本質を知ると言う事は幸福なのだろうか?


それは、知りたいと思った時とは違う可能性を含んでいる。


なぜなら、本質は同じでも、人間には側面からしか知ることが出来ないからだ。


少年にとっては過去に起こった事実こそ全て。


父親を救った一人の騎士。


それは、少年の目に誰よりも気高く、誇り高い存在として写った。


少年は騎士を目指す。


自らを救った騎士と同じになるために。


それは、少年から見た事実。


少年はひたむきに歩み続ける、自らの見たものを求めて。


正義、それは結果の中にしか存在しないのかも知れない。


正義も悪もあらゆる物の中に潜んでいる物であり、


同じ行動すら一方にとっては正義でも一方にとっては悪であることも多い。


しかし、少年がその事に気付くにはまだ早かった。




スクラップド・プリンセス
トロイメライ



             ロンド
半熟騎士の『回旋曲』

第一章:白馬に乗った騎士志願


獲物は皆殺し、それが彼らのやり方だった。

非道なのは強盗なら当たり前という事ではなく、やり方の問題だった。

皆殺しにする事によって目撃者を残さない、目的にかなったものであった。

それゆえ、女子供にも容赦はしない、

普通の山賊なら色々と用途があるものだが、彼らにとっては同じだった。

もちろん、殺す前にはそれなりの事はしているが……


「へへぇ……」


頭目らしき男が呟きを漏らす。

若いが見事に禿げ上がった巨漢である。

彼等は遠巻きにその獲物を囲い、状況把握に努めている。

その視線の先には馬車が一台停められていた。

ついでに言えば男が一人馬車から離れたことも確認していた。


「……なかなか上玉じゃねぇか」


獣道のような細い道にやっとの状態で停められている馬車。

その馬車の上には2人の女の姿があった。

一人は年の頃14・5の小柄な少女、癖のある金髪をきっちりと結い上げている。

愛らしい顔立ちだが、弱々しさは無く、闊達そうな表情をしている。

もう一人は年の頃20歳前後の娘、長身痩躯で滑らかな黒髪を背中へと流している。

かなりの美人ではあったが、どこかのんびりとした表情の所為で、童女のような雰囲気を持っていた。


「こりゃ、久方ぶりの当たりだな。色々楽しませて貰うとしようぜ」


禿頭の男が下卑た笑いをしながら言うと、同意なのか部下らしき連中も同じ様な笑いをあげる。

彼らは半場無意識でやっている事ではあるが、こうやって怯えさせることで、

獲物に正常な判断をさせないようにしているのである。

だが……


「なんだ、強盗か」


恐怖をまるで感じていない、いやむしろリラックスした声で反応する少女。

金色の髪の少女、パシフィカ・カスールは、その瞳で馬車を取り囲む男達ぐるりと見回し、黒髪の女性に話しかける。


「強盗で良かったねえ、ラクウェル姉」

「そうね」


黒髪の女性、ラクウェル・カスールは少女に微笑みながら頷いた。


「何だ? 強盗で良かった? 馬鹿か、お前ら」


恐れる様子の無い女二人を前にして、禿頭の男は声に苛立ちを滲ませつつ声を荒げる。

しかし、ラクウェルは一瞬小首をかしげると、小さく声を漏らす。


「あの……見逃してもらえません……? それが互いに一番面倒が無いと思うのですけど……」

「やっぱり、馬鹿か!」

「駄目でしょうか?」

「駄目に決まってんだろうが!」

「はぁ、それは困りましたねー」


ラクウェルは本当に困っているとは思えないおっとりとした表情をしたまま答える。

強盗達もそれには一瞬毒気を抜かれてしまった……

間の抜けた空気が支配する中、自然な動作でラクウェルは馬車の客室に向けて話しかける。


「シャノン起きてる?」

「寝てるよ」


客室の幌を上げて、黒髪を首の後ろで縛った、だるそうな表情の青年が顔を出した。

青年はラクウェルとよく似た容貌をしている……

男女の違いはあるが、それも当然だろう……彼はラクウェルの双子の弟でシャノンと言う。

シャノンは視線を回し、後ろ手に髪を縛りなおしてから、だるそうに答える。


「こんな連中、お前一人で十分だろうが」

「それもそうなんだけど……いいの?」

「え?」

「だって、一昨日も私が山賊さんの相手をしたら怒ったじゃない……」

「たかが四・五人の山賊相手に攻城戦級の魔法をぶっ放せば当然だろうが!」

「丁度実験中の魔法だったから試して見ようかな〜って」

「それで、土砂崩れを引き起こして死に掛けたのを忘れたのか?」


本来王立魔導院でも軍でも公開を禁止している魔法、それも攻城戦級ともなれば流出する事は殆ど無い。

ごくまれに、田舎に引っ込んだ高名な魔道士が気まぐれに教えることもあるが、

ばれれば死刑にされかねないものであるため、それも滅多に起らない。

そんな状況下で、こんな言い合いをしていても、信じてもらえる訳も無い。


「お前ら、そんなハッタリで俺たちがビビルとでも思っていのか!?」

「ハッタリ? ああ、確かにそう思われても仕方ないな……

 しかし、一応忠告しておく、この魔法中毒娘の虐殺魔法を食らいたくなければさっさと逃げ帰った方が身のためだぞ」

「魔法中毒……」


何故かうっとりと呟くラクウェル……

しかし、男達にはただのハッタリとしか映らなかったようだった。


「けっ、こんな連中と会話してても始まんねぇ! やるぞ!」

「「「「「「「おおーー!!!」」」」」」」

「そこまでです!!」


強盗たちの突撃に水を指したのはラクウェルでもなければシャノンでもない、

強盗たちは視線をめぐらし、直ぐに斜面の上に声の主を認めた。

斜面の上で佇んでいたのは、立派な白馬に跨り、騎馬鎧を着こなし、槍にも匹敵する巨大な長騎剣を山賊たちに向けている。

騎士……というにはいささか顔立ちの優しい少年であった。

枯葉色の髪も、細面の顔も、体の作りも、騎士と言うよりは吟遊詩人の方が似合いそうな印象を持たせる。


「なっ、何なんだお前は!」

「悪党に名乗る名前はありません!!」


強盗の誰何に颯爽と答え、少年は騎馬に鞭をくれる。

坂道を勢い良く駆け下って行くその姿は、確かに白馬の騎士に相応しい物であった。


「大の男が徒党を組んで婦女子を脅すなど言語道 断!

 ましてや、暴力によって金品を奪うなど畜生にも劣る所業!

 そのような行為、断じて許す訳にはまいりません!

 天に変わってこの僕が成敗します!」



シャノン達と強盗たちが見守る中、少年とその騎馬は怒涛の勢いで斜面を駆け下って行く。

あまりの凄まじい勢いに強盗たちは身構えたが……


「覚悟おぉぉぉぉ……ぉぉぉぉ……?」


勢いがつきすぎたのか、馬を完全には扱えていないのか、馬の勢いは止まらず、強盗たちの中を通り過ぎていった。


「おおおおお……のおぉぉぉぉぉぉ!?


シャノンたちと強盗たちは暫く呆然とその姿を見送ってから、誰とも無く呟いた。


「……何だアレ?」

「あいつも馬鹿だが、お前等もそうとう馬鹿だな、こんな隙を見せやがって」


直前まで一緒になってほうけていたシャノンは一瞬早く我に返り、強盗の頭目を蹴り飛ばした。

記すまでも無い事だが、この後シャノン達によって強盗は叩きのめされた……














貯まった洗濯物を洗う順番が俺に回ってきた……

単純にいえばそれだけである。

家族でもないのに、俺に下着まで洗濯させるのはどうかとも思うが、

考えてみれば中世の旅行者もこんなものだったのかもしれない。


『しぶしぶですね……』

「ノインだったな……頭の中で話すのはよせと言わなかったか?」


誰もいないその場で、俺は言葉を返す。

すると、川辺で洗濯物をする俺の背後に光が収束したように感じた。


「洗濯物をするのは、いつもの事じゃないですか?」

「……」

「女性物の下着を洗うのがきになりますか?」

「……あのな」

「はい、なんでしょう?」

「一体何が言いたいんだ?」

「いえ、炊事、洗濯が一流で、まるで主夫の鏡だーなんてちっとも思ってません」

「……」


こいつ……俺をからかっているのか……

以外に精神性が高いと褒めるべきなのか、マスターに忠実じゃないとなじるべきなのかわからないが、

設計者はまともな神経のヤツじゃないな……


「所で、今の内に少し話しておきたいことがあります」

「ああ、聞くだけ聞こう」

「ありがとう御座います」

「社交辞令はいい、一体何がいいたいんだ?」

「はい、要点は二つ……先ずはHIについて述べさせていただきます」

「ああ、頼む」

「この世界にはHIと呼ばれる敵生体は殆どいません。

 しかし、我々と同じ様に眠っている敵生体がいる可能性は非常に高いのです」


可能性?

いきなり、胡散臭くなってきたな。

俺はその事を表情にこそ出さなかったが、その事はノインにも伝わったらしい。

視線を向けてくるので仕方なく反論を返す。


「……確率論か? そんなあやふやな物の為に、当事の首脳陣が俺にお前を預けたと言うのか?」

「確率論ではありません、予知です」

「予知?」

「あなた方のいた時代では知りませんが、私たちの時代では予知の精度は99.999%を誇っていました」

「そんなにか!?」

「はい、あくまで短期間の予知に限ればですが……

 予知能力者とコンピュータによるサポートで精度の向上を図った結果、

 HIの攻撃予測をほぼ完璧にこなせるまでになりました」

「……それで何故戦争に負ける?」

「人類が払った代償が大きすぎたのです。このシステムが完成した頃には、人類の人口は既に10分の一を切っていました」


人類がそれだけの事をしても勝てない相手……HIとは何者なのか?

気にはなっているのだが……

この世界にどれ位潜んでいる?


「私たちは、カードで言うジョーカーの役目を持ってやってきました。しかし……」

「途中で爆散して、幾つもの破片に分かれたというわけか」

「はい、我々はマウゼルシステムの防御法を持っていましたから、HIの介入の確率が高いと思われます……」

「HI……宇宙人……か……」


馬鹿げていると否定したい気持ちはある。

だが、この世界そのものが俺にとっては馬鹿げた世界なのだ、それが多少増えた所で変わらないとも言える。

しかし、正体が分らない存在というのは不気味ではあった。


「次に、HIが攻撃に使う……」

「どうした?」

「パシフィカ王女たちが誰かに囲まれているように見えますが……」

「ああ、それは気にする事は無い。あいつ等は本当に強い……

 俺が必要になるのは、あの中継点のように精神を乗っ取る相手だけだろう」

「確かに、彼らはかなりの強さを持っているようですね、しかし……」


 ドォーン!!


「……」

「……あの、今……」

「……ああ、川の上の小屋に馬ごと突っ込んできた馬鹿がいるみたいだ……(汗)」

「はぁ」


ノインは何か疲れた顔をしていた……

ため息をついても所詮映像のようなものなのだから、関係ないはずだが、やはり人間臭いインターフェースだな……


「もう一つはまた時間ができた時にでもしてくれ、少しやる事が出来た」

「はい、次はゆっくり時間が取れるといいですね」


少し微笑みを浮かべたような気はしたが、今はそれを気にせず小屋へと向かう。

強盗ならいいんだが、白馬の強盗なんてあまり聞かないしな……















「問題はこれなんだけど?」


強盗はシャノンが半数を気絶させると、残りが気絶した仲間を担いで逃げて行った。

ラクウェルに軽く追撃のムスペル<炎陣>で追撃してもらったが、尻が焦げた程度だろう。

後に残されたのは、シャノンたちと、アキトが担いできた騎士のような身なりの少年、それに全く傷ついていない白馬だった。


「気持ち良さそうですね……」

「あのまま突っ込ませておいた方が良かったか?」

「んー、微妙な所だな、こいつの素性を考えると金くらい持っているかもしれんが……」

「あっ、それいいね、最近良い食べ物食べてないからー、この人からお金もらって、オムレツを……」


パシフィカはじゅるりと音がしそうなほど口元を緩めていたが、

少年が目を覚ましそうになるのを見て、あわてて口元を正した。


「うぅ……僕は…………?」

「気付いた?」


パシフィカは一同を代表し、少年の顔を覗き込みながら声をかけた。

少年はまだぼんやりとパシフィカを眺めていたが、二度・三度吟味するように瞬きを繰り返し、


「結婚してください!!」


……ごが 


背後から問答無用で炸裂したシャノンの蹴りが少年を地に這わせる。

アキトはどこか感心したように見ていたが、それは関係ないことである(爆)


「うぅ、何するんですか……?」

「いきなり何をとち狂っとるんだお前は」

「単なる一目惚れじゃないですか」

「単なるってお前……」


戸惑うシャノンに対し、少年は屈託無く微笑むと。


「僕って思い込み激しいんです」

「……自慢そうに言ってどうする」

「群がる無法者!

 無力に怯える美しい乙女達!

 そこに通りかかる騎士!

 騎士の気迫に撃たれた無法者はすごすごと尻尾を巻いて去っていく!

 ああ、燃えます……!」


それを聞いたシャノンは半眼になって


「多分に都合のいい解釈だな……」


アキトやパシフィカは乾いた笑いを上げている。

しかし、少年は周りが見えているのかいないのか、勢いに乗って続きをのたまう。


「しかも! 目が覚めたらすぐ前に美しいお嬢さんの姿! こういう状況で一目ぼれせ ずにいつしろと!?」

「……で? 何者なんだお前は」


真面目に対応するのが馬鹿らしくなったのか冷たい口調でシャノンが問う。


「ああ、申し遅れました、僕はレオポルド・スコルプス。

 ラインヴァン王国騎士にして、タコス領領主スコルプス男爵家の長男です!」

「……ほう」

「有名なのか?」

「いや知らん」

「……」


知った風にシャノンが応対しようとしていた為、アキトが問うと、心底どうでもいいといった返事が返ってきた。


「その貴族様がこんな所で何を?」

「武者修行中なんです! <アンヴァー・ナイツ>入団を目指しているんですよ!」


アンヴァー・ナイツ……ラインヴァン王国の近衛騎士団の事である。

宮廷魔導士団<ジェイド・サーキット>と並んで王国の力の象徴と言っていい。

正し、ラインヴァン王国は長い間平和であったため、

貴族のステータスとして入団する場合も多く、質が保たれているのかは微妙である。


「そう言う貴方たちは? ここは主要街道からも外れていますし、物取りや山賊も多くて危険ですよ?」


確かに、普通の旅行者ならそうなのだろう……

しかし、シャノンたちにとって、より危険なのは一般人に紛れている暗殺者である。

荒くれ者は所詮力押ししか出来ないが、暗殺者は気が緩んだところを狙って正面から以外の方法で襲ってくる。

つまりは、危険度に違いだった、しかし、それを言う訳にも行かない。


「まあ色々ありまして……」

「はぁ……」


ラクウェルは適当にお茶を濁すが、レオポルドは何か考え事をしているようだった。

他人にいえない事情があるのだろうとは察してくれたらしい。

そして、その大きな瞳を見開くと、一同を見回しニコリと微笑むと。


「この街道を通っているという事は、当面の目的地はパウザ領ですね?」

「そうなりますね」

「分りました、か弱い庶民を、このような無法地帯に見捨てていったとなればスコルプス家末代までの名折れ。

 取り合えず僕の最初の目的地もパウザ領ですし、この街道を抜けるまで、この僕が守ってあげましょう!」

「いらん」


即答だった……しかし、レオポルドは怯むことなく再度……


「まあまあ、遠慮なさらずに」

「してない」

「貴族の親切を断ると末代まで祟りますよう」

「どこの貴族だそれは」


一転して捨てられた子犬のような顔でシャノンを見つめるレオポルド……

シャノンは呆れてしまったが、確かに含む所があるようには見えない。

ラクウェルに目をむけると肩をすくめて苦笑していた。

アキトは、シャノンの肩をたたいている。

パシフィカは美しいお嬢さんと言われたのがよほど嬉しかったらしい、ぽやーっとしていた。


「……好きにしろ」

「はい!」


レオポルドは表情をぱっと輝かせると、嬉しそうにうなずいた。











あとがき


はははは(汗)

棄てプリは大変ですね〜

半熟騎士の出だしでのオリジナル部分を作ろうと考えていたのですが、今回は残念しました。

なんといいますか、ここは完璧すぎて私には崩せない(汗)

だって、レオ君キャラ強烈だし……

ああ、今後も彼を上手く扱えるか自信ない……




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WEB拍手ありがとう御座います♪

毎度情け無い事ながら、今回もちょっと拍手の返事は無理そうです。

今回は風邪が長引きまして、更に今度WEB拍手がサイト移動するに伴い殆ど入れなおさなくてはならない事に(汗)

はぁ……この先どうなるんだろ(汗)

2月中には復帰したいな〜


感 想はこちらの方に。

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