機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第六話 『生命の洗濯』みたいな -前編-


「ね〜かんちょ〜。私、それは止めた方が良いと思うんだけどな〜」
何を言っているのかというと……、艦長は正月だからと振袖姿で連合宇宙軍と交渉するといっているのだ。
『前回』失敗している事を知っている私は、話がこじれるのを防ぐため止めているのだが……艦長は聞く耳持っちゃくれない。
「だ〜いじょうぶですって。じゃ、ルリちゃん。回線お願い」
「了解」
そんなやり取りを聞きながら、ため息をついた私はウリバタケ特製スタンガンを持って艦長の後ろに立ったのだった。
そして、総司令部内大会議場に回線が繋がれる……。

「あけましておめでておうございま〜す」
あ〜あ、やっちゃった……。
コミュニケの向こうでは『フジヤマー!』とか『ゲイシャー!』とか叫んでたり、連合軍の日本代表が頭を抱えてたりしているけど……。
「艦長、私が代わろう! 君は緊張しているようだ!」
慌てて艦長を止めるフクベ提督。
だったら、もっと早く止めてよね〜。
「外人さんには日本語わかんないし、愛嬌出したほうが…はぅっ!?」
いきなり素っ頓狂な声を上げて倒れる艦長に何かを言おうとしてた総司令が目を丸くする。
恐らく……、いや確実に向こうの画面の中にはスタンガンを持った私の姿が映っていたことだろう。
あまり公のところで目立ちたくないけど……仕方ないか。
「じゃ、フクベ提督。あとお願いします」
そう言って艦長を引きずっていく私。
ルリルリも協力してくれたからそれほどでもなかったけど……、やっぱり脱力した人間って重いわ〜。百キロぐらい?(笑)
なにやらミスマル提督が喚いていたけど……。あ、隣の人が口を塞いでる。

『フクベ提督、一体何の御用ですかな?』
「うむ。このナデシコはこれより火星圏の強行偵察任務に赴こうと思う。よってナデシコが通過する際にビッグバリアを空けて欲しいのだ」
フクベ提督の言葉に目をむく総司令。
自身の軍人としての先達でもあるフクベ提督の言葉に驚愕を隠せなかった。
『強行偵察、ですと? 冗談ではない! 今地球を守るために一隻でも多くの軍艦が必要なのだ! それを民間会社所有の戦艦が単独で火星圏に向かうなど自殺 行為だ! 強力な戦艦は連合軍にこそふさわしい!』
「ならばなぜネルガルからナデシコの売込みがあった時に無視したのかね? 一隻でも多く必要ならば発注すればよかったはずだ」
『む……』
強行偵察の提案を一蹴しようとする総司令をさらに一蹴するフクベ提督。このあたりは年の功ってヤツね〜。
「それにこのナデシコとてすでに運用上・構造上の欠点がいくつも指摘されておる。まだ『ナデシコ』というパッケージングは不完全の試作艦なのだ。それなら このまま稼動させてデータを取り、改修した艦を受け取ったほうが効率がいいと思うが、いかがかな?」
『しかし、それは……』
どうせ、適当な理由でこのナデシコを強奪しようって考えてたんでしょうけど甘いっての。私がいる限りルリルリとアキト君を不幸にさせるような真似させませ んって。
「すでに先日の軍による海賊事件の際、ミスマル提督にはこちらのクルーから同様の意見が提出され、改修された新型艦の建造までの間繋ぎとしての案も同時に 提案されておるが、そちらは確認されたのかな?」
『なんですと!? ミスマル提督!』
『は、はっ! 何でしょうか総司令!?』
フクベ提督の発言に慌てる総司令とミスマル提督。
『今の話は本当かね!? 私のところには報告が上がってきていないぞ!?』
『え、ええと……』
そりゃあ言えるわけないわよね。娘を取り返すので必死だった上に、散々こき下ろされたからろくに聞いていなかった、なんて。
「ホシノ君」
フクベ提督がルリルリに声をかけた。
「はい」
「先日の事件の際のハルカ君の発言で提案部分を流してやってくれ」
などと言い出すフクベ提督。
「ちょ、ちょっと!?」
「はい」
止める私を無視してルリルリはあの時の映像を流し始めた。
表側で目立ちたくないのに〜(涙)

『じゃあ言いましょうか? この戦艦は試作品でほとんど何のテストも行っていないの。しかも特殊な装備などがあって素人には使いづらい。その辺いじれる技 術者が軍にいるのかしら?』
『むっ……』
『ましてや、話がついているものをよこせなんて、貴方はジャイ○ンかしら?』
『むむむむむ……』
『だったら試験航行を兼ねて出撃させて、出てきたデータで改修したものを受け取った方が効率的じゃない? すでにナデシコ自体にも問題は発生してるし』
『ぬ!?』
『まあ、確かに今の段階で木星蜥蜴を相手に出来るのはグラビティブラストくらいだから欲しいのもわかるけど。当然売り込みぐらいあったでしょうにそれを無 視しといていざ使えるとなったら奪おうとする。最低よね。発射試験済みのグラビティブラストだけ発注して既存の連合軍の艦艇に後付で取り付けるとか考えな いのかしらね〜』

映像を見せられている連合軍の面々が黙って聞いていた。
映像が終了した後、総司令が口を開く。
『確かに、喧嘩口調ではあったが提案とも取れる内容だったな……。具体的に聞くがナデシコの問題とは一体何なのだ? 先ほどの映像でミスマル提督に食って 掛かっていた……』
「ハルカ・ミナトさんです」
ルリルリ〜、何で言っちゃうのよ〜!?
『そうか……。ではハルカ・ミナト君。君はこのナデシコのどこが問題と言うんだね?』
はぁ……。仕方ないか……。
ため息をついて前に出る。
「まず、問題なのは武装。次に艦載機。最後にシステムそのもの」
『ほとんど全部ではないのか!?』
驚きの声を上げる総司令。
それはそうだろう。最強と思っていた戦艦がいきなり落第点をつけられたのだから。
「武装についてはグラビティブラストという強力なものがあるものの射撃方向の自由度は無く、大気圏では連射も利かない。しかも近接火器はミサイルだけ。そ れに射撃をするためには防御壁であるディストーションフィールドを解除しなければならない。これじゃ敵のバッタなどに取り付かれたらどうしようもないで しょう。この辺はすでにネルガルに伝えてあるから、三番艦以降に反映されるそうだけど。艦載機については、その航続距離と火力」
『重力波エネルギーフィールド内にいる限り半永久的に動けると聞いているが?』
一応のスペックは知っているらしい総司令が疑問をはさむ。
「『フィールド内』なら、ね。フィールド外に出るとあっという間にバッテリーが尽きてしまう。重力波エネルギーフィールドがまだそれほど遠くまで届かない の。今のままじゃ、『大きく迂回して目標を叩く』、なんて使い方が出来ないの。しかも重力波エネルギーは直線的にしか飛ばないから、小惑星の影などに入っ てしまうと途端に途切れてしまう。その上、サイズに見合った威力の火器しか搭載できないから木星蜥蜴の戦艦クラスには心もとないわ」
『ううむ……』
「加えて言うなら、現在のナデシコには何種類かのフレームが用意されているけどそれぞれが全く違う性格のフレームになっているわ。任務に対する柔軟性と言 われれば聞こえは良いけど、その実パイロット数以上にアッセンブリーされたフレームを置くスペースが必要になるわよね? しかもそれぞれのフレームのスペ アパーツには互換性がないからフレーム別にスペアパーツまで用意しなければならず大容量の倉庫でもデッドスペースが増えてしまう。共通部品ばかりなら最悪 共食い整備も出来るけど規格が合わないとなるとそれも無理」
総司令の周辺がガヤついているがそちらは無視。
「この機体の特徴は『IFSで初心者でも操縦できる事』と『フレームの組み換えによって一つのアサルトピットで多用途に使用できる』ということ。IFS戦 闘機っていうのは反応を良くする為に個人個人でIFSのセッティングが変わってしまうからすぐに機体を乗り換えるなんて事がしづらいわけだけど、それを解 決するために一人につき一台のアサルトピットをセッティングすればいくらでも機体の交換が出来るようになっている。だからアサルトピットが帰ってくればす ぐにフレームを代えて飛び出すことも出来るけどその都度機種が変わったらやりづらいと思うわ。人間は慣れた物の方が良いに決まってるから。だからこそあま りに多種の機体を一つの艦に搭載する事ができなくなる」
『ぬう……』
苦虫を噛み潰すような表情の総司令に私はトドメを差す。
「最後にシステム。学習型AIが搭載されているとはいえ、高い能力を持ったIFSオペレーターが必要と言うことよ。ただでさえ地球ではIFSの保有者が少 ないのにその数少ない保有者を無理矢理戦場に送り込むわけ? 徴兵したとしても戦争が終わった後、本人や遺族から賠償を求められるのは確実よ。なんせ『戦 争』を隠れ蓑に無理矢理人殺しの片棒を担がせたんだから」
『それは困るが……なぜ『人殺し』になるのだ? 木星蜥蜴は無人兵器だぞ?』
「相手は違ってもこちらは『人』よ? ウチのクルーにだって先の一件でトビウメの護衛艦二隻がチューリップに飲み込まれて死んでいったのを『助けられな かった自分たちが殺したようなもんだ』って言って欝になっている人だっているんだから。直接殺すだけが人殺しじゃないわよ」
『……』
職業軍人だったら耐えられるかもしれないけど、こっちは民間人なのを忘れている。これが軍人の傲慢だと言うのよ。
「だからこの艦は試作艦だと言ったの。これを無理矢理実戦投入するより、試験を済ませて改修した三番艦以降に発注をかけたほうが圧倒的に勝率は上がるわ。 量産効率も上がるはずだから仕上がりも早いはず。地球圏での戦闘データはビッグバリアを抜けた後、サツキミドリで最終調整する際にネルガルに送られる筈だ からその時点でかなり改修が可能なはずよ。ナデシコが火星に言って帰ってくるくらいの間は持ちこたえられるはず。……裏切り者がいなければね……」
『待て! 『裏切り者』とは一体!?』
またも驚きの声を上げる総司令。まあ、いきなりそんな事を言われたら驚くのは判るけど……。
「木星蜥蜴の被害地域をよく確認してみる事ね。共通点があるから。じゃ、そゆことで。提督、タッチ」
「うむ」
そう言ってフクベ提督と交代する。

「流石です、ミナトさん」
「あたしも驚いちゃいました。いきなり艦長にスタンガンなんて」
ルリルリとメグちゃんが誉めて……くれているのよね、一応?
「ルリルリ〜。なんで私の名前言っちゃうのよ〜?」
裏切り者を見る目で睨む私。
「でも、隠す事はないと思いますが?」
ルリルリもだいぶ大人の事情は理解してきたみたいだけどこういうところの機微はまだまだね。はぁ……。
「頭来てたからヤケで結構言っちゃったけど、軍人さんに目をつけられるのは嫌なのよ。逆恨みされたらたまらないわ」
「そうですね〜。組織力だけはありますものね〜」
「気が滅入る事言わないでよメグちゃん。はぁ……」
ため息をついている私の視界の端にはフクベ提督が総司令たちをやり込めている姿が映っていた……。



「で、結局強行偵察は認めてもらえたと」
「フクベ提督の交渉術も中々ですなぁ、これは。地球に帰ってきてからは是非ともネルガルに来てもらいたいものです」
安堵する私と、またスカウトの事を考えているプロスさん。
「ミナトさん酷いですよう〜!」
ぶんむくれる艦長をなだめる周囲のクルーたち。
「いや、ハルカ・ミナトのアレは最善の策だったと思うが」
「そうですよね〜。喧嘩売ってるとしか思えないですもんね〜、艦長のア・レ」
「ユリカ、僕もアレは不味いと思う……。穏便に出発なんてできなくなりそうだったし……」
「ぶ〜! ジュン君までそんな事言うの〜!?」
……なだめてる、のよね?
ゴートにメグちゃん、果てはジュン君の言葉に私の額には汗が流れる。
「いいもんいいもん! ユリカにはヤマダさんがいるもん! へーんだ! うえーん! ヤマダさーん!!」
そう言ってブリッジを飛び出す艦長。
子供じゃないんだから……って、精神年齢は子供か。はぁ……。
「プロスさん、とりあえず強行突破する必要は無くなったんだし、操縦はオートでもいいわよね?」
「ええ、かまいませんよ」
「ありがと。じゃあルリルリ、一緒に行こっか?」
「はい」
私はルリルリと連れ立って部屋に戻った。



ルリルリと部屋に戻ってから三十分ほどして、アキト君が遊びに来た。
何でもヤマダ君と一緒にゲキガンガーを見ていたら艦長がやってきて部屋を追い出されたという。
それを聞いた私は『にやり』と笑っていたと思う。

『いいわよ〜、入ってきて〜』
『駄目です! 入っちゃ!』
「……本当にいいんですか?」
サウンドオンリーのコミュニケを不審に思ったのか、アキト君が聞いてくる。
『いいからいいから。さあ入って〜』
そう言って私はリモコンでドアを開く。
ルリルリは慌てて部屋の奥に逃げようとするけど、そうは問屋が卸しません。
しっかり抱きかかえてアキト君が入ってくるのを待つ。
「み、ミナトさん!?」
「ミナトさ〜……ん!?」
そして部屋の奥まで来たアキト君が見たものは━━━━
バニーガールのウサ耳の代わりに猫耳と猫尻尾をつけた黒猫バニーのルリルリと、同じくバニースタイルに牛耳と牛角のカチューシャと牛の尻尾がついたホルス タイン柄の牛バニースーツの私だった。
五秒……十秒……二十秒……。
無言の時間が一分を越えた頃……、

ボシュ!

……アキト君は鼻血を噴いて倒れたのだった。

「あらら、やりすぎたかな〜?」
「テンカワさん!? テンカワさん!」
ルリルリが鼻血の海に沈むアキト君を必死に揺さぶっていた。
……どっちを見て鼻血を噴いたのかしらね。後で聞いてみなくちゃ。

慌てるルリルリをなだめて救護班を呼ぶ。
そして……。

「ハルカさん! 大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫。早くアキト君を……」
そう言って振り返った瞬間……。

ボシュ!×2

……救護班の二人はアキト君同様鼻血を噴いて倒れたのだった。

そういえば着替えるの忘れてたわね。
シャワールームでルリルリと一緒に着替えながらそんな事を考えていた。


改めて救護班を呼び、三人を医務室に運んでもらう。
この三人の給料から天引きでルームクリーニングをやったけど諦めてもらいましょう。いい思いしたんだし。

なおアキト君に付き添ったルリルリが意識を取り戻したアキト君にジュースを用意しようと医務室を出た後、鼻血を噴いた救護の二人はアキト君に『ぐっじょ ぶ!』とサムズアップしていたのは……、オモイカネから聞き出した私だけの秘密である。



二時間後……。
復活したアキト君とルリルリは私の部屋に帰ってきた。
この時には部屋のクリーニングも終えて元通りになっていた。
血のにおいは……、まあ仕方ないでしょ。エアコンと換気扇を全開にするしかないか。

そして私は、背中を向けて座り込んでいるルリルリに謝っていた。
「ね〜ルリルリ〜。いい加減機嫌直してよ〜」
「……『駄目』って言ったのに……。あんな恥ずかしい格好テンカワさんに見せるなんて……。酷いです……」
普段よりも怒っている時間が長いルリルリ。
そんなにアキト君にあの格好を見られたのが恥ずかしかったのかしら……
そういえば……。
「ねぇ、アキト君」
「はい?」
部屋の隅で小さくなっていたアキト君が返事をする。
「さっき、鼻血を噴いたのはどっちの格好を見たから?」
「え!?」
「み、ミナトさん!?」
面食らうアキト君と驚いた顔で振り返るルリルリ。
「ほらほら〜。白状しなさいって」
腰が引けて後ずさりするアキト君ににじり寄る私。
……なんか獲物を追い詰める快感、って感じよね〜。
「ミナトさん! くっつき過ぎです!」
ルリルリが私とアキト君を引き離そうとして引っ張ってるけど……なんか聞き捨てならない台詞ね?
……ちょっと確認してみましょうか?
「あら、どうしてくっついちゃいけないの?」
「け、契約書に書いて」
「そこは三人とも潰してるわよ?」
契約書は楯にならないものね〜。この三人にとっては。
「ひ、人の部屋でそういう事は」
「ここ私の部屋」
かなりテンパってるわね、ルリルリ。でももう一押し……。
「恋愛は自由よね〜?」
「で、でも……」
「アキト君だっておねーさんの魅力にメロメロじゃないかな〜?」
その時、ルリルリが普段に似合わない大声で叫んだ。
「嫌です! テンカワさんを取らないでください!」

直後、部屋はシィン……と静かになる。
「ルリルリ……」
私は声を殺して泣いているルリルリの頭を抱きしめる。
「ようやく言ってくれたわね……自分の本音……」
涙を流すルリルリの顔を両手で挟んでじっと見つめる。
「ルリルリは頭がいいから、何でも先に考えて相談せずに決めちゃう悪い癖があるみたいね……。それじゃあ好きになっても告白もできないわ……。思い切って ぶつかるのも一つの手よ……。今回はちょっと強引になっちゃったけど、アキト君に気持ちを知ってもらえたでしょ?」
「ミナト……さん……」
涙目で私を見つめ返すルリルリの背中に声がかかる。
「ルリちゃん……。その上手く言えないんだけど……さっきのルリちゃん、すっごく可愛かった……。ミナトさんの分とのダブルパンチで鼻血噴いちゃったけ ど……、俺は……その……ルリちゃんさえ良かったら、また……俺だけに見せてもらいたいなーって……。って俺何言ってんだろ? は、はははっ……」
アキト君も何とかフォローしようとしているものの、むしろそれは告白に近いものになっている事に……気づいてないわよね、やっぱり。
「テンカワ……さん……」
「ん〜、ちょっとまだ固いわね〜。そうだ、ルリルリ。これからはアキト君の事を『テンカワさん』って呼ぶんじゃなくて『アキトさん』って呼んでみたら?」
「「え!?」」
私の提案に目を丸くする二人。
「どうかな〜? いい考えだと思うんだけど〜」
「え、え〜と、俺は別にかまわないけど……」
「わ、私は、その……」
赤くなって照れるアキト君と赤くなって口ごもるルリルリ。
で〜も、そんな事関係ナッシング!!
「じゃ、ちょっと練習してみましょうか? ほらルリルリ、アキト君の前に立って……。はい、『アキトさん』」
私はルリルリをアキト君の前に立たせて練習させる。
「あ、アキ…ト……さん」
「声が小さい! もう一回」
「アキト……さん」
「ワンモアプリーズ!」
「アキトさん!」
「はい、おっけ〜!」
OKを出した後のルリルリは真っ赤になっていた。
「ははは……。な、なんか照れるね……」
「馬鹿……」<サイズ変更-2>
とても小さな声で言ったルリルリの一言は一体誰に対して言ったものやら……
そんな事を思いながら私はルリルリを背中から抱きしめる。
「で、今度はアキト君とルリルリが二人っきりであの格好でニャンニャンすると(笑)」
アキト君は意味が判ったのか赤くなるが、ルリルリはきょとん、とした顔でこちらを振り向く。
「『ニャンニャン』ってなんですか?」
……俗事に疎いのか、それともジェネレーションギャップなのかしら(涙)。
「……そうね〜。アキト君に聞いてみて? きっと知ってるハズだから」
「……?」
きょとん、とした顔でアキトのほうへ顔を向けるルリルリ。
「……なんで顔が赤いんですか?」
「い、いやそれは……ナンデモアリマセンヨ?」
声を裏返らせてなお、なんとかごまかそうとするアキト君。
でもねぇ……
痺れを切らせたルリルリがオモイカネを呼び出す。
「オモイカネ、ミナトさんが言ってた『ニャンニャン』って何?」
<1.猫の鳴き声、2.双方の合意に基づく性行為>
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
慌てて隠そうとするアキト君だけど、ルリルリが読むほうのが早かったみたい。
首をかしげて意味を理解しようとするルリルリ。
そして数十秒後……、ようやく意味を理解して顔を真っ赤にするルリルリがいたのは言うまでもないことだった。
「みっ、ミナトさん!!」
「意味が判った?」
「判りましたけど……、って、そうじゃなくて!」
「あの格好ならきっと盛り上がるわよ〜。 私なんて着替えさせている間、何度押し倒そうかと思ったか!(血涙)」
「ミナトさん、そう言う趣味の人だったんですか……」
あとずさるルリルリに私は否定する。
「そんなわけないでしょ〜! そうじゃない人でもそうさせるくらい可愛いの、ルリルリは!」
そう言ってルリルリのぷにぷにほっぺに頬擦りする私。
う〜ん、このままバイセクシャルになっちゃおうかな〜?
そんな事を考えながらルリルリの耳元に話しかける。
「ルリルリ、小さな心の箱庭だけで満足しないで。貴女はもっと大きくなれるはずよ。心も体もね。今ある心の箱庭が小さくて他の人の心を入れたら壊れてしま うと言うのなら、それより大きな箱庭にすればいいの。他人の心を切り捨てちゃ駄目。自分の心を隠しちゃ駄目。受け入れて、さらけ出して強くなっていくの。 それを繰り返していけばきっといつか箱庭じゃない本当の心が貴女のものになるはずだから……」
「ミナト…さん……」
感極まったルリルリが涙声で私の名を呼ぶ。
それを聞いてすかさず同意を取る。
「だからああいう格好も恥ずかしがらずにみんなに見せてあげましょう(はぁと)!」
「それは駄目です!」
……即答で却下されてしまった……。くっ、手ごわくなったわね。



それから少しの間、取り留めのない話をする私たち。
その最後にあの話をする。
「そうそう、アキト君」
「なんすか?」
話しかけた私のほうを向くアキト君。
「アキト君はヤマダ君と一緒でゲキガンガーが好きみたいだけど、『作られた英雄』にはならないようにね」
「『作られた英雄』ってなんですか?」
アキト君は普通に生活していれば聞く事は無いであろう言葉の意味を質問してくる。
「『作られた英雄』って言うのは政治や軍などで士気高揚のために誇大に手柄を強調したり、情報を捻じ曲げたりして『英雄』とされた人よ。プロパガンダのた めに祭り上げられちゃうのよ、本人の意思とは関係なく、ね」
「それが『作られた英雄』……」
「そう。本人は失敗した、アレは自分でも最悪の方法だった……なんて思っているのにそれをあたかも大成功のように騒ぎ立てて真実から目をそらさせる……。 それが『英雄』にされた人にどのくらいの苦痛を与えるかを考えずに……」
「苦痛……」
痛そうな顔をするアキト君を心配そうな顔で見つめるルリルリ。
でもこれは早いうちに話さなければ駄目なのだ。
「アキト君みたいに英雄願望が強すぎる人はそういうのに乗せられて利用された挙句、不要になったら事故で死亡、なんて事をされかねないからね。そんな事で ルリルリを泣かせたら承知しないわよ?」
「は、はい!」
今さっきルリルリを泣かせた本人が言う台詞ではないのは判っているが、ここは一つ釘を刺しておかなければ……。
「でもなんでそんな話を?」
「この艦にも一人いるからよ……。『作られた英雄』が」
「え!?」
私は驚くアキト君を見つめ返して話を続ける。
「一年前の第一次火星会戦。覚えているでしょ?」
「それは勿論!」
忘れようとしても無理だろうけど……、今はこう聞くしか方法はない。私はまだそれほどアキト君の事を知らないはずなのだから。
「あの時、火星南極へ降りようとしていたチューリップに戦艦をぶつけてそれを阻止した、ってことで『英雄』にされた人がいるわ。けど彼は阻止したことよ り、ユートピアコロニーにそれを落としてしまったことを悔やんでいた。『作られた英雄』の本当の姿を世間に告白しようと思っても組織の一員がそんな事やろ うとしてもたかが知れている……。結局彼は軍を辞め、どうにかして火星に行き死んでしまった人たちに詫びる方法を探してナデシコに乗り込んだの」
「それって……」
ルリルリが口を挟む。
アキト君は怒りで顔が紅潮していた。同じ艦にユートピアコロニーの仇がいる、その事実が彼に怒りの……いえ、憎しみの表情を浮かびあがらせていた。
「ええそう。フクベ提督よ」
それを聞いたアキト君は即座に立ち上がる。
しかしそれを私とルリルリが押さえ込んだ。
「離せ! アイツを、アイツをー!」
「アイツを『どうする』つもり!?」
「決まってる!」
「殴ったって殺したって死んだ人は帰ってこないのよ! 自分の自己満足のためなら止めなさい! さっきも言った通りフクベ提督だって苦しんでいたのよ!」
「そんな事関係あるか! アイツが! アイツがぁぁぁぁぁっ! アイちゃんを! みんなをぉぉぉぉぉ!」
さすが男の子。
私たちの腕力じゃ抑えきれない!
次の瞬間、突き飛ばされたルリルリが壁に叩き付けられる!
「ルリルリ!」
私はアキト君から離れてルリルリのところに行く。
「ルリルリ! しっかり、ルリルリ!!」
「……お、俺……」
ルリルリを突き飛ばして正気に戻ったらしいアキト君が青ざめる。
「あ……きと……さん……」
「ルリルリ! 大丈夫!?」
「はい……。ちょっと痛いけど大丈夫です……。それよりアキトさん……そんな顔しないでください……」
自分もかなり痛いだろうにそれを堪えてアキト君を心配するルリルリ。
「ルリちゃん……」
アキト君の顔は自分が怪我をするより痛そうだった。……こんなに優しい子がなんで未来であんな目に遭わなければいけないのだろう?
「私はアキトさんのようにその瞬間を直接見ていないからアキトさんの怒りは判りません……。でもいまアキトさんがフクベ提督に殴りかかるのは間違いだって 思います……。フクベ提督だって火星にいるかもしれない人たちを助けたいからこそ、試験戦艦に近いこのナデシコに乗り込んだんだと思います……。軍にいた らそんな事は出来ないから、軍を辞めてまで……。だから今は我慢して火星の人たちを助け出してから、どうするか考えましょう……」
ルリルリの台詞に緊張が途切れたアキト君が座り込む。
「……そんな事、判っていたさ……。でもあの時を思い出すと……その張本人が同じ艦に乗り込んでいるって判ったら……いてもたってもいられなくなっ て……」
泣き顔で座り込んだアキト君の前にルリルリがひざ立ちで目を覗き込みながら話しかける。
「文句は後にしましょう。全ては火星に生き残っている人たちを助けて地球に帰ってきてから、ですよ」
「そうだ……ね」
そう言って見詰め合う二人。
ちょっといたずら心の湧いた私はルリルリの後ろに立ってルリルリの肩を押す。
「あわっ!?」
「え!?」
バランスを崩したルリルリがアキト君の方へ倒れこむ。
その瞬間……。

ぷにゅっ!(がちっ!)

という音と共に、ルリルリとアキト君の唇がぶつかっていたのだった。
(勢いがあったため歯もぶつかっていたようだがここでは些細な事なので無視(はぁと))

「「みっ、みっ、みっ、ミナトさん!?」」
あらあら息がぴったんこ。
私としては『アキト君に抱きかかえられるルリルリ』って言うのを想像してたんだけどな〜。
ま、いいか(笑)
「あら〜、おめでと〜。もしかしてルリルリのファーストキスかな?」
「……(真っ赤)」
私の質問に真っ赤な表情で答えるルリルリ。
「アキト君、おめでと〜。ルリルリのファーストキスゲットだって(はぁと)」
「げ、ゲットって!」
うろたえるアキト君に追い討ちを敢行。
「もうルリルリ泣かしちゃ駄目だからね〜」
ウィンクでアキト君の反論を封じる。
「キスまでしちゃったんだから、特攻みたいな事したり、ルリルリが悲しむような事は私が許さないからね〜。判った!?」
「は、はい!」
気迫に押されて返事をするアキト君。させた人間が言う台詞じゃないけどね〜(笑)。
……これでまた一つ歴史が変わったのを私は感じた。



休憩も終わり、そろそろ各自の持ち場へ━━私とルリルリはブリッジへ、アキト君は今回は宇宙へ上がった時の出撃待機のため格納庫へ━━向かった。
そして格納庫では……ヤマダ君が駄々をこねていた。

「だから、そういうことはテンカワに言えって!」
「アキトにか……。おおっ! ちょーど良かった! アキト! 頼みがあるんだ!」
格納庫に到着したアキト君をヤマダ君が呼びつける。
「ガイ……何だよ、一体?」
「うむ。実はエステのなんだが、お前の青いヤツと俺のエステを交換してくれ!」
「はぁ?」
くそ真面目な顔で何を言うかと思えば……
「エースでヒーローの色は赤か青! しかーし! 俺の機体はピンク色だ! だからアキト、俺とお前のエステを交換してくれ!」
「はぁ……まったく……。俺は色にこだわりはないからいいけどさ」
「おお! 流石は我が魂の盟友! 感謝するぜ!」
と言う事でヤマダ君が青いアサルトピットのエステバリス、アキト君がマゼンタピンクのアサルトピットのエステバリスに変更になったとウリピーからの報告が ブリッジに届いたのは私たちがブリッジについて五分後の事だった……。



あとがき

ども、最近『戦場の絆』で出撃している喜竹夏道です。
いや〜、あのゲーム。連携や援護の力が非常に良く出ますね。
ヤマダ「ガイ!」にやらせたいもんです。
あ、ちなみにジオンで「ヨシタケナツミチ一等兵」です。(投稿日現在)
気がついたら戦績計算用のエクセルブックも作成していしまいました。
基本は野良なんでマッチングした時はよろしくお願いします。
連邦の方はお手柔らかにお願いします。

ルリルリ告白シーン。
実はアキトじゃなくて「ミナトさんを盗らないで!」にしようかと当初は考えていましたが、それだと方向性が変わってしまうので「テンカワさんを取らない で!」に変更しました。
さあ、これでアキト×ルリに向けて一直線……というわけにはいかないのでご勘弁を。
『ニャンニャン』も今の若い人は知らないかも……ルリルリの猫耳に引っ掛けてみたんですけどねぇ。
アキトとルリルリの一次接触(キス)も無事成功。
アキトを戦いに向かわせる事情を増やしてみました。

そして結局、アキトはどっちの服装で鼻血を噴いたのでしょうか(笑)。永遠の謎としておきます(笑)。

後編も早めに出しますのでお待ちください






押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

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