしの孫娘をやるものか!」

そんな男共はイエモンの台詞と共に蹴っ飛ばされる運命にある。ノエルの婿はアッシュだけじゃ!

何気にアッシュと面識のあるイエモンであった。





やはり同日・クリフォト、ユリアシティにて。

一人の少女がダアトに居るアッシュに思いを馳せる。

少女の名はティア・グランツ。

自他共に認め、更には親(ローレライ)公認・本人(アッシュ)未公認のアッシュの正妻である(どどどーん!)

彼女は頻繁にダアトを訪れていたが、先日教団より正式な辞令が下った為に荷造りをかねて実家に戻っていた。

辞令、否、勅令と言うべきか。

導師イオンより直接承った事は特務師団にてアッシュの補佐をしろ、つまり特務師団の副師団長になれ、というものだった。

此処まで来るのに散々時間がかかったのはひとえにモースの妨害があったからである。

モースとしては面白くないのである。この状態は。

ちなみに本件とは直接関係無いが、現導師のレプリカ・イオンは結構良い性格に育った。

表面上は穏やか過ぎるのだが、とてつもなく腹黒だ。誰もその真実を知らない。

閑話休題(それはさておき)

散々モースをいびり倒しておきながら、腹いせと言わんばかりにイオンが持っている権限を最大限利用して命を下したのだ。いと哀れなり。

「これでずっと一緒よ! アッシュ」

ティアがそう思ったかどうかは定かではない。





以下同文・ダアトにて。

五人の女性が顔を突き合わせて、何事か相談している。

それぞれの名を順にアニス・タトリン、リグレット、アリエッタ、シンク、そしてイオンと言った。

ここに居るアニスは逆行者であったが、それ以外の者は皆この時代の人間だった。

そしてその全てがアッシュの事を『知っている』人間でもある。

そう、リグレットも既にアッシュが逆行者であることを知っていたのだ!

尚、その過程でシンク=被験者イオン、現イオン=レプリカと言う事も知っている。

ちなみにシンク・アリエッタ・イオンに関しては第三譜参照。

尚、現時点で歴史に目立った変更点は無い。

アリエッタも護衛役を解任されている。

逆行前の歴史とは違い、理由は六神将との兼任が仕事上難しいから、という何とも現実的な物だったが。

さて、そんな彼女達が何を相談しているのかと云うと―――

「ねぇ、やっぱり最近気になるんだけどさ」

「やはりお前も気になるか」

「はいはーい! アニスちゃんも気になってまーっす!!」

「私、も……気になってるです」

「あの、ボクもそう思います」

「アッシュを見る女教団員の目が熱い」×5

―――つまりはそういうことである。

最近アッシュの人気がうなぎ上りになっているのだ。

それも、女性に限定して。

まだそれはダアト内で治まってるからいいものの、このままでは他の町でも同じような事が起きるだろう。

それはひとえに、アッシュが見せるちょっとした優しさだとかが表に出て来ているからである。

『不殺のアッシュ』と呼ばれるその戦いぶりとは似てもつかないその様子にギャップを感じ、それがまた人気の理由でもあった。

そういったミーハーとも言える女達をどうするか、という相談をしていたのだ。

そんな相談をする彼女達はやはり親(ローレライ)公認・本人(アッシュ)未公認の愛 人三号・四号・五号・六号・七号さんである。(どどどどーん!)

ローレライの計画は此処まで侵食しているのであった。

ちなみに、女は良いとは言ったローレライだが、その女の気持ちが上辺だけではなく中身を伴ってなければ除外とされる。

故に
その気持ちがアッシュの上辺だけで判断されてるような女 性達はぽいっなのである。流石はローレライ。

……まぁ逆を言えばアッシュの上辺だけでは無く、内面からみても好意をもたれれば『合格』な訳なのだが。

そんなこんなで当分の間討論は続くのであった。





アッシュ私室にて。

ローレライと話をしていた所に妙な寒気を感じ、アッシュは身を震わせた。

これは……嫌な予感がする。アッシュは戦慄を覚えた。

自分の身に何か起こるような、そんな気がした。

『どうした、アッシュ』

「いや、何でもねぇ」

部屋に居るので声に出して答え、アッシュはきょろきょろと周りを見渡した。

首をかしげる。何も見当たらないからだ。

まぁいいか、とこれからの事について相談を続けるアッシュだった。





この日、場所は違えど逆行者の全ての人間がある決意を抱く。

即ち―――アッシュに幸せを!

開幕の時、来る。改めて、『アッシュ争奪戦』開幕の時、来る。……なんてこった!











































後書け!

と、言う訳で最新話です。

今回は色々ごちゃごちゃしてたり、…や―の乱用が目立ちますが、ちょこっとご容赦を。

さてさて少し作風というか文体を弄ってみたんですが、どうでしたか?

個人的には書いてて面白かったです。

さて、ゲーム本編の時間軸になりました。色々はしょりましたが(ぁ

尚、今回の真のタイトルは最後に書きましたように『アッシュ争奪戦』開幕の時、来る。になります。

みて解るとおり、ゲーム本編丸投げです(ぉ

ちなみに前回後書きにて

>が、ノリは明るく軽くなので、今までの感じが続きます(ぁ


とありますので、無論今後もこのままです(ぉぉ

レプリカ計画? なにそれおいしいの? です。

であ、また次回にてお会いしましょう。

神威



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