「これ、ハンカチです…お使い下さいな」

「え!?」


突然背後から声をかけられました…

驚いて背後を振り向くと、そこにはメイドさんが立っていました。

ライトブルーの瞳と白い肌、ブルネットの髪をストレートにおろし、カチューシャで留めています。

服装は黒を基調としたエプロンドレス、卵形のその顔はまるで微笑を貼り付けているようです。

年齢は18、9と言った所でしょうか…


「貴女は何者ですか?」

「私はしがないメイドです」

「この付近でメイドという事自体、しがなくは無いと思いますが…」

「そうでしょうか。アキト様はいつもメイドを侍らせておりますわよ」

「なっ…」

「それよりも、貴女は随分アキト様の過去に詳しい様子」

「一体何の事でしょう?」


これは…もしかして、尾行されていたのでしょうか?

彼女は表情を変えずオーバーアクションで驚くしぐさをすると、両手を合わせ涙を流し始めました…


「先程まで、後をつけていた無礼平に平にお許しを〜…

 私、主からの命令で“アキト様に一番近い方”を調べて来いと仰せつかりまして…」

「如何して私なのですか? 他にも親しい人は居る筈ですか…」

「貴女が、核心に一番近いと思ったからですわ。ルリさん…」


                       ドゴッ!!


その声を聞いたと思った時、私の意識は白くなっていきました…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第五話 「それは、今だけしか言えない言葉」その3



俺達は今後の事を相談しつつ、アパートに戻る…

途中、紅玉が一度慣らしをすると言って200kmオーバーをたたき出 した以外は、

特にこれと言って何事も無くアパートに着いた。

しかし帰ってみると、アパートの前には何故かカグヤちゃんとホウショウちゃんが来ていた。

俺達は車を降り、カグヤちゃんの元へと向かう…

俺達を迎えるカグヤちゃんは深刻そうな顔をしていた…


「アキトさん…お帰りなさい…」

「アキト様…」

「どうかしたのか?」

「あの…それは…」


カグヤちゃんが言いよどむ。

よほどの事なのか、カグヤちゃんは言おうか如何しようか迷っているようだ…

見かねたホウショウちゃんが助け舟を出す。


「カグヤ様、これは私の失態です…事情の説明は私から行います…」

「……失態の責任はむしろ私だけど…頼むわね…ホウショウ…」

「実は、今日支社の方に<ルリ>と言う名の女性が来られたのです…」

「ルリ…だって…?」


まさか! 自分から来ていたと言うのか!

…いや、考えられない事じゃない。

しかし、どうやってここを探り当てたのだろう?

…あぁ、明日香インダストリーそのものが立て看板の様な物か…


「やはり、知っておられる女性でしたか…

 兎に角、その女性はアキト様に会いたいと申しましたので、ここに連れてきたのですが…

 私はカグヤ様の警護等も兼ねておりますので、彼女を置いて戻りました…」

「何だって!?」

「次に護衛と定時連絡をした時、彼女に付けていた十名のSSは

 全て倒されており、急いで戻って来た所にこれが…」


そう言って、ホウショウちゃんは俺に一枚の紙を手渡す。

そこには、こう書いてあった…



宛 テンカワ・アキト様


クリムゾン主催のぶとうかいへご参加下さい。
そうすればお望みのものも見つかるかもしれません…

会場はイタリア領・シチリア島

ご友人方もお誘い合わせの上、
奮ってご参加なさる事を期待しております



俺は思わず紙を破り捨てたい衝動に駆られた…

くそ! 俺は何故その場にいられなかった!

俺はいつもそうだ…俺が何かするときは手遅れになっている!

いや…

まだルリちゃんは手遅れじゃない。そんな事はさせない!

兎に角、文章の内容を吟味する…

何故舞踏会が平仮名なのか少し気になったが、これは…シェリーがらみだな。

わざわざ俺を怒らせてまで参加させようと言うのだ…どうせまともな舞踏会じゃないだろうが…


「カグヤちゃん…この舞踏会、いつやるんだい?」

「二十五日ですわ…まさか…参加するつもりですの…?」

「向こうが名指しで指名してきたんだ、行かない訳にはいかないな…」

「でも…」

「罠は百も承知、だから作戦を練らないとな…」

「そう、ですね…」


カグヤちゃんは沈んだ様子で答えた。

俺の事を心配してくれているのだろうか…

あちらでは四つのコロニーを落とし、こちらではゴドウィンを殺した事でネオス達を苦しめる…

こんな、俺の心配等……


「あの〜、いいですかー?」

「ん?」


考えに沈んでいた俺は紅玉の言葉で現実に戻る…


「そのルリと言う女性はどんな方なんですか?」

「何故、そんな事を聞く?」

「いえ、そのアキトさん、その方のお知り合いのようですし…やはり助け出す以上、どんな方か把握しておかないと」

「まさか…お前も来る気か?」

「もちろんです。と言うか、ここで聞いていた人で参加しない人は居ないと思いますけど?」


そう言って紅玉は周囲を見回す。

紅玉の視線に合わせてカグヤちゃん、ホウショウちゃん、コーラル、アメジスト、ラピスと言う順で頷いていく…

気持ちは嬉しいが…荒事になった時如何するつもりだ…(汗)


「どんな……そうだな。どんな事にも動じない、無表情で冷徹…本来はそ う言う性質だったのだろうと思う」

「というと、今は違うんですか?」

「ああ。いろんな人と接するうちにな…

 最初は周りのバカさ加減にあきれていたが、その内染まってきたと言うか…

 やさしい、いい子になったんだ。

 表情もそれ程大きくでは無いけど、普通に出せる様になってきたし…

 ただ、その、ちゃっかりしていると言うか…俺もよくからかわれる事がある」

「はあ、ご主人様をからかうのは簡単そうですぅ…いまいち基準になりません。

 …それで、容姿の方はどんな感じなんでしょうか…」

「いや、一寸待てって…はあ、もう良い…」


今度はコーラルが俺に聞いてくる…

俺は答えようとしたが、ホウショウがルリちゃんの写真を取り出す。

恐らく、監視カメラか何かだろう。視点が高い。

だが、これで皆には十分解った様だ…


「へ〜可愛いですねぇー…ご主人様とはどういうご関係なんでしょう?」


        ピキッ……!


何となくだが、体感温度が10℃下がった。

カグヤちゃんの目が怖い…

それに何だか、全体的にみんなの表情が硬い…

この状況を脱するには……うぅ…無理か(泣)


「私も聞きたいですわ、アキトさん」


悪い事をした憶えは無いが、冷や汗がだらだら出てきた…

…不味い、この状況は…

前は<デートの約束>をするまで、このままだった…

だが、まさかこの場でまたそんな事をする訳にもいかない…


「いや、そのな…幼馴染! そう、幼馴染なんだよ!」

「私も幼馴染ですけど…私ならあんな特徴のある子、見たら忘れませんわ…」

「いや、カグヤちゃんが地球に行ってから来たんだ。だから知らなくても仕方ないって…」

「そうですか…一応納得しておく事にしましょう。

 本当の事は次にルリさんと会った時に聞けば良いんですし…」


まだ疑惑の目は変わっていない物の、ここで聞いても俺が答える事が無いと気付いたのか、カグヤちゃんは質問をやめた。

本当の事を知っているのは今の所、ラピスとアメジストのみだ。

だが紅玉には“ある程度”話しているので、気付かれても不思議ではない…

その紅玉は今まで見ていた写真を俺に向け、聞いてきた…


「でもこのルリって言う人、アメルちゃんやラピスちゃんと似てますね…血とか繋がってないんですか?」

「いや…目や髪はマッドサイエンティストどもの所為だが…そうだな…ラピスは血が繋がっているといっても良い…」

「そう…ですね、すみません…」


紅玉はアメジストやラピスに悪いと思ったのだろう、二人に頭を下げていた。

そう、ラピスはマシンチャイルド…それもルリちゃんを元に調整されたものだ。

しかし、アメジストは…

遺跡とのリンクの仕方、ナノマシンのパターンを変換する能力…

アメジストの中に光となって吸い込まれた姉妹達…そして、あの時の言葉……


マシンチャイルドであるとは思えない…だとすると一体…

<ゼノフィード>といったか…あの言葉は何を意味するのか…?

明日香インダストリー内でも、遺跡の研究と平行してアメジストの事を研究しようとしている。

アメジストは俺の近くに居る事でそれらからは逃れているものの、髪や爪といったものは提出させられている…

問題は有るが、本人も同意しているし、俺自身もその事を知りたいと思っているので強く言えない事でもある…


と、その時…考えてこんでいる俺の服の袖が軽く引っ張られる。

目線を下げるとそこにはラピスがいて、俺を見ていた…


「アキト…ルリノ事助ケるなラ…」

「そうだな、ラピス…頼めるか…」

「ウン」


そう言い終ると、ラピスはテッテッテという軽やかな足音と共に、アパートの前まで駆けていった…

そして、鍵を外して中に入って行く。

その姿を見て、アメジストが聞いてくる…


「大丈夫なの?」

「ん? お前もオペレーターIFSを扱えるんだろう?」

「うん、でもラピスの様に出来るまでには十年かかると思う」

「そうかもな…兎に角、ラピスの能力は信頼して良い。恐らく今は世界で二番目の ハッカーだ」

「ん…そうだね」


俺達二人の会話に疑問を感じたコーラルが、俺に質問を投げかける、全員の視線も集まっている…同じ疑問を感じた様だ…


「あの…一番って誰なんですか?」

「これから助け出す娘さ…」

「ああ、そうなんですか」


ポンと手を打ちながら納得するコーラル。他の3人も納得していたようだが、

良くそんな寒い台詞が言えるな、という目が俺に集中していた…












振り向いて欲しい…


ただ、それだけの事。


あの人の近くに居れば、私が私でいられる…


あの人の微笑みが有れば、安心していられる…


あの人が何処を向いているのか分かっていても……


そう…恋人でなくても良い。


娘でもいいから…


でも、もしかしたら私は、それでは満足出来なくなっている…?


死んだと思っていたあの人と、再会した時から…


歯車は…


少しずつ、軋みの音を上げていたのだから。


私は…


如何すれば良いのだろう…?


胸が痛い…





……





はっ…


私は…

眠っていたのでしょうか…

確か、大衆食堂の様なレストラン、こうずきとか言いましたっけ。

あそこからアキトさんのアパートに戻って…


「痛!」


そうです、変なメイドに当身を食らわされたんでした。

結構きつくやられた様ですね…

私はお腹をさすりながら周囲を見回しました。

あれからどの位の時間が立ったのか分かりませんが…

ここは、どこかの地下室でしょうか…?

牢屋にしか見えない鉄格子ですが、

今時“岩をくりぬいた部屋”に“光が蝋燭の火だけ”というのは、先ず普通の趣味の人という訳には行きません。

それに、茶色くなったシーツを被せただけのベッド。止めに50cm程の壷…

用途なんて考えたくも有りません!

そんな事を考えていると、だんだんと足音が近付いてきました…

ここが洞窟になっている所為でしょう…足音は良く響きます。

その足音の主は、牢屋の前まで近付くと私に声をかけて来ました…


「ごきげんよう、ルリさん…それともホシノさんとお呼びすれば良いのかしら…?」

「! …遺伝子データ、ですか……」

「へえ、聞いただけで私がどうやって調べたか分かるなんて、結構頭が回るみたいね」

「…あなたは、アクア・クリムゾンですね…」

「! …私まだ社交界デビューもしていないから、知っているのは

 一部の政界人と軍の高官位の筈なんだけど…何故分かったの?」

「ここから出してくれたら、考えてあげます」

「ふーん、教えてくれる訳じゃないんだ」

「ええ」

「…ふふふ」

「…クスッ」


思わず噴出してしまいそうでした。こうまで綺麗に返されるなんて…しかしこの人、

<前回>アキトさんと係わった時感じた程、いかれた感じではありません…

むしろ、切れる人の様ですね…


「でも、やっぱり出してあげる。条件はあるんだけど…聞く?」

「そうですね、聞いておきましょう」

「じゃ、シェリー御願い」

「はい、アクア様」


アクアの背後から、私に当身を食らわせたメイドが“初めからそこに居た様”に現れ、近付いてきます。

話し合いの後、私は彼女達の出した条件を飲む事にしました…













――ネルガル月ドック――


月面の重役連との重役会議を終えたアカツキは、用意された自室でコーヒーを楽しんでいた。

そこに、女性が駆け込んで来る…


「会長! また自分のツケを会社に回しましたね! 今回は何なんです!?」

「ああ、エリナ君か…何、一寸エステを作らせているんだが…」

「如何言うつもりですか! 先程の会議で<月面からの撤退>が決まった筈です!」

「まあ、殆ど出来ていた奴だから、今日中には完成するさ」


              ドン!


「明後日はクリムゾンのパーティに呼ばれているんですよ! そんな調子で間に合うん ですか!?」


エリナが机を叩きながら睨みつけると、アカツキは相変わらず真剣みに欠ける顔で少し悩んでから、


「ん〜、そう言えばクリムゾンの問題児、アクア嬢の社交界デビューだったね…」

「分かっているんだったら急いでください! 大体、前回のハロン島の 事にしろ…

 雑にやるから事後処理大変だったんですから! その上テンカワ・アキトの協力も得られなかったし…」

「まあまあ、どの道ここで急いでも始まらないさ。もう木星トカゲも来ているみたいだし」

「え…?」


              ドドーン!!


「キャッ!」


部屋に地震の様な衝撃が襲う…

エリナは衝撃でバランスを崩しアカツキに寄りかかる。


「おおっと、これは役得かな?」

「馬鹿! それより早く脱出しないと間に合わないわよ!」

「まあまあ、月の巫女にでも祈ろうじゃないか。そう言えば、

 前代未聞だとか言う<八人目の巫女>はまだ十代だって話しだし」

「何の関係があるって言うの!」


二人がすったもんだしている所に、今度は赤いベストを着て眼鏡を掛け、口髭を生やした男が入ってくる。

アカツキは入室に気付いたが、興奮しているエリナはひたすらアカツキを怒鳴っていた…


「あのー、そろそろよろしいですかな?」

「…プロスさん!?」

「やあプロス君。例の件上手く行ったかい?」

「はい。先日付けで先行量産型エステバリス、<エスピシア>の納入は終わりました。

 …これで月が持ちこたえられれば良いのですが…」

「それは無理だよ。たった十五機程度だしね…精々一週間月面撤退を引き伸ばせれば良い方だろう…

 大体、火星で活躍したって言うマスドライバーによる攻撃だって、最近のカトンボどもの

 強化されたディストーションフィールドには、大した効果はあげられないって話じゃないか…

 それにあれ、動力内蔵式だからどうしても大きくなっちゃって10mを超えてるのに、駆動系はエステのままなんだろう?」

「ええ、まあ…しかし現行では最も効率的にバッタやジョロと戦えます」

「確かにね。しかし、いずれ追いつけなくなる」

「そうですな…まあしかし、その為のプロジェクトな訳ですし」

「そうだったな…」

「一寸、私だけ置いて話を進めないでよ!

 …でも、アレ…納入したのね…」

「ああ、君が反対していた事は知っているが…」

「いえ、まだ早いと思っていただけよ。今あまり動きすぎると、アドバンテージを失いそうな気がしたから…」


そう言いつつも、エリナは少し後悔したような顔をしていた…

彼女が心配しているのは、エスピシアの動力部の事だ。

まだ相転移エンジンが実用化されていない現在…エスピシアの動力部は“表向き”充電池を換装するタイプになっている。

しかし、本当は軍に納入された後、小型の核融合エンジンを積み込む事 になっていた…

これは軍の要請であって、ネルガルの意向ではない。

もしその事で問題になっても、ネルガルにはそれ程被害は来ない筈だ…

だが、それでもエリナの表情は晴れなかった…


「まあまあ、エリナさん…それ程気にする事はありませんよ。

 実はアレには少し仕掛けがしてありまして…

 そう簡単にはを載せることは出来ないんです、ハイ」

「べっ…別に気にしてないわよそんな事…」


だが、言葉とは裏腹に彼女の表情は少し和らいでいた…


「さっ…そろそろアレの方も完成した頃だろ…じゃ行きますか…」


そう言ってアカツキは立ち上がり、二人を連れてドック内に向かう…


「そういや、軍は脱出の援護をしてくれそうかい?」

「はい、第三軍の方は…しかし、第六軍は既に撤退を開始しておりますな。

 第二軍と第四軍は戦線の維持に手一杯でしょうから、こちらの方までは手が回らないでしょう…」

「ほう、さすが軍閥ローゼンシュタイン家のアホ息子…そういう呼吸は抜け目ないね〜」

「感心してる場合ですか! 私達の命が賭かっているのよ!」

「やれやれ、エリナ君は心配性だね…我々が納入したのがきっと役に立ってくれるよ」

「そうだと良いけど…」


エリナはアカツキの言いたい事は良く分かっていたが、軍が半数になるのはやはり不安だった。

…最も彼女の場合、放って置くとローゼンシュタイン中将の元に怒鳴り込む様な事になりかねないのだが…

エリナとプロスぺクターはタラップを上がりシャトルへと乗り込む。

しかしアカツキはシャトルへは乗らず、エステに乗り込んだ…


「一寸! こんな切羽詰った時にふざけないで!」

「まあ、まあ、エリナさん落ち着いて…会長はエステの動作確認を兼ねて護衛をしてくれるんですから…」

「何言ってるの! 会長が護衛? 本末転倒じゃない!」

「ごもっとも…しかし、会長はあの通りの性格ですし…それに、連合軍の方達もいらっしゃったようですよ、ハイ」

『そうそう…問題無いよ。それより、そっちには“VIP”が乗ってるんだ…粗相の無い様にね』

「この月に会長以上のVIPなんて…まさか! 月の巫女?!

『そう…だから、姫君を守るのはナイトの役目ってね…』

「馬鹿なこと言わないで! 確かに月の巫女は月の象徴だけど…会長の方がずっとVIPなんだから!」

『なら、姫君を守る王子様という訳だ』

「そんな事言ってなーい!」


ネルガル月ドックには、発進準備を整えるシャトル達を護衛する為、第三軍が到着しつつあった…

発進していくシャトル達に、それぞれ護衛の機体が付いている。

殆どはノーマル戦闘機だが、ちらほらとエスピシアの姿も見える…

十機以上のシャトルが地球への軌道に乗った頃、エリナたちの乗るシャトルが発進した。

続いて、アカツキのエステが宙に飛び立つ…

月面では、既に第二軍と第四軍の戦線を突破してきたバッタやジョロ達が第三軍との交戦を開始していた。

集結を急ぐ第三軍と、隙を付いてネルガル月ドックを破壊せんとする木星トカゲ…攻防は一進一退の様相を呈している…

そんな中、発進するシャトルの中でエリナは“月の巫女”と思しき一団を見つけた…

全部で七人。皆同じ服装をしてフードで顔を隠しているので

誰が誰だか良く分からないが、八人目の巫女は元気が良いので良く分かる。

しかし、全部で八人の筈だが一人足りない…

エリナはふと、月の巫女は月から離れないと言っていたのではなかったかしら…と思ったのだが、

その考えを心に仕舞い、声をかける事にした。


「あの、皆様はどちらの方に向かわれるのでしょう? もしよろしければ、こちらの方で手配しますが…」

「ありがたい申し出ですが…我々は信者の方を……」

「よろしく御願いします!」

「こら! 勝手に話に割り込むんじゃありません」

「でも、信者の人達ってあんまりお金持ちって言う訳じゃ無いのに、私達が転がり込んだら迷惑じゃないですか」

「そうですが…信者でもない人達に頼るのは…」

「大丈夫です。アカツキさんはドーンと頼ってくれって言ってました!」

「いえ、その…確かにそうですが…」

「ははっ…ははは…」


エリナは引きつった笑いをするしか無かった…

心の中で、アカツキ…後で泣かす…と思いつつも懸命に彼女達の応対をしている。

そんな内部の事態を知ってか知らずか、シャトルの周辺での戦闘は続いている…

今回アカツキが乗り込んでいるエステには、ジェネレーターも充電池も積んでいない。

この時の為に、シャトルには<小型相転移エンジン>が組み込まれている…

実用化にはまだ掛かるが、この技術は既に試作段階に入っていた。

そして今回は、“外部からから重力波ビームを受けて動く機体の実験”を戦場でやろうと言うのだ…


「流石に動きはいいねぇ…だが、空間戦闘を想定しているにしては少しバーニアが少ないかな…」


そう言いつつも、既に十機以上のバッタやジョロを撃破している…

もっとも、第三艦隊の戦線を抜けてこれるのは一機か二機程度づつなので、殆どスペック差だけで何とでもなった。

次に出てきた数機も、ラピッドライフルの掃射だけで撃墜する。

しかし、アカツキにも油断があったのだろう…殆ど同時に

別々の方向からやって来ていたバッタ達に対して、対応が遅れた…


「くそ! シャトルの影に入られたか!」


アカツキは急いでシャトルとの角度を変えつつ接近するものの、

バッタは射線を意識してか、上手くシャトルの影に入り接近する。

そして、バッタがシャトルに取り付こうとしたその時

――バッタが音も無く光に変わった…

アカツキが驚いた目で見ていると、光の後ろから紫にカラーリングしたエスピシアが現れる。

その光景にアカツキが見とれていると、通信回線の呼び出し音が響いた…


『こちら、連合宇宙軍第三艦隊・エスピシア試験中隊所属、イツキ・カザマ…御怪我はありませんか?』

「いや、シャトルの方も無事だし問題ないよ。

 …しかし試験中隊って、軍のテストパイロットの事だろ…いきなり実戦投入かい?」

『ええ。今まで軍の持っていた戦闘機及びデルフィニウムより格段に反応速度が良いですから、

 ミスマル提督の意向で実戦配備される事になりました』

「ふ〜ん…それにしても君、可愛いね。今度お茶しない?」

『うーん、そうですね…残念ですけど、私暫くは月面を動く事が出来ませんし…

 今回は遠慮させていただきます。それでは、お気を付けて』

「…つれないねぇ」


アカツキは去っていくエスピシアを目線で追いつつ少し寂しげに微笑んでいたが、

いきなり真正面にウインドウが開いた為、慌てて表情を戻した…


『ほら、いつまでも浸ってないの! 大気圏は直ぐそこなんだから早く戻って来なさい!』

「やれやれ、うちの秘書殿は…会長を何だと思っているのかね…」

『何か言った?(怒)』

「いえ! 直ぐに帰還します!」

『分かればよろしい』


エリナにせかされ、急いでシャトル底部にある格納庫のハッチに潜り込むエステバリス…

アカツキは会長の権威って何だろうと少し思いつつも、固定作業を済ませハッチを閉じる。

月面の戦線が崩壊を始める中、こうしてアカツキ達は地球への帰途に付いたのだった……












なかがき3


どうしよう、下手をすると前回より長くなるかも…

それは当然でしょう、この話でナデシコ出航までのネタ全てやるつもりなんで しょう?

うん、月の話を如何するか考えてなかったんだけど何とか入れられたよ…

ナデシコ出航と言えば、アレ本当は十二月末だそうですね…(怒)

はは…その通リです(汗)漫画版で十月って書いてあったからてっきりアニメでも出航は十月かと思っていたんですが…

アニメの三話冒頭で「あけましておめでとう御座いまーす!」ってユリカさん 着物まで着て言ってるじゃないですか!!

すみません…

それだけならまだしも、今回私の出 番あれだけですか!!

いや、ほらさらわれちゃったし…

それは良いんです、アキ トさんが颯爽と助けてくれますから!でもそれまでの私の不安だとか、心の中で呼び合う二人とかほら、色々あるでしょう書く事が!

うーん、そう?

ほほう、どうやら一度本気でお仕置きをする必要がありそうですね…(怒)

いや、その一寸待って…(今まで本気じゃなかったんかい!)

ふふ、もう止まれません…消えなさい!

えー!?くっ、間に合うか…

    ダダダダー

遅い! 漆黒のぉ ラストブリッドー!!

               ドッ ゴーン!!

…ぐは!

          ぱっぱぱーらーぱぱぱー

夢を…見ていたんです、とても激しく、荒々しく、雄雄しい夢を…あ あ、私は見続けていたんです…

貴女誰です?

始めまして、アメジストと言います(ぺこり)

こちらこそ始めまして(ぺこり)、そうですか確か私の変わりに前説をやって くれていた人ですね。

はい。

それで、何で出てきたんですか?

いえ、ラストブリッドの後はお約束として読み上げるように言われてい たんです。

誰にです?

あれです。

ああこれですか、自分の命を賭けてまでやるとは芸人ですね…

そうなんですか?

そう言う事にしといてあげましょう…

はあ…

しっ…死ぬ…頼むからほっとかないで…ガク



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