ローム星系、それはトランスバール皇国軍の再集結基地を兼ねた反撃拠点。


皇国首都星からは遠く離れているが、


元々第三軍と第四軍の警戒地域の隣接地点であったため両軍が早期に集結、


散発的ながらも無人艦隊を撃破し続けており、現在は皇国のほぼ全ての艦隊が集結しつつあった。


更に、とうとう待望の神輿であるシヴァ王子が到着したことにより、皇国軍は活気づいていた。


しかし、エオニア軍にとっては敵が一箇所に集中する事は望むところであり、


実情としてはあまり有利になったわけではなかった。










ギャラクシーエンジェル
新緑から常緑へ(前編)








パレードが行われていた。

現状では、既に不利に傾きつつある戦線を支えるため、

兵士や民衆にシヴァ王子の凱旋を宣伝しているのだ。

凱旋というような状況ではなく、実情は落ち延びたに過ぎないとしてもである。

当然司令部としては、情報を偏向させて伝える事は必須だったろう。

結果的に俺もまた、英雄の一人としてパレードに参加するハメになったのだから。

実情はただ、エンジェル隊の力で生き延びただけだとしても、

エンジェル隊は皇軍に協力しているものの、

正確には白き月の防衛軍であるため、皇国軍司令部としては別の英雄を立てる必要があったのだろう。


艦隊(?)司令官として、それなりに活躍はしていた自負はあるが……。

同時に、シヴァ皇子を張り飛ばしたり、シヴァ皇子を囮に使ったり、ブラマンシェ財閥に喧嘩を売ったり。

色々と後ろ暗い部分もあるので、相殺してマイナスにつく可能性が高い。

それでも、敗戦から民衆の目をそらすためには英雄が必要だったのだろう。

シヴァ皇子のパレード用の車の後ろを2階建てのオープンカーで走っている訳だ。

ちょっとした神輿というか山車のようなもので、上にいる人間がよく見えるようにしてある。

逆に言えば狙撃してくださいと言う感じである。

もちろん、狙撃対策は十分に成されているらしいが……。


これが行われると言う事は軍部と皇族の力関係を如実に表しているともいえる。

元は皇族が軍部を完全に掌握していたが、幼いシヴァ皇子しかおらず擁立する大貴族もいない。

この現状では軍部の力をあてにするしかなく、シヴァ皇子は当然のごとくお飾りになるしかない。

もちろん、成長著しいシヴァ皇子はその事を十分理解しているだろうし、

逆転の目を探っているだろうが、現状の力関係が変わるほどの切り札はない。

あえていうなら白き月だろうが、エオニア軍の主力を突破せねばそこまで行けないため意味がない。

俺やルフト准将の力でどうにか守っていかねばならないと言う事になる。

かなりきついが……、シヴァ皇子が立派な皇王になるよう尽力はせねばならないだろう。


心配された狙撃等もなくパレードが終わり、翌日は社交ダンス等をメインとした舞踏会が開かれるようだ。

これも慣例行事であり、俺は一度でいいが、シヴァ皇子はそうもいかない。

世間向け、貴族達向け、軍部向け、有力者のパーティに参加等、パーティにいない時間の方が短い。

それをする事で結束を高め、有力者の協力を取り付け、軍部を抱き込む。

もちろん10歳の子供に全てが出来る訳ではないだろうが、それでも必要な事なのだ。

トランスバール皇国という国を存続させるために。


出来ればシヴァ皇子を慰めてやりたいが、今の俺は既に近衛艦隊司令の任を解かれ一介の大佐にすぎない。

恐らくは昇進するだろうが将官でもおいそれと会う事は出来なくなっているだろう……。

俺は、パレードが終わってから、自分に与えられている執務室へと向かう。

本来大佐クラスでは与えられないような豪華な執務室だ。

英雄の名を冠するようになったが故の優遇だろうか。

とはいえ、今は活用させてもらおう。

やるべき事は山と残っている。



「エルシオール内の今までの支出をどれくらい経費に出来るかだな……。

 下手をすると俺本人に請求が来かねないのもあるしな……」



もちろんそれだけじゃない、エルシオールの引き渡し関係の書類や、

エルシオールを降りる人員についての詳細、俺の次の任地に関する書類等山のようにある。

パーティの事もそれなりに大事だが、今は書類を整理しない事には進めそうにないな。

そうして忙しく事務処理をしていた俺の部屋にコンコンとノックの音が聞こえた。



「どうぞ、入ってくれ」



テロ等の可能性も一瞬頭をよぎったが、そんな奴らがノックをするわけもない。

すぐさま入室を許可すると、そこに入ってきたのはエメラルドグリーンの髪をした赤い瞳の少女だった。

そう、ヴァニラ。

彼女はエンジェル隊の一員なのだから、俺と同じように引き継ぎ書類の作成をしているはずだが……。



「どうしたんだヴァニラ?」

「あの……、検診をさせてください」



どこかおずおずとではあるが、俺に用件を告げるヴァニラ。

何かいつもと少し雰囲気が違っているように見えるのは気のせいだろうか?

俺は思わずペンを止めて、ヴァニラをまじまじと見る。

ヴァニラは少し頬を染めたように見えた。

まさかとは思うが……。

ともあれ、検診に関してはやぶさかでもない、仕事を行ったん止めてみてもらう事にした。



「ナノマシンは今までの合体でかなり活性化していますが身体への悪影響はかなり減っているようです」

「悪影響が減っている?」

「はい、無事に無害化が進んでいるようです。

 今までのナノナノによる治療が効果をあげて来ていますから」


「そうなのか、対処療法という訳じゃなかったんだな。

 なら、俺の治療はもう終わりなのか?」

「終わりという訳ではありませんが、前ほど頻繁に行う必要はなくなります」



ヴァニラは俺に淡々と事実を告げる、なるほど流石は未来の治療という事だろうか。

俺のいた時代のナノマシン治療とは訳が違うようだ。

ただ、言い切ったヴァニラの顔は何故か曇ったように見えた。

俺は、その理由を察しない訳には行かない。

何故なら、俺は……その表情を2人の少女から向けられた事があるのだから……。

ルリちゃん、ラピス……俺はいいのだろうか?

俺は、もう……、いや、言い訳だな。

彼女らを理由にして逃げるのは許されない。

ならば、俺にやれることは一つだ。



「ヴァニラちゃ……、いやヴァニラ、俺のエスコートで舞踏会に出ないか?」

「……はい、嬉しいです」



この部屋に今日この日ヴァニラが自らやってきただけでも彼女にとっては決心が必要だったろう。

そして、俺がそれを無視するわけには行かない、俺の答え、それがパーティのお誘いだ。

明日はシヴァ皇子の帰還式典を行い、立食パーティ、そして舞踏会という形式を取る。

だからこそ俺のパートナーをヴァニラに引き受けて欲しいと思った。

凄い年の差、親子の方が近いかもしれない、そんな俺が彼女を連れて行くことに引け目を感じないわけじゃない。

しかし、ヴァニラの花がほころぶような笑顔を見たらそんなことはどこかに行ってしまったのだった。



「では、お姫様。お手を拝借」



2人で出かけ、パーティに着ていくドレスを物色する。

幸い、そういう店はかなり多い。

俺たちがいる区画がいわゆる上級区画に属するショッピングモールだからだろう。

それに、金に関する心配もいらない。

俺の給与はあまり使われていないし、ヴァニラも浪費するタイプじゃない。

というか、ヴァニラが私的に金を使うなんて必要最低限以外では宇宙ウサギのウギウギのため位だろう。

幸いなのか、エンジェル隊の皆の御蔭でファッションセンスはそれなりなようではあるが。

頓着しないとまでは言わないが、自分からお洒落をするタイプでもない。

結果的に2人共かなり資金に余裕があった。



「これなんかどうだ?」

「あの……、これは……、私には派手すぎます」

「そんな事はないと思うんだがな」



水色や赤といった原色系の服はヴァニラにとっては少し苦手なようだ。

だが、俺は似合うと思う、白や黒といったシック調や薄い緑といった落ち着いた配色も好きだが。

ヴァニラにはいろんな服を着てみてほしいと思う。



「お客様、これなんていかがでしょう?」

「ああ、それもいいな。淡い色合いだしヴァニラも問題ないんじゃないか?」

「ですが、舞踏会では使えません」

「いいんだよ。何着だって買ってあげるから」

「そんなことできません」



ちょっとすねたようにヴァニラは俺を睨んでみせる。

実のところ大きな表情の変化はないので俺はそう見えるというだけだが。

しかし確かに舞踏会は明日なんだから選ぶのは急いだほうがいいかもしれない。



「アキトさんは意地悪です」

「そうかもしれないな」



可愛い子はいじめたくなるそういう心理が少しだけわかる。

因みにいじめた覚えはないが。

そんなこんなでドレスを選ぶまで3時間くらいかかったことを明記しておく。
















そうして翌日、日が暮れる頃ヴァニラをエスコートしつつ舞踏会の会場へと宇宙リムジンで乗り付けた。

招待状を見せて中に入ると、著名人や芸能人、軍人、貴族等がごった返している。

この中に入れるのはある程度の有力な者だけらしいが、正直誰が誰か分からない。

そもそも俺がこの世界に来てまだ3年、その大部分は士官学校と艦隊勤務、世情にはとことん疎い。


だがそれでも分かる人も何人かはいた。

軍にいたのだ中将以上を知らない事はない、何人か出席している。

そんな中、俺たちに気づいたのだろう、シヴァ皇子が近づいてきた。

注目がこちらに向くのがわかる。



「おお、アキト。よく来てくれた! そなたが来てくれるのを心待ちにしておったぞ!」

「これは殿下、ご機嫌麗しゅう」

「何を硬いことを言っておる、この場は無礼講のはずであろ?」

「これは失礼を。ですが皆の視線もありましょう」

「……すまぬな。確かにそうであろう、後ほど訪ねてくれるか?」

「畏まりました」



いらぬ嫉妬を買えば、俺も、シヴァ皇子も良くない噂が立つだろう。

俺はいい、別に階級が下がろうと、軍を辞めさせられようと食べていく術はある。

しかし、シヴァ皇子は今微妙な時期だ。

頂点に立つ事は決まっていても、基盤となる権力や戦力がまだ整っていない。

現時点で俺を贔屓していると言う噂が立てば、軍上層部がどう出るか予想がつかない。



「今日連れておるのはヴァニラではないか、他の娘達はどうしたのだ?」

「皆休日を与えてあります。

 しかし、ヴァニラには俺のダンスパートナーを願い出ましたので」

「ほう……。うむ……いいのではないかな……では、すまんな他の者への挨拶もある、失礼するぞ」

「はは!」



最後の方シヴァ皇子は不機嫌になっていたように見えたが……。

ヴァニラの事が好きだったと言う事は……、ありうるが、同時に俺を取られたからという可能性もあるか。

一応これでも親代わりの様な事はしてきたのだし。

ただ、シヴァ皇子が最近妙に女性的な仕草をするのは気になっていた。

まさか……な……。



「アキトさん……」

「ん?」

「私なんかで良かったんでしょうか? ダンスならミントさんやランファさんの方が得意です」

「別に上手く踊りたい訳じゃないよ」

「ですが……」

「俺はヴァニラと踊りたかったんだ。ヴァニラは嫌かい?」

「いえ……ありがとうございます」



こういう所で男が迷うのは女性にとって失礼にあたる。

それに、ヴァニラが仕事以外の何か楽しめる事を見つけられたらと言う思いもある。

ダンスはそのきっかけになればいい。

ヴァニラさえ楽しければ大恥をかいてもお釣りがくる、それくらいには考えていた。


因みに、俺はマイヤーズ伯爵家を継ぐにあたって貴族の嗜みとやらも勉強させられていた。

ルフトのおっさんに、家庭教師を10人くらいつけられてのスパルタだった。

その中には当然ソシアルダンスも含まれている、だから、最低限の踊りは出来る。

後は、ヴァニラが戸惑わないように上手にリードできるかどうかだろう。



「さあ、そろそろダンスの時間だ。行こうか?」

「はい」



俺達は手を取って会場の中央へと歩き出す。

既に踊り始めている人もいて場所の確保が必要だったが、さして労力を使う事はなかった。

音楽に合わせて皆乱れなく踊っているせいだろう、やはり上流階級だという事だな。

それらをすり抜け、適当な広さを確保すると俺たちも踊り始めた。



「大丈夫だ、力を抜いて」

「はい」



最初は緊張していたヴァニラだったが、少しの間でコツを掴んだのか踊りについてこれるようになった。

ある程度の練習はエンジェル隊でもしていたのかもしれない。

ある種特別な部隊だから、こういう場もあっただろうしな。


俺とヴァニラのダンスはスローワルツから、アルゼンチン・タンゴ、スローフォックストロットと続く。

もちろん、きちんとしたものではなくそれらの動きを真似ているというレベルだが。

しかし、動き自体は軍隊にいただけに大きく動くためダイナミズムがあるだろう。

ヴァニラの小さい体が俺の周りを行ったり来たりする様はある種、雑技に通じるものがあったかもしれない。

そうして踊り終える頃には周りの視線が俺たちに集中していた事に気づいた。


俺たちがダンスを終えると拍手が鳴り響く、

目を引くダンスになっていた事に気付いた俺たちはそそくさと元いた場所まで駆け戻る。

互いに顔が真っ赤だったかもしれない。



「ちょっと派手にやりすぎたか……」

「でも楽しかったです」

「そうか、なら誘った甲斐があったな」

「はい」



微笑むヴァニラに一瞬見とれた俺だったが、周りの事を考え直ぐに考えを正す。

これじゃロリコンっていうのも否定できないなと心の中で苦笑した。

その後、暫く食事をしながら雑談を続けていたのだが、

ゆっくりしているとシヴァ皇子が挨拶を終えて戻ってきた。



「アキト、ヴァニラ、いいダンスであったな!

 久々に踊ることを楽しんでいると分かるダンスを見た。

 正直月では父上とシャトヤーン様に言い寄るために踊るものばかりであった故。

 楽しませてもらったぞ」

「それは何よりです。私もヴァニラも意識してのものではありませぬ故」



そうして俺とヴァニラが一礼すると、シヴァ皇子は微笑んで頷き、

しかしその後で顔を少し曇らせた。

俺は一体どうしたのだろうと視線を向ける。

その視線にシヴァ皇子は気付いたのか気づいてないのか、顎に手をやると……。



「ふむ……、しかし、アキトの事だから恋愛事には奥手だと思っておったのだがな」

「といいますと?」

「後5年……、いや3年ほど待ってくれれば……」

「……殿下」

「あっ、うむ。もちろん祝福しておるぞ!」



一瞬、ヴァニラから皇子への視線の温度が下がったように見えたのだが……。

まさか、そんな事はないと信じたい……。



「そうだ、言い忘れていたが正式なところは兎も角、

 アキトの准将への昇進と近衛艦隊指令の就任が決まったぞ」

「ルフト准将はどうなるのです?」

「ルフトも昇進する。少将となって第6艦隊を編成する事となる」

「少将で艦隊ですか?」

「うむ、普通は近衛と違い規模が大きいため中将以上の階級が必要なのだが、半個艦隊にもならぬのでな」

「なるほど」




方面軍は1200隻からなる大艦隊だ。

それを指揮するのは中将以上の階級を必要とする。

近衛艦隊300隻は首都星防衛のためのものだが、実質は皇王が直接指揮する事が多いので階級が低い。

だが、准将でも少将とほぼ同じ権限を持っている。

対して方面軍の半分以下という事は最高でも600隻、まあ多分400隻あるかないかだろう。

恐らくは第一軍と第二軍の残存艦艇の寄せ集め。

これでは、昇進したのか左遷されたのか分からない所だろう。

最も俺が就任する近衛艦隊指令も何隻艦船が残っているのか怪しい所ではあるが……。

実際、前に会った時は100隻も残っていなかったはず。

とはいえ今は戦時、あまり文句も言えない所か。

そんな事を考えていると、突然会場内の3Dモニターが起動する。

ハッキングを受けているのか!?



『これはこれは諸君、パーティ等していられるとは優雅だね』

「エオニアッ!!」

『シヴァ皇子も元気そうでなにより。

 さてここで一つさらにハッピーなニュースをお届けしよう。

 今日ここで降伏すれば、お前たちの領地、軍をそのまま我が国でも持つ事を認めようじゃないか』

「何を世迷いごとを言うておるか! ここに集った者たちにそのような軟弱者はおらぬ!」

『そうかね? お前たちの星系に6000隻、5個艦隊が向かっているとしてもそう言えるかね?』

「5個艦隊……じゃと……」

『それだけの艦隊を退けるなら君たちは確かに、

 このエオニアト・ランスバールと敵対する事が出来ると認めよう。

 しかし、それが可能かどうかは誰の目にも明らかだと思うがね?』



そう、このローム星系は防衛に向いている星系ではない。

高熱のガス帯やアステロイドベルトといった防衛に役に立つラインが存在しないし、

現在我々がいる衛星も防衛能力はさほど高い訳じゃない。

倍の戦力を防ぎきるには熟練の兵士も不足している。

つまり、現状ではエオニアの言うことは真実という事になる。

認めたくはないが……。


こちらができる手段は限られる、恐らく可能な手は一点突破で無人艦隊を置き去りにし、

エオニアを殺るのが一番早い手なんだろうが、ホログラムは殺せない。

恐らく本人は攻撃部隊に参加しているとは思えない。

せいぜい、いてシェリーとかいう将軍が限度か。

ならば、今優先すべきは……。

ヴァニラに視線を向ける、コクリと小さく頷いた。



「シヴァ皇子! 近衛艦隊の出撃許可をください!

 それと略式で構いませんので、指揮権をお願いします!」


「うむ、ではアキト・マイヤーズよ。

 准将への昇進と共に近衛艦隊指令に任ずる。

 近衛艦隊全機、出撃するのだ!」



本来シヴァ皇子に軍の任免権はない。

しかし、皇王が死に、後継者として定まっているため先に軍の任免権を持たせたのは軍の首脳部だ。

そうしなくては、皇国軍として成立しないため、苦肉の策ではあったが、お陰で助かった。



「ギャラクシーエンジェル隊はまだ近衛軍所属だ、

 近衛艦隊指令として命ずるギャラクシーエンジェル隊出撃せよ!

「はい」

『『『『了解(ですわ)!』』』』



やっぱり聞き耳立ててたか、紋章機ならここを見張れるという事だろう幸いだったとも言えるが。

しかし、ヴァニラはここにいる以上、紋章機を持ってきてもらう必要がある。

ついでに俺のエステも持ってきてくれれば楽なのだが……。


とりあえず、現状では敵艦隊先鋒が来るまでに出撃できるのはギャラクシーエンジェル隊だけだろう。

近衛艦隊だけでなく、主力である第三、第四艦隊も準備に入っただろうがいざ出撃となると時間がかかる。

その上、両艦隊を合わせても2400、ルフトの第五艦隊と近衛艦隊を合わせても3000に届くかどうか。

幸いにして、無人艦隊の練度はさほど高くないが、倍を相手に出来るわけではない。

ギャラクシーエンジェル隊と俺のエステで100隻程度沈めても焼け石に水だろう。

だが、全く勝目がないわけじゃない、奴らの居所は知れている。

トランスバール本星だ、政治的理由でも、白き月の監視のためにもそこが一番いいのだから。


無人艦隊6000隻、恐らくいくら奴らの造船速度が早かろうと艦隊の大部分ではあるはずだ。

トランスバール本星に襲いかかった時の数は3000隻、あれから3ヶ月で倍以上になっている。

異常なまでの回復速度、戦艦用の造船工場を1000くらいは抑えないと出来ない。

だが、トランスバールにはそんな数の造船工場は存在しない。

恐らくは、テコ入れの結果なのだろう。


もちろん、侮るつもりはないどれくらいの速度で無人艦隊が生まれているのかはわからない。

ならば、テコ入れ先がどこなのかを解明しなくてはならない、その上で対処するには……。

白き月に力を借りるしかないだろう、軍事力に関して言えばここにいる軍勢以外では白き月しかないのだから。

結果的に見れば、艦隊をこちらに向けている今こそ白き月にたどり着けるチャンスなのだ。

だが、その為には一人確認を取る必要がある人物がいる。



「殿下、作戦を聞いていただきたいのですが」

「うむ、言うてみよ。しかし、今は緊急じゃ。

 敵艦隊が到着する前に出撃せねばならぬ。エルシオールに移るぞ」



シヴァ皇子も恐らく既に分かっているのだろう、目で俺に答えてくれている。

とはいえ、エンジェル隊にしたところで紋章機までたどり着くまでそれなりに時間が必要だ。

俺たちも急がねばならない。



「殿下、お待ちを!」



軍首脳部か貴族か、どちらにしろ殿下に勝手に動かれて困る人物だろう。

黒服を何人か俺たちに向けつつ、シヴァ皇子の前に立ちはだかる。



「余の前に立ちはだかるとは無礼な!

 お前たちはトランスバールに敵するものぞ!?」


「いいえ、そうではありませぬ。

 殿下ご自身がエルシオールにて出撃などはお辞めくだりませ。

 御身のためにも、ここは迎撃を我らにお任せ頂ければ!」

「6000隻の艦隊をどうにかできると申すか?」

「今まで戦ってきた我らには分かります。

 当初の敵戦力は3000隻、どうやって手に入れたかは知りませぬ。

 だが、それが今6000隻まで増える通りはありませぬ!

 エオニアのハッタリでございますれば」



シヴァ皇子は今にも怒り出しそうな顔をするが、一度息を飲み落ち着こうとする。

それを見て俺はシヴァ皇子の成長が著しい事を理解した。

そうして、表面上とはいえ落ち着いてみせたシヴァ皇子はその軍高官と思しき男に言う。



「ほう、ならばローム星系のレーダーにはどう映っておるのだ?」

「はっ、確かに3方から各2000隻我らを包み込むような陣を敷きつつ迫っております」

「その上で何故敵が6000隻居らぬと言うか?」

「無論、あれらの大部分は艦艇ではなく、隕石にブースターを付けただけのダミーだからであります」

「ダミーとな? 確認が取れて言っておるのだろうな?」

「それはまだですが……。例えそうでなくとも、戦闘機等を偽装しレーダーに反映する事もできますれば」

「ならば、お前たちの仕事は、偵察プロープを飛ばせるだけ飛ばして現状を確認すると同時に、

 最悪の場合を想定し、6000隻を相手にするための防衛線を構築する事であろうが!!

「確かにそうすべきではありますが……、殿下は一番安全な場所にいてもらわねば……」

「それこそ今我らがしている事であろう!

 身動きの取れぬ一般商業用の衛星より、エルシオールの方が安全故な!」



叱りつけられる軍高官は苦い顔をする。

操りにくいと感じたのだろう、たかだか10歳の考えることではないと。

シヴァ皇子が脱出行の間にどれだけ成長したのか、どれだけ努力をしたのかが伺える。

俺としては成長に嬉しく思う反面、まだ人を使うという意味では少し不安も残る。

彼らのような人物をうまく使いこなせるようにするには、ある程度のアメが必要なのだ。

俺ではそんな事は出来ないが、シヴァ皇子はいずれ身につけなくてはならない。



「アキト、行くぞ!」

「はっ!」


「はい」

『お待ちしておりましたわ、指令♪』

「持ってきてくれたんだな」

『ヴァニラのハーベスターは流石にここには持ち込めませんでした』

「エステがあれば十分だ」



急ぎ会場を出ると、上空にミントのトリックマスターが滞空していた。

そして、フライヤーで器用にエステを道路上に落とす。

さほど高い高度ではなかったが、それなりに大きな音がした。

エステは俺が近づくとアサルトピットの隔壁が開く。

それを確認すると、真っ先に乗り込み、ヴァニラとシヴァ皇子を引き上げた。



「おお、これに乗るのは2度目だな」

「私ははじめてです」

「喋らないでくれ、舌を噛むぞ」

「あ、うむ了解した」

「はい」



妙にはしゃいでいる2人に注意してから俺はエルシオールの係留されているポートへとテンカワSplを動かす。

この戦いが、厳しくなることはヴァニラもシヴァ皇子も分かっているだろう。

その中でリラックスが出来るのは純粋に凄いと思う、俺も真似出来ないかもしれない。

だが、嫌も応もなく激戦へと導かれる事が決まっている以上、俺もまた努力すべきなのだ。

教えられてしまう事に恥ずかしさと頼もしさを覚えつつも、注意する事はやめられない俺だった。


あとがき

記念連載ということで、8周年ともうちょっとで8000万HIT記念連載といかせてもらいますw

また3つに分ける事になりそうですが、この話で新緑シリーズを完結させたいと考えております。

元々、記念連載なのであまり長編は考えておりませんでしたし、ローム星系についたのも一つの区切りではあります。

ここで一気に畳み掛けるつもりですので、原作とは展開が違うようになってしまいますが、お許しくださいねw



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