そしてメイドに囲まれるようにしながら、マロネーがその巨体を現す。

しかし、目を引いたのはそこではない。ラピスが二人のメイドに引きずられるようにしながらやって来たのだ…

そして、その引きずっているメイドというのがコーラルとシェリーである事はすぐさま分かった。

俺はラピスにリンクすべきかと考えたが、迂闊な事をすればメイド達に気付かれる…

ここはやり過ごし、相手が遺跡内部に入ってから各個撃破でいくしかないだろう。

そう思い、周囲に確認を取ろうとした時…既にムラサメが飛び出していくのが見えた。


「くそ! あれではやられるだけだと何故分からん!」


俺は怒りに打ち震えるが、タカチホがそれを止める…


「今は我々だけでも息を潜めていましょう。

 向こうもここに誰かが潜んでいる事に気付いていた可能性があります。

 ムラサメは囮を引き受けてくれたんです」

「そうか、すまない…」

「それは、ムラサメが帰ってきてから本人に言って下さい」

「ああ、そうだな」


むこうでもSS数人が出てきて、参戦している。イズミさんは居残り組みの様だ…

しかし動かせない腕のことを考えても、俺が囮に出るべきだたのに…

ムラサメは例の小刀二本をうまく使って、銃を相手に良く立ちまわっている。

だがそれも、SSを3人倒すまでが限界だった。

二刀の間を縫って飛び込んだメイドに肘を喰らって吹き飛ぶ…

どうやら死んではいない様だが、あれでは肋骨にひびぐらいは入っただろう…

ネルガルSSはあっという間にメイド達にやられていた。

俺は唯見ている事しか出来ない自分に怒りを覚えた…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第四話 「メイドさんはいかが?」(後編)その4



地球連合極東方面軍ナガサキ基地――

ここは連合宇宙軍第三艦隊の旗艦艦隊が駐留している。

その司令官執務室で、妙な会話がなされていた…


「如何しましたかな?」


白髪交じりのマッシュルームカットの男が、サリーちゃんのパパの様なカイゼル髭と髪型をした男に聞いてくる。


「おお! ヨシサダ君か。いや、アクア・クリムゾンから正式の依頼状付きで<軍の出動要請>が有ったのだ」

「アクア・クリムゾンですか…我々の立場からすると、断るのは厳しいですな…」

「クリムゾン家の勢力は政治家や軍の高官達に顔が効く。

 もっとも、それは彼女の祖父の力で彼女の力ではないがな…」

「そうですな…しかし、もう引き受けているのでしょう?」


カイゼル髭の男はヨシサダと呼ばれたマッシュルームカットの男に

ツッコまれて冷や汗を流すが、如何にか平静を装いつつ


「その通りだ。何であれ、クリムゾンの名を出してきた以上、引き受けなければ政府が黙って居まい」

「そんな事言って…本当はネルガルの鼻を明かしてやりたいだけなんでしょ?」

「う…」


カイゼル髭の男はそれっきり黙ってしまった。

ヨシサダは口元に手を当てて、少し吹き出している…


「まあ、ミスマル提督の言う通りではありますな。

 クリムゾンもですが、確かにネルガルは秘密が多い…

 少し揺さぶっておいた方が良いかもしれませんな。

 例の、独自に使用する目的で開発中とか言う戦艦の事も有りますし…」

「そういう事だ…だが、タナカ指令は穏健派だからな…うんと言ってくれるかどうか…」

「その為に私を呼んだのでしょうに。ミスマル提督もお人が悪い…」


ヨシサダはミスマル・コウイチロウに向かい口元だけで笑みを作り、コウイチロウはそれに対し頷いた…

ただそれだけの事だが、二人の間では暗黙の了解が成立したらしい。

ヨシサダは退出しようとするが、ふと思い出した様に振り返りながら…


「そういえば提督のお子さん、今年地球連合大学卒業だそうですね…就職先はやはり連合宇宙軍へ?」


しかしその言葉を聞いた瞬間…コウイチロウは涙をダバダバと流し、肩を震わせながら


「ユリくぁーー!! パパ は…パパは…

 ネルガルに就職なんて…うおーん!!(泣)」

「それでは、失礼します…(汗)」


会話が出来る状態では無くなったコウイチロウを見ながら、やはり娘の事は禁句だったかと思うヨシサダであった…










遺跡の入り口に入っていくマロネー達を確認してから、俺達も行動を開始する。

ムラサメは何かの役に立つと判断されたのか、連れられていった…


「でも、この切羽詰った状況で人質を取るメリットが見当たらない…

 奴らは何のために人質を取ったのかしら…?」


タカチホさんが疑問を口に出す…


「恐らく、この中に有った遺跡に関係しているのだろう…そうでなければこの中に入っていく意味は無い…」

「そうかしら…でも、その遺跡で何が出来るの?」


当然だが、タカチホさんは<火星極冠遺跡>や<木星プラント>の事等知らない…

遺跡と言っても恐らく演算ユニットは無いだろうが…もしプラントと同じものが有れば、

マロネーはネルガルやクリムゾンを凌ぐ力を手に入れてしまう…

もしそうなら、遺跡を破壊してでも止めなければ。

それに…

あの遺跡の部屋にあった黒いプレートと、アメジストに良く似た培養層の子供達…

あれは何を意味するのか…


「それは分からん、だがろくでもない事なのは間違いないだろう」

(ネルガルも動いているしね…)


ネルガルが証拠隠滅に動くと言う事は…

ここを不要と判断して、なおかつ放置しておくには危険と判断したという事。

アメジストもその事情は分かっている様だ…

アメジストとは現在リンクを開きっぱなにしにしている。

自分の姉妹の近くではリンクが開きにくくなるので、開いたままにして欲しいと言われているからだが、

何故アメジストが姉妹の事を知っていたのか…?

迂闊に聞けるような事でも無い。ただ…


(余り無茶はするなよ)

(アキト程無茶はしないよ)

(いや、俺は…)

(アキト、病み上がりなのに木連式の大技でも使ったんでしょ。筋肉が痙攣起してるよ)


はあ…俺はやはり心配される方らしい。

そんな会話を終わらせ、周囲のメンバーを見回す。

タカチホさん、アメジスト、それにネルガルSSの残り二人…

…イズミさんがいない…

俺は周囲の気配を探り、イズミさんを探す…

気配は直ぐ見つかった。

俺の背後だ…

相変わらず気配を消すのが上手い。

イズミさんはタイミングを計って俺の肩の上に顎を乗っけると、


「熱い、熱いよ。二人で見詰め合っちゃったりしてさ…

 二人だけの世界を作り出されても私、こま熱ちゃうんだけど…

 ……スランプか…

「はあ…」


自爆か。

イズミさんも今回のギャグには自信が無いらしい…

俺には、良く分からんが…

兎に角俺はイズミさんから離れ、全員を見てから


「この中の遺跡には、多分マロネーの切り札が有る筈だ。

 マロネーはそれを使って脱出、もしくは逆転を狙ってくる…

 だから、俺達はそれを阻止してラピスとムラサメを助ける。

 上手く行けばそれでイズミさん達の目的にも沿う…そうですね?」


俺はネオスにされたメイド達や、アメジストの姉妹達も助けようとしている事は黙っておいた。

イズミさんは大丈夫でも、ネルガルSSの耳にでも入ればただでは済まないだろうからだ…


「それで、全員で行くの?」

「いや、ネルガルSSの二人とアメジストは残ってもらう。三人はネオスに対抗出来る手段が無いだろう?」

「まあ、大型武器も無いですし…人数も負けてますからね…」

「右に同じ…」

「私には有るよ、その手段…とっこフグ!」

「ははは…あるわけ無いだろそんなの。13の少女に」


俺は自分の秘密をばらしそうになったアメジストの口をふさぎ、笑顔で皆に向かって言ったが、

皆にはしらけた目で見られてしまった…


(如何して口をふさぐの!?)

(ネルガルにお前の事がばれるぞ!)

(あ、そうか…)

(兎に角、大人しく待っていてくれ…)

(それは駄目。姉妹達が近くに居るし…何より今のアキトが心配だよ…)

(しかし…)

(大丈夫。私大人しくしているし、いざとなったら特攻形態が有るから…)

(わかった、だが…)

(うん、心配してくれるのは嬉しいよ…でも、今回の事は私にも関係の有る事だし…)

(そうだな…)


結局、俺達はネルガルSSの二人だけを置いて、遺跡の内部に入る事となった…










遺跡内部――ここにはセキュリティが施されていない…

実際何度か施そうとした事もあるのだが、

警報装置を中に入れた途端アラームが鳴りっぱなしになったり、

監視カメラや盗聴器を置いても外部まで映像や音声が届かなかったり、

レーザー迎撃システムを入れればレーザーを乱射されたり…と、

とても置ける状況ではなかったので、外に森を作り、入り口をカモフラージュするに止めた。

警備員を置いた事もあったのだが、余計に人目を引いてしまうと言う事もあり、入り口付近には関係者以外は立ち入らない事とした…

結果、今のようにずさんとも思える警備体制となったのである。

その遺跡の中を、十数人からなる団体が歩いてくる。

マロネー率いる、ネオスとSSからなる一団だ…


「止まれ…」


マロネーが団体の行進を止める。場所はアメジストの姉妹が居る所…

遺跡の中心部…

黒いプレートを中心とした光が放出される、円形の広間だった。


「コレハ…」


ラピスが口ごもる。

培養層の中で目を閉じているアメジストの姉妹達の姿を見て、

自らの過去を思い出したのか体が震えだし、座り込んでしまう…

ラピスはネルガルの研究所で生まれた…

遺伝子操作の試験管ベビーだ。元々、『ルリは成功の可能性が高い』とネルガルの重役達が判断した頃に、

社長派が社内で独自に<ルリを超えるマシンチャイルド>を作り出そうとした。

その成果の一つがラピスなのだ…

ゆえに、彼女は今でも水が怖い…

飲み水は兎も角、最初は風呂に入るのもアキトと一緒でなければ出来なかった程、水を怖がっている。

その元凶ともいえる培養層が部屋をぐるりと囲っているのだ。

ラピスにとっては地獄に等しい場所なのは間違いない…

フラッシュバックを起したラピスは必死になってアキトとのリンクを開こうとした…


(アキト! アキト! 助けて!! 培養層が! ホクシンが!! イヤー!!)


しかし、周囲にある<何かの意思>とでも言えるものが、ラピスの悲鳴をアキトまで届けさせなかった。

ムラサメはラピスが恐慌状態に陥っている事に気付き、軋む体を引きずりながら必死にラピスを慰めようとしている…

コーラルも何か動きかけたが、シェリーの視線で動きを止めた…

それらを無視して、マロネーは何かを行っている…


「くそッ! ゴドウィンの奴、あと少しで遺跡の解読が完成するとか言っておきながら…

 役に立たんやつめ!」


そう言いながら、転がっていたゴドウィンの死体からカードキーの様なものを取り出す。

倒れている四人のネオスはどの道直ぐには使えまいと言う事で置いていく事にした…

そしてマロネーは、部屋の奥に有るスリットにカードキーを差し込んだ。

すると広間の一角が開き、奥へと続く通路が現れる…


「よし、後はあれだけだ…そこのお前!」

「……」


マロネーはラピスに向かって怒鳴りつけながら腕を掴み、無理矢理立ち上がらせようとするが、

恐慌を起しているラピスは聞こえてもいない…

それを見かねてムラサメが声を上げる。


「一寸! この子は今震えてるんだよ! アタシが何でも言う事を聞くから、

 この子に手を出さないで!」

「フン、お前等に用は無い! その小娘にしか出来んからな! お前はその為の人質と言う訳だ…」

「クッ……!」


マロネーの余りの言葉に飛び掛ろうとするムラサメだったが、寸前に左右のネオスに組み付かれて動きが取れなくなった…

更についでとばかりに、マロネーが先の戦闘で負傷したわき腹に拳を叩き込む。

余りの痛みに、ムラサメはうめく事しか出来なくなる…


「ふん、余り私を怒らせない事だな…寿命を縮めるだけだぞ」


そう言ったきりムラサメに興味を失った様にラピスへと振り向くと、

もう一度無理矢理立ち上がらせた…


「お前はオペレーターIFSの保持者だな?

 この向こうの部屋はネオスのハッキング能力では突破できなかったが、

 お前なら出来る筈だ。やれ」

「……」


ラピスは恐慌状態からまだ回復していない…

マロネーはラピスを殴りつけたが、それでも何も反応しない…

マロネーはチッとはき捨てると、


「やはり人形か! 主人も一緒に捉えねば意味が無い!」


ラピスを放り捨てた…


「ラオ、キュール、コーニャ、SSを数人連れてテンカワ・アキトを捉えて来い」


呼ばれたメイド達は、返事もする事無く通路を戻って行く。

その後を追う様に三人のSSが付いて行った…








俺達が遺跡の内部に入ると、さっき来た時と違い

通路の光が明滅を繰り返し、何か読んでいる様な感じを受ける…

俺の体も少しは回復してきたらしく、筋肉の痙攣も治まってきた。

しかし、まだまだ全力を出せるほどじゃない…精々全力の七割と言った所か。

それも、病み上がりの今の体力と、鍛えられていないこの体で何処まで戦えるか…

そんな事を考えていると、アメジストがリンクで話しかけて来た…


(アキト…体、大丈夫?)

(ああ、さっきよりマシになってきた。何とか戦えそうだ…)

(アキト、それは無茶だよ…ネオスと戦う時は私の体を使って)

(なっ…何をバカな事を…今の俺は病み上がりとはいえ、まともに動く体を持っているし、

 お前も簡単に体を明け渡すような事を言うな!)


俺は余りに自分の体を軽く考えているアメジストに、思わず怒鳴るように心を叩き付けた。


(そんな事言っても…アキトの事が心配だから…)

(ありがとう。そう思ってくれる事は嬉しい…だが俺は…)


そんな会話をリンクを通してしていると…

タカチホさんとイズミさんが俺達の前に来て、グフフ笑いをしながら話しかけて来た。


「目と目で通じ合っているように見えますが、この二人怪しいと思いませんか? 解説のイズミさん」

「コンサート会場…それは開設…プックック…

「いや、あのイズミさん?」

「法律の直し、そりゃ改正…プ…

「話を…」

「今日の天気…そりゃ快晴…ククク…

「はあ(溜息)」


絶好調のイズミさんの前にタカチホさんもタジタジの様だ…

そうこうしている間に、前方から気配が迫っている事に気付いた。

この気配はネオス…


「来たぞ!」

「敵…ですね?」

「ああ、ネオス3人とSS3人の6人だ。」

「それでは…」

「イズミさん、タカチホさん頼む。

 接近してきた奴は俺が叩くが、今は余り動きたくないんでね…」


俺はおどけて言うが、タカチホさんもイズミさんも既に

俺の体が“回復しきっていない”事は知っているのだろう…二人とも一つ頷くと、それぞれ銃を構えた。

タカチホさんはワルサーPPKの2157年カスタムタイプ、ワルサーPPKRを…

イズミさんはブローニングのスライド式ライフルだ。

これ等の会社も今は三社の中に吸収合併されている…

俺もそれなりに銃器は扱うが、今の所扱うべき銃が無いので今回は接近戦に徹する事にする。


俺達は通路の曲がり角で、動きを止める。

足音が既に近くに来ている事を示していた。

向こうの方も気付いているのだろう、足音が緩やかなものに変わる…


タカチホが角の所に薬莢を一発投げた…


パパン パパン!    ドガガガガ……!!           … カラン


次の瞬間…無数の銃弾が叩き込まれ、

次いで薬莢の落ちる乾いた音が微かに聞こえた。

そこには無数の穴が穿たれている…

しかし、遺跡の表面はナノマシン処理されているのだろう、直ぐに見えなくなってしまったが…


「マシンガンを持っている奴が居る…それも二人以上…」

「死神が見えてきたわね…」


タカチホさんのシリアスに付き合ってか、シリアスモードのイズミさん…

…と、彼女はいきなり角の向こうに顔を出した。

イズミさんが顔を引っ込めるのとほぼ同時に、また銃弾の雨が床に穴を穿つ…

だが、イズミさん自身はというと髪が少し焦げているだけだった。

タカチホさんは余りの事に呆然としている…


「マシンガン2、オートマチック3、ライフル1、距離約30。幸いネオスは全てオートマチックのみ」

「びっくりさせないで!」

「兎に角、このままこうしていても埒が明かないから…」


そう言いながら、イズミさんはエプロンドレスのポケットをまさぐる…

中から取り出したのは、手榴弾が三つ…

それを俺達に渡し、言った。


「タカチホさん、テンカワ君、1個づつ御願い…」

「ですが、これではネオスを殺してしまうのでは?」

「死にたいの? それに資料通りならネオスはこれ位では死なないわ…」


資料? やはり、ネオスにはネルガルが絡んでいたのか…

タカチホさんもその事に気付いたらしく、驚いた顔でイズミさんを見つめている。

イズミさんはそれに対し、いつものニヒルな笑いで返すだけだ。

しかしそれも2、3秒の事で、直ぐにシリアスに戻り話し始める…


「兎に角、三人同時に向こうに投げるわよ」

「ああ、分かった」

「そうですね…」


タカチホさんはまだ少し納得していない様だが…

まぁ、元々は交渉に来たのだから当たり前か。

三人がほぼ同時にピンを引いた…


「1…2…3!


       コロン…コロン…

          ドゴーン…!!!


ここが遺跡と同じ構造でなければ、爆発で洞窟の岩盤が崩れてもおかしくない爆発が起こった。

その爆発音が終わるのと同時に飛び出す…

爆煙が晴れきる前に飛び込んだため視界が悪い…

しかし、気配は敵がまだ健在である事を知らせている。


その時、俺の横を掠めるように銃弾が通り過ぎた…

俺の正面近くまで接近していたネオスの一人が倒れる…どうやら足を打ちぬかれたようだ。

イズミさんも何だかんだと言いつつ、ネオスを殺す事には抵抗があるらしい…


タカチホさんはワルサーPPKRを牽制に使いながらネオスの一人と戦っている。

しかし、このままでは不利は否めないだろう…


俺はタカチホさんの牽制の銃弾に合わせてネオスに飛び込む。

タカチホさんは丁度弾込めを終わらせていたようで、二十二発の弾丸を途切れさせる事無く打ち込んでいく…

俺はそれを回避している瞬間を狙い、スタンナックルを叩き込んだ…


「サンキュ、アキト君」


タカチホさんがウインクを送ってくる。

俺は、それに対して答えず次に向かう…



視界が晴れてきた…

敵の残りは、ネオス一人とSS一人。

やはり、ネオスには手榴弾の様な遅いものは効きにくい様だ…

SSは盾のような物を構えて何とか生き残っているが、かなりの傷を負っている様だ。


SSはマシンガンを俺達に向けて乱射し、ネオスもオートマチック拳銃を撃ってくる…

俺達はそれを躱しながら後退するが…

元々戦闘要員ではないタカチホさんには

マシンガンの掃射はきつかったのか、数発足を掠めてしまう…


立ち上がれなくなったタカチホさんにマシンガンを向けるSS…

しかし、既に狙いをつけていたイズミさんがライフルを撃ち…

弾丸は狙い違わずSSの腕を貫く。


最後に残ったネオスは既に俺との間合いを詰めていた。

拳銃を握り締めた拳を俺に叩きつけるために振り上げる…


俺は体を横に振って攻撃を躱す…

だが、ネオスはそれを見越していたようにマントを掴み、俺を引き寄せた。

俺は体勢を崩されてしまう…


しかし、それに合わせて銃撃音が響く…

良く見ると、ネオスの右腕に血が流れ出している。

タカチホがフォローしてくれた様だ…


俺は素早く体勢を立て直し、掛け声とともに拳を叩き込む!


「スタンナックル!」


その後の戦闘は簡単だった。

動きが取れなくなった敵達に、スタンナックルを当てていくだけだったのだから…

…しかし、一々叫ぶのは恥ずかしい…

……アメジストは大喜びだったが。

声…向こうまで聞こえてないだろうな…(汗)

その後、タカチホさんに応急手当を施したのだが、

流石に足に怪我をしては満足に動けないので、ここで待っててもらう事になった…


「おみやげ、まってるね〜」

「秋の木の葉、それは舞っている…プクク…

「…はあ」

「アキト…何だか疲れてるね…」


タカチホさんとイズミさんの会話(?)に呆れつつ、俺達は先を急ぐのだった…










黒いプレートから光が広がる遺跡の円形広間で、イライラとマロネーが葉巻を吹かしている…


「くそ! まだ見つからんのか…コーラル! 通信はあったか?」

「いえ、ありません…」


マロネーはその言葉を聞くと、また新しい葉巻を取り出した。シェリーがそれに火をつける…

それらの行動のせいでコーラルの顔に冷や汗が流れている事は気付かれなかった様だ。

先程ネオス達を行かせてからもう半時間は経つ…

マロネーの考えではアキト達はまだ近くに居る筈なので、既に見つかっていなければおかしい。

まさかとは思うが、ネオスに何かあったなどという事は…

そう考える事も苛立たしいので、新たな葉巻に火を付ける。

マロネーはネオスが出てから、それを何度か繰り返していた…


マロネーがそうしている一方で、ムラサメは必死にラピスを元気付けようとしていた。

先程からラピスの気を引こうと色々試しているのだが、今一つ効果をあげていない…

今は“ベロベロバー”をやっている…子守の類は苦手の様だ。


残る二人のネオスと四人のSSは出口を固めている…

そこに突然、

 
   カンカラカン……


        プシュー!


カンが転がり込んだと思うと、それは勢いよく煙を噴き出す…

直ぐに出口近くのネオスがカンを外に投げ返すが、既に煙は充満していた…


そこに、何かが飛んできた…

反射的に、出口近くのネオスが銃を撃つ…

しかし撃ち落とした時、その<何か>は爆発した。


SSやネオス達が吹き飛び、その隙に二人分の足音がそこを駆け抜ける…


それに気付いたマロネーは、声を限りに叫ぶ…


「そいつらを片付けろー!!」


その声に反応して、ネオス達とSSが二人組に迫る。

しかし、煙幕の向こうからの射撃で次々と倒れていく…

出口前のネオスとSSが全て動けなくなる頃、

段々と煙幕が晴れて、入り口の前の存在が姿を現す…



…それは、コスプレメイド服にアキトのバイザーを付けたイズミであった…



「何者だ!? 貴様!」

「問われて名乗るもおこがましいが、姓はマキ名はイズミ…生国は日の本とはっしやす」

「は……(汗)」


聞いたマロネーが凍りつく。

その瞬間を逃さず、アキトとアメジストはムラサメとラピスを連れ出そうとする…

しかし、マロネーが再び動き出す方が一瞬早かった…


マロネーはラピスを抱え上げ、その首筋に懐から取り出した銃を突きつける…


「動くな!」


マロネーは、そのまま周囲に威嚇の声を上げながら、シェリーとコーラルに何か命令しようとしている。

ラピスは心ここに有らずといった感じで呆けていた…


アキトはラピスのその姿を見て、悲痛な叫びを上げた…


「ラピス!!」


呆けて周囲に心を閉ざしていた筈のラピスは、何故かその言葉が聞こえた…


「アキト…アキト! アキト!! アキトー!!」


マロネーの腕の中でラピスは突然暴れ出し、マロネーの腕に噛み付く…


「うっ…グァ、貴様!!


マロネーはたまらず腕を放し、ラピスを放り捨てる。

ラピスは中央部のプレートにぶち当たり、プレートごとアメジストの方に流れていく…

マロネーはうろたえて、コーラルとシェリーに命令を下そうとする…


「貴様ら、残らず殺してやる! コーラル!

 ………?

 貴様、何者だ!?」


そこで初めてマロネーは、シェリーが自らのメイドではない事に気付いた。

それに対しシェリーは微笑みすら浮かべ、マロネーに近付く…


「ふふふ…バカですねー、今まで私の事を見抜けなかったなんて…

 アキト様達は私の事を見抜いて攻撃して来なかったと言うのに…」


そして、マロネーの懐から一つの書類を引き抜く…


「やはり…戸籍の捏造…

 本名は…如何でもいいですわね。

 あなたの事ですから、きっと自分で持っておられる事と思っておりました」

「何故貴様がその事を知っている!?」

「私はなんでも知っていますよ…

 あなたが、ネルガルの社長派元重役だという事も、

 アイドクレーズ家の秘密主義を利用して家系にもぐりこんだ事も、

 そして、アクア様のご友人をネオスに変えようとした事も…」


恐慌に陥ったのかマロネーは後ずさりをしながら…


「まさか…

 貴様クリムゾンの…

 あ…」


        ブシュー…!!


その言葉を言い切る前に、マロネーの首は宙を舞っていた。

シェリーの腕には、いつの間にかムラサメの持っていた小刀が握られている…


「おしゃべりは嫌われますわよ、マロネー様…」


これ以上無いという笑顔で、シェリーはマロネーの死体を見つめていた…

部屋全体に緊張が走る。

シェリーは余りの凄惨さと不思議な美しさを身に纏い、だだそこに佇んでいるだけ…

しかし、余りの事に誰も動く事が出来ない。

アキトはその中でいち早く戦闘態勢をとる事に成功するが…


「そんな身構えなくてもいいですよ。

 私はアキト様のメイドなのですから…

 体も洗ったし…フフフッ…」


ズル…

全員の緊張が一気に崩れた…


「こんな場で、そんな緊張感の無い事を言うな!」


しかし、こういう事の方が気になるのが人間のサガか、

突然の<疑惑>の前に全員が騒然となる…


「ええ〜それ私の仕事だった筈なのにぃー!!」

「アキト、コレハどうイウ事…?」

「これはこれは、いきなりの浮気発覚かー?

 どう思います? イズミ相談員?」

「そうですねぇ…タイ(体)だけに、洗いよりは姿焼きかな?」

「へ〜、メイドって体も洗うんだ…仕事は炊事、洗濯、掃除位だと思ってた…」


アキトをサカナに盛り上がる一堂……

いつの間にか一団の中にコーラルが入っているが、誰も気付いていない。


「アキト様の体…とても逞しかったですわ…ポッ…」


頬に手をあてイヤンイヤンと体を振りながら、照れて見せるシェリー…


「いい加減な事を言うなー!!

 良いか、だからあれは…」

「シェリーの方ガ良いンダ…」

ちがーう! だから…」

「私の仕事だったのに…」

「いや、あのな…」


アキトが脂汗を流しながら弁解を始めるが…

既にボルテージは最高潮に達していて、アキトの言う事など耳を貸す者は居ない。

そんな中、一人の少女が動きを止めている事に気付くものは居なかった…





部屋が突然明るくなる…



光が乱舞し、一つの所に集まる…



プレートを中心に光が収束して、人の形となった…



そして、その光の中にアメジストが浮いている…



周囲の培養槽に揺蕩(たゆた)うアメジストの姉妹達は、光の中に分解 していき…

全てがアメジストの下に集まる…



それらは、まるで元々一つだったものが元に戻る…そんな風に見えた…

そして、光を纏ったアメジストが言葉を紡ぎ始める…



…心に…



そして…それと同時に、遺跡が振動し始める…

不自然な傾きの前に動きが取れなくなる一同…


          ゴ ゴゴゴ…


「如何したんだ!? アメジスト!!」


アキトが叫ぶが、

振動のせいか聞こえていないらしく、アメジストは反応しない…



永遠の祝福をもたらすもの…



光を纏ったアメジストは無表情に言葉を読み上げていく…


今度は、何か不思議な浮遊感が全員を襲う…

それに気付いたシェリーが…


「これ、もしかして空を飛んでません…?」


余りの出来事に全員が半場呆然とする…



ゼノフィード ――



どんどん高度を上げていく遺跡の中、

アメジストは一人呟くのだった・・・








なかがき6


終わった、あとはエピローグだけだ…

一話毎にエピローグと言うのは間違っている気はしますが…

それと、最後知っている人には申し訳ありません使ってしまいました…

もちろんこれはあれのまんまパクリです…

エピローグ部分は急いであげますので如何かお許しを…

それでは、今回は失礼します。



押していただけると嬉しいです♪

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