第二十六章【後始末とマインクラフト】


戦争は何時の時代でも唐突に始まり、そして唐突に終わりを迎える。

虎牢関陥落す――今まで頑強に抵抗を続けた十常侍軍全員が突如として降伏したのである。その原因は袁紹陣営から姿を現した董卓であった。
何処となく具合が悪そうであったが、彼女の言葉は虎牢関に籠もっていた兵の大半を構成していた西涼兵を降伏させるには十分なものだった。
残る僅かな十常侍の兵は抵抗する間もなく彼等によって捕縛され、降伏する事となった。

「オーホッホッホ! 私の華麗さは味方だけでなく、敵をも降伏させてしまうのですね!」

(いやいや姫、あいつ等は董卓に……って、言うだけ野暮か)

(黙ってた方が良いよ文ちゃん。麗羽様の機嫌、今最高潮だから)

(麗羽様、輝いています!)

更に賈駆、趙忠、蘆植といった面々も董卓同様救出されており、袁紹に手厚く保護されていた。
このあまりにも迅速な行動に諸侯は驚きを隠せなかったが、特に顕著だったのが曹操である。
監視を増やして警戒していたにも関わらず、袁紹は何時の間にか捕まっていた董卓等を救出し、兵全てを降伏させた。

(やってくれるじゃない麗羽。この屈辱は必ず返すわ……!)

(袁紹……派手好きの大うつけという噂だったが、見直すべきかもしれんな)

手口を見破るどころか又してもしてやられてしまった事に内心で憤る曹操。
そして曹操と同じく、孫堅もまた怪訝な表情を終始浮かべていたのだった。

(麗羽様やりますねえ。でも何か違和感があるような……お嬢様の為に戻ったら調べてみますか)

(雛里ちゃん、袁紹さんどうやって董卓さんを助けたんだろう)

(分からないよ朱里ちゃん。もしかしたら戦の始まりから、私達袁紹さんの掌の上だったとか?)

(はわわ……さ、流石にそれは無いと思うよ。考え過ぎだよ)

良くも悪くも袁紹軍の一連の行動は、連合軍の諸侯に多大な影響を与えたのである。
それは畏怖であり、少しの尊敬であり、大きな警戒心であった。

虎牢関同様、洛陽の制圧も苦労する事無く終わりを告げた。
現皇帝劉宏の声明と何進による替え玉の発覚により、洛陽の兵達は戦う事無く降伏。首謀者の何進、張譲以下十常侍は斬首となった。

「こんな事になって残念ですわ何進さん。権力に目が眩み過ぎましたわね」

「……ふん。今更抵抗はせぬ。まさか裏切られるとは思わなんだ……」

刑が進む中、張譲等は自らの最期を見届けようとしている諸侯に向けて叫んだ。

「漢と、皇帝に最早治める力など無し!!」

「我等を殺しおって! この恨み忘れぬ!」

「貴様等で醜く争うが良いわ! そして滅びろ!!」

逆賊に身を落とした故か、その最期は皇帝に仕えた宦官ではなく、恨みに塗れた男達の醜い姿だった。
彼等の最期に遺した言葉は漢王朝に力は無く、誰もが覇権をかけて争う群雄割拠の到来を予感させた。











袁紹陣営の幕舎――袁紹お抱えの薬師によって解毒薬を処方された董卓はここで療養していた。
賈駆、張遼、呂布、陳宮、華雄といった配下の将も主を心配し、挙って詰め掛けていた。

「みんな、心配掛けてゴメンなさい。迷惑も沢山かけちゃって……」

「ううん、いいのよ月。気にしないで」

「せやせや。何だかんだあって、ウチ等全員生きてここに居るしな」

「……みんな無事」

「ねね達を虐げた奴等もいなくなりましたし、清々したのです!」

「一人を除いて、だがな」

華雄の言葉に賈駆の表情が一瞬強張った。
原因は逃げようとした何進と十常侍を捕らえて差し出し、一人降伏してきた何太后の存在であった。
話を聞けば洛陽を簡単に制圧する事が出来たのも彼女が配下の兵を使い、裏から手を回したかららしい。
首謀者何進の妹であるが、共犯者という証拠も無く、降伏してきた事もあって一時預かりとなったのだ。

「入りますわよ! 董卓さん、御身体の具合はどうですの?」

「袁紹様……わざわざご足労頂きありがとうございます」

「オーホッホッホ。袁家の当主として当然の事ですわ」

若干暗くなった雰囲気を打ち破るかのように袁紹が幕舎へ来訪してきた。
続いて田豊、そして最後に様子を窺うように劉宏が中へと入った。

「陛下……! このような身体で申し訳ありません……」

「構わないわ。周りの貴女達も。今の私にそんな儀礼はしなくていい」

膝をつこうとした張遼達を止め、劉宏は用意された椅子に座った。

「さて董卓さん、真直さん……田豊から話は聞いてます。これからは私の為に力を貸すと」

「はい。これ程の恩を受けて、袁紹様の元は去れません。どうぞ宜しくお願い致します」

「オーホッホッホ! 頼もしい言葉ですわ」

小声で張遼が「いちいちあの笑い方せえへんといかんのか」と突っ込んだが、賈駆に脇腹を小突かれて止めさせられた。

「他の者達は?」

「皇甫嵩と趙忠も貴女達と同様、袁紹に協力を申し出てくれたわ。蘆植は村に戻るみたい。戦はもうこりごり、だそうよ」

(カクの事は絶対他勢力に話さない、と固く口を閉ざさせてもらったけど)

戦いは終わった。戦うべき相手がいなくなった連合軍は解散となり、それぞれの治める領へ戻っていた。
今残っているのは袁紹軍、義勇軍と公孫賛軍である。後者の二軍は村へ帰る蘆植との再開を喜んでいた。
かつて蘆植は先生、劉備と公孫賛はその塾の教え子という立場である。喜びも一入なのだろう。

「あの、袁紹様……」

「何ですか?」

「華雄さんと一緒に私達を助けてくれた、あの、ハクちゃんは何処に……? お礼を言いたいのですが」

「ああ、カクの事ですわね。あの子なら今文醜、顔良と一緒に洛陽を見て回っていますわ」

「そうですか……」

名前に違和感を覚えたらしく、すぐ横に居る幼馴染の方を向きながら「カク、ちゃん?」と呟いた。
董卓の視線を受けた賈駆は「まあそう言う事」と言わんばかりにコクリと頷く。

「何でか知らないけど、ボクと同じ名なのよアイツ。紛らわしいったらないわ」

「可笑しな偶然もあるもんやなぁ」

「……不思議」

名付けた張本人である田豊がわざとらしく「コホン」と咳払いし、場の空気を変えた。

「用事が終わればすぐにでもカクを呼びます。それまでお待ち頂けますか?」

「勿論です」

「董卓。カクもそうだけど、そこに居る華雄も頑張ったんだからね」

「はい。華雄さん、私と詠ちゃんを助けてくれてありがとうございました」

「も、勿体無いお言葉です。主を守るのは、臣下として当然の事で……」

「おお、あの脳筋が照れているのですよ」

「だ、黙れ陳宮!」











場所は変わり、洛陽の街。一刀は顔良、文醜と共に洛陽の街を見て回っていた。
念の為、誰かに目撃されても誤魔化せるよう一刀はヌイグルミのように顔良に抱かれている。文醜はとても羨ましがっていた。

「しっかし本当にボロボロだなぁ。十常侍の奴等、死んだ後でも無茶しやがる」

「何太后さんの話だと、連合軍が来る前にここへ火を付けて逃亡する手筈だったみたいだよ」

「酷い事しやがる。あたいも一人ぐらいぶった斬ってやりたかったぜ」

「そうだね。それにしてもカクちゃん、急に見て回りたいだなんてどうしたの?」

覚えたての字とボディランゲージを駆使して一刀がここに繰り出したのは訳がある。
そう――洛陽強化復興計画である。

(こんな場所を見たら建築魂が燃えるに決まってるじゃないか。色々建て直したいなぁ)

洛陽を囲む強固な壁、尽きる事のない水流、崩れない家と店、賑やかな人の流れ――妄想が膨らむ。
袁紹は袁家の財力を使って荒廃した洛陽復興に尽力するらしい。一刀も勿論色々手伝いたいと思っている。

(名付けてRAKUYOU計画! 侵略者も門前払い出来る街に仕上げたい!)

「おお、何だかカクが燃えてるぜ」

「きっとこれからの事を考えてやる気を出してくれてるんだよ。私達も負けないようにしなくちゃ」

合っているようで微妙にすれ違っている事など、二人が知る由も無かった。



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