機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第十五話 遠い星からきた『彼ら』 PHASE−2
 
 
 
 
格納庫へたどり着いたミナトたちは、テツジンの脱出ポッドに乗り込んだ。
そして開いていないハッチを破壊して無理矢理発進しようとすると、ハッチが自動的に開いてゆく。
驚く一同の前でウィンドウが開き、ウリバタケが顔を見せた。
なんとウリバタケが逃がしてくれるというのだ。ミナトに銃を向けたアカツキに対する意趣返しだという。しかも脱出ポッドの中にはゲキガンガーのディスクが再生装置と手紙付きで置いてあった。その手紙には……。
『熱き魂を知る心の友よ、また会う日を楽しみにしている。ダイゴウジ・ガイ』
と、書いてあった。ヤマダがブリッジに来るのが遅れた理由はこれだったのだろう。
手持ちのディスクをコピーしていたに違いない。
「こんな……、こんなことまで……」
「急ぎましょう、白鳥さん!」
感涙に咽ぶ九十九を急かすメグミが指差した先ではハッチが完全に開き、月が大きく写っていたのだった。
「皆さん……ご恩は決して忘れません!」
そう叫ぶと九十九は二人の女性を乗せて発進したのだった……。
「でも私たちも乗り込む必要ってありましたっけ?」
「人質、ってことでいいんじゃない?」
機内でそんなのんきな会話をしている二人を同道させながら。
 
 
 
そして発進すると……。
「んに?」
なぜか操縦桿の下の隙間から寝ぼけ眼のラピスが出てきたのだった。
「ちょっちょっちょ、君は!?」
慌てる白鳥の言葉を聴いて覗き込んだミナトはラピスがそこにいるのに驚く。
「ラピス!? なんでここに!?」
ミナトの言葉に『ん〜?』と目をこすりながらラピスは答える。
「ジロウのよく見てるアニメに似てたから中で遊んでたら眠くなって……」
がくっ、と力の抜けるミナト。
「……で、そのまま寝てた、と?」
「だからブリッジに来なかったんですね……」
メグミの言葉に頭を抱えながら思わず納得するミナト。
「あ、あのハルカさん!? ど、どうなさいましょうか!?」
明らかに緊張しまくっており、声が上ずっている上に微妙に日本語が変である。女尊男卑な木連軍人であるため女性ばかりの狭い空間に慣れていないのだ(笑)。
「……戻っている余裕はないし……。仕方がないからこのまま行きましょう」
「そですね」
「ははははい! 了解しましたです!!」
「んに? どっか行くの?」
ミナトの言葉にメグミが同意し、緊張しまくりながら九十九が操縦する。ラピスはよく判っていないのか寝ぼけた返事をする。
 
そして脱出ポッドは四人を乗せて木連の艦に向かって飛ぶのであった。
もちろん九十九は中腰である。
 
 
その後、木連の駆逐艦と合流した九十九は月の裏側の母艦まで移動し……ミナトたちは大歓待を受けるのであるがそれは後ほど。
 
 
 
そしてミナトがいなくなったナデシコは月へ向かう途中のコロニー『サツキミドリ1号』で足止めをされていた……。
「整備班は何やってるの!? 資材の積み込みぐらい五分で終わらせなさい!!」
『無茶言うな! 緊急発進したから積み込みが中途半端な上にアキトがいないから重機を扱える奴の数が少なくて大変なんだからな!』
エリナの言葉にウィンドウの向こうのウリバタケは悲鳴を上げる。操舵士であるミナトがいないため、エリナが担当しているのだ。
━━━なぜまだ月に到着していないのか? 実はカワサキシティのドックでは資材を積み込みきれなかったため、月に行く途中のサツキミドリ1号で再度積み込みとなったためである━━━
「知ったこっちゃないわよ! お姉さまが拉致されたのよ! あの木星人、今度あったら射殺してやるわ!」
「ええ、それには激しく同意しますわ! 逃げてもクリムゾンのSSに追跡させます!」
そしてエリナの言葉に全力で頷くアクア。二人の目は据わっていた。据わりすぎて艦長であるユリカや提督であるカグヤが指示を出すことすらできないくらいに。
ウリバタケも焦っていた。まさか九十九にミナトたちが付いて行くとは思わなかったからアカツキへの意趣返しとしてハッチを空けたのだ。
そのアカツキは未だに医務室に転がっていたりするが誰も心配しちゃいない(笑)。
「ルリちゃん! ラピスちゃん! キラちゃん! 航路計算をお願い! 最速でぶっ飛ばすから!!」
「ラピスちゃんいないよ」
エリナが緊急発進しようとしているが、キラの言葉にブリッジに焦りが走る。
「「「「なんですってぇ!?」」」」
「んとね、オモイカネが言うには、あのポッドの中で遊んでたって」
『なにぃ!? そりゃ本当か、キラちゃん!?』
「うん」
ウリバタケの言葉に肯くキラ。
『おら手前ぇら! 何モタモタしてやがる!? ラピスちゃんが拉致られたんだぞ!』
『『『『『了解!!』』』』』
ウリバタケの言葉に整備班の速度が上がった。
「航路計算出ました」
ルリの言葉にすかさず操舵士用のコンソールを確認するエリナ。
「相転移エンジン出力安定! ウリバタケ! まだなの!?」
『三分待てぃ! なんとしても間に合わせてやる!!』
かつて……戦闘中でもないのにここまでエリナとウリバタケの息が合ったことがあっただろうか? いや、無い!(反語)
 
そして三分後。
ウリバタケの宣言通りナデシコは出港するのであった。
 
 
 
━━━カワサキシティにテツジンが現れる二週間ほど前━━━
アキトが月に現れた事で月のネルガルが大騒ぎになった。
それはそうだろう。現在地球にいるはずの人間が月にいて、しかも未来から来たと言い、さらにアキトが現れた直後から地球とは連絡も取れないため本社の意向も確認できず、直接地球に向かうにも軍に対してどう言えば良いのかも不明。
そんな状況ではアキトが不審人物として扱われるのは当然であった。
 
結局アキトは身元が判明するまでの間、ネルガルの月の食堂を経営する夫婦のお世話になる事になったであった。
 
━━━実は現在、月にはハーリーがいるのだが、会長命令により許可の無い人物を近づけないようになっているため、アキトの面通しが行われる事は無く、疑いが晴れる事は無かったのだった━━━
 
 
 
そんな混乱した状況を歓迎する一団がいた。
北辰と愉快な仲間たち(笑)である。
「隊長、なにやら都合良く騒ぎが起こってくれて助かりましたね」
「うむ。これで労せず中に入れたからな。さて……皆の者、やる事は解っているな?」
頷く北辰は全員に確認をする。
「「「「「「ハッ!」」」」」」」
「では、散!」
その声と共に散開する七人。
情報を収集する者、破壊工作を行う者、色々なサンプルを回収する者……。
潜入工作のプロである以上、その動きはすばやくそつが無かった。
また情報を入手するたびに自分たちの痕跡隠しとして小さな騒ぎを起こし人の目をそちらに向け続けた。
結局一日中ネルガルの月施設は騒ぎが収まることはなく、北辰達が通信施設を破壊したことで身元の照会のできないアキトはその日一日独房に監禁されていたのだった(笑)。
 
 
 
そんな騒ぎに乗じて必要な物を入手した北辰一味は脱出の準備を始めるが、北辰は部下を先に送り返した。
個人的に探したい物があった北辰が自分で残ったのだった。
 
 
警備が手薄になっていたネルガルの施設に忍び込み、情報を得ようとするが自分たちの端末ではクラックが不可能なほどシステムが高度だったためアナログ的な情報収集に変更した北辰は、ついでに施設を完全に吹き飛ばそうと爆弾を仕掛ける場所を探し始める。
そして持ち運び可能な端末を見つけ、情報を抜き出すために安全な場所を探して通路を歩いているとこの施設には似つかわしくない子供━━━ハーリー━━━が自販機のボタンを押そうと手を伸ばしているところに出くわしたのだった。
(なぜこんな子供がこんな時間にこんな場所に?)
時刻はすでに深夜であり、何故子供がここにいるのかは判らないが、どうやら自販機のボタンに手が届かないようであった。
不用意に地球人と接触するのはまずいと思い物陰に身を寄せる北辰。
しかし、ここで見て見ぬ振りをするのは卑劣な地球人と同列になる、と考えなおし声をかけた。
「どうした少年。どれを押したいんだ?」
いきなりかけられた声に驚いて振り向くハーリーだが、北辰に気づいて会釈した。
「え? あ、どうも……。えと、そこの高菜バーガーっていうやつなんですけど……」
「ふむ。これだな?」
北辰はそう言ってハーリーが指差したボタンを押してやる。
「あ、ありがとうございます」
取り出し口からハンバーガーを取り出したハーリーが嬉しそうに礼を言う。
「気にせずともよい。しかしなぜこのような時間にここにいるのだ?」
「え? だって仕事ですし」
この施設にいる人間はほとんど全てが自分のことを知っていると思っていたハーリーは北辰の言葉にきょとんとして答えるが、北辰はその言葉に驚いていた。
(仕事!? このような幼い子供まで働かせるのか!? 悪の地球人め!!)
「そ、そうか……」
動揺を押し隠し、平静を装う北辰。
「だが大人に任せてもいいのではないか?」
至極まっとうな意見だが、その言葉に首を振るハーリー。
「……同じ仕事が出来る大人がいればそうなんでしょうけど……ボクと同じか、それ以上の能力を持っている人がここには他にいませんし……。戦争で好きな人や家族に死んでもらいたくないと思ったら、やれる事をやるだけでしょう?」
(な、なんと家族思いな! 本当に悪の地球人なのか、この子は……?)
感動に打ち震える北辰は不審に思われない程度に態度を変えてその場から離れようとする。
「そうか……、強いのだな少年。では仕事を頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます! ええと……」
立ち去る北辰に礼を言おうとして名前を聞いていない事に気づくハーリー。
「……北辰だ……」
「あ、はい! ボクはハーリーと言います! ありがとうございましたホクシンさん!」
そう言って礼をいうハーリーに北辰は鷹揚に答えた。
「うむ、達者でな」
そう言って離れていく北辰。
(あのような子供がいるとは……。施設を丸ごと爆破するつもりであったが、そうもいかぬか。今回は施設の機材の破壊だけにとどめておく事にしよう……)
そんな事を考えながら自虐的に笑う。
(……ふっ……。いくら任務とはいえ子供を虐殺するようになっては……、あやつに会わせる顔が無いしな……)
そんなことを考えながら、手際よく爆弾を仕掛けていくのだった……。
 
 
その後、部下たちと合流した北辰は必要なものをまとめ月を後にする……。
 
 
 
そして北辰たちが去った後……ネルガル施設内でネットワーク関連の機材が破壊され、身包みを剥がれた男が発見されたのはその五時間後のことであった……。
その結果、ネットワーク再構築のため、ハーリーが三日間ほど徹夜となったのは別の話。
再構築後にデータが破壊されていることも確認され、データのサルベージでまたもハーリーが十日ほどカンヅメとなったのも別のお話である(笑)。
 
 
 
 

あとがき
 
ども、喜竹です。
お待たせしました。短くて申し訳ありませんが久々の本編更新です。
やっとこ九十九以外の木連の人間が出てきました。でも北辰……。しかも壊れていない……(汗)。
という訳でアキトがナデシコと連絡を取れなかったのは北辰達のせいです(笑)。
北辰が壊れた理由は後のお話で出てくる予定です。
 
本当にお待たせして申し訳ありません。
ここのところ個人的に忙しくて……。
やっぱり、仕事して炊事・洗濯・掃除して車の整備やマンションの自治会の役員をしてマブラヴやARIAやあまんちゅ!などの二次創作SSを書いて新人賞応募用の作品を書いて模型を作って……などをやってると時間がなかなか大変なことに(汗)。
最近は疲労がたまって夜に長時間起きている事が出来ずに気絶するように寝ていることも多く……。
構想は最終回まで出来ているので後は時間と体力勝負! なんですが……その両方が無いので難儀しています。なにせ先日ようやくモンハンポータブル2ndGを始められたくらいで。……世間はすでに3rdだというのに(汗)。
私の作った模型がエロゲー雑誌などに掲載されたりしていますが、手広くやるもの考え物です。
とりあえず次の話は二週間ぐらいでアップしたいと思いますのでご勘弁を。



押 していただけると作家さんも喜びます♪

<<前話 目次 次話>>

喜竹夏道さんへの感想は掲示板へ♪

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.