「本当につまんない……」



ノアと名乗るこの少女は今、黒き月の中心にいる。

褐色に近い肌と、金色の髪をした小学生くらいの女の子にしか見えないその姿はしかしオリジナルではない。

彼女はもう何体目の彼女なのか、本来の彼女は当初のクロノクエイク以後コールドスリープに入っている。

当時の医療機器も存在せず、元より人のいない黒き月ではもう二度と目覚めないかもしれない。

では、今ここにいるノアは何者なのか。

同じ遺伝子をもとに、何度も作られたクローン体である。

白き月が何百年という時間の中で世代交代する中で当時の記録を散逸していったように、

ノアもまたクローンを続ける事で劣化していった。


現在のノアは人というものを理解していない。

それゆえに、興味があった。

たまたま索敵範囲に入った宇宙船の乗組員に話しかけてみる程度には。

エオニアはノアのお気に入りだった。

目的を失いただ漫然とクローンを繰り返すしかなかった彼女に目的を示してくれたのだから。

最終的に、外敵から人類を守るという使命自体は失われていない。

しかし、その人類が何を指すのかという指針が既に存在していない彼女はエオニアに言われるまま戦争に手を貸した。

結果として、エオニアは失われてしまい、彼女にとっての人類は死んだ。

守るべき人類を殺した外敵として白き月とその関係者を見るには十分な理由だろう。

白き月と戦って最終的にそれを取り込む事は忘れていない。

だが、その戦いに周囲の人類から除外した存在を巻き込む事に何ら痛痒は感じなかった。



「みんなみんな死んじゃえ!! もうお前らなんか知らないんだから!!」



その姿を背後にある生命維持装置の中で眠るオリジナルが聞けばどう思うのか。

それは当時を知る者にしか分からない事なのかもしれない……。







ギャラクシーエンジェル
新緑から常緑へ(後編)その4









「クロノブレイクキャノンが発射されたようね」



整備班の主任であるクレータ班長は、足元の揺れから判断する。

アキトから頼まれたプログラム解析と可能な限りの情報をあげるため、かかりきりになっているのだ。

それはもう、実の所ローム星系を出る時に依頼されていたので、そこそこ進んでいる。

だが、肝心のコアプログラムが解析できない。

実行段階からの逆算をしても、暗号対応のプログラムを走らせてもだめだった。

お陰で、何度もアキトからせっつかれている。



『クレータ班長! そちらはどの程度進んだ?』

「何か変化があったの!? こっちは根幹プログラムの解析が終わっていないけど」

『……そうか……そうなると……』



切れてしまった、アキト・マイヤーズという男は肝心な事を中々言わない。

戦闘要員でないからなのかもしれないが、クレータは時々彼のそう言う所が気に入らないと思っている。

だが、取りあえずは切羽詰まった事態に陥りつつあるはわかった。

ならば当然、こちらの完成を彼は急いでいるだろう事は容易に想像がつく。



「でも分からないものは分からないのよ!! せめてプログラム解析のヒントでもあれば……」



何せ、整備班のうち、機体整備に当てているシフトのもの以外、つまり普段休憩をしている者達も駆り出している。

しかも他の部署からも使えそうな人員は片っ端から借り出している。

現在ドック内の人口密度は跳ね上がっていた。

100人近い人間があーでもないこーでもないやっているのだ。

流石に、修理等の時間は整備班が抜けることになるが、その間も他の部署の人間が動いている。

はっきり言って、大抵のシステム情報なら簡単に入手しているはずだ。

ここまで隠蔽されたシステムというのは何事なのかとクレータが頭を痛めていた時。

白き月から一通のメールが届いた。



<<PASS:こんなこともあろうかと>>

「へ?」



確かに、解析パスワードがあればあっという間にシステムを調べられる。

しかし、何故日本語?

だが、クレータ班長にはピンッと来るものがあった。

確か、技術将校や情報将校が言ってみたい台詞No1に輝いた事があるとかなんとか。

あくまでクロノクエイク以前の不確かな情報だが。

何故クレータがそんな事を覚えていたのかと言えば、何か共感するものがあったからとしか言えない。



「兎も角、打ち込んでみればわかるわよね?」



解析で要求してくるパスに日本語変換をつけ”こんなこともあろうかと”と入力する。

すると、突然システムが立ちあがった。



『こんなこともあろうかと! こんなこともあろうかと! こんなこともあろうかと〜〜っ!!



突然、全てのシステム画面が乗っ取られ、見た事も無いおっさんの顔が度アップで映し出された。

クレータは思わずのけぞり尻もちをつく。

さらには、ドック内の人間達全員が異様な空気に動きを止めていた。

しかし、画面の中の人物はお構いなしに話を続けた。



『っか〜やっぱいいねぇ、技術屋にとっちゃこれを言わなきゃ始まらねぇってもんだ!!』

「……そっ、そうですか」



思わず画面の人物に話しかけてしまったクレータだったが、考えてみれば録画だろう。

返事が返ってくる訳も無い。



『恐らく、このシステムを立ち上げる人物がいるとしたらアキトの関係者だろ?

 あの改造エステに乗れる人物がそういるとは思えないしな。

 第一合体システムが起動する条件が奴そのものだ』



クレータは不思議な面持ちで画面の人物を見る。

今しゃべっているのは明らかにクロノクエイク以前の人物だ。

だが、アキト・マイヤーズ提督の事を知っている風に話している。

これはつまり、アキト・マイヤーズ提督は過去の世界に存在していたということなのかと。

あまりにも矛盾的な考え方に思えたが、コールドスリープ等で時間を越える事は理論上不可能ではない。

ならば、この話も聞くに値するかもしれないとクレータは考えた。



『さて、技術やのロマンの集大成!

 合体機構について知りたいなら教えてやろう!』



「合体機構……」



そう、確かにこのエステと紋章機達は合体した。

ただ、勘違いしてはいけないのは紋章機には元々変形のための機構等存在していなかったのだ。

確かに合体後の姿はあくまで現在の紋章機の変形に過ぎない。

特段なかったものが出現したりはしていない。

しかし、同時に変形の為の関節なんて存在していないのだ。

そんな者が組み込まれていたとしたら、紋章機の耐久性は今の半分以下になっているだろう。

エンジェル隊には不安を与えないように黙っていたが、ミント等は知っている様子だった。

だからアキト・マイヤーズ提督から今回の任務を言い渡された時クレータは内心焦ったのだが。

つまり合体機構は改造エステにのみ付けられた機構であり、紋章機に追加された機構は受信機のようなものらしい。

ただし、受信側のエネルギーが安定していないと合体が作動せずに終わるとか。



『結局技術屋の愛があってこそのシステムって訳だ』

「なるほど」

『それと、目の前にいればいいがいないならアキトに伝えておいてくれ。

 こんなもん作っといてなんだが、折角しがらみを無くしたんだ、今度は幸せになれよってな……。

 けっ、柄にもない事を言っちまった、じゃあな!!』



ここで記録は終わっている。

この人物のアキト・マイヤーズに対する思いに少し胸が熱くなったクレータだったが、

早速システムの解析と再構築を行うためにドック内の人員を呼び集めるのだった。

















俺は正直甘く見ていたと感じた。

 黒き月だけでなく白き月のほうも戦闘機風の兵器を発進させている。

 紋章機に似ているが、ラジコンのようなものらしく遠隔操作が可能なものだそうだ。

 白き月の中にいる巫女達が操っているらしい。

その数2000にも及ぶ。

しかも、それらは黒き月より出てくる艦隊を寄せ付けないほどに強い。

 時々合体紋章機モドキに倒されているが、所詮はラジコン操縦、新たな機体が発進するだけだ。

もっとも、性能はやはり紋章機と比べると見劣りする。

しかし、白き月そのものからの援護砲撃もあり、合体紋章機モドキですら近付くのは難しいようだった。

まあ結界の問題もあるので当然と言えなくもないが、

 一度結界に合体紋章機モドキが取りついた時は穴が開きかけていたので絶対とは言えないだろう。

 俺達の方に来る敵がいない訳じゃないが、正面の白き月にどうしても視線が行くのだろう。

 白き月さえどうにかすれば、俺達等どうとでもなると思っているのかもしれない。



 「流石白き月だ、押しているのではないか!?」

 「押し戻す事はできていませんが、敵軍の目的を考えれば十分防御出来ていると言えるでしょう」

 「だが、このままではジリ貧だな、こちらは全機が有人もしくはラジコン兵器。

  動かしている乗り手がいなければ戦えない、しかし、人間は疲れもするし眠りもする。

  対して向こうはその必要が無い……」



 現有戦力で敵に有効な攻撃はクロノブレイクキャノンくらいか。

 白き月にあれ以上の兵器が無いとは言わないが、現時点で使えるなら既に使っているだろう。

だとすれば、さっきからわめいている金髪少女が理性を残しているならこちらの存在を無視はしないはず。

だから合体紋章機モドキの主力はこちらに向かっていた。

 現在はまだ迎撃のラジコン達のお陰で到達していないが、流石にそろそろ出撃すべきだ。

ただ、1機や2機ならともかく、何十機もとなるとこちらが合体しただけでは防げないだろう。

 決め手が欲しいところだ……。



 「エンジェル隊、再出撃の準備はできているか?」

 『いつでもいいよ』

 『ようやくティータイムだと思ったのですけれど、仕方ありませんわね』

 『人使い荒いわね。でもあんな子供の我がままで殺されてたまるもんですか!』

 『はい、がんばります!』

『問題ありません』

 「俺もすぐ追いつく、クロノブレイクキャノンの次弾砲撃エネルギー充填まで粘るぞ」

 『『『『『了解!』』』』』



エンジェル隊が出撃していく。

 今回の戦闘では何度も出撃、補給、再出撃を繰り返している。

いい加減彼女らも限界に近いだろう。

 次を決めないと後がない。

ブリッジで急ぎ指示を終えると、俺もドックへと急いだ。



 「全く、この時代に俺は無関係だと思っていたんだがな、意外と色々しがらみがあるらしい」



ひとりごと、誰にも聞かせる気はないが、それでも愚痴の一つも言いたい所だった。

エオニアを倒せばとりあえず終わりだと思っていたが、実のところただの神輿にすぎなかったらしい。

 操っていたのが黒き月の巫女(?)なのだとしたら、俺の知る人物とかかわり合いがある存在だろうか?

 白き月も関わりあいがあった、オモイカネ百二式というくらいだからそれでもかなり離れている気はするが。

 元より同じ文明が作った、白と黒のうち勝った方が負けた方を取り込むという目的のための自己進化する兵器。

 案外両方の制作にネルガル社が関わっている可能性すらある。

というより、ルリちゃんの姿を見て関わりあいがないと思うほうが危険だった。



 「気持ちを切り替えないとな」



ドック内に入り、ハンガーデッキにかけられているテンカワSplを見る。

 急いで乗り込もうとした俺は、周囲の人だかりを見て思い出した。

 依頼のほうで、何か進展があったのか?



 「クレータ班長、何かあったのか!?」

 「あったわよ! 全くパス一つでこうまで上手く行くとはね」

 「ほう……」

 「いい? このエステバリスに組み込まれている合体機構は、対応する機体の構造を改変する力があるの」

 「……改変?」

 「そうよ、元々変形機構なんてなかった紋章機をああいう形に変えたのもその力」

 「変形機構が……なかっただと?」

 「ええ、だから……アキト。あんたの考えているようなことも可能かもしれないわよ」

 「そうか……詳細は?」

 「これを」



そういって、手渡されたのは映像を入れたデータだった。

その後、内容を確認した俺は、正直困ってしまった、セイヤさん、あんたは一体どこまで知ってたんだ……。

これで白き月と黒き月の制作にネルガルが確実に関わっている事がわかった。

つまりはこれも連中の尻拭いってことじゃないか……。

 全く、遠い未来でも俺のやることは似たり寄ったりってことかね。

お陰で今まで張り詰めていたものがなくなるのを感じた。



 「結局は俺もってことか……。仕方ないな、久しぶりに熱血でいくかな」



そう言った俺の口元は笑みの形になっていることだろう。

 緊張が解け、しかし気力は漲っている、今までに無くやる気に満ちているのを感じていた。

 俺は結局こういうことが好きなんだろうなと改めて気づく。




 「クレータ班長、出撃は可能か?」

 「もちろんよ、整備は完璧だわ」

 「わかった、じゃあ行ってくる!

 「ええ、いってらっしゃい」



クレータ班長と100人近い整備班やらその他の班の人たちに見送られ、俺とエステは出撃することとなった。

出撃して、最初に気付いたのは皆の配置が遠いと言う事だ。

それぞれの合体モドキに対応しているのだろう、仕方の無い所だがこれは不味い。

出撃しました、各個撃破されましたでは笑えない。




「なら先ずは、っと」



俺は一番近くにいたヴァニラのハーベスターに接近、そのまま合体する。

いざ知って見ると簡単な事だ、出力がある程度以上の機体と合体出来る。

変形のためのエネルギーも相手が出しているのだから、その分の出力不足は合体後最適化する事で補っている。

最適化により、出力は最低でも倍以上、また効率化によりスペックは更にその倍近くまで跳ね上がる。

結果として合体によってかなりの強化が施される事となる。

それらは、テンカワSplに無理やり組み込まれたクロノストリングエンジンにより精製されるナノマシンが行う。

また合体後は両機ともがナノマシンを精製するため、形態維持、最適化、効率化にも役立つ。

セイヤさんは結局、合体により機体を強化するというロボットものの醍醐味を作り出してしまったのだ。

普通に考えれば合体機構自体が機体の複雑化、装甲のもろさ、エネルギー伝達の非効率化を生み出すのだが、

この合体はその限りではない、合体する時の形態変化はエネルギーを効率的に使うために行われる。

それに、装甲はナノマシンによる防御膜により跳ね上がる事にもなる。

セイヤさんの異常なまでの合体へのこだわりの集大成、それこそがこのエステと言う訳だ。



「すみません、アキトさん」

「気にしなくていい、今は一刻も早く皆に集合してもらう」

「はい」



ディストーションフィールドを展開しながら突進し、ウサギの形に変形したハーベスターは急ぐ。

ヴァニラと比較的に近い位置にいたのは、ランファのカンフーファイター。

俺は周辺の敵を弾き飛ばしある程度の広さを確保してから、ハーベスターと分離する。



「ランファッ、無事か!?」

『当然!』

「ならエステをあっちに向かって投げつけてくれ!」

『えっ? なんで!?』


「合流を急ぎたいからだよ」

『あー、分かったわよ。それじゃワイヤーアンカー射出っと、行ってこーい!



俺はグルグルとアンカーで固定されてから振り回され、加速が十分着いた所で放される。

エステは自力で加速するより数段早く動き始める。

そこから重力制御で更に加速、ディストーションアタックを仕掛ける。

何体かを突破し、又何体かをすり抜けた時、丁度エステの目の前にラッキースターが躍り出てきた。



『あ〜ん、今回の敵強すぎです! 攻撃効かないんじゃ逃げるしかってあれ!?』

「行くぞ!」

『ちょ、待ってください〜!?』





人型に変形したラッキースターに乗り込んだ俺は、変形直後にビームを放つ。

効率化しているとはいえ、まだ十分充填していなかったので威力はさほどでもないが、接触は回避できた。

そして、ミルフィに砲撃を任せ、加速してハッピートリガーの方に向かう。



「薙ぎ払ってくれ!」

「わっ、わかりました!」



ミルフィの砲撃によって、合流位置までの合体モドキを薙ぎ払い、どうにかハッピートリガーと合流する。

フォルテはかなりうまく立ち回っていたらしく、特に追い詰められていると言う感じではなかった。

だが、このままと言う訳にはいかない。



「フォルテ、弾幕は展開する、一旦下がってくれ」

『へぇ、何か策があるって顔してるね。そんじゃ、頼んだよ』

「あるんですか?」

「まあな、ミルフィ。このまま乱射しつつ下がるぞ」

「はっ、はい、わかりました〜」



こうして下がっている俺達とは逆にランファとヴァニラには戦線を上げてもらっている。

合流地点にはちょうどミントがいるのでそこで全員揃う事になるはずだ。

だが、敵の合体モドキもかなり強い、ギリギリの作戦にならざるを得ない。



「俺の段取りの悪さが悔やまれるな」

「そうなんですか?」

「ま、知ったのが皆が出撃した後だからどうしようもないんだが」

「ならいいじゃないですか! 大丈夫ですよアキトさんならきっとうまくやります!」

「ミルフィにそう言ってもらえるとありがたい」



ミルフィの運のお陰なのか、その後も何度か危ない所があったものの合流そのものは上手く行った。

その代わり、合流ポイントはエルシオールに随分近くなってしまったのが悔やまれる。

上手く時間を取れるだろうか?



「皆! 最大出力の砲撃で敵の動きを止めてくれ!」

『『『『『了解!』』』』』



合流後、一度分離してエルシオールの砲門(クロノブレイクキャノンは冷却中のため除く)も含め砲撃する。

弾幕によって、一時的にではあるが敵が下がる。

コンピュータ的に見れば、何れ尽きる弾幕に付き合う気はないのだろう。

実際、かなりエルシオールの出力は下がっているし、俺達の機体は元より長時間の戦闘には向かない。

30分も撃ち続ける事は不可能だと予測したのだろう。

その通りなのだが、一つだけ違う事がある。

それは……。



「これから合体を行う!」

『誰とですか?』

「全員とだ!」

『は?』

『ちょっと待って!?』

『そんな事出来ますの!?』

『意味がわかりません』

『ええー!? 多人数プレイとか良くないです!!』



最後のは兎も角、概ね予測した反応ではあった。

実際今までは出来なかったし、もし最初から出来ていればそもそもローム星系に行く必要すらなかった。

そう言う意味では、セイヤさんに恨み事の一つも言いたい所だが、

同時にここまで皆と親しくなれたのはその時間のお陰でもある。



「皆のテンションはMAXに近いと思う、そう言う時にしか出来ないんだ。

 そして、この場を切り抜ければ戦争は終わる!

 だから、皆の力を貸してくれ!!」

『はぁ、なんて言うかアンタらしいねぇ』

『問題ありません』

『わっ、わかったわよ。そんなにやりたいなら力を貸してあげる』

『アキトさんには敵いませんわね、いつも美味しい所を持っていくのですもの』

『あっ、アキトさんが望むなら3Pでも4Pでもどんと来いです!』



いや、最後は違うけどね……。

兎も角、皆にも熱意は伝わったかじゃあ始めるとするか。

俺は合体をする為にはどうすればいいのかを、出来る限り明確にイメージする。

それを体内ナノマシンを通じ、テンカワSplに伝達、テンカワSplからナノマシンが拡散する。

それらによって、5機の紋章機がそれぞれ変化を始める。

具体的には、それぞれの機体の砲門が一か所に集中し、アンテナやウイングといった機構は展開する。

5機は、ラッキースターを上部、カンフーファイターを下部に置き、

左右からハッピートリガー、後部にトリックマスターが鎮座する。

お世辞にもきちんとした形とは言えないが、砲門は一か所に集中した。



そして、俺達のコックピットは大移動を起こし、全てラッキースターの内部に集まる。

無理やり一つのコックピットに6人集合したのでかなり狭い事になってしまっているが……。

布石上仕方ないといえば仕方ないんだが……。



「狭いですわ……、っていうかアキトさんお尻さらわないでくださいます? セクハラで訴えますわよ」

「真後ろに来てるからな、済まない。しかしこれは……」

「アタシは構わないよ、アキトを膝の上に乗せるのもオツなもんさ」

「ちょっとそれは流石に問題があるでしょ! っていうか、何気にヴァニラも膝の上に乗せてるから3人で同じ椅子じゃない!?」

「問題ありません」

「いーなー、なんだか私仲間はずれみたいです」

「いやそんなことはないから……」



だいたいの状況は飲み込めたが、正直このままでは不味い。

先ずやるべきことをやってしまおう。



「皆、直にこの状況はなんとかするから、その前に砲撃を撃ってくれ! フォルテの位置が一番届くか?」

「これかね? ぽちっと」

「何簡単に押してるのよ〜〜!?」



砲撃は全員分のを無差別に撃ち尽くすものだった。

お陰で、再接近しつつあった合体モドキを数体巻き込み吹き飛ばしながら残りもしばらく足止めできたようだ。

おあつらえ向きの状況が整ったと言える。



「次はこれだな」



俺は手元のレバーを前に倒す。

すると、先ほどの事でエネルギーが低下した6つのクロノストリングエンジンにナノマシンが補助して再度出力をあげる。

そして、それぞれからナノマシンを増殖させ、今度は広域に散布された。



「まだ何かあるの!?」



ランファがヒステリー状態に陥ってしまったようだが、既に後へは引けなくなっている。

なにせ、この機体をこのままにしておくのは正直不味い。

砲門の数こそ多いが、元より機動戦を想定していないのだから。



「行くぞ! 戦艦合体!」

「「「「「戦艦!?」」」」




エルシオールがナノマシンの光に包まれる、880mもの全長を持つ巨大な艦にナノマシンが影響をあたえるにはかなりのエネルギーを必要とする。

そのために紋章機全てとの合体、つまり6つのクロノストリングエンジンを必要としたのだ。

エルシオール前方下部にあるセンサー類や大規模なハンガーデッキを擁するドック部位がまとめて2つに割れる。

割れた面にはナノマシンによるかなりの厚さを誇るフィールドが張り巡らされているようだ。

それらが下部から両側横部に移動し、更に後部へ向けて滑っていく。

そして、後部左右にある砲塔及びミサイル発射管の区画とドッキングした。

その後、前方部分は2つに割れ、シャッターが降りているが、一つだけナノマシンフィールドでしか仕切られていない巨大な部屋がかいま見える。

クジラルームだ。

いや、ともあれフィールドにより強化保護された部分は後方に回される。

その後、後部エンジン区画等を含む区画が半回転後方に向く。

そして砲塔やミサイル発射管の区画の一部がスライドして両腕となる。

最後に俺たちの6機が合体した団子のような機体が半回転した後部の艦橋直上にドッキングする。

艦橋の部分が内部から露出団子状の俺たちの機体を覆うように組み上がり、最後に目が浮き上がり口元と思しき場所をマスクが覆う。

内部的には俺は提督席に戻ってきたような格好となる。

ただし、周辺にはエンジェル隊の座る各部の武装モニター席も出現しているため中で驚いているレスター達ブリッジ要員やシヴァ皇子には悪いかもしれない。



クロノエルシオン!!」



最後に決めポーズを取らせておもいっきり叫んでみた。

ブリッジのみんなが無言で怖いんだが。

ともあれ、合体はなされた。



「えっ、エルシオール内のエネルギー値が異常です! 通常の3倍近いエネルギーを循環させています!」

「何!? おい! アキト! 一体何をやった!?」

「だから合体だって言ってるだろ、レスター」

「合体って……、エステバリスと紋章機が合体するあれか?」

「そうだ、それをこの艦ごとやった」

「……へ!?」



そう、クロノエルシオンは全長800mを超える超巨大ロボである。

笑いのネタにしか普段ならならないが、やはりセイヤさん、本気でやる人だ。

ここまで出来るとは、合体機構……やるな、ですまないな……。

だが、これによって3倍のエネルギーと倍近い効率をあげられる状況であるなら、当然クロノブレイクキャノンも再チャージ可能ということになる。



「では、合体後早速だがクロノブレイクキャノン再チャージを始めてくれ」

「りょ、了解しました!」

「おい! そんなことできるのか!?」

「はい、今のエンジン出力なら可能です! むしろ前回よりもチャージ時間を短縮できるほどでしょう」

「そんなにか……」



レスターはデタラメぶりに呆れているようだが、正直オレだってご都合主義がすぎると思う。

しかし、セイヤさんの”こんなこともあろうかと”には続きがある、”ご都合主義と笑わば笑え”それくらい無茶苦茶する人と言う事だ。

だが、今はそれが頼もしい、黒き月に対抗できそうな武器はクロノブレイクキャノンくらいのものだからだ。

エルシオールが不調のままでは撃つ事はできない、それにこの機体の武器はそれだけじゃない。



「さあ、皆始めるぞ!!」

「応!!」

「はい!!」

「任せて!」


「問題ありません」

「あらあらうふふ♪」

「ココ! アルモ! 俺達は砲のエネルギー充填と、周辺探知を行う!」

「了解しました!」

「やりましょう!」

「全く、今回は熱いの余も何かしたいものだが……」

「殿下の出番はもう少し後かと」

「ん・・・そうか?」

「はい!」



シヴァ皇子も熱気に当てられているようだ、ともあれクロノエルシオン周辺に集まっている合体紋章機モドキから排除しないとな。

俺は先ず機能把握のため、ナノマシンからのデータを少し読み込んだ。

元より俺にはナノマシンによるサブの記憶領域がある、そこからデータを少し読みこめば使い方は理解できた。

先ずは……。



「ランファ! クロノストリング起動だ!」

「え? クロノストリング?」

「そうだ、念じて手のひらを画面に押し付けるだけでいい」

「えっ、ええ……クロノストリング起動……あっ、そうなの……わかったわ!」



そうして、クロノエルシオンの腰のあたりから、先端部にビームの鏃をつけて、

複数の関節のような部位同士を特殊な重力アンカーでつないでいる長大な鞭のような武器が出現する。

左右から各2本、計4本出現した、それらは操るランファに合わせまるでいきもののように動く。

先端部でもどきを貫き、絡めとって別の敵にぶつけたりしている、4本がそれぞれ別々の敵を倒す様は圧巻だった。



『えっ、何!? それなんなの! そんなの知らない!! 白き月の兵器にもなかった!! どういうこと?!』



黒き月の巫女、ノアと言ったか、彼女にとってもこれは珍事らしい。

過去の白き月も使ったことがないあたり、セイヤさんの趣味性が伺える。

しかし、ならば動揺している今がチャンス。



「ミント!」

「了解ですわ!」



ミントが俺の頭の中を読んで例のラジコンのような簡易紋章機を発信させる。

とはいえ、この機体は元の簡易紋章機とは異なる。

エルシオール本体をあわせ7つのクロノドライブからの相乗効果で得られる巨大なエネルギーの一部を個々の艦に供給しているのだ。

だから、常時全力のビームを撃ちっぱなしという異常事態が起こる。

ワイドワインダーでモドキ達の数をどんどん減らしていく。

そうして出来た道をクロノエルシオンが悠然と進んでいく格好だ。



「敵、準合体紋章機級、周囲20万q以内は駆逐完了!

 クロノエルシオンに取り付く敵はいません!」

「今のうちに距離をつめる! 黒き月を10万qの射程にとらえるぞ!」

「了解! クロノエルシオン、宙域調査を続行しつつ前進します!」




800mを越える巨大なロボが背部に移動した推進機構から光を発しながら前進する。

最も相手は直径3500qという比較にならない巨大さだ。

しかし、チャージしているクロノブレイクキャノンならある程度のダメージが期待できる。

問題は、黒き月のどこに撃ちこむのが一番効果的かを調査しなければならない点だろう。




「黒き月から再度、準合体紋章機級が出現! その数30!

 そして背後から元シェリー艦隊1500が来ます!」

「……ミント、ランファ背後から迫る艦隊の迎撃を頼む!」


「わかりましたわ」

「ちょ!? 正面はどうするつもり!?」

「正面は、ミルフィ!」

「は、はいぃぃ!?」

「フィンガービームランチャーを使って前方敵部隊の排除を頼む!」


「えーっと、ぽちっと、これでいいですか?」

「……ああ」



ミルフィは何の事も無いように、スイッチを押しただけだったが、

丁度タイミング良く片側の5本の指先から発射されたビームは全弾命中しモドキを破壊する。

クロノエルシオンの指が伸びきっていなかったのが逆に幸いしていた。

ある種相手にはどこから撃ってくるのか分からない状態だ。

その後も、適当に両手を動かしては適当にボタンを押しモドキ達を撃破していく。

流石にこんな真似が出来る人物は他にはいないだろう。



『そんなの知らない! 一体なんなの!? 絶対倒してやるんだから!!』



その言葉が終わらないうちに、黒き月から無数の駆逐艦が出撃してきた。

もちろんただの駆逐艦ではない、巨大な砲を搭載した砲艦だ。

砲艦は連射に向いておらず、長射程は便利だが追いかけられると逃げるしかない。

だが、そもそも彼女にとっては使い捨てなのだろう。

ざっと1000以上の砲艦がエネルギーをチャージし始める。

それだけではない、黒き月そのものも、何か巨大なエネルギーを収束し始めている。

恐らく要塞砲があるのだろう、あれだけ巨大な要塞から放たれる砲はどれほどのものか。

だが、これはチャンスでもある。



「ヴァニラ!」

「はい、ナノマシンフィールド及びディストーションフィールド多層展開開始します」



砲艦からの無数の射撃はディストーションフィールドとその内側に張っているナノマシンフィールドで無効化。

多少の負荷はあるものの、行動を制限されるほどではない。

そもそも砲艦の出力程度でどうにかなるほど今のクロノエルシオンの出力は低くないのだから。



「クロノブレイクキャノン充填完了まで後10、9、8、7……」

「フォルテ! トリガーは預ける!」

「あれだけデカイ的だ、外しようがないだろ? 何が目的だい?」

「決まってる、相手が充填している要塞砲の砲塔にぶちこんでやれ!」

「あいよ、わかった。それこそ腕の見せ所さね!」

「2、1、0っ! 出力臨界突破!!」

「クロノブレイクキャノン撃てッー!!」




フォルテの手により発射されたクロノブレイクキャノンは、

狙い通り周辺の敵を蒸発させながら要塞砲の発射口に向けて突き進んでいく。

だが、相手だってこれが当たるとまずい事は理解しているだろう。

全ての無人艦隊が、可能な限りクロノブレイクキャノンの射線上に突入し、威力を落そうとしてくる。

だがそれでも、発射口へ向かう極太の光は衰える事無く突き進む。



『負けるかぁーー!!』



声が聞こえたかと思うと要塞砲は充填途中のまま発射された。

クロノブレイクキャノンのように特殊なエネルギー砲と言う訳ではない。

だが出力だけなら凄まじいその砲は、最大の威力出ないにも拘らずクロノブレイクキャノンの光とぶつかる。

威力は五分五分、少しクロノブレイクキャノンの方が押しているくらいだ。

しかし、それはつまりこちらも相手の発射口に届かせる攻撃を奪われたと言う事でもある。

要塞砲とクロノブレイクキャノンのぶつかり合いで周囲に地震のような空間の震えが走る。

そして、最終的には双方の威力が爆発したように拡散し、消滅した。



「クロノブレイクキャノン、要塞砲と相殺!

 発射口への攻撃は届きませんでした!

 黒き月健在!」

「……再充填までの時間はどの程度かかる?」

「おおよそ5分程度かかると予測されます」

「要塞砲の方は?」

「発射口が閉じていきます! 恐らく誘爆の愚を避けたのかと!」

「ちぃっ!」




あの要塞砲は威力は大したものだが、弱点なのは間違いない。

発射口をとじられたら一気に破壊の難度が跳ね上がる。

だが同時にふと思った、ならもう一つの方法を試すのも手かと。



「ならばクロノエルシオン最大戦速! 発射口が閉じる前に艦ごと飛びこめ!!」

「何を言ってる! 無茶苦茶だぞ!?」

「大丈夫だ! ディストーションフィールドとナノマシンフィールドがある! 内部で臨界状態にでもならなければなんとでもなる」

「しかし……殿下もいらっしゃるのだぞ!?」

「構わぬ、余も有効な攻撃だと思う。それに、もはや黒き月に対抗できるのはこのクロノエルシオンしかありえぬ!」


「殿下……」



レスターの立場では俺を諌めない訳にはいかないだろうし、たしかに無茶だ。

だが、シヴァ皇子の言うようにこの艦以外にあの要塞をどうにか出来る兵器はない。

白き月ならいずれ対抗できるかもしれないが、現時点ではどうしようもない。

そして、今勝てなければ、白き月も取り込まれてしまうだろう。

そうなれば、黒き月の目的意識がどの程度人類のためになるのかという運任せな状況が起こってしまう。

今の巫女が人の事をなんとも思っていない事は確認できているのだから。

俺達に出来ることは、なんとしてもせめて活動停止まで追い込んで見せなければならない。



「クロノブレイクキャノンの再チャージを進めつつ、最大戦速! フィンガービームランチャー全門斉射!!」

「はっ、はいぃ〜」



閉じつつ在る隔壁の隙間から、前倒しで閉じてくるシャッター等を突き破り、黒き月に侵入する。

取り付くまでにかなりの砲撃を受けたが、フィールドは安定している。

臨界にならなければ大丈夫というのははったりではない、ディストーションフィールド等も出力が跳ね上がっていて打ち抜ける主砲など存在しない。

それができるのはまさに、これくらい強力な要塞砲だ。

内部構造はシンプルな筒型、エネルギーの通り道以外の役割はないのだろう。

しかし、800mを超える巨体が普通に通行できることから、要塞砲の太さがわかる。



「ざっと5qくらいあるな、砲身の幅は」

「流石にここまでは兵器も配置してないようだが……」

「このまま奥に行けば、構造上メインジェネレーターに到達するはずです」

「だが流石にただで通してくれる気はないようだな」

「あれは……」

「先程まで熱反応もクロノドライブの反応もなかったのに!?」

「こっ、こちらよりも大きい……」

「へぇ、まだ残っていたのか……なるほど、やはりこっちも関わりがあるようだ」

「アキト……どうしたのだ?」

「いいえ、因縁っていうのはどこまでもついて回るものだとね……」



まさか、ここまであからさまなものが出てくるとは思わなかった。

クロノエルシオンの正面には巨大な赤い機体が存在した。

恐らく向こうの大きさは1q弱、オリジナルとは比較にならない巨大さではあるが……。

その形、そして持っている棒状の武器には見覚えがある。


そう、あれは……。


北辰の愛機、夜・天・光……。


なかがき

また失敗しました!
最終話は次回に持ち越しです!(滝汗)
流石に今までのネタは全て出しきったので後残るのはバトルとエピローグのみです。
次回で最終回にならないということは流石に無いと思いますが……。
伸びる伸びる……一体どこまで伸びるのか……。
記念作品としてどうよと思わなくもない今日このごろです。




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