アティはいいタイミングで割り込まれた気がしたがハサハの年齢を考えてまさかねと考えを改めた。



「そういえば今日の夕食は誰が担当しているんですか?」

「ああ、今日はオウキー二に来てもらっててな」

「それは楽しみだな」

「ええ、オウキーニさんってそんなに料理上手いんですか?」

「ああ、一級の料理人といっていいんじゃないか?」

「だな、俺らも毎日食ってもいいと思うぜ」

「へーそれは楽しみですね!」

「先生も見習ったら?」

「ちょ、別に私は料理できないわけじゃないですよ!」



色々な出来事が起こった日ではあったが、その日はまるで何事もなかったように過ぎて行った。

しかし、その時既に種が蒔かれていた事には誰も気付かなかった。







Summon Night 3
the Milky Way




第七章 「心に届く言葉」第四節



その日の青空学校を解散し、次の授業用の資料を纏めてそろそろ帰ろうかなと思っていた頃、ふと見ると見慣れた影が通りがかります。

パナシェくんとイスラさん、和やかに話しながら近づいてくるその姿をみていると、パナシェくんが私に気付いたみたいです。



「あ、先生」

「パナシェくん、イスラさんと一緒になにしてるの?」

「一緒に集落を回っているんだよ」

「落ちたぶんの体力を早く回復させたいと思いまして、こうして見物がてらあちこちを案内してもらってるんですよ」



イスラさんはパナシェくんの返答にかぶせるように言います。

特に何かあるというわけではないのですが、意図を一瞬感じたような……。

気のせいですよね、私はイスラさんが病み上がりだという事を思い出します。

規格外の人が近くにいるせいでついイスラさんももう元気なんじゃないかと思ってしまいますが、そんなわけないですよね。



「そっか……でも、くれぐれも危ない場所とかに行っちゃ駄目ですよ」

「もう、先生。ボクはスバルとは違うんだからね。行こ、イスラさん」

「じゃあ、失礼します」



パナシェくんとイスラさんを見送ってから私はふと思い出しました。

イスラさん夜も出歩いているんでしたっけ。



「クノンに頼まれていたけど、後でいいですよね」



イスラさんの和やかな表情のせいもあって、私は気にも留めませんでした。

青空学校を出て見るとアキトさんとハサハちゃんがお話をしながら待っていてくれます。

ハサハちゃん護衛獣なんだから当然ですけどアキトさんにべったりですね(汗)

私が近づいていくと二人は振り向いて私を待ちます。



「待っていてくれたんですね」

「一応な」

「おにいちゃん、おねえちゃんがつかれてるってしんぱいしてるの」

「そうなんですか? 大丈夫ですよ! 私いつも元気いっぱいですよ♪」

「……」



どうも、この二人はノリが悪いですね……。

派手なリアクションとか期待していたわけじゃないですが。

でも、アキトさんの目。心配してくれているのがわかります。

私は取り繕うのをやめて少し弱音をはきます。



「出きればみんなで笑いあいたいなって思っていますから……」

「それは帝国軍のことか?」

「ええ、私、争いそのものが嫌いなんです。

 ケンカとかなら仲直りできますけど、殺し合いになってしまうともう仲直りなんて出来ないじゃないですか」

「殆どの場合はな」

「でも、私はきっと分かり合えると思うんです。だって……だって言葉が通じるんですから」



でも……結局どうしたらいいのか分からないんですけどね。

アズリアは硬い目的意識を持った人ですし、覆すには言葉だけでは……。

いえ、きっとなにか方法があるはず。



「そうやって眉間に皺を寄せて考えていても答えは出ないだろう」

「ですよね、分かってるんですけど」

「あまり現実的ではない手段だが、一つだけ彼らを引かせる方法がある」

「戦わずにですか?」

「ああ」

「聞かせてください! できる事ならなんでもやってみたいんんです!」

「彼らは帝国軍という組織だ、だが将軍などといった高位の軍人はいない」

「ええ、上級軍人でないと将軍までいけませんし、アズリアはまだそこまで到達していません」

「そこが逆に問題だ、彼らに統帥権がない以上目的が達成されるまで自分たちで引き上げる事を選択できない」

「はい、よほどのことが無い限り……」

「つまりは、交渉を行うべき人間はここにはいない、軍本部までいって釈明するしかないという事になる」

「それは……そうですね、でも私達の話を聞いてくれるかどうか」

「それ以前に行く方法も無いがな。多分可能性としては一番高いだろう」



アキトさんは更なる問題を吹っかけてきました。

確かにその方法のほうが成功率は高いかもしれませんが、アキトさん自身の言うとおりそこに行く方法もないです。

でもアズリアなら……もしかしたら、と思わずに入られません。

あれだけ人間の事を警戒していた、島のみんなとだって仲良くなれたんです。

話をするきっかけさえあれば、きっと帝国軍ともわかりあえすはず。

でも……。

問題は、それをどうやって作るかですね……。



その日、アキトさん達に先に帰ってもらうように言い、私は近くの森に座り込んでいます。

日はまだ沈んでいませんし、少しゆっくりと考え事をしたかったというのが本音です。

アキトさんに言われた事、確かにその可能性は考えてはいます。

でも……。

アズリアたちが目的を達成できずに帰った場合、前の嵐の時の失態と合わせて降格、もしかしたら軍を辞めさせられる可能性も……。

アズリアの性格でそれを許すとは到底思えないですし……。



「ふぁ……」



ヤードさんやアキトさんの言った通り、疲れがたまってきているのかもしれないなぁ……。

考えてみれば最近睡眠不足が続いている気はします。

眠くなったら寝ておくのが一番でしょうか?



「ちょっとだけ、ここで休みましょうか……」



昔……。


昔の夢を見ました……。


考え事のせいか、それは軍学校での出来事ばかり、アズリアと話していたことばかりです。


そして、最後、私が軍を辞めた日の事……あの時言われた言葉……。


矛盾しているのは貴様のほうだろう?


話し合いで全てが解決するのなら、軍隊など必要ないではないか。


世の中の全ての人間が、そんな理想を本気で信じられるはずがない。


そんな甘い考えをもっているようではな、いつか戦場で……。



「……殺されるぞ?」

「ッ!?」

「隙だらけだな、相も変わらず」

「アズ、リア……?」



目を覚ますとそこには剣を構え私の喉元に突きつけたアズリアの姿が……。

几帳面に刈り込んだ黒髪、女性としては立派な体躯、突きつけられる気迫。

確かに本物のアズリアです。

でも……ここは帝国軍の潜伏場所からはかなり離れているはずなのに……。

遠くに見える細い煙を背に、アズリアは私を見下ろしています。



「貴様を見つけたのが私であった事を幸いだと思え。

 これがビジュならば寝込みを襲うぐらい平気でしでかすぞ」



アズリアは剣を鞘へと納め私に言います。

私は寝起きのせいもあってか、考えが上手くまとまりません。

ただ疑問に思ったことを問いかけます。



「どうして貴方がここに……」

「戦場を把握するのは指揮官として当然の事だろう。そのための下見だ」

「そう、ですか……戦うつもりなんですね」

「お前も軍にいた以上は分かっているはずだ。

 帝国軍人に任務の失敗は許されない。結果のみが問われる実力主義の世界だ。

 だからこそ、私はこのまま帰還するわけないはいかない。

 貴様から剣を奪回する事で護送の失敗を埋め合わせねば……。

 積み上げてきた全てが失われるのだからな」

「…………」



アズリアのいう事はわかります。

彼女とは長い付き合いです。彼女がなぜそうまでして頑張るのかも知っています。

でも……。



「不本意そうだな?」

「当たり前です! 私は戦いたくなんてないんだから……」

「周りの者が、自分のせいで傷つくことが怖いのか?」

「ええ……」

「ならば、今ここで、私と貴様だけで決着を付けようではないか」

「!?」

「海賊や島の者達を巻き込みたくないならここで、私と戦え!」



シャキンと言う音と共にアズリアが再び剣を抜き放ちます。

私はその姿を見て悲しくなりました、なぜこうなってしまうんでしょう。

そもそも、私達は敵対しなくちゃいけないほどのものがあるんでしょうか?



「できません……」

「なぜだ!?」

「私が戦いたくないのは、大切な人たちが傷つく事だけが理由じゃないから。

 戦う相手を傷つける事だって、本当はしたくないの!!」

「奇麗事をぬかすなッ!」


ギンッ!


とっさに剣を引き抜きながらアズリアの胴薙ぎを防ぎましたが、この攻撃は剣を抜かせるためのものだったみたいです。

そのまま追撃の攻撃を放ちつつ、アズリアは私に本気を出させようとしているのか所々溜めを作って待っている。



「くっ……!」

「生きる事は戦いだ、誰かを打ち負かして勝ったものだけが、望みを叶えられるのだ!

 それを否定するのならば、貴様に生きていく資格などありはしない。

 私がこの手で幕を引いてやる!!」

「……っ」


キンッ!


アズリアの剣を弾く金属音、アズリアは手がしびれたのか剣を取り落としそうになるけど、どうにか左手に持ち替えて再度構えを取る。

私はいつの間にか仲間が近くまで来ている事を知った。



「!?」

「先生から離れなさい! でないと、今度は本気で当てるから!」

「ソノラ……? それに、みんな……」



海賊船のみんなが来てくれたみたいです。

またピンチ救われちゃいましたね。

でも、その中にはアキトさんがいない……。

アキトさんから場所を聞いてというわけではないのでしょうか?



「あんたの様子が変だって、そいつがうるさくてよ……。

 やけに帰りも遅いんで、心配になって探しにやってきたのさ」

「この様子じゃ、大正解だったみたいね」



ふう、みんなにはかないませんね。

この状況では言い返す言葉もありません。

アズリアもこの状況では遭遇戦の愚を悟ったんでしょう渋い顔をしています。

それでも、気勢で負けてなるものかと、私達に悪態をついてきます。



「海賊どもが……つくづく邪魔ばかりしてくれるものだ」

「いきがってんじゃないわよ!!

 たった一人であたしら全員をあいてにするつもり!?」

「今の銃声を聞き逃すほど、私の部下は愚かではないぞ」

「!?」

「それまでの間なら私の力だけでも十分に貴様らを抑えられる」

「それはどうかな」



えっ……?

あっ、アキトさんにハサハちゃん……。



「お前の軍隊なら先ほど少し誘導しておいた、しばらくは戻って来れないだろう」

「な!?」

「痕跡情報を残しておけば当然そちらに引き寄せられるからな」



痕跡……あっ!

起き抜けに見たあの細い煙……アキトさんが起こしていたんですか。

じゃあ当然軍はそれを探しに動いているはず、警戒のために一部くらいは残っているでしょうが……それでも随分戦力に差が出るでしょう。



「へっ、いつもながら先回りが上手いなアキトさんよ?」

「帰りに軍隊が動いているのを見かけてな、アティが襲われないよいうにしたつもりだが上手く行かなかったようだ」

「あははは、ありがとうございます」



普通は知らせに来てくれるものですが、なんというかスケールの大きい……。



「さて、またまた形勢逆転だな帝国軍さんよ?」

「くっ!? ならば刺し違えてでも……」

「やめて、アズリア! 私達は引き上げるから、今ここで戦うのはやめて!」

「な!?」

「落ち着いてください、カイルさん。数が減ったとはいえ遭遇戦は我々に有利に働いてはくれません」

「周りの森から不意打ちされたらオシマイってことよ」

「ちっ!」

「……よかろう。

 単なる行きがかりで決着をつけるのは興ざめだからな。

 今は見逃してやろう、改めて決着をつけるときまでな……」



アズリアはそういうと警戒しながらも落ち着いて去っていきました。

私達は安心して少し気が抜ける思いをしつつ、それでも何か違和感を持っているのが伝わります。

やはりアズリアの事、みなさんはあまりいいと思っていないのでしょうね。

それでも私は……。















とりあえず、助けに来てくれたお礼を言ってから、海賊船に帰ります。

でも、なんだかみんな表情が怖いです。

やっぱり、さっきの事を気にしているんでしょうね。

でも……一体どうすればよかったというんでしょう?

そんな事、話す事なんて出来ないですけど。


海賊船に戻ると皆食堂に集まりました。

ホールも兼ねているので当然ですが、

雰囲気から察するものはありますが私はつとめて明るく話をします。



「びっくりしました、まさか、あんな形で彼女と出会うなんて」

「びっくりしました、で、すむような問題じゃないってば!」

「そうよ、一歩間違っていたらどうなっていたことか」



ソノラやスカーレルが激しくつっこみます。

私は冷や汗をかきながらも状況説明を始めることにしました。



「補給や援軍が望めない状況で、遭遇戦で兵を損耗させるのは得策じゃない。

 彼女は頭がいいんです。だからそれくらい計算済みですよ……」

「へぇ? 随分と肩を持つじゃないの」

「信頼っていうよりも確信っていう感じですね。

 彼女は私と違って勉強も素行も完璧な優等生でしたから。

 正直、敵に回したら相当厄介な相手だと思いますよ」



そうです、実際問題彼女は実直で優秀な士官。

こういった特殊な場合までは想定していないにしろ、練兵は一流のはず。

正面から戦う事になれば、全ての郷を巻き込んだ戦争になってしまう可能性も否定できません。



「しかし先生よ。だからといって、引くわけにはいかねぇぜ。

 俺達はヤードと約束しているんだ。二本の剣を取り返してみせるってな」

「剣の力の凄まじさは、実際に使っている貴方が、一番わかっているはずでしょう」

「軍事目的に使用されることは、絶対に避けるべきなのです」



彼女との戦いと剣……当然この件には私もそしてアキトさんにもかかわるものです。

しかし、剣を調べるにしても、アキトさんの事についてもここでできる事は多くありません。

もちろん、帝国を信用できる組織として考える事は難しいですが。

だからこそ、別の解決法を模索したいと思うのは間違いでしょうか?

でも、具体的な案があるわけでもありません。

言いかけて言いよどむ、その繰り返し……。



「それは、でも……」

「センセの気持ちはよぉくわかるけどね。剣を渡す事は無理よ、だとしたら……。

 向こうとの戦いも避けられないワケよ」

「……」



スカーレルが我慢できかねると言う様に言葉をつむぎます。

確かに、一度敵対してしまった人間と仲直りなんて簡単にはいきませんし、ましてや目的がぶつかるとなれば……。

でも、アズリアと私達の目的は決定的に違うものなのでしょうか?

そんな事を言っても今は無理ですよね……。

考え込んでいたのが表情に出ていたのでしょうか、ソノラが声を上げてくれます。



「ちょっと、みんな! これじゃあまるで先生が悪いみたいじゃないのよ!?」

「いや、別に俺らはそういうつもりで言ったわけじゃ……」

「前から言おうと思ってたけどさ、そもそもあの剣ってなんなのよ!?

 ヤードだって知ってる事の全部を話したわけじゃないんでしょう!?」

「それは……」

「いいの、ソノラ。私は別に気にしたりしないから……」



私はつい、場を納めようと微笑むような表情で割って入りました。

いつもなら収まっていたのかもしれません、

でもその時のソノラは激昂していてその中途半端な仲裁そのものが腹立たしかったのかもしれません。



「また、そうやって笑って誤魔化して!」

「!?」

「得体の知れないものが自分の中にあるんだよ! どうなっちゃうかもわかんないんだ よ!?

 ふあんじゃあ……ッ、ないはず、ないじゃないのよぉ……ッ!」

「ソノラ……」

「……」

「アキトさん」



ソノラが激昂したのにあわせてアキトさんが私の近くに来ます。

多分、彼女が余り激しすぎるようなら止めるつもりなんでしょう。

アキトさんの事、そう、私は自分の事は大した事じゃないからつい忘れてしまっていたという点があります。

アキトさんのように如実にいろんな作用や副作用があれば気がついていたかも。

でも、私自身に及ぼしている事は力を貸す以外の何者でもありません。

どうすればいいのでしょう、私のために悲しんでくれる少女のために……。

ああ、アキトさんはいつもこういう風に思っていたんですね。



「……」

「悪かったわ、ソノラ。でも、貴方が泣くことなんてないの……ほら、部屋に戻って落ち着きましょう」

「うっ……うう……っ」



スカーレルがソノラを連れて退出していきます。

ソノラが底まで心配してくれていた事、嬉しい反面驚いてもいますが、私も家族として認めてくれていたという事なんでしょうね。

ただ、そう……私は……。



「とりあえず今夜はお開きだ、この件については、また明日話しをしよう」



カイルがそう宣言してみんな解散していきました。

私自身もう疲れていたのでできれば早く部屋に戻りたいと思っていました。

でも……部屋でも眠れなかった私は結局甲板の上に出て風に吹かれて見ることに……。



「ごまかし、か……」



結構痛いことを言ってくれますね、前にアズリアに言われた事と同じ……。

私は皆に協調して欲しいあまり、公の場では逸脱しすぎる事柄をあえて避ける傾向にあります。

私自身が問題の場合はどうにでもできると思うんです。

でも、他人同士の諍いに割って入っても事情の根本が分かるわけではありません。

だから、どうしても中途パンパな事になって……。

昔の失敗を思い出しては失意に沈みかけていた私に、声がかかりました。



「よう」

「アキトさん……どうしたんです?」

「なに、今日は色々あったからな、こういう日は酒もいいんじゃないかと思って出てきたらお前がいたわけだ」

「うそつき」



アキトさんの両手にはワインボトルにグラスが二つ、こういった場にあまりふさわしくない気もしましたが、

エールでは酔えない気がしたので、確かに悪くないのかもしれません。

アキトさんは片手で器用に栓を抜くと、グラスにワインを注いで私に手渡します。

そして、自分の分も注いでから、手すりにボトルを置くと軽くワインを掲げます。



「あまりお酒を飲んでる所を見ないからアキトさんお酒は飲めないんだと思ってました」

「そう、だな……昔は下戸だった。酒が必要になったのは荒れていた時期でね、今はあまり飲んでいない」

「そうなんですか、私も普段から飲む人間ではないですけど、村では周囲の人間がみんな大人でしたから自然と覚えました」



そうして、暫くは静かな時間が流れます。

ワインのグラスが空になった頃、アキトさんは察したのかグラスにワインを注いでくれます。

私も口が軽くなっていたんでしょう、その時過去の思い出が口を突いて出ていました。



「アズリアともよく飲みました」

「ほう、堅物そうに見えるがな」

「ええ、彼女を誘ったのは私です♪ 彼女も下戸気味なのですぐ潰れて運んで帰った事も一度や二度じゃないですよ」

「この世界では酒はいくつからという事になっているんだ?」

「帝国法では確か……20歳……18かな? あまりきっちり覚えてないです」

「まあいいがな」

「ふふ、そんな事、今心配しても仕方ないですよ」

「それもそうだ、いかし、どういう関係なんだ?」

「アズリア・レヴィノス。私、彼女とは軍学校で同期だっんですよ……」

「確かにかなり親しかったようだからな、そういう事もあるか」

「ええ、多分、軍学校でも一番の友人だったと思います」

「そうか……ところで、あそこから覗いている子猫はどうする?」

「うーん、そうですねー。丁度いいや、来なさいベルフラウ!」

「うっ……」



出入り口の扉を押し開きベルフラウが現れます。

予想はしていましたが、この子も色々気になっているという事なんでしょうね……。

私はグラスに口をつけてから、また切り出します。



「ベルフラウ、聞いていたんですよね。では答えてください」

「はい、確かに覗き見なんてはしたない事をしたんですもの、何でもお答えしますわ」

「ふふ、じゃあお願いします。 ……レヴィノス家の名前は知っていますか?」

「当たり前でしょう、紳士録に名を連ねる上級軍人ばかりを輩出した名門……ってまさか!?」

「ええ、そうです。レヴィノス家は帝国一の軍人の名門。

 そして、アズリアはゆくゆくはその家の跡継ぎになるはずの女性なの……」

「女性の跡継ぎ……か、この世界では女性が跡継ぎになるのは普通なのか?」



私はその瞬間少しうつむきました、表情を読まれないようにしようと思ったんですけど、

アキトさんは正確にその穴を突いてきます。

しぶしぶ私は話をつなげました。



「いえ、そうじゃないです。

 これは、ウワサで聞いたことですけど。彼女には弟がいて、その弟さんがとても体が弱いそうなの。

 療養生活を続けていて、軍人どころか跡継ぎになれるかどうかすら難しいそうなんです。

 そんな弟の代わりに家を支えていくために、彼女は軍人になる事を決めたんですって」

「それって……」

「ええ、彼女は本気で上級軍人を目指しています。帝国の歴史上前例のない、女性の上級軍人に……」

「見習いたいですわね、その心意気は……」

「前例がないか、それで……ああも焦っているんだな」

「そう“誰もが認める優秀な軍人になる、そうならなくては何の意味もない”

 アズリアは、いつもそう言っていました。口だけじゃなく努力も怠らなかった」

「そんな人物と貴方が親しかった事が不思議ですわ」



まあ、私もそう思っているのでなんともですが、ベルフラウの突っ込みも容赦ないですね……。



「最初の試験で同点を取ったのがきっかけで、なぜか、競争相手にされちゃったんです。

 次は負けないぞって、勝負を挑まれるうちに、自然に親しくなっていったの……。

 正面切手色々と言われもしましたねぇ」

「例えば?」

「お前は甘すぎる! とか、笑って誤魔化すな! とか……。

 口を開くたび叱られてばかりでした」

「だがそれは、お前が親しくしたかったと言うより、付きまとわれていたという方が近いんじゃないのか?」

「え!?」

「どういう意味ですの?」

「軍学校で最初に同点と言ったが、アズリアというのは一回きりでそこまで親しくするタイプに見えなかった。

 大方何度も同点あるいはアティが勝ち続けたんだろう、だから余計に執着された、違うか?」

「……そうなんですの?」

「ええ、まあ……そんな事もあったかもしれません……」



いや、そのアズリアとはいつも同じくらいの点数だったんですけど、総合するとほんの数点違っていたみたいで……。

まあ、過去の事です。



「……」

「貴女は彼女の事どう思っていたんですの?」

「嫌いでは……なかったと思いますね、うん……アズリアの真剣さは本当に尊敬できたし。

 一度ゆっくりといろいろな事を話してみたかった……結局その機会は来ませんでしたけど」

「……」

「彼女は海戦隊に、私は陸戦隊に配属されて。ほら? そこで私はいきなり失敗して軍をやめちゃったから」

「それっきり?」

「ううん……本部に辞表出したその帰りに、いきなりばったり会っちゃって、

 これでもかっていうくらい思いっきり叱られちゃいましたよ」

「……でしょうね」

「“勝ち逃げなんて絶対に認めない!”そうやってまくし立てる彼女から私はただ逃げるしか出来ませんでした。彼女と向き合う事が辛くて……」

「それはいつもの平和主義に真っ向からぶつかる事だったからという事か?」



そう、そうれが彼女と私との最大の違いかもしれないです。

彼女は実力主義者で私は平和主義者、彼女にとって私はライバルであると同時に目の上のたんこぶみたいなものだったでしょう。

そして、私は……。



「……もう、夜も遅いです。部屋に戻って休みましょう?」

「うん……」

「……片付けは俺がやっておく、先に帰っていてくれ」

「はい」

「わかりましたわ」



アキトさんは気を使ってグラスとボトルを食堂に戻してから帰るようです。

私も手伝おうかと思いましたが、今日は疲れが溜まっていますし、何もかも吐き出した今ならぐっすり寝られそうな気がします。




でも……悩みが消えたわけでもないですが……。







あとがき


兎に角、一心不乱に書いてみております。

そういいつつも、色々浮気心が起るわけですが(汗)

せめて7章くらいは終わる所までいけそうな感じです。

その辺りでストックが尽きてしまうので、また不安定に戻ってしまうかも(汗)

今回はアティの不安その1かな?

アキトも微妙に暗躍中w



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