4周年記念作品

魔術士オーフェンVSリリカルなのはストライカーズ

お前ら本当にリリカルなの!?

 

 

「くそっ、キースのヤロウ……また俺を巻き込みやがって……。

 今度会ったらとりあえず光の白刃でいい具合に蒸し焼きにした後、地人共に餌と偽って売りつけて金貨10枚巻き上げてやる!

 ハァハァ……ていうか、アイツ魔術くらいじゃ死なねーよな……共鳴破砕や原子崩壊くらっても生きてやがるし……。

 ……っていうかここどこだ?」

 

俺はキースの持ってきた妙な扉の中に叩き込まれたせいで見知らぬ土地にいる。

キースっていうのは、まあ……銀髪変態執事とだけ覚えておけばいい、というか忘れたいしな。

俺の名はオーフェンってことにしておいてくれ、周りからはそう呼ばれているし、俺自身昔の名前なんて忘れた。

金貸しを初めてみたが、踏み倒されまくって無一文になった黒魔術士だ。

こうして見ると、不幸な自分に泣けてくるが……そのうち意地でも安定収入になってまともな飯を食ってやる!

自分でも少しさもしいんじゃねえかという野望を再確認して、ふと周りを見ると……。

どうみてもキエサルヒマ大陸ではありえない周辺の風景に愕然としてしまった。

 

「なんだ……あいつ、まさかマジで異世界への扉でも見つけたってのか?」

 

そう、俺の周りにあるのは建物ばかり、鉄の馬車……いや馬が引いているわけじゃねぇな、

それが高速で突っ走ってる、石畳とはいえない小粒の黒い石を固めた道。

通りの端を歩いている人の群れ……最近使われ始めたばかりのはずのセメントで出来た家々。

何階建てなんだよという巨大建築物が立ち並ぶ街並み……。

なんてこった、大陸の結界の外にある場所でもない限り説明がつかねぇ……。

 

「まあ、アイツなら何をやっても不思議じゃないが……魔法陣で飛ばされたときより異常ってくらいで……」

 

とはいえ、キースに飛ばされた以上あいつはきっと来ているはずだ……。

あいつは、結局俺をおちょくることに人生かけてるとしか思えないからな……。

少し落ち込んだ俺だったが、人生前向きに生きないと駄目だよな、こんな状況じゃ空しい気がしないでもないが。

と、その時視界の隅に見慣れたものが映った……。

 

「我は築く太陽の尖塔!」

「ギャォぉぉぉ!!!?」

「ウギァぁぁぁ!!!?」

 

俺はこんがりローストに焼けた地人共に近寄っていく。

因みにこの魔術は白熱した火炎が渦を巻いて吹きあがるもので範囲内にしか殺傷能力が及ばないという点で優れる。

光の白刃のような魔術じゃ一般人も巻き込むからな、ここの住民がトトカンタほど物分かりがいいと助かるんだが。

まああれはあれで問題外という気はしないでもないが……。

 

「おい、クソ地人共。お前らいったいどっからわいた?」

「いきなりこんがりローストにしておいてボウフラ扱いか!

 このマスマテュリアの闘犬ボルカノ・ボルカン様をこんがり焼いた罪!

 ナイトフィーバーで踊り殺すことでしかはらせんわ!!」

「兄さん……」

「そうかそうか、話をまともに聞く気は無いんだな」

「ぐへっ、その汚い足をどけてくれやがりませ、この性悪黒魔術士様……」

「んー、聞こえないなー」

「おおう、コメカミがコメカミっ!! 早くどけないと遠い空から祈り殺すぞこのやろう」

「あっ、そこはかとなく弱気だ」

 

こんがりローストに焼けたはずなのにこの元気……いつもながら頭の痛くなる奴らだ。

まあ、そんな奴らだから手加減せずに魔術をぶちこんでるわけだが。

見た目はみすぼらしい子供にすぎないが、そもそも服装はどうやって維持してるんだ……もう焦げ跡一つねぇ……。

ボルカンのぼさぼさ頭に寸づまりの剣と変色したマント、同じような風貌でオカッパ頭とぐるぐる眼鏡のドーチン。

どっちも別段会いたいような奴じゃねえが、金の事があるからな……。

 

「まあいい、それで。お前らはどうやってここに?」

「もちろん我が伝説の新たなる幕開け、痛っだからコメカミ!?」

「ドーチン、お前なら分かるよな……このままだとどうなるか?」

「ああ……いつものことですよ。

 怪しい執事が現れて、この扉をくぐればもう2度とオーフェンさんに追ってこられることもないって。

 僕は駄目だって言ったのに……兄さん僕までひっぱりこんで……」

「なるほど……キースの仕業か……何考えてやがる……いや、アイツの考える事に意味を期待するのは間違いか……」

「あはは……オーフェンさんも大変ですね」

「……お前らが金を返してくれれば大変じゃなくなるんだがな」

「あれは兄さんがした借金で、僕は関係……」

「悲しいぞ弟よ! 兄の不幸は弟の不幸、兄の借金は弟の借金ではないか!!」

「だ、そうだぜ?」

「……はぁ」

 

その時の俺はつもの調子で地人共の借金取り立てをしつつ情報収集をしているつもりだった。

しかし、ここは俺が思っているよりもはるかに常識的な世界だったらしい……。

いつの間にか周囲に人だかりが出来ており、俺達から少し離れて人間が観察している。

 

「所でオーフェンさん……僕達目立ってません?」

「ああ、警官でも呼ばれたら流石に……」

「何っ、俺様の人気もついに異世界まで届いていたか!!

 さあ今ならこのボルカノ・ボルカンのサインを特別に書いてやるぞ!」

 

俺はやじ馬をかきわけて警官と思しき人間が来るのを見た。

左右から2人……はさみうちにするつもりか。

流石に俺も高速で走る鉄馬車のほうに行く気にはならず、高い建物の隙間にある細い路地にむかって走り出す。

 

「ちょっオーフェンさん!?」

 

ドーチンが驚くのを無視して路地に走りこむと2人の警官らしき男達も追いかけてくる。

警官らしきというのは警棒ではなくおとぎ話に出てくるような魔法使いの杖を持っているからだ。

杖というかロッドというやつだろう、まっすぐな棒の上に宝石のような赤い石がついている。

 

「止まれ! 止まらんと強制的に捕縛する!」

 

止まらないと捕縛というのは意味不明だが、魔術が使えるならありうるか……しかし一体どういう魔術を……。

そう俺が考えながら逃げていると、魔術のはつ同時におこるような違和感が俺を襲う。

 

「バインド!」

『It consented』

 

相手の使う魔術の構成を見る……これは……。

何となくはわかるが、明らかに俺達の使う魔術とは違う……。

そもそも、天人からの遺伝で使える俺達のそれとは全く異なるようだ。

面喰っているうちに、相手の魔術が発動、俺の胸のあたりから囲むように光の輪が出現する。

そして、そのまま俺をしばりつける。

なるほど……そういう理屈か……。

 

「チィッ……!!」

 

だが、キースを見つけてどつき倒し、きっちり帰る方法を吐かせるまで捕まるわけにはいかない。

発動の方法や元になるエネルギーの供給減など分からない事は多々あるが、幸いこの魔術そのものの構成は単純だった。

ただ強靭な紐としての属性しか与えられていない、しかし、これはこれで使い勝手は良さそうだが……。

縛り付けられた状態で走りながら、頭の中で構成を描いて声とともに魔術を発動する。

 

「我抱きとめるじゃじゃ馬の舞!」

「何っ!?」

「まさか、無効化したというのか?!」

 

まあ、お互い初めての魔術の応酬だ、びっくりすることも多いだろう。

しかしまずいな……地理に疎い俺がこのまま逃げ切れるのか……。

最悪疑似転移で建物の上まで移動するしかないか?

 

「ならば!」

【Accel Shooter】

 

警官二人がそれぞれ一発づつ光弾を発射する。

だいたいわかってきた、あの杖が構成をサポートして術の発動を助けているってことか。

全く、俺らもそんないいもんがあったら牙の塔の学生も簡単に魔術士なるんだろうにな。

だがそれなら、あの杖をしばらく使えないようにすれば一般人にすぎなくなる。

 

「我は描く光刃の軌跡」

 

俺は構成とともに魔術を放つ、発生するのは光弾が2つ。

アクセルシューターとかいったか敵の魔術も同系統のようで意思を介して操る誘導弾だ。

俺はその二つにこちらの光弾をぶつける、相打ちに見えたが、こちらは雷球、ただの熱エネルギーじゃねぇ。

そのままエネルギーを吸収して2人の警官が持つ杖の先端部に接触エネルギーを解放する。

瞬く間に杖についた赤い玉はひびが入り、使用不能状態になった。

持ち主も少し感電していたようだが……まぁ、半日もすれば目も覚めるだろ。

俺は手早く反対側の大通りに出ると人ごみに紛れた、

多少ファッション性の違いで浮いている気はしないでもないが、これだけの人だ、すぐには見つけられないだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レリック捜索といういつもの機動六課の仕事を終えてスターズ分隊はヘリで帰還中。

突然隊長であるなのはにはやてからの通信があった。

帰還中の通信となればもう次の事件なりレリックの出現を感知したのかとなのはは急いで通信に出たが、

はやてはいつになく困惑の表情で話しかけてきた。

 

『実はな、珍しい事があるんよ……』

「どうしたの?」

『地上本部から協力要請が来てるって言ったら信じる?』

「……えーっと、事情を話してくれないとわからいよはやてちゃん……」

『ははは、ごめんな。でもあたしもびっくりしてもうたさかい』

「なるほど、本当なんだね。でも一体何についての協力要請なの?」

『それが……犯罪者の捕縛なんやけど……』

「えーっと、普通そういうのって絶対うちに回してこないよね、地上本部で何かあったの?」

『……正直あたしもお手上げなんやけど、ひとつおかしなことがあったわ』

「何?」

『レジアス中将が聖王教会の要請を受ける形であたしらの参入を許可したっていうところやね』

「聖王教会? カリムさんからということ?」

『どうもその線というかもっと上も絡んでるようやね……普通騎士カリムはこんな遠まわしなことせえへんのやけど……』

「そうかなー? 時々カリムさんは分かりにくくない?」

『そう言われると、ちょっと辛いけどな』

 

苦笑するはやてに苦笑で返すなのは、実際このミッドチルダを含む管理世界というのは、

次元を行き来するのが簡単な分、権力機構が複雑化して肥大した組織の運営がどうなっているのかよくわからない部分がある。

そのせいで、政治には預言がつきものであり、そう言う意味ではカリムはかなり実際の地位より上の発言力がある。

そして、その預言者が言う以上、犯罪者の捕縛には何か意味があるのだろう。

 

「でも、いったいどんな事をした犯人なの?」

『んー殺人未遂に暴力行為、公務執行妨害と公共物破損の4つやね』

「殺人未遂っていうのは気になるけど、なんというかうちに回ってくるような事件じゃないよね?」

『殺人未遂に監視しては十数メートルも吹きあがる炎の柱を作り上げたっていうんやけど、

 被害者のほうは特に傷もないって言う話やわ』

 

なのはにもはやての困惑がわかりはじめてきた。

地上本局が六課に回してくるくらいだから凶悪犯に違いないと思っていたのだがそうとも言い切れないようである。

その上相手が浮浪者の子供では理由もさっぱりわからない。

いまどきよくある、おやじ狩りの逆パターンだろうか?

 

「幻覚魔法じゃないのかな?」

『そうかもしれんけど、周囲にいた人たちも熱気を味わったって言うとったな』

「被害者の人たちはどういう特徴なの?」

『どうもホームレスの子供みたいやね……』

「ホームレスの子供……じゃあやっぱり」

『それがそうもいかんらしいわ、犯人を追いかけた警官が二人デバイス壊されて気絶しとったらしいで』

「気絶……それじゃ、攻撃系の魔法も持ってるってことだね。

 でも、気絶って無傷だってことだね、デバイスは可哀そうだけど……愉快犯ってことかな?」

『その線が濃いようにも思うんやけど、どうにもきな臭いのはリミッター解除許可が下りてることやね』

「……へっ?」

 

いくら警官2人を気絶させデバイスを壊したと言っても、罪状を考えれば機動六課が出る必要性は全くない。

というか、六課にはレリック捜索以外の任務にはつまはじきにされているのが現状だ。

元々地上本局は六課の設立には反対の立場を取っている、考えてみれば当たり前で、六課は古代遺物管理部機動六課。

つまり、地上本部の指揮下にあるわけではなく、独立した権限を持つ組織ということになるからだ。

それに、主要メンバーの大半が宇宙の本局から下りてきている事を考えれば、

地上本部を信頼していないと考えてもおかしくはない。

地上本部は設立に反対したし、今でも一刻も早く消えてほしいと考えているに違いないのだ。

そんな犬猿の仲のような組織からそれほど大きな事件でもないのに要請が出るだけではなく、

限定解除つまりなのはとヴィータのリミッターをといてもいいという条件まで付いているとなれば、

あまりの好条件に異常を通り越して不気味ですらあった。

 

「ともかく了解、高町なのは以下スターズ分隊は地上本部の応援としての任務に向かいます」

『ごめんな、ややこしい任務頼んでもうて』

「仕方ないよ、でもカリムさんのほうどうにか連絡入れて確認よろしくね?」

『わかっとるって、地上本部のほうへもフェイトに向かってもろてるから』

「うん」

『じゃあ指揮を取るのは無理になると思うけど、念話のチャンネルだけは開けっ放しにしといてな』

「出来るだけ時間引き延ばしておくからがんばってね」

 

そうして通信を終えるとなのははヘリ内にいるスターズ分隊に話しかける。

小柄な姿でいつもむすっとしているヴィータ、

今一何のことかよくわかっていない様子のスバル、

必死に意図を探ろうとしているティアナ、

三者三様であったが困惑しているのは事実なのだろう。

 

「さっきの通信、聞こえていたと思うけどみんな大丈夫?」

「何が大丈夫? だ、おめーが一番大丈夫かよ……」

「あはははは……ちょっとおかしな事になってるみたいだしね」

「でも、犯罪者は犯罪者ですし、捕えることは間違いじゃないと思います」

「うん、そうだね。だから重要なのは犯人そのものよりも周辺事情ということになっちゃうかな……」

「それは……否定しませんけど」

「うーん、ボク達かなり地上本部には嫌われてたと思うけど……カリム少将のとりなしなのかな?」

「とりなしかもしれないですけど、リミッターのことを考えるとやっぱりおかしいです」

「こっちだけじゃ多分答えは出ないよ。だからみんな、今はその犯罪者の捕縛を最優先にしていこ」

「わかりました」

「うん!」

「まあ、適当にゆっくりやればいいんじゃねぇか」

 

そして、ヘリは犯罪者……オーフェンのいる都市へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……どうにか捲いたようだな……しかし、何なんだこの世界は、まるで天人のオンパレードじゃねぇか」

 

俺のみたところこの都市の住人の大半が魔術の素養がある。

そして、誰もが普通に使い魔術文明を築き上げていた。

天人の文明が残っていればこんなものかとすら思う、もっとも個人個人は人間の魔術師程の力もないものも多いが。

この世界からみたらキエサルヒマ大陸の文明なんてのは数百年は遅れている。

いや、混血で魔術が弱化していくことを考えれば人間にとって魔術は衰退していく技術にすぎない。

しかしこいつらにとっては当たり前の技術、

それもサポートする機械の優秀さを思えば、強弱はあるものの使い勝手はけして悪くない。

 

「まったく、とんでもねぇ世界に来ちまったもんだ」

 

ボリボリと頭をかきながら考えをまとめようと必死になってみるものの、いい案がうかぶわけじゃねえ。

だいたいキースを見つけないことにはどうしようもない……。

いつもならそろそろ意味もなく現われてひっかき回すところだが……。

 

「これはこれは、お困りのようですな黒魔術士殿」

「てめぇっキース! 今度という今度は許さねぇぞ!

 丸焼きになってから刻んで地人のエサになるのと、

 香草を腹が裂けるまで詰め込んで蒸し焼きになって地人のエサになるのどっちがいい?」

「野蛮な風習をお持ちですな黒魔術士殿は、そんなことではこのハイソサエティな世界では生きていけませんぞ」

「……そうだったな、おい。あのドアを出せ。今すぐトトカンタに戻るぞ」

「ああ……あのボニー様の名義で借金を繰り返して作った金で買った胡散臭い通販の品ですか。

 確か、この世界の住人に寄付してしまいました」

「なっ!?」

「いえいえ、ご心配には及びません。

 その際に黒魔術士殿を連れてくればもっと面白いものを渡すといっておきましたので。

 近いうちに軍隊などを動員して迎えに来てくださるかと」

「何ぃ!?」

「もちろん、生死は問わないと言ってありますので……あっ、来たみたいですな……」

「……」

 

俺は頭の中でキースを今すぐ殺すのとアレに対する目くらましに使って俺は逃げ出すという選択肢とどちらが有効か考えていた。

しかし、キースは当然のように凄い勢いで走って行く……。

俺は気づかれたことに舌打ちしつつも、巻き込むために全力疾走で追いかけて行った。

 

「おや、黒魔術士殿はなぜ私を追いかけてこられるのですか?」

「お前を巻き込むために決まってんだろ!」

「なっ、なんと……心の狭い、かく言う私も黒魔術士殿をお助けしたいのは山々なのですが……。

 実は、ボニー様の遺言で何人たりとも俺の前を走らせてはならないと」

「一々都合のいいというか、ボニー死んだのか?」

「いえ、今現在も元気に宿屋でウエイトレスをしていらっしゃると思いますが」

「じゃあ遺言じゃねぇじゃねーか!!」

 

こいつの言葉に一々反応していては切りがないと思いつつもつい突っ込んでしまいたくなるのは、

数あるトトカンタの変態の中でも飛びぬけて変態だからだろうか……。

そんなことを考えているうちにも都市の中心部を抜け森林公園と思しき大きな森に突入した。

ただでさえ息も切らさずにタキシードで走って俺より早いという変態な走法を持つ奴だが、森に入られたら追いつくのは難しい。

俺は呼吸を整えつつ、魔術の構成を解き放つ。

 

「我は放つ光の白刃!」

 

熱線兵器といってもいい光の線が目を焼きながらキースへと迫る。

キースはむしろ嬉しそうに俺に向き直ると。

両手をかざし

 

「バリアー!」

 

しかし、こと魔術戦闘に関しては俺に一日の長がある。

光の白刃はバリアーを徐々に押し始める……。

そして、バリアーの構成が砕け散り、光の白刃の光熱波がキースを捕える。

 

「やったか?」

 

俺は急いで森に向けてぶっ飛んだキースを探し入り込む。

しかし、キースがぶっ飛んだと思しき所にはマネキン人形がタキシードを着せられて倒れているだけだった。

 

「くそ! どこに行きやがった!?」

「はーっ、はっはっは! 黒魔術士殿、私は先に行って待っております。

 見事この後に来る冥界の王を打ち倒すことができればまた会いましょう!」

「はぁ……」

 

まるで森そのものを知り尽くしているかのように完璧に走り抜けるキースを追うことを残念した。

正直あいつが人間だということが信じられない……。

キースの奴が俺の思い通りになったことなんてそういえば一度もなかったな。

奴はいずれぶっちめるにしろ、何としてでもここを切り抜ける必要がある。

空を飛ぶ物体から数人が下りてくるのが見える……。

あれがキースがいっていた軍人というわけか。

さて、どんな奴らか知らないが、好戦的じゃないことを祈りたいね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎士カリム、いえカリム・グラシア少将閣下。お目通りを許可頂き感謝します」

「いえいえ、はやての頼みならいつでも面会時間を設けますよ」

 

ここはベルカ自治領、聖王教会本殿に付随する建物である騎士団本営。

いつものようにいつものごとく、アフタヌーンティを嗜んでいるカリムの姿があった。

それは、服装が妙にいかついことを除けば優雅な姫君の様であり人を魅了せずにはおかない。

容姿は優雅さと常に湛えた微笑みで清浄さと和らいだ雰囲気を醸し出す。

それ自体がレアスキルじゃないのかとすらはやては感じたが今回の事は問いたださねばならない。

 

「実は今回の要請についての確認をお願いしたく思いまして」

「あらあら、はやてったらせっかちさんですね」

「いや、そのせっかちさんて……」

「やり手のキャリア組になっても可愛いままでいてくれてうれしいですよ♪」

「うぅっ……あんまりいじめんといてください。

 ただでさえ地上本部とか上層部とかの動きを把握するのに頭が痛い思いしてるんですから」

「ごめんごめん、でも今回の事は別に管理局内外の事を考えてしたことじゃないの」

「え? どういうことですか?」

「その話は……そっちの執事さんがしてくれるんじゃないかしら?」

「おやおや手厳しい、しかし、流石は騎士カリム様。私が戻ってくる時間も分かっておられたようですな」

 

陰からぬっと現れたのは銀髪を逆立てた背の高いタキシードの男。

ひょろっとした外見だが、おどけているように見えるその顔はしかし目が笑っていない。

どうにも胡散臭い男であった。

しかし、カリムは微笑みを崩さずお茶を誘うかのように言葉を返す。

 

「いえ、ただのカンですわ」

「カン、カンといえば恋煩い、思い描いた人の行動を予測できるということですね?」

「印象がとても強かっただけだと思いますよ」

「い、印象ですか……ファーストインパクトは恋の始まりといいます、

 パンを加えて高速の馬車にでぶつかり脳天からどくどく血を流せば、

 心臓がどきどきしてつり橋効果で既に恋のとりこというわけですね?」

「いえいえ、そんな恋に落ちたくはないですけど執事さんの濃すぎる性格はある意味忘れられないですわ」

「なんと、麗しき女性から忘れられないほど思っていただけるとは、このキース・ロイヤル! 感動のあまり涙が……。

 是非私の29人目の婚約者に!」

「それは嬉しいお誘いだけど遠慮しておきます。だって28人の婚約者の人が可哀そう」

「……やりますね」

「うふふふふ……」

「えっ、えっ、いったいどうなっとるん……?」

 

ハヤテも政治向きの話はかなり詳しくなりいまや狸などと呼ばれることもある。

しかし、今二人がしていた会話の意味はさっぱり不明だった。

それに、二人のまとっている妖気は正直近づきたくないなーと感じさせるに十分だ。

ハヤテは来た事を後悔し始めている自分に気づいた……。

しかし、勇気を出して話をもどそうと言葉を紡ぐ。

 

「……それでその、今回の要請のことなんですが……どういう意図があるんでしょうか?」

「キースさん、彼女にも教えてあげてくれますか?」

「はっ、カリム様の為でしたらなんなりと。

 まーぶっちゃけて言うと黒魔術士殿が元の世界に飽きたようでしたので、ひとつ刺激を与えてあげようという企画なのです」

「ぶっちゃけすぎ……というか黒魔術士ってなんなんです?」

「まあ、そうですな……百聞は一見にしかずと申します。一度ここで見物されてみては?」

 

そういうとキースはパチっと指を鳴らす。

すると大きなスクリーンが立ち上がりそこでは黒魔術士=犯罪者ことオーフェンが森の中に潜んでいた。

そして上空に六課のヘリが近づいてくるのが見える、スターズ分隊も突入態勢が整ったのだろう落下を始めているのが見えた。

 

「……つまりこの戦いをさせるために連れて来たっていうことなんですか?」

「全くその通りですな」

「そんな事! スターズ分隊に撤収命令を出します! カリム……貴方は信用できる方やとおもてたのに……」

「少々おまちなさいな」

「なんです?」

 

はやては怒り心頭という感じでカリムを振り向く、カリムは相変わらず微笑んでいる。

どうして微笑んでいられるのか、正直はやてにはつかみかねた。

その黒魔術士というのがどういう存在であるにしろ、見たこともないような魔法を使うということだ。

場合によってはスターズのメンバーから重傷者や死者が出る可能性すらある。

はやてがそんな事を見過ごせるはずはなかった。

 

「ああ大丈夫、黒魔術士殿は人を殺すことが出来ないへたれ魔術士ですので、そちら側には危険はないでしょう」

「へっ?」

「むしろ、そちら側に勢いをつけすぎたので黒魔術士殿がどうなるかのに賭けた方が面白いでしょうな」

「って、それもやっぱりまずいやん!」

「おお、流石ですはやて殿、見事なツッコミ! やはり関西人のツッコミは一味違いますな」

「いや、関西人ってなんで知ってるん?」

「それは秘密です。まあ、黒魔術士殿もかなりしぶとい人間というか死にかけないと本気になれないタイプですから。

 そうそう滅多なことでは問題ないかと」

「そんなもんかなー」

「兎も角、両方の安全がわかった所で見物を!」

「ってなんでそうなるんや!」

「ナイスツッコミ!」

 

はやてはキースという人間がなんとなくわかってきた。

つまり何を言っても無駄なのだ、のらりくらりとかわされていいようにもてあそばれてしまう。

しかも、致命的なことはしてこないでちょうどギリギリのラインを心得ているように見えるのが余計怖い。

なぜならラインをギリギリ踏み越えられると次はそこがラインになり徐々に押しこまれていくからだ。

 

「まあ、執事さんの言うこともそうだけど、もう一つ。

 実はこの条件をのむことで譲ってもらったものがあるのよ」

「一体なんです?」

「キエサルヒマ大陸でしたっけ、その世界への扉。向こう側の出口はバグアップズインという宿屋のようよ」

「……それはロストロギアクラスの遺物ですね」

「そう言うわけなの、遺失物管理は我々聖王教会や管理局、何より古代遺物管理部機動六課のお仕事でしょ?」

「はぁ……なんていうか、最初にそれを言ってくれればこんなに混乱せえへんかったのに……」

「ふふっ、混乱してるはやてちゃんも可愛かったわよ♪」

「例えて言うなら、子リスのようですな」

「あんたらええ加減にしぃ! それで……黒魔術士とかいう人の了解はとってるの?」

「いえ、全く」

「……あのな……しゃあない、今連絡してスターズ分隊のほうへ」

「おやおや、それは困りますな。黒魔術士殿とは真剣に戦ってもらわねば。そうでなければ扉はお渡しできません」

「……最悪あんたを取り押さえて扉だけ頂くこともできるんやで」

「やめておきなさい、はやて」

「え? どういう意味です?」

「この執事さん、ただものじゃないわよ。私でも実力が読めない、だから取引に応じたのだから」

「そんなにすごいんですか……」

「いえいえ、私など岬の楼閣ではまだまだ中の上いえ上の中くらいかな?

 そうそうハヤテという名の男の子がいましてね……女装が似合うくせに滅法強い」

「いや、それはやばすぎやて……」

 

はやては納得できないものの、今は成り行きを見守るしかないということにようやく気付いた。

何もかもがキースという執事の思惑のまま動いているようで不気味ではあったが、

一応カリムもついているのだからと現状を見守ることにした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は森の中に潜み、息を殺して出方を見ることにした。

森林公園はいつの間にか包囲されているようだった……。

数はそう多くはない、証拠にいくつかの出口を見ればまだ抜けられそうな場所はある。

しかし、問題はヘリから降下してきた4人ほどの部隊だ。

外に出れば確実に見つかる。なぜなら空上から探しているからだ……。

2人は空を飛び1人は光の橋のようなものをかけて木から木へ滑っていく。

最後の一人は光の橋をかけて滑っている蒼い髪の毛の女につかまって移動していた。

4人全員が女、空を飛んでいる女のうち白い方がリーダーだと思うが、赤いほうは明らかに子供だ。

6歳くらい……正直この世界の非常識っぷりに俺は頭が痛い……。

 

「ったく……どこの世界でも変な奴は多いな……にしても普通に飛行する魔術を使う奴がいるなんてな。

 重力中和じゃねーな、ありゃ慣性制御のほうか……理論的には出来るとされているが……。

 難易度的にはチャイルドマンさえ断念したレベルじゃねーか。

 それにあっちの光の橋はエネルギーの物質化だろ……俺は降魔の剣がやっとだってのに……えらい安定してやがる」

 

全く、この世界の魔術理論は俺たちの世界とは比べ物にならないらしいな。

唯一わかるこの世界の魔術の欠点は、構成が割合単純なものが多いこと。

攻撃手段が今のところ光の球や光熱波やバインドだったかの光の帯、などのようなものが大半だったのでなんとかなっている。

中には火や雷といった自然現象を操る警官もいたが、自然現象だけにエネルギー拡散効率が悪いものが多かった。

もっともそれは使い手次第なんだろうが……。

俺が森に入ってから気絶させたのは現在までで3人。

あまり数を増やしたくないとは思うが、あの4人に見つからないために警官のいる場所にもぐりこむ必要がある時がある。

出来るだけ一瞬で済ませてはいるが、時々魔法を使われて見つかりそうになったりする。

ヒヤヒヤものの綱渡りを続けている格好だ。

そんな時、視界の隅にのんきに歩く2人組の地人を見つける……俺は思わず小声で、

 

「我は見る混沌の姫」

「ぐぶぉ!?」

「どひぇ!?」

 

俺の作った超重力により地人共はとりあえず押しつぶされる。

声に比して威力も小さめだ、消耗したくないということもあるが。

おれはほっと一息つき、その場を去ろうと……。

 

「ちょっとまてぃ!! この脳天ど腐れ魔術士!!

 通りすがっただけの俺様達にいきなり重力攻撃なんぞかましやがって!!

 天が許しても、マスマテュリアの闘犬ボルカノ・ボルカン様は許さんぞ!!

 貴様のような悪漢は雑煮のもちで喉詰まらせ殺すと決めているのだ!!」

「あっあの……兄さん、今はまずいよ……僕たち無銭飲食で逃げて来たんだから……」

「……相変わらずだなボルカンドーチン。だが今は静かにしてろ……上空のアレに見つかりたくなかったらな……」

「ボルカンドーチンって一緒くたにしてるんじゃねぇ! 英雄ボルカノ・ボルカン様と呼べい!!」

「あっ、僕も兄さんと一緒くたにされたくはないかも」

「何ぃ!? 弟の分際で兄に意見をするとは何事か!!」

「痛い! 痛いよ兄さん! わかったからその剣でどつくのはやめて!?」

「おめぇら、静かにしねぇと原子崩壊くらわせるぞ」

「イェッサー!」

「はっはいぃぃぃぃ」

「って、ちっ遅かったか……」

「やっと見つけた!」

「こら、見つけたからってはしゃぐんじゃないわよ!」

「うっ、ティアナ……ごめん」

「それより、現状の確認と投降の呼びかけって……あれ? そっちのは最初の被害者?」

「ああ、浮浪者の子供だね……」

 

あーなんとなくわかった、俺の罪状がこの地人共によるデマの可能性が……。

俺はキッと地人共を見る、ボルカンは吹けもしない口笛のマネごとをしドーチンは大人しく震えていた。

 

「なー、あいつらが俺を追っている理由ってお前らがあることないこと言ったせいじゃないのか?」

「何を言う! このボルカノ・ボルカン様は天に誓って真実しか話さぬわ!!」

「自分に都合のいい真実だけですけどね……」

「なるほど、よーくわかった」

 

そう言ってボルカンとドーチンに向かい拳を鳴らせて威嚇する俺。

キースにはめられてこいつらに足を引っ張られて、俺にとってはどうにもこの二組は鬼門らしいな。

せめてこいつらだけでも消滅させておくか……?

 

「あの……オーフェンさん……表情がほとんど消えてて怖いんですけど……」

「心配するな、お前らの最後通告ならさっき済ませた、戒名はゼンマイ型アホヅラゾウリムシでいいな? さて、まずは……」

「ちょっと待てぇ!!」

「ええ、犯罪に走ろうとしている人間を放っておくことはできないわ」

 

さっきの二人組、青みがかった黒髪ショートカットのやんちゃ少年風とでもいえばいいのか、

ボーイッシュなほうが俺とボルカン達の間に立ちふさがり、

金髪ツインテールの気の強そうな女は少し離れた所から銃を構えている。

幸いにして飛翔能力はないようなので、一方的にやられることはないだろうが……。

この二人に見つかったということは間をおかず飛行している2人も来るということになる。

せっかく罪状がうそだったことを証明できそうだったのだが……。

仕方ないな、今からでは逃げ切れないだろう。

俺は意識を戦闘態勢へと移行する。

 

「戦う前に言いたい、そいつらは地人っていって無茶苦茶頑丈なんだ、

 まともに怪我したところすらみたことない、いや刃物や牙を食らえば一時的に血はでるが数分で完治する。

 庇う価値は100%ねぇぞ」

「そんな嘘信じるものか! だってこんな小さい子供だぞ!」

「はっはっは! お嬢さん、このボルカノ・ボルカン様は子供ではない。英雄は年を取らないからな!」

「兄さん、むしろここは子供だと思ってもらった方がいいところだよ……」

「うっ……その辺は後で考えるけど、今は貴方を拘束します!」

「ったく……怪我しても知らねぇからな!」

【Two Hand Mode】

「クロスファイヤー!」

 

金髪ツインテールのほうが先に動いた。

12個の光弾を周辺に出現させ滞空させる、今までの奴らと同じなら全て誘導弾である可能性を疑った方がいい。

俺はとっさに脳内に構成を描きつつ、大木の後ろへと走って行く。

 

「シュート!」

「ちィっ、我は呼ぶ破裂の姉妹!」

 

俺はいら立ちの声をそのまま発動の構成に重ねる。

誘導弾が俺に近づいてくるその中心で大気を振動させて衝撃を八方に散らした。

誘導弾はあらぬ方向に飛び散りほとんどの弾丸は何がしかにぶつかり消滅する。

しかし、3発ほどまだ動ける誘導弾が残っていらようで俺を囲むように動く。

 

「ったく、めんどくさい攻撃してくれるな」

「あら、私なんかにかまってていいの?」

「っ!?」

「おしい! っていうかティアナー、何で言うかなー」

「何言ってんの、今のタイミングで教えるから動揺で動けなくなるんでしょ、最も並の神経じゃないようだけどね彼」

 

まさか、さっきの間に光の橋を作って俺の背後から奇襲をかけてくるとはな。

言われなかったら危なかったかもしれん。

もっとも感謝する気はないがな。

仕方ない、増援が来る前になんとかしようと思ったが、間に合わないだろう。

ならとりあえず4対1になることだけは避けなければ。

悪いが……全力でいく。

誘導弾が迫るタイミングに合わせボーイッシュな方の少女に向けて走り、

迎撃で拳を固め杖代わりに構成を始めた妙な籠手を意識しつつ腕を振り上げる。

 

「ディバインー」

「我は流す」

「バスターァァ!!!」

「天使の息吹!!」

 

俺はとっさに下方に向かって爆発的な威力の風を打ち込む。

反動と爆風で一気に飛びあがる俺。

そして、残っていた誘導弾はボーイッシュな方の少女のはなった、

光の白刃に似た光熱波によって消滅、あわててフォローに入ろうとするティアナとか言う少女が近づいてくるのを見る。

俺は着地地点を身をひねって操作、ティアナの直上から落下した。

 

「なっ!?」

「遅い!」

 

咄嗟に銃を上に向けようと顔をあげたそのアゴに拳を叩きこむ。

次の瞬間には地面に倒れ伏していた。

上手く脳を揺らすことが出来たってことだな。

 

「さあて、そろそろか……」

 

上空では赤いゴスロリ服のようなのに身を包んだ幼女が俺を見下ろしている。

生意気そうなガキだな……正直ああいうのは教育しなおさないと気が済まないたちなんだが。

流石に30m以上も上空でいられちゃそれも難しい。

だが、そうもいっていられなかったいきなりゴスロリ幼女が杖のようなハンマーというかハンマーのような杖というかを。

巨大化させて落下してきたからだ。

 

【Gigantform】

「ギガントハンマー!!!」

「何ぃ!?」

 

何か銃の薬莢を排出するような音と共にグングン巨大化したそのハンマーヘッドが俺に向けて叩きつけられようとしている。

ったく何の冗談なんだ……。

俺は素早く構成を編みながらダッシュで回避を試みる。

しかし、やはりというか空中にいる相手を完全に回避するのは難しそうだ。

 

「我は駆ける天の銀嶺!」

「なっ!?」

俺はいきなり重力を無視して飛び上り更に木を蹴って横っとびに飛んで行く。

急降下してきていたゴスロリ幼女は流石に止まることはできず魔法を解除してハンマーヘッドを小型化しつつ着地する。

 

「てめぇ、空飛べたのか!

「お前らほど便利じゃないからな。あんまり使いたくなかったんだ」

「ちっ、ぺしゃんこにしてやろうと思ったのに。なのはがついちまったじゃねぇか」

「ヴィータちゃん。ぺしゃんこはやりすぎだよー」

 

リーダーのお出ましのようだ、正直戦力を一人減らせたことをよしとすべきなのか、それとも3人相手を嘆くべきか。

正面から挑んで勝てるはずはないな……。

さっきの二人だって魔術の破壊力はなかなかのものだった。

更に空まで飛ばれたらほとんどお手上げ状態だ。

そして、なのはとか言ったか、リーダーが二人より弱いと考えるのは流石に甘いだろうな。

ってか、世間は俺に甘くしろ!

なんかどんどんどつぼにはまってるみてーじゃねぇか!?

 

「ええっと、犯罪者さん」

「犯罪者さんってあのな……」

「だってお名前聞いてないし」

「オーフェンと呼んでくれ」

「うん、じゃあオーフェンさん。

 さっきまで戦ってたならわかると思うけど、ヴィータちゃんは強いよ。

 それにスバルやティアナも成長途上だけどそこに私が加わるとそうそう勝てないと思うんだけど。

 投降してくれないかな?」

 

おお、さっきよりずっと話が通じるようだ。

もしかして救いの女神なのか?

頼むからそうであってくれよ、そう見せかけた厄病神は今まで事欠かなかったからな……。

 

「投降してもいいがキースって奴の居所を知らないか?」

「ええっとキースさんですか?」

「ああ、そいつをとっちめれば俺は元の世界に帰れるんだ」

「えーっと、その人を倒すっていうことですか。暴力行為を容認できる立場じゃないんですけど私」

「ああ……そうだったな。だが俺はこの世界の住人じゃないから裁かれるいわれはないぜ」

「なるほど……でも、私たちはそういう人たちを大人しくさせるのを主な仕事にしてますから」

「じゃあ交渉は……」

「決裂ですね」

 

ああ、やっぱり救いの女神ってのは見せかけだったか。

表情には出していないが、好戦的な空気を感じる……物腰がソフトなだけか?

それでも、俺が下手に出ればもしかしたら何とかなったのかもしれないが、

いい加減俺はこの世界の不条理にいらいらし始めていたのかもしれない……。

 

「ごめんヴィータちゃんスバル、ティアナを少し離れたところまで運んでおいてくれるかな。

 その浮浪者の子供たちも」

「ちょっと待て! 子供だと、貴様は大いなる誤解をしている! 俺様はマスマテュリアの闘犬ボルカノ・ボルカン様だぞ!」

「浮浪者っていうのは否定しないんだ……」

「うっせ、とにかく下がってろ。なのはの魔法は広範囲を吹き飛ばす砲撃魔法ばっかだからな。巻き込まれてもしらねーぞ?」

「何ぃ!?」

「あわあわ、兄さんさっさと離れよう!」

「ったく、どこまでもついてねぇ……」

 

にしても魔法だと?

魔法ってのは神の使う奇跡のことじゃねぇのか?

いや、さっきの感じだとこの世界の魔術をさすみたいだな。

ってことはその辺から完全に認識が違うってことか。

言葉が通じるから近しい世界かと思っていたが翻訳の魔術とか使ってる可能性も出てきたな。

はぁ、キースのもくろみ通りというか、確かに強そうなのにあたっちまったわけだ。

 

「しかし、わざわざ一対一なんてハンデくれるとはありがたいね」

「ハンデ……別にそういうのじゃないよ。

 私が全力で戦うには広さが必要だから、それだけ。

 リミッターはずしたし、全力出していくから早いうちに投降したほうがいいよ?」

「全く……どこまでついてないんだ俺は……」

「そういいつつ口元が笑ってるよ」

 

そういうなのはもどこか微笑みのようなものを浮かべている、俺をバトルマニアか何かと勘違いしてるんじゃないか?

俺は、本当のところそういうのとは無縁だ。

戦闘に感情はいらない、チャイルドマン教室の中でも俺は徹底的に教えられたことを実践するそれだけの存在だった。

だから、戦い方は正面から全力でぶつかるなどというのは俺の戦闘スタイルじゃない。

俺の戦い方は……。

ある程度外野が離れたのを確認してから俺は森の中に走りこむ。

元々空中戦は不利なんだ、どうしてもこういう戦い方になる。

なのはは空中に飛び上がり足もとから翼が生えて姿勢制御と慣性制御を同時にこなしている。

そこそこに魔力を食う上に精密作業過ぎて俺には出来ないだろうと思うのだが、

飛行はあの杖の制御でほぼ完璧にサポートしているようだ、

というか、ミニスカで空中戦なんて恥ずかしくないのか?

いや別世界ではその辺の常識も違うんだろう、

それにあの服自体がエネルギーの物質化であることは今までの経験で嫌というほど分かっている。

 

「それにしても堅そうだな……あの服を貫いて魔術や打撃を通すのはちっと骨だな……」

「そろそろいきます。レイジングハート」

【Axel Shooter】

 

最初の警察官みたいなやつらが使っていたものと同じ、誘導弾のようだが、構成を見て目を見張った。

明らかに別物だった、数も速度も威力も。

警備員は一人一つだったが、彼女はざっと見て32……ティアナとかいったのより倍以上じゃねえか!?

 

「おいおい……」

「シュート!」

 

凄まじい弾幕を俺は咄嗟に正面から受け止める。

構成をひねり出し言葉を紡ぎだしてどうにかこうにかだが。

 

「我は紡ぐ光輪の鎧!!」

 

光の輪が無数に出現し俺の前面に展開、半径4〜5数mの円形の盾と化す。

光弾は大部分がそれに当たってはじけたが10発近くが背後へと回りこむ。

俺は自分の精神が疲弊し始めているのを感じながら続けて唱える。

 

「我は紡ぐ光輪の鎧!!」

 

2つ連続で起動するのは初めてだ。

だがそうしなければやられていた。

どうみても牽制段階なんだろうに……何!?

 

「バインド完了、いくよレイジングハート」

【Starlight Breaker】

「我抱きとめるじゃじゃ馬の舞い」

「スターライト・ブレイカー!!」

 

咄嗟に魔術の中和でバインドを抜け出すが、ピンク色のぶっとい光が俺に向かって迫る。

防御魔術じゃ防ぎきれそうにない、威力を考えれば俺なんか消し炭確定だな……。

背筋の寒いものを感じた俺は、とっさに博打に打って出た。

 

「我は踊る天の楼閣」

 

なのはは俺がどうなったのか確認するために目を凝らしている。

最もあんなのに当たったら骨も残らないような気もするが。

 

「いない……回避したんだ……」

「しなけりゃ死んでたっての!!」

 

俺はなのはの背後から突っ込みの声とともに光の白刃を放つ。

流石に威力はあっちの十分の一くらいしかないだろうが、この距離なら……。

と思っていたのは甘かったらしい。

服の一部はやぶけたようになったが次の瞬間には修復していた。

しかし、飛行魔法には影響が出たようで墜落とは行かないまでも着地している。

 

「うーん、やられちゃったなーいつの間に背後まで来てたの?」

「さあな、そっちとは得意分野が違うってことだろ?」

 

実際は疑似転移の魔法で数mほどあのピンク色の光を回避した直後、

更に重力中和で飛びあがってきただけなんだが、案外うまくいったらしい。

もっとも俺自身魔術の使いすぎでかなり疲弊している、術は打てて後1発か2発。

時間を稼げば少しはなんとかなるのかもしれないが……それは向こうも同じか。

しかし、ある程度予想していたとはいえ防御魔術の発動もなしで光の白刃を防ぎきるだと……。

あの服なんて硬さだ……。

 

「じゃあ、次は近接戦闘だね。でもあんまり得意じゃないんだけど……」

「へっ、どうせ魔力が回復するまでの時間稼ぎのつもりだろうが、俺は近接の方が得意でね」

「あっ、やっぱり?」

 

俺は話しかけながらも既に間合いに入り込んでいた。

あの服は厄介だが、全個所を覆っているわけじゃない。

最も、服に覆われていない場所もある種のフィールドがあるのかもしれないが、それでも幾分弱いだろう。

なのはもそれは承知しているのか顔や手をかばうように動きながら、防御用の魔術を編んでいるようだった。

俺はその魔術の妨害をすべく、飛び込んで行って振りかぶる。

 

「我掲げるは降魔の剣!」

「レイジングハート!」

【Barrier Burst】

 

俺は低い姿勢のまま振りかぶった魔術の剣を薙ぎ払う。

しかし、なのはの魔術の完成は思ったよりも早く、足元を狙ったその剣は突然発生したバリアにはじかれる。

だがそれだけじゃない、バリアはそのエネルギーを全て俺の方へと向けて解放した。

なすすべもなく吹っ飛ぶ俺。

しかし、それで終わりじゃない……。

 

「いくよ、レイジングハート!」

【Short Buster】

「我は紡ぐ光輪の鎧!!」

 

連続して放たれたのは、一回目のと比べるとかなり細めのピンク色の光。

しかし、ぶっ飛びながら魔術を紡ぎ、防御するが、光輪の鎧では分が悪い。

完全に防ぐことはできず、大木に激突してどうにか止まった。

その間になのははまた慣性制御の魔術を発動したらしく、ピンク色の翼とともに上空で杖を俺に向けている。

 

「もう一度だけ言うよ。大人しく投降して。

 次の砲撃は非殺傷設定とはいっても直撃すれば半年くらいは入院してもらわないといけないと思うし」

「それのどこか非殺傷なんだか……まあいい、やってみろよ。見事に防ぎきってやる」

「……バインドは貴方には無駄だろうと思って力を奪ったんだよ。この意味はわかるでしょ?

 もう回避する手段はないよ?」

「ああ、やってみろよ」

「じゃあやって見せて」

【His idea is not understood】

「意地っ張りなだけだよきっと。でも、油断はしないよ、奥の手、あるんでしょ?

 だから……レイジングハート、ブラスタービット準備いい?」

【Yes master】

「スターライト!」

【Starlight Breaker ex fb】

「ブレイカー!!!」

 

相手の魔術が完成する少し前、俺は王冠(ビール瓶等の蓋)を指ではじいた。

ちょっともったいない気もするが、奥の手、確かにその通りだ。

俺は思わず口元がニヤリとするのを抑えられなかった。

 

「……何? 何かを盾にしているの? でも耐えられる盾なんて……。

 ううん、レイジングハート。ブラスタモードリミットTリリース!」

 

ブラスタービットとかいう、外部魔力放出器からの角度調整を受けた砲撃も加え、

凄まじい威力で地面を削っていくスターライトブレイカーとかいう魔術。

正直これはノニエルところか、ディープドラゴンの破壊魔法すら上回るのではないかというパワーだ。

しかし、いくらなんでもそんな魔術、体の負担が並じゃないはず……。

 

「おい、このくらいでやめておいたらどうだ? 顔色が悪いつーか、いくらなんでも過剰消費だろ?」

「ご心配どうもです。でも……まだまだ大丈夫! その盾完全に破壊します! ブラスターモードリミットUリリース!」

「いや……あのな……」

 

俺としても、この盾を破壊してくれるならしてほしいところなんだが……。

こちらの世界にも不思議な事はあるように、俺の世界にも不思議な事はあるんだよな……。

 

「大体分かるだろうけど、もう無駄だ……せめてその砲撃はやめとけ……」

「そうはいきません! こっちの方もかなり被害が出ていますし、事件を解決しないことには部隊の存続にも響きますから!」

「いや……だから、別の方法で……」

「これで最後です! ブラスターモードリミットVリリース!!」

 

あっ、なのはが少し血を吐いたように見えた……まずい、あれは絶対命がけの魔法だ。

だいたいこのピンクの光の太さ、もう10m近いんじゃないだろうか?

盾のお陰で正面から受けずに済んでいるとはいえ、こんなものに接触したら消し炭にされそうだ。

もっとも実際圧力が増し、盾がいくら無敵といっても、持っているだけで吹っ飛んでいきそうなんだが。

このままでは倒れるまで使い続けるな……何とかできるか?

俺は、もう一つの盾を手に取る。

そして……。

 

「いけぇ! 迎撃ミサイルドーチン!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

投げつけると同時に魔術を発動、錐のようにピンク色の魔術をかき分けながらドーチンがぶっ飛んでいく。

俺はぐったりとして動かないボルカンを構えたまま、動向をじっと見守る。

あっ、ゴチンっていったな。

魔術が止まった。

 

「よっし、完璧!」

「完璧ってそんなはずないじゃない!!」

 

むくりと起き上がるなのはを見て以外と元気そうだなと思う。

しかし、あの強大な魔術の後だ、流石にもうそれほど力は残っていないだろう。

 

「私の魔法リミッター解除して……民間人だよ!?

 バリアジャケットも防御魔法もないのに……えっあれ?」

「うっ、うう……オーフェンさんひどいですよ」

「こら! 大英雄ボルカノ・ボルカン様を盾変わりに使うとは何事か!?

 菖蒲湯に入って健康になり殺すぞ!!」

「こいつらはこういう生き物だ、理不尽かもしれんが納得しとけ」

「……はあ」

 

なのはは茫然としているが、実際この地人兄弟、

特にボルカンは数キロ先の鉄鋼船をも貫くミストドラゴンの砲撃や、

神の雷と呼ばれる凄まじい雷撃でも死なないどころか次の日には平気でそこらへんのゴミを漁ってるくらいだからな……。

その生命力は正直同じ星の生物とは思えないほどだ……。

 

「じゃあ、今回は私の負けですね……」

「まあ、俺の実力じゃないがな。とりあえずは……」

「ハイ逮捕」

「へ?」

「お前なー、なのは一人に勝ったってべつに逃げられるわけじゃないじゃねーか。その辺よく考えろよ」

「あー……なるほど……」

 

赤いゴスロリ幼女に諭される俺は本気でマヌケだったろう……。

今度は俺が呆然とする番だった……地人共という奥の手まで使って勝ったのに、逃げるのを忘れてちゃ意味がねぇ。

まあ、どっちみち俺はもう動けそうになかったが、正直キースには完璧にしてやられた。

はぁ、いつになったら俺はキエサルヒマ大陸に帰れるんだか……。

 

『そろそろかまへんかなー、なのは残念やったね。でもブラスターモードはあかんよ。

 あくまで緊急措置みたいなもんなんやから、命削ってまで勝っても意味ないし』

「それでも負けちゃったけどね……」

『あれを勝ち負けというかどうかは正直疑問なんやけど……まあなのはがそう思うんやったら色々考えてみるとええわ。

 でな、オーフェンさん言うたっけ。実はお求めのキースさんなんやけど』

「何っ知っているのか!?」

『うん、っていうか。もう元の世界に帰ってもうたで』

「!!!????」

 

俺は思わず意識が遠のくのを感じた、それはつまり元の世界に帰る手段を失ったということに等しい。

俺は……俺はこの見知らぬ世界で犯罪者として生きていくしかないのか!?

俺だってな、俺だって、輝く未来とか……あれ、あったっけ?

いや、その……昔はあったよーな……。

『おーい、話は最後まで聞き』

「あははは……オーフェンさん飛んじゃってるよ」

「そういう時は、こうだな」

「でっ!? なにしやがるゴスロリ幼女」

「なんだその呼び方は!? あたしはヴィータって名前があるんだ!」

 

ゴスロリ……もといヴィータは俺にあのハンマーを叩きつけやがった。

いくらなんでもそれはねぇだろ、とそう思うが、確かに呆けている場合じゃないのかもな。

 

『そんじゃ、続きやけど。世界をつなぐ扉は聖王教会の騎士カリム・グラシアが持ってはる。

 やから戻ることは不可能やないっていうわけなんやけど』

「……タダじゃないってところか」

『まあ、罪状もあるしね。暫く六課で預かりって言うことになってくれへんかな?』

「どのくらいだ?」

『その辺はカリムと直接話してくれると助かるわ』

「……わかった」

 

俺はこの時、カリムという人物に直接問いただすべきだったと後になって後悔することになる。

しかし、この時は疲れがたまり、魔術の使いすぎで頭も回らなくなっていたため要求を簡単に受け入れてしまった。

このあとしばらく、俺は馬車馬のごとくこき使われることとなる……。

もっともそれは別の話。

今の俺には関係ないことだった。

 

 

 

あとがき

4周年記念SSということで一つ作ってみたのですが、なのはの性格が多少おかしいかもしれません。

正直STSのなのはの性格がわかりにくいということもありますが、

オーフェンと戦闘してもらわねばならなかったのでいろいろ頭をひねったのですが、どうにも最後は強引になってしまいましたね。

でも、それなりに話になっていたかと思うのですが……。

力作だけに滑ったら痛そうだ(汗)

 

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