機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第八話 熱めの『冷たい解説者』 -後編-



火星でナデシコがチューリップに突入してから八ヵ月後……。

二二九七年十月、第四次月奪還作戦━━━━

後付のディストーションフィールドとグラビティブラストで木星蜥蜴の艦隊に応戦する連合軍第二艦隊。
後付ゆえにナデシコに比べてディストーションフィールドは弱く、またグラビティブラストもナデシコほどの威力・射程は無い。
だが、以前と比べ圧倒的に戦力を増した連合軍は木星蜥蜴の艦隊に拮抗する戦力を有していた。
一方的に蹴散らされるのではなく、対艦隊戦においてキルレシオを以前の1対30から1対1まで下げたのだった

グラジオラス艦橋にて━━━━
「前方のチューリップに重力波反応確認!」
「何!?」
オペレーターの報告に前方の中型チューリップを睨むグラジオラス艦長。
「反応から推測される大きさはヤンマサイズ以上の戦艦と思われます! 来ました!」
「来るなら来い! いざとなったらこのグラジオラスをぶつけてでも阻止してやる!」
そして開くチューリップ。
「重力波、さらに増大!」
オペレーターの声にブリッジに緊張が走る!
しかしチューリップの中に映った影は今までの木星蜥蜴の戦艦とは全く違うフォルムをしていた。
「あれは……!?」
驚きを隠しきれないグラジオラスブリッジの面々。
「まさか……あれは……」
中型のチューリップをこじ開けて出てきたのは……。
「「「「「ナデシコぉ!?」」」」」
その叫びと共にこじ開けられたチューリップが爆散し、周辺の木星蜥蜴の艦隊が誘爆したのだった。
火星でシグナルロストしたナデシコは、その爆炎をバックに地球圏に帰ってきたのだった……。


そのころ、ナデシコの艦内では……。
「本艦、通常空間に復帰しました。座標現在調査中。みなさん起きてください。おーい。、やっほー」
オモイカネと共に艦内を確認するも、ブリッジクルーはおろか、整備班や医療班、果ては食堂のメンバーまで眠っていた。
「起きて下さい。起きて下さい、皆さ〜ん。気がついたら直ちに自分の持ち場で非常警戒態勢に入ってください」
そしてアキトが食堂にいない事を知るや、艦内を一気にサーチする。
ようやく見つけたアキトはなぜか展望室でイネス、ユリカとともに眠っていた。
それもアキトとイネスが手を握って一緒にいるのである。
瞬時にコメカミに血管を走らせたルリはウィンドウを大量表示し、アキト達を囲むようにして声をかける。

『アキトさん、艦長、イネスさん、起きてください。おーい、やっほー』
その音量に目を覚ましそうになる艦長。
「う、ううん……」
とりあえずブリッジに艦長不在はまずいと思い、艦長を起こしにかかるルリ。
『艦長。艦長艦長』
うっすらを目を開けた艦長は……、
「え……? っっっっっうっ!?」
と、絶句した。
そこには『あかんべー』をしたルリの顔がいくつも浮かんでいたからである。結構シュールな光景だ。
『通常空間に復帰しました。艦長、何でそこにいるんです?』
表情を元に戻し尋ねるルリに、キョロキョロと辺りを見回す艦長。
「ん〜? なんでだろ? あ、ねえねえアキト。何で私達ここに居るの?」
未だに気絶している人間を揺すりながら聞くことではないと思う。
「ん、ん……。あれ、ユリカ……? 何でここに……っていうか何処だここ? 展望室?」
目が覚めたアキトもキョロキョロと周りを見渡すが、ここにいる理由は一向に判らない。
二人して首をかしげていると、いきなり何かに気づいたように艦長がアキトから距離をとる。
「はっ!? まさかアキト、私が美人だからって襲おうかと思って気絶した私をここに連れてきたの!? ダメだよ! 私にはヤマダさんと言う人が……」
「アホかい! なんでそんな事しなきゃならんのだ!?」
『艦長、いい加減指示を出して欲しいんですが』
二人の夫婦漫才に割って入るルリ。
「「へ?」」
『敵の真っ只中で漫才やってるほど余裕は無いと思います』
「「敵の真っ只中?」」
『これです』
ウィンドウにいきなりどアップで出てくるバッタ。
「きょえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「うおぉぉぉぉぉ!?」
奇妙な声を上げながらも状況を確認する艦長。
「ルリちゃん、状況は!?」
『現在、月付近。木星蜥蜴の機動兵器に囲まれています。あと、正面に連合軍の艦隊がいます』
「ディストーションフィールドを張って木星蜥蜴の艦隊に向けて回頭後急速後退! 距離が取れたらグラビティブラスト広域放射! 発射方向は連合軍の艦艇及び機動兵器を巻き込まない方向へ! 私もすぐにブリッジへ向かいます!」
火星へ向かう途中でこのような訓練をしていたため、いきなり攻撃をするようなことはしなかった。
実はこれもミナトが訓練シチュエーションに入れておいたために執れた反応だった。
帽子を被りなおし駆け出す艦長。
『了解。……それでアキトさん……いつまで手を握っているんですか?』
艦長を見送った後、微妙に殺気を滲ませてルリがアキトに視線を向ける。
「へ? って、あれイネスさん?」
色々ありすぎて未だに手を握ったままだったことにようやく気づくアキト。
『後でじっくり聞かせてくださいね?』
「ちょ、ちょっと!?」
消えるウィンドウに向かって叫ぶが聞き入れてもらえるはずがなかった……。



ディストーションフィールドとグラビティブラストを使って連合軍側に後退しつつ、連合軍の射線に入り込まないように移動するナデシコ。
今回は連合軍の艦隊を巻き込まなかったため、いきなり文句を言われる事は無かった。
「こちらネルガル所属、機動戦艦ナデシコ艦長のミスマル・ユリカです!」
「う、うむ。こちらは連合宇宙軍第二艦隊第四次月攻略部隊旗艦グラジオラスだ。貴艦のコードの照合も済んだが……火星でシグナルロストしたハズではなかったのか?」
フクベ提督の説得で火星への強行偵察を認めたものの、当初ナデシコを強奪しようとした連合軍と強奪されそうになったネルガルは決して仲がいいわけではなかった。
しかしナデシコの戦闘データから次々と新しいシステムを開発していったネルガルも、火星でナデシコがシグナルロストしたためにネルガルのみでコンバットプルーフを取れなくなってしまった。
だからこそ、後付用量産型ディストーションフィールドやグラビティブラストを実装した戦艦の戦闘データを渡すことを条件にネルガルと和解し、戦力をそろえることが可能になったのだが……。
「え〜と、それなんですが……ちょっと良く理解できていないので、後でイネス先生に『説明』してもらいます! 兎に角今はそちらの艦隊の援護に回ります!」
「判った。貴艦の参加を承認する。左翼の部隊の援護を頼む!」
イネスの『説明』が何なのか知らない彼らは戦闘終了後に己に降りかかる災厄を知らないため、普通に指示を出す。
「了解しました!」

第四次月攻略艦隊の戦列に並び終えたナデシコはチャージの終えたグラビティブラストの照準をつける。
「グラビティブラスト収束モード! ミナトさん! 『グラビティブレード』を!」
前方に味方のいない状況で一気に敵を叩きのめす方法を選択する艦長。
「りょ〜かい!! オモイカネ! 地球側の機動兵器たちがいない箇所は!?」
<ここです>
その指示に従い、照準を決めるミナトは即座に回頭準備する。
「グラビティブレード! いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!」
艦長の叫びと共に発射されたグラビティブラストは月の木星蜥蜴の艦隊の二割を撃破し、膠着状態を脱した連合宇宙軍がどうにか押し返し始めた。地球の反撃が始まったのだった。

「ナデシコの参戦で左翼の敵が崩壊し始めています!」
グラジオラスのオペレーターが戦況を報告する。
「よし! 左翼はナデシコを中心に敵を殲滅! その後は中央と右翼に戦力を分配し、各個撃破! これで月は奪還できるぞ!!」
「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」
艦隊指令の言葉に一気にモチベーションが上がるグラジオラス。
それは他の艦にも感染し、一気に戦線を押し上げ始めるのだった。

木星蜥蜴の殲滅を終えた左翼から回ってきた艦隊と合流し、二対一で砲撃を加えていく連合軍。
数パーセントの差が十パーセントとなり、二十、三十と加速度的に差がついてきて、ようやく全員が『この戦いに勝てる』と思うようになっていった……。



ナデシコ合流の一時間後……。
無事に敵を叩きのめしたナデシコのブリッジでは、エステで待機しているアキトが追及されていた。

「でぇも〜、なぁんで三人で展望室なんかにいたんですかぁ〜、アキトさぁ〜ん?」
『へっ!?』
微妙にヤキモチが入っているのかねっとりと聞いてくるメグミに素っ頓狂な声を上げるアキト。
「それは私も聞きたいです」
『ルリちゃん!?』
と、冷めた表情のルリに睨まれるアキト。
『知りたいな知りたいな〜』
嬉しそうに聞くヒカル。
『いやだから、俺もよく判らないんだってば!』
すでにパニックになっているアキトであった。
「なんで艦長やイネスさんと一緒にいたんですか? それも手まで繋いで。不謹慎です」
『なにぃ!? そんな羨ましい状況だったのか、テンカワは!?』
いつの間に通信を繋いでいたのか、ルリの言葉にウリバタケが吠える。だから妻子持ちだろ、アンタ。
「そーなんだよね〜。なんで一緒にいたんだろ? アキト、知ってる?」
『だから判らないって言ってんだろ!! ……そうだよ! イネスさんだよ! こういう時こそあの説明好きが現れてもいいハズだろ!? 
イネスさ〜ん!!
……しかし……。
<イネス睡眠中>
というウィンドウが無常に出た後、<しばらくお待ちください>になった。
『あれ? え? ちょっと?』
さあ、これでアキトの無実を証明する者はいなくなったわけである(笑)。
「『「『ジロ〜!!』」』」
『いやだから、俺は〜!!』
「『「『ジロジロジロジロ〜!!』」』」
ルリ・ウリバタケ・メグミ・ヒカルに睨まれ脂汗を流すアキト。
その姿はまるで四方を鏡に囲まれたガマのようである(笑)。見てる分には非常に面白い(大笑)。
『ジロジロジロ〜……。ヤマダ・ジロ〜……。ぷっ、くっくっく……』
『だから、俺はダイゴウジ・ガイ……』
「ヤマダく〜ん?」
『はい! すいません!!』
イズミの寒いギャグに反論しようとしたヤマダに即座に釘を刺すミナト。その声に即座に謝るヤマダであった……。……すっかりパブロフの犬化したようだ(笑)。
『あ〜! もう、うるせぇぇぇぇぇぇっ!』
それを吹き飛ばしたのはリョーコの叫びであった。
『テンカワが何処で何してようといいじゃねえか別に。俺はテンカワを信じる』
おお、格好いい。
でもそのセリフは……裏を返すとアキトはあまり信用されてないってことなのだろうか?
さらにこの状況でそのセリフは、ある人達をSに持っていくのに十分な効力を発揮したりする(笑)。
『『へぇ〜〜〜……』』
勿論その人達とはヒカルとイズミの二人である。
『な、なんだよ……』
二人に何かのスイッチが入った事に気づいたリョーコは身構えた。
『 『俺はテンカワを信じる』〜?』
『 『テンカワ』〜?』
この時の二人の目は火星で砲戦フレームに乗った時にリョーコを強請った時と同じ目だった。
『五月蝿いぞ、お前ら! 今は待機ちゅ……』
慌てて誤魔化そうとするも……。
『『 『テンカワ』、『テンカワ』、『テンカワ』、『テンカワ』、『テンカワ』、『テンカワ』!!』』
またも二人にからかわれるリョーコであった。
「敵、第二陣来ます」
三人の漫才に白けていた艦橋をルリの報告が一瞬で戦闘モードに移行させる。
「エステバリス隊、出撃をお願いします!」
『『『『『了解!!』』』』』
ジュンの号令にリョーコたちがカタパルトに移動し、アキトも出撃する。
ルリやメグミたちの追及をかわす目的もあったのだろうが(笑)。

そんなアキトにウリバタケから通信が入る。
『いいかテンカワ!? お前の機体は正直0G戦とは言えねぇ! 火星で共食い整備で使っちまったパーツの代わりに無理矢理陸戦のパーツを取っ付けただけだ! スラスター関係は0G戦のままだが腕や脚部のスラスターの無い部分は陸戦だ! 無理をするんじゃねぇぞ!!』
「は、はい! テンカワ・アキト、出ます!!」



カタパルトから射出されるエステバリスたち。
「各自散開! 各個撃破!」
『作戦は?』
リョーコの言葉に尋ねるヒカル。
「状況に応じて!」
『『『『了解!』』』』
宇宙の闇に消えて行くエステバリスたちの背中を見送るナデシコ。
そして、木星蜥蜴の第二陣との戦闘が始まった。


「本艦はフィールドを維持しつつ、そのままで! グラビティブラストのチャージは忘れずに!」
「「了解!」」
即座に行動に移すルリとミナト。
(でもなんであんなところにいたんだろ……? ブリッジにいたはずなのに……。でもどうせならヤマダさんと二人っきりで……)
戦闘中でも妄想劇場絶賛公開中なミスマル・ユリカ。
「あの〜、艦長。ちょっとお話しが……」
「な、なんでもありません! ……あ……」
妄想中だったため、慌てて反論する艦長であったが……、はっきり言って間抜けである。
『本社がお話ししたいと……』
苦笑いしながら用件を伝えるプロス。
「え?」
『ですから、本社が艦長とお話ししたいと申しておりまして……』
「しゃ?」


迫り来るバッタの群れに突っ込むナデシコのエステバリスたち。
『いっただきぃ!』
ライフルを撃ちながらすれ違い、さらにディストーションフィールドで体当たりを仕掛けるヒカル機。
しかし……。
『え〜、嘘〜!? 十機中三機だけ〜!?』
その言葉どおり、十機のバッタにライフルを浴びせ、フィールドで体当たりを敢行したにもかかわらず三機しか落ちなかったのだ。
『バッタ君もフィールドが強化されているみたいね……』
『進化するメカぁ〜!?』
イズミの言葉に驚愕するヒカル。
ちなみにヤマダからの通信は五月蝿いのでカットされていたりする(笑)。
その通信を聞きながらナックルガードを着けたリョーコ機がバッタをボコる。
「上等じゃねぇか……。ドツキ合いだったら、こっちのもんだ!!」
そしてリョーコ機の周囲で、ボコられたバッタたちが爆発する。
「それよかテンカワはどうした!? テンカワ!?」
『『え〜?』』
「ち、違うよ! アイツから通信が入ってこないんだ! テンカワ!? テンカワ!? どこだ!? テンカワぁぁぁぁぁっ!?」
次々モニターを切り替えて戦況を確認するリョーコ。
リョーコの言葉に、出撃時の『了解』以降アキトの声を聞いていない事に気づくヒカルたち。
『そういえば……』
『声を聞いていないわね……』
『まさかアキトの奴!?』
慌てて自分たちも周囲を確認し始めた。


その頃アキトは、バッタたちのミサイルから逃げていた。
逃げるアキト機に向かって放たれるミサイルたち。
そのコクピットの中でアキトは恐慌状態に陥っていた
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
『テンカワ応答しろ! おい馬鹿! 戦況を報告しろ!!』 
「うわぁぁぁっ! くそぉぉぉぉぉっ!」
やけくそで向けたライフルは全く有効打にはならない。
あっさりとフィールドに弾き飛ばされ、囲まれる。
そしてバッタたちの体当たりが始まる。
それは戦えない者をいたぶる、死のダンスのようだった……。


『うわあぁぁぁぁぁぁっ!?』
反応のなかった通信機からいきなりアキトの悲鳴が聞こえてきた事に他のパイロットたちが慌てた。
『アキトく〜ん!? もしもしもしも〜し!?』
『おいアキト!?』
『やばいわね……』
「おい、ルリ! アキトの居場所は判るか!?」
『はい! リョーコさんの現在位置から見て九時の方向! 上に45°の方向です! 距離1800!」
そちらへ機体を向けるリョーコのモニターにようやくアキト機が映る。しかし……。
『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
「テンカワ!? 大丈夫か!? すぐ行く! 待ってろ!」
動きが止まったアキトがあっという間にバッタたちに囲まれるのを見てリョーコが加速する。
『リョーコさん、アキトさんの機体が完全にバッタに囲まれています! 早く援護を!!』
ルリの声にさらに加速するリョーコ機。
『どうしたんだ俺……』
『アキト君!?』
何も耳に入らないように呟くアキトに、ヒカルが驚いたような声を上げる。
「落ち着けぇぇぇぇぇぇっ!」
しかしリョーコの叫びも届かない。
『手が……動かない……うわぁぁぁぁぁぁっ!!』
そうしている間にもバッタに襲われ続けるアキト機。
『手に『人』って言う字を書いて飲み込んで〜!!』
それは違うと思うぞ、ヒカルちゃん!
『アキトさん……。早く救援を!』
ブリッジに響くアキトの叫びに耐えられなくなったメグミがリョーコたちに叫ぶ!
「向かってるよ!」
叫ぶリョーコの声に思わず首をすくめるブリッジ。
「言われなくても向かってるよ!! でぇぇぇぇぇぇいっ!!」
フィールドアタックで一気にバッタたちを撃破するリョーコ。
『ゲキガンフレアぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
『……まだ死神に連れて行かせるわけにはいかないのよ……』
すぐ後を追いかけるヤマダたちもリョーコが落とし損ねたバッタたちを撃破しながらアキト機に近づいて行く。


「どうしちゃんたんだよ……。もう平気になったハズなのに……。怖くなんかなくなったハズなのに……。なんでだよ、なんで動かないんだよ!?」
心が恐怖に負けて震えていたあの頃のように、動けなくなっていくアキト。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
アキトの呼吸が荒くなっていく。
アキトを呼ぶルリやメグミの声が聞こえなくなる。
ユートピアコロニーで、クロッカス内部で、そしてフクベ提督の自爆で『リアルな死』を再度体感したアキト。
その恐怖が身体と心を蝕んでいた。
走馬灯のように思い出す、ユートピアコロニーの住人たちの死体、クロッカスのクルーの死体、そしてフクベの死に様……。
そして思い出す、ユートピアコロニーで助けられなかった少女の面影と、一面を埋め尽くす赤い目のバッタたち……。


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
バッタに囲まれ、頭を抱えて震えだすエステバリス。
「テンカワぁぁぁぁぁぁっ!!」
『アキトぉぉぉぉぉっ!』
それを見たリョーコとヤマダが加速する。
その視線の先にいるアキト機の周辺でいきなりバッタたちが爆発した。
「『『『え?』』』」
驚きに足を止めたリョーコたちの前にアキト機を連れたフォルムの違う蒼いエステバリスが現れたのだった。
サウンドオンリーで蒼いエステバリスから通信が繋がる。
『戻りたまえ! ここは危ない! 全員離脱したまえ! さあ!』
「誰だ!? 貴様は!? ああっ!?」
蒼いエステバリスが答える前にその背後を埋め尽くす爆発の炎に驚くリョーコ。


「敵、二割がた消滅しました……」
「嘘……」
ルリの報告とモニターを見ても納得いかないメグミ。
ミナトはこの結末を知っているので驚かなかった。
その威力に目を見張るゴート。
「第二波、感知しました。来ます!」
その言葉と同時に消滅して行く木星蜥蜴の戦艦群。
「すごい……」
「多連装のグラビティブラスト……」
ジュンの呟きにゴートが続く。
「えっ!? それじゃあ……」
心当たりがあるのか、驚くジュン。
「データベースに無い艦艇を確認しました。先程のグラビティブラストはその艦が発射したものです」
ルリの言葉に確信するゴート。
「完成していたのか……」
そこへ戻ってくる艦長。
「あ、ユリカ」
しかし、ジュンを無視して艦長はミナトに声をかける。
「ミナトさん、ナデシコをコスモスへ向けてください」
「コスモスって?」
知ってはいるが、まだ知らされていないのでシラを切るミナト。
「あっ、すいません。ルリちゃん、艦船のデータ更新できてる?」
まだ知らないことを忘れていた艦長はルリに確認を取る。
「先ほどグラジオラスの艦長に暗号通信で貰ったものをデコードしてます……。出ました。ナデシコ級二番艦『ND−002 コスモス』……。さっきの戦闘で多連装のグラビティーブラストを撃った艦です。種別は……ドック艦?」
「「ドック艦〜!?」」
聞いた事の無い艦種に驚くジュンとメグミ。
「じゃあ、そのドック艦に向ければいいのね〜?」
「はい、お願いします」
ナデシコはこうしてコスモスと合流するのだった……。


アキト機はコスモスとの合流前に蒼いエステバリスに付き添われてナデシコの格納庫に戻ってきた。
攻撃が出来ず、やられるだけだったアキトはその衝撃で気を失っていたのだった。
担架が用意され、すぐに医務室に運ばれていくのを他のパイロットたちは苦々しい思いで見送るのだった……。


ナデシコの接近を確認したコスモスは艦首を展開してドック艦としてのその姿を現した。
内部に光が灯り、誘導ビームが現れる。
「誘導ビーム確認」
「りょ〜かい。う〜ん、らくちんよね〜」
ルリとミナトの操艦によりコスモスへ収容されるナデシコ。
アキトも戦闘で気を失っていたため、ナデシコの医務室に運ばれていったのを聞いたルリはすぐにでも飛び出したいが、オペレートを放り出すわけにも行かないので大急ぎでやっている。。
一応パイロットスーツからのバイタルチェックに問題は無いらしく確認のためと言うことらしいが自分の目で見るまでは安心できなかった……。



ドック艦コスモスに係留された後、全速力で医務室に向かうルリ。
その速さはハーリーダッシュに勝るとも劣らない(笑)。
「アキトさん、大丈夫ですか!?」
医務室の扉をくぐって開口一番に出た言葉はそれであった。
「アキト君なら大丈夫。ちょっと頭を打って気を失っているだけよ」
「よかった……」
イネスの言葉に心底安堵するルリ。
例えマッドでも一応信用は出来ると言うことなのだろう。
「そこに座ってなさい。コーヒーでも淹れてくるわ」
そう言って出て行くイネス。

イネスが席を立って五分ほどした後、緊張から疲れが出たのかウトウトしだすルリ。
<ルリ、寝てていいよ。僕が見てるから。アキトが起きそうになったら起こすね>
「有難う、オモイカネ。でもだいじょう…ぶ……」
そう言ってアキトのベッドに身体を預けて寝てしまうルリ。
やはり心配と緊張が抜けた瞬間、気が抜けたようだ。



数時間後……
<ウォンウォンウォン!>
動物の鳴き声がルリの耳に届く。
眠っていたルリが目を覚まし、アキトのほうを向くとウィンドウの中に『犬』の文字が有り、それが吼えているのだった。
バイタルを見るとアキトは睡眠から覚醒状態に移行しつつあった。
……どうやら見張り→番犬(ウォッチドッグ)から連想してこういう方法を使ったようだ。
日に日に芸が細かくなっているのは……ほぼ100パーセントでミナトの教育の賜物だろう。しかしどこで犬の声なんてサンプリングしてたんだか(笑)。
その声に刺激されたか、それとももう起きていたのか、アキトが目を見開いた。
そして……
「よぉ……、カール……」
と言ってオモイカネのウィンドウ(犬バージョン)を撫でていた。
スッパァァァァァァァァァァン!
直後、アキトの頭に炸裂するイネスのハリセン。
いつの間に用意していたんだろう……?
「何てことをするんですか、イネスさん!」
「大丈夫よ。アキト君はちょっと記憶が混乱しているだけだから」
改めて気を失わされたアキトは五分ほどして目を覚ました。
その時には無事?に記憶は元に戻っていた。

医務室の扉の向こうでその声を聞きながらミナトは考えていた。
(けどまあ、最初はどうやって艦長をアキト君から離そうか、って考えてたけどヤマダ君のおかげですんなりいっちゃったし、予定より早くルリルリはアキト君を意識するようになったし……。少し予定を早めてもいいかな……?)
アキトとルリの様子を見てそう思うミナトがいた……。
ここから先は自分の持つ『未来の記憶』が何処まで通用するか判らないが、なんとしても皆を助ける、と改めて誓うミナトだった……。




あとがき

はっはっは。ようやく第八話終了の喜竹夏道です。
やっとこ中佐になりました。
でもザクSはまだです。

いや〜随分お待たせしてしまいました。
延びた理由ですが、前回投稿直後にバイクに乗っている時に交通事故に遭いました。
こっちが直進、相手が右折という典型的右直事故でした。一応責任割合は向こうが85でこっちが15。
ちなみに七年連れ添った愛車TRX850は廃車です。……フロントフォーク千切れてホイールやフレームも歪んでエキパイはつぶれてメーター類は全損だったので、保険で下りる金額ではどうしようもないんで……。
負傷は右手首・右踵・左大腿部・頭部、さらに股間の各部を強打し、二週間ほど歩くのもつらかったです(涙)。いや、ほんとに。
現在もまだ右手首・右踵・股間が痛く、特に股間は腫れが引かず、毎朝痛みで目が覚める有様です。
おかげで仕事も進まず、ゴールデンウィークは休日出勤でした。
とまあ、そんなこんなで遅れてしまいました。
どうかご勘弁を。
次のバイクはもう一度ゼファー750を買うか、あるいは100ccのスクーターでも買うか、と言うところで悩んでます。
皆さんも事故にはご注意を。
特に老人が運転する車は、バイクのスピードやサイズを理解していない人が多いので注意しましょう。

「アカツキが出るか!?」と期待した皆様、申し訳ありません。
名乗りを上げられるのは次回です。
さて第九話はアキトの秘密が明かされる!
その秘密とは!?
一応本編とは違う、驚けるような展開にする予定です。

しかし、『「よぉ……、カール……」』のネタ、判る人いるでしょうか?
あ〜、Fiat500欲し〜。
エンジンをスマートのエンジンに載せ換えたやつなら今の道路事情でも何とかなるだろうしな〜。
でも金が足りないな〜。







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