沈んでいく……。



俺の命はこれで終わる……。



最後に…………。



……幸せな……幸せな世界を見てみたかった。



誰もが望む……永遠の夢………。



俺は、最後の力を振り絞り、時の彼方へと…………。



それは……最後のときに見た夢だったのかもしれない。








魔法使いにできる事








課外授業 『その出会いは時を越えて』





深々と雪が降り積もる山の中、旅装束の一団があった。

みなフードを目深に被り、山の中を黙々と進んでいる。

しかし、誰一人寒さに震えるものはいない。


「へっくし! 何もこんな氷点下の中探さなくても……凍えちゃいますよ……」

「ははは、お前は魔法が使えないからな。だが気を上手く使えばそこそこ暖はとれるぞ?」


いや、一人いるようだ。


「僕はまだ修行中の身ですから……(汗)」

「だがこんな事じゃこれから辛いぞ?」

「ええ……まぁ……頑張ります」


フードの下からでも分かる健康そうな少年が、寒々とした中タバコをすう隣人に向かって言う。

とはいえうなだれていてはその健康さも目立たないが。

しかし、そんな少年に応対したのは彼だけのようで、後の三人は黙々と進んでいる。

前方を進む三人はみな細身だというのはわかる、しかし同時に何か独特の雰囲気を持ち合わせているのか寒さを全く感じさせない。


登山旅行者ならぬ旅装束の男達はヒマラヤ山脈の中腹辺りを調べて回っている。

山を登ろうとしているわけでもなく、樹海とでも言うべき人の入り込まぬ道を行きながら、それでも彼らの動きは早かった。

そんな時、旅装束達の先頭の男がふと立ち止まる。


「なぁ、なんか胸騒ぎがしねぇか?」

「そう……ですね、確かに異変の兆候とも取れる何かが起っているのは感じます」

「マナが……騒いでいます。これは……」


三者三様だが、それぞれが何かを感じ取ったようだ。


「ちっ、ここにアレがあるんじゃねぇかと探しに来て見れば……」

「アタリだからこそ何かが起るのかもしれませんね」

「おっ、意外に前向きだな。詠春」

「私はいつでも前向きですよ? 貴方ほどではありませんが」

「ははっ、そうかもな」

「それよりあれじゃないですか? 例の……」

「おお、確かに。こいつがあれば大抵の魔法はって……な!?」


樹海の奥で黒く光る石を見つけて手に取っていた青年は、気配を感じたのか顔をあげて空を見た。

他の旅人達もみな上を見ている、そこには煙を吹いて落下していく何かがあった。

そう、何か。

彼らはその何かを見たことが無かった、世界中を旅しているのではないかとさえ思えるほどいろんな場所を旅している彼らが。


「何だと思う……?」

「さあ? 隕石ではないみたいですね、めずらしく我々の所には向かってきていないみたいですよ」

「このまま見過ごすのが一番なんですけどね。ナギ、貴方の意見はもう決まっていますよね?」

「こういうときに見に行かないなんてそんなつまらん事俺がするわけねぇだろ! 分かっているなら聞くんじゃねぇ!」

「ははは、らしい答えです」

「たく、人生収集が趣味だかなんだか知らんが悪趣味だぞアル」

「私の唯一の趣味です。ここは一つ大目に見てくださいね」


詠春と呼ばれた青年とアルと呼ばれた青年、東洋人と西洋人であるにもかかわらず良く似た気質を感じる。

一歩引いて見るのが癖になっているのだろう、ただし、詠春と呼ばれる男がどこと無く暖かに見守っているのに対して、

アルと呼ばれた男はどこか面白がっているような雰囲気が存在した。

その二人を引っ張るように先頭を突き進むナギと呼ばれた男は、

ガキ大将とでも言うのか、やんちゃな子供がそのまま大人になったような感じを受ける。


三人は空にふわりと浮き上がった。

まるで重力制御を個人単位で行っているような、物理的な何かを伴わない飛翔。

だが、彼らは特に不思議に思うでもなく、普通に空を飛んでいく。

後を歩く二人のうち一人も先ほどの三人とは少し違う感じではあるが、空を何度もジャンプするようにしながらついていく。

しかし、少年だけはそういう異常な事は出来ないようで置いていかれていた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 僕をヒマラヤのど真ん中に放り出していくつもりですか!!?」


少年は必死に訴えるが、それを見た男は少し二ヤリとして。


「がんばれ」


とだけ言って飛び去っていった。


「ってえ!? 凍死しちゃいますって!! 誰か!? 助けてーー!!」


少年の悲鳴はどこまでも木霊したという……。






少年を置き去りにした四人は、ヒマラヤ上空を落下する物体へと近づいていく。

とはいえ、凄まじい速度で落ちている、まともに飛び込めば一緒に地面に激突する事は間違いないだろう。


「このままじゃなんだかわからねぇな」

「そうですね、減速の符でも用意しましょうか?」

「おっ、気が利いたもんあるんだな。一つ頼むわ」


一人がフードを跳ね上げて和紙で作られた式符を取り出す。

その顔があらわになると同時に呪文の詠唱に入った。

男は逆立つほど短いの黒髪をオールバック気味にしている。

痩せて少し頬がこけた顔に眼鏡をしている、神経質そうにも見えるがどこか温かみのある顔立ちであった。

背は高い、三人の中でも一番高いだろう、ひょろりとした印象がある。

その詠春が唱えるのは呪術、陰陽道のようだがアレンジがなされているのだろう。

符がネットのように広がった、そして上に向かって飛んでいく。

凄まじい速度で落下する何かはネットにからまり徐々に減速を開始している。


「おー、流石は詠春だ。小器用な事をやらせたら右に出る奴はいねぇな」

「サウザンドマスターなんて言っているんだから、自分でやらないのか?」

「おっ? ガトーのおっさん、もう追いついてきたのか。

 それから呪文の話はやめてくれ。だから賢者の石なんて取りに来たんじゃねぇか」

「まぁな」

「もしかしてタカミチの奴おきっぱか? 冷たい奴だな〜」

「よく言うぜ、俺ごと置いていく気だったくせに」

「ははは、だっておっさん空は苦手だろ?」

「長時間はちっときついな。早めに頼むぜ」

「努力はするって」

「なに言ってやがる、努力するのは詠春だろ?」

「はは、そうかもな」


そう言っている間にも物体は減速している。

しかし、速度が下がったといってもまだマッハの域を下っていない。

このまま地面に激突すればどうなるか……火を見るよりも明らかだった。


「ちっ、しょうがねぇ、ちょっと無茶だがやるか?」

「なら俺の出番かね?」

「年寄りの冷や水にならねぇようにな!」

「うるさいひよっこが」

「へへっ」

「二人とも無茶です!!」

「無茶が通れば道理引っ込むってのは日本のことわざだっけか?」

「無理がです!」


詠春は心配しているようだが、それも当然の事。

ナギという青年とガトーという壮年の二人は空中で加速、落ちてくる物体に突っ込んで行った。

灼熱化していた物体はどうにか速度を落としているものの、まだ接触するには熱過ぎる。


「あちー!? こいつ大気圏突入でもしたか?」

「ちょっと厳しいかも知れんな……」


灼熱化こそしていないが、熱量が引くにはまだ数分はかかるだろう。

しかし、彼らは触れてはいるが飛ばされもしなければ、やけどもしていない。


「しかしよぉ……」

「なんだ?」

「これ、ゴーレムか……いや、マナを感じねぇな……?」

「最近じゃいろいろ研究されているらしいからな、何が出てきても不思議じゃなねぇだろ?」


二人が抱えて減速を行っているそれは、黒い塊に見えた。

どこか人型にもみえるその塊はゴーレムに似ているが、魔力の流れが二人には感じられなかった。

そう、ここにいる皆は魔法使いである。

抱える二人も、見守る二人も、置いていかれたタカミチですら魔法使いの見習いという事になる。

見た目も物理法則も彼らにはたいした事ではない、それぐらいに強力な力を持つ集団、それこそがナギの率いるパーティであった。

赤毛に近い茶髪とやんちゃそうな顔、すらっとした肉付きの美青年、ナギ。

魔法使いとしての最高峰サウザンドマスターの二つ名を持つが、その実使える魔法は少ない。

だが、魔力もその使い方も他の追随を許さない洗練されたものである。

もう一人、一緒に落ちてくる黒い塊らしきものを支えているのがガトウ。

白髪が目立つようになってはいるが、まだまだ体力的には溌剌としている。

同じ眼鏡をした詠春とはイメージがまるで違う。

魔法を使った体術を得意とする魔法拳士である。

そのナギとガトウで押し戻せないのだから凄まじい加速だ。


「ぐぅ……こりゃ落下させた方が早いか?」

「お前……の根性はその程度か……っ!?」

「今時……の若者……なもんでね……」

「何、もう一息……」

「やってみるか……グォォォォオ!!!」

「ガァァァァァア!!!」


先ほどまでに倍する魔力を放出しながら二人は減速を続ける。

その甲斐あってか、徐々に速度を落とす黒い塊。

軋みを上げて半壊状態のその黒い塊は地面に着地した。


「ふぅ……最後にちょっと落っことしたが、それくらい問題ないよな?」

「えぇ、ここまで減速できただけでも大したものです。

 そのままの速度で落ちていれば確実に麓の村を巻き込む地崩れが起っていたでしょう」


そして、旅の者たちはそれを見る。

落ちついて見ると、確かにゴーレムに良く似ている。

                   ざんし

だが、魔力の流れの残滓すら感じられない。

それは身の丈6mを超える黒い巨人であった。

ただ、所々ひび割れ内部が露出している。

機械部品と思われる部分が何箇所も無残に燃えて変形していた。


「それにしても興味深いですねぇ」

「んーこりゃロボットか?」

「結論は出せないですが、多分部品などを見るとロボットのようなものでしょう」

「ほぅ、こりゃ珍しいな。しかし、なんだってこんな場所に落ちてきたんだ?」


アルや詠春、ガトーが話しこんでいる間にも、ナギはその黒い巨人に取り付きあれこれ弄り回している。

さわったせいで部品がボロボロと落ちた部分もあった。


「なかなか派手に壊してますね」

「アルっ、そんな落ち着いている場合じゃありませんよ。止めないと」

「はは、無機物に命があると考える貴方の姿勢は面白いと思いますよ」

「いや、わざわざ頑張って降ろしたんですし」


詠春が慌てるが、アルはどこ吹く風といった雰囲気である。

やがて、ナギは一通りいじり終わって飽きたのか、部品を放り出し黒い巨人から降りようとした。


その時、何が作用したのかはわからない。

しかし、黒い巨人の各部を覆っていた装甲がズドン! っと音を立ててずり落ちた。

その中からは紫がかったピンク色をした巨人が現れた。


「おっ?」


上に乗っかっていたナギは少しだ体制を崩したが、空中で体制を立て直すと、近くに着地する。


「こりゃもしかして大気圏突入用の装甲って奴か?」

「私にはなんとも、ですが、内部の損壊はそれほど酷くないようですね」

「おっ、こりゃもしかして操縦席じゃねぇのか?」


ガトーが胸の部分を指差して言う。

確かにその部分だけは他の部分から独立しているように見える。

それに、ハッチの開閉用のレバーも見受けられた。


「こうしてちょちょいっと」


ナギは器用にアサルトピットのハッチを解除していく。

そして、緊急用レバーを引きハッチを開いた。


「よし」

「ナギ……」

「はっはっはっは、ナギ、お前盗賊にでもなった方がいいんじゃねぇか?」

「うるせぇ、俺は何でもできんだよ」


というより、型破りな事しかした事がないナギである。

基本的に普通にしている事の方が苦手だった。


「でっ……? 中にいるのはお姫様か?」

「いいや、こりゃ……男だな」

「なんだつまらねぇ」

「そういわないでくださいガトー、こんな中ですし、生きているとは思えません」

「どっちみち女の子はほとんどナギに惚れますしね」

「……」


軽口を叩いていたら思わぬところからツッコミが入りシュンとなるガトー。

実はそういうことは経験済みだったりする。


言っているうちに、ナギは中にいた男を抱え上げて出てきた。

男は黒い鎧を身に纏っている。

ヘルメットは半透明になっており内部はなんとなく見て取れる。

鎧はプレートメイルというよりはロボットの四角い鎧にもみえる。

というより、ロボットのコスプレをしているのと見まごうような格好である。


「……どう思う?」

「変人じゃねぇのか?」

「そんな感じですね」

「ははははは(汗)」


三者三様の返事にナギも苦笑いする、とはいえロボットの構造も良く分からないのだ。

この鎧を着ないと操縦できない可能性もある。

その事はさておいて、男を抱えて地面に着地。

地面に男を横たえた。


「……かすかにまだ生きていますね。ですが、このままではすぐに息を引き取るでしょう」

「息はしているみたいだしな。アル、回復できるか?」

「……そうですね。普通の回復では追いつかないほどに衰弱しています。

 自然治癒の加速をすれば体力が先に尽きて死んでしまうでしょうね」

「しかしあれだな、普通の奴とくらべて気の流れが変だな」

「どういうことです?」

「体の中を上手く通っていない感じだ。気の修練に失敗して自分の体を壊す奴がいるが、これはそれの数段酷いものに見える」

「気の流れ、つまり生命の力そのものが狂っているというわけですか」

「まぁそんな所だな」


アルが体を調べる背後でガトーと詠春が話し込む。

アルは男の鎧を脱がせ黒いボディスーツの上から触診を続けている。

衰弱以外の原因も確認しようと患部を探しているのだが、何箇所もあって、とても一度に直せる物ではなかった。

実際問題としてこのまままでは一時間もしないうちに死ぬだろうと思われた。


「思ったより酷いですね、肉体的損傷は打撲と擦過傷程度ですが、衰弱と体の壊死が深刻です。

 原因と思われるのは体内に入っている何か……としか言いようがありません。

 恐らく体の機能を助けるためのものだと思われます。

 ですが正常に機能していないか、量が多すぎて飽和しているようですね。

 それが逆に体を蝕んでいるのではないでしょうか?」

「なんか聞いてっと絶対助けられねぇみたいだな」

「ほぼ不可能です。今内部にあるそれに休眠の魔法をかけましたので少しは持つでしょうが、それでも今夜が峠でしょうね」

「せっかく助けたってのに、ここで終わりってのもシャクだな……。話くらいできないのか?」

「そうですね、不可能では無いと思いますよ、詠春ならば」

「詠春頼めるか?」

「はい、確かに私も興味がありますし」


詠春は人形(ひとかた)の符を取り出し男に貼り付ける。

そして同様の符を取り出し呪文を唱える。


符は人の形に切り抜かれただけだが、呪文を唱える事で変形を始める。

徐々に目の前に寝かされている男と同じ姿を取っていった。


「さすが詠春ですね、意識の無い人間の意識を引っ張り出すなんてそうは出来ませんよ」

「まぁそういった小器用な事は詠春に任せるに限るな」

「静かにしてください! まだ途中なんですから(汗)」


そんな雑談を交えながらも符に注ぐ魔力を中断しないのは流石といえた。

そして、完全に意識の無い男と同じ姿となったとき、その男は目を覚ました。


「……っ、……!?」


とっさに飛びのき何かの構えを取る男に4人は少しだけ緊張するが、ナギはそれでも構わず話しかける。


「よっ」


男は警戒心を解かないでいる、しかし、ナギは男に無防備に近づいていく。


「何者だ?」

「俺が何者かと言われれば、俺は俺と答えるしかねぇな」


男は混乱しているようだ、恐らく自分がいる場所も周囲の人物達も全く分からない状況で、近くには自分が寝ている。

それはありえない状況だったに違いない。

しかし、警戒してはいるものの取り乱してはいない、胆力はあるほうなのだろう。

ナギは一瞬でその程度は見抜いた。

そして男は人を殺した事があるだろう事まで構えや気配の動きから知った。


「俺はナギ・スプリングフィールド。

 あっちのなに考えているのか分からないのがアルビレオ、ニヒルに決めているつもりでイマイチ決まらない渋めのオッサンがガトーで、

 人のよさそうなというか実際人が良すぎて色々損をするひょろいメガネが詠春」


実はガトーも眼鏡をしているが、無視をしつつ紹介するナギ。

まるで友達に接しているようにさりげなく身振り手振りを交えながら紹介した。

背後の異論は無視しつつ……。


「それでお前の名前は?」

「……」

「別に俺達はお前に対して利害もなにもないぜ? 名前ぐらい名乗ってもいいだろう?」

「オレの名はアキト。テンカワ・アキトだ」


相手は自分が話した言葉の内容を聞いてナギの反応を見ているようだ。

そして名前に対し何の反応も見せないナギ達に対して少しだけ眉根を寄せた。


「何? お前そんなに有名人なのか?」

「さあな、知らなければそれでいい」

「おう、じゃあその話は置いておく」


聞き返すと思っていたナギがあっさり引き下がり少し肩透かしを食ったような表情になるアキトと名乗った男。

ナギはその反応を見て、彼が本当に知名度が高い人物なのだろうと読んだ、だが少なくともテンカワ・アキトなる人物をナギは知らない。

これが何を意味しているのか、その事を意識の奥に押し込みアキトに次の言葉をかける。


「じゃあアキト。そこで倒れているお前の体をひろってやったんだが、お前もう助からないらしいな?」

「……なぜそんなことが分かる?」

「アルのそばに転がっているのがあるだろ? アレがお前の本来の体だ」

「……?」


アキトの顔に動揺が走る。

それは確かに自分の姿であった、アキトは今の自分の体を見て寝転がっているそれと見比べる。

全く瓜二つ、しかし、徐々に落ち着きを取り戻してきたアキトは無表情に戻る。


「くくっ、アキト。お前なかなかいいな。驚きを押さえ込む胆力はなかなかだ。なら聞いても驚かないよな。

 俺達は魔法使い。表向きはいない事になっている存在ってやつだ」

「ナギ!?」

「いいじゃねぇか、どのみち実際のアキトは寝ているんだしよ。有事の特例って事で」


存在を公開した事を注意しているのだろうか、詠春が驚いて声を返すが、ナギは取り合わない。

実際自分の姿を見たとあっては仕方の無いことなのだろうが。


「でアキト。お前はどうしたい?」

「どう……?」

「オウム返しに聞くんじゃねえよ。お前は助かりたいのかって聞いている」

「……別にどうでもいい」

「……あ? さっき俺を警戒して下がったんだろうが、それは生きていたいって証拠じゃねぇのか?」

「俺は利用されるのが嫌いだ。死ぬよりも……な」


それは確かに真実の心だったのだろう、アキトの声からは裏は読めない。

ナギは一瞬だけ気圧される、それは辛酸をなめた人間の共感であったのか、そのことを知るのは本人のみだろう。


「ちっ、そういう事いうのかよ。わかったわかった。お前は今ここで殺してやる」

「……好きにすればいい、抵抗はするがな」

「お前はただの紙切れだぜ? 今のお前は何もできねぇよ、ただ術を解けばそれで終わりだ」

「そんな無粋なことをするのか?」


それは、ある種の共感であった、お互いに何をしたいのか大体分かっていた。

通過儀礼とでもいえばいいのか、表情の先だけで確認すると同時に足を前に出す。


「そんな無粋な事はしねぇよ!」


そういいながら、ナギの拳がアキトを狙う。

アキトは軽くスウェーで避けてから、その腕を取って一本背負いの要領で投げ飛ばす。

それを読んでいたのかナギは体をひねって着地、また構えをとった。


「ひゅー、やるねえ」

「魔法とやらは使わないのか?」

「無粋だろ?」

「そうだな」


ナギは同じように拳を突き出すと見せかけて、体を沈めタックルをかける。

アキトは一瞬対応が遅れ組み付かれた物の、そのまま胴体を持ち上げてパイルドライバーの要領で持ち上げようとする。

しかし、ナギはアキトの首を足で捕らえ、そのままフランケンシュタイナーで投げ飛ばした。

頭から地面に突っ込むと見えたアキトだが、体をひねって首のロックを外し転がりながらも着地する。


「さっきのは返したぜ?」

「……」


今度はアキトが飛び出す。

独特の歩法から救い上げるような掌底をくりだした。

ナギは少し初動が遅れ、両手をクロスさせてブロックした。

しかし、衝撃は体を突きぬけじんじんと響いてくる。


「変わった歩法を使いやがって。だがそれは覚えたぜ?」


アキトが使った歩法はいわゆる脱力歩きとでも言えばいいのか、加速するにあたってこけるように加速することで足にためを作らないというものだ。

普通加速する際は筋肉をばねのように縮めるための予備動作としてためが必要だが。

これは、前傾姿勢で倒れないように加速するため、予備動作が無い。

足の筋肉を使わない加速である。ナギはその事で半瞬幻惑されたのだ。


「やはり魔法なしではきついんじゃないか?」

「うるせぇ!」


確かにナギは魔法で身体能力を増幅すればアキトを瞬殺できる。

素手で岩を割り、一歩で数十メートルを走るほどに増幅されるのだ、一般人では反応できない。

アキトも気を少し使うようだが、まだ練れているとはいえない。

気配を察する程度だろうとナギは判断している。

だが、技も技量もかなりの領域にある。

その辺の魔法や気功使いより確実に使える。


「なら、これはどうだ?」


アキトの動きが格段によくなる。

気による身体能力の増幅とは少し違う、体のリミッターを外したとでもいうような無茶な動きだった。

思わず魔力を身にまとい加速するナギ。


「くそ、やってくれる。だがその紙ッきれの体じゃそう長く持たないぜ!」

「ならば使い潰しても問題は無い!」


互いの限界速度で拳を繰り出す。

それは、瞬間的に互角に見えた。

しかし、増幅率が違う、アキトのそれはあくまで人間のリミッターを外しただけの動き、気や魔法による増幅は限界を超えた動きも可能となる。

それはまとう魔力によりその力を増す。

物理法則すら超えたその動きに、しかし、アキトはぎりぎりで反応していた。

ナギの前にクロスカウンターぎみに繰り出された拳は、だがナギに届くことなく、アキトの体は紙ふぶきとなって消滅した。

あまりの負荷に符が耐え切れなかったのだ、元々戦闘のための符でもない、仕方の無いことだった。

おそらく、このままやってもナギが勝っていただろう、しかし、万が一、そう思わせてくれる何かをアキトは持っている。


「……面白れぇ、こいつ、とんでもなく面白いぜ!」


倒れているアキトに向かって見せるナギの顔はおもちゃを手に入れたように輝いていた。


「やれやれ、ナギの悪い癖ですね」

「悪いな、賢者の石の使い道、もう決めちまった」

「いいですよ、今回は空振りだったと思っておきましょう」

「まぁ、面白いもんも見れたしな。ナギの驚く顔なんて久しぶりに見たぜ」

「言ってろ!」


ナギはフードを被りなおすと、ここに腰をすえるべく食事の材料を取りに行った。













あとがき


一部の暑い(誤字にあらず)リクエストにお答えしてちょっと始めてみました。

中篇くらいを予定しています。

男しかいないネギ世界いかがでったでしょうか?(爆)

まぁ学園に行くまではやらないといけませんよね。

それに、時期的にも700万と重ねられると思いますし。

とはいえ、長編にするつもりは無いですので。

他のをお休みしないととても無理です(汗)

ただ、本当の所ナギのパーティは後2人京都にあった写真に写っているんですよね。

だからナギの話は適当に終わらせてすぐに学校に行かせようと思います。

とはいえ、色々仕込みをしてからですが(爆)




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