STANDARD DAYTIME

 

作者 くま 

 

 

 

 

「すまぬな、夜天。我がアヤツに届かぬばかりに、またこの様な始末だ…」

 

機械化された生身以外の機能を半分以上失い、横たわり夜空を見上げるしかない北辰がそう呟く。

 

「らしくないよ、ほっくん?

 何時もみたいに、根拠も無いのに堂々としてるほっくんの方が、やーは好きなんだけどな」

 

傷付き動く事もままならぬ北辰に膝枕をした少女が、すこし頬を膨らませながら北辰に告げる。

そうして膝枕を続けながらも、北辰が失っている機能の修復に努めていた。

少女のその身体には不釣合いな、肘から先の部分が修復用の機械と化した大きな腕は巧みに動き、

北辰の身体を少しづつではあるものの、確実に修理を行っていく。

その様から解るとおり、夜天と呼ばれた少女は人ではないのだ。

 

「フッ、そうだな…、確かに我に脆弱な様子は似合わぬ。

 だが、あのテンカワアキトにこうまで負け続けたとあってはな…」

 

刹那に見せてしまった己の弱気を鼻で笑い飛ばす北辰。

その次の瞬間には表情を引き締め、幾度となく繰り返されてきたテンカワアキトとの戦いへを思い起こす。

だが、それは連なる敗北の記憶でもあった。

 

「んーそうだよね、半分はほっくんの所為だけど、あの人は厄介だよね?

 何が厄介かって言うと、こっちがパワーアップしてから仕掛ける時には何時も、

 向こうにも新戦力が加わるのが厄介だよね?

 しかも、何故か女の人ばっかり…」


「……」

 

夜天と呼ばれた少女の言葉のとおりに、

北辰がヴァージョンアップ等により己の機能を高めてからテンカワアキトと闘う度に、

決まってテンカワアキト側に新たな協力者が現れるのだ。

その増強される戦力等はいつも北辰のパワーアップを上回り、

テンカワアキト側の総力の前に、夜天と二人で挑む北辰は敗れるほか無かった。

 

「まさかあやつがここまで我と渡り合うとはな…。

 やはり認めねばならぬのだろうな」

 

続く敗北の記憶をなぞり、やや硬い声で言葉を続ける北辰。

 

「そうだね、あの人の特殊性というか特異点みたいなところを、甘く見てたらひどい目に合ったよね」

 

その北辰の言葉にうんうんとひとしきり頷きながら夜天が言葉を重ねる。

 

「でも、やーも不思議なんだよね。

 なんであのあっきーがそんなにモテ王なのかな?っていつも考えちゃう。

 ぱっと見、黒黒で物凄く怪しんだけど、その実素顔は普通の顔立ちしてるのってポイント高いのかな?

 それとも、ぶっきらぼうな口調の癖して、ホントは誠実で情に厚いところにズギューンとくるの?

 その辺どうなのかな、ほっくん?」

 

膝の上の北辰の顔を覗き込みながら、そんな疑問を口にする夜天。

 

「それを我に聞いてどうするのだ、夜天」

 

やや憮然として表情をみせ、夜天の問いに答えで無い言葉で答える北辰。

 

「だって、ほっくんの方があっきーの事には詳しいよね?」


「……」

 

そう返されて一瞬言葉を失う北辰。

だが即座に気を取り直し一つ咳払いをした。

 

「…確かにそういった部分が在る事を否定はせぬ。

 が、我がヤツを知るのは、ヤツと闘うための知識のみ。

 戦いに不要な、ヤツが女性に好かれる理由などは知りようもない」


「……」

 

言い切る北進に夜天は沈黙とため息で返した。

ほっくんって案外視野が狭いんだよね…。

と言う言葉を夜天は飲み込み、北辰に更なる問い掛けを続ける事にした。

 

「ねえ、ほっくん。

 ほっくんは何であっきーと闘おうとするの?」


「ふむ?そう言えばお前にはきちんと告げてなかったやも知れぬな。

 我がヤツを追うのはな、…趣味だ

 お前にまだこうして意識が芽生える前に色々と在り、我は生きる目的を失ってしまったのだ。

 それ故に、今度は趣味に生きてみようと考えたのだ。

 とはいえ、コレまで趣味などと言ったものに微塵も興味が無かったのも事実。

 そこで昔取った何とやらということで、アヤツ、テンカワアキトを追い、闘う事にしたのだ」

 

不敵な笑みすら浮かべて、夜天に堂々とした口調で告げる北辰。

そんな事を告げられた夜天ではあったが、呆れるといった事はなく、何かを理解したかの様に大きく頷いていた。

 

「そっか、だからほっくんがあっきーと闘う時、いつもニコニコなんだね。

 やーはてっきりほっくんがその筋の人なんだ、って勘違いしてたよ。

 ほっくんの事だってこうして新発見があるくらいだし、世の中ってやーの知らない事が一杯だよね」

 

納得し心なしか嬉しそうな表情を見せる夜天。

他方の北辰は何か引っかかる言葉が在ったのか怪訝な顔をして口を開いた。

 

「夜天、その筋とは何の事だ?」


「んーと、やらないか?とかゲ○ボルクとか、よーするにしゅーどーさん?」

 

訊ねる北辰に躊躇い無く自分の考えを答える夜天。

そして北辰の顔からは徐々に血の気が引いていく。

 

「や、夜天、二度とその様な事は口にするでない」


「うん、解った。ほっくんが言うのならそうするよ。でも、なんだか…ほっくん、顔色が悪いよ?」

 

珍しく大きく動揺をしながらの北辰の言葉に、夜天はあっさりと頷いて同意する。

しかしながらその北辰の異常には気がついて、気遣うような言葉をかけていた。

 

「何でも無い、気にするな」

 

キッパリとそう言い放ち、それ以上の話題の波及を避ける北辰。

その脳裏に繰り返し響いてくる言葉は、『我等インキュ(以下略)』であったとか無かったとか。

 

「でも…」


「ナンデモナイ、キニスルナ、ヤテン」

 

食い下がる夜天に対して、すでに口調すらおかしくなり始めた北辰。

 

「う、うん、ほっくんがそう言うのならそうする」


「……」

 

流石にマズイと思ったのか慌てて、追求を止めた夜天ではあったが、

既に北辰の心の何かを乱したらしく、北辰からはまともな反応は返らずじまいだった。

その後、北辰が(主に精神的に)回復に回復するまで約半日を要したと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日もすっかり昇り、完全に回復をした北辰は、夜天と供に己の住処へと戻って行く。

その道すがら、北辰はふと思いついた疑問を夜天に投げかける。

 

「ところで、夜天。何故お前はヤツではなく我に付いたのだ?」


「そんなの決まってるよ!それはやーがゲテモノ好きだからだよ!」


「……すまぬ、もう一度言ってくれぬか?」


「つまり、やーはゲテモノが大好きなの。だから、ほっくんの事も大好きなんだよ!」


「そ、そうか」

 

ぺっかぺかーと満面の笑みを浮かべる夜天とは対照的に、がっくりと膝を付きうなだれる北辰。

お日様の照らす明るい昼に、対照的な態度を取る二人。

ただ、その後も二人は、何時までも供にあったというのは、また別の物語である。

 

 

 

終れ


あとがき

えーと、なにやらお祭りだそうなので、カッとなってとりあえず書いてみました。

元ネタの書き手である黒い鳩さんの思惑に合致してるか、正直、良く解りませんが。

他の方の作品と比べられて、空気嫁とか言われる前に逃げます。

では、また。

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