ううっ、強敵…ううん、アキトは私の事が好きなんだもん…大丈夫…だよね?


「どうしました? 艦長?」

「ううん…何でもない…」


どうしよ〜。ルーミィちゃんの前だと、きちんと話せないよ…

アキト…助けて!

そう私が心の中で悲鳴をあげていると、ルーミィちゃんはアキトに向き直って話し始めてしまった…


「アキトさん、この間はすいませんでした。生意気な事を言って…」

「いや、間違ってないよ…確かに俺のラーメンはあの頃のテンカワラーメンと比べて、まだまだだからね…」

「いえ…」

「気にしなくてもいいよ。まあ、まだ最初だしね…

 ルリが一人で屋台を引いていた頃に、俺のラーメンをほぼこなしていたって、あの後聞いたよ…」

「私なんて、まだまだです…やっぱりテンカワラーメンは、アキトさんでなくちゃ…」


何!? なに!? ナニ!? この雰囲気…私、この二人の会話に入り込めない!!

もしかして…アキトって、私が知らない間にルーミィちゃんと仲良くなってたの?

私は…私は一体どうすれば良いのーー!?


「うぁ〜ん!! アキトのばかー!!」

「あっ…」

「え〜っと…あれ?」

「不味いですね…少し刺激しすぎたでしょうか?」

「もしかして…」

「はい。艦長、お籠りです…」

「…(汗)」






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第十話 ルリとルリの『航海日誌』 」(後編)


俺は仕事をホウメイさんに引き継ぐと、直ぐにユリカを探して回る事にした。

まさかユリカがルリに嫉妬するとはな…いや、無理も無いか…

ルリも今は十七…あの頃のルリちゃんと同じに考えていると、周囲に誤解を招きかねないな。

まあ、気になるのは…あれだけ美人に育ったのに、浮いた噂を聞いた事がないと言う事か…

俺としても時々、娘として見られなくなる瞬間がある…ルリの為にも出来るだけ<頼れる存在>でありたいと思っているのだが…

ましてや、事情を知らないユリカがああいう風になるのも仕方ない事だろう。


「くそ! ユリカ、どこに行った!?」


走り回って調べる俺を追いかける様にコミュニケが開き、その向こうからルリが話しかけてくる…

どうやらヤガネのコミュニケを展開しているらしく、周囲にウィンドウが踊っている。


『今艦内をスキャンした所、艦長はバーチャルルームにいるみたいです…』

「前と同じか…理由はちょっと違うがな…」

『ええ…原因が“メグミさんと艦長と言う職業について”から、

 “私とアキトさんの会話に付いて行けない”に変わりましたね…』

「ああ、少し迂闊だったな。テンカワラーメンの話をしたのは…」

『すみません。私もまさか、これほど過敏に反応されるとは思わなかったものですから…』

「いや、ルリが謝る事じゃないよ…それに、ユリカがここで篭るのは別に悪い事じゃない」

『はあ…』


俺はそう言いつつも、一度瞑想室(バーチャル・ルーム)に行っておく 事にした。

流石に罪悪感もある。まあ、目の前で放ったらかしにした格好だからな…


「オモイカネ、バーチャルルームは入室可能か?」

【はい、入室可能です】


前回もそうだったが、お篭りするのにロックをかけないのは何とも…ユリカらしいというか…

しかし、今回も瞑想をしているとは思えないが…?


「それで、ユリカは今何をしている?」 

【はい、艦長は何かを作っている様です…】

「…? いったい何をだ?」

【…料理でしょうか? 内部に調理道具一式が運び込まれています…】

「…(汗)」


やばい…やばすぎる…アレか、もしかしてテンカワラーメンに対抗して何か作ろうと…

しかし、ユリカの料理か…四年ぶりに死後の世界を見る事になるのは嫌だしな…(汗)

何というか…カグヤちゃんやメグミちゃん、リョーコちゃんの料理も恐ろしい物があるが、ユリカのはダントツだ。

出来れば食べずに済ませたい…


『アキトさん、バーチャルルーム内にもう一人いるようです』

「何?」

『これは…リトリアさんですね…』

「は? どういう事だ?」

『どうも、料理を教えているみたいです…』

「…」


ありがたい事だ。

だが、ユリカの料理がこれくらいで直るとは思えないが…

しかし、これも自業自得…おとなしく料理をいただくとするか…


  コンコン…


俺は部屋をノックする。

内部からリトリアがコミュニケで返事をしてきた…


『どうしました?』

「ユリカがそっちにいると思うんだけど…」

『はい。でも今は会いたくないそうです』

「…そうか。出直してくる…」

『そんなに気にしなくても良いですよ。一週間ほど待ってもらえば』

「一週間?」

『はい。多分それくらいです』

「???(汗)」


リトリアは俺に向かって笑顔でそう告げる…

ユリカに料理…一週間ぐらいでまともになるなら、同居時代の悪夢は無かっただろう。

ユリカは良い所と悪い所が両極端な奴だから…出来る事はとことん出来るし、出来ない事は徹底的に出来なかった…

その中でも最も分かりやすいのは、軍略と料理だ。

パーフェクトなまでに100と0…いや120とマイナスかな…

兎も角、そんなユリカだから、リトリアの言葉はどうしても本気で聞けない。


『信じていませんね? でもきっと分かります』

「はあ。兎に角、今日は任せるよ」

『はい♪』


最後の軽さが少し気になったが、リトリアにユリカを任せる事にした…

仕方なく部屋に戻る事にする。

しかし追いかけてくるルリのコミュニケウィンドウに気付いたので

少し足を止め、言葉を交わす…


「ルリ、ありがとう…しかしリトリアも、ユリカの指導なんてできるのか? 何か心配だな…」

『さあ? でも艦長の料理は筋金入りですから、覚悟しておいてくださいね…』

「やっぱり、ルリもそう思うか…」

『胃薬は準備しておきますので、がんばって下さい』

「ははは…まあ何とかなるさ」


そういって、コミュニケを閉じる。

ユリカの料理相手に、胃薬程度でどうにかなるか疑問だが…

今更どうしようもない。

そんな事を考えつつ、自分の部屋に急ぐ…

そう、俺にはまだやらなければいけないことがあった。

…間に合わないだろうけど…

だんだん足が速くなり、最後はダッシュで部屋に滑り込む…

そして部屋の中を見回し、一対の目がこちらを睨んでいるのに気付く。

やっぱり…


「アキト…遅い! 三時間遅刻だよ!」

「うっ…いや、ラピスあのな…」


ラピスは完全にむくれていた。

忘れていた訳じゃないんだが…アクシデントが…

尤も、そんな事をラピスに言っても聞いてもらえそうに無いが…

戸惑っている内にラピスは悲しそうな顔になり、瞳が潤み始める…

感情豊かに育ったものだ…そう少し感心するが、その後の言葉はある意味おなじみの言葉だった。


「私楽しみにしてたのに…アキトは私の事いらないの?」

「そんな事は無い! ラピスは大切な家族だよ…」

「…ちょっとつまんない回答だけど…まあ良いか…今回は貸し一つで許してあげる」

「…(汗)」


何だか少し計算されていた様な…(汗)

しかし、ラピスが喜んでくれているのは良い事だ…

…?

ちょっと待てよ…そう言えば貸しの取り決めの時、重大な見落としがあった様な…

あっ!


「ラピス…一つ聞きたいんだが、借りが五つ溜まった後・・・一緒に風呂に入るのは、一回だよな?」

「? ずっとだよ」

「ZUTTO!? あ、いや、ずっとだっ て!?」

「回数決めてなかったでしょ? つまりそれからは、ずーっと一緒にお風呂に入るの」


●×■○▽★!!


ヤ○サメ第二発射口起動! 波動砲ヤ○サメ発射!

○陽剣 断!

鳴り響け俺のメ○ス!!

ラヴ○ズ オーヴァー!!


はあ…はあ…

思考がアッチの世界に飛んでしまった。

ラピスもまだ羞恥心は発達していないのか…

まあ考えてみれば…幾ら知能指数が高く、見た目は十三歳でも…実年齢は八歳なのだ。

親としては温かく見守るべきなのかも知れんが…世間体以前にやばい事態になりそうだ…

もう絶対、ラピスに借りは作るまい。と、心に誓う俺だった……













今日はラピスさんがオペレーター席で待機だったので、私は部屋に戻る事にしました。

テンカワさん達と同室なのは地球にいた頃からでしたが…あまり気にならなかったのは不思議です。

それまでは、人と同室になるという事はあまり無かった筈なのですが…何故か懐かしい…

昔もたくさんの人達と一緒に暮らした事がある様な…

ラピスさんやアメジストさんとは直ぐに打ち解けました。

…素性が良く似ている気がした所為もありますが、同年齢くらいの友達を昔も作った事がある様な…

そんな“あいまいな気持ち”を起こさせる人達の事を、私…結構気に入っているみたいです。

兎に角、私は部屋で読書やゲーム等をしつつ、それなりに休日を楽しんでます。

テンカワさんも今日の仕事を終わらせたらしく、部屋に戻っています…

尤もテンカワさんは、暇な時には武道の鍛錬をやっているので、今も何か風を切る音がしています。

流派を調べてみたのですが、柔術と空手の中間という感じだ…というくらいしか分かりません。

ちょっと気になったので、直接聞いてみる事にしました。


「テンカワさん、今練習している武術って、なんて言う武術なんですか?」


テンカワさんは私の質問に対し、連続した型を続けるのを止めずに話します。


ババッ! シュ! バッ! ドヒュ!!


「これはっ… 柔術に… 空手を取り入れた… 我流の技… だ」

「そうなんですか…でも、基本の柔術も良く分かりません…

 テンカワさんの動きをデータに落として、動作パターンをシミュレートして見たのですが…

 日本に現存するもの、ヨーロッパに渡ったもの、柔術から柔道に変わったもの等、どの型とも違って見えます」


私が疑問を言い終わる頃、テンカワさんは丁度型の終わりに来ていたようで、動きを止めて私に向き直りました…


「まあ俺が学んだ柔術はマイナーな流派だから、検索に引っかからないのも当然じゃないかな…」

(どう見ても柔術なのに”木連式やわら”だからな…まあ<源流>もある様だが…)


「そうなんですか…」


マイナーな流派…そう言えば昔の漫画等に<一子相伝>とか言って、自分の子供だけに教える流派がありました。

テンカワさんの流派もそんな感じなのでしょうか?

もっとも、私が読むのはオモイカネが検索で探り当てた物ばかりなので、偏りがあるかも知れませんが…


「ふう…さて、今日の鍛錬はこのくらいにしとくか…」


いつの間にかテンカワさんは鍛錬を終了し、一息ついています…

ついでですから、前から聞きたかった事を聞いて見ましょう。


「テンカワさん、一つ聞いていいですか?」

「…? ああ、答えられる事なら…」

「<マシンチャイルド計画> …そう呼ばれている計画があります…

 私はホシノ夫妻に引き取られてから、その訓練や実験などを行いました。

 実の所、よほどの事がない限り電脳世界に常時リンクしていた私に“手に入らない情報”があるとは思えないんです。

 ミルヒシュトラーセさんにアメジストさん、ラピスさん、皆私と同じに見えます…

 でも、今年になるまで彼女達の事を知らなかった…彼女達は何者ですか?」

「ルリちゃん、君は勘違いしている…電脳世界と言えども、全ての情報がリアルタイムで流れてくる訳じゃない。

 例えば火星と地球の距離は、約五千五百万kmから約九千九百万km…

 電波を光速で飛ばしても3〜6分かかる…実際はいろんなとことを経由するから、更にかかるだろうね。

 その間にデータを改(ざん)するくらい、君クラスのIFS 強化体質の人間なら簡単だろう?」

「…じゃあ、彼女達は火星出身なんですか?」

「生まれは、定かじゃない子もいる…研究所生まれの子も…」

「すいません…」

「いや、俺達を不審に思う気持ちは良く分かる…よく俺に聞いてくれたと思っているよ。

 …あの子達の口からは、あまり言わせたくないからね…」

「…はい」


そうですね…私はオペレーターIFSを使っての実験・試験といった“比較的軽い物”でしたが、

中には、一生培養層の中でしか生きられない様な人もいると聞きます…

彼女達も、たまたま生き残った人達なんですね…それ以上の追求は意味の無い事です。


それから夕食を食べて、私はまたゲームをしていたのですが…荒々しいノックの音に、ふと顔を上げました。


『テンカワー! テンカワ! いるか!?』

「ああ、今開ける…」


気が付いた時には、既にテンカワさんが扉を開けに行っていました。

ウィン…というスライド音と共に扉が開きます…

表にいるのは、サツキミドリで補充されたパイロット達とヤマダさんですね…


「どうした?」

「いや、シミュレーションルームの方が空いたみたいなんでな…ちょっとお前達の実力を見てみたいと思って…」

「うんうん。リョーコ他に自慢できる事ないから♪」

「男同士なんて不潔よ! 違うんだ! 俺はゲイじゃない! ゲイじゃない…芸がな い…クククッ

「勝つのは、俺に決まってるがな!」

「だー!! うるせえ! 兎に角、来るのか来ないのか!?」

「…」


あまりの勢いに、テンカワさんも少し戸惑っているみたいでした。

まあ、テンカワさんが押しに弱いのはいつもの事という気もしますが…

少しすると、笑いをこらえながらテンカワさんはOKしたみたいです。

その輪の中で取り残されるのが少し嫌な気がしたので、私は口を開きました…


「あの、私も付いて行っていいですか?」

「…? 見てても、あんまり面白いもんじゃないと思うが?」

「な〜に、このガイ様がいればあまりの格好良さに退屈してる暇も無いさ!」

「お前は黙ってろ!」

「ぐはっ…」


リョーコさんのボディブローがヤマダさんに決まりました。

骨折、ようやく直ったばかりなのに…悶絶している様は、再入院が必要な気がしてきます…


「あ〜、ルリっつったけか…俺も思うんだが、あんまり面白いもんじゃねーぞ」

「はい、単なる暇つぶしですので…」

「まあ良いか…」


皆で連れ立ってバーチャルルームの方に向かいます…

バーチャルルームは用途によって、バーチャルルーム・シミュレーションルーム・瞑想室等…

内部構造を変形させて使う事が出来ます。

話を聞くと、昨日は艦長とリリウムさんが使用していたらしいのですが、

プロスさんに「そういう事は自室でやって下さい」と追い出されたらしいです。アホくさ…

ま、それは置いておくとして…

テンカワさん達がそれぞれの筺体に入っていきます。

筺体の上に大型ウィンドウが表示されていて、外からでも何をやっているのか分かる仕組みになっています…

テンカワさんがこういった事に強い事はここ数ヶ月でよく知っていますが、

他の人達と比較してみた訳ではありませんから、ちょっと興味あります。

言いだしっぺのリョーコさんが設定なんかを決めるみたいです…


『とりあえず、戦闘ステージはアステロイド・回避難度レベル5でいくぞ…選択武器は好きにしていい…』

『わかった』

『俺の活躍を見せてやるぜ!』

『回避難度高めだね…結構本気だ、リョーコ…』

『鈍器で本気…クク


大型ウィンドウに、アステロイドベルトに似せた宇宙空間が写ります…


【READY―――GO!】


なんだかんだで、オモイカネも喜んで協力しているみたい。

オモイカネも暇なのね…

そんな事を考えているうちにも、既にシミュレーションは開始されています…


『じゃあ早速行くぜ! ゲキガンフレアー!!


ヤマダさんが開始早々、リョーコさんに向かって突撃しました。

ヤマダさんのエステバリスはアステロイドの中をわりと上手く抜けて行きます…

ただのバカと思ってたけど、一応エステバリスのパイロットに選ばれただけはあるみたい。

でも失敗だったのは、やっぱり一人で突撃した事…

通過した隕石の一つからイズミさんのエステバリスが顔を出して、背後から狙撃する…


『なっ?』

『フフッ…油断大敵ね…』

            ズドーン!!

『あああ…!?』


勝利を確信していたイズミさんの機体がいきなり大破しました。

ヤマダさんを撃つ体勢を整えていたイズミさんを、頭上の方向からの狙撃が襲う…

そのたった一撃でイズミさんのエステバリスは戦闘不能…テンカワさん、凄い命中精度です。


『油断大敵だ…イズミさん』


そう呟くテンカワさんの声をバックに、イズミさんがシミュレーターの筺体から出てきます…


ククク…テンカワ君には敵わないわね…」

「お疲れ様です…」

「このカレーは駄目かね…乙カレー、お疲れ…クックックッ

「…(汗)」


この人はいつも駄洒落を言ってないと気がすまないんでしょうか…

…?

今、テンカワ君には敵わないって言ってましたよね…


「イズミさん、以前にテンカワさんに会った事があるんですか?」

「…ええ、去年の初め頃にね」

「そうなんですか…」

「テンカワ君、あの頃と比べると丸くなったわね…前は、近寄るだけで殺されそうな気がしたものだけど…」

「え?」

「まあ、あのバイザーの所為もあったんでしょうけどね…」

「テンカワさん…」


私はバイザーをしたテンカワさんを、一度しか見たことがありません。

あの時は気にもしていませんでしたが…確かに雰囲気が違っていた様な…

…会話をしているうちにもシミュレーションは続いています。

テンカワさんはヤマダさんを囮にして、死角から狙撃する…そんな感じの戦法を展開しているようです。

リョーコさん達はリョーコさんが前衛で、ヒカルさんがテンカワさんの狙撃を警戒する…と言う作戦のようです。

ですが、テンカワさんはいつの間にか彼女達の背後に回っている事が多く、まともな戦闘になっていません…


『ちっ、隠れるのが上手い奴だぜ…』

『これじゃ、あたし達いい的だよ…』


リョーコさんも、アステロイドを戦場に選んだ事を後悔し始めている様です。

まあ、ヤマダさんはテンカワさんの支援を受けて、楽しそうに突撃していますが…


『喰らえ、このガイ様のスーパーウルトラグレート必殺技! ガァイ! スーパ』

『台詞が長すぎだ!』

              ドゴッ!!


ヤマダさんはアッパーの途中でリョーコさんの体当たりを喰らって、吹っ飛んでいきました。

吹っ飛んだ先にはヒカルさんがいます…


『はいはーい! いらっしゃ〜い♪』

                        ダダダダ! ドカーン!!


吹っ飛んできたヤマダさんを待ち構えていたヒカルさんによって

ラピッドライフルで狙撃され、ヤマダさんのエステバリスは撃墜されました。

やられたヤマダさんが出てきます…


「くそ! 必殺技の台詞は最後まで言わせるのがお約束だろうが!」

「…バカ」


この人にはつける薬がなさそうです…

しかしテンカワさん、本当に隠れるのが上手いですね。

いまだに、隕石の影から時折出てくるテンカワさんが狙撃し、二人があわてて隠れるという形を繰り返しています…


『テンカワ! いいかげん出てきやがれ! コソコソしてんじゃねーぞ!』

『そうだよぉ、あたし達隕石避けるのも結構大変だから、早く終わらせようよ』

『ヒカル! おめえ…(怒)』

『だって〜本当の事じゃん。リョーコがレベル5なんて指定するから〜』

『うっ…(汗)』


二人が漫才を始めています。こんな所を狙撃されたらどうするつもりなんでしょう…

それとも、何かの罠なんでしょうか…


『わかった。決着をつけよう…』


テンカワさんのエステが隕石の影を出て、大型ウィンドウの中央に現れます…狙っているんでしょうか?


「くそー、目立ちやがって!」

「戦士が目立つのは戦死する時…クク」


外野も何だかうるさくなってきました…


『出てきやがったか! 行くぞテンカワ! 喰らいやがれ!』


リョーコさんのエステバリスが突撃をかけます…

隕石を縫うようにしながらテンカワさんに接近しつつ、ナックルガードの降りた右の拳で殴りつけに行くようです。

テンカワさんのエステバリスも、それに合わせてリョーコさんに接近していきます…

二機のエステバリスは正面衝突するかに見えたのですが、

テンカワさんが軽くリョーコさんエステバリスの拳を弾くと、

反動の所為かリョーコさんはそのまま別方向に吹っ飛んでいってしまいました…


『一体どうなってるんだ!? うあああ…!!』

『本命はこっちだよ!

                        ダダダ ダ! 


リョーコさんが吹っ飛んで行った後、丁度リョーコさんの背後を飛んできたヒカルさんが

ラピッドライフルを連射してテンカワさんのエステバリスに攻撃します。

ですが、テンカワさんが微妙に上下に揺れると…

弾丸はエステバリスまで届く前に失速して、ディストーションフィールドに弾かれました。

普通の方法ではありませんが、ライフルの弾を避けている…背筋が寒くなるような光景です…


「な…アレは何なんだ…」

「多分…弾丸を正面から受けずに、フィールドの厚くなる角度を選んで当てているみたいね…」

「そんな事出来んのか?」

「出来ないわ…よほどしっかりしたイメージと、ライフルの射線が読める反射神経が無いと…」

「アキトの奴には、それがあるってのか…」


周りが緊張している中、テンカワさんはイミディエット・ナイフを抜き放ち、ヒカルさんのエステバリスを胴から真っ二つにしました。

そして、舞い戻ってきたリョーコさんのエステバリスに正面からラピッドライフルを突きつけ…


『これで終わり、で良いかな?』

『あっ…ああ…』


そうして、残る三人も筺体から出てきました。

出てきたのは良いんですが、誰もしゃべろうとしません…

テンカワさんのあまりの実力に、他の人達は何を言っていいのか分からないみたいです。

しかし、気まずさに耐えられなくなったのか、リョーコさんが口火を切って話し始めました…


「その…テンカワ、お前あれだけの戦闘能力どうやって身に付けたんだ?」

「ああ。俺は試作エステからエステに乗っているからな…年季の違い、と言った所かな…」

「あのな! そりゃ試作エステには載った事がないけど…俺達も一年近いキャリアがある! 

 試作エステが出来てまだ三年程度しかたってないんだ…パイロットっても、アンタも大した違いがあるわけが無い!」

「そうだよ〜、実戦は数えるほどしかないけど〜♪」

「先日、実戦をこなしたばかりです。ククク

「俺は負けないけどな!」

「…実戦は数多くこなしているさ…多分、お前達の思っているよりもずっと…な」

「「「「…」」」」


その時…テンカワさんは一瞬切なそうな顔をした後、無表情になりました。

誰も、そのテンカワさんに声をかける事が出来ず、沈黙がシミュレーションルームに広がります…

テンカワさんもその事を察したのか、愛想笑いを浮かべると…


「すまない、俺は部屋に戻る事にする」

「…ああ」


呆けた様な空気の中、テンカワさんは気まずそうに部屋を後にしました…

私も、兎も角部屋に戻ってゲームでもしようと部屋から出て行きました。

テンカワさんの事も、ほんの少し気になりましたし…

私は、段々歩くのが早くなっていくのを感じていました…













「ア〜キ〜ト〜!」


ついに、この日が来てしまったか…

ああ…すまない、皆。俺の寿命も、今日までかも…

しかし、自らまいた種…今更食べないなんて許してくれないだろうしな(汗)

そう言えば…前回は火星近くで反乱が起きてたな。

何とか重ならんものかな…

はぁ…弱気になってるな、俺。この前のシミュレーションでやりすぎたのも、弱気のなせる業だろうしな…

俺のイメージとしては、前に食べたのは四年前なのだが…日が開いている分余計に怖い(汗)


「アキトー! 料理が完成したよ! これで私も料理の手伝いが出来るって、分からせて見せます!」


そう言って、ユリカは俺の部屋に“ワゴンに乗せた何か”を運び込んで来た。

覆いをされているので中に入っている物が何かは分からない…普通に不味いだけなら良いのだが…

一緒にギャラリーも入ってくる…みんなよっぽど暇なんだな…


「ユリカ…俺に料理を作ってくれるのはいいが、そのギャラリーは何だ?」

「へ? みんななんで付いてきてるの?」

「ユリカー!(泣)」

「こんな美味しいイベント、なかなか無いから〜」

「うーん、私も弟子の料理の出来は気になるしね…」

「兎に角、胃薬を用意してきました…」

「な〜んか面白そうじゃん♪」


ユリカに付いて来ているのは、ジュン、ヒカルちゃん、月の巫女リトリア、ルリ、ミナトさんの五人…珍しい組み合わせだ…

俺は先にルリから貰った胃薬を飲んでおく。


「あっ、酷い! 私の料理駄目だって決め付けてる!」

「すまん。初めて食べる料理だからな…」

「え〜? 幼稚園の頃、美味しいって食べてくれてたよ?」

「…(汗)」


そう言えば…カグヤちゃんと二人で“未知の生物”を食べさせてくれた事があった…

良く生きてるな…俺(汗)

ジュンが睨んでる…気持ちは分からんでも無いが…代わってくれるのなら俺が変わって欲しい。

だが、ユリカの手…絆創膏だらけだ…ユリカがここまでやってくれたのなら、俺は食べない訳にはいかない…


「じゃ〜ん! ユリカ特製! ビーフシチューだよ!」

「ん?」

「さすが艦長。何でも出来るんだね!」

「鍛えた甲斐があったみたいね!」

「美味しそう♪」

「ユリカさんが…(汗)」

「ユリカー!(泣)」


俺は驚いて、開いた口を塞ぐ事が出来なかった…

覆いを取った中から現れたのは、普通のビーフシチューだった。

ユリカが普通の料理を…ありえない…ユリカの料理の腕は俺が一番良く知っている…

俺が何度教えても、まともに出来なかった料理が…何故?


「どうしたのアキト、そんな口ポカンと開けちゃって…

 あ、そうか! 食べさせて欲しいんだね♪ もう、我侭なんだから♪

 はい、ア〜ン(はぁと)」

「んがウグ!?」

「ああっ、ユリカの手料理が…」


だ〜ッ!!

く、食わされてしまった…

しばらくじたばたしていたが、口に入ってしまった物を今更噴出すわけにもいかず、俺は仕方なく咀嚼した…

…ん?

普通だ…上手いとまでは言わないが…食べられる…?!

リトリア…まさか、たった一週間でユリカに食べられる料理を作らせるとは…

凄まじい…


「ねえ、美味しい?」 


俺が驚愕に目を見開いていると、ユリカが嬉しそうに問いかけてきた。

俺は茫然自失のていで応える…


「ああ…美味い…」

「やったー! アキトに美味いって褒められた!」

「ユリカ…(泣)」

「うんうん」

「…なぁんだ、つまんない。同人のネタに使えるかと思ったのに…」

「まあまあ。艦長の愛情料理を見れただけでも面白かったじゃない?」

「これは確かに、意外ですね…リトリアさん…何か秘密があるんでしょうか?」


まあ、俺としてはユリカがまともな料理を作れるようになった事は、素直に感謝したい。

それに、ユリカがこんなに努力してくれた事は嬉しい…


「ユリカ…良く頑張ったな…」

「うん、いっぱい練習したからね…」

「そうか…グッ!?」


何だ? 急に腹に刺すような痛みが…

待て…ユリカの料理は確かに食べられるレベルだった筈。

…だが、この腹の症状は…これは…あたった、か…?


「グ…」

「アキト…顔色真っ青だよ…一体どうしたの?」

「あたった様ね…」

「あたったか〜♪」

「あたりましたね…」


周りのみんなが楽しそうに俺を見ている…

ルリまで何か楽しそうだ。

しかし、見た目と味がまともとは…二重トラップみたいな料理だ。

既に限界が来ていた俺は、わき目も振らずトイレに駆け込むのだった…












この所暇な日が続いていた所為か、陽気に当てられて反乱が起こりました…


「我々は断固、ネルガルの悪辣さに抗議するー!!」


何か、下の方でもやってるみたいですけど…まあそんな事より…

ブリッジにパイロットと整備班がなだれ込んできたので、ブリッジ内も騒がしくなってきました。


「責任者出て来ーい!」


遅れて艦長たちもやって来ます…テンカワさん…何だかやつれて見えますけど、大丈夫でしょうか?

中に入ってきた艦長達に、ウリバタケさんが反乱の代表として話し始めます。


「このあいだ、ある子に交際を申し込んだら、お友達以上のことは契約上出来ません…と断られた!」

「はい? そんな事は…」


艦長は口元に指を当てて、不思議そうに聞き返します。

それに対し、ウリバタケさんは契約書と書かれている一枚のプリントを出すと、


「良く見ろ!」

「うわ細かい…」


プリントに書かれている文字は、一文字2ミリと言った所でしょうか…私の所からでは点にしか見えません。

プリントの横からリョーコさんが顔を出して話します…


「そこの一番小さい文字を読んでみな…」

「社員間の男女交際は禁止いたしませんが、風紀維持の為お互いの接触は手を繋ぐ以上の事は禁止…何これ?」

「読んでの通り…」

「なっ? 分かったろ。お手々繋いでって、ここはナデシコ保育園か!?

 いい若いもんがお手々繋いでで済むわきゃなかろうが!」


            ドカ!


ウリバタケさんがリョーコさん・ヒカルさんと手を繋ごうとして肘鉄を左右からもらい、たたらを踏んでいます。

こういうのも根性と言うのかどうかわかりませんが、直ぐにウリバタケさんは立ち直り、また声を上げます…


「俺はまだ若い!」

「若いか?」

「若いの!

 若い二人が見つめあい〜見詰め合ったら」

「唇が〜♪」

「若い二人の純情は〜純なるがゆえ不純」

「せめて抱きたい! 抱かれたい!」


ヒカルさんの合いの手を貰って楽しそうに踊っていたウリバタケさんでしたが、

オモイカネが急にスポットライトを移した事に気付いて動きを止めます…

そして、そのスポットライトの中心にはプロスさんが佇んでいます…端っこの方にゴートさんも佇んでいますが…


「そのエスカレートが困るんですな…」

「貴様〜!!」

「やがて二人が結婚すればお金かかりますよね…さらに子供が生まれたら大変です。ナデシコは保育園ではありませんので、ハイ」

「黙れ黙れ! 宇宙は広い! 恋愛も自由だ!

 それがお手々繋いでだとぉ? それじゃ女房の尻の下の方がマシだー!!」

「とは言え、サインした以上は…」

「うるせー! これが見えねーか!」

「この契約書も見てください」


銃と契約書を突きつけ合う…シュールな光景ですね…

元々プロスさんは只者ではなさそうでしたが…奇人の類でしょうか?


「そろそろ火星か…」


ドッゴーン!!


遠距離からの射撃のようです…しかし、今までのものとは威力が違う…


「ルリちゃん、フィールドは!?」

「効いています。この攻撃…今までと違う…迎撃が必要…」


敵の攻撃が段々激しくなってきました…

幸いパワーアップのお陰でそれ程ダメージは受けていませんが、振動がナデシコを大きく震わせています。


「皆さん! 契約書にご不満があるのは分かります! でも今は戦わなきゃ!

 生き残らないと恋愛も出来ません! それに、どうせなら私もキスしたーい!!」


艦長の指示(?)に従い、パイロット達は出撃していきます。

こうして、ナデシコの火星領域の戦いが始まりました…

それにしても…恋愛なんて、そんなに大切な物なんでしょうか?

…そんな面倒なものなら、大人になんてなりたくない…

今日はそんな事を感じました…












次回予告

火星へと到着したナデシコ…

アキトはルーミィはこの地で何が出来るのか?

火星の数少ない生き残りに光はあるのか?

そして、ナデシコの運命は…

カグヤの父親の事をつい最近まで忘れていた作者が送る…

次回 機動戦艦ナデシコ〜光と闇に祝福を〜

「さらりと出来る『運命の選択』」をみんなで見よう!











あとがき


今回は普通のあとがきをお休みして、ちょっと趣味の話を…

私、実は長い名前って好きなんですよ…

それを一息で言うのが好きというか…

例えば スーパー・ウルトラ・グレート・デリシャス・ワンダフル・ボンバーとか…

ギルティ・ギア・イグゼクス・シャープ・リロードとか…

神聖ラアルゴン帝国・第二十七銀河辺境方面軍・第六十六特派分遣艦隊所属・巡洋艦ドローメ艦長・ル・バラバ・ドムとか…

因みに、小説版タイラーは旧作の方が好きです。あの無茶苦茶に見えるところが何とも…

最近のタイラーは格好いいですが、パワーダウン気味な気がします…

まあ、付いてきている人がいるのかどうか分かりませんが面白そうな名前とかあったら、ちょっと教えてください。

では。

 


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