第二十一章【書状とマインクラフト】


虎牢関の戦いが始まった。連合軍側は圧倒的な数と華雄からの情報もあり、ここも水関同様すぐに落ちるのではないかと思われた。
だが十常侍軍も負けていない。ここを落とされては後が無い彼等の士気もまた高く、要害虎牢関を利用してよく守った。
また猛将である呂布と張遼の活躍もあり、情報漏洩による不利を感じさせず、連合軍とは互いに一進一退の攻防が続いた。

この膠着状態をどう解消するか――今日も軍議が開かれるが、有力な案は中々に出てこない。
そんな中、曹操が口を開いた。

「麗羽、貴女の軍が水関の時のような戦術を披露すれば良いんじゃない?」

その言葉に軍議へ集った諸侯の視線が一斉に盟主袁紹へと集まった。曹操はニヤニヤと笑っている。
袁紹は一瞬「えっ?」とした表情を浮かべたが、すぐにまたいつもの自信たっぷりの表情に戻った。

「まあ華琳さん、貴女が私に期待するなど珍しいですわね」

「かなり不本意だけどね。けど、この状態が何時まで続くのも私達にとってよくないでしょう」

曹操の言葉に孫堅、公孫賛も続けて口を開いた。

「曹操の言う通りだ。それに張遼と武神呂布の存在は兵達を震え上がらせ、士気が嫌でも下がる」

「相手も死に物狂いだからなぁ。私達の兵が敵の勢いに飲まれるのも無理もない。打開策が必要だな」

「――と、まあこう言う訳よ麗羽。皆が盟主である貴女の軍に期待しているわ」

これは不味い――袁紹と共に軍議に出ていた田豊は表情にこそ出さないが、内心焦っていた。
流石は曹操、長年の付き合いもあってか、袁紹の扱い方をよく心得ている。
その証拠に彼女は全員から期待されていると聞いて優越感に浸りまくっていた。

(曹操の狙いは戦の事よりも私達ね。きっと水関でやった事を知ろうとしてるんだわ)

最近曹操軍によるこちらへの監視が増えた事は田豊も知っていた。
こちらも負けじと対策を施し、漏洩防止に尽力している。無論最優先はカクこと一刀だ。

(参ったわね。虎牢関の守りは固いから迂闊にカクは動かせないし、かと言ってこれだけの期待が集まると――)

「オーホッホッホ! 皆さんがそれ程まで言うなら仕方ありませんわ。この袁本初の軍が華麗に虎牢関を落としてみせましょう!」

(ですよねぇぇぇぇぇ! 麗羽様ぁぁぁぁぁ!?)

田豊が助言をする前に袁紹が高らかに宣言してしまった。ある意味期待通りで、もう後には引けなくなった。
更に諸侯から続々と感嘆の声が挙がるせいで、袁紹のテンションはもう最高潮であった。

「袁紹さん、もし良ければ私達義勇軍も力を貸します! 一緒に頑張りましょう!」

「麗羽が調子に乗ると不安しか無いからなぁ。桃香と一緒に私も参加するよ」

「オーホッホッホ。私の軍だけでも十分ですが、お二人が手伝いたいというなら仕方ありませんわ」

こうして次の虎牢関攻めでは袁紹、劉備、公孫賛が中心となって行われる事になった。

(ふふっ。さて麗羽、貴女がどんな戦術を行うのか見せてもらうわ)

(先の戦でわし等を囮にした戦術……心底気に入らんが、再び見せてもらおうか)

(七乃ぉ……蜂蜜水が飲みたいのじゃ)

(ああもうお嬢様ったら! 空気が読めなくても可愛いです!)

その光景を見てほくそ笑む曹操と、彼女と同じく思惑を募らせる諸侯達。
連合軍もまた、十常侍軍と同じく一枚岩ではなさそうであった。











「連合軍に居る奴と秘密裏に接触するやて?」

「そう。これが賈駆ちゃんの書いた書状よ」

場所は変わり、虎牢関である。
軍議と称し、十常侍の息が掛かっている兵達の目から逃れて皇甫嵩、張遼、呂布、陳宮は集まっていた。
皇甫嵩は賈駆から渡された書状を三人に見せていた。彼女曰く「これをある者に渡してほしい」との事。

「賈駆ちゃんが言うには、張遼と呂布……貴女達がその人物を知ってるって言ってたわ」

「ウチと恋が? …………何か思い当たるか恋」

呂布が少し考えた後、首を横に振った。

「……分からない」

「どうしてそこでねねが外されているのか腑に落ちないですぞー!」

拗ねた表情を浮かべる陳宮を、呂布が撫でて宥めた。
すぐに蕩けた表情を浮かべる辺り、この娘もチョロい。

「張遼ならすぐ思い出すんじゃない? 水関がどうしてあんな早く落とされたのか……」

「んなもん、袁紹の奴がどうやってか、水関の中に…………」

この時、張遼の脳裏によぎるものがあった。どうやってこちらの目を盗んで袁紹は水関に浸入する事が出来たのか。
予め工作兵を潜り込ませていた? 闇夜に紛れて進軍し、何処かに隠れ潜んでいた? 穴を掘ってそこから内側に――

「そうかあいつか! あいつの事か!」

張遼は思い浮かべた。全身が四角い、人なのか化物なのか分からない生き物。
あれなら短時間で連合陣営から水関の内側まで続く穴を簡単に掘れるだろう。
自分も、呂布も、書状を書いた賈駆自身もそれを間近で見ているのだから。

「……霞、もしかしてあの子の事?」

張遼の様子を見て、呂布も思い出したらしい。聞かれた張遼はすぐさま頷いた。

「せや。確かにあいつの力があれば月を助け出せるかもしれん」

「どうやら思い当たる人物がいるみたいね。良かったわ思い出してくれて」

「ああ、道理で袁紹の奴が奇襲に加え挟撃なんて細かい動きが出来るわけや。けど連合軍の盟主んとこにあいつが居るなら丁度ええ」

「……でもどうやってそれを届ける? 袁紹の陣はかなり遠い」

「せやなぁ。ウチと恋で突破するにも、陣が厚くて流石に厳しいで」

「何も戦いの中で渡す事はないでしょう。戦いが始まる前に渡せばいいのよ」

三人の中でどんどん話が進む中、プルプルと小さい身体を震わせる者が一人。

「いい加減ねねにも教えてほしいですぞ! 仲間外れは嫌ですぞーッ!!」

陳宮が両手を挙げて叫んだ。
その後、また呂布のナデナデに誤魔化されたのは言うまでもない。











連合軍による虎牢関への攻撃が始まる前の事である。
袁紹軍に向けて虎牢関から一本の矢文が放たれ、それはすぐに袁紹の元へ届けられた。
内容は先の戦いで捕らわれの身となった華雄以下、互いの捕虜と交換について記されていた。

――だがそれはあくまで表向きの話である。
矢羽に隠された二枚目の書状に田豊は気付き、それを密かに回収した。内容は訳せばこうである。



・董卓は何進と十常侍によって皇帝の替え玉にされ、兵達を騙している。

・もし董卓を救出するのに力を貸してくれれば即座に董卓配下の将と兵、加えて皇甫嵩と蘆植も連合軍に降伏する。

・降伏した将と兵の安全を保障してくれるのならば、今後も自分達は袁紹の為に力を尽くす。

・董卓を救出するにあたって、絶大な力を持つ皇帝の友人“ハク”を洛陽に向かわせてほしい。



読み終えた田豊はカクこと一刀を見た。一緒に読んでいて内容を把握したらしく、やる気を見せている。
危険過ぎるし、敵の罠の可能性もある。だが董卓軍の将全てがこちら側に付くのは魅力的な話ではあった。

(これを書いた賈駆……こちらの思惑を分かっているから書状を隠したのね)

一刀の力は最早神技と言っても過言ではない。隠さなければあらゆる勢力から狙われる。
それを理解しているからこそ、袁紹軍の不利にならないよう書状を矢羽に隠したのだ。
数々の諸侯が集まる連合軍の中で迂闊にこの内容を開示すれば命取りになりかねない。

(董卓陣営にカクの力が少しでも知られているのなら、いっその事こちらに引き込んだ方が良いわね)

カクを洛陽に向かわせ、董卓救出に尽力させれば曹操の監視も欺く事が出来る。
更に言えば同席していた劉宏もまた、危険を承知でカクに救出をお願いしていた。
意を決した田豊はカクと向き合った。

「カク……また貴方に頼らなくちゃいけないのは情けないけど、お願い」

(うん)

「洛陽に潜入し、董卓の身柄と安全を確保してきて。そうすればこの戦は終わるわ」

コクリと一刀が頷く。
それと同時に外で兵達の鬨の声が挙がった。攻撃が始まったのだ。
一刀もまた、虎牢関を抜けた先の洛陽を目指すという冒険が幕を開けたのだった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.