「「「「「「「ルーミィちゃ〜ん!!」」」」」」」

「はあ、そんないきなりニックネームをつけられても…」


大きいルリは戸惑い気味だ…

だが、いつの間にか背後に来ていたアキトの声がかかる。


「いいんじゃないかな。<ナデシコ>って言うのは、そんな所だったろ?」

「確かにそうですが…」

「ルーミィって結構可愛い名前だと思うけど?」

「そうかもしれませんけど、私の事はルリって呼んで下さいね」

「いや、あのね…」

「他の人は仕方ありませんが、アキトさんだけは駄目です」

「…はい(泣)」


轟くような喧騒の中――

当事者達を置いてきぼりにして、ナデシコブリッジはパーティ会場と化していた。

もはや会議を行っていた形跡など見受けられず、飲めや歌えの大騒ぎだ…

ナデシコ食堂にもお呼びがかかり、個性的なウェイトレス達が給仕をやっている。

最初は止めようとしていたプロスも「仕方ありませんな…」と、

みんなの給料から宴会費を捻出する作戦を考えていた…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第九話 藍色宇宙に『ときめき』 」(後編)


宴会が終わり、俺は厨房へと向かっていた。

現在ナデシコ食堂には誰もいない筈だが、サツキミドリ二号で一度休暇があるので、

休憩を兼ねて自分のラーメンスープの出来を確認しに来たのだ。

だが、俺には懸念事項がある…

リトリア・リリウム…彼女の謎の行動についてだ。

彼女は俺に色々と絡んでくる。サツキミドリに行く前は、俺がサツキミドリで戦う準備をしている事を知っている風だった…

実はあの後格納庫に向かったのだが、俺のエグザのコックピットに張り紙がされてあった。

張り紙には“もう少し仲間を信じなさい”と書かれてあったのだが…

その後ルリのエスカロニアの活躍により、サツキミドリが救われていた事を知った。

彼女は俺より先を見ている…まさか未来を予測できる訳でもあるまいが…

しかし、そういう部分を見るにつけ思うのだ…ここは本当に<俺の知る過去>なのか、と。


「ははは、だとしても今更どうしようもない…未来や過去への正確な行きかたが分かっている訳でもない…

 それに、俺はこの時代でユリカとイネスさんを探さなければならないしな…」


そうだ、俺の目的はユリカとイネスさんの捜索…今回の火星行きの一番の目的は彼女達の捜索にある。

リトリアがそのどちらかではないかと思い、“俺の事を知っているか?”と質問を投げかけた事があったが、

彼女は“火星の英雄としてなら”と、言葉を濁している…


厨房に着くと、スープの確認をする…

味の方は…大体良いのだが…久しぶりに作った所為か、屋台に出していた頃に今一歩及ばないような気がする。

何かを足すべきだろうか…鶏ガラや醤油といった、基本的な物はこのままで良いだろう…

だとすれば、変更の必要があるのは…?


「アキト! アキトー!」

「どうわ!?」

「アキト? どうしたの?」


もう少しでスープをこぼす所だった…あまり考え込むのも問題だな。

しかし、一体どうしたんだ? ユリカはさっき、宴会の音頭を取っていた筈だが…


「今スープを見てたんだ。俺のオリジナルラーメンを作りたいと思ってな」

「ああ! そうだったんだ…ごめんなさい、慌ててたものだから…」

「で? 一体何しにきたんだ?」

「うん、あのね…明日、サツキミドリでドック入りしている間、交代で休暇をもらえる事になったの…

 それで…その、一緒にサツキミドリの…」

「アキト!! いた!」


今度はラピスが滑り込んだ来た…まさか…


「アキト! 明日一緒にサツキミドリに出かけようよ!」

「ちょっとラピスちゃん! 今私が誘おうとしてた所だったんだよ!」

「早い者勝ちだよ!」


やっぱり…

だが、今の俺はあまりそういう気分にはなれそうも無い…

ここは、きっちりと言うべきだろう。


「二人ともちょっと待ってくれ、俺はまだこのスープを完成させてないんだ。明日はここでスープを見ていようと思う…」

「「えー!!?」」


厨房で大声を出さないでくれ。頼むから…(汗)

実の所、まだサツキミドリが完全に安全になったとは思えない。

俺は出来るだけエグザの近くにいなければ…


「ユリカ…お前はどう思う? 今回の襲撃一回きりだと思うか?」

「うーん、確かにまだ来る可能性はあると思う…でも多分、明日は無いよ。

 戦力を集中するためにも、次はチューリップで来ると思うから。来たら分かる筈だし」

「そうか…だがまあ、パイロットが居た方がいいだろう。だから俺はここに居る事にする」

「え〜!? もったいないよ! これから地球に戻るまで、もうこんな事は無いかもしれないんだよ?!

 それに、代理は新しく入った人達がやってくれる筈だよ?」

「うん、だから私とデートしよ!」

「ラピスちゃん、今回は私に譲ってよー!」

「駄目! こういう事は先手必勝だもんねー!」


何だか、また付いて行けなくなってしまった。

…しかし、ラピス…まさかお前がユリカと張り合う日が来ようとは…

喜んでいいのか、悲しんでいいのか…はあ…


兎に角、俺が厨房を出る事を渋った為、二人の戦いは自動的に消滅した。

二人とも不満そうであったが、明日はラーメンの試食をしてもらうと言う事で落ち着いた。

最近、こういう事がやたらと起こるのが不思議でならない…以前もそうだったが、ナデシコという環境の所為だろうか?

俺の周りが騒がしいのは、今は少し困るのだが…俺が守れる人数など、たかが知れているからな…


スープの調整で今日出来る事を終えた俺は、ラピスを伴い部屋へと戻る事にした。

ユリカが文句を言い始めたが、一々そんな事を気にしていられない。

もっとも、俺の腕にしがみついているラピスが勝ち誇った顔をしているのは、何と言うか…判断しかねる。

その手の話は、今は勘弁して欲しいというのが正直な所だ…













――サツキミドリ二号内・宇宙船ドック――


ここには現在、ナデシコとエスカロニアが係留されている。

エスカロニアは50mの船体をナデシコの隣に横たえ、静かにその存在を示している…

そのエスカロニアの元に、ナデシコ整備班が群がっていた。

整備員達はエスカロニアに取り付き、次々とチェック事項をこなしているが…しかし余計な部分まで手を出している様に見える。

ルリはそんな様子を見て少し心配になったが、ウリバタケの性格は良く知っているので諦める他ないかと思っていた。

まさか、明日一日で分解したりしないだろう…


「それで、この船どうですか?」

「ああ、この船…あの設計図を応用して作ったにしろ、かなりのものだ。

 けど、相転移エンジンが大型二基・小型二基か…良く詰め込んだもんだな」

「はあ…ですがあくまで“一対多数”を目的としているので、他の船との連携が難しい造りになってしまいましたが…」

「そりゃあ、あくまで艦長の技量の問題だ…しかし、あの<砲台>がそうなのか?」


ウリバタケがエスカロニアについている八メートル級の砲台を指す…

良く見れば双胴の片側に四基づつ、計八機設置されている。

砲塔の割には銃口が小さく、途中にごてごてと何やら付いているように見える…


「はい。私とDrツバキの設計です」

「…俺が言うのもなんだが、本当に使えるのか? これ」

「テスト上では問題なく稼動しました。実戦稼動はまだこれからですが…」

「そうか…ホントにやれば出来るもんなんだな。俺も負けてられないぜ…」


ウリバタケは少し驚いてはいたが、ニヤリと不敵な笑いをする。

それからエスカロニアを一通り目に収め、一つうなずくとときびすを返した…


「てめ〜らー! もう整備は終わったんだろう!? いつまでも群がってるんじゃねー!」

「「「「「う〜っす!!」」」」」


エスカロニアにまとわりつく整備員達にウリバタケの怒号が飛び、

その声に驚いた彼等がドタドタと駆けていった…


「それじゃルーミィちゃん、俺はもう行く。チェックは一通り終わらせてあるから、問題があったら言ってくれ」

「はい、わかりました」


ウリバタケたちが去っていく中、ルリは砲塔に向けた視線を外す事がなかった…












ナデシコブリッジ――現在は夜時間、当直についている三人を残してブリッジには誰もいない。

もっぱらメグミとミナトの会話だけが、音のないブリッジに響くのみだ。

もっとも、それも良い加減疲れてきたのか、会話が減り始めていた…


「ふぁ〜…暇ですね、ミナトさん」

「ふふ、メグちゃんったら…確かに今の所問題無いけど

 私達は今日まで当直なんだし、仕方ないんじゃない?」

「それはそうですけど…」

「あの…」


その辺りの心理を考えてルリが話を聞いてもらおうとするが、二人には聞こえなかったらしい…

そして、煮え切らないメグミの態度にふと興味を覚えたミナトがカマをかける…


「はは〜ん、“休暇にアキト君を誘えなかった事が気になってる”って感じね…

 まあ、アキト君倍率高いし…それでも落ちてないんだったら、メグちゃんにもチャンスはあるんだから、ね?」

「え? いえ別にそういうつもりじゃあ…(///)」

「すみません…」


ルリがもう一度声をかけるが、盛り上がり始めた二人にはまるで聞こえていない…


「気にしない気にしない。最近メグちゃん、アキト君を見る目が違ってきてるから結構分かりやすいよ」

「え〜!? そうなんですか?」

「仕方ありませんね」

「そうそう、段々恋する乙女の目に…」

『やっほー!! 聞こえていますかー!?』

「「わっ!!?」」


ルリは会話する二人の間に、巨大な自分の顔を投影して自己主張した。

びっくりして呆然となる二人…

そんな二人に頓着することなく、ルリは話し始める…


「あの、ミナトさんに少しお聞きしたい事があるのですが…」

「何? ルリルリ?」

「その<ルリルリ>というニックネームは、何故つけたんですか?」

「え? 気に入らなかった? かわいいと思うんだけど…」

「いえ、そう言う訳では…」

「じゃあ、なんで? つけて欲しいニックネームがあったとか?」


ミナトがルリの行動を不審に思っていると、メグミがピンと来たという感じで話に加わってきた…


「ああ! ルリちゃんはあのルーミィさんの事が気になっているんですね…」

「そっかあ、ルリルリはルーミィちゃんの事気にしてるんだ」

「そんな事ありません! ただ、私ニックネームなんて初めてですから…」

「うんうん、ルリルリは可愛いわ。ルーミィちゃんにも負けないくらい」

「そういう事を言っている訳じゃありません」

「仕方ないですよ。正直あの子、可愛くて・仕事も出来て・真面目そうですし、コンプレックスになっても…」

「そんなこと、ありません」

「そうなんだ…じゃあ、これでルリルリも大人の仲間入りだね」


謎が解けてルリが何を言おうとしているのか分かったミナトは、ルリの頭をなでながら微笑を浮かべる…

そんなミナトに戸惑うルリはただ、自己主張を返すのみである。


「…私、少女です」


その後、ブリッジでは当直の交代までルリのニックネームの話題が続いたのだった…













サツキミドリ二号コロニーには、約二十三万人の人間が生活している。

当然それなりにレクリエーションの為の設備等も整っており、

買い物、レジャー、映画、遊園地などと言った物も一通り揃っている。

俺は昨日、ルリに公園まで来るよう頼まれていた。

俺としては、ラーメンの仕上がりが気になるところだが…

もしユリカやイネスさんについて何か判ったのだとしたら、聞き逃す事は出来ない。

公園に設置された時計が十時を指す…

すると、体内時計でも持っているのかと言うほどぴったりとルリが到着した。


「お待たせしました」


ルリは普段あまり見せない様な、ノースリーブのブラウスにプリーツスカートを着ている…

黄色の暖色系で纏めている様だ。

正直もっとラフな格好で来ると思っていたので、俺の方はTシャツにジーンズしか着ていない。

少し不味いだろうか…まあいい。返事が途切れるのも拙いしな…


「いや、今来た所だ…」


ぎこちない会話になってしまったな…

もっと、何か言うべきだったろうか?


「ふふふ…デートの待ち合わせみたいな会話ですね…」

「え…あ、言われてみれば…(汗)」


言われて俺は赤面する…これじゃ周りに誤解されてしまいそうだ。

もっとも、ルリの方は少し目を細め口元に微笑を浮かべているが…

もしかして、今のはからかわれたのだろうか…?

俺は、少しすねた風に睨み返す…


「ごめんなさい、気になりましたか?」

「いや、気にしなくていいよ。俺が修行不足なだけさ…大人の威厳もあったもんじゃないな…はは…」

「それは仕方ありません。アキトさんが十八…私が十七…外見上は一つしか違わないんですから…」

「確かに…(汗)」


ルリはいつもの様に落ち着いた言葉遣いで話している。

そんな部分が彼女を年齢以上に見せている部分はある…

俺でさえたまに、自分より大人に見える時もあった。

深く考えると情けなくなるが…


「こんな所で立ちっぱなしも疲れるだろう。そこのベンチで待っててくれ、ソフトクリームでも買ってくる」

「はい、お願いします」


俺は公園の入り口付近で販売しているソフトクリームを買って、ベンチに向かう。

季節感は無いが、宇宙コロニーで日本の季節云々も無いだろう…

公園内に戻ると、ルリは既に腰を下ろして待っていた…


「有難う御座います」

「どう致しまして。それで、用件なんだけど…」

「まあいいじゃないですか、それ程急がなくても…

 もしスープに問題があったら、手伝いますから」

「うっ…(汗)」


ばれてる…

俺が自分でラーメンを作ろうとしている事は、それ程多くの人に言っている訳では無い筈なんだが…


「アキトさん…もしかして、後悔とかしていませんか?」

「え?」

「アキトさんを見ていると思うんです…

 時々、本当にこんな事していいのか、って迷っている感じでしたから…」

「…ルリちゃんに隠し事は出来ないね。いつも鋭い…」

「ルリです。ヤマダさんみたいに言い直させないで下さい」

「ああ、ごめん」

「いいです。その代わり、今日は一日付き合ってもらいますよ」

「ははは…分かった」


お互いに向かい合って笑いあってから…

散歩を兼ねて歩き出す。


「俺、時々思うんだ…ここは、俺達のいた世界とは違う世界なんじゃないか、って。

 日本の南端の遺跡、月の巫女の事…

 エスピシアの採用も実際、俺達の知っている未来では見送られていた筈。

 確かにイツキちゃんは、以前もテストパイロットだったって言う話だが…」

「ああ…そんな事を気にしていたんですか。

 歴史に影響を及ぼす事を気にしてみたり、違う流れだと思うと平行世界なのか気になったり…

 アキトさんは心配性ですね」

「だが…」

「その心配は無いと思います。今まで私達がボソンジャンプした回数は何回位だか分かりますか?

 多分アキトさんは、単独ボソンジャンプも含めると百回近いボソンジャンプを行ってきた筈です」

「ああ、そうだな」

「それらのボソンジャンプは全て、一度過去へさかのぼり現在に戻ってきたものです。

 つまり、ボソンジャンプの過程で平行世界に入るというなら、

 既に私たちが同じ世界にいること自体、ありえない事になってしまいます」

「なるほどな…確かにそうだ…」

「そうです。考えすぎなんですよ、最近のアキトさんは…

 アキトさんはもっと、前を向いても良いと思います。

 全てが終わったらまた屋台を引きましょう…

 多分それが、アキトさんにとって一番いい未来だと思います」

「そうだな…また、やりたいな…」

「はい。その時はお手伝いさせて下さいね」

「ああ」


ルリが俺を支えようと、必死になってくれているのが分かる。

確かに、俺には過ぎた悩みだったのかもしれない…

既に歴史を変えてしまった俺が、今更悩む事ではないな。

俺には…後ろを振り返っている暇など無い。

そうだな、どうも俺は逆行からこっち悩みすぎていた。

後悔は後からしよう…兎に角、今は動く事だ。結論など元から出ていたのだ…

考えに沈んでいた俺を、ルリが正面から見ていた。

俺はルリに向かって微笑み…


「答え、出ましたか?」

「そうだな。後悔は後からすることにした…

 今はただ、前に進み続ける事にしよう…」

「はい、その方がアキトさんらしいです」

「らしい…か」

「はい!」


俺達は公園を出て、展望台の方に向かった…

そこからは、地球が見える。

青く輝く地球が一面に見えるのだから、ある意味壮観だ…


「それで、俺を呼び出した目的はなんなんだい?

 何というか、相談に乗ってもらった手前、俺の方も頑張って聞かないとな…」

「ふふふっ…もういいんです。元々、アキトさんに休んでもらおうと思っただけですから…

 でも、そうですね…少しかがんで貰えますか?」

「え? ああ…」


言われたとおりにかがむ俺…

どこと泣く情けない気分になるが、その後の方が問題だった。

ルリちゃん…いや、ルリが俺の頭を抱える…

それは、何か大切なものでも扱う様な、やさしい抱擁だった…

抱擁したまま俺の顔を上に向けると、ルリちゃんは俺の瞳を覗き込み、言葉をつむぎ始める。


(いら)えと共にその (しるべ)となり、貴方の前に立ちましょう…

 貴方が、どんな場所にいても…どんな時を過ごしていても…

 光が貴方を焼いてしまわぬよう…闇が貴方を飲み込んでしまわぬよう…

 届く限りの愛で貴方を包みます…

 心くじけぬよう、全ての時を貴方と共に…

 永遠に共にあるように…」 


まるで(うた)うような詩の朗読が終わると、そっと俺の額に口びる を触れさせた…

俺の額に柔らかな感触が広がる…俺は赤面して何も言えなくなってしまう。

頬に触れる瑠璃色の髪がくすぐったく感じる…

ルリは暫くその姿勢でいたが、真っ赤になって俺から離れた。


「ルリちゃん…あの、これ…」

「また戻ってます」

「あ、ごめん…ルリ…え〜っと、その…」

「こっ…これは電子の妖精からの祝福の…キスです…(///)

 自分で言うのもなんですが、ご利益てきめんですよ(///)」


「そう、なのか…

 ありがとう…俺もこの<祝福>に報いられるように頑張ろう」

「はい。これからもよろしくお願いしますね」


恥ずかしさも少し収まってきたのだろう、ルリは屈託無く微笑んだ。

俺はこの大切な家族に、何か報いる事が出来るのか?

だが、今は考えるよりも動こう。

――それこそが俺に出来る全てなのだから――

そう、俺は俺に出来る事をやるだけだ…












「ねえ、ジュン君…何で私達が当直なのかな?」

「仕方ないよ。ユリカはここの所遅刻が多かったから…」


そう…ユリカは給料分、当直をさせられる事になっていた。

これはジュンの隠れた配慮なのだが、ユリカにとっては大きなお世話らしかった…


「でもでも〜、ルーミィちゃんはアキト誘ってたみたいだし〜」

「付き合わされる私の身にもなってよ…私だってアキトと一緒にいたかったのに!」


昨日はルリの当直だったので、今日はラピスの担当なのだ…別に間違っているわけではない。

ただ、彼女はルリとの約束で、今日の午前中は変わってもらう筈だった。

しかしユリカによって引きずり込まれ、ブリッジにて軟禁状態である…


「そうは言っても、オペレーターがいないと警戒態勢は続けられないし…

 まだ木星トカゲが出ないと決まった訳じゃないからね」

「それは、そうだけど…」


それでもやはりラピスは不満そうだ。

尤も、二人がもしルーミィの行動を見ていたら、ただではすまなかった筈だが…

実際そんな事は知る良しもないので、不満ながらもどうにかこなしていた。


「あ、これって…重力場! 艦長! 天頂方向よりチューリップ接近! 接 敵まで約1200秒!」

「もう来たの? そんなに近くにチューリップがいたなんて…

 ジュン君! 警戒態勢の発令とブリッジ要員の召集! それからアキト達を呼び戻して!

 現在待機中のパイロットは全員出撃! ナデシコ出航までの時間を稼いでください!」

「解った――レベルB警戒態勢発令! ブリッジ要員は至急戦闘艦橋に集合せよ!

 繰り返す! レベルB警戒態勢発令! ブリッジ要員は至急戦闘艦橋に集合せよ!」

「アキトたちの居場所つかめたよ!」

「解りました、連絡は私が入れます。ラピスちゃんは出港準備を始めておいてください!

 ジュン君! エステバリス隊の出撃状況は?」

「ああ、丁度新しく来た三人が格納庫にいたお陰で三機は問題ない。

 …ヤマダ君が出撃したいって言ってるけど、どうする?」

「出撃させちゃってください! 今は戦力が多いほど良い筈です」

「分かった!」

「アキト! ルーミィちゃん! 今どこに居ますか!?」


ユリカの声と同時にコミュニケが開き、

そこに走っているアキトと、それに遅れまいと必死についてくるルーミィが映る。

ユリカは少し気になったが、戦闘を優先する事にしてアキトの返答を待つ…


『ああ、現在公園をドックに向けて移動中…十分後には当着する!』

「分かりました! ナデシコはコロニー重力圏脱出後、全速で戦闘に向かいます!

 アキト! ごめんね…エグザバイトは置いて行くから、ルーミィちゃんとでもう一つの方お願い!

『了解!』


ユリカはその事だけ伝えると通信を切った…

実際未練はあるが、ここで戦闘を投げ出す事は出来ない。

アキトを守る為には早く戦闘を切り上げて救援に向かうしかない、とユリカは判断した…


「ユリカ…もしかして伏兵がいるって言うのかい?」

「うん、多分…

 もっと時間をかけてくると思ってたんだけど…こんなに早く来たって言う事は、伏兵が用意出来たからだと思うの。

 でも、時間的に大部隊は無理だから、もう一つ位だと思うんだけど…」

「うん、多分ユリカの考えは正しいよ」

「ただ、アキトを危険にさらさない為にも、早めに片付けないと…」

「ああ、確かに…幾らグラビティブラストが撃てるって言っても

 駆逐艦一隻じゃちょっと辛いし…テンカワのあのシステムは使用禁止なんだろう?」

「うん、アキトは私の王子様だから大丈夫! だと、思うけど…やっ ぱり心配だから」

「はいはい」


ジュンも流石に、まともに聞いていたのが少しバカバカしいと思えたが…それでもユリカの言っている事は事実だと思う。

軍人候補生だった自分が何もせず、強いとは言え“民間人”のテンカワ一人に戦闘をさせる、という訳には行かないのだ・・・


ナデシコは順調に出航した…コロニーの重力圏を抜け、相転移エンジンの回転を上げる。

チューリップは既に、無数のバッタを出現させている…

だが、ナデシコはグラビティブラストの掃射で中央に穴を開け、チューリップに向けて突撃した。

バッタがナデシコへと群がってくるが、ディストーションフィールドで殆どの物は弾いてしまう…

そんな中…周囲のバッタを蹴散らしながら、四機のエステバリスがナデシコを追い越して前方に出る。


『テメエらなんかに構っている暇ねえんだよ!』

『ごめんね〜今回はちょ〜っと急いでるから〜♪』

『戦いとは無常なものね…もう留まってはいられないの…』

『オラオラ! ガイ様のお通りだぁ〜! 食らえ! ゲキガンフレアー!!』


エステバリスは順調にバッタ共を蹴散らしていった。

そして、ナデシコがチューリップの眼前に到着する…


「グラビティブラスト、発射してください!」

「了解。グラビティブラスト発射!」


巨大なチューリップも、眼前より放たれたグラビティブラストには一溜りもなく、爆光と共に砕け宇宙のチリと化した。

しかし至近距離での砲撃の為、破片等がナデシコに食い込む…


「これは、また修理が必要ですな…経費の事も考えると頭が痛い…」

「エステバリス隊はそのままバッタを掃討しつつナデシコについてきて下さい!

 ナデシコはこのままもう一つのチューリップへと向かいます!」

「どうやら、テンカワ達は善戦しているみたいだ。

 まだサツキミドリの方には一機も来ていない…急げば間に合うだろう」

「うん。アキト…無事でいて…」


ユリカは心の底からそう呟いた…













非常用のカートに乗り、俺達は急ぎナデシコやエスカロニアを係留しているドックに向かう…


「エスカロニアはチューリップを破壊できるのか?」

「はい。グラビティブラスト一撃の威力は砲門の口径上ナデシコよりも落ちますが、

 相転移エンジンの出力では上回ります。連射すれば十分チューリップを破壊できます」

「そうか。なら、止めは任せる」

「はい」


その会話が終わった頃、ドック内に到着する…俺はそのままエスカロニアの方へカートを走らせ、ルリを降ろした。

そして自分のエグザバイトの前まで行って、地上から数箇所の足場を踏んで肩口に飛び乗り、アサルトピットに取り付く…


「エグザバイトバッテリー起動モード。チェックリスト 6〜22番まで省略、緊急起動…重力カタパルトより発進する!」

『OKだ兄ちゃん。行ってきな!』


俺の出撃申請に管制官の男が陽気に応える。

俺はそのままカタパルトを使って発進した…


『あまり急ぎすぎないで下さい。敵の居場所、分かりますか?』

「ああ。エグザバイトの重力場センサーに僅かだが“引っ掛かり”がある。多分これだな」

『では、エスカロニアよりエグザバイトへ…重力波ビーム供給ライン、開きます』

「ああ、頼む」


エスカロニアには、重力波ビーム供給ラインが十本設定されている…ナデシコに匹敵するライン数だ。

まあ、重力波ビーム自体は砲門を必要とするものではないので、外見上は解らないが…

元々この船の製作目的は、エステバリスやエグザバイトのエネルギー供給用だったのだ。

それをルリとツバキさんの設計で<戦闘力に特化した遊撃駆逐艦>として再設計した物が、現在のエスカロニアである。


俺は地球側より接近する“重力の(ひず)み”に向かって接近を開始 する…

エスカロニアはその加速度においてエステバリスに匹敵するものがある為、

コロニーから離れるとその加速度を生かし、一気にエグザバイトを重力ビーム供給範囲に捕らえた…


『チューリップ前面にボソン反応、艦隊展開します…』


ルリちゃんが読み上げる中、チューリップの前面にカトンボとバッタが湧き出してくる…

かなりの規模だ…こちらが本命か。


『計測終了。カトンボ8バッタ200…

 サツキミドリ攻略には少し多いですね…目的は我々でしょうか?』

「そうだろうな…だが出来るだけ早く殲滅しないと、サツキミドリに向かうのも確かだろう」

『了解。では<例のシステム>のテスト、ここでやっちゃって良いですか?』

「分かった、頼む…」

『有難う御座います。では、特等席で見ていて下さい』


ルリは新システムに自信がある様だが…何かあった時はフォローに入れるように

エグザをアクティブの状態で維持しつつ、エスカロニアに少し遅れて付いていく…

エスカロニアの加速性能はかなりのもので、さして時間を要する事もなく接敵ポイントまで辿り着いた。


『ヤガネ、ウィンドウボール展開。サポートAI起動して下さい』

【OKルリ】

『では行きます…クルージングガンポッド、パー ジ』


余裕なのか、切るのを忘れているのか…コミュニケを開いたままで指示を出すルリ。

ノリでヤガネもこちらにウィンドウを開いていた。

しかしウィンドウ上の緊張感のなさとは裏腹に、エスカロニアは正確に敵へと向かい、

左右に四つ、計八つの砲門を本体から切り離す…

八メートルもある砲門は、一つ一つがエステバリスであるかのようにも見える。

それらの砲門は切り離された後、数秒程して自ら移動を開始した…


『敵機ロックオン開始、ガトリングミサイル発射!』


八機のガンポッドはそれぞれ別の目標を捕らえ、撃破していく…

バッタ共では相手にならない…瞬く間に数を減らしていった。

ルリにシステムがどういったものか聞いた時には、確かポッドにバッタ等のAIを積み込んで

ユーチャリスの様に指示、展開させる――言わば“セ ミオート”の様な物だと言っていたが、まさかここまでとは…

しかしこの機体の弾丸は、まだカトンボクラスのディストーションフィールドを貫けない筈。

そろそろ、出るべきだろうか…


『アキトさんは動かないで下さいね』

「?…ああ」


相変わらず読まれてるな…(汗)

しかし、ルリはどうするつもりだろう?


『何の為に“ガンポッドに重力波ビームを供給”するのか、お見せします』

「…! まさか?」

『はい。ディストーションアタック、行きます』


ルリの言葉と共に、八機のガンポッドが別々の目標に向かって加速する。

それぞれの前面に、集中したディストーションフィールドを展開しながら…

そしてガンポッドはカトンボにぶち当たり――

ディストーションフィールドは灼熱しながら、八機のカトンボを貫いた…


「ははは…これじゃあ、ロボットは要らないな…」

『そうですね。これからはアキトさんに楽をさせてあげます』

「ははは(汗)」


その後、予告通り連続グラビティブラストでチューリップを吹き飛ばしたエスカロニアを見て…

ロボットの時代は終わったかな? と思った…(汗)










次回予告

アキトが戦闘に参加する事もなく、やってきましたルリちゃん航海日誌!

しかし、今回はなんと二人!

だから何だとお言いでなかれ!

ひたすらあっちこっちでボケ倒し!

次回 機動戦艦ナデシコ〜光と闇に祝福を〜

第十話 「ルリとルリの『航海日誌』」をみんなで見よう!







あとがき

今回はあとがきに書く事が多そうだ…しかし、それにしても失敗は…

ふふふ…

額にとは言えキスをさせてしまった事か? いやあの詩のほうが問題な気も…(汗)

やっと! やっと告白しましたよ私!

いや、あれアキトは気付いてないと思う…

な!? あれほどはっきりって言ってるじゃないですか!

良く考えてみてくれ、ユリカがあれだけアプローチしても最終話まで好きって初めて聞いたって言っていたあのアキトがその程度で分かる筈がないじゃないか

でも、ユリカさんは実際言ってなかったですよ?

いや、”アキトは私が好き”って喜んで言うのは”私はアキトが好き”って言ってるのも同じだと思うんだけど…

うっ、言われてみれば確かにそうですね…

そんな訳で、告白イベントまでまだあるし我慢してください…

うう…折角これからはラブラブだと思ったのに…なんて気が効かないんですか!

すみません今回はお許しを…

とりあえず 一発、 金色のセカンドブリッド!!
       ドッゴーン!!

ゴ バッ!!  もっ…もしかして…フォントパターンが違う!?

ふふふ、今回からやっと私もこのパターンを使えるようになりました…

グググこのままではさらにまずい事に…しかし、今回はそれは後回しだ…

ほほう、回復が早いですね…ではラストブリッドも…

いや、待って! ニュースが先だって! 今回いや前回か…とうとう三十回突破したんですよ投稿回数が!

はあ、まあこんな駄作でも続けば続く物ですね…

それに、三月一日から始めたから今月終了と同時に半年目に!

途中休みましたけどね…

うっ(汗) まあ私みたいな半端者は基本的に感想を送ってもらえるかどうかで次を書く意欲が変わってきたりするから、来なくなると更新停止の可能性すら出 てくるんだけどね…

ようは感想の催促ですかはしたない…

うう…っと…兎に角、もう一つ、咲夜さん許可ありがとう御座います、ナデ理ファンネル使わせていただきました! 私なりにひねってみましたがまだこれが全 てではなかったり…

言う事はそれだけですか、覚悟はいいですね?   漆黒の ラストブリッド!!
       ドッゴーン!!

グッ…二発は流石に…死ぬ…ガハッ(吐血)

          ぱっぱぱーらーぱぱぱー

夢を…見ていたんです、とても激しく、荒々しく、雄雄しい夢を…ああ、私は 見続けていたんです…

お久しぶりですアメジスト、でもそれ前々回と同じ台詞ですね…

はい、そろそろ次の段階に行かないと不味いかなとアレも言っていました

そうですね、そろそろ掴んでみましょうか…(ニヤリ)



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