悪魔番長の孫

2話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

 

所謂、ジャグジーというのモノになるのだろうか?

ウチの数倍の広さがある泡立つ風呂に僕は浸かっていた。

自動でお湯が循環し、常に衛生的に保たれているというそこは、

僕が手足を目一杯まで伸ばしても十二分に余りある広さだった。

下世話な話になるけれど、先輩の家は随分とお金持ちなのだと、改めて自覚したのは確かなことだ。

ぶくぶくと泡立つ湯に浸かりながら、ばしゃばしゃと顔をあらいつつ、

何でこんな状況になったのかを僕は考える。

それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩に腕をしっかりと組まれて連れてこられた先は、

落ち着いた雰囲気のある二十数階建てのマンションだった。

入り口のオートロックをカードーキーで開けてマンションの一階へ。

ちょっとした休憩スペースも兼ねているらしいロビーを通り、

どう見てもホテルのフロントにしか見えない管理人スペースの前を横切り、

各階へと通じるであろうエレベーターホールへ。

 

「かなめ先輩、何階ですか?」

 

丁度待っていたエレベーターに乗り込み、

操作パネルの前に位置取ることになった僕の問い掛けに、

先輩は特殊な形状の鍵を取り出すことで答えた。

 

「何時も思うんだけど、コレが割りと面倒でね」

 

そう言いながらエレベーターの操作パネルのボタンより下にあるカバーを外し、

その中にあった鍵穴に鍵を差し込んで左へひねる。

それが合図になったのか、エレベーターの戸は閉まり、上昇を始めた。

 

「ま、セキュリティ対策ってやつらしいね。

 こうして鍵を使わないと最上階へは行けない様になっているんだよ。

 私にとっては面倒以外の何物でもないんだけどねぇ」

 

1階へと入るのにもカードキーが必要なマンションですら初めてで、

物珍しさにじろじろと見てしまった僕だったけど、

先輩はさして気に留めた様子も無く、そう説明をしてくれた。

 

「あ、でも、エレベーターを使う度にに開け閉めするんじゃ、

 そのカーバーが取れちゃったりしないんですか?」

 

我ながら馬鹿馬鹿しいと疑問だなぁ、と口にしてしまってから思う僕。

 

「さあ、どうなんだろうね?

 月に2、3回はエレベーターの点検をしてるし、その辺は大丈夫なんじゃないかな?

 それに最上階には私の家だけしかないから、そんなに頻繁に開け閉めするものでも無いし」

 

なるほど、そうやってカバーを開け閉めするのが先輩の家族だけなら、そういった心配は要らないかもしれない。

それに、エレベーターの点検が割りと頻繁にあるようだし、

カバーに異常が在ればその時に交換ぐらいするのは当然だろう。

というか、このマンションの最上階をまるまるって事は、先輩の家って所謂豪邸ってヤツなんじゃないだろうか?

最上階ってことは一番価格が高いって事で、それをワンフロア丸々って事は…僕には想像もつかない。

時折新聞に入ってくる建売のマンションの広告で、

一番高い値段ぐらいは確実にするって事だけは僕にも理解できた。

そんな豪邸なら、エレベーターからしてセキュリティ対策がしてある事も、納得が行く事だ。

そしてそんなことを考えているうちにも最上階へ到着したらしく、

僕は先輩に腕を引かれてエレベーターから降りた。

共有?部分の廊下を3mも進まないうちに先輩の家の玄関にたどり着く。

 

「あーすまないが、健一。

 少しだけこの場で待っていてもらえないだろうか。

 流石に来客は予定してなくてね。

 多少ながら出迎えの準備というものをしておきたいのだよ」

 

ウインクと同時に片方の唇で笑みをみせるという、ドキッとする仕草で僕に告げてくる先輩。

そして此処に来る道中でも、先輩が家へ連絡を入れている様子が無かった事に思い当たる。

確かに僕は、この家にとっての急な来客にはなるのだろう。

 

「ええ、わかりましたよ、かなめ先輩。

 何分、こうして急に僕が押しかけて来てしまった訳ですし、かなめ先輩にも都合がありますよね。

 だったら僕が待つのも仕方が無い事ですよ。

 それにかなめ先輩の家がどんな家なのか興味もわきましたし、色々と想像しながら待つ事にしますよ」


「…あ、うん、そうしてくれると助かるよ。

 とりあえず呼びに来るまで、此処で待っていてくれたまえ。ではな」

 

やや早口に先輩は僕に告げ、擬音で表せばビュンと表せそうな勢いで家の中へと入って行った。

そして先輩のウチのドアが僕の目の前で音も立てずに閉まっていく。

カシャ。

予想通りにオートロックがかかり、ドアは施錠されてしまう。

このマンションの防音は完璧なのか、それ以降に家の中からは何の音も響いてこない。

僕は玄関の壁に寄りかかり、先に先輩に告げたとおりに、

このドアの向こうにある先輩のウチの様子を想像し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間としては5分ぐらいは経っただろうか。

先輩のウチの風呂はライオンの口からお湯が出ているにのだろう、という想像に至った頃合。

閉ざされていた玄関のドアが先輩の手によって開かれた。

 

「や、やあ、待たせたね」

 

よほど急いで何かをしたのか息を切らせながらの先輩の言葉。

 

「ささ、入ってくれたまえ」


「お邪魔します」

 

そんな言葉を交わしながら、誘われるままに先輩の家に入っていく僕。

思い描いていたのと少し違う感覚を感じながらも、玄関で靴を脱ぎ来客用のスリッパに履き替える。

そのまま先輩に案内されて客間とおぼしき部屋へと通された。

落ち着いた雰囲気の調度品に囲まれてソファーに座っていると、

直ぐに戻るから一旦席を外した先輩が緑色のビンとグラスをお盆に載せて部屋へと戻ってくる。

 

「まあ、自分の家だと思ってくつろいでくれ」

 

お盆からグラスとビンをテーブルに置き換えながらの先輩の言葉。

けどそれは土台無理な話でもある。

家に道場なんてものがあるぐらいに和風仕様の僕の家と同じに、くつろぐ事なんてのは出来そうに無かった。

 

「ああ、飲み物だけどミネラルウォーターで良いかい?

 というか、今出せるモノはこれ位しかないんだがね。悪いけど、コレで我慢をしてほしい」


「いえ、お構いなく。僕をもてなしてくれる、かなめ先輩の気持ちだけでも嬉しいものですよ」


「ま、そう言ってもらえるとこっちも助かるね。

 というか、健一、君はその台詞を素で言ってないかい?」


「素も何も、思った通りの言葉を口にしてるだけですよ?」


「なるほど、健一は随分と良いヤツなんだな」


「良く言われます、というか、良い人ぶるなと言われる事の方が多いですね。

 そういう人達は僕の言動が気に入らないみたいなんですけど、

 僕にしてみれば、僕の感じたり思った通りの事を言ったりしたりしてるだけなんですよね。

 やっぱりこの場合、僕の方に非があるんでしょうか?」

 

良い人とか言われる事に少し抵抗を感じる僕は先輩にそんな質問をしていた。

聞いてしまってから思ったけれど、今日出合ったばかりのかなめ先輩に、

こんな事を聞くのは少しというか結構変だ。

とはいえ口にしてしまった言葉を取り消す事は出来ないわけで。

そんな事を考え始めた僕に対して、先輩はケラケラと笑う事で答えてくる。

流石にその反応は予想できなかったけど、

こっちは割りと真面目に聞いているのだしちょっと失礼な態度だと思う。

まあ、変な質問をした僕も悪いんだろうけど。

そうして一人きり笑い終え、乱れた息を整えるために大きく息を吸った先輩は、

不意に真顔になると僕をじっと見つめてきた。

 

「笑ってしまって悪かったよ、あまりに予想外の質問だったものでね。

 だが、個人的な意見を言わせて貰えば、健一はそのままで良いと思う。

 他人がどう思うのかなんてのは私の知ったことではないが、少なくとも私は今の君に興味を惹かれれる。

 いや、この言い方では誤魔化しになってしまうな。

 正直に言うよ、健一、私は今の君の事を好いているよ」

 

そういって僕に笑みを向けてくる先輩。

その言葉の内容も相まって僕はどきりとしてしまう。

こうして正面切って好きだと言われた経験など僕にはないからだ。

 

「あ、あの、ありがとうございます」

 

僕は顔が熱くなるのを感じながらも、慌ててそう言いながら頭を下げる。

 

「はは、照れているのか、健一。

 だが、あんまりそうした可愛い態度を私の前で見せないで欲しいな。

 思わず抱きしめて頬擦りしたくなるじゃないか」

 

傍から見てもわかりやすい態度だったのか、先輩はそんな風にからかいの言葉を僕に投げてくる。

ますます顔が赤くなるのを自覚しながらも、とりあえず話題を逸らすべく僕は視線を廻らせた。

 

「そういえば、かなめ先輩はこの部屋をあんまり使ってないんですね?」


「ああ、そうだね。

 私が此処に来てから、始めての客人が君と言う事になるね。

 それで、どうしてそんな事が解ったんだい?」

 

僕が始めての客人と言う事に意外性を覚える答えだったけど、

先輩は僕がどうしてそのことに気がついたのかを逆に訊ねてくる。

もちろん先の話題から話を逸らす事に成功した僕としては、その話に乗って答えていく。

 

「あの少し失礼な言い方かもしれませんが、掃除の仕方が随分と手抜きだなって思ったんです。

 何というか、見える所だけをパッパってやった感じですよね?

 それにこの部屋に飾ってあるモノも手入れされてないみたいですし…。

 僕が家で掃除とかの家事を担当してるんで、余計にそう感じるだけなのかもしれませんけど…」


「ほう、君が家事を担当してるのかね?」


「ええ、両親は家から離れて働いてますから必要に迫られて、では在りますけどね。

 あと、姉はあまり家事が得意でないので、必然的に僕が…という訳です」

 

そこで一旦言葉を切り、先輩が先ほど用意してくれたミネラルウォーターを飲むことにした。

グラスを傾けると微妙な炭酸が口の中を刺激してくる。

炭酸入りだけど味のしない飲み物が初めてだった僕は、何となくだけど違和感を感じてしまう。

こういうのもきっと慣れなんだとは思うけど…。

 

「確かに、あの人に家事とかいうイメージは無いかもね。

 違う意味での片付けは得意そうだけど」


「ははは」

 

冗談交じりに続けられた先輩の言葉に僕は乾いた笑いを返すしかない。

先輩の片付けが意味するのが、敵をぶち倒すとかいう意味だと良く解ったからだ。

それは確かに姉の得意とする分野ではあるわけだし…。

 

「それにしても君も大変だな。

 その年で家の家事を一手に引き受けるとはね。

 私も此処で一人暮らしをしているし、その苦労の一部くらいは解るつもりだよ」


「ああ、別にそんなに大変じゃないですよ。

 僕自身、家事をするのが結構好きですし、苦労だなんて思った事は無いですから。

 えっと、それよりもかなめ先輩って、一人暮らしだったんですか?」


「ん?ああ、そう言えば言ってなかったかも知れないね。

 家でのゴタゴタがあった事は話したと思うけど、結果、私が独り家を出る事にしたんだよ。

 碧空に通う事を決めた段階で、親父殿に此処を押し付けられてね。

 無碍に断るわけにも行かず、こうして此処で一人暮らしをして居るという次第さ。

 親父殿の好意はありがたいんだけど、流石にこの家は一人で住むには広すぎてね、

 使ってない部屋だって何部屋ある。

 それでも、気に入ってる部分もあるから住み心地は上々って処だね。

 ただ、如何せん一部屋あたりも広すぎてね、掃除をすることすら結構手間なんだよ。

 だから、ずぼらな私は気になるまで放置しがちなんだよ。

 タネを明かせば、この部屋だって帰ってきてから、おお慌てで掃除をしたくらいなのさ」

 

いやーかっこ悪いな、と更に続けて苦笑いを見せる先輩。

その言葉にも頷けるモノはあった。

この大きなマンションが建っている敷地の広さはかなりのものだし、

5、6世帯は入りそうなワンフロア丸々を、一世帯でとなると相当の広さがあるはずだ。

その広さを一世帯分で部屋割りするとなると、

客間をいくつか設けたとしても、一部屋辺りの広さはかなりのものになってくるだろう。

 

「楽をするんなら、専門業者を雇えば良いのは解ってるんだ。

 その方が私が自分でやるよりもずっと綺麗にしてくれる事もね。

 けど、今ですら親父殿には色々と援助してもらってる手前、それを言い出すわけにもいかなくてね。

 とはいえ、私にはそういった業者を雇えるだけの稼ぎがある訳でもない。

 結局は自分でやるしかないんだけど、私は私でやりたい事もあってね。

 どうしても順列的には最後にしてしまうんだよ。

 綺麗にしておきたいけれどその時間は無い。

 何事にも妥協は必要ってことなのかもしれないね」

 

やれやれと肩をすくめて見せる先輩だったけれど、

僕にとってすればコレは絶好の機会にしか思えてなかった。

もちろんそれは掃除をする機会なんだけど。

だから僕は先輩に迷わずこう提案していた。

 

「あの、かなめ先輩、僕に先輩の家の掃除をさせて貰えませんか?」


「え?」

 

僕の言葉にあっけに取られた様な先輩の言葉。

それもそうだろう。

僕自身とて、今の自分の言葉がどんなに滑稽なものかは理解しているつもりだ。

けれど、こういったチャンスはもう二度とないかもしれないのだ。

だから僕は先輩を説得すべく言葉を重ねる事にした。

 

「僕が家事をするのが好きだって事は話したと思いましたが、

 その中でも一番好きなのは掃除なんです。

 姉に言わせれば、僕は掃除マニアらしいですし、

 将来的にもそういった道に進もうって考えてるくらいですし。

 実際、修行も兼ねて休みの日には知り合いの業者さんのトコロに、

 アルバイトに行っているくらいですからね。

 ですが、先輩のウチのような立派なトコに掃除に入れるのは滅多に無い事なんです。

 知り合いのやってる今の所はバイトを始めて3年近くになりますが、

 かなめ先輩の家のクラスとなると年に一度在るか無いかぐらいなんです。

 こんな事を言うのはおこがましいのは重々承知なんですけど、

 僕の修行を助けると思って、僕にこの家の掃除をさせてください」

 

テーブルに手を付け深々とお辞儀をする僕。

 

「あ、いや、まあ、君がそうしたいのなら、私は別に構わないのだが…」

 

恐らくあきれ返った表情を見せているであろう先輩がそんな言葉を返してくる。

言質をとった!と僕は内心小躍りしながら小さくガッツポーズを決める。

再び顔を挙げグラスを持っていない先輩の手を両手で取った。

 

「ありがとうございます、かなめ先輩。このご恩は決して忘れません」


「いや、いくらなんでもそれは大げさだろう」

 

腕を上下にぶんぶんと振りながら話す僕に、先輩はあきれ返ったという感じの声で答えてくる。

けれどテンションの上がってしまった僕にはそんな些細な事をきになんてしていられなかった。

掴んでいた先輩の手を放し、座っていたソファーから立ち上がる。

 

「あ、かなめ先輩、掃除道具は何処に置いてありますか?

 どうしても気になる部分があるんで、早速ですが取り掛かりたいんですけど」


「……」

 

僕の問い掛けに先輩は当然にして沈黙で答える。

しまった、と僕が思った瞬間には時すでに遅し。

呆れ顔の先輩を前に僕の上がり切ったテンションは急下降していく。

多少、冷静さを取り戻した頭で考え、自分の言動のムチャクチャさに僕は落ち込んで行く。

 

「あの、済みませんでした、先輩。

 勝手に、舞い上がってしまって…その、迷惑、でしたよね…」

 

やってしまった。

そんな想いでうなだれる僕の肩を先輩のてがぽんと叩く。

 

「気に止む事じゃないよ、健一。

 確かに多少は驚きはしたけど、迷惑などとは露ほどに思ってないよ。

 強いて言えば、君の持つ熱いところと君の姉さんの言い当て妙には、心から感心はさせては貰ったがね」

 

ケラケラと笑う先輩に僕はほっと胸を撫で下ろした。

僕に対する印象は悪くはなっただろうけど、どうやら先輩に嫌われてはいないらしいからだ。

 

「さて、健一、私について来てくれるかね?」


「はい?」

 

先輩の言葉に何のことだろうと首を傾げる僕。

 

「今君が話していた掃除道具の事だよ。

 物置に置いてあるんだが、どれを使うのかは君が直に見て判断した方が良いと思うのでね」

 

ピンと来てなかった僕に先輩はそう説明を続けてくる。

それはつまり、先輩が僕に掃除をさせてくれる気で居るという事に他ならない。

 

「そ、そうですね。そうしてもらえると助かります」

 

先輩の気が変わらぬ内にと、慌ててそう返す僕。

 

「では、此方だ」

 

そう言って歩き出す先輩の後を追い、行き先である物置へと向かって僕も歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3時間後、僕は先輩の家に居て、食堂にあるテーブルに着いていた。

掃除のお礼にと、晩ご飯をご馳走になる事になったからだ。

もちろん、掃除をさせてもらった僕としては、逆に僕からお礼をしたいぐらいだった。

結構、充実した2時間半だったのだ。

それに自分の家で夕食を作る予定もあったので、最初は先輩の招待を辞退をさせて貰うつもりだった。

 

「久しぶりに誰かと一緒に食事を取りたかったのだけれどね。

 それが君と一緒ならさぞ楽しい時を過ごせたと思うんだけれど、残念だ」

 

申し出を断る僕に向けて、寂しそうに告げられた先輩の言葉に、僕は白旗を揚げるしかなかったのだ。

家への連絡というか留守電への伝言を終えて、

テーブルに着いた僕の前には、何品もの料理が並べられていく。

それらの料理は全て先輩の手作り…ではなく冷凍食品なのだそうだ。

僕の頭の中にある冷凍食品は、魚介類や野菜をそのまま冷凍したものか、

コロッケなどの揚げ物という程度でしかない。

だから目の前に並べられた料理が、冷凍食品であることに素直に感心していた。

 

「これが最後の料理だね」

 

最後の皿をテーブルに置いた先輩が僕と向かい合わせに座る。

そして先輩はおもむろに両手を胸の前で合わせて、僕もそれに倣う形で両手を胸の前で合わせる。

先輩の家も僕の家もこういう風習は変わらないんだな、と奇妙に感心する僕。

 

「「頂きます」」

 

そう声を重ねて感謝をした僕と先輩は、

目の前に置かれた箸を手にして並べられた料理に舌鼓を打つ事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

全ての皿を空にした僕と先輩は再びそうして声を重ねていた。

量的に少し多いかなとも思ったけれど、働いた後の空腹というか会話が弾んだ所為というか、

とにかく箸が進み全ての料理を平らげてしまっていた。

ただ料理をするだけという僕の作るものよりも断然美味しいそれには、

冷凍食品というものの認識を変えさせられるモノがあった。

冷凍食品といえど侮れないものだったのだ。

どのメーカーのモノなのか先輩に訊ねてみたところ、先輩もメーカーまでは良く知らないという事だった。

何でもこのマンションの管理会社が斡旋しているモノらしく、電話で一階に居る管理人に頼むものなのだそうだ。

注文した時間帯にもよるけど、遅くとも翌日の昼前までには、

注文した品が一階の管理人の所へ届いているそうだ。

随分と至れり尽くせりだなと思う反面、それは当然にしてお値段に反映されるという事に思い至る僕。

そして今日食べた冷凍食品が、我が家の食卓に上がる事は永久に見送られる事になった。

食事も終り、一息つきながらお茶代わりのミネラルウォーターを飲む僕と先輩。

さすがに食事の後なので炭酸入りではないものだったけど。

 

「次までにはお茶の葉ぐらいは用意しておくよ」

 

と申し訳無さそうな先輩の言葉に、僕の方がなんだか申し訳ないと感じてしまっていた。

そうして食事中と同じく主に学校の話題で会話をしていた僕と先輩。

不意に話が途切れたところで先輩がこう切り出してきた。

 

「さて、健一。

 今日、私の家に来てもらったのは、君に頼みたいことが在ったからなのだが。

 今からでも、それを頼んで良いかい?」

 

そう言えばそうだった。

というのが正直な僕の感想だった。

満足のいく掃除と美味しい食事ですっかりその事を忘れてしまっていたのだ。

 

「はい、僕にできる事なら何なりと言ってください」

 

そんな風に僕が気の良い返事をしたのも、やはり満足度が高く気分が良かったからなのだろう。

 

「ふふ、それは僥倖だねぇ」

 

先輩は僕の返事に満足そうに頷いた。

 

「では、健一。私と一緒に風呂に入ろう」


「へ?」

 

至って真面目な表情で語られる先輩の言葉に間の抜けた一言を返してしまった僕。

 

「ん?理解できなかったのか?

 だから、健一と私が、この家にある風呂に、一緒に入る、という事さ。

 それが私が君にしてもらいたい事なのだよ」

 

オーケー、先輩。

先輩の頼みが何なのかは理解した。

確かに僕と先輩がこの家にある風呂に一緒に入るには、僕がこの家に来る事が前提条件でもある。

でも、何で一緒に風呂なんだろう?

いや、落ち着け、その前に先輩は女性で、僕は男性なわけで…。

 

「いや、その、流石にそれは拙いんじゃないですか?

 こんなんでも僕は男ですし、かなめ先輩は言うまでもなく女ですし…」


「確かに私は女で君は男だ。

 私とてそれは解っているよ。だが、それが如何かしたのかね?」

 

ややあきれた風に続けられる先輩の言葉。

僕は自分の意図がまるで通じない事に少しあせりを覚え始めていた。

 

「いや、あの、かなめ先輩?

 それが解ってるんだったら、恥ずかしいとか思うのが普通だと僕は思うんですけど」


「無論、私とて恥ずかしいという思いが無いわけじゃない。

 それ以上に君との入浴に魅力を感じているというだけなのだよ。

 これは詳しく説明せねばならんかな。

 はっきり言って、私は君を好きになってしまったのだ。

 一目見た時から、何となく君に興味が湧いた。

 そして校門で君と会話を交わすうちに、君という存在に魅力を感じて、

 こうして君を家に迎え入れて、ようやっと自分の状態に私は気がついたんだ。

 これが恋に落ちるという事なんだとね」

 

え、え、え、えっと、それって、つまり…。

い、い、いや、で、でも、まさか…。

いきなりの先輩の告白に僕の頭はショートした。

何か言おうとするけれど、金魚のように口がパクパク動くだけで言葉を発する事なんて出来やしなかった。

 

「そうして君の事をもっとよく知りたいと、今のというか君に惹かれ始めた時から私は思っていた。

 だからこの家の中でも一番のお気に入りの場所で、

 君と一緒に過ごせたら、もっと何かが伝わるし、感じ取れると私は思ったのさ。

 それに裸の付き合いというのも有効なコミニュケーションだと、何かの本で読んだ事もあるしね。

 さて、こうまで私に言わせたのだから、私の頼みを断るつもりなら、それなりの理由を示して貰いたいものだね」

 

単純に感情だけの基準でしたいしたくないで考えた時、

先輩との入浴も悪くない思えている僕には反論の余地が無かった。

けどその本心を邪魔しているのは僕の中にある常識とかそういった類のものだ。

ある意味理性という名のストッパーであるそれが、必死に僕の感情にブレーキをかけている。

 

「いや、あの、やっぱり拙いですよ。

 仮にかなめ先輩と一緒に入浴してしまった場合、

 僕だって頭に血が上って、その、先輩にひどい事をしてしまうかも知れないですから。

 僕はそうやって、かなめ先輩を傷つけたくは無いんです」

 

我ながら先輩も納得できるナイスないい訳だと思った。

むろん、僕にそんな事をするつもりはない。

本当に先輩と一緒になったとしても、僕はそういうことをしないはずだ。

…キレない限りは。

割と自分でものんびりしていると思う僕だけれど、

何かが一線を越えると歯止めが利かなくなる事があった。

よほどの事でも無い限りそういう状態にはならないけれど、

過去に何度かそういう事をしでかしてしまって、後悔したことはあったのだ。

とにかく、今回は何とか凌げたと胸を撫で下ろし、先輩の用意してくれたコップに手を伸ばす。

 

「ん?なんだ、そんな事を気にしていたのか」

 

そういって僕の安心を吹き飛ばすような発言をする先輩。

どういう意味なのかと僕が問い返すよりも早く先輩は言葉を重ねてくる。

 

「こう見えても、私は幼少の頃から色々と嗜んでいてね。

 全部の段位を合わせると18段になるぐらいの腕前はあるんだよ。

 もし君が私の意思を無視して、不埒な行為をしようとしても、

 私が即座に叩き伏せてあげるから安心したまえ」

 

そういってカラカラと笑う先輩。

要するに先輩は姉と同じに武闘派の人間なんだろう。

先輩の雰囲気がどこかで感じた雰囲気だとは思ってたけど、そういうことか…。

そして、その感覚は18段という数字に現実味を帯びさせる。

格闘技といえば姉の練習相手ぐらいしか経験のない僕など、

先輩の手にかかれば、その言葉の通りに瞬く間にケチョンケチョンにされるのだろう。

そして、僕は男なんです、と主張して先輩を思いとどまらせる案は見事に空振りに終わったわけで。

つまるところ、僕には先輩の頼みの通りに一緒にお風呂に入る、という道しか残されていない事になる…。

 

「さあ、健一、風呂場はこっちだよ」

 

そんな言葉と供に強引に腕を組む先輩に、黙って引きずられて行く事しか僕には出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、せめて水着をと僕が必死にお願いしたこともあり、

先輩が水着を取りに行った隙を縫って脱衣所で服を脱ぎ、先行する形で僕は湯船へと浸かっていた。

脱衣所で一緒に服を脱ぐと言う事態を避けれたのは僥倖だろう。

もしそんな事になったら、僕の身体の一部分は間違いなく膨張してしまうだろうし、それを見られるのは…。

だから、こうして湯船に浸かっている事は、

この風呂がブクブクと泡立っていることもあり、色々と誤魔化しが効きそうで良いかもしれない。

 

「健一、湯加減はどうだい?」

 

浴室の入り口の脱衣所から先輩の声が響いてくる。僕はたったそれだけでドキっとしてしまっていた。

 

「あ、はい、最初はぬるいかなって思ったんですけど、入ってる内に丁度良い感じになってきました」


「そうかね、それはなにより。

 ああ、それとこれから少し照明を落とすから、急に動いたりしないように気をつけてくれたまえ」

 

そんな言葉と供に先輩が何かのスイッチを押したのか、浴室の照明が間接照明へと切り替わる。

浴室内の光量が落ち、相対的に先輩の居る脱衣所の方から光が差し込む形になる。

そうすることで、曇りガラスの向こうに居る先輩の姿がシルエットで浮かび上がる形となった。

再びどきりとしてしまった僕だけれど、慌てて先輩の姿から目を逸らした。

なんだか覗いている様な感覚を受けて、失礼な事をしている気になってしまったからだ。

でも先輩がこうして照明を落とした事には少しだけ僕は安堵していた。

口ではあんな事を言っていた先輩だけれど、

水着姿とは言え僕に見られるのが恥ずかしいと感じるからこそ、こうして照明を落としたのだろう。

それはつまり、僕を男として認識しているという裏返しになるわけだし。

まあ男として見られたとしても、先輩よりも弱い存在として見られていることには違いないし、

残念ながら僕にはそれを否定出来なかったりするんだけど。

 

「では、私も浴槽に入らせてもらうよ」

 

考え事をしていた僕の耳に先輩の言葉が不意打ち気味に飛び込んでくる。

ただそれだけにドキっとしてしまった僕は、

何となく感じる後ろめたさから、ぎこちない動きで先輩の居るであろう方向から視線を外す。

それでも身体は正直というか、耳だけはダンボのように大きくなった気で、

先輩の立てる水音に反応してしまう。

 

「はふぅ…」

 

そんな風に漏らされる先輩の吐息一つにも、なんだか色気を感じてどきりとしてしまう。

過剰な反応だと頭では理解しているんだけど、身体は正直というか、

自分の感情は高ぶりを制御しきれていないのが現状だった。

 

「くつろげているかな?」


「ハイ、くつろいでイマス」

 

つい今しがたまでは、と先輩の問い掛けに答えつつ僕は心の中で付け足した。

鈍いとは言われる僕だけれど、一応は男の子な訳で。

今の僕の置かれているシチュエーションの中で、

ゆったりとリラックスなんて出来るワケナイに決まっている訳で。

 

「ん?どうにも硬い答えだね。

 そうしていたんじゃ、此処の良さの半分も楽しめてない事になるのだがね?」


「なるほど、ソウナンデスカ」

 

先輩の言葉に割りとカタコトになってしまって答える僕。

なんというか、さっきからずっと緊張が高まってきて、

身体の一部分は言わずもがな。全体的に固まってしまってきていた。

もちろん、頭の回転も鈍り、先輩の言う言葉の意味も良く解っていなかったりする。

ひょっとしてもっとスケベ心を表に出して楽しめと言う事なんだろうか?

否、そんな訳はあるはずが無い。

そうしてスケベ心を初めとする15歳のアオイ本能と、

15年かけて培ってきた理性が僕の中でせめぎあい、僕はますます硬直してしまう。

 

「えい」

 

何となくだけど、喜色を含んで弾むような先輩の声が浴室内に響く。

と同時に先輩の腕が僕の首に巻きつき、強引に後ろに引きずられていく。

完全な不意打ち、かつ僕が硬直しきっていた所為もあり、僕は先輩の為すがままになってしまう。

とはいえ、そのまま湯船に沈められるような事は無く、

ざぶざぶと湯船を横切って僕の居たのと反対側に移動させられただけだった。

結構な勢いがついていた事もあり軽く浴槽に頭をぶつける事にはなったけど、

その痛みを感じさせないものがそこには在った。

内壁の部分が丁度良い感じに傾斜している事もあり、

僕は湯船の内壁に背を預け、その淵に頭を乗せる形になっていた。

要するに湯船の中で仰向けに寝そべる格好となっていたのだ。

その分、僕の視線は自然と天井を見上げる事になるのだけれど、

僕の目の前に広がったのは、視界一杯に広がる星空だった。

 

「此処の天井部分は一面マジックミラーになっていてね。

 外からは見えないけれど、こうして夜空を楽しむ事ができるんだよ」

 

横で同じ様に仰向けになっているであろう先輩が、僕にそんな説明をしてくれる。

僕の耳はその言葉を捉えていたけれど、その言葉の意味をしっかりと理解する事は僕には出来なかった。

今、目の前に広がる光景に魅入っていたからだ。

気のせいかもしれないけれど、随分と星が近くに感じているのも、僕が魅入られた原因かもしれない。

 

「ふふ、気にって貰えた様で何よりだよ」

 

そんな先輩の言葉と供に左腕の辺りに人肌のぬくもりを感じる。

多分先輩が腕を組んできたのだろう。

 

「私は此処からこうして夜空を見上げるのが大好きでね。

 それで、是非君と一緒にこの夜空を眺めてみたいと思ったのさ」

 

その先輩の言葉は全部ではないけれど、僕にも理解できた。

こんなにも綺麗な光景を眺めてみたいと思うのは当然の事だと思うし、

そのお気に入りの風景を誰かと一緒に眺めて、

その気持ちを分ち合いたいと思う気持ちも、鈍いと言われる僕にだった何となく解るものだ。

 

「かなめ先輩」


「ん?」


「ありがとうございます」


「どうしたしまして」

 

だから僕の口からは素直にお礼が出てきた。

それを嬉しそうに返礼する先輩。

言葉を交わしたのはそこまでで、僕らは腕を組んだまま何も言わずに夜空を眺めていた。

ただ、それだけで先輩と僕の間に何かが繋がっている気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざばと水音を立てて、先に動いたのは先輩だった。

別に風呂から上がるというわけでもなく、僕の腹の上にまたがってきたのだ。

完全のマウントを取られた僕は、

先輩がその気になれば1分と経たずにボコボコにされる事うけあいという状態だ。

神に誓って言うけれど、僕は先輩に不埒な行いをしてはいない。

そりゃあこんな状態でも在るし、まったく考えもしなかったとは言えないけれど。

そんな事よりも、問題は僕の目に映る光景だった。

何もつけていない先輩の二つのふくらみが、僕の目には強烈なものとして映っていたからだ。

 

「いや、あの、その、なんですか?というかですね。

 かなめ先輩、水着はどうしたんですか?」

 

惜しげもなくさらされた先輩のモノに目を奪われつつ、

僕の胸板を這う先輩の指がもたらす感覚を何とか堪え、僕はようやっとそんな言葉を搾り出す事ができた。

 

「ふむ、実を言うと、水着というものがこの家には置いてなかったのだよ。

 約束が違うと君は言うかも知れないけれど、

 私にしてみれば大勢に影響の無い事なのだし、君は気にするな。

 まあ、アレだ、約束は破られる為にある、というヤツだね」

 

そんな言葉と供に不敵な笑みを浮かべる先輩。

先ほどから目を放せない先輩のふくらみと、

水着を着けていないという事実で再認識するお腹の上の先輩の感触に、

僕の一部分は否応無しに膨張してしまう。

さらに先輩は僕に身体を預けるようにのしかかってきて、

僕の頬を両手で押さえその唇を僕のモノと重ねてくる。

唇に感じる柔らかな感触もそうだけれど、

そういう姿勢を取る事は、全身で先輩と密着する事になる訳で。

マズイ。

色んな意味でマズイ。

為すがままになっていた僕だけれど、流石にそう思って慌てて先輩を引き剥がす。

とはいえその両肩を両手で押さえて、先輩の上半身を押し返したという程度の抵抗しかできなかったけど。

 

「な、なにをするんですか!」

 

自分でも思った以上に大きな声で、僕は先輩を咎める事になった。

けれど、先輩はその僕の言葉を柳に風とばかりに受け流し、

その両肩を掴んでいた僕の腕すら内側から巻き返す形であっさりと外してしまう。

そして、ペロリと唇を舐めて口を開く。

 

「すまないね、健一。

 どうやら私は君に欲情してしまったらしい。

 君が着やせするタイプで、その引き締まった身体を見せられてしまってはねぇ…。

 とにかく、私は君と一緒になる事を決めた。

 昔から、こういうだろう?抵抗は無駄だ、同化するってね」

 

そういってニヤリと笑みを浮かべる先輩。

 

「いや、その、意味が解んないんですけど」

 

「ふふ、君も案外カマトトぶるんだねぇ。

 簡単に言うと、私はこれから君とセックスすると決めたのだよ。

 先に言ったと思うけど、私は合計18段の腕前だ。

 こうなった以上、君に許されたのは二つの内の一つを選ぶ事だけだと思いたまえ」

 

ゾクリとするような笑みで僕に告げてくる先輩。

同時に僕の下半身で膨張してしまったナニを何かが包み込む。

一人遊びでは感じる事のできなかった感覚に僕の腰はビクリと動いてしまう。

それに気を良くしたのか、先輩がこう続けてきた。

 

「ここでするかい?それともベットでするかい?」

 

投げかけられた二択に、僕は自分の逃げ道がとうに閉ざされている事を認識した。

 

 

 

 

続く


あとがき

という訳で、衝動的に書きたくなったラブコメの第二弾です。

ラブってるのか、コメってるのか、自分では良く解らないのですが如何なんでしょうね?

18禁にならない程度のエロスはある! と自分では思ってますけど…。

あと、あくまでラブコメですので、エンジェル伝説のようなバイオレンスはあまり無い予定です。

今後は適当な間隔での更新になるかと思いますが、気が向いたら読んでやってください。

では、また。



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