視点:ルルーシュ


鏡に写る瞳にはギアスの紋章が浮かび上がっている。
…力が無くなったわけではない、しかし命令をだそうとすると、激しい頭痛に襲われる。
この世界に来た影響か、それとも他に原因があるのか…いずれにしろギアスは使えないか。
ギアスが使えればこの大陸を支配することも楽に……いや、それでは同じことの繰り返しになってしまうな……

「もう俺にギアスは必要ない」

俺はゼロではなく、天の御遣いなのだから。


「さてと、着替えるとするか」

華琳から宛がわれた部屋はなかなかひろく、家具も一通り揃ってある。
…前から思っていたことだか、家具や衣服などのデサインがとても2000年以上前の物とは思えないな……まぁ、それも異世界だからとしか言いようがないか。
俺は棚から服を取り出し、着ている服を脱ごうとして、

「うっ」

身体中に痛みが走る。
…筋肉痛がひどい。
先日華琳から「今のままだと行軍などで目的地に着く前に、バテて使い物にならなくなるから鍛えなさい」と言われ、体力をつける為鍛錬を初めたのだが。
初日に春蘭にしごかれたときは本当に死にかけた、川の向こうからロロが呼んでいる幻影が見えたぐらいだ。
さすがに無理があるということで星が担当することになったが、それでも俺にとっては辛いことに変わりなかった。
移動手段に自動車などの便利で快適な乗り物がある元の世界の人間と、馬ぐらいしか無いのこの世界の人間とでは体力に圧倒的な差がある。
元の世界で…平均よりも少しだけ体力が無い方である俺がついていけないのも当然なことだ……

「しかし、そんな文明の差を無しにしても、春蘭や星のような一流の武人と呼ばれている者達の身体能力は異常に思えるな」

春蘭も星もたいして大柄でもないのに、あんな大剣や槍を軽々と振り回し、訓練では何百人と組み手をし、盗賊退治では一振りで数人の敵を吹っ飛ばしていた。

「もはやあれは人間の形をしたナイトメアフレームだな」
「おーい!、ルルーシュ!」

噂をすれば、というやつなのか扉の外から、春蘭の呼ぶ声が聞こえた。

「春蘭か、少し」
『ドガーン』

待ってくれ、と言おうとしたらいきなり扉が吹き飛んだ。

「なっ!」
「入るぞ……奇っ怪な風習だな。扉を全力で吹き飛ばして訪ねてきたのを知らせるとは…」
「違う!間違っているぞ!」

こいつ、今のがノックだと言いたいのか!?

「間違っているって、お前が…」

春蘭が着替えている途中の俺を見て固まる。

「おおお前、ここんなところで、なんで、は、裸なんだ!!」

下は穿いているので全裸ではないのだが。

「ここが俺の部屋で、着替え中だからだ」
「それなら、先に言え!」
「そんな暇はなかっただろう!、いいから外に出ていろ!」
「お、おう」

そう言って春蘭は部屋を扉が無くなった入り口から出て行く。

「…扉の修理を頼まないといけないな」






俺が着替えを済ませ、扉の修理を頼んだ後、春蘭はさっさと行くぞと言って歩き出す。

「行くぞって、どこへ行くんだ?」
「なんだ、もう忘れたのか?」
「忘れたのではなく、まだ聞いていないんだ!」
「ん、そうだったか?」

はぁ、こいつといると本当に疲れる。

「街に華琳様の服を見に行くんだ」

…歩いている方向から、街に出るのは予想出来ていたが、華琳の服?

「いつもは秋蘭と二人で行っているのだが、秋蘭がたまには男の意見も聞いてみてはと言うのでな」
「それで俺か」
「ああ」

理屈は解らなくもないが、それなら事前の言っておいてほしいところだ。

「…それにしてもルルーシュ、お前ちゃんと男だったのだな」
「…はぁ?」

またも、意味の解らんことを言う春蘭

「いや、なに、男にしては体の線も細いし、顔も見様によっては女に見えなくもない、だから実は女なのではないのか、と秋蘭と話していたんだ」
「・・・・・・ふん、俺は正真正銘の男だ、女ではない」

確かに昔、会長が企画した男女逆転祭りで女装した時は、よく似合っているだの、美人だの、やたらと言われたがそんな者は少しも嬉しくはない、むしろ男らしくないと言われているようで不愉快だった。
しかもあれ以来、俺のことを変な目で見る男子生徒まで出てくる始末、・・・・・・あの視線は今思い出しただけでも鳥肌がたつ。

「男ならいいんだ、問題ない」
「?・・・・・・女だったら問題あったのか」

春蘭の言葉に疑問を覚える。

「もし女だったら、・・・その、華琳様が放っておかないかもしれんからな」
「・・・そういうことか」

華琳と春蘭、秋蘭がそうゆう関係なのはここにきて日の浅い俺でも知っていた、というより華琳達は隠す気もないようだ。
・・・この世界では同姓愛は当たり前のことなのか?

そうこうしているうちに門に着き、そこに秋蘭が待っていた。

「待たせたな、秋蘭」
「遅かったな、何かあったのか」
「ああ、ルルーシュの部屋の扉が壊れて、ルルーシュが裸だったんだ」

何だその説明は!解るわけないだろう!

「・・・・・・ふむ、ノックを勘違いして、姉者が扉を殴り飛ばし、ルルーシュは着替え中だったわけか」
「解るのか!!?」

思わず突っ込んでしまう。

「姉妹だからな」

何故か誇らしげに言う秋蘭。

「それより、話は聞いているか」
「ああ、華琳の服を買いに行くと言うことはな・・・こうゆうことは事前に言っとおいてほしい」

春蘭に言っても無駄だろうから、秋蘭に言っておく。

「すまんな、時間が許すなら、我々の吟味の意見をもらえると助かるのだが・・・・・・構わんか?」
「ここで断るぐらいなら、春蘭に言われた時点で断ってるさ」
「それだと、姉者が首根っこ掴んで連れてきただろうがな」

・・・・・・ありえる

「何をしている、さっさと行くぞ」

すでに歩き出してる春蘭が振り向いて言う。

「ああ、わかっているさ姉者」

俺達も街へと歩き出す。






服屋までの道中、鍛冶屋で武器を見たり、乾物屋で保存食の話をしたりもした。
この時代の常識は、当然俺の知っているものとは全然違う、こうやって街に来て実物を見ながら、秋蘭達の話を聞くのは為になる。

「おお、秋蘭。あんな所にあったぞ!」
「ほほぅ。これはなかなか・・・・・・」

どうやら目的の服屋に着いたようだ。
・・・・確かここは最近出来たばかりの店だな。
俺が立案した警備体制か採用されたため、俺が警備隊の隊長を勤める事となった。
隊長と言って現場に出ることは無く、情報をまとめて、屯所での隊の指揮と書類整理が仕事だ、現場は副隊長の星に任せている。
警邏で街を回ることはあるが、警備よりも情報収集が主な目的だ。
だからこの店のことも知っている。

店に入ってみると、中はかなり広く、品揃えも豊富のように思える。

「噂どおり、なかなか良さそうではないか」
「華琳様に見合う服が見つかる良いな」

そう言って春蘭達は物色し始め、俺もそれに続く。




「・・・・・・・・・どう見る? 似合うだろうか?」

春蘭が持ってきたのは、何重にも重なったヒラヒラの生地に、豪勢なフリフリがたくさんくっついてて、可愛さ全開といった感じの服だ。

「んー、私は良いと思うぞ・・・・・・ルルーシュはどう思う?」
「俺も似合うと思う・・・本人が好むかは解らんが」

今まで華琳があのように可愛らしい服着ているのを見たことがない。

「そこは華琳様が決めるところだからな・・・ふむ、これも候補に入れるか・・・・・・私の前では着てくれるかも知れん、ふふふふ」

そう言って頬を赤らめながら、ニヤニヤする春蘭。
・・・少しキモい

「ルルーシュ、これはどう思う?」

そう言って秋蘭が見せたのは、黒のチャイナ服(のようなもの)に、赤紫の花びらの柄があるものだった。

「・・・そうだな、・・・・・・先ほどとは違う意味でだが似合うと思うぞ」

春蘭の選んだのは華琳に着てほしい服なのだろう、秋蘭の選んだのは華琳の好みなども考えているようだ。
この後も春蘭達の選ぶ服に意見を言い、最終的に選んだ二着を買って店をでた。

「さて。次行くぞ、次!」
「うむ」
「・・・・・・まだ買うのか?」
「まだもなにも二着しか買っておらんのだぞ」
「二着も送れば十分だろう?」
「いや、まだこれらを送るとは決まっていないぞ」

買ったのに送るとは決まっていない?

「こんな店頭で見ただけで、本当に華琳さまに似合うかどうかわかるものか。ならば、実際に試してみるしかあるまい」
「・・・・・・どういうことなんだ秋蘭」
「私に聞けよ!」
「まずは華琳さまそっくりに作った等身大の人形に、候補に挙がった服を着せてみて、本当に似合うかどうかさらに確かめているのだ」

そんなものまで用意してあるのか、随分と慎重だな・・・華琳が相手では解らなくも無いか。

「・・・・・・ん? 一つ聞いても良いか?」
「何だ。人形とはいえ華琳さまのお姿ゆえ、着せ替えの現場には立ち合わせられんぞ?」
「いやそれはいいんだが・・・・・・。その人形って、いったい誰が作ったんだ?」
「わたしだ!」

春蘭が胸張って言う。

「春蘭が!?」
「なんだ、その嫌そうな顔は」
「いや、嫌なわけではなく、単純にびっくりしてるだけなんだが・・・・・・」
「なぜ驚く。わたしが作ったと言っては不服か?」
「不服というわけでもなくだな・・・・・・」

春蘭が作った1/1華琳さまドール・・・・・・。
春蘭の華琳への愛情はよくわかるが、本当に春蘭の作ったドールで華琳の代役が務まるのか?

「私が言うのも何だが・・・・・・凄いぞ」
「・・・・・・そうなのか」

まぁ、秋蘭が言うなら、そうなのか・・・・・・。
春蘭が満足した出来でも、不満があるなら秋蘭は間違いなくダメ出しするだろうしな。

「わかったら次へ行くぞ」
「姉者、今日はどのくらい回るとしようか?」
「そうだな、まだ日も高い。ゆっくり回って、もう十軒は固いだろう」

あと十軒だと!?

「姉者・・・・・・」

それは多すぎるだろ

「・・・・・・もう五軒は回れるだろう。弱気が過ぎるぞ」

増やすだと!!

「そうだな。すまん、このわたしとしたことが、あまりに弱気な発言だったな。ならば二十軒は巡るぞ!」

さらの割増になっている!

「ちょっ!」
「うむ、さすが我が姉者!」
「まて、俺は・・・・・・」
「次も正直な意見を頼むぞ、ルルーシュ」
「さっさといくぞルルーシュ」

そう言ってまるで万力のような力で春蘭が俺の腕を掴んで引っ張る。

「ま、待て、引っ張るな〜!」






「ぜぇ〜はぁ〜、ぜぇ〜はぁ〜」

あの後俺は春蘭にはんば引きずられるように町中を巡ることとなった。

「お前はほんとに体力がないな」
「ぜぇ〜はぁ〜・・・だから・・今・・・鍛錬・・・して・・いるん・・だ」

フラフラながらも、今歩いていられるには鍛錬の成果だろう。

「本当にちゃんと鍛錬しているのか、・・・・・・やはり私が鍛えたほうが」

だというのに春蘭は呆れたような顔でとんでもないことを言う。

「いや、それは・・やめて・くれ、冗談抜きで、死ぬ」
「・・・・・・確かにこれでは姉者のしごきには耐えられんだろうな」

そう言って秋蘭は暗くなってきた空を見上げる

「予定の数は回れなかったが今日はここまでだな」
「しかたないな、しかし今日はいまいちだったな」

そう言う割には行く端から買ってたよな、春蘭。

「うむ。めぼしい収穫はなかったな」

さりげなく、春蘭より買ってる服の数、多かったよな、秋蘭。

「市井の服も質が落ちたな。この程度では華琳さまのお眼鏡にかなうことは難しかろう」
「そうだな・・・・・・。やはり、国を大きくして腕の良い職人を多く招くしかないか・・・・・・」

服の質が低いと言うよりは、この二人のハードルが高くなり過ぎてる気がするが・・・

「ええい、そんな時間があるものか!華琳さまはこの一瞬も、気高く優雅に成長しておられるのだぞ!今この時を美しく着飾れる服を手の入れるためには、今を何とかせねばならんのだ!」
「・・・・・・ふむ。確かに」
「そこは、納得するのだな」
「ルルーシュ。別に私は、姉者の言うことに全て反論したいわけではないぞ?」
「・・・そうか」

でもそこは反論して欲しかった。

「それにルルーシュ、お主としても、華琳さまのより愛らしい姿が目に出来るのだ。悪い話ではあるまい?」
「・・・・・・まぁ、そうだな」
「何やら不服がそうなものいいだな」
「そんな事はないさ」
「で、ルルーシュ。貴様は何か良案はないのか? 天の国とやらの知識、役に立てるには今しかないぞ?」

今しかないぞって・・・こいつは俺をなんだと思っているんだ。

「いや、私としては服選びに色々意見を言ってくれて、十分役立っていたと思うぞ。ルルーシュはなんというか・・・女性の服選びに慣れている感じがするな」
「慣れていると言うほどでもないが、役に立てたなら良かったよ」

もとの世界では、俺もよくナナリーに服をプレゼントしていたからな・・・・・・なるほど、もとの世界の服か

「俺の知っている天の国の服を職人に伝え、作ってもらうのはどうだ。少なくとも今日見た店では置いてないような案を出せるぞ」

とても2000年前とは思えないほどデザインが豊富とはいえ、さすがにもとの世界ほどではない。

「なるほど。それは妙案だな」
「ふむ、天の国の服か、それは是非見てみたい」
「では、次の休みまでに案をまとめておこう」
「は? 今から行くに決まっているだろう」
「はぁ!?」

なにを言っているんだこいつは

「まだ夜は長いぞ! 秋蘭も構わんな?」
「見損なうなよ、姉者」
「うむ!それでこそ我が妹!」

くっ! 秋蘭はまともだと思っていたが、認識を改めねばならない。

「おい、ちょっと待」
「行くぞ! 秋蘭! ルルーシュ!」
「うむ!」

そう言ってまた春蘭が俺の腕を掴んで引きずっていく

「ちょっ、だからひきずるなーっ!」






視点:秋蘭


「・・・・・・ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」

バテバテになり、文句も多かったが、なんだかんだで最後までちゃんと付き合ってくれた。

「まぁ姉者が無理やり引っ張りまわしたというのが正しいが」

人として悪い奴ではないのだろう。
体力は無いがルルーシュはとても優秀だ、真に天の御遣いと思えるほどに。
だが、優秀だからこそ油断出来無い。
今のところ不審な行動をとった形跡はないが。

「もうしばらくは監視を続けるべきだろう」
「まだ寝ないのか、秋蘭」

先に布団に入っていた姉者が呼びかけてきた。

「いや、もう寝るさ」

そう言って私は明かりを消して、布団に入る。

「姉者、今日はどうだった」
「ん・・・・・・まぁ、秋蘭が言うとおり、たまには他の意見を聞くのも悪くないな」
「そうか、楽しかったのなら良かったよ」
「た、楽しかったなんて言ってないだろ!」

口ではそう言っても、顔を見ればわかる。
ルルーシュは真剣に服について意見を言ってくれた、口論になることもあったが、それも買い物の醍醐味。
いつもと違う相手と意見を言い合えて、姉者も楽しかったのだろう。

「で、でも、秋蘭がどうしてもというのなら、また三人で言ってもよいぞ」
「フフ、そうだな。 さて明日も早い、もう寝よう」
「ああ、お休み、秋蘭」
「お休み、姉者」

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア・・・まだ完全に信用は出来ないが、面白い男なのは確かだな。



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