機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第六話 『生命の洗濯』みたいな -後編-


地球脱出速度に向けて加速するナデシコ。
前回と違い、何も妨害が無いから楽ちん楽ちん。
「ナデシコ、順調に加速中〜」
「あと五分で第三防衛ラインに接触します」
私とルリルリの報告に頷く艦長。
「了解です。今は木星蜥蜴が大人しくしているとはいえ、油断は禁物です。周辺への注意を怠らないでください」
「りょ〜かい」
「はい」
「了解です」
私、ルリルリ、メグちゃんがそれぞれ返事する。
「では艦長はこれからお説教タイムと言う事で」
「え〜!? 何で〜!?」
プロスさんの台詞に抗議する艦長。
でもね〜、多分効かないと思うの、その抗議は。
「出航当日に乗り込んで、しかも遅刻。他のクルーの皆さんは操作慣熟などで一週間から一ヶ月近く早く乗り込んでおられたというのに、艦長がこれでは示しが 付きません。判っていますか?」
「は、はい」
プロスさんの顔は笑っているんだけど……、目が笑っていなかった(汗)。
「とりあえず、この分はお給料から引かせてもらうとして……。以降もこのような事が無いように願いますよ?」
「「は、はい!」」
なぜか、ビシッ! と敬礼する艦長と副長。
副長は関係ないと思うけど……、性なのね……。

「小型機動兵器と思われるものが複数接近しています」
「「「「「え!?」」」」」
ルリルリの突然の発言に驚くブリッジクルー。だけど艦長だけは反応した。
「ルリちゃん、確認よろしく!」
「はい。……照合データ出ました。第三防衛ラインステーション『さくら』のデルフィニウム部隊です」
「へ?」
ルリルリの報告にまぬけな声を上げる艦長。
「何で第三防衛ラインが出てくるの?」
「木星蜥蜴が接近中だから護衛とか?」
「いえ。ナデシコのレーダーならびに連合軍とのリンク情報ではナデシコに接近する木星蜥蜴はいないはずですが」
艦長とメグちゃんの発言を否定するルリルリ。
と言う事は、どう言う事?
「とりあえずデルフィニウム部隊を通信しましょう。メグミさんお願いします」
「了解」
すぐに作業に入るメグちゃん。
ほどなくしてデルフィニウム隊と通信が繋がった。
「こちらはネルガル所属・機動戦艦ナデシコ艦長、ミスマル・ユリカです。デルフィニウム隊の隊長はどなたでしょうか?」
『こちらはステーション『さくら』所属・第一デルフィニウム隊隊長、イツキ・カザマ少尉です。これより貴艦に停船を命じます』
モニターに映った隊長は、あの時横須賀でボソンジャンプに巻き込まれて死んだイツキ・カザマちゃんだった。
「停船とはどういうことでしょうか? ナデシコは独自行動を許可されていますが?」
『そんな事は知りません。我々が受けた命令はナデシコの拿捕です。それ以上でも以下でもありません』
イツキちゃんの言葉でブリッジに緊張が走る。
「もしかして……命令が行き届いていないんじゃ〜?」
ふと思いついた私の言葉にブリッジが動き出す。
「メグミさん、連合軍本部の総司令宛に現状の報告とデルフィニウム隊の発進理由を問い合わせてください」
「了解です。連合軍本部応答願います。こちらは……」
「あ、ルリちゃん。ヤマダさんとアキトに第一種戦闘態勢で待機するように言っておいて」
「判りました。アキトさん……」
「ミナトさん、できるだけナデシコにダメージを与えないように操舵してください」
「りょ〜かい!」
艦長の指示でブリッジ内部が有機的に動き出す。
『繰り返します。ナデシコは直ちに停船し、軍に艦を明け渡しなさい』
「残念ですがそれは出来ません。軍とはすでに独自運用の合意がなされている上、軍もナデシコの行動により今後の作戦立案を考慮するという話になっていま す」
キッパリと停船を断る艦長。
『では実力でナデシコを拿捕します』
イツキちゃんは冷たく宣言するのだった。
そして……。

『ダイゴウジ・ガイ! 出るぜ!』
『テンカワ・アキト、行きます!』
ナデシコから二機の空戦用エステが飛び出した。

『…って、ガイ。お前なんで丸腰なんだよ?』
『ふっ、そこが凡人の浅はかさよ。この俺の考え出した『ガンガークロスオペレーション』を使えばそんな事は関係なくなるのだ!』
自信たっぷりに言うヤマダ君。
「何をやる気なんでしょうか……?」
「嫌な予感だけはするけどね〜」
メグちゃんの疑問に確信を持って応える私。
というか、何やろうとしているのかは知っているんだけどね。
『つまりだ! 敵は俺が丸腰だと思って甘く見るだろう! そこでナデシコからスペースガンガーを出してもらってそれにクロスクラッシュ! これで一気に武 装が増えて敵を撃破する、って寸法だ!』
『『スペースガンガー』って何だよ?』
ウリピーも話を聞いていたのか、突っ込んでくる。
『あれだよ! 武器がいっぱい付いていたヤツ!』
『班長〜、もしかしてヤマダ『ダイゴウジ・ガイだ!』が言っているのは陸戦B型の重武装フレームのことじゃないですか〜?』
整備班の一人が確認する。
『おおっ! それだよそれ! なんだよ博士、『こんなこともあろうかと』ちゃんと用意してあるじゃね〜の!』
『誰が博士だってーの』
嬉しそうに笑うヤマダ君と呆れるウリピー。
でも肝心な事を忘れてる。
「捨てた機体はどうするの? 回収できないから大気摩擦で燃え尽きちゃうから丸々無駄になっちゃうけど。しかも合体中に襲われたらそのままアサルトピット も燃え尽きちゃうんじゃない? おまけに陸戦B型ってことは飛べないのよね? ってことは終わったら落ちて燃え尽きるだけ?」
「それは困りますなあ。そうするとヤマダさんのお給料から返してもらうとして……丸々二十年分ぐらいただ働き、と言うことになりますなあ。あ、でもお亡く なりになるなら生命保険で何とか……いや、それでも七割ほどですか」
電卓を叩きながら具体的な値段を言うプロスさん。
『いや……しかしだなぁ……』
「……ヤマダ君『ダイゴウジ・ガイ!』……。私は人の話を聞かない疫病神には嫌な方の名前で呼び続ける事にするって言ったわよね? 出航前は整備の終わっ てない機体で遊んで整備班に迷惑かけて、乗っ取りの時はルリルリたちに変なビデオを見せようとするし……、出撃すれば海上での戦闘なのに陸戦フレームで出 て非戦闘員のアキト君が出撃せざるを得ないような事態にする……。それで何? ナデシコのエース? ヒーロー? 失敗続きのヒーローなんているの? しか も今度は丸腰で出撃した挙句、余計なことして余計な出費をさせようとしてプロスさんに迷惑かけて……。他人に迷惑をかけ続ける限りは疫病神の謗りは受ける 覚悟があるのよね?」
多分、今の私は顔で笑って目で怒っている……。自覚できるくらいに。
『わ、判った! 『ガンガークロスオペレーション』は無しでいいから……』
「よろしい」
そう言って通信を切る私。
「ミナトさ〜ん、ユリカの王子様に何てこと言うの〜!?」
艦長の抗議はガン無視。
「ルリルリ、アキト君たちに隊長機の位置を教えてあげて。隊長機を落とすか捕まえるかすれば無理せず帰っていくはずよ」
「はい、通信から割り出した隊長機はこの機体です。アキトさん、ヤマダさん、この機体が先ほどの隊長機です。この機体を落とすか捕まえるかしてください」
『判った、ルリちゃん!』
『任しとけ!』
ルリルリの指示を聞いた二人が隊長機に向かって突っ込んでいく。
「……そーいうのは艦長の指示でやってもらいたいんですけど……」
艦長の呟きもガン無視する私たちだった……。


デルフィニウム隊に接近するアキト君たちのエステバリス。
『やるぜ! アキト、ついて来い!』
『待てよ! ガイ!」
一気に加速するヤマダ機にアキト君がついていく。そして……。
『ガァイ! スゥパァァ! ナッパァァァァァァ!』
叫びと共に繰り出した拳はあっさりとかわされた……。
ま、当然よね。あんな大振りの技なんてバッタたちには通じても人の乗る機体には通じないわよ。
と思ったらその影からアキト君がラピッドライフルで射撃。プロペラントタンクと腕部に被弾するイツキ機がよろめく。
……何時の間にあんな連携を……?。
……いや、ヤマダ君の事だから何も考えていないのをアキト君がフォローした、っていうところね、きっと……。

アキト君の射撃でよろめいた隙を突いてヤマダ君がイツキ機の背後に回り羽交い絞めにしてそのコクピットへアキト君がライフルを突きつける。
『勝負有り! だな……。これで退散してくれるか?』
『くっ……!』
悔しそうに顔を歪めるイツキちゃん。そこへ僚機から通信が入った。
『隊長! ステーションより発光信号! 直ちに無線封鎖を解けとの事です!』
『何!? ……こちらカザマ少尉です。一体…………はい? 何ですって!? ……了解しました……』
何か悔しそうな表情のイツキちゃん。
『作戦終了! 全機ステーションに帰還しなさい!』
『りょ、了解……。しかし隊長は……?』
命令を受けたイツキちゃんの部下たちはイツキちゃんを気にしているみたい。いい上下関係が気づかれているみたいね。
『私は状況の確認と報告をしなければなりません。先に帰還しなさい』
『……了解。ナデシコのパイロットへ』
デルフィニウム隊のパイロットがアキト君たちに通信を送る。
『なんだよ?』
アキト君もまだ緊張を解いていない。
『……捕虜の扱いについては……』
「酷い事はしませんよ〜」
いや艦長、貴女が聞かれたわけじゃないでしょう?
『曹長、この場合は私は何をされたとしても文句は言えません。貴方たちは早く帰還しなさい。燃料もあまり余裕が無いはずです』
『了解しました……。隊長、御武運を』
そう言って残りのデルフィニウムが離れていく。
や〜、良かったわ〜。こんなとこでまた戦闘したら余計な時間を食うだけだし……。

そうして、イツキちゃんのデルフィニウムはアキト君たちにエスコートされてナデシコに降り立った。


「さて、どういうことか説明してもらえますか?」
ブリッジに連行されたイツキちゃんに艦長が質問する。
「はい。ステーション『さくら』にナデシコの捕縛指令が入ったのは三時間前です。連合軍から命令が届き、私たちはデルフィニウムで発進しました」
「でも連合軍本部はそんな命令出していないって言ってましたけど?」
通信したメグちゃんは不思議そうに尋ねる。
「はい。その事は先ほどステーションとの通信で確認しました。どうやら一部の仕官が勝手に発令したようです」
『何処の誰なんだ、そいつは?』
ウリピーも気になっているらしい。不機嫌じゃないのはデルフィニウムを鹵獲して分解しているからだろう。
「先ほど『さくら』からの連絡によるとムネタケ・サダアキ提督だそうです」
「あいつか……」
「海に捨ててった事を逆恨みしたのかしら……」
イツキちゃんの言った名前に怒りを露にするアキト君とあきれる私。
やっぱりトドメはさしておくべきだったかしら……?
「皆さん、そろそろビッグバリアを超えます。配置についてください」
一人真面目に仕事をしていたルリルリに促され、それぞれが持ち場に散っていく。
「じゃあ、カザマさんには悪いんだけど、コロニー『サツキミドリ』まで独房に入っていてね」
「はい」
「では案内しましょう」
素直に連れて行かれるイツキちゃんと連れて行くプロスさん。
「またね〜」
私は確信を持ってそう言った。次は横須賀で会うことになるであろう彼女に……。



「ビッグバリア、ナデシコ通過後に再展開を確認」
『相転移エンジン全力稼動中!』
「コロニーサツキミドリ2号への進路オッケ〜」
各クルーから艦長に報告が行く。
それを聞いた艦長は一つ頷いて、
「ではナデシコはこれよりサツキミドリへ向かって……」
ゴゥンッ!
その瞬間、ナデシコに振動が走った。
「なに!? 何が起きたんですか!?」
「……索敵完了。艦長、木星蜥蜴の無人兵器です」
「ええーっ!? 何で何で!?」
混乱する艦長。こっちだって喚きたいわよ。
でもなんでこんなところに?
前回はバリアを抜けたら襲ってこなかったのに……?
…………あ。そういえば前回は大騒ぎで強行突破したから、地球全域で連合軍と木連の兵器が戦ってたんだっけ。
今回はそれが無いからその分こっちに向かってこれるんだ(汗)。
「艦長、どうするの〜? 今はまだディストーションフィールドがあるから平気だけど、これ以上来られるとヤバいわよ〜!」
自分のうっかりミスを表情に出さずに問いかける私。
「またエステバリスに囮になってもらって……」
「無理です」
「え?」
提案をルリルリに一瞬で却下された艦長が驚く。
「ナデシコには宇宙空間用のエステバリスの0G戦フレームがありません。よって出撃してもまともに機動する事すら出来ません。いい的です」
「そんな〜!?」
ム○クの絵画のような顔をする艦長にため息をついて提案する私。
「とりあえず正面の敵だけグラビティブラストで吹っ飛ばして逃げるってのは?」
「……それしかありませんね。ルリちゃん、グラビティブラスト広域放射準備!」
「了解。チャージ開始。……終了。いつでもいけます」
流石に宇宙に出ているだけあってチャージも早い。
「グラビティブラスト発射!」
「ポチっとな」
ルリルリ……、その懐かしいネタは一体何処から……。
放たれたグラビティブラストが宇宙に花火を発生させる。
「前方の敵、七割がた消滅」
「ミナトさん全速力で敵との間を空けてください!」
「りょーか〜い!」
ナデシコを一気に加速させる私。
そこへ格納庫のウリピーから通信が入った。
『ブリッジ! まだついてくる奴らはどうする気だ!?』
「ミサイルの一斉射で落とせるだけ落として引き離そうかと……」
艦長もそれしか手の打ちようが無い。
『なら砲戦フレームを使うのはどうだ!? アレを命綱をつけた状態で艦の外に取り付かせた状態で砲撃させるんだ! 砲台の代わりぐらいにはなるはずだ ぜ!』
「いけるんじゃない?」
ウリピーの提案に同意する私。
「そうですね! メグミさん、ヤマダさんとアキトに連絡して格納庫へ行かせてください! ウリバタケさん、砲戦フレームの準備お願いします!」
「了解です! アキトさん、ヤマダ『ダイゴウジ・ガイ!』さん、至急格納庫へ行ってください! パイロットのお仕事ですよ!」
メグちゃんがアキト君たちを呼ぶのと同時にウリピーも整備班に檄を飛ばす!
『おう! 任しとけ!! 野郎共、砲戦フレームの準備だ! もたもたしてるヤツぁ生身で宇宙へ放り出すぞ!」



『いいか!? 命綱はつけておくが100%じゃねぇ! くれぐれも被弾するな! 兎に角当てるより牽制する事を重視しろ!』
『判った!ダイゴウジ・ガイ! 出るぜ!』
『テンカワ・アキト、行きます!』
ウリピーのアドバイスを受けた二人がまた出撃する。
「アキトさん、気をつけてください」
『判ったよ、ルリちゃん』
「ヤマダさんはユリカの王子様だから大丈夫!」
『ダイゴウジ・ガイだーっ!』
私はにぎやかに出撃していった二人の無事を信じて待つしかない自分がとてもつらかった……。
「ミナトさん、どうしたんですか?」
ルリルリが私の変化に気づいたらしく声をかけてきた。
いけないいけない……。こんなんじゃルリルリのお姉さん失格ね。
「ううん、なんでもないわ。ただ、アキト君たちが怪我しないといいなー、ってね……」
「……そう……ですね……」
ルリルリもようやく戦争が何を引き起こすのかを実感しだしたらしい。
以前と比べてかなり早く心が成長してきているのを私は嬉しく思った。


戦闘自体は弾をばら撒いて逃げるだけのものだったのでアキト君たちの怪我は無し。
ナデシコから引き離した後、回頭したナデシコのグラビティブラストで一掃して事なきを得た。


私は戦闘で遅れた分を取り戻す意味も込めて全力航行を進言する。
「サツキミドリに行く前に全力運転の試験をしたほうがいいんじゃない? 修理・改修が出来る最後の場所なんだし、不具合は全部出しておいたほうがいいと思 うわ」
「サツキミドリまで全力航行で約十六時間。通常航行で二十四時間。さっきの戦闘時間でのロスを考えると通常航行だと予定時間に遅れる事になります」
「困りますな〜。やはり予定は出来うる限り守るべきですし……」
私の言葉の跡を継ぐルリルリに、そう言って計算しだすプロスさん。
……いつも思うんだけど、どういう計算しているの?
「そうですね……。確かに今後の航海の事を考えると補給と整備・改修は時間をとりたいですね。ではミナトさんの提案の通り、全力航行試験を兼ねて最大船速 でサツキミドリに向かいたいと思います」
「は〜い」
「了解」
「了解でーす」
『了解だ!』
「判ったよユリカ」
誰がどの返事かは多分判ると思うのであえて言わないけど……。副長、ブリッジに居るのに台詞少なすぎ(涙)
「ルリちゃん、最大船速での加速と減速のタイミングの計算をお願い!」
「はい」
ルリルリが加減速タイミングを再計算する。
「ミナトさんは再度コースの確認をお願いします!」
「りょ〜か〜い!」
ルリルリの計算結果に従ってコースを再確認する私。
「ウリバタケさんは相転移エンジンをお願いします」
『あいよ! 任せときな!』
自信たっぷりに言ってコミュニケを切るウリピー。
「メグミさんはサツキミドリに連絡して予定より早くつく事を伝えてください!」
「了解です!」
そう言ってコンソールを操作するメグちゃん。……今回は無事かしら……?
「こちら機動戦艦ナデシコ。サツキミドリ応答願います」
『こちらサツキミドリ。感度良好。いやー、可愛い声だねぇ』
向こうの通信士は今回も軽い男らしい。ま、しかたないか。
「あらやだ。えーと、ナデシコはあと一時間後にそちらに到着します。予定到着時刻より少し早いですが整備と補給をお願いします」
『悪い、そりゃ無理だわ』
「え?」
前回と違う回答に聞き耳を立てていた私も顔には出さずに驚く。
『今木星蜥蜴どもに襲撃受けてる真っ最中だから』
「……え?」
よく聞くとBGMに「避難状況はどうなっている!?」とか「Dブロック破損!」とかの声が聞こえる。
「メグミさん、どうしました?」
絶句したメグちゃんに気づいた艦長が尋ねてくる。…って遅いって、反応するの。
「それが……、今サツキミドリが木星蜥蜴に襲われてるって……」
「ええ〜!?」
艦長が叫ぶ。ま、当然よね。
「すぐに救援を!」
「どうやって〜? 全力航行で一時間かかるのよ〜?」
艦長の言葉に質問で返す私。
こうならない為に急いだのに、間に合わないの!?
いつもの表情とは裏腹に、私は心の中で自分をののしっていた。
「え、え〜とそれは……」
しどろもどろになる艦長に助け舟が舞い込んだ。
『話は聞いたぜ!』
ウリピー、貴方どうやって聞いていたのかしら? あとでじっくりと聞かないとね?
『先日鹵獲したデルフィニウムのブースターを砲戦フレームに脚部ブースターパックとしてつけてみた! コイツならナデシコで向かうより早く着くはずだ!  こんな事もあろうかとイジっておいた甲斐があるってもんよ!』
……普段いったい「どんなこと」を考えているのかしら、ウリピー……。
それはさておき、私はふと思いついた疑問を投げかける。
「そういえば昨日は気づかなかったけど砲戦って宇宙に出しても大丈夫なの!?」
『ああ! 一応大気圏用の陸戦・空戦・砲戦ともアサルトピットは対BC兵器用に完全密閉できるようになっている! これにパイロットスーツを組み合わせれ ば宇宙空間でもへいちゃらよ! 0G戦フレームがありゃあ良かったんだが、アレはサツキミドリで積み込む予定だったからな。コイツで受け取りに行くっきゃ ねぇ!』
「でも、ヤマダさんやアキトは宇宙空間での戦闘経験は無いんでしょ!? 大丈夫なんですか!?」
艦長の危惧ももっともだろう。
『『ダイゴウジ・ガイ』だ! 俺はシミュレーターなら経験はある! 実機はまだだが、アキトのようにずぶの素人って訳じゃない!』
『俺は火星で俺は火星で重機ぐらいしか動かしたことがないぞ! 空を飛んだのだってトビウメの一件が初めてだ!』
ヤマダ君はまあ、パイロットなんだから訓練を受けててもおかしくないけど、アキト君はついこの間までコックだったんだから無理よね〜。
『その辺に関してはオモイカネに遠隔制御できるようにしてある! 向こうに着いたらアサルトピットを0G戦フレームに載せ代えてもらえばいい!』
「オモイカネ、出来る?」
<OK!><問題なし!><大丈夫!><まーかせて!><やってやるぜ!>
質問したルリルリの周りに即座にウィンドウが乱舞する。
「では、先行でエステバリスを射出後、ナデシコは最大戦速でサツキミドリへ向かいます! 各員直ちにディフェンスコンディション1で戦闘待機!」
「『「「「『『了解!』』」」」』」


結局、アキト君が砲戦フレーム(ブースター装備)に乗ってヤマダ君の陸戦フレームを輸送する事となった。
アキト君の腕前じゃ回避なんてうまくいく確率が低いからむしろ重装甲の方がいいだろうというウリピーの提案が大元だ。
アキト君を陸戦に乗せてヤマダ君を砲戦にと言う案もあったけど、もし宇宙に放り出されたら助かる確率がヤマダ君よりはるかに低いので却下。
これで一直線にサツキミドリへ向かってサツキミドリ到着後、すぐにアサルトピットを換装、出撃という作戦になった。

『テンカワ・アキト!』
『ダイゴウジ・ガイ!』
『『発進!』』
そう言ってカタパルトから射出される二人を見送った後、ナデシコも全力加速を開始した。
「コロニーサツキミドリ二号に向けて最大戦速!」
「「「「「「了解!」」」」」」



『くっそぉ!援護はまだか!?』
『近くまでナデシコが来てる! もう少しの辛抱だ!』
サツキミドリ守備隊の苦戦が続く中、心が折れそうになっていく彼らに届くのはナデシコからの援軍だった。
『聞こえるか、サツキミドリ!? こちらナデシコ所属のエステバリスだ!!』
振り向いた彼らのモニターにはブースターの光を伴って接近する砲戦フレームが見えた。

『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
オモイカネに制御されたブースターで加速中の砲戦フレームからアキト君が撃ち出した120mmカノン砲から撃ち出された榴弾が唸りを上げる!
炸裂弾頭が無人兵器の真っ只中で炸裂し、無人兵器を残骸に変えてしまう。
アキト君の砲戦の両肩から射出されたミサイルが次々に味方機に襲いかかろうとしていた無人兵器に命中するのを私たちはモニターで見ていた。
それを見たサツキミドリのクルーが、
『援軍!?』
『来てくれたぞ!』
『遅えんだよ、コンチクショウ!』
一気にテンションが上がり、撃墜数を上げていた。

『ゲキガンパァァァァンチ!』
アキト君の砲戦フレームに片手で取り付いているヤマダ君の陸戦フレームがワイヤードフィストを使って敵機を落としていく。
『サツキミドリ! そちらに0G戦フレームの余りはあるか!?』
ヤマダ君がサツキミドリに通信を開く。
『あ、ああ! 格納庫に二機分あるぞ!』
『よし! アキト! このまま格納庫に向かえ! 俺のエステのアサルトピットを搭載するぞ!』
『おう! って、俺はどうすれば!?』
通信を聞く限り、すっかり熱血しているアキト君。
『ばっかやろう! お前はまだ0G戦の経験が無いだろうが! お前はそのまま砲戦フレームで後方援護だ! 昨日のナデシコでのやり方と一緒だ! 足場が無 けりゃ動けないだろうが!』
『わ、解った!』
……意外と冷静な判断するのね、ヤマダ君……。
『格納庫への進路確認! オモイカネ、頼むぞ!』
<まかせて!>
アキト君の言葉に反応して砲戦フレームのブースターを制御するオモイカネ。
『くそっ、進路がずれてる!』
『いくらオモイカネでもこの距離じゃ完全な遠隔操作なんてできっこない! アキト、ブースターを切り離せ! アンカークローで格納庫付近のでっぱりを掴む んだ!』
『了解!』
そう言ってブースターをパージするアキト機。
『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
伸ばしたアームが格納庫の入り口の枠を掴み、それを巻き上げて格納庫に飛び込む二機。
『よし! アキト! 俺のエステのアサルトピットを0G戦に載せかえる! 手伝え!』
『おう!』
そう言うとヤマダ君は自分のアサルトピットを陸戦から切り離す。
切り離されたアサルトピットをアキト君が掴んでサツキミドリの整備班の指示する0G戦フレームへと取り付ける。
ヤマダ君のエステのメインカメラに火が入るとすぐにヤマダ君は飛び出して言った。
『ガイ!』
『アキト! お前は弾の補充をしてからサツキミドリの砲台の代わりをしていろ! ひっさぁぁぁぁぁぁつ! ガァイ・スウパァァァァァ・ナッ パァァァァァァァ!』
『解った! すいません! 早く弾の補給を!』
『おう! まかせろ!』
アキト君の言葉にサムズアップして答えるサツキミドリの整備班。
すぐさま、アキト君の砲戦フレームは再出撃の準備を整えられ、格納庫の入り口に固定した機体からミサイルと榴弾を撃ちだすのだった。


アキト君たちの活躍を見ながら、私たちもサツキミドリへ急いでいた。
「ミナトさん! ナデシコはどうですか!?」
「悪くは無いけどディストーションフィールドにエネルギーを回したままだから加速がいまいち伸びないのよ!」
「このままの速度ですと接敵まで十二分」
ルリルリの言葉に何かを考える艦長。
「そうですか……。ルリちゃん、ディストーションフィールドカット! その分のエネルギーを加速側にまわして!」
「ほ、本気ですか艦長!? そんな状態では被弾したらお仕舞いですよ!?」
慌てるプロスさん。
気持ちは判るけど……。
「敵の射程に入る前にフィールドは張りなおします! 今は少しでも時間を稼がないと!」
その台詞に私たちは反応した。
「了解」
「まかせて!」
ルリルリがエネルギーをまわした相転移エンジンが出力を上げる。
そして本当の意味での全力航行に移ったナデシコは一気に加速して行った。
「ナデシコ、全力加速中。接敵まで後七分」
『今のところエンジンには異常は無いぜ』
ルリルリとウリピーの言葉に頷く艦長。
「では後三分だけ全力加速! その後ディストーションフィールドを張った状態にして再度加速します!」
「「「『了解!』」」」
ブリッジクルーとウリピーの声が唱和し、ナデシコは戦闘宙域に向かって加速する。
「ルリちゃん! さっきのやり方で到着は何分後!?」
「約八分五十秒です」
「メグミさん、サツキミドリに後十分だけ堪えてもらうよう連絡!」
「了解! サツキミドリ聞こえますか!? こちらナデシコ! サツキミドリ、応答願います!」
『こちらサツキミドリ!』
「こちらはナデシコです! あと十分でそちらに到着しますのでそれまで頑張って!」
『OK、OK!君みたいな可愛い声の娘と生で会うまでは死ねないね! おら聞こえるか野郎ども! 後十分でナデシコが来る! 諦めるんじゃねぇぞ!』
そんな通信の向こう側で『了解!』とか『待ってたぜ!』なんて声が聞こえてくる。
前回よりも対応がいいサツキミドリに少し感心する。
前回は気づくことすらなかったもんね〜。
私はそんな事を考えながら、ナデシコをサツキミドリに向けて加速させていった……。


『くそっ! まだか!? まだ来ないのか!?』
アキト君が焦れた様に叫ぶ。
「アキトさんもう少しで射程圏内に入ります。もう少しだけ頑張って!」
メグちゃんが焦れるアキト君を宥めていた。
……ヤマダ君は絶好調で体当たり系の攻撃を繰り返しているらしい……。
うれしそーな笑い声しか聞こえないからだ。
あまりに五月蝿いので六対一の多数決により音声はカットされている。
「ルリちゃん、グラビティブラスト収束モードでスタンバイ! 射程に入ると同時に木星蜥蜴が一番密集している場所に撃っちゃって! でもコロニーやヤマダ さんたちには当てないように!」
「了解」


そろそろアキト君の砲戦フレームもミサイルや120mm弾が底をついてきたため、また補給に戻ろうと考えた瞬間、突っ込んでくるバッタに気づいた。
『しまった!?』
格納庫に飛び込ませまいと入り口で仁王立ちになり、ワイヤークローを構えるアキト君。
しかし、そこに黒い輝きが走った。
その直後、その輝きを浴びた無人兵器たちが一斉に爆発する。
『え?』
「アキト君! 大丈夫!?」
『ミナトさん!』
私の呼びかけに嬉しそうに答えるアキト君。
「アキトさん、ヤマダさんに後退を連絡してください」
『へ? なんで?』
ルリルリの通信にハテナ顔になるアキト君。
「いくら呼びかけても無視されるんですよ〜! アキトさんの話なら聞いてくれるんじゃないかと思って〜!」
メグちゃんの涙ながらの訴えは通信士としてどうかと思うんだけど……。
『わ、分かった。おい、ガイ!』
『何だアキト!?』
『ナデシコから通信入ってるぞ! ちゃんと出てくれ!』
「ヤマダさん! ナデシコの射線から離れてください!」
『ちっがーう! 俺はダイゴウジ・ガイだ! ヤマダ・ジロウではない!』
……もしかして、『ヤマダ』って呼んでたから無視してたわけ?
「ルリルリ……、あそこに居るのはナデシコのクルーじゃないそうだから、遠慮なく撃っちゃってもいいんじゃない?」
「そうですね」
即答するルリルリ。結構怒っているらしい。
「だめですよ〜! ヤマダさんはユリカの王子様なんですから〜! プンプン!」
「でもあそこには『ヤマダ・ジロウ』君はいないらしいから撃っちゃっても問題ないでしょ?」
事態を理解していない発言に、呆れて反論する私。
「そう思います! 答えてくれないって事はすでに戦死しているって事で!」
メグちゃんも何気に酷い事を言う。
「グラビティブラスト発射」
無表情のルリルリが前置きも無くグラビティブラストを発射した。
『ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
ブリッジに響くヤマダ君の声はそのまま断末魔の叫びと……なってくれたらどれほど良かったか……。

発射されたグラビティブラストは木星蜥蜴の大半を撃破し、辺り一帯に残骸が漂っていた。
その中にどうにか直撃を免れたヤマダ君のエステもあったが……、一人を除いて誰も心配するブリッジクルーは居なかったのは当然の結果かもしれない。


とりあえず、アキト君はそのまま格納庫へ引き返し、ヤマダ君は……、戦闘を終えたサツキミドリの防衛隊のエステに曳航されて格納庫へ戻っている途中だっ た。
各ブロックから艦内情報がブリッジに上がってきている中、サツキミドリから連絡が入る。
『こちらサツキミドリ! レーダー圏外ギリギリに木星蜥蜴の戦艦らしき反応があった! そっちをなんとかしてくれ!』
「了解です! ミナトさん、進路を木星蜥蜴の戦艦らしき反応の場所へ! ルリちゃんグラビティブラストチャージ! 敵戦艦であった場合、これを撃破しま す!」
まだ戦闘状態を維持していたブリッジは艦長の言葉にすぐに反応する。
「りょ〜かい!」
「了解」
私とルリルリは返事をして操艦を開始する。
「艦長、アキトさんとヤマダさんはどうしますか?」
「ん〜、とりあえずサツキミドリの護衛を続けるように伝えてください」
メグちゃんの質問に、頤に指を当てて一瞬だけ考えて指示する艦長。
「目標ポイント確認。木星蜥蜴のカトンボが一隻居ます」
「グラビティブラストでやっちゃってください!」
ルリルリの報告にすかさず発射命令を出す艦長。
「了解。ポチっとな」
だからそのネタは何処で仕入れたのよ、ルリルリ。

そして木連の戦艦は爆散して━━━━今回のサツキミドリ二号は、無事とはいいがたいが守る事はできたのだった。



「いちまいだ〜、に〜まいだ〜、さんまいだ〜、おしまいだ〜」
私たちはナデシコをサツキミドリに接岸したあと、お葬式をやっていた
今回は全滅せず、数十人の死亡で済んだサツキミドリの襲撃だったが、坊主や神父がいないと言う事で今回も艦長がお坊さんをやっていた。
ウリピーたち整備班は全力運転と戦闘の結果、相転移エンジンとディストーションブレードに不具合が発生したと言う事で、修理・改修を行っているのでここに はいない。
もっとも、不具合と言っても構造的欠陥ではなく、制御側部品が部品不良を起こしていただけとの事でそれほど時間は掛からず修理は可能と言うことなのでまず は一安心。


「じゃあ、またね」
「『また』ですか……。会えるかどうかは判りませんよ?」
私の言葉にイツキちゃんが苦笑して返す。
イツキちゃんはここでナデシコを降りるのだ。
そして地球に戻る際、エステやナデシコの改修案のデータを持って行ってもらう。
それが、ネルガルと軍の決定だった。
ちなみにウリピーが分解したデルフィニウムに関しては御咎め無しと言う事になったそうである。
ネルガルのエステのほうが性能がいい以上、残しておいても意味は無いと考えたのだろう。
「大丈夫よ。きっと会えるわ」
「だといいですけど……」
差し出した私の手を軽く握って彼女は連絡シャトルに乗り込んでいった。



お葬式もひと段落つき、ブリッジクルーは交代で休憩を取っていた。
艦長はヤマダ君の所に。メグちゃんは展望室だった。
とりあえず、周辺監視はオモイカネでも問題ないので、艦内を色々と見物していた私たちは展望室に居るメグちゃんとアキト君を見つけた。
「あらあら。な〜にを話してるのかしらね〜?」
「覗き見なんて良くないですよ」
「またまたぁ〜。ルリルリだって気になるでしょ〜。ファーストキスをあげた人が他の女性に気をとられるなんて〜」
ルリルリは一瞬で真っ赤になった。
だいぶ感情を出せるようになってきたといっても制御はまだまだか……。
「じゃ、ちょ〜っと何を話しているのか盗聴いてみましょうか? オモイカネ、お願い」
<了解>
そして映し出された画面の中では、ひざを抱えたメグちゃんと並んでアキト君が座っていた。
『みんな、何人も人が死んだのにどうでもいいって顔してるな……。そういうの、悲しんでいるのは俺だけみたいだ……』
『私だって! 人が死んだら悲しいですよ……』
『メグミちゃんぐらいかな……、そんな風に思っているのは……』
アキト君……。やっぱりつらかったのね……。
『俺はさ……、火星に、ユートピアコロニーにいる時に木星蜥蜴の攻撃を受けたんだ……』
『え!? でもユートピアコロニーって……』
『そう。もう壊滅してる……。俺はそこのシェルターの中に非難しているときにそのシェルターの中に木星蜥蜴のバッタが入り込んできて皆を焼き尽くしたん だ……。俺がみかんをあげた女の子も……。『今度デートしよう!』なんてマセた子だったけど。そんな子すら助けられなかった……。気がついたら俺だけ地球 に居たんだ……』
無言で風景を見つめるメグちゃん……。
その(厚みの少ない)胸に何を思っているのかしら……。
『俺だけ助かってしまった事をすごく後悔したよ……なんで俺だけ、なんであの子を助けられなかった、って……。それからは近くで戦闘が起こると怖くて震え が止まらなくなって、勤め先を何度もクビになって……。ナデシコに雇われてミナトさんやルリちゃん、ガイにウリバタケさん……、みんなに出会って少しだけ そう言う怖さが無くなって初めて……俺一人だけ何でこんな苦労しなくちゃならないんだ、って思うようになったんだ……。親父たちはテロに巻き込まれて殺さ れて、住んでいたコロニーは破壊されて、職場はすぐにクビになって……。なんで俺一人って……』
そう言って草の上に寝転ぶアキト君。
そのアキト君の頭を優しくなでるメグちゃん。
『一人じゃないですよ』
跳ね起きるアキト君。
それを見て微笑むメグちゃん。
『ゴメン……変な愚痴聞かせちゃったね……』
『謝ること無いですよ。……誰だって甘えたい時ってあるもん……』
『……そうだよな。俺、甘えてたんだ……』
そう言って立ち上がるアキト君。
『ありがとう。俺、頑張るよ。パイロットとしてもコックとしても頑張ってみる!』
『うん! 頑張って!』
メグちゃんも何かを吹っ切ったようにいい笑顔でアキト君に返す。
これでメグちゃんの悩みが消えるといいけど……。
「アキトさん、悩んでいたんですね……」
「そうね……。アキト君は今まで本当に身近で人が死ぬのを何回も見てきたから……。きっと今回のことも、全く知らない人が死んだ事で心を痛めていたの よ……」
「アキトさん……」
ルリルリが心配そうにつぶやく。
「ねえ、ルリルリ。今日はアキト君と一緒に寝ようか?」
「え!?」
「アキト君を元気付けるために、ね!?」
耳まで真っ赤になるルリルリにウィンクして承諾させる。
「……は…い……」


『そうだ、メグミちゃん。愚痴を聞いてくれたお礼に何かおごるよ。何がいい?』
私たちの会話をよそに(向こうに聞こえていないのだから当然だが)アキト君はメグちゃんと話を続けていた。
『え? ……そうですね……。じゃあ、行きたいところがあるんですけど一緒に行ってくれません?』
『いいけど……。何処に?』
『ふふ、ひ・み・つ。じゃあ、行きましょう!』
そう言ってアキト君の手を引くメグちゃん。
どこへ行く気なんだか……。
ルリルリもなんだか怒っている様だから、一線は越えさせないようにしないとね〜。


『ここは?』
アキト君が連れて行かれたのはヴァーチャルルーム。
なるほど、ここでデート気分を味わおうって事ね……。
で〜も〜、そうは問屋が卸さないわよ〜。
『ヴァーチャルルームです。色々なシチュエーションを設定して遊ぶ事が出来るんですよ。はい、これ被って下さい』
『うわっ!?』
ヘッドセットを被らされたアキト君が驚きの声を上げる。
『これで視覚に設定した情景を写して遊んだりするんです。一人じゃ来辛かったから私も初めてなんですよ』
『そ、そうなんだ……』
辺りをキョロキョロ見回すアキト君。
まるでドラ○ナーのD−○が首を振っているみたいでちょっと笑ってしまった。
『じゃ、始めますよ』
そう言ってメグちゃんがスイッチを入れると、アキト君たちの視界が変貌する。
「オモイカネ、お願いね」
<だーいじゃうぶ!><まーかして!>
最近、阿吽の呼吸になってきたオモイカネに指示を出して見守る事にした。

『え〜と、設定は二十世紀後半の高校。私たちは同じ部活の先輩後輩という設定です』
『部活って?』
そういえば設定を良く聞いていない事に気づいたアキト君。さてさて……
『え〜と…………。…………『イルカの曲芸部』……?』
『……は?』
『なによこれぇぇぇぇっ!?』
メグちゃんの叫びを聞きながら、オモイカネにサムズアップをする私に対してオモイカネも、
<(*^-^)b>
と顔文字で返してきた。
やるわね、オモイカネ……。

結局、まともな設定にならなかったのであきらめたメグちゃんだったが、まさかオモイカネがやっているとは露知らず、ヴァーチャルルームに悪態をついて帰っ ていった。



メグちゃんと別れた後、自販機でジュースを買おうとしたアキト君に声をかけるジュン君。
「ああ、いたいた。おーいテンカワ君」
「へ? あ、えーと確かブリッジにいた……」
「……副長のアオイ・ジュンだよ。ユリカが地球に来てからの幼馴染だ」
るーるーるー、と涙を流しながら自己紹介する影の薄いジュン君であった……。

二人っきりになったところで(私たちが覗いている事も気づかずに)話を始めるジュン君。
「君もユリカの幼馴染って聞いたんだけど?」
「ああ、そうだよ。アイツには何度殺されかけたことか……」
「殺され……って……」
「アイツの我侭に振り回されて負った重傷・軽傷は数知れず。用意してあったおやつを独り占めされたこともあったな……」
遠い目をするアキト君。
「そ、そうなんだ……。じゃあ今は好きじゃないのかい?」
「誰を?」
「ユリカを」

ブハッ!

思い切りむせるアキト君。まあ、当然だろうな〜。
「なんで俺が!?」
「違うのかい?」
「冗談! アイツは俺にとって『不幸を呼ぶ女(ハードラック・ウーマン)』でしかないっての! ……って、ジュン。お前まさかユリカの事……」
「何の事だい、テンカワクン?」
アキト君の質問に妙に裏返った声で返事するジュン君。
「……一応忠告しておくけど……。命が惜しかったら止めとけよ。お前、顔はいいんだから他の女だって探せるだろうに」
「ほっといてくれ」
……早いとこユキナちゃんに引き合わせなきゃ駄目かな〜?



サツキミドリでの補給と補修はまだまだ続く。
エステパイロットは0G戦フレームの慣熟を兼ねて周辺の監視と機動訓練と模擬戦を行っていた。
サブパイロットとしてアキト君も参加していたのは仕方ないか。
そして、サツキミドリで合流した他のパイロットはというと……

「え〜、この三人がここで合流する予定のパイロットの方々です」
「「「「「「「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」」」」」」」」」」」
艦長の言葉に整備班のテンションはいやがうえにも高まる。
「はーい! じゃあまずはアタシから! パイロットのアマノ・ヒカル。蛇使い座のB型十八歳! 好きなものはピザの端っこの固いところとちょっと湿気たお せんべいでーす! よろしくお願いしま〜す!」
「「「「「「「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」」」」」」」」」」」
さらに盛り上がる整備班。
……まあ、女っ気の無いところにパイロットの女の子が来るとなれば盛り上がるのも無理ないか。
「スバル・リョーコだ」
「え? リョーコちゃんそれだけ? じゃあ、アタシが代わりに教えてあげるね。まずスリーサイズは……」
ヒカルちゃんが話そうとした瞬間、慌ててヒカルちゃんの口を塞ぐリョーコちゃん。
「何でそういう要らない事を言うんだ、お前は!?」
しゃべれなくなったヒカルちゃんは「むぐむぐ」と何かを言おうとしている。
「「「「「「「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」」」」」」」」」」」
もうすでに無軌道な盛り上がりになっている整備班に呆れる私とルリルリ以下ブリッジクルーたち。
「次は私ね……」
そう言って一歩前に出るイズミちゃん。
直後、耳を塞ぐリョーコちゃんとヒカルちゃんを見てすばやく耳栓をした私は状況が解らないルリルリの耳をふさいだ。
そして……。
格納庫内に動いている者はイズミちゃんと耳を塞いでいた四人だけだった……。
全員が復帰したのは五分後である。

「勘がいいな、アンタ」
耳栓を用意してルリルリの耳をふさいだ手際に驚いているらしい。……知ってるから対処できたんだけどね……。
「そうかしら?」
とりあえずとぼけておくけど……、いつまでごまかせるかしら……。
「とりあえずアイツがマキ・イズミだ。ブリザード級のギャグを吐くから注意してくれ」
「りょ〜かい。で、私は操舵士のハルカ・ミナト。この子がオペレーターのルリルリ」
「ホシノ・ルリです」
やっぱり言い直すルリルリ。
「は〜い! ミナトさんにルリルリね〜」
ヒカルちゃんはさっそく「ルリルリ」と呼んでくれた。
「さてと、んじゃとりあえず飯にしたいんだが食堂はどこだ?」
「あ〜、アタシもアタシも〜!」
「そうね〜。もうお昼だし、私たちも行こっか、ルリルリ?」
「そうですね、ミナトさん」
四人で連れ立って行こうとしてふと気づく。
「あ、アキト君も連れて行かないと」
「そうですね、ミナトさん」
「アキト、ってのは?」
アキト君の事を知らないリョーコちゃんが聞いてくる。
「ここのコックさんなのよ」
「あ、な〜る」
ヒカルちゃんも納得してくれたらしい。
まだ凍りついていたので私とルリルリで両手を引っ張っていく。
……イズミちゃんもついて来たけど、今度はギャグを言わなかったので無事に食堂にたどり着けたのだった。

復帰したアキト君は皆の分の料理を作り終えて休憩に入り、一緒に食事をしていた。
ちなみに凍りついていた他のクルーも復帰して各々の持ち場なり食事なりに来ていた。
食事をしながらリョーコちゃんが質問してくる。
「で、今この艦に乗っているパイロットは?」
「それはこの俺! ダイゴウジ・ガイ様よ!」
リョーコちゃんの質問に暑苦しく答えるヤマダ君。
いつの間に食堂に来たの?
「本名、ヤマダ・ジロウです」
「ええい! それは仮の名だと言っているだろうが!」
ルリルリの突っ込みに反論するヤマダ君。……どうやらそれが原因で撃たれた事を忘れているようね?
「ヤマダ君?」
私が底冷えのする声で声をかけると途端に静かになるヤマダ君。
「な、なにか?」
「やっぱり直撃のほうが良かったかしら? だったら次の戦闘ではきっちり当ててあげるから。安心してね(はぁと)」
直後、私の足元に土下座して誤っているヤマダ君がいたのは言うまでも無い……。

さらに顔を上げた拍子に隣に座っていたルリルリのスカートの中をのぞいてしまい、整備班に袋叩きにされていたが……、艦長すら今回は助けなかったのは女性 同士の連帯と言うべきものであろう。

「後はコックと兼任しているテンカワ・アキトさんです」
「コックと兼任?」
ルリルリの言葉に驚くリョーコちゃん。
「IFSを付けている人が他にいなかったので、サブパイロットとして登録されています」
「うわ〜、大変だね〜」
ヒカルちゃんも驚きの表情を隠さず、食事を終えてお茶を飲んでいたアキト君の顔を見る。
「まあね」
そう言って苦笑いをするアキト君。
と、そのアキト君の襟首をリョーコちゃんがむんずと掴んだ。
「ま、コックと兼任とは言ってもパイロットなら訓練に行くぞ、テンカワ!」
そう言ったリョーコちゃんに文字通り引き摺られていくアキト君を見送る私たちに、オモイカネはBGMで『ドナドナ』をプレゼントしてくれた。
最近芸が細かくなっているわよ、オモイカネ……。



「ねぇ、副長。ちょっといいかしら?」
ブリッジに戻った私は今後の事を考えて、ジュン君に釘を刺しておく。
「なんですか、ミナトさん?」
「副長のお仕事のことなんだけど」
「はい」
「ちゃんと仕事してる?」
「え?」
言われた事が理解できなかったのか、ぽかん、とした顔で聞き返すジュン君。
「なんか見てると艦長の後を金魚の糞みたく憑いて回ってるだけに見えるから。トビウメの時だって何も考えずに艦長についていこうとしてたでしょ? 艦長が いないときのブリッジを預かるのが副長の仕事じゃないの? いくら艦長のことが好きだからってそれじゃストーカーと大差ないわよ?」
「うっ……、た、確かに。じゃなくて! 何で知ってるんですか!?」
……やっぱり気づいてないのね……。皆にすでに知られているって事に……。
「本人達以外みんな知ってるわよ。それに艦長、今はパイロットのヤマダ君にお熱でしょ。そんな人について回っているだけじゃ進展しないと思っているんだけ どな〜」
「で、でも副長の仕事は艦長の補佐であり……」
「艦長が悪さした時に諫めるのも副長の仕事でしょ。艦長が遊びほうけて溜まった書類を片付けるのが副長の仕事とは思わないけど」
「うっ!(ば、ばれてる!?)」
何でバレた!? みたいな顔をするジュン君。まあ、私の場合は『知っている』からなんだけどね……。
「どうせなら、艦長の分の書類仕事はきちんとやらせて、その分ブリッジにいるときにサポートすればいいんじゃない? 例えば全体の指揮は艦長、エステバリ ス隊の指揮を副長が執る、とか。そもそもいい加減なまんまじゃ誰もついてこないし、それは私たちの命の危険も意味しているんだから」
「なるほど……」
「これなら艦長の責任感も上がるし、副長の株も上がるし、ブリッジクルーとエステ隊とのコミュニケーションも円滑になるし、一石三鳥だと思うけど?」
「そうですね。それなら確かに戦艦としての運用効率も上がりそうです。ミナトさん有難うございます」
礼を言って立ち去るジュン君。
格納庫に向かった彼を待ち受ける運命は……、


「おらおら、そうじゃねえよ! そんな機動したら敵にやられるだろうが! テンカワの方がまだマシだぞ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!(涙)」
エステバリス隊の指揮をするならその機動を身体に叩き込むのが一番ということで、リョーコちゃんにしごかれるジュン君の姿があったとさ。
しかもIFSを打たれて(笑)。



あとがき

ども。「戦場の絆」でギャンを手に入れた喜竹夏道です。
まだ、基本五種類とギャンしか持っていません。
とりあえずドムとザクデザートが欲しいです。
目標はグフカスタムとザクF2とズゴックSとズゴックとマカクとゲルググ(G)!
でもこれ全部出そうとすると合計で四百回近く出撃しないと駄目なんだよな〜。(金額にして十万円くらい……)

前編でアキトの事を「テンカワさん」から「アキトさん」に呼び方を変えたルリルリ。
今回すでに話しかけるときに自然に「アキトさん」になってます。
でも今後のアキト×ルリの進展はゆっくりになる予定です。
まあ、予定は未定であって決定ではないのでいきなり進展しているかもしれませんが。

ヴァーチャルルームの話も本来ならもっと後なんですが、アキトとメグミが仲良くなる理由を作り出すためにここにもってきました。
しかし「イルカの曲芸部」。
知っている人は知っているかもしれません。あのネタです。
一体何をする部活なんでしょうか?(笑)

しかし戦闘描写は難しい……。
今回もかなり時間がかかってしまい申し訳ありません。






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