ナデシコは宇宙へと旅立ちました。

時は常に、アキトさんに試練を課します…

サツキミドリに待つものは…

出会い?

再会?

それとも悲劇の再現でしょうか?

そして私は…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜




第九話 藍色宇宙に『ときめき』 」(前編)


ナデシコ・ブリッジ内…先ほどビッグバリアを強行突破し、一息ついている最中である。


「艦長は…またいない…」


ジュンが周囲を見回し、ため息をつく。


「確かに、勤務態度はあまりよろしくありませんな…既に遅刻1と早退2。

 まだナデシコ出航から三日ですので、毎日と言う事になりますな…給料査定に響きますよ、これは」

「それは待ってください。ユリカ…いや艦長は、仕事はきっちりこなしていますよ」

「分かっていますよ。きちんと作戦で成功を収めた分のボーナスも査定しております、ハイ」

「そうですか…」


ユリカの行動に振り回されつつも、いつも庇ってしまう。

これはジュンという青年の最大の弱点であろう…

プロスも、そんなジュンを見て、苦笑していた。

しかし、それでは済まない者もいた…


「確かに、艦長の行動は行き過ぎのきらいがある。

 今まではいいが…敵の勢力圏に入ろうとしている今は、艦長に戻ってもらわねばな…」


ゴートはいつもの無表情で正論を言う。

しかし、宇宙に出た事で少し緊張しているのだろう…少し饒舌になっている。

そんなゴートを諭すように、左端の席に腰を下ろしているフクベが話しかけた…


「まあ、良いんじゃないかね…先の戦闘の疲れもある。

 艦長にはサツキミドリまで少しの間、休んでいてもらうといい」

「はあ、しかし…」

「連続で戦闘になると、指揮にも影響する。むしろ彼女は得がたい才覚を持っているよ」

「そんなものでしょうか?」

「まあ、いいんじゃない? 艦長が駄目でも副長がいるし」


ゴートの不満をミナトが強引に終わらせた。

ゴートは少し不満そうな顔をしたが、ミナトのウインクの前に轟沈した…

会話が終わったのを見計らって、今度はラピスがジュンに声をかける。


「副長、確認をしたいんですが…」

「なんだい?」

「サツキミドリ以後、修理・補給の出来る場所はありませんので、今の内に加速性能のテストを行っておくべきだと思うんですが…」


言われてジュンは少し考えた後、プロスと視線を合わせ確認を取る。


「分かった、最大加速のテストを行ってくれ。但し減速の問題もあるから、加速しすぎないように」

「分かりました。ミナトさん、お願いします」

「はいは〜い。全速前進、っと♪」

「でも、良いんですか? ナデシコ破損部分の修理が終わってませんけど…」

「特には問題ないでしょう…サツキミドリまでもう少しです。二時間程度のものですよ」

「そうですか。なら良いんですけど」


ミナトの返事の後、メグミが心配を示すがプロスの返事で納得した様だ。

ナデシコは最大加速の状態を維持しつつ、サツキミドリへと向かう事となった…












地球と月との重力が拮抗する地帯、ラグランジュポイントの一つである

L2にあるコロニーの一つ――キサラギで、現在出港準備に入っている船があった。

キサラギコロニー内の港…そこには、明日香インダストリー第八“特殊研究”施設が存在している…


「機体調整は終わりました。テストを含め、慣熟航海に出航します」

『頑張ったわね、行ってらっしゃい…まあ、カグヤ様の手前応援は出来ないけどね…』

「有難う御座います」

『ナデシコを追いかける必要が無いって、こういう事だったのね』

「はい」

『じゃ、行ってらっしゃい』

「はい。では…」


ルリはコミニュケが閉じると直ぐに、船のメインコンピュータを起動する。

白と青のツートンカラーの制服が鮮やかに染め上げられ、

周囲にパラメータを確認する様々なウィンドウが表示された後【おはよう御座います】と表示された。


「おはよう、八意思兼(ヤゴコロオモイカネ)って長いですね…ヤガネ でいいですか?」

【はい、構いません。マスター】

「ヤガネ、私はマスターじゃありませんよ。お友達です…ルリと呼んでくださいね…」

【分かりました。ルリ】

「では、起動シーケンス開始してください」

【OK、起動シーケンス開始します…】


ヤガネが船の起動を行っていく…

出港準備が整うまでほんの数十秒程度という、驚異的なスピードで準備が整った…


「それでは、遊撃駆逐艦<エスカロニア>発進です」

【相転移エンジン50%安定運転(ハーフドライブ)、発進しま す】


深い藍色をした、細長いシルエットの双胴型駆逐艦が、キサラギコロニーから飛び立つ。

その船は、ナデシコと比べてさえ更に早い凄まじい加速で、あっという間にコロニーから離れていった…














俺の職場は、変わってしまった…

前回との違いを考えるにつけ、ため息が出てしまいそうだ…

コーラルの奴がメイド服での仕事をOKさせてしまった所為で、ホウメイガールズも思い思いの格好をする様になった。

ホウメイさんは苦笑するだけで、「まあ、いいんじゃないかい?」と言っている。

因みに、エリちゃんはオレンジ色のウェイトレス服でスカートが“膝上二十センチ”までしかない凶悪なデザインだし、

ジュンコちゃんは逆に、ウェイターっぽい白のワイシャツと黒のパンツの上からエプロンをしている。

ハルミちゃんは懐石料理の店の制服の様な、紺色の和服にエプロンという一風変わった出で立ちだ。

ミカコちゃんはその容貌に合せてなのか、ホワイトロリィタを着てエプロンをつけると言う、あまり見ない事をやっている…

サユリちゃんはチャイナ服、それもスリットの間からは生足が出ていた…


「アキトさん! 火星丼オーダー入りました!」

「はい、火星1!」


俺は茶色のポニーテールを揺らせてオーダーを入れるエリちゃんに応えつつ、まあ仕方ないかも知れんなと思ったのだが…

コーラルはまた上がり性が再発したらしく、声が裏返ったり水をこぼしたり…大変そうだった。

もっとも、整備班に言わせるとそれが良いんだそうだが…分からん…

俺が火星丼を仕上げると、カウンターの方に客が来ていた。


「ルリちゃんにユリカか、いらっしゃい何にする?」

「私火星丼!」

「私はチキンライスをお願いします」

「はい、火星1 チキン1ね」


そういいつつ、調理を始める…

二人は俺が料理する所を見ている様だ。

こうしていると、ラーメンの屋台を引いていたあの頃を思い出す…

もちろん彼女達には関係無い。しかし俺の心は不思議と和んだ…


「はい、チキンライスと火星丼お待ち!」

「うわあ、おいしそう! やっぱりアキトは凄いね!」

「何がどうなって凄いんだか…」

「そうでもないですよ。確かにアキトさんくらいの年齢でこれだけ料理できる人は、あまりいません。誇っても良いと思います」

「うん! アキトの料理は美味しいよ!」

「ありがとう二人とも…」


こうまで手放しに褒められるとは…正直不思議なくらいだ。

ユリカは兎も角、ルリちゃんにそう評価してもらえると言う事は、俺もどうやらまともな料理が作れているらしい…

味覚が戻って以来料理は手慰み程度にしかやってこなかったから、腕が落ちてないか不安だったんだが…


「ところで、何だか食堂の雰囲気が違うみたいなんだけど、みんなどしたの?」

「ああ、ウェイトレスの制服の規制が緩くなったんだ…」

「ウェイトレスの制服? そう言えばみんな個性的だね。今度私も何か着てみようかな…」

「やめてください艦長。そんな事したら、まともに制服着る人がいなくなってしまいます」

「え〜!?」


ユリカはルリちゃんの突っ込みにぶーたれていたが、その眼前に突然コミニュケが開いた…


『艦長。間もなくL2のコロニー、サツキミドリ二号に到着します。至急ブリッジまでお戻りください』

「あっ、はい、直ぐに向かいます…それじゃアキト、また後でね…」

「はいはい…」


はぁ…これで良いんだろうか?

またナデシコになじみ始めているな…

この中にいると、自分がただ前を向いていた頃に戻れる気がする。

だが…


……テンカワさん…テンカワさん…」

「ん? なんだい、ルリちゃん?」

「注文来てますよ」

「ああ、いらっしゃい」


カウンター席ルリちゃんの隣、ユリカのいた場所に別の人間が座っている。

月の巫女リトリア…灰色の髪をして、修道服の様な服を身に纏う少女が目の前にいる…


「すまん。聞いてなかったんで、もう一度注文を言ってくれるか?」

「ええ、ジャンボパフェ下さい」

「……分かった」


むぅ、俺はパティシエの勉強はしてこなかったからな…サイゾーさんやホウメイさんの影響で中華が中心だった。

まあ、出来なくは無いと思うが、ここはホウメイさんにお願いするべきだな…


「それで…アキトさんが作ってくれると嬉しいんですが…」

「…構わんが、味の保障は出来ないぞ」

「構いません」

「…」


何を考えているんだ?

相変わらず良く分からないな。

ルリちゃんも不振に思ったらしく、リトリアに会話を振る…


「あの、どうしてテンカワさんに作って欲しいんですか?」

「う〜ん、何となくじゃ駄目?」

「駄目です。大体その言動じゃ、怪しすぎです」

「確かにそうだね…アキトさんに作ってもらいたかった、というのが本音かな…」

「言う気は無い、と言う事ですね」

「本当なのに〜」

「まあ良いです。私もラピスさんとの交代時間が迫っていますので、失礼します」

「「行ってらっしゃい」」


俺とリトリアの声が被る…

しかしこの女、俺の事を知っている様な言動をする…

敵ではないとしても、何者だ?


「そう言えばこの船、サツキミドリまで最大加速で向かっているそうですね…」

「そうなのか?」

「惚けないで下さい。ラピスちゃんからの提案になっていますけど、発案は貴方ですね?」

「なぜそう思う?」


俺は内心、驚きを隠せなかった。この女…どこまで俺の事を知っている…?

警戒する俺にリトリアは微笑み、


「だって、貴方はラピスちゃんの保護者ですし、あの発言は彼女らしくありません」

「あって間もないのに、良くそんなことが分かるな。それにブリッジの会話をなぜ知っている?」

「ブリッジの事なら、私メグミさんとコミュニケで会話していましたから…

 それに私、これでも宗教の司祭クラスになりますから、人の性格を見抜くのは割りと得意なんです」

「…それで、何が言いたいんだ?」

「そうですね、その訳を聞かせてもらいたいかな、と思いまして」


リトリアは顔に微笑を貼り付けたまま聞いてくる…

どうにも良く分からない。そんなことを聞いてどうしようと言うんだ…?


「俺はコロニーに行った事がないからな。早く行ってみたいと思ったんだ…これで良いか」

「はい、分かりました」

「ジャンボパフェお待ちどうさま。それじゃ、コーラルが次の注文を取ってきた様だから失礼する」


俺は厨房で仕事を再開しようとするが、リトリアがポツリと一言漏らした…


「<戦闘準備>しておかなくて、良いんですか?」

「…!」


やはり…

俺の行動の意味を知っている。

早めに正体を掴んでおかなければ拙いな…

俺は厨房で仕事を再開しつつ、リトリアの様子を伺っていた…

しかし、その後はおかしな言動も無く、パフェを食べ終わると食堂から出て行った。

彼女が出て行くのを見計らい、俺はホウメイさんに休憩を願い出てエグザの格納庫へと急いだ…













「すみません、遅れちゃいました〜!」


ナデシコブリッジに元気のいい声が響く…

台詞の割に、ユリカが堂々とブリッジに入ってきた。

一瞬プロスの眼鏡が光を放つが、特に何も言わなかった。

だがいずれ、ユリカは給料を見てびっくりする事になるだろう…

そして、それに続きルリが顔を出す。


「ラピスさん、交代の時間です」

「え、もう? それじゃ、後はお願い」

「はい、分かりました」


二人の会話はそっけない…だが、それなりに理解はある様だ。

二人を見ていたミナトはそう判断した。

(ふうん…二人とも結構仲良いみたいね。二人ともかわいいし、これから色々教えてあげなくちゃ…)

そんな事をミナトが考えている内にも、ナデシコはサツキミドリに接近する…


「ほほう、流石はナデシコ…それともこれは、ミナトさんの腕ですかな?

 予定より十五分程短縮されたようですな…」


プロスが感心していると、ルリから報告が入る。


「後一分で、コロニー見えます」

「ディストーションフィールド解除、停泊準備」


ユリカが指示を出すと、メグミがサツキミドリとの回線を開く。


「こちらは機動戦艦ナデシコ、サツキミドリ二号聞こえますか?」

『こちらはサツキミドリ二号、了解。イヤ〜かわいい声だねー!』

「これより停泊します。準備の方は…」

『OK! OK! まかしといてくれ』

「え? 何?」


その時メグミが見た物は…戦闘の爆光煌く、サツキミドリの姿であった…












「ヤガネ、ディストーションフィールドを展開してください」

【OK、ルリ】


グラビティブラストを放つカトンボ達からサツキミドリを庇う位置で、ディストーションフィールドを展開する。

エスカロニアはその小さな船体に似合わず、強力なディストーションフィールドでグラビティブラストを遮断した…


「流石に<相転移エンジン四基>を詰め込んだだけはありますね。

 …お陰で、一人乗りの駆逐艦という設計になってしまいましたが…」

【ルリ、ディストーションフィールド安定。

 カトンボ五隻のグラビティブラストを中和…同時にカトンボ後方よりバッタ約百機接近】

「ヤガネ、グラビティブラストスタンバイ」

【OK、グラビティブラストスタンバイ…】

「グラビティブラスト、発射してください」

【グラビティブラスト・ファイア】


ルリの指示を受けて、ヤガネがエスカロニアのグラビティブラストを発射する。

基本的にこれらの行動はヤガネを介さずともルリには問題ないが、

彼女は別の仕事の為に、こういう所で能力を出す訳には行かない…

エスカロニアの操船は、基本的にヤガネの仕事である。


         ドッゴォォーン!!


グラビティブラストが前方を薙ぎ、カトンボは全滅…バッタも約半数が吹き飛んだ。

そこに、サツキミドリからの通信が入る…


『こちらサツキミドリ二号、こちらサツキミドリ二号。未確認船、応答願います』

「こちら明日香インダストリー社・試作型遊撃駆逐艦・エスカロニア艦長、ルリ・ミルヒシュトラーセです。

 現在取り込み中ですので、通信は戦闘終了後に」


ルリは一息で言い切ると通信を切ろうとするが、向こうは切羽詰った感じで話を続けてきた。


『待った! ちょっと待ってくれ。兎に角、こちらからも応援を出す。もう少し持たせてくれ!』


そう言って向こうは一方的に切ってしまった…


「はあ、どうしましょうか。

 …そうですね、手伝ってもらう事にしましょう。まだあれは伏せておいた方が良いですし…

 ヤガネ、戦線を少し下げてください。もう一度グラビティブラスト行きます」

【OK、エスカロニア逆噴射開始と同時にグラビティブラストスタンバイ…】

「グラビティブラスト、発射」

【グラビティブラストファイア】


エスカロニアからのグラビティブラストにより、50機の内約半数が宇宙の藻屑となる…

しかし、流石に向こうも先程の愚を犯したくないのだろう、散開しつつ接近している。

このままでは、グラビティブラストよりも先に取り付かれてしまう…


「不味いですね…やはり、使わなければならないでしょうか…」


ルリもどうするべきか迷っている時、サツキミドリの方から三条の光が接近してくる…

赤、黄、緑…まるで信号機の様な組み合わせだ。

それを見てルリは一息ついた…


「どうやら、間に合ったみたいですね…」


三条の光はフォーメーションを組みつつ、バッタ達を粉砕していく。

現在の位置がサツキミドリの近くである為、サツキミドリから直接重力波ビームを受ける事が出来るのだろう。

エネルギーを気にしている様子は無かった…


『おらおら! 束になってかかって来な!』


一機が敵陣へ突っ込み、


『それそれ! まだいどっかいるかな〜? あー! み〜っけた!』


一機は中距離からサポート…


『おい! ちょっと買って来い! あっ、舎弟居ない…射程内…プッククク!


…(汗)

お互いを補う見事なコンビネーションでバッタを撃破していく…


「流石はイズミさん…聞き慣れているはずの私も、一瞬白くなるところでした…」

【どうしてですか?】

「貴方は知らなくてもいい事です」

【はあ…】


三機のエステバリスは、瞬く間に残るバッタを撃破して行った…

そして全てが終わった後、三機のエステバリスがエスカロニアに接近して来る。


『おい! お前何もんだ!?』

『リョーコ、いきなり喧嘩腰は駄目だよ』

『そうそう。野球で五番目じゃ、甲子園には出られないよ…県下五指…喧嘩腰…プッ ククク…


リョーコが凄んで、ヒカルがなだめ、イズミが白けさせる。

コンビネーションが良いんだか悪いんだか、見た限りでは分からない…

しかし、ルリはこれがこの三人のベストな状態だと知っているから、無視して話しかけた…


「先程、通信士の方に伝えた筈ですが…そちらの方まで伝わっていないみたいですね」

『ううん、聞いてるよ〜♪ でもそういう事じゃなくってぇ〜♪』

『どういうつもりで助けたのか、って聞いてんだよ!』

『庭にたくさん木が植わってるねー、何本あるんだい? ああ木? TENだよ…木TENだよ…聞いてんだよ…苦しい…

『だあああ! この! イズミてめえ! いい加減駄洒落はやめろ!』

駄洒落を言うのは誰じゃ…プッククク

『あああ! 変な奴…変な奴…変な奴…変な奴…変な奴…変な奴…

『ごめんね〜なんかちょっと二人がゲシュタルト崩壊起しちゃったみたいなんで…ちょっとコロニー寄ってかない?』

「はあ、お願いします」


どうやら三機は目的を果たしたらしく、コロニーへと帰って行く…

エスカロニアもエステについていく事にした。


【良いのですか? ルリ】

「ええ。元々ここに寄るつもりでしたし、ナデシコもドック入りしたみたいですよ」


ルリの指差す先には光のラインに沿ってコロニーへと入っていく、ナデシコの姿があった…













――サツキミドリコロニー・ドック内――


ここには現在、ナデシコとエスカロニアが停泊している。

そして事態解明の為、ナデシコブリッジにて緊急会議が招集されていた…

会議にはナデシコブリッジクルー、経営陣、パイロット、フクベらが招集されている。

因みにヤマダはいない。骨折が完治していない間は動き回らないよう、厳重に注意されていた。

そして最初に口を開いたのは、呼び出されたルリであった…


「先ず言って置きます。

 このコロニーに来たのは明日香インダストリーの意向であり、この船のテストを兼ねてナデシコに同行する為です」

「我々はその事を聞いていないが…」

「それは当然です。明日香の命令書もネルガルの許可書も、ここにありますから」


そう言って、ルリはツートンカラーの制服の懐から書類を出す…

プロスはそれを受け取り、じっくりと検分した。


「どうやら本物のようですな…この文からすると、テンカワさんの部下と言う事ですかな?」

「はい」

「…」


後ろでアキトがなんともいえない顔をしていたが、ルリは無視を決め込んだ。

そうこうしつつルリが質問に答えていると、先程まで考え込んでいた艦長が思いついた様に言い始めた…


「そう言えばまだ自己紹介してもらってないよ? ここのパイロットの人達も!」

「はあ、そうですな。我々は一応資料で読んでおりますが、自己紹介というものも大切でしょう。

 …では、パイロットの皆さんからお願いします」

「ちぃ、ったくめんどくせーな」

「ちょっと待ったー!!」


大声と共にブリッジの扉が開き、整備班の面々とヤマダがなだれ込んできた。

流石に呆然となるブリッジの面々…

その後にプロスがこめかみを引きつらせつつ、


「いけませんなぁ。我々の会議を覗き見ですか…減俸ものですよ、これは」

「だー! 自己紹介なら俺がやってやる! 世紀のヒー ロー、ダイゴウジ・ガイとは俺の事だ!! がっふ…やめろー! 足を踏むなー!!」

「アホかー! 誰が貴様なんぞの自己紹介を聞きたがる か! 美少女の自己紹介の場に俺達が入れないとは何事か!? と聞いているんだ!!」

「はははは…まあ良いでしょう。確かに自己紹介は全員の前でやるものですし…」

「良いのか? 会議中だぞ…」

「良いの良いの、こういうのはパーッとやっちゃった方が勝ちよ」


相変わらず戸惑うゴートをミナトが諭す。

そして、自己紹介が進められていった…


「オレはスバル・リョーコ。得意なのは格闘戦だが、射撃もそれなりにこなすぜ」

「え…」

「「「「「「「ウオーヒューヒュー!!」」」」」」」


リョーコの紹介にもなっていない紹介に、ユリカが少し困った顔をしたが…

整備員達には関係ない様だ。凄い勢いで声援を送っている…


「アタシはアマノ・ヒカル! 蛇使い座のB型十八歳!

 好きなものはピザの端っこの硬い所と、ちょっとしけたおせんべいで〜す!

 よろしくお願いしま〜す! ピ〜! ピ〜! …あれ? 面白 くなかった?」

「「「「いいえ(汗)」」」」

「「「「うおー、ひうひう…」」」」


頭におもちゃの笛を付けて吹いているのだが、いまいち良い音が出ていない…

微妙にずれた笑いをとるヒカルに、ブリッジの面々もどう反応していいのかわからない様だ。

整備員達まで勢いをそがれてしまって、声援に元気が無い…


「…アキの空はイツミても良いね…アキ・イツミ…マキ・イズミ…ククク

「「「「「「……」」」」」」


ブリッジクルーは異世界を体験した…

ブリッジは数分白い世界だったが、一人だけそこに入らずに済んだ少女が自己紹介を始める。


「ルリ・ミルヒシュトラーセと言います。

 得意なものはアキトさんに教わったラーメンの作り方でしょうか…

 好きな食べ物はチキンライスとラーメン、後は甘いものです。

 この船にはアキトさんの補佐をするために来ました…皆さん、宜しくお願いします」


ぺこりと頭を下げて自己紹介を打ち切る…

周囲は暫く不思議な沈黙を保っていたが、一気に騒がしくなった。


「「「「「「「「ウオー!! ヒュー! ヒュー!」」」」」」」」

「へー、あの子もルリちゃんって言うんだ…」

「でも、二人とも同じ名前だと呼び辛いですね…」

「じゃあじゃあ、二人のニックネームを決めようよ!」

「そうね〜…じゃあ、小さいルリちゃんは<ルリルリ>って言うのはどう?」

「あっ、可愛いですね」

「「「「「「ルリルリー!!」」」」」」」

「バカ」


小さいルリはすねたような顔をしたが、少し頬を染めている…わりと気に入った様だ。

もっとも周囲はそういった状況に構わず進んでいく…


「それじゃあ、大きいルリちゃんは?」

「そうですねー」


ミナトとメグミが検討していると、近くまで来ていたヒカルの眼鏡がキランと輝く…


「あー! はいはい! 良いの思いついたよー!」

「何です?」

「ルリ・ミルヒシュトラーセだから〜<ルーミィ>って言うのはど〜です?」

「そうねぇ、結構いいかも」

「「「「「「「ルーミィちゃ〜ん!!」」」」」」」

「はあ、そんないきなりニックネームをつけられても…」


大きいルリは戸惑い気味だ…

だが、いつの間にか背後に来ていたアキトの声がかかる。


「いいんじゃないかな。<ナデシコ>って言うのは、そんな所だったろ?」

「確かにそうですが…」

「ルーミィって結構可愛い名前だと思うけど?」

「そうかもしれませんけど、私の事はルリって呼んで下さいね」

「いや、あのね…」

「他の人は仕方ありませんが、アキトさんだけは駄目です」

「…はい(泣)」


轟くような喧騒の中――

当事者達を置いてきぼりにして、ナデシコブリッジはパーティ会場と化していた。

もはや会議を行っていた形跡など見受けられず、飲めや歌えの大騒ぎだ…

ナデシコ食堂にもお呼びがかかり、個性的なウェイトレス達が給仕をやっている。

最初は止めようとしていたプロスも「仕方ありませんな…」と、

みんなの給料から宴会費を捻出する作戦を考えていた…












なかがき

さて、とうとう登場ヤゴコロオモイカネ(八意思兼)及び試作型遊撃駆逐艦エスカロニア!

ふう、そうですね…私もやっと再登場です…っていつまで待たせるつもりだったんですか!

す…すいません…でもほらやっぱり盛り上がるポイントって重要だからね…

何を言っているんですか! SS界にはアキトさんベイビーが 生まれているSSも多々あるんですよ! それなのに告白もままならないなんて…

まあ、まあ落ち着いて…

これが落ち着いていられますか!! だい たい貴方は計画性が無さ過ぎるんです! ふうふう… まあ一応アキトさんと再会しましたから良しとしましょう…

あはははは…(汗)兎に角この二つについて…フガフグ!

言ってはいけませんその言葉は…おば…いえイネスさんが出てきてしまいま す…

そういえば彼女のイベントももう少ししたら動き出すんだけど…表現が難しそうなイベントになっちゃったんで困ってるんだけどね…

量だけは多いですからね…いらないイベントに回している時間があるならアキトさんのラブラブを書いていればもっと面白いと思うんですが…

それじゃ、話が繋がらなくなるから…一応後編では少し良いシーンが入る予定だから我慢してください

ふう、仕方ありませんね…ではヤゴコロオモイカネについて聞きましょう、何故同じ 神様の名前なんです?

そうだね、ヤゴコロオモイカネはオモイカネの別名、同じ神様な訳だけど同じルリちゃんの友達なら同じが良いかなと思ってね…

珍しく私のことを考えて作ってくれたんですね…ではエスカロニアはどういった仕様 なんです?

うう、それなんだよ…次回までに咲夜さんにお伺いを立てねば!

なんですか!? そのヤバげな台詞!

いや、実はナデシコ兵器理論の応用と言うか…

使っちゃったわけですか!?

まだ出ていないからOKをもらえなかったら別の手を考える…

行き当たりばったりもいい加減にしてくだ さい!

それでは、咲夜さんに聞いてくる!

タッタッタッタ…!

        ドガ!

         グッギャアー!!

ああそういえば、前回ネズミ捕りを仕掛けたんでしたっけ…



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