(注意*これは現在に艦これの世界観を持ち込むにはどうすればいいのかと考え、ネタにした短編です)



西暦2009年07月08日、世界はその有り様を変えた。


深海棲艦と呼ばれる人類の敵が現れたのだ。

最初は太平洋上を航海中の客船が襲われた、続けてタンカーや漁船等も攻撃を受けほとんどの船は沈んだ。

しかし、今や衛星を介してある程度の状況は掴むことができる。

その観測結果は実に世界の海上に会わせて10万を超える何かが映されていた。

画像を極限まで拡大してもはっきりはしないが、何か人型に近いものであった事が確認された。

そう、はっきりしないという事は小さいという事でもある、移動速度もかなりのもののようだ。

ばらつきはあるが、大きさにして1m〜3mの範囲だろうと思われた。

その程度の大きさのものがタンカークラスの大型艦を沈めた理由が分からず混乱した各国政府は急ぎ艦隊を派遣した。

そこで判明したのは、それらはまるでコスプレをした人間や獣のような姿をした何か、だが発見した艦はすぐさま撃沈した。

その小さな何かの砲撃によって。


その後、人類と未知の生物らしき何かは全面戦争になった。

それらの生物はミサイルや砲撃等の直撃を受けても怪我をすることはあるが、一撃で沈むことはなかった。

最低でも3発くらいの直撃を必要とする。

更にほとんどの個体が2m以下の大きさであり、20ノット(時速約37km)以上の速度で動きまわる。

更には徐々にではあるが個体数を増やしているようであった。


国連として集まった各国は核攻撃も視野に入れて会議を行ったが結論は出なかった。

遅々として進まない状況の中、痺れを切らした大国の一つが戦術核での攻撃に踏み切った。

島等が近くにない場所を一応目標に定めたものの、後々の事を考えない早計であったといえよう。

結論から言えば効果はあった、小型の個体はほとんど殲滅することができた。

しかし、人型の個体は傷を負ったもののほとんどがまだ生きており、その国に対し報復を行った。

海沿いの町があらかた壊滅するまでその攻撃は続けられ、その大国は国力を大きく減じてしまった。

連合艦隊を組織して攻撃に打って出た事もあったが、艦隊とほぼ同数の敵艦隊を倒し自分たちもまたほぼ壊滅した。

人類は思い知った、それらの個体一つ一つが戦闘艦と同等の強さを持つことを。


しかし、それを認めることは人類の負けを認めたと同じ。

10万以上の戦闘艦艇を揃える事は実質不可能だ。

人類が世界の7割と言える海から追い出されるのは時間の問題と化していた……。

2009年に起こった、未知の何かによる死亡者数は実に3000万人に上ると概算された。





西暦2010年02月08日


日本は既に海外との連絡を高高度を飛べる旅客機と衛星のみという状況に陥りつつあった。

国内の海路にしても、敵がいないかどうかを散々調べた上で、それでも100%の安全を確保できない状況だった。

燃料の供給も難しくなり、原子炉を再稼働してある程度は補っていたが、

ガソリンの高騰により自動車の個人所有はある程度の金持ちでないと厳しい現状に陥りつつあった。

元々資源の乏しい国である日本はこのままでは食料の自給すら苦しいものとなる可能性が出てきていた。

国力の低下、インフラの低下等により、死者数は海上よりも陸地でのものの方が増えた。


もちろん、日本政府もただ手をこまねいていたわけではない。

長距離誘導型ミサイルや、高火力の火砲、高速潜水艦等の攻撃艦艇、大火力を詰める爆撃機。

40ノット(時速約75km)以上の高速で移動できる高速タンカー等を開発したりもしたが無駄に終わった。

どんなに高火力でも一撃で倒しきるのは難しく、高高度からの爆撃等は海中に逃げてやり過ごされる。

高速の輸送船にしたところで、帰還率は半分程度と惨憺たる有様だった。

一番有効なのは爆撃機による一撃離脱だが、それもまた敵の小型戦闘機に迎撃される事もあり成功率は五分五分だ。


何よりも問題なのは、倒した敵は一週間もしない間に補充され実質減ることがない事だ。

最大数は10万前後から増えていないようだったが、どちらにしろ日本の国力では限界があった。


事態を重く見た政府は敵を調査し、可能であれば殲滅するための特殊チームを立ち上げた。

それは海上自衛隊を母体としながらも、独自に軍事行動を行うスペシャリストチーム。


名を”元帥府”という。

日本が大日本帝国だった頃の呼び名を復活させたのだ。

だが、その内情は最初から波乱含みのスタートだった。

資金面に関しては最優先事項であることもありかなりの融通が利いたが、

人員や兵器に関しては敵の事がまだ手探りである点もあり、また死亡率の高さから志願する者もいなかった。

強引に引き入れた者は結果を出すこともできず、遅々として進まない敵の調査は一般の人々からも疎まれた。





西暦2011年09月09日


高速爆撃機による攻撃が一番効果を上げている事を元に、

より小型で高速、そして高火力の兵器を開発すべくプロジェクトチームが結成される。

元帥府にとって乾坤一擲の策であり、またこのままでは日本という国が倒れかねない。

それ故、人権を半ば無視した人体実験に近い事が行われる事となる。


兵器は、戦闘機からどちらかといえば特攻用ロケット付きパワードスーツのようなものになっていった。

強力な加速で機体を敵に肉薄させ、手に持ったレールガンで敵を粉砕する。

このレールガン(超電磁砲)かなり良い武器なのだが発射後のブレが大きすぎ肉薄しなければ使えない。

普通に艦船や基地に据付けて使えるならここまで日本は苦戦しなかたろう。

つまり、このパワードスーツで使うには都合のいい兵器だ。


ただし、このパワードスーツはその加速から人体に30G前後もの猛烈なGでパイロットを押しつぶす。

更には、レールガンの反動も一発撃ったら肩が抜ける位で済めば上々という有様だった。

当然人体実験も何度も行われ薬物、遺伝子改造、機械化、体にセラミック複合版を埋め込まれた者もいた。

300人いたパイロット候補の中でかろうじて動かせる者が7人、半数近い死者を出してようやくその数字だ。

それでも、元帥府は発表せざるを得なかった、何も成果がありませんでしたでは済まない。

既に日本は孤立に近い状態にあったのだから。





西暦2012年12月31日


細々とではあるが、人類は細かな勝利もありどうにか海沿いの都市の防衛を続けていたが、

壊滅か疎開により人のいなくなる都市も少なくなかった。

そして、とうとう日本の首都東京に向けて敵の集団が押し寄せてくる事態に陥った。

急ぎ海上自衛隊のイージス艦を主体とした艦隊が編成され、パワードスーツ部隊7人も出撃する事となる。

数百に上る敵と、イージス艦隊はほぼ互角にやりあった。


だが、1体で戦闘艦1隻に匹敵する戦力を持つ異様なその敵に対して決定打になり得るはずもなかった。

日本の全艦艇を合わせても100を大きく出る事はない。

そこにパワードスーツ部隊が加わっても倍以上を叩き潰せるほどではなかった。

ただ、金をかけただけの事はあり、パワードスーツ部隊は目覚しい活躍を見せた。

7人で100もの撃墜スコアを上げた、7人のうち4人までが撃墜されるという結果となったが……。

ただ、その中でも1人で何度も補給に戻り48という撃墜スコアを上げた者がいた。

その名は日乃本昇(ひのもとのぼる)

レールガンの装弾数は3発、両手に持っても6発でしかない。

7回も補給をし、全て1発で敵を屠らねばこうはならない。

終盤、艦隊が疲弊し、上陸を許しても彼は一人敵を屠り続けていた。

そう、イージス艦の管制を受けた砲撃やミサイルですら1撃で沈められない敵をだ。


そして、彼は帰還時、海を漂っていた少女を保護した。

茶髪で身長140cm前後の少女、180を超える身長の昇と比べると頭が胸までしかない。

だが、彼女の格好は奇抜だった。

茶髪で色彩の薄い黒目で、小学生位の体格なのにセーラー服を着ている。

それは普通の範囲だが、彼女は背中に大きな武装のようなものを背負っていた。

彼女が戦況を覆すための切り札になるとは、この時誰も思っていなかっただろう。





西暦2013年01月17日


少女は自らの事を、大日本帝国海軍所属の駆逐艦、特(吹雪)V型4番艦 電(いなずま)と名乗った。

当初その事は誰も信じなかったが彼女の武器を外させると、それは地面にめり込んだ。

ビルの床を抜きそうになった時、電はその武器を背負いなおす。

なんでも、背中から外すと駆逐艦だった頃の艤装の重さを取り戻すので普通の場所には保管できないとの事。

その後彼女はいろいろな調査を受けた。

そしてわかったことは、艤装をしている間は駆逐艦と同等の砲撃威力と防御力を手に入れる事ができるようだ。

小柄で高火力、防御力も戦車とすら比較にならない。

そして、彼女は水上を38ノット(時速約70.3km)ものスピードでスケートでもするように滑って見せた。

それはつまり、敵と同じ能力を持つという事でもあった。


そして、彼女の話を元に、それまでの英語と数字の割り振りをやめ敵を深海凄艦と呼称した。

深海凄艦は、大部分が過去の海戦等による怨念によって発生したものでるらしい。

電と同様の戦闘艦の生まれ変わりの少女らもまたそれらの怨念に囚われ深海凄艦となっている者もいるらしい。

だが、彼女らの目的は彼女ら自身のものではなく何者かからの命令で動いていたらしい。

彼女自身は下位の個体であったためはっきりした事はわからないとの事だった。


もちろん、電(いなずま)の言った事を鵜呑みにした訳ではない。

何度も彼女は調査され、その上その後の数度の出撃の間に彼女の言っていたコアが見つかった事が大きかった。

電の言うには、彼女自身のように戦闘によって悪意が吹き飛ばされ今の状態になるのは難しいらしい。

しかし、破壊された深海凄艦が破壊された後。

コア部分を持ちかえる事が出来れば元に戻すことが出来ると言われたのだ。

半信半疑だった元帥府のメンバーもそのコアから電が妖精と呼んだ小人たちによって少女が生み出される所を見て理解した。


特(吹雪)型1番艦:吹雪、白露型6番艦:五月雨、特(吹雪)型5番艦:叢雲、特(吹雪)U型9番艦:漣、が生み出され、

それらを率いて深海凄艦との戦闘を行った結果、通常の艦隊より有効であると判断された。

そして、何度か繰り返すうち艦娘(かんむす)の人数は30を越えその戦果と共に喧伝される事となる。





西暦2013年03月08日


日本が誇る元帥府は今、反攻か、それとも専守防衛かで揺れていた。

30人の艦娘達は確かに強力であったがまだ深海凄艦と比べると圧倒的に数が足りなかった。

攻撃を繰り返せば新しい艦娘達が増える可能性が高い、だが大攻勢をかけても彼女らを整備する者の数が足りない。


妖精と呼ばれる小人たちはかつての日本軍の海軍基地等にいる事が多く、現状の運営システムでは厳しい事が分かってきた。

元帥府は当然、小人の招へいを考えたが彼らは消える事が出来る為捕まえられなかった。

そのため、会議はだんだんと旧鎮守府を復活させ、各地に提督を置く方向へと流れて行った。





西暦2013年4月20日


日ノ本昇は呼び出しを受け、元帥の執務室に出頭していた。

白髪ではあるがふさふさとした髪、小柄ながら威厳のある表情に昇は緊張する。

だが、彼とてパワードスーツ部隊のエースであり人体実験すら志願した猛者だ。

気押されるような事はない、だが彼の隣で小さな女の子、いや最初の艦娘である電がいる事は不信に思った。



「日ノ本少佐、今日呼んだのは新たな作戦の指揮を君にとってもらいたいからだ」

「は! 新しい作戦とはどのような……」

「うむ、先ず最初に君の階級を少佐から中佐へと昇進させる」

「は!」



昇は感謝の意を表明しなかった、実の所パワードスーツのパイロットとして闘うのには階級は特に必要ないからだ。

少尉以上であればいい、もっとも彼の今の地位は今まで倒してきた深海凄艦の数によるものだが。

給料が増えてラッキーと言う程度である、しかし、褒美の先渡しは当然無茶な任務の合図でもある。

むしろ、昇はその不安を思っていた、彼は深海凄艦を倒すために全力を傾けている。

家族や親類を失いその怒りからパワードスーツ隊に志願した彼にとってみれば前線に出ない事には話にならないからだ。



「この度再編される事となった海軍とその鎮守府、基地等に関する話は聞いているかね?」

「は、彼女らを主力として各鎮守府へ配置し、また深海凄艦の殲滅を行いながら艦隊を増やして行くと」

「その通りだ、彼女らは深海凄艦を殲滅する事でそのコアを見つける事ができる。

 又ごくまれに、ここにいる電君のように深海凄艦の支配から脱する事が出来る者もいる。

 今までもそうやって彼女らを保護、そして軍を支援してもらっていた。

 だが、これからは彼女らを主眼に置いた戦略をする時期に来ている」

「まさか……私に後方支援をしろと?」

「君の体は既に限界が近い、後数度出撃すれば後遺症で立って歩けなくなる可能性がある」

「それは……」

「それに、これは彼女からのたっての願いでもある」

「はい、電を助けてくださった日ノ本さんに御恩返しがしたいのです」

「恩返し?」

「深海凄艦は私達が殲滅するのです」

「君が……か?」

「はいなのです! それでも、もしも許せないなら。

 電のような深海凄艦だった者が許せないなら……いつ消してくださっても構わないのです」

「……」


その小さな姿に昇は気押されるのを感じた。

彼女は本気で、昇に復讐されてもかまわないと言っているのだ。

実際、彼女の意思で破壊活動を行ったのではないとはいえ、わだかまりがないとは昇には言えない。

残りの人生全てを賭して深海凄艦を殲滅するつもりだった彼は戸惑いを覚えていた。


それは、艦娘と深海凄艦の違いが何であるのかと言う事だ。

確かに艦娘は深海凄艦を倒す事に躊躇はない様だった、だが同種の存在の裏表に過ぎないようにも見える。

彼女らの言を信じるなら何か強大な負の想念が取りつく事で深海凄艦となるらしいが……。

どちらにしても、信用しきるのは難しいという考えが昇にはあった。

だが……。



「君の仕事は佐世保の艦隊司令、つまり提督となる事だ」

「ッ!?」

「どうかしたかね?」

「どうもこうも! 私はついさっきまで少佐でしたし、今中佐になったばかりです!

 提督と言えば、最低でも少将の地位がなければなる事ができないはずです!」

「ああ、その事か。心配しなくても数年のうちには君は少将になっているよ」

「そうではなくてですね!」

「ついでに言えば君が指揮するのは基本的に艦娘達だ。

 彼女らの階級は臨時ではあるが皆少尉となっている、つまり、君より階級が上の存在はいないよ」

「……はあ……」

「それに、補給や人事権等も君が最高位になるよう色々と根回しは済ませている。

 元より君は、実戦の能力も高いが、作戦立案の能力も高かったはずだ」

「それは……しかし、艦隊指揮の経験は……」

「それこそ、実際に戦う彼女らにさせればいい」

「はいなのです!」

「……わかりました。佐世保ですね。

 ですが、今は舞鶴のほうが苦戦していると聞きますが?」

「そっちには、今村君に行ってもらった」

「今村に……」

「彼は君よりも指揮能力が高いからな、今直ぐ実戦投入出来る彼が適任なのだよ」

「なるほど」

「それに最終的には日本海よりも太平洋の敵を警戒せねばならんしな。

 そう言う訳だ、どうしてもというなら残る事も出来るが。

 君も限界が近いのは感じているのではないかね?」

「……わかりました、謹んで拝命させて頂きます」



こうして、日ノ本 昇は新しく発足された佐世保鎮守府の司令として赴任する事となった。





西暦2013年4月23日



「ここが佐世保の鎮守府……」



佐世保の米軍基地のあるドックの反対側、佐世保重工業の一角を買取り基地として作り上げていた。

昇が鎮守府について思ったのは広いのか狭いのか表現が難しいと言う事だ。

確かに、大きな建物が4つほど存在しており、大きなクレーン等も存在している。

しかし、駆逐艦一隻でも停泊させれば港は一杯になるだろう。

駆逐艦乗組員でも160人は必要だから、直ぐ4つの建物の大部分が彼らでいっぱいになってしまうだろう。


だが、彼の指揮するのは駆逐艦ではない、駆逐艦の能力を持った少女なのだ。

そして後々増えるとしても現状、自分以外には電一人だけという、どこからどう見ても左遷間違いなしという状態だった。

当然建物も大部分使い道がないというしんどい状況でもあった。

指揮官としても、作戦立案者としても動きようがない、正にどうしろというのかと言った感じだ。


取りあえず、司令官執務室へと向かう事にする。

構造的には司令官執務室は2階の右奥にあるだろうと当りをつけて行ってみる。

するとそこでは、えっちらおっちらと司令官執務室を掃除する電の姿があった。



「んしょっ、んしょっ……はわわっ!?

 ようこそ、提督さん。着任おめでとうございますなのです!」

「いや、それはいいが……掃除は業者にでもまかせたらどうだ?」

「これから使うものは自分で掃除をするのが礼儀なのです。

 その分愛着もわいて、きちんと使わないとと思うのです」

「ふむ……」



ちょっと真面目そうな顔で言う電に、昇はどう返事していいのか分からず生返事をする。

これは昭和以前の考え方とバブル期以後の考え方の違いだろう。

昇は少しだけ考えて、それも経費節減にはいいのかもしれないと思った。



「あのあの……司令官さんに鎮守府を案内してもいいでしょうか?」



半分涙目の様な状態で、上目遣いに見てくる小さな少女、はっきり言って頼みごとには反則だろう。

もっとも、彼女は天然でそれをやっているようではあったが。

頷いて、電に案内を頼む事にする。



「では最初に、工廠(こうしょう)に行くのです。

 ここでは、新しいコアと資材を使って艦娘を復活させる事が出来るのです。

 ただ、どんな艦娘が復活するのかはやって見るまで分からないのです」

「なるほど、どうちでも博打要素が出ると」

「なのです。でも、人数を増やす事はいい事なのです。

 幸い、元帥閣下から3つほどコアをもらっているのです。

 最初ですし、人数を整えるのは辛いだろうからって言ってたのです」

「至れり尽くせりだな。なら、3つともやってしまおう」

「分かりましたのです。妖精さん。お願いするのです」



電が言そう言った瞬間足元あたりから小人達が出現した、そして3つのコアを持って特殊な機械に投入した。

妖精は、言葉こそ話さないが何かテレパシーの様なものを使って俺に資材はどのくらい使うのかと聞いてきた。

そもそも、資材は最初に備蓄されていた最小の量だけだろうし、必要最低限でと言っておいた。

平均して20分ほど待つように言われたので、電は次の場所を紹介するといって工廠を出て行った。



「ここがお食事処”間宮(まみや)”なのです。

 元々、間宮さんは甘味が得意なのですけど、流石に甘味だけで三食はきついからと。

 現地の料理人さんも雇っているのです」

「ん? 間宮って確か、二ヶ月ほど前に拾ってきた間宮 (給糧艦)か?」

「そうなのです! 間宮さ〜ん!」



40人前後くらいが同時に使える和風の食堂といった感じの店に電は声をかけながら入っていく。

中ではせっせと、4人ほどが動き回っていた。

その一人が電の声に反応して振り向く。



「あら、電ちゃんと……日ノ本さ、いえ提督。ご着任おめでとうございます♪」

「ありがとう。それにしても忙しそうだな」

「はい、まだ準備段階でして、お騒がせして申し訳ありません。

 夕食には間に合うと思いますけど、昼食はおにぎりくらいしか用意できそうにないです」

「構わないよ。邪魔して悪かったな」

「いえ、励みになります。お時間があったら、またいらしてくださいね。提督」

「ああ、よろしく頼む」



その後、昇達は入渠用のドック、艦娘達の寮、その他の人員の寮をまわり、司令官執務室へと戻ってきた。

そこに間宮からの差し入れのおにぎりが届けられ暫く昼食を取る。

食べ終わった頃に工廠からの報告があり、再度向かう事になった。



「暁よ、一人前のレディとして扱ってよね」

「響だよ、その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」

「雷(いかずち)よ雷(かみなり)じゃないわ。そこんとこもよろしくね」



電と同じくらいの身長の三人はびしっとポーズを決めながら昇に言った。

昇は思わずため息をついた。

軍というより転校生の紹介みたいな感じが漂っている。



「なんだその微妙に説明臭い台詞は」

「お約束よ。それにしても第六駆逐隊が全員揃うなんてね」

「びっくりなのです!」

「ほんとだね。電が最初だったのも驚きだけど」

「これからは私にど〜んと任せておきなさい♪」



こうして、佐世保鎮守府は始動する事となった。





西暦2013年5月02日



まだ始動して間もない佐世保鎮守府ではあったが、訓練や要最化に関してはかなり上手くいっていた。

既にエキスパートの域に達している電の指導で他の3人も艦娘としての戦い方を身につけてきている。

艦娘以外の一般職員にも銃等の支給をし、また、据付けの兵器を多数配備した。

大型砲塔や、誘導式のミサイル、水中部分から魚雷も発射可能であった。

もちろん、鎮守府まで攻め込まれるのは事実上敗北に近いが、それでも用心はしておくべきという昇の発案である。

また、現状、お食事処間宮の稼働率が低いため間宮は可能な限り整備等を手伝ったりしている。

そして、今日、第六駆逐隊メンバーによる初出撃となった。



「提督も来られるんですか?」

「まだ数が整っていない事もあるし一応な、手出しは控えるつもりだ」

「も〜わたしがいるんだから大丈夫よ。提督も体に悪いんだから鎮守府で待ってなさい」

「一人前のレディとしてきっちり仕事はこなすわ。提督も無茶はしないで」

「私が皆を沈めさせないから、提督は安心していいよ」

「なんか皆に集中攻撃されてるな……」

「当然でしょ! 提督の体はもうボロボロじゃない!」



皆も電から次に昇が全力機動をすれば、歩くこともままならなくなる可能性があると知らされていた。

それ故の心配であったが、艦娘のみの艦隊戦をまだ確認していない昇はついていく気であった。

仕方ないので、彼女らはボートで遠距離から見ているならと許可を出した。

一応沈む可能性も考えて、護衛に間宮を付けるのも忘れていない。

既に第六駆逐隊のメンバーにとって提督は守るべき人となっていた。



「さて、まずは鎮守府の周辺100km半径の範囲から深海凄艦を叩き出すわよ!」

「人工衛星の調査によると、周辺海域には17ほど深海凄艦がいるようだね。

 内訳は駆逐艦のみ、イ級が10、ロ級が5、ハ級が2。南海方向から回遊するように動いている。

 恐らく偵察艦隊だろうけど、鎮守府を見張っているように見える、叩いておく必要があるね」

「出来れば敵でも沈めたくはないのです。でも、そうすることで皆が救われるなら……」

「じゃあ付いてきなさい、レディの指揮を見せてあげる」



結論から言えば彼女らの戦いは目覚しいものだった。

深海凄艦は大きくなるほどに知能が上がる傾向にある、そのためか駆逐艦は小動物程度の知能しかない。

そこに、訓練され艦娘としての戦い方と、元よりの連携があれば、分断各個撃破等容易い事だった。

確かに17隻全部が一度に突撃してきていたら彼女らでも厳しかったに違いない。

ようは艦娘達の作戦勝ちだった。





西暦2013年5月17日


各鎮守府は既にかなりの回数、深海凄艦との戦闘を繰り返していた。

佐世保鎮守府も例外ではない。

通算すれば10回、迎撃戦や侵攻作戦を行っていた。

奪回した海域を通り、基地や泊地といった新しい防衛拠点を増やしている。


そこで、このまま南方との通商を回復するためにハワイ沖に鎮座する深海凄艦の艦隊を削る作戦に出た。



「一航戦の誇り、思い知りなさい!」

「鎧袖一触よ。心配いらないわ」

「たとえ最後の1艦になっても、叩いて見せます!」

「いや、姉さん。それもどうかと思う……」

「五航戦、翔鶴、出撃します!」

「瑞鶴出撃よ!」



赤城、加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴。

極端に偏った空母編成、だがいわゆる南雲機動艦隊と同じ編成を持って攻略を開始した。

そして迫り来る無数の深海凄艦達を抜けて、ハワイ島沖にて泊地棲姫との決戦を行った。

泊地棲姫と護衛艦隊を遠距離からの空爆で無力化していった。

周辺戦力も多く、厳しい戦いとなったが、第二、第三艦隊も投入され火力を集中する。



「千歳姉、行くよ!」

「うん、提督のために!」

「山城、今よ!」

「はい、お姉さま!」



第二艦隊は回り込んで後方から千代田、千歳と第六駆逐隊の暁、響、雷、電。

第三艦隊は側面から扶桑、山城と第七駆逐隊の朧、曙、漣、潮。

ハワイに居座っていた深海凄艦に大打撃を与え、南下のための足がかりを作る事に成功した。





西暦2013年8月1日


艦娘達もかなりの数になってきていた。

佐世保鎮守府も既に100人近い艦娘を擁する大規模な鎮守府となり、提督が直接戦場に出る事もすくなくなっていた。

そこで中国大陸横を南下、フィリピン、インドネシア周辺までを防衛するためにパラオ泊地を再築する事となる。



「提督! パラオ泊地に転属するって本当なのです!?」

「ああ、秘書艦のお前には悪いが付いてきてもらう事になる」

「わっ、私は何も問題ないのです!

 でも……身を粉にして働いた提督を左遷するなんて……あんまりなのです……」

「なあに、今度の件で俺は大佐になる。立派な栄転だよ」

「それは……そうなのです。でも……」

「まあ、現在の艦のうち半分にはパラオについてきてもらう。

 戦力不足ということはないはずだよ」

「わかったのです。艦の選定を急ぐのです」

「よろしく頼む」



こうして、日ノ本昇大佐率いる50人の艦娘達はパラオ泊地へと転属する事となった。

南下中、何度も戦闘となり、その中を切り抜けていく事で戦力は更に増加し、大和を見つける事に成功する。

パラオ泊地に入る頃には60人を越える艦娘達がパラオに入港していた。





西暦2013年11月1日


深海凄艦から、太平洋南西部を奪還するため日ノ本昇率いるパラオ泊地駐留艦隊は徐々に進軍していた。

だがインドネシア奪還のためには、ソロモン諸島からの援軍が邪魔になる、そのため先に排除する必要があった。

しかし、ソロモン諸島には深海凄艦の大艦隊がひしめいている。

このままでは、フィリピン方面への逆進行もありうる。

そのため、日ノ本昇大佐は80隻前後に増えている艦隊の半分を出撃させる賭けに出た。

だが、インドネシアからの攻撃に対する迎撃のため半数が割かれる事となり、実数的には3艦隊での突撃となる。


比叡、霧島、五十鈴、暁、雷、電を第一艦隊として正面から。

鳥海、衣笠、鈴谷、摩耶、天龍、夕立を遊撃として島を大きく周り背面から。

利根、金剛、榛名、飛鷹、瑞鳳、綾波を第一艦隊の後詰としてやはり正面から向かわせた。



「ヒェー!? 何故金剛お姉さまじゃなくて私が艦隊旗艦に〜!?」

「比叡お姉さま、旗艦なのですからもっと胸を張って!」

「そんなぁ・・・」

「もう、しっかりしなさいよね! 提督も見てるんだから」

「雷姉さん、多分比叡さんには金剛さんが見てると言ったほうがいいのです」

「全くなってないわね、そんなのじゃ一流のレディになれないんだから」

「まあ、そんなに気張らず頑張りましょうよ」



比叡が性格的に突っ込みすぎないだろうという考えでの編成である。

金剛型は金剛、霧島は突撃型、榛名はまだ鎮守府に来て日が浅いため戦力的に拮抗する戦いには向いていない。

比叡の少し引き気味な戦いはこういう場では安定した戦果を上げる事ができていた。



「あれが……戦艦凄姫」

「行きますよ。比叡姉さま」

「あっ、はい! 第三艦隊、制空権頼みます!」



第三艦隊の飛鷹、瑞鳳から戦闘機が飛び立ち、空中で敵戦闘機と交錯する。

深海凄艦の戦闘機の数が多く制空権は取れなかったものの、奪われない程度で済む事ができた。



「全艦、主砲制射初め!!」

「主砲、敵を追尾して! 撃てーッ!!」



だが、戦艦凄姫の耐久も火力も、並のものではない。

これ以前、何度も戦闘をこなしてきた第一艦隊は火力の面でも不足があった。



「ナンドデモ・・・シズメテ・・・アゲル・・・」

「馬鹿げた火力を・・・ですが!」

「鳥海参上!」

「名乗ってる場合じゃないよ! 砲撃開始!!」

「いっくぜぇ!!」

「もう、優雅さがたりませんわ」

「素敵なパーティしましょ!」

「そんな事言ってる場合じゃねーだろ!」

「はうぅ・・・」



鳥海、衣笠、鈴谷、摩耶、天龍、朝潮の第二艦隊が深海凄艦の艦隊の背後から現れる。

もちろん、敵も警戒していなかったわけではない。

ただ警戒していた艦隊を打ち破って現れたのだ。



「今デス! 第三艦隊も包囲に参加するのデース!」

「はい、お姉さま!」

「一応、第二艦隊の旗艦は吾輩なのだが・・・」

「はいはい、あたしたちも行くわよ」

「皆さん頑張りましょう!」

「……(ついていけない)」



こうして包囲網は完成し、ソロモン海の深海凄艦をほぼ一掃する事に成功した。

一時的ではあるかもしれないが、これによりインドネシア進出の足がかりが出来たという事になる。





西暦2014年04月23日


ハワイを叩いた事で一度数を減らした太平洋中央付近で、

また深海凄艦の大艦隊が編成されつつあるという情報が本土からもたらされた。

今回も複数の鎮守府が討伐艦隊を出す予定であり、当然パラオ泊地にもその命が下った。

出撃するのはハワイ南西にあるウェーク島。

出来るだけの艦隊を出すようにとの要請であった。



「提督、もしかしてまた出撃する気なのです!?」

「ああ、俺もいい加減体がなまってきてな」

「ダメに決まってるのデース! 提督は命の駆けどころを間違ってイマース!」

「そうは言ってもな、指令書が来ている。今回の作戦に同道するようにとな」

「では、こういうのはどうでしょう?」

「ん?」



昇はその時持ち上げられていた。

そして、艤装の砲座部分に座らされる。

その人間サイズの艦娘が背負うには大きすぎる艤装は大和のものだった。



「私は今回戦闘艦隊には加わりませんし。

 それに多分、私たちの出番はないと思いますよ、全ての鎮守府から数十ずつ出撃しますから。

 ざっと3、400隻の艦娘で溢れかえる事になると思いますので」

「なのです。大和さんの他に護衛艦隊として天龍さん龍田さん夕張さん、

 それに弥生ちゃんと望月ちゃんに一緒に行ってもらうのです」

「……わかった、じゃあ。主力は飛龍、蒼龍、利根、筑摩、弥生、望月を第一艦隊。

 青葉、衣笠、加古、古鷹、睦月、如月を第二艦隊として編成する。

 全体の動きを見て、突出しすぎないように頼むぞ」

「了解しました!」

「提督が突出しないかのほうが心配なのです」

「言えてますね、見張りが必要そうです」

「私に乗っている以上、勝手に動き回る事はできませんから、大丈夫です」

「まあ、それもそうね」



そうしてウェーク島に向けて出撃したが……島についた頃には既に大勢は決していた。

個々の提督がそれぞれに作戦を決行した結果、遠くフィリピン近海からの出撃だった昇はかなり遅れたのだ。

一応参加はしたものの、逃げ出してきた一部勢力を叩くくらいしかやることがなかった。

参加した意味があったのかと疑問に思うものの、作戦終了の合図に昇たちは戻っていく事となる。





西暦2014年08月08日


ハワイ、ソロモン、ウェークそれぞれの海域で一度づつ勝利した事で太平洋中央の深海凄艦の艦隊は減っていた。

しかし、どんどん復活する彼女らはある程度戦力を回復していた。

もっとも、戦力が多少回復しても全力で負けた相手と戦いそのまま勝てるとは思えない。

深海凄艦の指揮官クラスがそう判断したのか3つの海域からミッドウェーに集結しているという大本営の発表があった。

また、同時にアラスカのアリューシャン列島にも深海凄艦の艦隊が集結しているという。

北と東から2方面の艦隊を使っての日本そのものを包囲殲滅するためのではないかという見方が有力だった。

今のところ日本と他国の艦娘の数には圧倒的なほどの差がある。

つまり、今なら日本を叩けば艦娘はほぼいなくなる。

深海凄艦はそれを狙っているというのが大本営の考察だった。



「アリューシャン方面に北部と本国の鎮守府のほとんどが出撃する事が決まった」

「それって、南洋の泊地や基地だけでミッドウェーに集結中の艦隊に挑むという事なのです?」

「そうだ。数は多いが提督が着任したばかりのところも多い。

 実際は、我々の艦隊を中心とした編成にするしかないだろう」

「そんな……ウェーク島の倍の敵に、3割未満の艦隊で挑むという事ではないか!」



作戦会議に参加していた長門が怒りの声を上げる。

だがそれは仕方のない話であったのかもしれない。



「前回のウェーク島が上手く行き過ぎたんだ。全力の1割程度の力で勝ってしまった。

 悪いことではないんだがな、今回もそれで十分だと判断されたんだろう。

 それに、アリューシャンにも同程度の艦隊と見た事のない姫型がいるという話を聞いた。

 向こうも激戦になることは間違いないだろう」



日ノ本昇は今回の戦いがおそらくは、かつてない激戦になるだろうと予想した。

ミッドウェーの深海凄艦達の中にリーダー格がいることは明白、となればそれも強力な姫型だろう。

可能な限りの艦隊で出なければ勝目がない、そう考えるに十分な状況だった。



「今回は10艦隊を出撃させる。

 ミッドウェー攻略艦隊が4つ、周辺の深海凄艦を殲滅する艦隊が4つ。

 敵が本土に突撃してきた場合に対処してもらう遊撃艦隊が2つの編成となる」

「本土攻撃があると見るのですか?」

「わからん、だがアリューシャンの方もミッドウェーの方も日本に向けて動いているのは間違いない。

 取りこぼしが出る可能性は低くないだろう」

「ミッドウェー攻略部隊は大和、長門、陸奥を中心とした戦艦艦隊と赤城、加賀、飛龍、蒼龍を中心とした空母艦隊。

 この2つに加え、伊勢、日向、扶桑、山城の航空戦艦艦隊、三隈、最上、熊野、鈴谷を中心とした重巡艦隊。

 この4つの艦隊を攻略艦隊として送り出す」

「周辺の駆逐は、伊168率いる潜水艦艦隊、雪風、時津風、天津風、初風他の駆逐艦艦隊、

 龍驤、隼鷹を中心とした軽空母艦隊、愛宕、鳥海、妙高、羽黒等の重巡艦隊の4つとし周辺警戒にあたれ。

 そして、残る2つの艦隊は俺が直接指揮する」

「遊撃艦隊の編成はどんななのです?」

「第一艦隊は武蔵、足柄、天竜、竜田、龍驤、大鳳。

 第二艦隊は古鷹、加古、青葉、那珂、翔鶴、瑞鶴。

 主力からこれだけの戦力を抜くのは少し問題もあるが、可能な限りこちらも戦力を保持しておきたい。

 この60人が今回ブイン泊地より出撃する艦隊だ」

「今回は、イージス艦こんごうを回してもらえたのです。

 提督はこれに乗って指揮をお願いするのです」

「私の孫世代艦デース! ちょっと心理的に複雑ですが……。

 きっと、提督を守ってくれマース!!」



艦娘が実装になった今、イージス艦は艦娘よりも威力のある攻撃と同程度の精密射撃能力を誇る。

だが乗組員が300人も必要であり艦娘のコンパクトさによる回避力を考えれば同程度の戦力にしかならない。

そのため、大本営周辺の防衛以外はほとんど使われていない状態なのだ。

今回こんごうを昇の護衛として大本営が出してきたのは、場合によっては本土防衛をする可能性があるからだった。

作戦を決める前から手回しをしている大本営の抜かりのなさに昇は唸るしかなかった。


ミッドウェー海戦は半包囲での海戦から始まった。

空母による制空権の取り合いは五分、重雷装艦による開幕雷撃は艦娘側の有利で終わり接近を開始する。

数においては互角だが長射程の砲に改装した艦も多く初撃は確かに艦娘側が有利に展開。

だが、潜水艦の数においては深海凄艦側の方が有利だったらしく、徐々に中破、大破し撤退する艦娘も増えていった。

一進一退の攻防の中、大きく回りこんだ深海凄艦の艦隊が艦娘の艦隊と交錯、だが砲撃を行わず素通りしようとした。

慌てて艦娘側も予備艦隊を投入、それを阻止するが更に別働隊が複数艦娘達を迂回して通り抜けようとする。

戦線は混乱の只中に突入した。



「くっ、これでは状況がわからん……。

 だが深海凄艦側もそんな戦術を取れば被害が甚大になる事は目に見えているだろうに……。

 いや……、まさか……。

 遊撃隊! 第一艦隊、第二艦隊。出撃急げ!!」



イージス艦、こんごうに間借りしていた武蔵以下第一艦隊と古鷹以下第二艦隊が出撃する。

火力そのものでもこれだけいればこんごうを上回る。

彼女たちは、レーダーに捉えられた敵艦隊に向けて加速を始めた。

ミッドウェーから小笠原近海へ向けて抜けてきたのは十数隻前後の深海凄艦だった。

ミッドウェーを犠牲にし切り抜けた艦隊、それ故数は減っているが精鋭部隊が揃っている。



「ようやくこの武蔵の出番か、第一艦隊出撃する!」

「重巡古鷹、出撃します! 第二艦隊は続いてください!」



深海凄艦の艦隊は複縦陣を敷いて突撃してきていた。

対して、遊撃艦隊は第一艦隊と第二艦隊を両翼に鶴翼の陣で迎え撃つ。

正面火力としてのイージス艦こんごうを活かす形でもあった。

だが、敵艦隊からは大量の戦闘機が飛来する。



「負けへんで!! この程度!」

「はい、提督のいるこんごうには近づかせません」

「私たちだって負けません!」

「そうよ、一航戦にだって負けないんだから!」



制空権の確保は互いにいたらず、しかし形勢はやや不利な状態となった。

しかし、イージス艦こんごうからの精密ミサイル射撃により深海凄艦は前衛部隊を剥がされ五分の形勢となる。

互いの砲火により空が朱に染まるが、その合間を縫っては魚雷が爆光を閃かせる。

全体としては深海凄艦達が押されているようにも見えた。

だが、その中で2隻、空母凄姫と戦艦凄姫は、どちらも被弾激しい状態でありながら鶴翼の中央を貫いた。

結果として鶴翼は崩壊し、空母凄姫と戦艦凄姫はイージス艦こんごうへと砲火を集中する。

周囲に散った艦娘達も空母凄姫と戦艦凄姫に砲撃を叩き込みながらこんごうの盾になるべく動くが、

何分大きさに違いがありすぎる。

結果として、こんごうは可能な限りミサイルや砲撃で応戦するものの、追い込まれていった。



「艦長、後の事は頼む」

「日ノ本提督……よろしいのですか?」

「俺も今でこそ少将なんて不相応な階級をもらっているがこの間まで左官だった人間だ。

 指揮権を一時的に移譲する程度問題にならないさ」

「そういう事ではなく……」

「頼んだ」

「はっ」



昇は説明しなかった、しかし艦長はわかったようだった。

そう、単なる我が儘、深海凄艦を自らの手で倒したいという我が儘なのだと。

もちろん、艦娘の支援を期待するのが難しく、このままではこんごうが落ちかねない状況なのも事実だ。

しかし、昇は撤退を指示し、再集結後、攻撃しても良かった。

その場合は日本に被害が出たかもしれないが、イチかバチかの賭けと比べるならマシな手段だったろう。

だが、昇は自ら出る事を選んだ……。



「日ノ本昇、パワードスーツ回天、出る!」



昔あった特攻兵器と同じ名を冠したそのパワードスーツは、その名に反して彼を生かし続けた。

しかし、その出撃と同時に戦艦凄姫は視線をこんごうから回天へと向ける。



「キサマコソ・・・ワレラガオンテキ・・・・」

「怨敵か、それはこちらの台詞だ!!」




サイズが同じ、しかし、空を飛ぶパワードスーツと海を滑るように動く戦艦凄姫。

火力では戦艦凄姫に分があったが、そのスピードにどうしてもついてはいけなかった。

だが、戦艦凄姫が苦戦しているのを見て空母凄姫が艦載機を発艦、回天に対し攻撃をかけさせる。



「沈め!!」



その合間を縫って、昇は回天に搭載された火器を全て一点に集中して放つ。

空母凄姫の飛行甲板に着弾し、艦載機の発艦を不可能とする事に成功した。

だが、戦艦凄姫を前に火器を使い尽くした昇が取る事ができる作戦は、近接武装による一撃離脱戦法しかなかった。



『こんごうより、日ノ本提督へ。ミサイル攻撃にて牽制を行います。その間に撤退されたし』

「ミサイル支援は頼む、しかし、撤退は出来ない。繰り返す……」

『……了解』



こんごうからミサイルの雨が降らされる、それらは全て戦艦凄姫に叩きつけられ業炎をあげる。

だが、戦艦凄姫は傷を増やしたものの、まるで何事もなかったのように砲撃を再開した。



「くそっ、しぶとい……」

「マケヌ……ミナゾコヘシズンデイケ……」

「ちぃ!?」



何度も応酬される砲撃と一撃離脱の抜刀攻撃、一応は抜刀攻撃も武器が特殊セラミックスである事もあり傷つけている。

しかし、戦艦の耐久性を持つ戦艦凄姫にとってはかすり傷に等しい。

そして何度も突撃を繰り返していれば当然捉えられる事もある。



「オチロ!」

「ぐあぁぁぁ!?!?」



直撃こそ避けられたが、回天はウィングが吹っ飛び、姿勢制御が取れなくなった。

錐揉み飛行で墜落していく昇……だが、海面にぶつかる直前、落下は止まり急制動の衝撃で一瞬ホワイトアウトした。



「全く、こういう特攻はアタシの役目だろ?」

「天龍ちゃんより突撃馬鹿なんて提督くらいですよ。いい加減にしないとお仕置きしちゃいますからね?」



天龍と龍田によって逆さまながら受け止められてどうにか昇は生き残っていた。

天龍はそのまま龍田に昇を任せ、戦艦凄姫に切り込む。



「はーっはっは! 燃えてくるぜ!! 久々の一騎打ちだ、楽しませてくれよ!!」

「ドケ!」

「どけと言われてどく馬鹿がいるかよっと!」



戦艦凄姫と天龍は、奇跡のように互角の戦いを見せた。

火力と装甲では圧倒的な戦艦凄姫だが連戦の疲れが出ていたせいもあるだろう、だが天龍の技量も大きかった。



「ウルサイ、キエロォォォォォ!!!」

「なっ!?」



焦れた戦艦凄姫は主砲、副砲等全ての砲を開放し無差別攻撃に打って出た。

たまらず天龍は距離を取る、しかし、天龍を無視して戦艦凄姫は昇へと仕掛けようとした。

だが、その時には既に新たな艦娘が戦艦凄姫と昇の間に割り込んでいた。



「全く、この武蔵を忘れてもらっては困るな」

「ジャマダ……」

「むしろ邪魔は貴様だ。早々に消えるがいい」



既に傷つきボロボロだった戦艦凄姫は、武蔵と正面から撃ち合う事になり会えなく撃沈した。

凄まじい執念を見せた彼女に、昇は言い知れぬ何かを感じたが首を振ってその考えを追い出す。

例え、深海凄艦が何であれ、人類の存亡に関わる以上全力で叩くしかないのだから。




西暦2014年11月14日


ビアク島周辺に展開している深海凄艦を撃滅し、インドネシア北部を完全に深海凄艦から取り戻すという作戦が決まった。

過去の作戦にあやかって、渾作戦を冠したこの作戦当然パラオ泊地も参加する事となっていた。



「今回も皆頑張ってくれ」

「はいなのです! でも提督は司令室で待機なのですよ?」

「わかっているさ。まだ体調も回復してないしな」

「艦娘でもないのですから、傷ついてもすぐに回復とはいかないですし。

 そもそも、体の頑丈さが違うのです。これからずっと出撃禁止なのです!」

「うっ、う〜む」

「大丈夫デース、私たちの提督への愛で深海凄艦は全てバーニンデース!」

「はい、榛名は大丈夫です!」

「なんか違う……って、まあこのスーパー北上様に任せておけば万事解決ってね」

「一航戦の誇りお見せしましょう」

「まったく……」

「だからもう、大丈夫なのです。提督は提督の仕事に専念して欲しいのです」

「分かった。これからもよろしく頼むな。皆」




深海凄艦との戦いはこれからも続く、しかし、今や多くの艦娘達によりその脅威は小さくなりつつある。

日ノ本昇少将は、彼女らが既に深海凄艦を台風等の災害程度にしか考えていない事に苦笑いをしつつも、

その将来性と世界の希望である彼女達を見送る仕事につけたことを誇りに思った。

いずれ、艦娘達は人と同化し、また深海凄艦もいずれは……昇はそう思う事が出来る自分に少し驚き、そしで微笑んだ……。












あとがき


シルフェニア10周年記念作品として艦これSSを投稿してみました!

この作品は、現在の世界観と艦これの世界観を合わせるにはどうすればいいかと考えてネタにしたものです。

1月のアニメが出れば無意味になる設定ではあると思うのですが、こういうのも楽しいかなとw

尚、西暦2013年4月23日以後は開始、及びイベント開始日に合わせてあります。

楽しんでいただければ幸いなのですが……。

因みに、本当は私が着任しているのは舞鶴の鎮守府ですw



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