視点:ルルーシュ


「監督官は馬具の確認をしていると言っていたな」

俺は華琳に頼まれ、今回の出撃に必要な糧食の最終点検の帳簿を受け取りに来ていた。

「居ないな」

誰かに聞いてみるか。

「君、少しいいか?」

俺は近くにいた、猫ミミフード?の女に声をかけた。

「・・・・・ ・・・・!?」

猫ミミは一度視線だけ此方へ向け、そのまま作業に戻ろうして驚いたようにもう一度此方を向いた。

「・・・あなた、もしかして天の御遣いとか呼ばれる男?」
「ああ、そうだが」

猫ミミからは何故か敵意のようなものを感じる。
初対面のはずだが。

「そう・・・で、何よ?」

敵意をそのままに、猫ミミはそう聞いてきた。
その態度に疑問を覚えるが、まぁいい。

「監督官を知らないか? 糧食の最終点検の帳簿を受け取りに来たのだが」
「監督官は私よ」

この猫ミミが監督官?

「見ない顔だな」
「雇われたのは最近だし、大きい仕事を任されたのも初めてなのよ」

新入りか。

「では、帳簿を貰えるか、華琳に頼まれているのでな」
「・・・・・・」

俺が華琳と言ったところで猫ミミは顔を顰めたが何も言わず、近くに置いてあった草色の表紙を当てている紙束を渡してきた。

「一応、確認させてもらうぞ」
「・・・…」

猫ミミは何も言わなかったが俺は帳簿を確認する。

・・・・・・・・・・これは・・・いや、しかし・・・

「この帳簿に間違いないのだな」
「その帳簿で問題(・・)ないわ、だから確実に曹操さまに渡して」

そう言う猫ミミの目には強い意思が感じられた。

「わかった、いいだろう。・・・名前を聞かせてもらえるか?」
「・・・男なんかに教えたくもないけど、しかたないわね」

ひょっとして機嫌が悪いのは俺が男だからか?

「荀ケ 字は文若よ」

っ!・・・この猫ミミが王佐の才。

「なるほどな」
「?」
「いや、なんでもない・・・いつ呼ばれても良いようにしておけ」
「わかっているわよ、そんなこと」

ふふ・・・面白くなってきたな。





「華琳、これが糧食の帳簿だ」
「ご苦労様」

華琳は帳簿を受け取り、早速確認し始める。

「・・・・・・」

華琳の目が鋭くなっていく。

「・・・・・・ルルーシュ、これ中確認した?」
「ああ」
「何も思わなかったの?」
「思うところあったが、監督官がそれで問題ないと言うのでな」

俺はそれだけ言って、余計なことは言わないことにした。

「そう・・・・・・秋蘭」
「はっ」
「この監督官というのは、一体何者なのかしら?」
「はい。先日、志願してきた新人です。仕事の手際が良かったので、今回の食料調達を任せてみたのですが・・・・・・何か問題でも?」
「ここに呼びなさい。大至急よ」
「はっ!」

秋蘭が駆けて行く。




「華琳さま。連れてまいりました」

秋蘭がさっきの猫ミミ・・・荀ケを連れてきた。
さて、どうなるかな。

「おまえが食の調達を?」
「はい。必要十分な量は、用意したつもりですが・・・・・・何か問題でもありましたでしょうか?」
「必要十分って・・・・・・どういうつもりかしら? 指定した量の半分しか準備できていないじゃない!」

そう、帳簿に載っている量は、この規模の討伐を行うのにしては明らかに少ない。

「このまま出撃したら、糧食不足で行き倒れになる処だったわ。そうなったら、あなたはどう責任をとるつもりかしら?」
「いえ。そうはならならはずです」
「何?・・・・・・どういう事?」
「理由は三つあります。お聞きいただけますか?」
「・・・・・・説明なさい。納得のいく理由なら、許してあげてもいいでしょう」
「・・・・・・ご納得いただけなければ、それは私の不能がいたす所。この場で我が首、刎ねていただいても結構にございます」

ほぉ、大した覚悟だ。

「・・・・・・二言はないぞ?」
「はっ。では、説明させていただけますが・・・・・・まず一つ目。曹操さまは慎重なお方ゆえ、必ずご自分の目で糧食の最終確認をなさいます。そこで問題があれば、こうして責任者を呼ぶはず。行き倒れにはなりません」
「ば・・・・・・っ! 馬鹿にしているの!? 春蘭!」
「はっ!」
「ちょっと待ってくれ、判断するのは残りの二つの理由を聞いてからでも遅くはないだろ」

このなことで終わらせては、あまりにも惜しいからな。

「ルルーシュに言う通りかと。それに華琳さま、先ほどのお約束は・・・・・・」
「・・・・・・そうだったわね。で、次は何?」
「次に二つ目。糧食が少なければ身軽になり、輸送部隊の行軍速度も上がります。よって、討伐行全体にかかる時間は、大幅に短縮できるでしょう」
「ん・・・・・・? なぁ、秋蘭」
「どうした姉者。そんな難しい顔をして」

秋蘭の言う通り、春蘭が変な顔をしていた。

「行軍速度が早くなっても、移動する時間が短くなるだけではないのか? 討伐にかかる時間までは半分にはならない・・・・・・よな?」
「ならないぞ」
「良かった。私の頭が悪くなったのかと思ったぞ」
「そうか。良かったな、姉者」
「うむ」

春蘭の言うとおり。移動だけじゃなく戦闘も、休憩の時間も必要だ。
それに食料がちょっと軽くなった程度で、移動速度だって倍になるわけではない。
・・・それにしても

「春蘭がそれに気づくとは、意外だな」
「ハハハハ!、そんなに褒めるなルルーシュ」
『バン! バン!』

春蘭が背中を叩いてくる。

「いっ、痛い、叩くな」

それに俺は決して褒めてなどいない。

「ふふ、姉者の皮肉は通じんぞ」
「ん? 挽き肉がどうかしたか? 秋蘭」

・・・・・・本当に通じないのだな。

「まあいいわ。最後の理由、言ってみなさい」
「はっ。三つ目ですが・・・・・・私の提案する作戦を採れば、戦闘時間はさらに短くなるでしょう。よって、この糧食の量で十分だと判断いたしました」

荀ケの瞳に宿る意思の光が一層強くなる。

「曹操さま! どうかこの荀ケめを、曹操さまを勝利に導く軍師として、麾下にお加え下さいませ!」

やはり荀ケの目的は自分の才の売込みか。

「な・・・・・・っ!?」
「何と・・・・・・」
「・・・・・・」
「どうか! どうか! 曹操さま!」
「・・・・・・荀ケ。あなたの真名は」
「桂花にございます」
「桂花。あなた・・・・・・この曹操を試したわね?」
「はい」
「な・・・・・・っ! 貴様、何をいけしゃあしゅあと・・・・・・。華琳さま! このような無礼な輩、即刻首を刎ねてしまいましょう!」
「あなたは黙っていなさい! 私の運命を決めていいのは、曹操さまだけよ!」
「ぐ・・・・・・っ! 貴様ぁ・・・・・・!」
「桂花。軍師としての経験は?」
「はっ。ここに来るまでは、南皮で軍師をしておりました」
「・・・・・・そう」

・・・意味ありな間だな。
南皮は確か袁紹の治める地だったはず。

「南皮は袁紹の本拠地だ。袁紹というのは、華琳さまとは昔からの腐れ縁でな・・・・・・」

疑問が顔に出ていたのだろう、秋蘭が説明してくれた。

「どうせあれのことだから、軍師の言葉など聞きはしなかったのでしょう。それに嫌気は差して、この辺りまで流れてきたのかしら?」
「・・・・・・まさか。聞かぬ相手に説くことは、軍師の腕の見せ所。まして仕える主が天を取る器であるならば、その為に己が力を振るうこと、何を惜しみ、ためらいましょうや」
「・・・・・・ならばその力、私のために振るうことは惜しまないと?」
「ひと目見た瞬間、私の全てを捧げるお方と確信いたしました。もしご不要とあらば、この荀ケ、生きてこの場を去る気はありませぬ。遠慮なく、この場でお切り捨てくださいませ!」
「・・・・・・」
「華琳さま・・・・・・」
「春蘭」
「はっ」
「華琳さま・・・・・・っ!」

秋蘭の言葉を聞く様子もなく、華琳は春蘭から受け取った大鎌を、ゆっくりと荀ケに突き付けた。
・・・・・・華琳ならば。

「桂花。私がこの世で尤も腹立たしく思うこと。それは他人に試されるということ。・・・・・・分かっているかしら?」
「はっ。そこをあえて試させていただきました」
「そう・・・・・・。ならば、こうする事もあなたの手のひらの上という事よね・・・・・・」

そう言うなり、華琳は振り上げた刃を一気に振り下ろし・・・・・・!

『ブゥン!!』

「「「・・・・・・」」」

荀ケはその場に立ったまま。
そして血は、一滴も飛び散りはしなかった。

やはり寸止めか。

「もし私が本当に振り下ろしていたら、どうするつもりだった?」
「それが天命と、受け入れておりました。天を取る器に看取られるなら、それを誇りこそすれ、恨むことなどございませぬ」
「・・・・・・嘘は嫌いよ。本当の事を言いなさい」
「曹操さまのご気性からして、試されたなら、必ず試し返すに違いないと思いましたので。避ける気など毛頭ありませんでした。・・・・・・それに私は軍師であって武官ではありませぬ。あの状態から曹操さまの一撃を防ぐ術は、そもそもありませんでした」
「そう・・・・・・」

小さく呟いた華琳が、荀ケに突き付けていた大鎌をゆっくり下ろす。

「・・・・・・ふふっ。あははははははははっ!」
「か、華琳さま・・・・・・っ!?」
「最高よ、桂花。私を二度も試す度胸とその智謀、気に入ったわ」
「ではっ!」
「でも、うちにはもう優秀な軍師が二人いるのよ。・・・・・・それは知っているかしら?」
「・・・はい」

一瞬荀ケの顔が輝くが直ぐに暗くなる。
そもそも荀ケが監督官の仕事をしていたのは、軍師の募集が無かったからだろう。

「だから実力を見させてもらうわ。まずは、討伐行を成功させてみなさい。糧食は半分で良いと言ったのだから・・・・・・もし不足したならその失態、身をもって償ってもらうわよ?」
「御意!」






視点:星

私達は今盗賊討伐のためその本拠地へと行軍していた。
今回の討伐行は軍師志望の新人の試験を兼ねているとかで、糧食が予定の半分で行うことになったそうだ。

「風はこの討伐どう思う?」

元々今回の盗賊討伐の軍師は風、稟は陳留で留守番。

「糧食のことですか〜?」
「それと新しい軍師の件もだな」
「糧食に関しては、この軍の実力と今回の兵数なら作戦しだいでは可能な量ですね」
「その作戦が重要だと思うのだが」

私達はまだ盗賊討伐の作戦を聞いていない、華琳殿もまだ聞いてないらしい。
楽しみは目的地までとっておくそうだ。

「では、軍師志望の作戦が期待外れだったとしても、風の作戦があれば問題無いわけだな」
「そうですね〜、でもまぁそんな」
「そんな心配は必要ないわ、趙子龍」

後ろからの声が、風の言葉を遮る。
振り返ると、そこには話題の猫耳軍師志望、荀ケがいた。

「相手はただの盗賊、作戦必ず成功するわ」

そう言う荀ケは作戦が失敗することなど微塵も考えてない様子だ。

「あの華琳様を試すような人が、期待外れな作戦を提案するなんて思ってないですよ〜」

華琳殿と荀ケとのやり取りの話はルルーシュから聞いていた。
私もその場にいたかったものだ。

「さすがは程仲徳ね、これから宜しくたのむわ」
「もう軍師になるのが決定したかのような口振だな」
「ここまで来れば決定したも同然よ」
「自信満々ですね〜」
「当然」

そう言って胸をはる荀ケ、有るか無いか解らないような胸だがな。

「それより聞きたいことがあるんだけど?」
「なんですか〜」
「天の御遣いの噂ってどこまで本当なの」

荀ケはどこか探るそうな目でそんなことを言ってきた。

「初めは人を集める為のお飾りの天の御遣いと思っていたのよ、あの容姿なら信じる人も多いでしょうし、・・・でも、いろいろ話を聞いているとただのお飾りでも無さそうなのよね」
「う〜ん、天の御遣いの噂は色々ありますから、どこまで本当かと聞かれても困ります。そこは実際お兄さんを見て判断して貰うしかないですね〜」

風はどこか誤魔化す様にそう言った。

「・・・・・・そう、まぁ仕方ないわね」

天の御遣いについては容易に話せない。
荀ケはそんなふうに解釈したのかもしれないが、風はただ説明するのが面倒なだけだろうな。

「軍師になれば荀ケもルルーシュと共に仕事することにもなろう」
「・・・私としては男と一緒に仕事なんてしたくないのだけどね」

そう言う荀ケの顔は本当に嫌そうに歪められていた。

「男が嫌いなんですか〜」
「嫌いよ!男なんて下品で臭くて低能で、女をヤルことしか頭にないじゃない」

・・・そういう男が多いのは確かだが

「ルルーシュはそんな男ではないぞ」
「ふんっ、どうだか」
「その辺も一緒に働けばすぐわかりますよ〜」
「おお、貴様ら、こんな所にいたか」

私達の所に少し慌てた感じで春蘭がやって来た。

「どうした、春蘭。急ぎが?」
「うむ。前方に何やら大人数の集団がいるらしい。華琳さまがお呼びだ。すぐに来い」
「わかったわ!」
「わかりました〜」
「了解だ」






視点:ルルーシュ


「許緒、ごめんなさい」

華琳は少女、許緒にそう謝った。

発見した集団は盗賊で、一人の少女と戦闘をしていた。
盗賊は春蘭達が追っ払ったが、此方が国の軍だと知るや少女は春蘭の巨大な鉄球を投げつけてきた。
許緒にとっては税金を取って何もしない、国の軍は盗賊と一緒なのだろう。

「山向こうの・・・・・・? あ・・・・・・それじゃっ!? ご、ごめんなさいっ!」

だが、華琳との話でその誤解も解けたようだ。

「だから許緒。あなたの勇気と力、この曹操に貸してくれないかしら?」

華琳はそのまま許緒を仲間に引き入れるつもりか・・・
たしかのあの力は凄い、華琳よりも小柄な体格で、俺ではどうやっても持ち上げれそうに無い大きな鉄球を軽々振り回しているのだから。

「まず、あなたの村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいい、あなたの力を貸してくれるかしら?」
「はい! それなら、いくらでも!」

どうやらまずは一緒に盗賊団を討伐することで話は纏まったようだ。

「・・・・・・では総員、行軍を再開するわ! 騎乗!」
「総員! 騎乗! 騎乗っ!」



「・・・・・・」
「何かしら? さっきからわたしを見てるけど」

俺の視線にきずいて華琳はそう聞いてきた。

「華琳はよくああも素直に許緒に謝罪できたな、と思ってな」
「・・・・・・軽率な行動だと言いたいのかしら」

確か上の者が軽々しく子供に頭を下げるのは、普通は軽率な行動だと取られるだろう。
だが許緒は普通の子供では無い、仲間にするためなら頭の一つや二つ下げても惜しくはないだろう。

「いや、俺が華琳の立場でも謝罪したかもしれない。が、それは許緒を仲間にするための計算の上での形だけのものだっただろう」

そうは言っても子供の許緒を仲間にするのは抵抗があるがな。

「でも、華琳は心から謝罪しているように見えた」
「それで? あまいとでも」

昔の俺ならそう言ったかもしれないな。
想いの力は強い、俺もシャーリーに言われるまできづかなかった。
華琳はそれを誰に言われたのでもなく、本能でわかっているのだろう。

「いやなに、仕える相手が華琳でよかった。改めてそう思ったまでだよ」
「!っ・・・・・・」

華琳は意外そうに目を見開き、

「ふふっ、それは一生私のために働くという意味でいいのかしら」

それから意地の悪い笑顔でそう言った。

「フッ、そこまでは言ってないさ」

一生仕える主か、・・・俺がそんなことを考えることになるとはな。

「ところでルルーシュ」
「ん?」
「あなた以外に乗馬は上手いのね。天の国では自動車という物があって馬は使わないのでしょ?」
「ああ、だが乗馬は金持ちの道楽の一つとされていてな。俺もその道楽を行っていた一人と言うわけだ」

それでも長距離の乗馬はきついのだがな、すでに尻がかなり痛い。
早く着かないだろうか・・・。



盗賊団の砦は、山に影に隠れるようにひっそりと建てられていた。
まだ砦まで距離はあるが、ここで荀ケの作戦を聞くこととなった。

荀ケの作戦は大将の華琳を囮として盗賊を砦から誘き出し、それを後方の崖に待機させていた兵で背後から叩き、囮の隊も反転して挟撃するという物だった。
確かにこの作戦が成功すれば、最速で盗賊を討伐出来るだろう。

「風はどう思う」

華琳は本来の軍師、風の意見を聞く。

「盗賊が誘いに乗らなかった場合は、どうするのですか〜?」
「相手は盗賊に身をやつすような単純な連中、容易く挑発に乗ってくるものと思われますが、・・・・・・もしこちらの誘いに乗らなかった場合は、あの砦の見取り図は確認済みですので、城を内から攻め落とします」
「…・・・それなら風からは言うことはないですね〜」
「ルルーシュは?」

・・・・・・荀ケの作戦が成功する可能性は高いだろう、だが。

「荀ケの作戦で十中八九いけるだろう、残りの可能性の備え、盗賊が誘いに乗らなかった場合の備えは先ほど言ったもので良いだろう。だがもう一つ」
「他に何があるのよ」

荀ケの俺を見る視線には、あいかわらず敵意のようなものが含まれている。

「敵がこちらの作戦を読んだ場合だ」
「なっ!」
「伏兵にきづかれれば、逆にこちらが挟撃される可能性もある」
「そんなこと有り得ないわっ!!」

荀ケは俺を睨みつけ怒鳴る。
盗賊ごときに作戦を読まれるはずが無い、荀ケは考えているのだろう。
だが、いかに盗賊とは言え、頭の回る者が一人はいるかもしれない。

「確かに可能性は少ない、だが零では無い。それに備えるだけなら問題ないだろう、星に伏兵の一部を率いさせ、状況に応じて対応する遊撃部隊とすれば良い」
「む〜、それでも無駄になった場合、多少なりとも余計な損害がでるわ」
「その可能性もある。だからどうするかは華琳が決めることだ」
「・・・・・・」

荀ケは俺を睨むのをやめ、華琳を見る。

「そうね・・・・・・・・・・・・星、遊撃部隊として兵を率いなさい」
「曹操さまっ!」
「桂花、私の決定に意を唱えるのかしら」
「い、いえ、申し訳ありません・・・・・・くっ!」

荀ケは先ほどよりもさらに敵意の篭った視線で睨みつけてくる。
はぁ・・・こいつは俺が味方だと解っているのだろうか。

「では作戦を開始する! 各員持ち場につけ!」
「「「「御意!」」」」






視点:???

曹の旗を掲げる一団が、砦の前に陣取っている。

「あれは陳留の曹操の旗、ここの盗賊団を討伐にきたのかっ!」

なんて間の悪い。

「野郎ども官軍だ! 戦闘準備をしろ!」

盗賊団の頭が、手下達に命令する。

「おい、まさかうって出るつもりか!?」
「あたりめぇだろ! あんな少数の軍、全員でかかれば一瞬で潰せるぜ」

たしかに見えている軍は少数だが

「違う!あれは」

俺が止めようした時、

『ドン! ドン! ドン!』

「野郎ども銅鑼のが鳴った! 出撃しろ!!」
「「「「「「うおおおおおぉぉ!!!!!!」」」」」」
「待て! あれは敵の・・・」
「「「「「「うおおおおおぉぉ!!!!!!」」」」」」

俺の声は雄叫びにかき消された。

「・・・ちっ! 馬鹿どもが!」
「どうしますか? (じん)さん」

仲間の一人が聞いてきた。

「あんな奴らに戦闘まで付き合う義理は無い」

曹操軍が相手では勝ち目もないしな。

「奴らが曹操軍を引き付けている間に撤退するぞ!」
「「「「「了解!」」」」」








視点:ルルーシュ


『ドン! ドン! ドン!』

「「「「「「うおおおおおぉぉ!!!!!!」」」」」」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


・・・・・・響き渡る銅鑼の音は、こちらの軍のもの。
でも響き渡る咆哮は、城門を開けて飛び出してきた盗賊達のもの。

「銅鑼を鳴らすだけで出てきちゃいましたね〜」
「・・・桂花」
「はい」
「これも作戦のうちかしら?」
「いえ・・・・・・これはさすがに想定外でした・・・・・・」

・・・俺も想定外だ、まさかこちらの銅鑼を出撃の合図と勘違いして出てくるとは。

「曹操さま! 敵の軍勢、突っ込んで来たよっ!」
「ふむ・・・・・・まあいいわ。多少のズレはあったけれど、こちらは予定通りにするまで。総員、敵の攻撃は適当にいなして、後退するわよ!」
「そうですね。・・・でもこれで天の御遣い殿の備えは無駄だったことが確定しましたね、ふふ」

荀ケは嬉しそうな顔で俺を見る。

「・・・そうだな」
「こちらの銅鑼を出撃の合図と勘違いして出てくる連中が、伏兵を読んでいるとはとても思えませんからね〜」

風が俺達の思っている代弁してくれた。

「私は言ったわよね。有り得ないと、あんたのせいで余計な損害が」
「荀ケっ!」
「は、はい」
「作戦を決定したのは私よ、つまりそれは私に対して言ってるということよね」
「い、いえ、そんなつもりは」
「だったら黙ってなさい! 今はそんな口論をしている場合ではないのよ!」
「申し訳ありません・・・・・・くっ!」

またも荀ケも敵意の篭った視線で睨みつけてくる。
何故俺を睨む、今のは自業自得だろう。

「ほらほら荀ケちゃん、お兄さんを睨んでないで、後退しますよ〜」
「ふんっ、わかっているわよ」




視点:星

「「「「「「うおおおおおぉぉ!!!!!!」」」」」」

隊列などまるで考えてない盗賊どもが囮に釣られて、砦から出てきた。

「上手く盗賊を誘い出せたようだな」

出てくるのが早すぎる気もするが、

「・・・・・・あの様子では、遊撃隊は必要なかったかな」

見るに盗賊どもは全員出てきているようだ。

「趙雲様、我々はどうしますか?」

遊撃隊の副長がそう聞いてきた。

「・・・・・・念のためもう少し待とう」




春蘭達が率いる伏兵が全て出て、敵に接触した時、

「・・・・・・あれは!?」

砦から20人程度の集団が出てきた。

「増援・・・ではなく、逃げ出すようですね」
「・・・・・・」

確かあの集団は戦闘している場所とは、全然違う方向へと向かっている。
回り込んで突撃、という訳でもないだろう、・・・だが。

「・・・私はあの集団を追う、20人は私のついて来い。副長は残りを率いて、夏候惇隊の援護へ向かえ」
「わざわざ趙雲様が追わなくてもよいのでは?」
「少し気になるのでな。なにすぐ片付けて私もそちらに向かうさ」
「・・・わかりしました」
「頼むぞ」

・・・連中が、あの時機を狙って出てきたのだとしたら・・・






視点:刃


森の中を走り、馬を停めてある場所へと向かう。
あの盗賊達に、盗られないために馬は砦から離れた場所に停めてある。

「何とか逃げれそうですね、刃さん」
「安心するのはまだ早い、警戒を怠るな」

油断大敵、俺達のようなものが生きていくには、もっとも大切な事の一つだ。
まぁそうは言っても、曹操軍は伏兵を合わせても盗賊の半分にも満たない。曹操軍が負けることはないだろうが、逃げ出した者にまで人員を割く余裕はないだろう。
そう考えているうちの馬の姿が見えた。

「馬に乗ったら一旦西へと向かう、慌てる必要はないが迅速に行動しろ!」

「馬に乗られてはさすがに追いつけぬな。ここで止まってもらおうか」

「っ!?」

仲間の返事より早く、知らない女の声が聞こえてきた。
そして馬との間を、白い服の槍を持った女が舞い降りる。
追手っ!? 一人だけか?

『ザザッ』

追手が現れたことで仲間達が足を止める。

「止まるな!」

俺は叫び、腰の剣を抜いて女に斬りかかる。

『ガキンッ』
「ぬっ」

「お前達は馬に乗って、予定通り西へ向かえ!」
「でも刃さん!」
「さっさと行けっ!!」
「くっ …解りました」

俺達を避けて、馬のところに向かう仲間達。

「私から逃げるれると思っているのか」

逃げる仲間の方へ行こうとする女に小刀を投げつける。

「くっ」
『キンッ キンッ』

「お前の方こそ余所見している暇があると思ってんのか!」

小刀を弾いて出来た隙を狙って切りかかる。

「ふんっ」

女は回転するように剣をかわすし、そのまま頭を槍で薙ぎにくる。
俺はしゃがんでそれをかわし、足を狙う

「はっ!」
「おっと」

捉えたかと思ったが、女は難なく後に飛んで距離をとる。

「・・・・・・ふむ、戦わず逃げ出したズル賢い鼠を追ってきたつもりが、どうやら鼠ではなく狼だったようだな」
「・・・ならお前は虎だな」

この女かなりできる。
ささっと片付けて仲間を追うつもりだったが、そんな楽な相手では無いらしい。

「・・・いや、私は蝶だよ」

…蝶? ・・・・・・青髪に白い服、そして赤い槍。この女・・・

「・・・なるほど、まさかこんなところで【陳留に舞う華麗な蝶】と相見えることになるとはな」
「ほぉ、私の事を知っているのか?」
「盗賊でも情報は大切でな」

ほんとになんでこんなところにいんだよっ。

「それにしても解せねぇ。伏兵が成功したとはいえ数は盗賊の方が多い、お前は戦いの最中に目の前の敵をほったらかして、俺達を追ってきたのか?」
「・・・・いやなに、元から私は遊撃隊として、お前のように伏兵を見抜いた者がいたときのために、備えていたのだよ」

元から備えていただとっ!・・・・・・

「・・・・・ちっ、さすがは噂に名高い曹孟徳だな」

囮で砦から誘い出し、伏兵で後方からの叩く。さら伏兵を見抜かれた時のための遊撃隊。
・・・・・・盗賊相手に普通そこまでするか?

「考えたのは曹操殿ではないがな」
「なに?」
「趙雲様!」
「やっと追いついたか」

後ろから現れた曹操軍20人が俺を包囲する。

「・・・・・・」
「さて、このまま大人しく投降してくれればこちらも手間がはぶけて楽なのだが、どうする?」

どうするか・・・・・・考えるまでもないか。

「ふっ、雑魚が20人来た程度で俺を捕らえたつもりか?」
「なっ! 貴様ぁ!」

取り囲んでいた兵の一人が剣を抜き、斬りかかって来る。
俺はそれを半歩だけ動いてかわし、同時に相手の顔面に裏拳を叩き込む。

『ドコッ!』
「ぐへぇ」
「「「「「っ!・・・・・・」」」」」
「全員ぶっ殺して仲間の元へ向かう、それ以外の選択肢など俺にはねぇ」
「・・・・・・ふはははっ、面白い男だ。 お前達は手をだすな、私一人でやる」

女は兵達の離れるよう手を振り、改めて槍を構える。

「一騎打ちか、上品な軍人らしいな」
「ならお互い名乗りでも上げるか」

・・・そういうのは柄じゃねーだがな、まあいいか。

「趙子龍 いざ参る!」
「徐公明 いくぜ!」



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