アクアがゆっくりステップを踏み始める…俺はその気配に合わせて体を動かす…


「お上手ですのね…」

「いや、俺は合わせているだけだが…」

「そうですの、それでも凄いですわ…」


アクアがころころと笑う…

そろそろ本題に入るべきかと俺が考えていると、


「そう言えば、お名前をお聞きしていませんでしたわ」

「知っているだろう?」

「あなたの口からお聞きしたいんです」

「テンカワ・アキトだ…」

「アキト…良い響きですわ…これからアキトと呼んでもよろしいかしら?」

「別にかまわないが…質問に答えてもらえるだろうな?」

「ホシノ・ルリと同じ遺伝子を持つ少女と、アメジストと呼ばれる遺跡で発掘された少女の事ですか?」

「…そうだ」


良く調べている…これが本当にあのアクアなのか…?

前は騙されて食べた料理にしびれて、殺されかけただけだったが…(汗)


「では、まだ答えられませんわ。パーティーの終わりまで楽しんでいって貰わないとなりませんもの」

「貴様の悪ふざけに付き合う気は無い!」

「ですが、今はそれ以外方法は無いでしょう?」

「…良いだろう。だが覚悟しておけ、俺は許すつもりは無いからな」

「まあ、怖い…」


アクアは笑顔のまま俺の殺気を流す…

やはり、ただでは済みそうに無いな。

そう思いながら俺はアクアにあわせ、ワルツのステップを踏むのだった…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第五話 「それは、今だけしか言えない言葉」その6



そこはノルマン(もしくはヴィーナス)城内、西塔の最上階にある部屋――

部屋自体はとても上品で豪奢な作りなのだが、いかんせんルリにとっては前の牢獄と同じだ。

出ることも出来ず、ただ煩悶とするだけである…

最も、昨日から一緒に居るもう一人の少女のおかげで、寂しさだけは感じないですんでいるが…


「はあ、アキトさん…ここの位置分かったんでしょうか……舞踏会、もう始まってますね…」


ルリは窓の下を見て、会場から漏れて来るワルツの音を聞きながら物思いにふける様に俯く…


「大丈夫、アキトはきっと来る」

「ええ。アキトさんは、約束を守るために傷つく事を恐れません…

 …でも…“自分の事を最後にしてしまう”悪い癖も持っています」

「どういう事?」

「自分が死んでも…なんて思っていなければ良いんですが…」

「…」

「…」


二人に沈黙が落ちる…

二人とも知っているのだ…アキトにとって、自分の命が他人の命より軽い事を。

自分の知る人達を幸せにしたい…今のアキトはそう思っている…

そのためなら、アキトは喜んで命を差し出すだろう。

しかし、世界は甘くない…

一方を助けるために一方を犠牲にしなければならなくなった時、

アキトはどうなってしまうのだろう…

ルリは考える…その時、自分はアキトの支えになる事が出来るのだろうか、と。

アメジストは思う…自分の手は、アキトの救おうとする人まで届くのだろうか、と…

二人は似て非なる心で考えを巡らしていたが、ルリは考えるのを止め


「ここは盗聴されていないんでしょうか?」

「うん。アキトが言ってた、ラピスもここにはアクセス出来なかったって…」

「では、今までの事は聞かれていないんですね?」

「アキトは気配を読むのが上手いから、多分シェリーも

 ルリとアキトの会話は聞いていないよ。今は分からないけど…」

「そうですか……確かシェリーは、アクアのお供で会場の方に居る筈ですね…」

「うん、そうだね」


ルリは再び考えに沈む…

しかし、今度は直ぐにアメジストの方に向き直り話し始めた。


「私、実はアクアと約束をしたんです」

「何を?」

「私がパーティの間ここに居たら、アキトさんと会わせてあげるというものでした」

「そう」

「ですが間接的とは言え、私はもうアキトさんに会いました」

「?」

「ここに居る必要は無くなったという事です」


アメジストは怪訝そうな顔をする。それが一体如何したと言うのだろう?

現に捕まっている以上、ルリに今の所手段はない筈だ…


「私はもうここに居るつもりはありません。アキトさんも会場の方に来ている筈です」

「でも…」

「ええ、私には脱出の手段はありません…ですが貴女にはあるのではないですか?」

「…そうか、わかった、やってみる事にするね」


そう言うとアメジストは立ち上がり、体のナノマシンを活性化させる。

アメジストの体中から放たれていた光は、徐々に両腕と両足に集中し始める…

そして、両手両足の光の筋を除いて光が収まった。


「ふう…この状態ならその窓から抜け出して、助けを呼んで来る事も出来るけど……」

「如何したんですか?」

「多分無理…シェリーが戻ったってアキトが言ってる…」

「そうですか…」


これで、自ら脱出と言う手段は失われたと見て良い。

ルリは考える…このまま、ただアキトの助けを待っているだけで良いのだろうか?

自分に出来る事は無いのだろうか…

このままでは、アキトの重荷になってしまう…

ルリは、自分がただのお荷物でしか無い事実と、無力感に打ちのめされていた……












アクアとのダンスが終わり、シェリーがいなくなっている事に気付いた…

注意する様アメジストに連絡を入れてから、西塔で間違いなさそうだと確信する。

俺は捜索を始めようと動き出すが、カグヤちゃんと目が合い…

…その後、カグヤちゃん、コーラル、ラピスの順で一通り踊らされる事となった…(汗)

疲れてテラスに寄りかかる俺に、グラスを持った長身ロンゲの二枚目と、髭と眼鏡が特徴的な男が近付いてくる…


「どうも、初めましてテンカワ・アキト君。

 僕の名はアカツキ・ナガレ…ネルガルの者だ。で、そっちはプロスぺクター君」

「お初にお目にかかります、私こう言う者です」


アカツキが勢良く自己紹介をし、プロスさんが名詞を出す…息の合ったコンビネーションだ。


試掘者(プロスぺクター)…… 本名か?」

「いえ、ペンネームみたいなものでして…」

「で? ネルガルの重鎮二人が、俺なんかに何か用か?」

「もちろん、用がなければ男に話しかけたりしないさ」


いや、アカツキ…それも如何かと思うぞ…


「ところで、これ飲むかい?」


そう言ってアカツキはワインを差し出す。

この国は幾つから飲んでよいのかは知らないが…そもそも、俺は下戸だ。

最も、復讐を誓ったあの頃は無理をしてかなり飲んでいたが…感覚の鈍いあの頃は酔う事すら出来なかった。

まあ、この体には関係無い話だろう…


「いや、必要ない」

「残念、結構美味いんだが…」

「酒は飲めん」

「そうかい」

「で、用件は何だ?」

「実は、貴方に少し御願いがありまして」

「回りくどいのは嫌いだ。本題を言ってくれ」

「君、初対面の人間にその言葉は無いんじゃない…?」


アカツキは今の言葉に少し腹を立てている様だ。

企業人なら横柄な人間とも良く接している筈だが…多分、俺が年下だからだろう。

それでも、何とか今の言葉だけで済んでいるなら良い方か…


「まあまあ、少し落ち着いて下さい。ここからは私にお任せを」

「クッ! …ああ頼む」

「では、単刀直入に申しましょう…貴方に、我々のプロジェクトに参加してもらいたいと思いまして」


スキャパレリプロジェクト…確かスカウトはまだ始まっていなかった筈…

いや、ありうるか…俺が起した事の“しわ寄せ”だろう。

恐らく、ボソンジャンプと俺の関係…と言うより、

死んだ俺の体から“今の俺”と同じ遺伝子を見つけた、と言った所か…

そう言えば、今のネルガル医療班には劉・鵬徳も居る筈だ…そちらからもれた可能性もあるな…


「何故俺なんだ? 俺にはそれ程自慢できる特技は無いが」

「いえいえ、ご謙遜を…先ずテンカワさんはお強い。

 ハロン島でご一緒したイズミさんの報告によりますと、素手で強化された人間を圧倒したとか…

 それに、IFSをお持ちだ。IFSはイメージが肝心ですから、個人戦闘の出来るあなたはパイロットとしても申し分ない。

 そして料理の腕も一級品だそう で…」

「良く調べているな…だが、どれも大袈裟に言われているだけかもしれんぞ」

「私、これでも目は良いつもりですので」

「なら、それは良いとしよう。で、報酬は? これでも一応、明日香インダストリーに雇われている身でね…」

「報酬ですか…」


アカツキもプロスさんも、何か<俺が確実に動きそうな物>を用意しているのだろう、全く動揺していなかった。


ホシノ・ルリの親権と言うのはどうでしょう」

「なっ!?」


ナデシコを飛ばすために最も必要なカードをいきなり切ってくるとは…


「君の周りには、何故かマシンチャイルドが多く集まっている…

 こっちに来たのも、その一人を追ってなんだろう?

 ホシノ夫妻はマシンチャイルドは自分が始めてだと思っていただけに、かなり落ち込んでいてね…

 新しい里親を探していた所なんだ」

「そうか。だがどうして俺なんだ?」


放って置いても、ナデシコを降りる時にはユリカかミナトさんが彼女を引き取ってくれるだろう。

…そうすれば、俺の事等知らずに済むかも知れないのに…


むしろ問題なのはラピスの方だ。

彼女はルリちゃんの成功を元に生み出された存在…つまり、まだ生まれていないのだ。

エリナに聞いた所によると、その研究所は社長派の最右翼が所長をしていた所で、

ルリちゃんを超えるマシンチャイルドを生み出す為に、無理矢理成長させてラピス達を生み出したとか。

ラピスは、生まれた時から三ヶ月で7歳児程度の大きさまで成長したらしい…

……

…いや、今はまだ関係ない話だ…


「ふむ、気に入りませんかな? 彼女引き取り手がありませんので、このままでは孤児院送りですなぁ」


プロスさんが眼鏡を光らせ俺に言う…そんな事はない筈だ。

そんな事をすればスキャパレリプロジェクト自体が崩壊してしまう…

しかし場合によっては、もっと人権無視をなんとも思わない研究所に送られないとも限らない…

強奪する手も無い事も無いが、それでは明日香とネルガルの全面戦争となってしまう。

そうならなくとも、恐らく俺の身柄の引渡しを要求されれば同じ事だ…


くそ! はめられた…ナデシコ…出来る事なら、乗らないで済ませたかった…

あそこに居ると、俺は“今の俺”でいられなくなってしまう。

あの頃の自分に戻ってしまう…

それでは、きっと変えられない……

だが、心の何処かでそれを求めている自分が居る事も、否定できない事実だった…


「分かった。ただし条件が三つある…それを受け入れてくれるならな」

「言ってみて下さい。確約は出来ませんが、我々で出来る事なら力になりましょう」


幸いテラスには人が居ない…

それに、この城にはマイクやカメラが無いことはラピスに聞いている。

少し突っ込んだ事をいっても問題ないだろう…


「まず一つ目は生体ボソンジャンプ実験の中止。

 これはジョーが行ったジャンプの時と同じ強度のディストーションフィールドが無ければ無駄だ」

「「な!?」」


やはりもう始めていたか…

恐らく火星研究所の所員達から、俺がディストーションフィールドを用意してから行った事は聞いていた筈だが…

問題なのは、火星の住民が全てA級ジャンパーと言う訳では無い事。

核を打ち込まれた後、火星に始めて入植者が行ったのは四十年前。その時のメンバーは僅か一千人足らず…

その後五年毎に入植者が来たのだが、百万人を超えたのは僅か十五年前…

つまり、十五歳以上で火星生まれの人間は三人に一人以下と言う事。

しかも、火星生まれだから必ずA級ジャンパーと言う訳でもない…

早めに実験を中止しなければ、せっかく火星で助けた人達がつまらない実験で殺されてしまう…


「どうなんだ?」

「分かりました、貴方の意見はもっともです」

「プロス君!」

「実際上手く行っていないのですから、彼の言っている事は正しいのでしょう」

「くッ! …じゃあ二つめを言いたまえ…」

「次は、俺の専用機の持ち込み」

「は? それは一体どう言う事でしょう?」

「まあ、それはおいおい分かるさ」

「…まあ、良いでしょう」

「三つめは、俺は“明日香インダストリーの派遣社員として出向する”と言う事」

「それは…つまり我が社の契約は受けないと?」

「いや、ただ場合によっては敵対する可能性もあるからな」

「物騒だねぇ。そんなに僕達が信用ならないかい?」

「そうだな…<マシンチャイルド計画>を中止してくれるなら、社員になっても良いが」

「! …そう言う訳ですか…」

「流石にそれは難しいね…君の所に居る少女達でも、艦隊を操れる程じゃないし。

 それにあれは社長派がメインで進めていることだ…

 僕が言ったって《はいそうですか》って訳にも行かないだろう」


甘いな…

ルリちゃんとナデシコC――学習を重ねた思兼と高度な電子装備――があれば、それは可能だ。

…だが、今はその事を言うべき時ではない。


「まあ、そう言う事だ」

「分かりました、では派遣社員という事で…いつから来て頂けます?」

「八月から。ボソンジャンプは船が出来てから出ないと意味が無いんだから、それで良いだろう?」

「良くご存知で。では、その時にまた会いましょう」


そう言って二人はテラスから去って行った…

そう言えば、食事の事…あいつら大丈夫なんだろうか…?

一応しびれさせられた事のある俺は、ここでの食事には一切手を付けるなと、

カグヤちゃん達に言ってあるが…一体どういう手段で俺達に仕掛けてくるのか分からない。

俺は、皆が如何しているか見てみる事にした…


カグヤちゃんは、対外交渉の真っ最中の様だ…

極上の笑顔で、太ったオッサンの話を聞いている。

最も、俺はあの笑顔の前に立ちたいとは思わないが…


コーラルはラピスの世話をしている様だ。

だが、緊張の頂点に達しているのか、こけたり、ぶつかったり、謝ろうとして相手に料理をぶっかけたり…

本当に料理食べてないんだろうか…心配だ…


ラピスは、まずい事にいろんな人に言い寄られている…助けに行くべきだろうか…

…? ラピスの手前にいる数人が彼らの行く手を阻んでいる。

コーラルは放り出されてしまっているが…

兎も角、その人達の方を見ると…見覚えがあった。

あれは…ラピス親衛隊…追かけられた事が有るから憶えている顔もある。

それに、ラピスの前で壁を作っているのは…セイヤさん? 正装が似合わない人だな…

しかし、こんな所まで来るとは…親衛隊侮りがたし(汗)

今の所、パーティに不審な動きはない…今なら西塔に向かう事も出来るだろう…

だが、彼女が俺の知っているアクアなら、そろそろ何か仕掛けてくる筈だ。

そう考えている俺に、当人であるアクアが近付いてくる…


「如何したんですの? パーティは楽しくないかしら?」

「当然だな」

「ふふふふふ…そんなに気にしなくても、彼女達には直ぐに会えるのに」

「その言葉を信用しろと?」

「でも、何故シェリーが居なくなったかは気付いているんでしょ?」

「監視か…」

「そういえば、私の<ヒント>気に入ってくれた?」

「紅玉は喜んでいたな…お前が何故教えたのかは知らんが、お陰様でこちらも準備万端だ」

「そりゃ、片方だけに肩入れしちゃ申し訳ないもの」

「つまり、その事はお前の仕業では無いと?」

「オメガって知ってる?」

「ああ」


俺の表情が険しくなる…周りの人だかりが下がる気配がした…


「そう言う事」

「成る程な…」

「でも、まだパーティは終わって無いから、最後まで見て行ってね」


アクアがそう言い終る頃、招待客達が次々と倒れ始める。

遅効性の痺れ薬か…

食事に手を付けていなかった俺達とほんの数人を除き、会場に居るほぼ全員が昏倒していた…


「アクア! 貴様!」


ありうるとは思っていた。しかし、無差別とは…

俺は思わずアクアに掴みかかりそうになったが、

その前に、アクアは後ろから抱き付かれていた…


「アクアちゃんみっけ!」

「えっ…コーラル?」

「アクアちゃん、ひさしぶりぃ! 私、前の記憶が無かったたけど、アクアちゃん見てたら思い出しちゃった」

「ええ!? 本当?」

「うん!」


そう言えば…確かコーラルはアクアの友人だったとシェリーが言っていた事がある。

記憶喪失が直ったのは嬉しいのだが、今はそれを喜んでいる時ではない…

アクアが徐々に俺から離れようとしている事も気になる…


「アクアちゃん、如何してアキト様に意地悪するの?」

「意地悪? 私そんな事してませんよ?」

「だって、アキト様の大切な人達を誘拐したんでしょ?」

「私、誘拐なんてしてませんわ。ちょっと保護しただけです」

「ふーん、じゃ返してくれるんだ?」

「パーティが終わったらね」


そう言い終ると同時に、アクアは何かをコーラルに押し付けた。

コーラルがドテッと倒れる…

倒れた後に見えたのは、指輪型のスタンガンが光を放っている所だ。

俺は咄嗟にアクアに近付こうとしたが、アクアはもう次の行動に移っていた…

アクアが壁に取り付けてあるスイッチを押すと、アクアのいる場所を除き全ての床に電流が走った。

何かあると考えていた俺はジャンプをして一時的に避けたが…

アクアの立つ場所以外全ての床に電流が走っている以上、出来る事は一つ。

アクアのいる場所に割り込み、スイッチをもう一度押す…

その為に、アクアの目の前に着地した。


「ああ、とうとう身も心も奪われてしまうのね…」

「ちゃうわ、こンど阿呆ゥ!」


アクアが妄想全開の台詞を言っているので、

反射的に日本語でツッコミを入れてしまった…しかも、何故か関西弁風味・・・

もちろん、その後直ぐスイッチを切ったが…


「凄いわねアキト、痺れ薬にも電撃床にも引っかからないなんて…痺れ薬は無味無臭なのに…」

「敵陣でものを食べるほど酔狂じゃない」

「ふふふ、それもそうね」

「だが、もう招待客達もSS達も皆見ていない。このままお前を人質にし、シェリーにルリちゃん達を解放させる」

「それは出来ませんわ。だって私…貴方と死ぬために舞台を用意したんですもの…アキトに殺されるなら本望です」


芝居じみたフリをつけながら、アクアは俺に殺されても良いと言っている…

それでルリちゃんとアメジストを開放できるのなら考える所だが、その保証はない。


「さて…アキト、賭けをしませんか?」

「賭け?」

「ええ。私の選んだ選手と素手で戦ってもらい、アキトが勝ったら彼女達は返しましょう…」

「…どういう風の吹き回しだ?」

「いえ、ただその方が面白いと思っただけですわ。

 ただし…もし負けたら、アキトは私と一緒に死んでもらいます」

「…」


アクアの目を見る…どうやら本気の様だ…

しかし、迂闊に受けてしまってよいのだろうか?

彼女は転んでもただで起きるような人間ではない…

何かまだ切り札があるのだろうか?

しかし、俺には他の手がない…

人質が役に立たない以上、相手の罠に飛び込むしか手が無い。

どの道、招待客達の前で<あれ>を使うわけにも行かない…

それに、今の俺は鍛えていた頃の85%程度まで筋力が戻っている。

たとえシェリー相手でも、一対一なら負けない自信がある。


「わかった、それでどこでやる?」

「いい場所がありますわ。少し遠いですけど構いませんわね」

「…その前に、彼らはこのままで良いのか?」

「ええ、放って置いても一時間ほどで元に戻ります」


アクアはそう言うと、俺を先導するように無防備な背中を見せながら会場を後にした…

俺は、ラピスに連絡を頼み、招待客達を看病しているカグヤちゃんに目的を話してついてきてもらう。

そして、俺達はアクアは用意していたヘリに乗り、目的地へと向かった…












潜入チームは当初、アキト達が会場でアクアとシェリーの気を引いている内に

城内に潜り込み、ルリを救出する手筈になっていたが、

アメジストがさらわれ、潜入チーム自体が知られてしまっている今、その意味は無い…

しかし、紅玉がアクアの<ヒント>を回収してから、その目的が変わった…

ヒントには、クリムゾングループ発のロボットのデモンストレーションがシラクーサ内で行われる事、

それが表向きであり、実はアキトを狙った物である事が書かれていた…

既に、クリムゾングループ内ではアキトを危険視する動きが出ているのだ。

もちろん、これ自体が罠である可能性も高いが…

元々アキトがありうる筈だとカグヤに頼んでおいた事もあり、直ぐに必要な物は届けられた。

ホウショウとムラサメは戦闘になった場合のことを考え、

トレーラーを出して来ていた。現在はパレルモ港で待機している…

情報が漏れるのを防ぐ為、船の中に荷物としてカモフラージュしているのだ。

彼女達もフル装備で待機している。紅玉だけはトレーラーの運転と聞いて面白がっているが…

後はアキト達からの連絡があり次第、動ける様になっていた…


「連絡が入ったよ」

「分かりました、モニターに出して下さい」


ホウショウが言うと、ムラサメはトレーラーのフロントウィンドウの中にモニターを開く…

そこには、ラピスが映っている。


『アクアが動いタ…私達もアクアのヘリに乗ノる事になっタみたイ…目的地ハ今の所不明だケど…』

「分かりました、我々も後を追います。発信機はつけたままにして下さい」

『ウン、じャあ切るネ…』

「はい、ご無事で」


そう言って通信を切った後、彼女達は船長に出航させるよう言い、ヘリのトレースを始めた…


「陸路で行かなくて良いの?」

「はい、目的地は恐らく…」

「シラクーサのネアポリ考古学公園でしょうね〜」


ムラサメとホウショウの話を紅玉が纏めた…

紅玉は偵察の時の目的を果たしているので、もうアキト達とパーティの方に行っても良かったのだが、

彼女は「一度決めたんですから、最後までやらせて下さい」と言い、こちらに残ったのだ…

最も、パーティに行っていたら看病のために会場に残る事になっていただろうが…


「で、如何するんです? 向こうに行ったとしても、ロボット達にやられちゃうかも知れませんよ」

「それは、恐らく問題ありません…そもそも、クリムゾンにはIFS対応のハードが殆どありません。

 現在その方面は明日香がトップです。ですので、それ程反応の良い物は作れないでしょう…」

「つまり、動きが鈍いという事ですか?」

「そうです…いえ、そもそもクリムゾンがロボットを作っていたこと自体が驚きです」

「そうなんですか…」

「はい。クリムゾン系列の会社は、ほぼ全ての人型戦闘兵器に関して明日香やネルガルより十年は遅れています」

「じゃあ、クリムゾンはそれ程凄くないんですか?」

「いえ、違います。特にバリア関係…地球の<ビックバリア>等は全てクリムゾンの物ですし、

 宇宙船に関しても民間・軍を問わず半数がクリムゾン製のものです。

 それに…ネルガルは明日香インダストリーとほぼ同規模の企業ですが、

 クリムゾンは二社を足した規模にほぼ匹敵する大企業です」

「ふーん、じゃあ突然ロボットを作れるようになっても不思議じゃないんですね」

「それはまた別の事です…企業がロボットのような巨大な物を作れば、

 なんらかの情報が漏れるものなのです…しかし、今回はそういった事が全く無かった…」

「だから、それ程強くないだろうって言うんですね」

「ただ…だとしたら、何故それをわざわざ繰り出してくるのか。それが分からない…」


シラクーサへと向かう船上で、ホウショウとムラサメは頭を捻っていた…












俺達は目的地に到着し、ヘリを降りた。

そこは、シラクーサのネアポリ考古学公園内にある、古代ローマの円形闘技場だ…

客席は古くなり、所々ひび割れているが…闘技場自体は今でもきちんと草を刈られ、整備されている。

内部に水を満たした場所が有るが、何のための物なのか判然としない。


俺はアクアから言われた通り、選手の入場門から闘技場内に入った…

カグヤちゃんやラピスは上の観客席にいる。

アクアは俺の入って来た門の反対側の観客席に座し、俺を見ている…

そしてその横には…


「ルリちゃん…」

「アキトさん…」


泣きそうな顔をしたルリちゃんが俺を見つめていた…

ルリちゃんはいつの間にか白いドレスに身を包み…まるで花嫁の様な格好をしている。

違っているとすれば、顔をヴェールで隠しておらず、手にブーケが握られていない事位か…

ルリちゃんは最初の内は泣きそうな顔で俺を見ていたが、次第に表情を変え真剣な顔をする。

その顔は、何故こんな所に来たんですかと聞いていた…

俺は思わず走り寄って抱きしめたい衝動に駆られたが、拳を握って我慢する…

何故なら、その横にはアメジストを抱きかかえたシェリーが座っていたからだ。

シェリーを倒す事は不可能ではない。

しかしその前にアメジストの首を捻るくらい、シェリーには簡単だろう…

拳から血がにじむのを感じながら、客席を見ていると…

ルリちゃんが俺に向かって叫ぶ…


「アキトさん! 帰ってください! 今ここに居る 事がどんなに危険か分かっている筈です!」

「アクアから聞いたのか…」

「私達なら大丈夫です! 機会は今回だけでは無い んですから!」

「それは出来ない。そんなのアクアが許しはしないよ…そっちの人もね」


俺が指差した先…アクア達の真下の入り口から入ってくる気配があった。

一言で言えば達人…そう形容しても良いだろう…

その男は、見た目は他のSSとの違いが分からない、普通の黒服とサングラスのいでたちだったが、気配が違う…

この男は、違う。

気配や足運びだけを見ても、俺と同格か…或いはそれ以上…

暗殺等ではシェリーの方が上だろう…

しかし正面決戦においては、シェリーよりも上である事が分かる…


「ほほう、俺の気配が読めるとは…貴様、一体何者だ?」

「さあ…ただ、都合によりお前を倒す事になった者だ」


男の殺気が吹き上がる…

なめられたと感じたのだろう、精神修養が出来ていないな…


「俺はイスルギ・キョウヤ…お前の名は…」

「テンカワ・アキトだ」


イスルギ・キョウヤと名乗った男はサングラスを外し、構えを取る…

見た所、二十代後半…いや三十手前だな。

2mの巨体で、筋肉もかなり付いている…ゴートに比べると肩幅が少し狭いが、ほぼ同じ…

目つきは<狂気>に近い物の宿った――何かに取り付かれた目だ。

俺達のにらみ合いを試合開始の要請と見て取ったか、アクアが言葉を紡ぎ始める…


「いいですか、戦いを始めますよ? 勝敗はTKOかKO、もしくは相手の死亡により決します」


俺達はにらみ合ったまま頷く…

それを見てアクアはにこりと微笑む。

そして何処から取り出したのか、ゴングを持ってきたシェリーに頷き、


手渡されたハンマーを叩きつける…


              カーン!


その音が鳴り終わるのを待たず、俺たちは互いに向けて(はし)り出 した…










なかがき6


やばい、不味いぞこのままでは…その7で終われるかどうか怪しくなってきた…

何をバカな事を言ってるんですか、 私とアキトさんの再会シーンなんです、その100位までやりなさい!

…いやそれは絶対無理。

根 性です気合です!

いや、そんなに再会だけでネタが有るわけ無いじゃん…

何を言うんですか、ネタでなくても 良いんです!私とアキトさんのラブラブな未来さえ書いてあれば皆納得してくれます!

それは、それでかなり不味いと思うけど…

良いですか、ナデシコのスーパーヒロインホシノ・ルリの出番をこれだけ遅らせたのです、まともに見ようという奇特な人など片手で数えられる ほどしか居ません!

そ…それは酷い…(泣)

ですから、これからは私がずっと出 ずっぱりになってあげます感謝しなさい!

はい…(汗)

それから!一部ではスパロボMXのためにお休みをする人がいるとか…

まあ私もそのつもりでは有りますが…

駄目に決まっているでしょう!死ぬ気で書けと前回言った筈です!

それは無理だって…

そうですか…力ずくで行くしかない様ですね…

一寸待て!またか、またなのかー?

その通りです、 金色のぉセカンドブリッドー!!

               ドッガーン!!

あんまり 吹き飛ばされると馬 鹿になるだろー!!

ふん、これ以上馬鹿になるわけありません…猿人並みのバカなんですから…いえそれでは猿人に失礼でしたね…



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