『よう、ご主人様!』

「ははは、やっぱり広まってたか(汗)」

『お前が二児の父でご主人様な事はナデシコの殆どが知っている事だ。今更気にする事じゃねーだろ』

「一応、常識人でいたかったんだけど…」

『お前じゃ無理だよ。大体俺も、お前に会うまでは

 <黙ってても女が寄ってくる体質>

 なんて、本当にいるとは思ってなかったからな…』


あ…セイヤさん、何かこめかみがヒクヒクしてる…

さっさと出撃した方が無難だな。


「ところでセイヤさん、用件は何です?」

『…ああ、武器は何にする? 予備機(そいつ)には基本武装が 無いからな』

「それじゃ、ラピットライフルを」

『よ〜し、テンカワのエステにラピットライフルを持っていってやれー!』


セイヤさんの号令で、クレーンがラピッドライフルを吊り下げてくる…

俺はエステを動かしライフルを手に取る。

そのまま、カタパルトデッキに移動し――


「テンカワ・アキト、エステバリス…出る!」


轟音と共に発進した……






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第八話 「『早すぎる』再会」(後編)

アナナスのブリッジで艦長がポツリとこぼす。


「あの船は、化け物か…」


こちらは巡洋艦――それも最新鋭――だというのに、ナデシコは徐々に離れていく…

しかし、実際ナデシコは遺跡文明の遺産ともいえる相転移エンジンを使って加速している。

――相転移エンジンは<より真空に近い状態>で力を発揮する――

ナデシコは既に対等の速度で逃げながらも、更に加速し続けているのだ。

そして、アナナスに搭載されている新型重力制御システムもまた遺跡文明の遺産であり、ナデシコにも搭載されている…

つまり、勝ち目が無くて当然なのであった…しかし、連合宇宙軍にそれを知るすべは無い。


正直イツキは焦っていた…先ほどのグラビティブラストの一撃で、ミサイルの大半を失ってしまっている。

現在ナデシコに対して撃墜命令が出ているが、出来る事ならそのような事はしたくないと思っていた…

彼女も連合宇宙軍士官である。だからナデシコは、火星より地球にとって必要だと思っている…

最近のチューリップ落下数の増加は目を見張るものがある。

いったい何千落下してくるのか…いやもしかすると万に届くかもしれない…

ビックバリアで防いでいるものの、かなり苦しいと言うのが現状である…


それに、民間人クルーの多いナデシコを沈めるのは抵抗があった…

それは隊員全員の考えでもある…だからイツキ達は撃墜ではなく、拿捕を選ぶ事にした。

しかし、このままでは時間が無い。ナデシコに引き離されてしまってはどうしようもないのだ。


…だんだんと近づくナデシコから、一機のロボットが出撃した。

形式を照合、エステバリス空戦フレームとある…時間稼ぎをするつもりだろう…

正面上方にナデシコを見ながら、イツキはエスピシアを駆る…


「フォーメーションはサザンカで行きます! 目標・機動戦艦ナデシコ! アタック!」


掛け声と同時に、他の四機のエスピシアは上下右左の四方へと散る。

四方から囲むようにエステに向かうエスピシア達…

それにあわせて、正面から突撃するイツキ…

作戦は、イツキ以外はエステを囲む…と見せかけてそのままナデシコへと向かい、

戻ろうとするエステの足止めをイツキが行う、と言うものだ。


だが、イツキ達はエステの性能を甘く見ていた…

機動性が互角であれば、この作戦は成功していてだろう…

多少の動きはフォロー出来るよう考えられたフォーメーションだからだ。

しかし、エネルギーを外部から供給しているエステバリスは“機動力”が違いすぎた…

<動力機関>を内蔵していないエステは、当然ながら軽いのである。

エスピシアも空戦タイプに換装しているが…

いかんせん元の重さがエステの約1.3倍なので、旋回がどうしても重くなる。


エステは下方に沈み、下からの射撃で下方のエスピシアを沈めた…

上手く爆発する箇所を外しつつ、行動不能にしてしまう。

一応重力制御システムをつんでいるエスピシアだから、ゆっくりと落ちていく…


(これなら、心配ないかしら…けど、機体性能もさることながら、パイロットもエースクラスなのは間違いなさそうね…)


イツキはエステに向かってラピットライフルを連射するが、エステバリスはそのまま上に向かって高速で飛び去っていく。

そしてディストーションフィールドにより二機のエスピシアを巻き込みながら、ナデシコの手前まで戻ってしまった…

どちらの機体も、掠る様に当てられただけなので被害はそれほど多くは無いが、

その二機はディストーションフィールド発生装置に負荷がかかったらしく、オーバーヒート状態になっている。

しばらく戦闘は無理そうだ…

兎に角、イツキはその二機の前に出て、敵の動きを(けん)制 する為にラピッドライフルを撃つ。

そうしている間にもう一機のエスピシアも戻ってきた…


「流石に手ごわいですね…」


イツキは冷や汗を流す…

今までの敵の動きは、それほど奇抜なものではない…普通の者も真似は出来る。

だが、まず成功しない。エステが成功したのは、あくまでパイロットの技量が凄いという事なのだ…

正直、同じ機体をやるから同じ事をしろと言われても、イツキは出来ないだろうと判断する。

体勢の立て直しをしてもう一度突撃をかけようと指示を出していると、敵エステバリスから通信があった。

戦闘行動中…普段ならそんな時は降伏の信号以外は受けないのだが、イツキは敵パイロットにふと興味を抱き通信を開く…


「こちら連合軍・第三艦隊所属、イツキ・カザマ中尉です。通信目的を述べなさい」

『…』


相手は、イツキと同い年くらいの少年だった。

しかしイツキの顔を見たとたん沈黙した…

その表情は先ず驚き、次に喜び、そして憂い…と、間を置かず変化していった。


「…? 私の顔に何かついていますか?」

『…いや、すまない。こちらの事だ』


すぐに無表情に変化したが、最後に寂しそうな顔に変化したのをイツキは見逃さなかった…

だが、目の前の少年がその事を口に出さないだろうことは分かっていたので、イツキも問いかけはしなかった。

代わりに言ったのは別の事だ…


「降伏勧告なら聞きませんよ? 我々も任務で来ている以上、果たさずに素通りさせる気はありません」

『だが、実力差は解った筈だ』

「…それは、機体の性能差もあるでしょう」

『そうかもな。だがどちらにしろ、君達が不利である事はまちがいない』

「確かに、もう既にこちらの戦闘力は半分以下…ですが、その船は無駄に沈めていいものでは ありません! 貴方達は分かっているのですか!? 火星には何千と言うチューリップが落下し、今や完全に音信不通…占領されているんですよ?! 一体どれ 位の艦隊が展開しているかも分からないというのに…私達が頑張りますから! きっと火星も取り戻しますから…! 死に急がないで下さい!!」


最後には涙まで流して訴えていた…

イツキは責任感の強い人間だ。

軍に入ったのも、別に周囲に軍関係者がいたわけでもない。ただ自分の周りの人を守りたい、と…そう思っただけだ。

そして持ち前の努力によって飛び級で士官学校入り、十七で少尉…十八で中尉とすさまじい勢いで階級を上げてきた…

それも、ただ実績によって、だ。コネを使った訳でも、策略を使ったわけでもない…それだけイツキは“真っ直ぐ”な人間であった…

そういった真剣な思いが伝わったのだろう…相手の少年は心の洗われる様な不思議な微笑を向ける。

そして、そんな顔のまま…


『そう言えばそちらが名乗ったのに、俺の名乗りがまだだったかな…

 俺の名はテンカワ・アキト。職業はコック見習い…かな?』

「コック見習い!?」

『…そんなに変か?』


イツキの驚きに対し、アキトは不機嫌そうに答えた…

イツキは、あんなエースパイロットでも真似できないような事をやる人に

「コック見習い」だって言われれば驚くでしょう…と思いながら、傷付けたのではないかと心配もした…

だが、そんな事を話題にしているのではないと思い直す。


「っと、兎に角、艦長に伝えてください…今は火星に行くよりも地球を守る方が大切だと!」

『…だから、俺達は行くんだ…今君達にとって地球が大切な様に、俺達は火星も大切だと思っている…だから…』

「でも、戦艦一隻で何が出来るって言うんです?!」

『そうだな。歴史をひっくり返せるかもな…』

「ふざけないで下さい!」


そうやって真剣に話しても、目の前の少年は目を細め、穏やかに笑っている…

イツキはイライラしてきていた…だが、どこかで安堵感を感じてもいた。

あれだけの事が出来る人間が簡単に信念を曲げるようでは、信用できない…


『ところで、そろそろお前達の船が離れていくぞ…』

「大丈夫です! エスピシアは連続稼動一時間ですから!」

『帰りはどうするつもりだ?』

「重力制御がありますから、ゆっくり落ちるだけです!」

『そうか、じゃあ再戦と行こうか…』


アキトが通信を切ると同時に、イツキは回復してきたエスピシア隊に指示を出す。

会話のお陰でかなりリラックスしてきていたが、正直あのアキトと言う少年には勝てそうに無いな、とも考えていた…













高度一万km――そこには、連合宇宙軍の基地が設置されている。

数こそ多くはないが、この基地の能力は高い…

“デルフィニウムの高機動性”と“高度二万km付近のミサイル衛星”のおかげで、高空域のバッタはかなり撃退されている。

チューリップは大気圏突入後にバッタを吐き出す事が多く、それらが地上に落ちるとかなり厄介なのだ。

もっともチューリップそのものは、デルフィニウムでは撃退できないのが実情だが…

その基地の一つに、現在ナデシコ接近の報告がなされている…報告しているのはミスマル・コウイチロウ提督である。

もちろん、提督がわざわざ報告する必要は無い…通信担当にやらせればいいのだ。

しかし、コウイチロウはこういった事には気まぐれで通っている。

だが実際の所、そうしておく事で部下と接する機会を増やすという意味合いもあるのだろう…

しかし、通信相手であるカイオウ少佐は良い迷惑であった。

カイオウはイタリア系の鷲鼻に青い目、逆立った短い金髪と体格の良さを持ち、典型的軍人とでも言うような外見をしている…

その顔を渋く歪ませ通信を聞いている…


「それで、我々はどうすれば良いのですか?」

『うむ、それなんだが…どうすればいいと思うかね?』

「は? …あっ、すみません。どうすればいい、と言いますと?」

『私には策が無いと言っているのだ。最悪、ただで通してやってもいいんだがね…』

「それでは、上層部が黙っていないでしょう…」


カイオウが顔をしかめて答えると、コウイチロウが口元を歪めた…

――――これは良くない。

コウイチロウが“この顔”をする時は、何かたくらんでいるのだ。

それも、終わってみるとバカみたいな事を……

不思議と結果は上手くいくのだが、この手でカイオウは何度か恥を掻いている。

カイオウは体格の良い体を身震いさせた。

…二度と<世界一周ヒッチハイクの旅>なんて行くものか…

カイオウの過去の傷の一つである…


『そこで、だ。カイオウ君…』

「駄目です!」

『私はまだ、何も言っていないんだが…』

「駄目ったら駄目です!

 シェルター内の五百ある換気扇掃除を一人でやらせたり、騙して女装コンテストに出場させたり…!

 こっちはひどい目にあってるんですからね!」

『確かに…女装の方はアオイ君がいなかったとは言え、君を出させたのは失敗だったかもしれないな…

 だが、そのお陰で<七光り提督>に大きい顔をさせずに済んだんだ。良しとしてくれないかね…』

「まあ、それは認めますが…兎に角、私はもう嫌です! 誰か別の人にやらせてください!」

『そうか〜それは残念だ…イツキ君に会えるまたとないチャンスだったのにね』


カイオウの眉がピクリと震える…

彼は空耳かとも思ったが、あえて聞き直した。


「それは、一体どういう事ですか?」

『ふふふ、実はね…』


カイオウは、聞き返した瞬間コウイチロウの罠にはまった事に、まだ気付いていなかった…












――ナデシコブリッジ――


ここでは現在、ナデシコ防衛作戦を展開中である。

しかし実際、戦闘はアキト一人に任せっきりになっており、ブリッジは結構暇だったりする…

忙しいのは、軌道計算とレーダーをこなすラピスと、限界近い加速を制御するミナトだけ…


最もそれでさえ、それ程切羽詰った仕事ではない。

ラピスはレーダーの方こそ気を抜けないが、軌道は少々ずれても後で何とかなる。サツキミドリで補給すればいいのだ…

ミナトも今の所障害物も無いので、問題なくエンジンの限界近い所を常に出す事が出来た。

後は通信士のメグミだが、アキトに声をかけるのは暇つぶしの一環のようにも見えた…

ユリカはそれを見て不満そうになっているが、指揮の方を優先している。

…その“指揮する事”がないので、ただ座っているだけだが…

プロスがそんなユリカの横に立ち、声をかけてきた…


「艦長、一つお聞きしたいことが…」

「何ですか? プロスさん」

「いえ、連合軍の攻撃はこれだけだと思いますかな?」


プロスが真面目な話をするときの癖で、眼鏡を一度中指で突き上げて治す仕草をする…


「うーん…可能性は五分五分くらいじゃないかな…? だけど、次仕掛けてくるなら<上>だと思います」

「ほう、上ですか…」


ユリカは一度考え込む様にあごに手を当て、続きを話す…


「単純に下からのミサイル攻撃の高度を超えたので、下から上がってこれる兵器は

 もうアキトが私を守る為に戦ってくれているエスピシア位です。だ から…」

「ふむ。なるほど、理にかなっておりますな…では上から仕掛けるとして、どんな方法が良いでしょうね…」


ユリカが今度は口元に人差し指を当て少し考えて、その後後方に控えていたジュンに話を振る…


「…ジュン君はどう思う?」

「…そうだね…ミサイル攻撃かな? 僕ならプログラムを書き換えて、射程を五千km下まで届かせる様にする…」

「うん。でも宇宙から来るにしても、地球から上がるにしても、

 プログラムの書き換え班がナデシコより早く到着できるとは思えないよ?」

「それは、確かに…でも、ミサイル攻撃より良い方法は無いと思うけど…」

「でも、艦長には分かっていらっしゃいますな?」

「それはね、デルフィニウム部…」


ユリカが自説の披露に入ろうとした矢先、ラピスの声が届き中断を余儀なくさせる…


「艦長! 上空より未確認機動物体ナデシコに接近中…」

「分かりました! メグちゃん! 皆さんに通達してください! ミナトさん! 未確認物体の回避をお願いします!」

「現在上空より高速で接近中の物体あり! 艦内の皆さん、衝撃に備えてください!」

「りょ〜かい♪ 全速回避!」


ナデシコは機体を横に傾けながら、ルートを変更し始める…

しかし、未確認飛行物体はすさまじい速度で接近していた……













エスピシアの部隊を適当に叩いた後…被害が出ないうちに帰る様に言う事にした俺は、リーダー格と思われる機体に通信を送った。

コミュニケが相手の顔を映し出す…

映ったのは黒く艶やかな髪を腰まで伸ばし、前髪を眉の上で刈りそろえた、純和風な顔立ち…

俺は正直驚いていた。

イツキ・カザマ…彼女の姿を見るのは次のクリスマスだろうと思っていた。

彼女が生きている事はうれしい…しかし、ナデシコの追撃に加わっていようとは…

しかし考えてみれば当然か…地球上のほぼ全ての艦隊が動いていたのだから、前回もあの中にいたのだろう。

今回はどんな偶然が働いて目の前にいるのか…

この偶然を喜んで良いのか、悲しむべきなのか分からないが、今の状況では近付かせる事もできない。


俺は彼女に対して負い目がある…

俺の<迷い>が、彼女を殺した…

そう、俺は直接では無いにしろ自分の責任を一時的に放棄した事によって、彼女の死を確実なものとしたのだ。

俺がいれば彼女が救えたと考える事は、傲慢なのだろう…しかし…

あの時過去に跳んだ俺は、やり直しが出来ると思っていた…

だが、あの時の俺には歴史を変えるだけの力が無かった。

偶然なのかどうかは分からないが、電波障害一つで俺は無力になってしまった。


今は違う、違ってみせる…


しかし、いつも思う…

そうして“変えてしまった過去”は、俺の居るべき場所ではないのではないか…と。

イツキ・カザマは真面目な女性だ…話をしていると、まるで俺も守られるべき一人なのではないかと思えてくる…

考え方は少し違うが、彼女は優しい人なのだろう…

口元が緩んでくるのを感じる。

俺は、笑っているのだろうか?

だが、それが彼女の気に触ったらしく…怒られてしまった…(笑)

彼女は、戦闘をやめる気は無い様だ。

俺は戦闘再開を告げ、通信を切る…


「さて、早々にご退場願うとするか…」


そう言葉にして言いながら、エステをもう一度エスピシアへ向けようとした時――

上空のナデシコが旋回して、船の角度を変えた。

その上から、キラリと光るものが見える…


『アキトさん! 避けて下さい! 高空から落下してくる物体があります!

 あの速度では当たれば、ディストーションフィールドごと突き破られます!』


メグミちゃんが通信で叫ぶ頃には、その物体は数十に分裂…俺を囲むように落下して来た。

恐らく、あれはデルフィニウム…上空からひたすら落ちながら加速して来ているのだろう…

そして、俺達が視認出来る高度に達したので、ミサイルをばら撒いたのだ。

これだけの速度だ、パイロットは既に脱出している筈…

撃墜するか…範囲にはエスピシア達は入っていないものの、ナデシコは避けきれるかどうか…

そう思い、ラピッドライフルを上に向ける。

しかし異常なまでに加速されたミサイル群は、既にミサイルと呼べるものでは無かった…

軌道等全く無い。ひたすら落下を続けるだけだ。


しかし、マッハ四十を超える凄まじい速度で飛来するミサイル群は、十分脅威だ…

何故なら、ソニックブームを起こすマッハコーンの角度がほぼ平行になっているので、範囲が広く回避する事が出来ない…

更に、撃ち落としても凄まじいソニックブームで動きが取れなくなる…

ディストーションフィールドのお陰でどうにか傷を受ける事は無いものの、

破壊しても直ぐ次が来る為、ソニックブームをディストーションフィールドで相殺しながら次を狙わなければならない。

ナデシコに向かってくるものを中心に破壊するが、正直捕らえきれないものも出てくる…

幾つかはナデシコのディストーションフィールドをも貫き、ダメージを与えている物もある。

ナデシコも上空に向かって迎撃ミサイルを放つものの、早すぎて捕らえきれていない…


俺はエステを加速させ、ナデシコの上空へと向かいつつ、ミサイルの排除に努めた…

三十位は破壊したのだが…幾つかはナデシコまで届いてしまっている。

幸い、居住区や重要なブロックに被害は無い様だが、これでは速度が落ちてしまう…

そして――ミサイルの次は、デルフィニウム本体がこちらに向かって落下してくる。

ナデシコに当たれば必ず甚大な被害が出る…だが、ラピットライフルでは破壊しきれないだろう…

迷っている暇は無い。

俺は上空に向かって加速する…出来るだけ速度を稼ぎ…


上空のデルフィニウムに掠る様に当てる!


             ドシン!!

「ガッ! グハ!!」


グッ! 予想以上の衝撃だ…

エステの右腕が、ラピットライフルごと持っていかれた。

しかし、どうにか角度の変更には成功した様だ…

デルフィニウムはナデシコから離れ、もう小さくなっていた…


『アキトさん! 大丈夫ですか!? アキトさん!?』

「ああ、何とかな…」

『はあ…良かった…』


メグミちゃんが俺に心配そうな声をかけてきた。

やっぱり今のエステ、かなり破損がひどいんだろうな…


『アキト! 大丈夫!? いったん戻ってきて! 今山田さん出すから!』


ユリカの方もちょっと混乱気味か…


「それは駄目だ。ガイはまだ完治していない…それに、別に戦えない訳じゃない…」

『何を言ってるんですか! その機体もうぼろぼろですよ! 山田さんの方がまだましで す!』

「メグミちゃんも言う事きついな…でも、相手は逃がしてくれないみたいだ…」


そう…俺の近くに、四機のエスピシアが迫っているのが見て取れた。

今脱出すれば、ガイを出しても間に合わない。ナデシコに取り付かれてしまうだろう…

真面目な彼女の事だ、俺がいれば少しは時間稼ぎも出来る筈だしな…

そう思っている所に通信が飛び込んできた。

やはりイツキちゃんは…いや、こういう言い方は失礼かな…


『形勢逆転ですね…』

「ああ…連合軍にも、肝の据わったやつがいるんだな…」

『カイオウ少佐と言います…ミスマル提督のお気に入りなんだそうです』

「そうか…」


そんな奴いたっけ…そう考えるが、俺は軍関係の所には出入りしていないし、ユリカにも聞いていなかった…

ユリカも俺が軍を嫌っている事を察したのか、俺の前ではあまりそういう事を口にしなかったな。

俺が知る由もないという事か…


『退いてもらえませんか?』

「…君なら、退くかい?」

『…分かりました…では、強行突破します!

「来い!」


四機のエスピシアは息の合ったコンビネーションで俺を追い詰めにかかって来た…

俺もそれに合わせて動くが…機体のバランスが崩れている為、せいぜい全速の半分程度の速度しか出せない。

それでも何とかしのいでいるが、捕らえられるのは時間の問題だろう…

左右から二機づつ俺に向かって飛んでくる。それぞれが遊撃できるように、少し離れて…だ。

俺はイツキの機体に向けて加速する…短期で決着をつけるには、リーダーを叩くしかないからだ…

しかし、その事は向こうも十分承知している…簡単には踏み込ませてくれなかった。

手間取っている間にもう一方に接近されそうだったので、一度引こうとした時…

イツキの機体が加速した…!


『これで終わりです!』

「それは、どうかな?」


突進するイツキのエスピシアと、引き上げの為後退する俺のエステとの距離が詰まる…

接触する直前、俺は機体の重力制御とバーニア噴射を切って沈み込む…

俺の機体は、エスピシアのディストーションフィールドに接触しながら

ぎりぎりで避けつつ、エステのフィールドを残った左腕に集中して叩き込んだ。

そのまま足を掴み、下に向かって投げ捨てる…


「ふう…」


これで一時的に速度は鈍るだろうが、体勢を整えられれば次は避けられない…

流石に不味いな…どうするか…


『そこで俺の出番さ〜!!』

「なっ!? ガイ!?」


ナデシコの方から空戦エステが飛び立っている…

あいつ…


『ヒーローはここぞと言う時に出ないとな! ふん! そこの有象無象ども!

 このダイゴウジ・ガイ様が来たからには、ナデシコには指一本触れさせないぜ!』


俺の近くまで来たガイは、わざわざ人差し指を立てて左右に振る…

余裕を見せているんだろうな…だが…足は大丈夫なんだろうか?


『さあ、受けてみろ! 今必殺の! ガァイ! スーパ〜! ナッパァー!!


ガイは相手に聞かせるように決め台詞を言いながら加速…そのまま前方の三機にぶち当たる…

そして、行動不能になった事を確認する事も無く、高笑いを始めた…


『だ〜はっはっは!』


俺が、喜んでいいのかどうか分からずに苦笑いをしていると、イツキから通信があった…


『流石にも追いつけそうも無いので、引き上げます』

「それは、願ってもないな…」

『戦った私が言うのも変ですが、その…お気をつけて…』

「…ありがとう」


その時俺は微笑んでいた…途端に恥ずかしくなる。

何故俺はこんな事をしているんだ…

意識して表情を元に戻すが、いまいち締まらない…

イツキが笑っているのではないかと思ったが、何故かイツキも顔を赤らめていた…


『そ、それでは…』

「ああ…」


俺達はその後直ぐ、ナデシコに帰還した…

この後、ユリカやメグミちゃんから大目玉を食らった事は言うまでもない。

ビックバリアの制御コードは毎月変わるため、“青い地球は誰のもの”では解除できなかった事を付け加えておく…










エピローグ―――


コーラルは、メイド服のままナデシコ食堂での仕事を始めていた…

ホウメイガールズは反対したものの、整備班の猛烈な後押しと、プロスの経済的な意味での賛成、

そしてそれらに対し、ホウメイが折れる形でOKが出た。

但しその事はホウメイガールズも同じで、“エプロンのついているものならある程度OK”となった事に喜んでいた…

そしてコーラルの部屋だが…ホウメイガールズのリーダー格、サユリの部屋に相部屋させてもらう事となった。

元は一人部屋だったのだが、サユリはそういう事はあまり気にしない性格である為、特に問題なく決定した。

そして、ウエイトレスの服装が一気にカラフルになった事にびっくりしたアキトが

素っ頓狂な悲鳴を上げる事になるのだが、それはまた別の話…











次回予告

ついに宇宙へと飛び出した我らがナデシコ!

サツキミドリに現れる謎の影!

アキトは今回も間に合う事が出来るのか!?

そして、パイロット三人娘はただのにぎやかしになってしまうのか!?

気になるのは実は最後のところだけかもしれない…

次回 機動戦艦ナデシコ〜光と闇に祝福を〜

「藍色宇宙に『ときめき』」をみんなで見よう!






あとがき


さーて、やっと地球を出た…

本当にやっとですね…

本格的にTVと違うものにして行くのは火星帰還後の予定だからね、今のところは殆ど変わらない筈なんだけど、いざ書いてみると変に関係薄そうなところで気 合が入ってしまうんだ…

そういうのをバカって言うんです。

なあに、構わんさバカの方が偉業を成し遂げたりしているしね。

そういうバカではなくて、単に頭が悪いと言っているんですが…

うわっ、ルリちゃんきっつ…

ちゃん!?

あっ…ルリ様…

…まあいいでしょう、そう言えば今回は言っておく事があるそうですね…

うん、ゴシック&ロリィタについて少々

いわゆるゴスロリというやつですね、確かアメジストにさせているんでしたね…

そうなんだけど、このゴシック&ロリィタというの、結構扱いが難しい部分もあってね…

はあ、この前書いた色の事ですね、確か青と黒のと書いていましたが、白と黒でなけ ればゴシックでは無いとか?

そういう訳では無いみたいなんだけど、ゴシック&ロリィタとは一応黒を基調とした、退廃的・悪魔的・耽美的ファッションの事で十字架等をよくあしらってい るとの事だそうだ…

でも、黒を基調としたロリータファッションには黒ロリータというのがあるらしいで すよ? それに十字架をあしらうのは割りとその手のファッションではよくあることらしいですし。

そうなんだ、それで、色々調べてみたんだけどそれぞれ考え方が違っていてきちっとした定義が無いみたいなんだ…

そうなんですか…

それで、あるサイトに書かれていたこの定義を採用したいと思います。“ロリータファッションの服は存在する。ゴシックファッションの服は存在する。ゴスロ リなるファッションの服は存在しない。ゴスロリという着こなしが存在する。”

はあ、なんと言うか自分の言い逃れのために設定考えてません?

そっ、そんな事は無い…ハズ…

うろたえまくってますね…

兎に角、今回はこれにて…さよなら!

あっ…最近逃げるの早いですね…ネズミ捕りでも仕掛けますか…

 



押していただけると嬉しいです♪

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.