「ないなら、働いて作ってください。それまで勝手に出て行くなんて許しません!」

「しかし、殺し屋が…」

                                                       くく
「そんな言い訳通用しません! どうせこのままだと私、客が入らなくて首を括るしか無いんですから!」


両手を腰にあて、三人を睨み据えながらウイニアは思いのほか高圧的に言い放つ。

シャノンたちは、反論も出来ずに畏まってしまう。

ただ、おこっている筈のウイニアはどこか楽しそうにも見えたが…


「いや、その…えーっと」

「それまでは、宿泊費を実費だけに負けといてあげますから、ちゃんと修繕費を働いて返す事! いいですね?」

「あ、でも…」

「い・い・で・す・ね・?」

「はい」


三人はそろってうなだれた。


その後、ウイニアの命令で三人はアキトを手伝って壁の穴を見えない程度まで修復する作業を開始した。


こうして、シャノン、ラクウェル、パシフィカの三人はもう少しだけタウルスの街での滞在期間を延長する事となる。


だがこの時三人もアキトもこれから先、お互いの付き合いが長いものになるとは考えていなかった…





スクラップド・プリンセス
トロイメライ



              シャンソン
旅人と異人の『世俗歌曲』

第三章:ヒーローと魔獣と



<大熊亭>の玄関、どうにか見た目はそれなりに修復した物の、いまだにひびや補修跡の目立つ場である。

あの後、急ピッチで4人による補修を行ったものの、素人に出来る補修などたかが知れている、

見た目に継ぎはぎの補修と言うのは宿屋のような客商売では致命的だ、つまり、<大熊亭>は現在も非常に危うい状態であった。

当然きちんと修理するまでただ働きでこき使われつつ、バイトなどでこつこつ修繕費を貯めているというのが、現在のカスール一家とアキトの現状だ。

もっとも、現状に悩んでいるのはシャノン一人、残る三人、特にラクウェルとパシフィカは全く悩んでいなかったが…


アキトは基本的にバイト先の給料を大部分修繕費に当てている、もっとも、一か月分の給与など生活費を抜けば大した額では無いが…

それでも、一応一番の出資者ではある。

ラクウェルは基本的に色々なバイト先で重宝された、美しい娘なので、ウエイトレスなどをさせれば大抵客寄せになる。

もっとも、不必要に軍用魔法を使いたがる悪癖の所為で長続きしないのが玉に瑕だ。

シャノンはどちらかと言えば宿の手伝いが中心だったが、時間があるときは路上で包丁磨きや金物の打ち直し等をやっている。

だが、パシフィカは『私って扶養家族だも〜ん』等とのたまい街をぶらぶら歩いている。

それがまたシャノンの頭痛の種なのだが…


そんな事を知ってか知らずか今日も今日とてパシフィカは宿から出かけるべく階段を下りて玄関へとやって来た。

しかし、そこでは既にシャノンが出かける支度をしていた。


「シャノン兄、出かけるの?」

「ああ、今日の食事の買い付けにな」

「それはいつもウイニアがやってたんじゃないの?」

「まあ、そうなんだがついでの用事があってな。引き受ける事にした」

「へえ。年中引き篭もりのシャノン兄にしては積極的だね、さてはウイニアに…駄目だからね! 全くこ〜んなに可愛い妹がいるってのに」

「アホ。だ〜れが可愛いって? お前みたいな怪奇猫娘」

「私のどこが猫娘なのよ! しかも怪奇って、これだから精神老境男は!」

「アホらし」

「コラ! 待ちなさいってシャノン兄!」


そういいつつ、最初はシャノンを追いかけていたパシフィカだったが、途中で目的を思い出しシャノンとは別行動をとる事になった。

そう、パシフィカは今日人と会う約束があったのだった…











街の中央大通りを二人の女性、ラクウェルとウイニアが歩く。

ウイニアは隣を歩くラクウェルを心配そうに覗き込む、よく見ればラクウェルは少し頬が赤い。

いつものような微笑を湛えて潤んだ瞳と相まってまるで恋をしているような表情である。

しかし、実際は熱があるのでそういう風に見えるだけだった。

もっとも、それ程大した熱ではないのだが…元々彼女はそういうことを口にするようなタイプではない。

熱があることが分ったのも、ラクウェルを資材調達につき合わせてから判明した事だ。

まあ、ラクウェルの恋したような表情のお陰で修理資材を安く買い叩き、修繕そのものも業者にさせることに成功するという大成功を収めた物の、

ウイニアはラクウェルの状態が気になって仕方ない。

いつもぽーっとして見えるラクウェルが更にぽーっとして見えるというのはかなり不味いんじゃと彼女はお思っていた。


「ラクウェルさん、本当に良かったんですか?」

「ええっと、何のことかしら?」

「ラクウェルさんあまり体調よくないんでしょう?」

「う〜ん、そうね…少し熱っぽい気もするけど。体調は問題ないわ」

「それは、問題ないって言わないと思います」

「でも、もう仕事は済ませたんだし、後は帰るだけでしょう?」

「まあ、そうなんですが…」


そういいつつも中央大通りを進んでいく二人。

そんな二人だが、路上で騒がしい声がする事に気付いた。

よく見れば、そこだけ人垣が出来ている、不思議な光景だ…

巡礼の時期はまだ先のため、普通はタウルスにこのような騒がしさはあまりおこらない筈なのだが…


「あれ、何でしょう?」

「さあ、でも面白そう」

「え?」

「行って見ない?」


何かの勘が働いたのか、急に動きのよくなったラクウェルにウイニアはびっくりしつつも、

騒ぎ自体は気になるので、ラクウェルについていくことにするのだった。












俺は目の前にあるものを見て、呆然としていた…

いつもの様にボランド商店にやってきたのはいいのだが、

今日は新商品のお披露目をやりたいと店主のボランドが言ってきていた事を忘れていたのが問題だった。

今までも新商品の開発に当たり販促活動をしてきていたが、表にでてやるような事はなかった。

それに、ミシェルは基本的に自分で引き込み活動を行っていたので、まさか自分がやる事になるとは思っていなかったのだ…

油断もあったのかもしれない…しかし、売れ行き次第では給与の増額といわれて気がつかなかったのは失敗だった。

つまりは、俺が表に出て宣伝しろと言う事なのだろう…

それ自体は仕方が無いと思う、だが、差し出された物を見たとき。俺は怖気づいてしまった(汗)

今まで色んなことをしてきた気がするが、それでも、最大のピンチかもしれない…

俺は思わず、ミシェルに聞いた。


「なあ、本当にこんな格好するのか?」

「うん、グッド! アキトさん格好いい!」

「いや、あのな…」


俺にそれを押し当てて確認するミシェル、

しかし、俺に言わせればこういうのは似合うに会わないは無いと思うのだが…

出切れば遠慮したいと思うんだがな(汗)


俺は料理を作る事や食べる事はなれてきている。

もちろん、全身の感覚が直っていたのには驚いたが、違和感は殆ど無かった。

それは、俺の精神の問題だろう。

あの事件が無ければ、俺はこの世界で生きる気力も無く朽ち果てていたに違いない。

それでも、今を精一杯生きるつもりであったとしても、この服装は無いだろうという一品だ(汗)


「大丈夫だって、これなら販促活動に適してるよ、今回の戦略商品三色クリームパンの宣伝にはね?」

「…はぁ、三色クリームパンとこの服装に何の関係があるんだ…」

「なぁ〜んにも♪」

「おい!」


完全に俺をおもちゃにしている…確かに最近前ほど威厳が無い気がするが…

それでも、ミシェルは17歳…恥ずかしいにも程がある(汗)


「うわ、アキトさん怒った? でも、ビジュアルも大事だよ。実際、アキトさん女性受けいいし♪」

「お前、絶対遊んでるだろ? 大体この服装で俺である意味は無いだろう!?」

「わかるぅ?」

「…(怒)」

「ゴメンゴメン、ちょっと言い過ぎたって、きちんと特別手当払うからね? 今お金必要なんでしょ?」

「うっ」


結局その一言に尽きるのだ、今の俺の現状は…

正直巻き込まれた気もしないでは無いが、自分から首をつっこんだ事…それくらいは許容範囲だろう。

だが、これを着た時のダメージはでかそうだ(汗)

俺は、沈む気持ちを抱えながら仕方なく控え室に入って着替えを行う事にした…











ウイニアたちは、人ごみの中へと入って行く事にした、不思議と家族連れの目立つその集団の中心は、なにやらおかしなことが起こっているのがはっきりと分 る。

ウイニアはその中心で起こっている事を見たとき、呆然として完全に固まってしまった…


「キュー!」

「キュー!」

「キュー!」

「キュー!」


四体(?)ほどの黒い前身タイツと覆面の男達(?)が簡易的に設置された舞台の上を駆け回っていた。

間抜けというか卑猥にも見える格好だ…舞台の上でなければ領主の抱える地方軍が動いていても不思議ではないくらいにおかしな格好だ。

どうやら簡易劇らしいという事は分ったのだが、それでもウイニアの思考はなかなか動き出してくれなかった。

そんな折、聞き覚えなある声が舞台袖から聞こえ、ようやくウイニアは正気づいた…


「ククククク…ハーハッハッハッハ!」


全身タイツの四人舞台の隅でがかしずいたと同時に笑い声が聞こえ始める…

そしてその声に驚いて皆の視線が集まった頃、舞台袖から黒い全身鎧で身を固めた男が足音を鳴らしつつ舞台中央にやってくる。

黒い全身鎧にマントというまさに悪の騎士のステレオタイプだ…しかし、ウイニアが驚いたのはその事ではなかった。


「らっ……ラクウェルさん…あれ…もしかして……」

「そうねーシャノンみたい」

「何故でしょう!?」

「多分日当が良かったんじゃないかしら〜」

「はぁ…」


普段からめんどくさそうな顔をしているが二枚目のシャノンがそんな事をしているのを見ると、ウイニアにはちょっと切ない…

しかも、その理由が<大熊亭>の修繕の為だとするなら…

そうして、自責の念に駆られているウイニアにラクウェルが相変わらずのほほんとした表情でいう。


「気にしなくていいのよ、あれでシャノン結構楽しんでるみたいだから」

「え…? そうなんですか?」


そう言われてシャノンの方を見てみると、特に迷うでなく劇を続けている風に見える。

表情はかぶとの中に隠れていてよく分からないが、いやいややっているという風でもないようだ。

劇は、黒騎士が子供達を怖がらせ終わり、いよいよヒーローを呼ぶらしい…

下で語りをやっているのは明らかにミシェルだ。ウイニアはこれを仕掛けたのが誰かよく分ってしまった。


「ミシェルさん…いくらなんでも、パンと関係なさすぎ…」

「面白い人みたいね、その人」

「はい、いつもお祭りに飢えているような人です。販促活動と称して色々やってますが…今回の程派手なのは初めてです」


ラクウェルとそんな風に話していると、丁度ヒーローの出番らしい…

唐突に、舞台後ろの暗幕の上に誰かが現れた。


「仇なす悪のあるところ! 光り輝く正義あり! 三色パンマン見参! トゥ!」


その姿を見て、声を聞き、そしてウイニアは再び固まった…

何というか、赤い全身タイツに皮鎧をつけ、額にパンを取り付けた仮面をかぶっているように見える。

適当に配置された三色パンがまるで三本の角の様に仮面の上に伸びていた…

恐らく、仮面に貼り付けているのだろう、パンは動いても揺れずに仮面にへばりついている。

両手に長手袋。両足に皮製ブーツ。取り合わせはあまりよくは無さそうだが、同色で纏めている為、不思議な統一感がある。

一目でわかる変態。しかし、独特の格好良さを感じさせる事は事実かも知れない…

いわゆる昆虫の格好良さだが(汗)

その男は、舞台の上に跳び降りるとポーズを決めた、やたらとビシッと決まっている。

体が鋭角になるほど引き絞られたポーズである為普通に格好良いと思えるポーズだった。

それが、仮面○イダーの変身ポーズだと知っているのは本人のみだろう…

しかも、飛び降りる際には三回転半捻りでビシッと着地してみせるサービスつきだ。


「あ…あれは…アキト…さん?」

「格好いいわね〜」

「へ!?」


ウイニアはラクウェルを見て、正気を疑う、確かにアキト自身は格好良い部類に入る、優しい微笑みなどをされればくらっと来る女性は多いだろう。

しかし、現在の姿は成人女性が好む姿とはかけ離れすぎている…そう考えてはっと気付いた。


「ラクウェルさんもしかして、熱が上がっているんじゃ…」

「そんな事はないわよ〜」

「そんな事あります! 今すぐ帰りましょう!」

「そういわないで、見ていきましょう。ね?」


ラクウェルは潤んだ眼でウイニアを見る…決して焦点を結んでいない訳ではなかった。ただ、目つきは危なかった…

ウイニアは逆らってはまずいと本能的に気付き、首を縦に振る。

そんな事をしている間にも、三色パンマンは敵のザコを倒し、黒騎士との一騎打ちの場面になった。

今までガヤガヤと騒がしかった子供達も、緊張感を悟ったのか押し黙る。


「クククまさか、そこまでやるとはな三色パンマン! だが、暗黒スパス帝国皇帝のこ の私に勝てるかな?」

「皇帝、貴様の悪事もこれまでだ! 行くぞ!」


二人が舞台中央で派手に殺陣を行う、これには子供達の両親も感動の面持ちだ、

実質二人とも一流の腕を持っている事は間違いないので、激しい殺陣が繰り広げられた。

黒騎士が剣を派手に振り回し、三色パンマンが避ける。

そして、大振りの隙をついて懐にもぐりこもうとする三色パンマンを膝や肘といった部位で防衛する黒騎士

暫く一進一退の攻防が続く、どちらも見せる事を考えた技が多く一見派手だが実用性の薄い技を良く繰り出していた。

さっきまでは呆然と見ていたウイニアも、これには息を呑む。

子供達は、三色パンマンに声援を送り始めていた。


「三色パンマンがんばれ!」

「三色パンマン負けるなー!」

「三色パンマン格好良い!」

「あ…あの…ラクウェルさん?」


ラクウェルも一緒になって声援を送り始めているようだ、ウイニアはこの状況に今だ持ってついていけない、というか展開が速すぎるのだ…

舞台上でも、回りでも三色パンマンというキャラが既に認知されつつある。

ウイニアにとっては、不思議空間そのものだ…


「さ〜ん色キーック!!」

「ぐはぁ!!」


三色パンマンの必殺技(ただのとび蹴り)に敗れた黒騎士が舞台袖へと退場して行った後、舞台中央で決めポーズを取る三色パンマン。

流石にそこまでやられると、それなりに決まっているように見えてくるから不思議だ。

振り付けは彼女達の様式に無いものだったが、それでも、ビシッと決まると格好良く映る。

もとが、変態仮面でも、動きと言う部分では完璧であった。


「君達も三色パンを食べて強くなろう!

 では、さらばだ! 諸君! トォウ!!」



一通りポーズを決め終えた三色パンマンはまた背面宙返り二回捻りの大技を決めつつ舞台袖へと消えていった。

ウイニアは相変わらずついていけなかったが、ラクウェルはそこそこ満足している様子だ。

はぁ、とため息をつくウイニアに、ラクウェルは語りかける。


「アキトさんは舞台袖に履けたみたいだし、一度会いに行って見ません?」

「えっ、ああ…でもいいんでしょうか?」

「アキトさん格好良かったですし。ちょっとくらい見せてもらってもいいんじゃないでしょうか?」

「いや…あの…」


ウイニアには、アキトがヤケクソで演技をしていたのがありありと分る、途中でアドリブを入れていたように見えるが、

それでも今頃自己嫌悪で潰れそうになっているだろう事は容易に想像がつく。

そこに会いに行ったらどうなるか…ウイニアは心の中でアキトにご愁傷様と呟くにとどめた…


集まっていた人たちも、近くで路上売りをしているミシェルから三色パンを買うものもいたが、舞台の前から少しずつ数を減らし始めていた。

しかし、そんな緩みかけた状態の舞台に飛び上がってくる影があった。


「ちょっと待った〜!!」


ヌイグルミのお化けが喋っている、一瞬ウイニアはそう思ってしまったものの、さっきのインパクトのお陰か直ぐに冷静さを取り戻す。

そして、良く見てみると喋っているのはヌイグルミの背後にいる男である事がわかる。

ウイニアはそのヌイグルミを詳しく見てみることにした。

生き物を模しているのだろうがずんぐりむっくりでとても似せられているとは言いがたい。

緑色の三頭身の体。

まともに機能するのか怪しいほどの短い手足。

髪の毛なのか、頭に縫い付けられているボサボサな毛。

あるのかどうだか判然としない角と尻尾。

線と形容するしかないほっそりした眼

対してウイニアの出した結論は。


「緑のイノシシでしょうか…?」

「ドラゴンだ!」


先ほどの男が怒り顔で言う。

低めの背に太り気味の体、少し後退を始めている頭髪…

まあ、良く見かける中年親父である。

エプロンに書かれたクーナン商店の文字を見なくてもウイニアには彼が誰だか分っていたが…


「あははは…変わったドラゴンですね…」


ウイニアは少し引きつり気味にその話題を終わらせようとする、変なのはさっきの三色パンマンで十分だった。

しかし、先ほどの三色パンマンとは違い、見ていて可愛いと思えるのも確かではある。

ただ…ドラゴンとしてみるなら全然似ていなかった…


伝説の魔獣。創世記戦争において神と戦ったといわれる最強の生物。

一般人にとってはその程度の印象しかない、姿形については知らない人が殆どだ。

マウゼル教の教会には創世記戦争を描いた壁画があるが、抽象的で姿が判然としない。

一般の画家達も創作意欲を書きたてる在在ではあるのだが、いかんせん元々伝わっている情報が少ない為、

画家によって姿が全然違うという有様だ。

実質、ドラゴンの姿を知るものなどいないのだ…だが、

抽象的であるからこそ神とも敵対したその伝説がいつまでも伝わり続けているのかも知れない。


「すげぇ解釈の飛躍だな」


いつの間にか、着替え終わったのかシャノンがウイニアの近くまで来ていた。

ついさっきまでの黒騎士だとは誰も思わないだろう。

しかし、ウイニアに気付かれているのが恥ずかしいのか、本人はまだ少し顔をしかめている。


「ふふん、可愛いだろう?」


そういって、指さす先の着ぐるみは、短い手を上げた、それだけの仕草なのだが妙にコミカルだ。

全体の頭身率とずんぐりむっくりの体系が影響しているのだろう…

平和そうな目も影響しているのだろうが。


そんな様子に、周囲の人々が反応していた。

帰り始めていた人たちが、また集まってくる。

それを見ていたクーナンはにやりと勝利の笑みを浮かべる。


騒ぎを聞きつけたのか、舞台上にミシェルもあがっている。

舞台袖から出ようとしない三色パンマンを無理やり引っ張って…(汗)

三色パンマンはさっさと着替えようとしていたのだろう、所々服(?)が乱れている。


人の集まりが良くなってきた所を見計らって、クーナンが大仰なアクションと共に説明を始める。


「うちはな、今度このスーピィ君を中心に商売を展開していくつもりだ、スーピィ君クリーム、チョココルネ、デニッシュなどあらゆる分野での飛躍を目指して いる。

 何れはこのスーピィ君商品で王都にまで進出していくつもりだ!」


手持ちの袋から、やけに精緻な造詣のパンを取り出しつつ、クーナンは実現不可能そうな野望を語る。

田舎町のパン屋が、移動手段も大してない時代に王都進出などはばかげた話なのだが…

それでも、勢い野望を語るクーナンの目には炎があった。


「そ…そんなものは邪道よ!」


びしっと指を突きつけながらミシェルが言い放つ。

だが、本当は動揺しているのだろう、指先が微妙に安定していない。


「パン屋なら…誇りあるパン屋なら、味で勝負しなさい! 味で!」

「…人の事をとやかくいえた義理じゃないとおもうのだが?」

「クッ…」


クーナンが三色パンマンを指して言う、

本人もそう思っているのか、部隊袖で小さくなる三色パンマン…

ミシェルも実は不利を悟っているのか、言葉につまっている。


シャノンは疲れたように、舞台上の話を聞いているのだが、

ウイニアは何か波乱の予感がして、ラクウェルを振り返る…


しかし、ウイニアの視線の先に映るラクウェルはクーナンやミシェルより更にいっちゃっていた…(汗)

いつもより数段潤んだ瞳と、染めた頬が周りにいる人たちに何か独特の雰囲気で受け止められている。

妖艶というには、あまりにも無邪気なその表情に、周囲の人間はノックアウト気味だ…

そんな表情のままラクウェルは呟く。


「可愛い…」

「ふっふっふ、早速一人犠牲者がでたようだな! これで販促活動は勝ったも同然だ!」


ラクウェルは熱で浮かされたように、販促品…スーピィ君へと引き寄せられる…

うっとりとした表情が周りの人々を魅了していた。


「ちょっと、待った!」


そんなラクウェルをミシェルが呼び止める、もっとも、ラクウェルが聞こえていたかどうかは怪しい物だが…

しかし、その後で起こったことにはラクウェルもはっとしてそちらを向く、

そう、あの正義の味方が三回転半捻りとともに登場してビシッっとポーズを決めたのだ!


「カッコいい…」


ラクウェルは今度は三色パンマンのほうにふらふらと向かう。

どうにも、彼女に理性は殆ど残ってないらしかった…

その後も、可愛かったり、格好良かったりするポーズをお互いに繰り出しえんえんと争う。

というか、クーナンとミシェルの命令に仕方なく三色パンマンとスーピィ君が従っているという感じだが…

外野は異様なまでに盛り上がり、ラクウェルは舞台中央で三色パンマンとスーピィ君の間を行ったりきたりするという事を繰り返していた。


「22番! 三色パンマン、連続バク宙やります!」

「「「「うおー! カッコいいぜ三色パンマン!」」」」

「「もー好きにして〜!?」



「23番! スーピィ君手足をばたつかせていやいやをします!」

「「「「スーピィ君可愛い!!」」」」

「「小憎らしいぜちくしょう!」」


周囲の人々の声援も訳がわからなくなってきている、しかも、ミシェルとクーナンもヒートアップしており、命令は段々過激になっていく。


「ええと…」


最初と趣旨が違ってきているのが明白なそれを見て、思わずウイニアが呟く。


「何なんですか…一体…」

「…うーむぅ」


隣に居るシャノンも何と言っていいのかわからないという困った表情を浮かべるが、直ぐにもとの気だるげな表情に戻る。


「単に収拾がつかなくなっただけだろ」

「はぁ…」


確かに的を得ているが、解決には全く繋がらない言葉に、ウイニアも脱力する。


「24番! 三色パンマン、岩を砕きます!」

「25番! スーピィ君、でんぐり返りをして、小首を傾げます!」


二組の発言者と実行者は不可能に近い題材を何とかこなしていくが、それも限界に近づいている…

そして、中央のラクウェルは焦点が怪しくなってきていた。


「26番! 三色パンマン、空中で決めポーズをとって着地します!」

「むぅ、目立つ方向性で来たか…ならば、スーピィ君逆立ちをします!」


二体の販促品は良く戦った…普通なら既に限界がきていてもおかしくない、まあスーピィ君と三色パンマンでは運動量が明らかに違うが…

しかし、命令を下す方も息があがってきていた、ついでに言うなら中央のラクウェルも…

お互い、6ラウンド18分戦ったボクサーの様に汗をかきながら、クーナンとミシェルは最後の命令を出す。


「くぅ…やるわね…ならば、こちらも最終手段…28番! 三色パンマン空を飛びま す!」

「おい! そんなのできるわけ無いだろう!」

「何言っているのよ! 気合と根性があれば何でもできるんだから!」

「おまえな…」


異様な盛り上がりの所為でおかしくなったのか、ミシェルは三色パンマンに無茶苦茶な要求を持ち出しわめき始める。


「なるほどな…そうきたか…ならばこちらも禁じ手! 29番スーピィ君! 油飲んで 火を噴きます!

「にょえええ?」


これにはスーピィ君の中にいる人間も驚いたか声を上げて抗議する。


「無理よ! いくらなんでも!」

「ええい黙れ! 貴様、試しもしないで最初から無理と決め付けるとは! それでも男 か!?」

「私は女よ!」


目を血走らせたクーナンとスーピィ君が、ミシェルたちと同じ様にぎゃあぎゃあやり始めてしまった…

もう舞台上では何が起こっているのか分からないような状況になりつつあった。


「シャノンさん…あの着ぐるみ…」

「言うな…」

「中身は…パ…」

「言うな頼むから…」


自分がやっていたのだから、あまり説得力は無いが、

それでも舞台上でぎゃあぎゃあやっているのが関係者ばかりというのは悲しすぎる気がしてきたシャノンだった。


しかし、相した状態の中一番問題のある人物がふらふらとまだ行ったりきたりを繰り返していた…


「うふふふ…あっちもいいしこっちもいいし…どっちにしようかしら…?」


そういいながら、潤んだ目をふと外へと向けて、

そこにシャノンたちがいることに初めて気付いたかのように、近寄っていこうとした…

しかし、舞台の上と下にはそれなりに高い段差がある…

その事に気付かず、そのまま歩いていこうとしたラクウェルは、突然の地面の消失に身体をぐらりと傾けていった。


「あっ…」


普段なら絶対起こらなかったろう…

しかし、もともと熱を出しており、そして更に現在前後不覚に近い状態だった為、彼女はそのまま地面へと倒れていくしかなかった…

咄嗟に呪文を起動しようとするが、それさえも間に合わず地面と激突すると思えたその時!


身を硬くした彼女を力強く身体を引き戻す存在があった。

瞬間ラクウェルは何が起こっているのか分からなかった、しかし、段々と事情が飲み込めてくる。

結論から言えば、彼女を支えているのは三色パンマンだった。

先ほどの言い争いの後ヤケクソ気味にジャンプで長距離を飛ぼうとして舞台中央付近に着地、その時倒れそうになっていたラクウェルを咄嗟に支えたらしい。


「大丈夫か?」

「えっ…あっはい…」


目の前の三色パンマンに彼女は潤んだ瞳で見つめ返す。

ポーッとなっているように見える赤い頬がまるでラブシーンのような雰囲気を周囲に伝える。

しかし、その片方は仮面にパンを引っ付けたものをすっぽり被っている状態だ、あんまり良いシーンにも見えないが…


「あ…あの…」

「ん…何だ?」

「うれしいです…」

「なにがだ…」

「三色パンマンさんとお話できて嬉しいです…スーピィ君ともお話したいなぁ…」


告白シーンかと思って期待していた人々は、今の言葉で一気に脱力し、舞台周辺に集っていた百人以上の人たちは一気に散っていった…

白けた場には、ただクーナンとミシェル、そして<大熊亭>の面々がいるばかりであった。















結論から言うと、それなりに販促効果はあったらしい、

ただ、クーナン商店の出してきたスーピィ君に関しては、

マスコットにするにもからめる商品がパンだけと言う状況ではいま一つ販促品としての押しにかけていた…

最初の売れ行きは良かったものの、一月後には普通に戻ってしまったらしい。

結局、このパンは、一人の女性の心に刻み込まれるのみとなった…

そして、この先彼女によってその名は有名となる(一部の人々に)……








なかがき


二巻の話は好きなシーンが多いので、まだ二本やる予定です。

やっぱり、クリス君の出番もいりますしね。

それは兎も角、今回はキャラコワシまくってしまった(汗)

アキトとラクウェルとシャノンのファンの方はお許しください…

お笑いの為には仕方なかったんですよう(泣)

そのわりには面白くないって…すみません、才能不足です。

今回後半の一部を除いてほぼオリジナルの話になってしまったからなぁ…(汗)


それは兎も角、今月と来月は作品の出るスピードが極端に落ちると思います。

まず、7月7日までに二枚の絵をあげて、50万HITの準備と記念SSの執筆(?)がありますので…

余裕があったら、ナデシコ祭りの二本目もやらにゃあなるまいしね…(汗)

なにより、7月はスパロボだ…やる事多すぎ(泣)



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


WEB拍手ありがとう御座います♪

申し訳ありません、前回のWEB拍手の方きちんとコメントや拍手回数を残しておりませんでした。

非常に歯抜けな状態になっております。

細心の注意を払いたいと思うのですが、暫く面倒な事になっておりましたので、平にご容赦ください。

コメントを頂きました分のうち残っている分のみで申し訳ないですがお返事です。

6月6日1時 今回も楽しく読ませていただきました!
ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いします。

6月6日3時 レーザー?確か原作(アニメ)では、戦艦の武装はビーム砲だったような…。
ははは…申し訳ないです。手直ししておきましたのでお許しを。
 
6月6日14時 やはり原作通り宿の修理のために滞在ですね。次回はクリストファの登場でしょうか、楽しみです。
む〜んそれは次回ですね〜、今回はスーピィ君初登場編…のはずだったんですが…三色パンマンのほうが目立ってるかも?(爆)

6月7日1時 シャノンと某獣姫をくっつけて欲しいっす
くっつけるかどうかは分りませんが、それなりに良いシーンをれられると良いですね。頑張らせていただきます。

6月7日1時 難しい作品なのでほんとに頑張ってください、一挫折者より
はっはっは、私も挫折はしまくってますよ、お互い頑張りましょう!

6月8日1時 「アキトがアーフィを見てルリやラピスを思い出し、アーフィに微笑みかける」みたいなイベントが見たいです
むぅ、考えておきます。シーン的には難しくないけど…まだまだ先かな?

6月13日12時 続きを期待してますw がんばってください。
頑張らせていただいていたのですが、結構時間がかかってしまいました、申し訳ない(汗)

6月20日21時 続きを早く読ませてくだされ〜〜
どうにか完成。次回はどうなりますことやら…兎に角頑張ります!

6月22日2時 ゼフィリスがアキトとシャノンのどっちをDナイトに選ぶのかがたのしみです。
それは…ゼフィリスはファンが多いので難しいかも…まあ、実は裏技っぽいものも用意しています。お楽しみに♪

それでは、他のお返事は、作品が出たときにお返事させて頂きますね。




感 想はこちらの方に。

掲示板で下さるのも大歓迎です ♪



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