遺跡演算ユニットは考えていた、今のままでは不味いと。

人類はまだ太陽系すら飛び出すことなく、地球圏から巣立ったとはいえない。

演算ユニットは古代火星人からのプレゼントだ、銀河系いや、外宇宙すら飛び越えて異世界すら行き来することが出来る。

その莫大な可能性はいまだ眠らされたまま。

他の地域に撒かれたユニットに比べて活躍度の低さは推して知るべし、である。

そう、この宇宙には少なくとも250のユニットを利用する種族がいる。

それらは、みな銀河系の外に飛び出しているというのに……。



「じゃからわらわが言いたいのはそう言う事じゃ」

「……いや、いきなり言われても訳が分からんのだが……」



目の前にいる少女……。、

そう、いきなり目の前に出現してどこからともなくこたつを取り出しほうじ茶を飲みながらみかんを食べている。

この不思議少女に俺は何を言っていいのか分からない。

見た目は金髪のロングヘアーに、左右の異なる色合いをした瞳、少し前のアイドルがしていたようなヒラヒラの服を着ている。

それだけでも違和感抜群だが、ユーチャリス内の俺の部屋にいきなり出現して自分が演算ユニットだと言ったのも意味不明だ。



「それで何で俺のところへ来た?」

「利用率の高い顧客にはサービスせんとの」

「顧客って、商売なのか?」

「まあ似たようなもんじゃ、実際ノルマもあるしの」

「ノルマ?」

「年間10万回……わらわは達成できたことはないが……」

「あー、その……できないと困るのか?」

「んむ、お主らが古代火星人と呼んでいる存在にチェックされて、罰として色々な恥ずかしい写真を……」

「いや待て、それは既に別の商売だろう……」

「まあ嘘じゃが、ノルマがあるのは本当じゃ」

「ほう」


完全に信じたわけではないが、少なくともこの少女は自分が演算ユニットであると思っているのだろう。

目にも、言動にも、身振り手振りにもそういう嘘をついたもの独特の雰囲気は出ていない。

仕方ないので俺は会話に乗っかってみることにした。



「で、いったいどういったサービスだ?」

「んー、そうじゃの、やはりお主にはこれからもせいぜい跳び続けてもらわぬとならんしな。

 遺跡特製、なぜか黄色い健康緑茶なんてどうじゃ?」

「お前は健康食品業者の回し者か!?

 フ●イダンなんて藻が癌に効くとか、嘘くさい事を云いやがって値段が2万円超えてるじゃねぇか!

 というか、緑茶なのに黄色だと? そんな胡散臭いのはご免こうむる!」

「いや、そこまで返されるとかえって清々しいの」



かんらかんらと笑う彼女は確かに時代劇に出てきそうな姫様の雰囲気を持っている。

しかし、演算ユニットが人間に化けるとはとても信じられない話だ。



「ん? お主まだ信じておらんのか?」

「ああ、お前が特殊な存在というのは分からなくもないが、ユリカの事もあるしな」

「ん、そうじゃの。実際のところわらわが出てこれたのも彼女のおかげじゃ」

「なんだと?」

「わらわには彼女のデータは隅々まで記録されておる、人の形質についてもそれをもとにさせてもらった」

「その割には似ていないが?」

「なに、データは100%同じにしても面白うない、それに一部よう似ておろう?」

「……」



少し媚びた調子で上目づかいに俺を覗きこむ少女、服装の形状ゆえどうしてもある谷間が強調される。

そう、確かに一部よく似ていた、見た目的にはあり得ない部分が……。

見10歳前後にしか見えないのに、ユリカとほぼ同等の胸を持っているというのはアンバランスこの上無い。



「……まあいい、わざわざ来たんだ、俺に用件でもあったんじゃないのか?」

「うむ、実はの。お主らに年10万回ジャンプさせるには、ジャンプできる人間を増やすしか無かろうと」

「増やす?」

「前は火星にもそこそこ人がおったからの、そのうちと考えておったのじゃが今はおらんし」

「……それはそうだな」

「そういうわけで、お主に嫁の世話でもせねばなーと思っての」

「は?」

「お主、まだ童貞のようじゃのう。それでは困るのじゃ。

 ボソンジャンプを使える人間を増やすために少しづつナノマシンをいじったりしてみたが、地球では同じ手は使えんしの」

「ばっ、なんでそんな事を!?」

「わらわは演算ユニットじゃぞ? 細胞どころか素粒子単位でお主の事情を把握するくらい造作もない」

「ぶっ!?」

「脳内電流の流れを探れば思考も簡単に読めるが、今回は勘弁してやろう」



そっ、それは……人間の隠しておきたい事情がほぼ筒抜けという事になるのでは……。

さとりの妖怪もびっくりの能力じゃないか……。

というか、俺の思考も読んでいてわざと黙ってるんじゃあるまいな……。



「……うう」

「それでどのようなおなごがいい? ぱぱっと100人くらい孕ませてくれればわらわも安泰なのじゃが」

「いや、そんな簡単にはいかないだろう……というか100人って今時中東のハーレムでもいないぞ……」

「さっき言わなかったかの?

 素粒子単位で人間の事が分かると、女子の気持ちも、どうすれば恋に落ちるかもぱぱっと調べてみせるぞ」

「兎も角ご免こうむる! 他を当たってもらおう」



俺は、ほら、もう、あれだしな。

復讐に生きるとか、そういう深い理由がって……え?



「なんじゃ、そんなことなら簡単じゃ。とりあえず、火星の後継者の男共を皆太陽の中にボソンジャンプ……」

「やめろ!」

「何でじゃ?

 奴らの幹部連中は少なくともB級ジャンパーの処理を受けておるから判別は簡単じゃ。

 それとも許してやるつもりかの?」

「何をも何も復讐をするのは俺だ! 他の奴にやらせるつもりはない。

 それに、お前にとってはジャンパーが減るのは問題じゃないのか?」

「むー、B級ジャンパーは基本的に自分でジャンプすることができん。

 A級ジャンパーと一緒にジャンプするか、機械に頼って短距離を飛ぶのがせいぜい。

 それも、機械に頼るならナデシコのようにジャンパーでないものをジャンプさせることもできるし、人がおらんでも大丈夫じゃ。

 じゃがな、人の意思でジャンプせんとカウントされないのが損なところでな……。

 正直B級ジャンパーはお呼びじゃないのじゃよ」

「ううむ……」



少女は少し顔をしかめていたが、すぐに気を取り直すと俺に向かって迫ってきた。

何が何でも俺に女を世話したいらしい……しかしジャンプそのものに俺はいいイメージを持っていない。

戦闘ばかりに使われるというイメージが、ある。



「そんな事、みな使うようになれば気にならなくなる。

 だいたい皆がジャンプできるようになれば逃げ放題じゃ、そうそう死ぬまいよ」

「……」



それもそうか、と少しだけ思う。

確かに皆俺のようにジャンプできるようになれば、いや、CCかジャンプ装置を持っていなくてはならないが。

それでもかなり死ににくくなるだろう、逃げだす場所は別の星でもいいのだから。

そんな事を少し頭の隅にのぼらせていると、ラピスがブリッジからやってきた。

オモイカネ級AIであるヤタに航行を任せてきたのだろう、しかし、部屋の入口で固まった。



「アキト……ソノコダレ?」



半眼で俺に聞いてくる心なしか温度が下がった気がした……。

まさか……な。



「わらわは遺跡、そう遺跡演算ユニットの遺跡ちゃんじゃ!」

「ソウ、ジャンプ反応ハアナタノモノダッタノ」

「んむ、このオノコに嫁を取らせるのが目的じゃ。お主もなってみるかの?」

「ウン」

「即答!? ってちょっと待てラピス分かってて言ってるのか?」

「ウン、ワタシハアキトノモノ」

「そうか、それは話が早くて助かるぞ! ほれ! 早速子供を仕込んでやるのじゃ!」

「いやいや、待て。ラピスはまだ12歳くらいだろう? そう言う事は早い!」

「アキトハ私ヲ嫌イナノ?」

「いやそうじゃなくてな!」

「ふうむ、童貞だけあってヘタレじゃのう……ぱぱっと押し倒すこともできんのか」

「そう言う言葉をラピスの前で使うな!」

「なんじゃ、その娘には汚れないままでいてほしいという事かの?

 今どきそういう思想は時代遅れじゃと思うのじゃが……」



ニヤリと嫌な笑いをする娘、いやこのさい遺跡と呼んでしまうのがいいだろうか。

ラピスは半泣きのような表情になっている、この娘は純粋過ぎる、正直俺かアカツキくらいしか男を知らないはずだ。

まだこの先男と出会う事は多々あるだろうに……。



「まあ、それならそれで構わぬ。あれじゃな、大人の女なら良いのじゃろ?」

「だがだな、俺は既に」

「その通り、お主の嫁さんを呼んだ。ほれ、そこに」

「ここどこ……?

 あっ!

 アキト! なんでそんな恰好してるの?」

「ユリカ!?」



そう、遺跡がつぶやいた次の瞬間にはユリカが俺の部屋に出現していた。

いやまあ、こうされてみると信用しないわけにもいかないのだが、本当に演算ユニットらしいな……。

とか言っている場合じゃない、ユリカはまだ遺跡と切り離されて間もないため、検査も兼ねて入院中のはずだ。

それを無理やり呼び出すとは……。



「ほれ、もともと奥さんなこの女ならば問題なかろう?」

「やだ、奥さんって♪ もう、おませなのね!」

「マッテ、アキトハハタシノモノ」

「順序が逆になってる!?」

「ふむふむ、3Pもいいのう。早速ハーレムか? まだまだ不足なら都合付けるぞ?」

「いやいや、まてまて!? ユリカとはいずれと考えていたこともあったが、今はだな俺はほら……」

「ああ、ナノマシンの暴走とやらか、わらわがいるのじゃそんな事もう起こるわけなかろう?

 というか、既に五感も治療しているのに気づいてないのか? 嫁のほうもきっちりそのあたり直しているぞ」

「あっ、ほんとだ。さっきまでのだるさがない、さっすがアキト、何でもできるんだね♪」

「……ッ!!!」



俺は怒りというか、混乱のあまり遺跡を組伏せていた。

いや、治療してもらったことは悪いことではないとは俺もわかっていたが、

もっと早くそうしていればいろいろな人間が助かったとか、そもそも事件が起こったのはこいつのせいだとか、

いろいろな感情が渦巻いていたからでもある。

しかし……。



「ばかもん! わらわに手を出すなど無意味なことはやめい!」

「あっ、いや別にそう言うつもりでは……」

「わらわは子供はうめん、そんな無意味な行動をするより後ろの2人に手を出せばよい」

「そう言う意味じゃなくてだな……」

「アキト! いつの間にそんなロリコンになっていたの!?」

「アキトハワタシノモノナノニ!!」

「あ、いやそのな……」

「問答無用!」

「シッカリキョウイクスル!」



何故か怒りの頂点に達している二人に光の速さでボコボコにされた俺は、


翌日から二人に奴隷のごとく使われるはめになった。


え、何に使われたのかって?


聞かないでくださいお願いします……orz







あとがき


あるぇーー?

確か毒舌キャラのはずだったんだけど。

いつの間にやらノルマ10万回の方にばかりネタが集中してしまった。

いかんなー、キャラが早速壊れてしまった。

まぁさん大変申し訳ないです。

やっぱり毒舌って難しい……。




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