「クッ!?」


俺は咄嗟に少量の気を練って<浸空>を目の前で爆破、方向転換をかける。

もっとも、空中での移動はどうしても落下の方が早い。

射程圏外に出るよりも前に、アイギスの体が落ちてきた。

ほんの少し掠めただけだが、体中が擦り傷だらけになる。

その上、下に向けての加速がついて地面に叩きつけられた。


「グハ!?」

【人間の分際で魔王などと名乗っているからどの程度できるかと思ったが、その程度か…】


このままでは、俺は死ぬな…


牙王アイギス…か…


自分が敗北した事を実感として意識できない、だが、圧倒的過ぎるその力の前に俺は何もできない事を悟った。

それでも、時間は稼がねばと体を起こそうとするが、体はピクリとも動かない。

先ほどの衝撃で、ショック状態になっているらしい…

自分でそんな事を考えながらも俺の意識は段々と薄れていった…






Summon Night 3
the Milky Way




第五章 「一歩目の勇気」第八節


<妖精の森>の南に位置する<竜骨の断層>

ご大層な名前はついているが、浅い渓谷があり、その断面に化石が浮き出ていると言うだけの場所だ。

もっとも、この島の植物の繁殖力を考えればまともに草すら生えないこの場所はかなり異常な場所と言えるだろう。

だが、この渓谷は地形的に守りやすい形に出来ている、渓谷は短い周期で一周しており、その中央部には島がある。

段差のおかげで弓矢も届きにくいし周囲を見渡すのも容易になっている。

北に<妖精の森>を望んでいるので北からの接近こそ容易ではあるが、逆に言えば北を守っていれば、後は遠くからでも視認できる。

そんな場所に、ベルフラウは捕まっていた。

ベルフラウはこの場所につれてこられてから、怯えきっていた。

今まで暴力にさらされた事が無いわけじゃない、しかし、敵と分かっている人間達の中で孤立すると言う事は始めてだ。

それも、目の前にはいかにも人を傷つけるのが好きそうな人間がいる…

白人の系統だろうが、緑色に染めた髪、顔に刻んだ刺青、血走ったような三白眼、どれを取ってみてもまともな軍人とすら見えなかった。

こんなものが軍学校を卒業したものが行く帝国軍の実態なのだろうか、ベルフラウは怯え恐怖すると同時に失望も覚えていた。

だからだろうか、彼女は帝国軍の男が言う質問に答える気にならなかった。


「おい! 聞いてんだろうな?」

「…」

「今更ただで帰れると思ってんじゃねぇだろうな? しゃべらねぇとどうなるか分かってんだろうなぁッ!」


ベルフラウは目の前の男にあごをつかまれ持ち上げられた、痛みと恐怖に少し涙目になる…

しかし、それでも泣くでもなく、男を見返していた。


「いい加減にしやがれ! このクソガキがッ!!」

「ひ…っ」


男の怒りの声と同時に地面に投げ出される、ベルフラウは地面でバウンドすると這い蹲るような格好で地面に着地、何箇所かすり傷を作った。


「なにを聞いてもだんまりまかりで一言もしゃべらねぇ…痛い目を見ねぇとわかんねぇか? あァ…ッ!?」


地面でうずくまるベルフラウにさらにその男が接近する。

ベルフラウはすくみあがりそうなった。

その時、少しはなれたところにいた鎧姿の女性がその男を止めた。


「やめろビジュ、相手は子供だぞ?」

「副隊長殿はそうおっしゃいますがねぇ…

 イヒヒヒ…ッ

 しゃべらねぇ以上は体に聞くしか方法がないでしょうが?」

「いや、その必要は無い」

「隊長…」

「チッ!」

「お前が戦った相手、それがもし、あの者であるのならば。必ずこの子供を助けにやってくる。

 私の知っているあの者ならばな…」


ビジュと呼ばれたその男は悔しそうにしながらもその女性の言葉を聞き入れた。

実力差からか、それなりに敬意を払っているのか、どちらにしろ女性の軍人は特別な存在らしいと言う事はベルフラウにも分かった。

















私たちは<妖精の森>内を南下する方向に向かって歩いています。

もちろん、ベルフラウちゃんのことを考えると急ぎたいのは山々なんですが…

森の中では帝国兵が網を張っている可能性があります。

スバル君達に聞いたところによると、帝国兵に捕まっているらしいですし…

何とかしないといけません。

でも、人質に取られているなら、対処はかなり慎重にしないと…

そんな事を考えているうちに<竜骨の断層>の近くまで歩を進める事になりました。

そこでは、既にヤッファさんとキュウマさんが来ています。


「皆さんよく来てくださいました。我々だけで対処するかどうか話し合っていたところですが、現在あの人間の軍隊はそこに集結しています。

 地形的に見ても有利とは言い難い、よく調べて使っていますね」

「そうなんですか…」

「ちっ、この島についてまだ一月もたってネェくせに…こうなったら、正面からッ」

「落ち着いてくださいカイル、先ず情報を検討すべきです。突っ込んでいってベルフラウさんに危害が加えられたらどうするつもりですか?」

「あっ、いや…すまねぇ」

「ま〜ったく、アニキももう少し落ち着きゃいい船長なのに」

「そう言いなさんなって、カイルだってそこそこ頑張ってるんだから。一家としては温かく見守ってやんなさいな」

「だーわかった、先を教えてくれ!」


カイルさんが落ち着いた所を見計らって私たちにキュウマさんが状況を説明してくれます。

とはいっても、あまり嬉しい事じゃありませんが…


「はい、森の南にある<竜骨の断層>は天然の要塞といっても過言ではありません。

 突破するためには、正面から力押しか、おとりを使って気を引くか、どちらにしろ大き危険を伴います」

「ベルフラウちゃんはここにいるんですか?」

「先ほど私が確認してきたところ、ベルフラウさんは丁度渓谷の中腹部分に張り出した岩の上でいます。

 両腕は縛られていますが、両足の方は縛られていません。

 しかし、先日の襲撃犯のリーダーと思しき男が常に張り付いています」

「そうですか…それで、ベルフラウちゃんに怪我とかはありませんか?」

「今のところ目だった傷は見当たりませんが…」


私はふぅ、と一息つきます。

ベルフラウちゃんがひどい事をされていたらどうしようと思ったんですが、彼らもそこまではしないみたいで安心しました。

帝国軍そのものは規律を重んじる軍隊ですが、それでも一部隊が独立して動く場合、

いつも規律が守られるとは限りませんから。

そんな事を考えていると、背後から足音が聞こえてきます。


「あれ? あの姿は…ハサハちゃん?」


そう、私達から少しはなれたところでわき道に入っていったのはハサハちゃんのようでした。

どうしてあんな所に?

私は注意しようと足を戻しかけ、肩が捕まれている事に気付きました。

掴んでいるのはヤッファさんです。


「今、ハサハちゃんがあそこを横切ったんです。注意してあげないと…」

「ああ、そりゃ俺の仕事だ。それに俺はちっと用事を思い出したんでね。悪いが元気なお嬢ちゃんは先生達に任せる」

「えッ、ヤッファさん…?」

「あんた等は急がなきゃならねえ筈だろ?」

「あっ、はい。分りました! ハサハちゃんの事頼みます!」


ヤッファさんは私の返事を待たず駆け出していきました。

私たちとしては、できれば人はひとりでも多い方がいいんですけど…

でも、ヤッファさんの表情を見ればちょっと気になるというのは嘘でかなりの緊急事態だというのが察せられます。

私はヤッファさんが立ち去った後、べルフラウちゃんの救出の為に皆で話し合うことにしました。











(暗くくすぶる闇)



俺は…オ レ ハ……シ ン ダ ノ カ…



(いや、色など無いのだろうか…そこには…)



何も感じない、ナニモ…



(ただ漠然とした何か…心すら纏まりなく…)



オレハ…俺はナニモ…見る…事がデキナイ…



(それをなんと表現したらいいのかワカラナイ…ただ…)



名にも…ナニモ…聞こえない…



(不安…そうだろうか…憎しみ…?)



触れることも…フレルコトモデキナイ…



(悲しみにも見える…いったい…ナンナノダロウ…それは…)



体…カラダがあるの…かも…ワカラナイ…



(そう…軋むのだ…オレハ…お前は…)



ここが…ココガ…どこなのか…ソレスラ…オレ…俺には…判らない…



(そこに居て…そして…そこに居ない…)



何より…ナニヨリ…



(永劫にも一瞬にもなりうる…それ…)



俺は…オ レ ハ…イッタイ…いったい…だ…ダ…れ…レ…な…ナ…ん…ダ……















私はこう思ってた…

先生はきっと助けになんか来てくれない…

だって、私は役立たずで、いらない子ですもの…

目の前のこの男に私がいたぶられるのも、周りに人たちと仲良くできないのも全部私が自分で招いた事。

だから、私はもう必要ない…怖いけど…直接先生から言われるよりはまし。

だけど、目の前の暴力に屈するのは嫌、だって…また先生の足を引っ張ってしまう。

でも、目の前の男は私の前で下卑た笑いを上げている…見たくも無いですわ。

目をそらせばぶたれてしまいそうなので目をそらす事もできないのですけど。

そんな状況でしたから、がけ下赤と白の見慣れた色合いがふと見えたときには目を疑いました。


「…え?」

「ベルフラウちゃん!?」

「あいつだッ! 隊長!」

「その子を放しなさい!!」


私は先生を見て思わず涙が出そうになりました。

だって、本当に何故助けに来てくれたのか分らなかったから…

でも、本当に嬉しいっておもったから。

下卑た男の声を聞いて女性の軍人が前に出ました。

その表情には苛立ちが見えるように感じたのは私だけ?

でも、凛としたその姿を見る限り敵ながらどこか格好いいとすら思います。

女性の軍人は私より前に出ると下にいる先生に向けて苛立った声をかけました。


「やはり、貴様だったか…」

「向こう見ずなのは学生の頃からちっとも変わらんな、アティ?」

「アズリア!?」


先生は驚いたように声をあげ女性の軍人を見つめます。

先生も帝国軍にいたことがあるんですから知り合いがいて当然ですけど…

まさか、こんな再会になるなんて…思わなかったでしょう。

女性の軍人もそういった感じを顔に出しています。

苛立ちは味方だったものに剣を向けるからと言う事ですのね。

その苛立ちをもう隠そうとせず、女性の軍人は硬く話します。


「帝国軍海戦隊所属 第六部隊隊長 アズリア・レヴィノスこれが、今の私の肩書きだ」

「…」

「部下が世話になったそうだな?」

「それは…」

「わかっている、おおかた、こいつに非があったのだろうな」

「…っ」

「だが、元軍人である貴様が、海賊に加担していた事実までは見過ごせん!

 おとなしく投降しろ、悪いようにはしない」

「それはできません、アズリア…私は間違った事はしていないから…」


時々私は不思議でならなくなるんです。

先生はいったい何を確信しているのか。

確かに海賊に手を貸しているというのはいい事とは思えません。

だけど確かに彼らは悪い人たちだとも思えませんわ。

どちらがいいのか私には分かりません。

でも、先生には見えているんでしょうか、正義の所在が…


「そうか…ならば、私の手で捕らえるのみだ!!」

「…っ」

「おっとォ! こっちにゃあ、人質がいるってことを忘れんじゃねぇ!!」

「いやぁぁぁっ!!」

「ベルフラウちゃん!?」

「せっかく捕まえたんだ、こういう時こそりようしなくちゃねェ?」


ビジュとか呼ばれている下卑た刺青男が私の首に剣を突きつけました。

私は思わず悲鳴を上げて…

だって、あの男血走った目で私を見ながら笑うんですのよ!

それも、剣に舌なめずりしながら…

私は恐怖ですくみあがってしまいました。

アズリアとか呼ばれている女性軍人が何か言っているようですが、私は殆ど耳に入りません。


「子供を離せビジュ、これは命令だ!」

「ヒヒヒヒヒッ、残念ながら、それには従えませんねェ」

「貴様ァっ!!」

「手を出したならなァ、ガキを殺すぜェ!」

「ぐ…っ」

「俺は、そいつに借りがあるんだよ。この手でぶちのめさなくちゃ気がすまねェぜ!!」


ビジュは私に剣を突きつけたまま先生に向かって命令しました。

先生は私を見て辛そうに顔をしかめながら相手の言う事を聞こうとしています。

私はこんなことの為に独りになったのではないのに…

先生を困らせたかったわけじゃない。

ただ、一緒にいてほしかっただけ。

でも役立たずの私は一緒にいる事だって難しいんですもの…

一緒にいる事がかなわないなら構わないで欲しい…

たったそれだけの事、それだけなのに…

どうしてこんな事になるんですの!?


「さあ、武器を捨てろ!」

「わかりました…」

「やめて!? 私の事なんて気にしないで…っ」

「黙ってろッ!!」

「あぐっ!」


勇気を振り絞って言った言葉はおなかに突き入れられたつま先に遮られる。

私は痛みにあえいだ…

先生はそれを見かねたようにビジュに向かって怒鳴りつけているみたいで…

朦朧とした意識でも先生が何をしようとしているかは良く分かりました。


「やめなさい! 貴方が恨んでいるのは私だけでしょ!?」

「イヒヒヒ…ッ 言われなくてもそのつもりだッ!」

「んあぁぁっ!?」


ビジュは私を左手で私の首を抱え上げもう片方の手で投擲剣を投げつけました。

先生は逃げもせず剣が突き刺さるに任せています。

私は先生の行動が理解できませんでした、だって私、先生が命を賭けて守る価値なんて無い筈ですもの!


「どうして…っ!?」

「だって、私、貴女と約束…したよね? 絶対に…貴女の事は、守ってみせるって…」

「!?」

「んじゃ、その約束を律儀に守って…死ねえ えェェッ!!」

「せ…先生えええぇぇ〜ッ!!」



その時、私の心の中で何かがはじけました。

先生が死んじゃう、そう思うと自然と体が動いたんです。

私に出来ること、それはそんなに多くない。

私に出来るのは…


「ビビビッビーッ!!」

「ひぎゃァっ!?」

「召喚術だと!?」


オニビを召喚した私はビジュを怯ませてから、先生に駆け寄りました。

先生は私の所為で何本も投擲剣を体に受けて傷だらけ…

私の所為で…


「先生っ!? しっかりしてよ!? せんせ え…っ!!」

「ベルフラウちゃん…」

「バカ! バカよっ! 貴女って人は…どうして…」

「私なら、平気だよ…だから、ほら…もう…泣かないで…」


とても平気そうに見えない顔で先生は私の顔に触れた。

私は涙が止まらなくて…

本当はこんな事言いたくないのに、口を付いて出るのは憎まれ口ばかり。

私だって…怖かったんだから…

先生が居なくなったらどうしようって…

思ってたんだから…!

口に出してはいえない言葉を目で伝えていると、周りがまた騒がしくなる。

早く先生を逃がさないと…

そう思っていたけど、私達の前に刺青男が立ちふさがる。

さっきよりも更に怒りを濃くしたその顔は見ているだけですくみ上がってしまいそう。


「よくもッ!? よくも、よくもッ!! まとめ てェ、ぶち殺してッ!!」

「テメエがな!」

「ぐひゃァっ!?」

「これ以上の狼藉は絶対に許しません!!」

「みんな…」


その時周りの岩陰からみんなが飛び出したのを見ました。

私は何が起こったのか把握できなかったけど、カイル一家と忍者の人が助けに来てくれたのは分った。

私はその間に先生に肩を貸して少しでも離れようと進みだした。

でも、私たちはこの時、もう一つの戦いが別の場所で起こっていたことを知りませんでした…









なかがき

ははは…(汗)

遅れに遅れた上に今回はアキトの出番無し…

その上、5話がもう一回続くし(汗)

最近色々失敗続きで何だか悲しい…

皆様にはご迷惑おかけします。

今月は棄てプリの方は無理かなぁ…




WEB拍手ありがとう御座います♪

申し訳ないです。

こちらも今回は見落としが多かったためお返事はまた今度と言う事で…

すいませんです。

はぁ…本気で駄目人間だ…(泣)


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