黒い、黒い世界……。

荒涼として、生きている存在を否定し、ただ枯れ果てていくだけの世界。

元からそんな世界だったのか、光が差さなくなったからか、それとも今そうなったのか……。

分からない、ただ……。

この世界には、もう時間がない……。

壊れ、枯れ果てていくだけの世界……。

本当に……?

生きる者、再生を目指す者、世界を愛する者はいないのか?

誰か……この、心の渇きを、俺の世界を……。


ッ!?







異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第一話 【見知らぬ世界で】


突然俺は覚醒する。
今まで見ていた曖昧模糊とした夢は急速に頭の中から失われ、光が目を焼く。
暫く、俺はその光に目を慣らし、そして周囲の確認をする事にした。
確か……記憶が確かなら、俺の最後に見たものはブラックホールのようなものだったはず。
とはいえ、あんなものが現実にあるとは思えない。
となると……案外夢だったのではいか?
そんな事を考えつつ、目が慣れてきたので確認を始める。

「ここは……森か?」

そう、周囲は木々に覆われ、雑草が多く茂り、人の手が入っていない場所だとわかる。
木はあまり見た事の無いもののようにも見えるが、恐らく杉の親類と言う感じだ。
杉山なのだろうか?
それにしては雑草が多すぎる、やはり自然の森なのだろう。
しかし、俺が何故こんな所にいるかは全くわからなかった。

だがこんな所でボーっとしていても仕方ない、取りあえず森の外に出よう。
そう考え歩きだす、富士の樹海のように方向感覚が狂うものもあるとは言うが、
基本、下っていけば川かもしくは人里の方向に出るのは事実だろう。
もっとも、深い山脈の中心だったりすると下っても山と山の間に出るだけだが、
その場合は普通に詰んでるので考えないでおく。

暫く歩くと、そこには何かが横たわっていた。
俺は警戒しつつそれに近付いて行く、そして、姿が判別できるようになると走り寄った。

「メルカパ! おい! 生きてるかッ!?」

俺が最初に発見したのはメルカパだった、まあ目立つから当然ともいえる気もするが。
ともあれ、俺は倒れているメルカパを揺すって刺激する。
死んでなんてないよな? 俺が生きてたんだ……、気絶してるだけだろ?

「んっ……あ、達也氏……何故うちにいるのでござるか……?」
「ここはお前の家じゃねーよ」
「うちじゃないですと……?」

目が覚めたメルカパはゆっくりと周囲を見回し、ここが森の中のようだと理解する。
そして同時に、酷く焦ったようにさらに周囲を丹念に確認し始めた。
確かに、理解できない事ではあるし混乱するのも分かる、俺はメルカパに落ち着く様に……。

「達也氏!! ここは異世界でござる!!」
「は?」
「だから異世界でござるよ!!」
「なんで?」
「ちょっと見てみるのでござる!!」
「はぁ……」

俺はメルカパの妙な熱気に付いて行けず、異世界について考える。
確かに、異世界召喚なんかのお話と言うのは多い。
俺自身行ってみたい世界が無い訳じゃない、だがそんな馬鹿な事……。

「よく見るでござる! この世界の太陽は1つじゃないでござるよ!」
「太陽? そんなの1つに……は?」

大きな太陽の横に小さな太陽が2つ有るようにも見える。
目にゴミでも入ったのかと目をこするものの、確かに存在しているようだ。
それも、大きな太陽は黄色い地球でも見慣れたものだが、隣の小さいのは赤と青という取り合わせだった。
子連れの太陽、そんな感じを受ける。

「まさか……」
「それだけではないでござるよ!」

メルカパが指差したのはアリの行列、よく虫なんかを運んでいるアレだ。
別に何の変哲もないアリだ、そのサイズがカブトムシくらい大きくなければだが……。

「げぇッ!?」

怖くなって思わず飛びのく、メルカパもなんだろう、大急ぎで追いかけてきた。
アリの数は流石に普通のアリと比べれば少ないようにもみえるが、
それでも数十匹のカブトムシサイズのアリが行列しているのは異様としかいいようがない。

「もしかして、ここってすげぇ怖い所なんじゃ……?」
「そんな気がしてきたでござる……」

出来るだけこの場にはいたくなかったので、俺達は急いで逃げ出した。
メルカパなんてあそこで寝てたんだから、下手すれば食われてたかもしれない。
俺達は警戒しながら進んで行ったが、幸いにして巨大なアリと再会する事はなかった。
ファンタジーのお話ではよく人間サイズのアリと闘ったりするが、カブトムシ大でも十分以上に脅威だ。
もちろん、踏みつぶせれば一発だが、ああいうのは1体倒せばいい訳じゃないからな……。

ともあれ、どうにか森を下り切り獣道というか、一応人が使っていると思しき道に出た。
森に分け入るための道と言った感じなので一人分の幅しかないし、木の枝や草なんかがかかってて邪魔だ。
だけど、これをたどっていけば人里に入れる公算は高いだろう。
少しだけ安心できそうだ。

「メルカパ、まだ大丈夫か?」
「一応……大丈夫で、ござるよ……」

メルカパの息があがってきていた。
下っているわけだから、登りよりはましだが、それでも険しい山道だ、俺も疲れて来ている。
そもそも、人里に出たとしても、会話すら出来るかわからない。
元の世界に帰れる可能性なんて今はとても考えられなかった、ただ、この疲れた体を休めたいそれだけだった。

「この下に、小川っぽいのが流れてるからそこで休憩しよう。
 水くらい飲まないと動けなくなりそうだしな……」
「めっ、名案でござるよ……」

小川について、水を飲み倒れこむように横になった。
メルカパはガブガブ水を飲んでいるが、後で余計に疲れる元だと注意だけはしておいた。
最も、この水が安全かどうかは分からない、腹を下す可能性もある……だが、今は他に手もなかった。

少し落ち着いた所で、清四郎(せいしろう)や静(しずる)の事を考える。
恐らく俺達がこの世界に来ている以上、同じ世界にいる可能性は高い。
あの穴に落ちた人間が全員ここに来ているのだろうとは思うが、2人は俺の目の届く所にいないようだ。
だが、心配はするだけ無駄だ、清四郎は主人公体質だし、今頃勇者か何かとして迎え入れられているだろう。
これは冗談や逃避なんかではない、今まで清四郎は幾つもそうした奇跡のような事をやってきた。
剣道全国大会優勝に始まり、重力子に関する新解釈の論文が学会に認められたり、
アラビアの某国の国王の危機を救ったらしく王の騎士の称号を持っていたり、
その時貰った金で倒産から救った会社が当って大企業になり、資産家としても成功していたり。
神に愛されるという言葉はあいつの為にあるような言葉だ。
だから、恐らく清四郎は静を助けている、そう信じよう。
俺達は今、自分達の事で精いっぱいだ。
もしも見つけたなら一緒に行動するが探すのは足場を固めてからにしなければならない。

静は薄情だと怒るかな?

だが、俺はその事をメルカパに話し一応の賛同を得た。
出来れば4人いたほうが心強いと思うのは、事実だったが。

「さて、メルカパそろそろ動けるか?」
「動きたくないでござる」
「いやいや、こんな所だと食べ物もないぞ」
「それでも動きたくないで御座る」
「一体どうしたんだ?」
「分からないで御座るか? この森、普通の森じゃないでござるよ!?
 アリだけじゃないでござる、途中見なかったでござるか? 
 一瞬1mはありそうなネズミを見たでござる、それに、空に飛んでいる鳥、あれは……」

鳥、しかし普通に考えれば大きすぎるその鳥は暫く俺達の周囲を旋回していたかと思うと、
高度を急激に下げながら俺達に向かってきた!
鳥の羽根に、鳥の足、爪なんかも鋭いが、上半身は人間の女性のものに似ている。
あれは……もしや、ハーピィ!?

「メルカパ!! 森の中に逃げ込むぞ!!」
「動きたくないでござる!!」
「バカ野郎!! 死んでどうする!! 元の世界に帰る気はないのか!?」
「拙者らは勇者ではないでござるよ!!」
「なら勇者に頼めばいい! 勇者なんてお人よしだから引き受けてくれるさ!」
「……しかし……」
「クェェェェッ!!」
「ちっ!」

俺は、河原で拾った石をハーピィに投げつける。
襲撃をかけるために接近していたので、上手い事命中してくれた。
だが、怯むものの、怪我なんかをした様子はない、俺はメルカパを引っ張って道まで走った。
暫く走り続け、どうにか追いかけてくる様子が無い事を確かめた。
ただ、今一瞬、ハーピィが攻撃してくる前に白い枠のようなものが見えた気がした。
あれは……もしかして……。

「自暴自棄にならないでくれよ」
「すまなかったでござる……」
「大丈夫だ、この世界がファンタジーの世界だっていうなら。
 ああいう怪物がいる代わりに、勇者もいれば、俺達の世界じゃ見れないような美人だっているだろ?」
「……それもそうでござるな。エルフや犬耳メイドがいるかもしれないでござる!」
「そうそう、って猫耳じゃなくて犬耳なのか?」
「当然でござる! 今時猫耳は古いのでござるよ!」
「そうかなー? まあ、そう言う事だ。悪い事ばかりじゃないさ、きっと」
「拙者、犬耳メイドに耳掃除をしてもらうまでは死なないと決めたでござる!!」
「その意気だ!」

どの意気だかと少し思ったがまあ、メルカパが元気を取り戻したようなので良しとする。
俺自身は、猫耳の方がいい気がするが……ってどうでもいいな。
まあ、リアルで萌えが堪能できる可能性も……多分……あるんじゃないか……な?(汗)
ともあれ、人里にかなり近づいて来たらしく、道が獣道から多人数に踏み固められた軽四くらいは通れそうな道になる。
それに、森も抜けたようだ、視界が開け下の方には20件程度の村落があるように見える。
ようやく、この世界の人を見る事ができそうだ。

「メルカパ、村らしいものがみえるな」
「そうでござるな」
「さて問題です。俺達は村にどう接触するのがいいでしょう?」
「先ず言葉が通じるかどうか分からんでござるしな。更には風習も服装も不明でござる。
 取りあえずどこかから村の様子を見ない事にはうかつなファーストコンタクトはできんでござるよ」
「まあ、ある程度分かっている事はある」
「なんでござるか?」
「ここは恐らく農村だろう、下に段々畑が見えるしな」
「確かに」
「だとすれば、日が暮れる前に俺達が行っても人は殆どいない」
「それはそうでござろうな」
「今、俺達が行った場合、人が少ないので怪しまれても逃げられる。
 但し知識は不足するから上手く接触できるかわからない」
「辞めておいた方がいいでござろう」
「しかし、夜を待った場合。闇に紛れられるという点と、観察できるという点はプラスになるが。
 俺達は一晩野宿するしかないというリスクがある」
「う”……出来ればしたくないでござるな……」

この世界で野宿すると言う事は、つまりはモンスターに出くわす可能性があると言う事だ。
その上俺達は、山に入るなりして木の実を取ってくるくらいしか今日の食べ物もない。
つまり、村人に対してリスクを負っても素早くコンタクトを取るか、
それとも村人と上手く接触するために危険を冒すか……。
選択は案外シビアそうだった。

「それでメルカパどっちがいいと思う?」
「拙者に決めろというのでござるか?」
「一応俺としては、夜を待つのを押したいが、その場合、ねぐらの確保と、食料調達をしないとな。
 リスクが伴うから、メルカパにも意見を聞いておきたい」
「ううむ、そうでござるなー……。拙者、出来れば風呂に入りたいでござる」
「風呂?」
「綺麗好きだからという訳ではなく……先ほど大を済ませた時、拭ききれなかったのでござるよ」
「……」
「無言で離れないでほしいでござる!!」
「いや、そうはいってもな……」
「ティッシュがないのでござるよ!! 葉っぱで拭くしかないでござろう!!」
「ああ、なるほど……」

それでも、メルカパと一定の距離をとりつつ、しかし確かに緊急な命題の一つだと分かる。
ウォシュレットどころかトイレットペーパーもないとなれば、下の問題ながらかなり緊急だ。
葉っぱは下手をするとかぶれる可能性すらあるしな……。
インドでは昔、左手で拭いて、右手で食べる事になっていたらしいが、そんな生活まっぴらごめんだ。
一日どころかまだ数時間だというのに、色々やばい事が浮き彫りになってくる。
現地の人との初接触と言う事で、どこか好奇心に浮かれていたが、早く元の世界に帰る方策を見つけないとやばそうだ。

「ならすぐ接触すると言う事か?」
「それは、出来ればそうしたいでござるが……。
 幸い割とこの辺りは温かいでござるし、さっきの小川のような場所があれば、洗ってくるでござる」
「確かに水源は確保しておくべきだな……、畑があるって事は近くに水源もあるんだろうし、ちょっと探してみよう」
「そうでござるな」

そうして、俺達は村人と出会わないようあまり村には近づかず、小川か農業用のため池でもないかと探す事にした。
すると、村へと続く道と枝分かれした道があるのを発見、少し歩くとそこは川、いや小さな滝壺のような場所だった。
小規模ながら滝が出来ており、滝壺が出来て深くなった場所があり、村の方向へ向けて川は流れている。
俺達は、発見しても直ぐには近づかなかった。
理由は途中で通った小川のようにモンスターの水場になっていないか確認するためだ。
武器らしい武器もなければ心構えもない、ましてや対処法等知るはずもない俺達だから警戒だけは怠れない。

「あっ……達也氏!」
「どうしたメルカパ……なっ!?」

俺達は同時に不味いと思った。
その滝壺付近には先客がいたのだ。
それも、遠目ではっきりとはしないが恐らく若い女性。
まだ300m以上離れているにも拘らず、抜けるほど白い肌をしていると判別できる。
だが、それだけではないその深緑色と思しき髪の毛は地球上の人類種ではないと分かる。
まあ、染めている可能性も無くはないが、水浴びの場で髪を洗っても落ちないと言う事はないだろう。
俺達は、そんな事を確認してからささっと物影に隠れた。
しかし、どうしても視線がそちらに向く、距離があってはっきりしないとはいえ女性の裸。
母親以外のそれを始めてみるのは俺もメルカパも同じだった。

「さ……早速、お約束イベントでござるな……」
「お約束じゃないだろう、普通は鉢合わせしてから痴漢扱いされつつ知り合いになるとかだろ?」
「それもそうでござるが、現実問題そんな事になったら村に入る前に治安組織のお世話になってしまうでござる」
「否定できないな……」

メルカパは大柄な典型的オタク体型とは裏腹に現実を良く見ているようだ。
ってまあ、人の事はあまり言えないが……。

「ともあれ、堪能出来る限りは堪能したいでござる!」
「せめて見つからないようしないとな……」
「異世界でいきなり問題を起こすつもりはないでござるよ」
「いや、これは既に問題行為なんだがな」
「行かないで御座るか?」
「いや……」

正直、女性の裸に興味が無いと言えば嘘になる。
この距離からでも若くて美人そうな感じはわかるからな、流石に輪郭くらいしかわからんが。
問題は気付かれずにどこまで近づけるか……。

「ううむ、一瞬こっちを見たような……」
「この辺が限界でござろうか?」

茂みに隠れつつ、100mくらいまで近づいたが、それ以上は難しいようだ。
大体の感じはわかるようになったが、覘きとしてははっきりしない。
ただ、水浴びをしているその女性は光を放っているかのように美しかった。
もちろん、あくまでそう俺達が思っただけだが。
この距離からでもバストやヒップのラインが素晴らしい事ははっきりと分かる。
もっと近づくべきかと少しメルカパと相談しようとした時。
……ん?
……枠?
俺は、空中にそれっぽい枠が見える事に気がついた。

「メルカパ、一つ聞きたいんだが、これ見えるか?」
「なんでござる? 女性の上には空か滝くらいしか見えないでござるよ?」
「そうか……」

どうやらメルカパには見えていないようだ。
さっきもハーピィに何か反応したようだが……。
俺は、その枠に触れてみる事にした。
幸い方向はその女性と同じだが、自分の手元近くで触れる事ができた。

ピィィィィィィン………。

なんだ? 音が……いや、違う何か開いた?
これは……この白い輪郭と、表示や数値は……。
もしかして、ステータスウィンドウ……なのか?
思わず、俺は息をのむ。
そして、何かが繋がった感覚がした……。
すると周囲に無数のウィンドウが開く。
空中に開かれた数百、もしかしたら数千のウィンドウ。
そこには、色々な物の数値が書かれていた。
石ころ、いや砂や草、虫、近くに潜んでいた獣、川の中の魚のステータスすら見える。
俺は、それらを見て、もしかして、と自分を見る。

+++++
名前:渡辺達也(わたなべたつや)
種族:人間
職業:異邦人
強者度:1
生命力:14/20
精神力:2/3
筋力:14
防御力:11
器用度:15
素早さ:12
魔力:8
抵抗力:12
耐久性:13
<<術・技>>
観察眼:熟練度:1(能力を見る事が出来る)
<<装備>>
学生服
<<物品>>
財布(1242円)
ハンカチ:1
シャープペンシル:1
++++++

財布の中身までわかるとは……(中身がさびしいのは置くとして)これはつまり……。
異世界召喚ものの二次創作なんかでありがちな、相手の能力が一目瞭然なチートですねわかります。
それに、全ての能力を日本語で表しているあたり”王国戦旗”の能力設定に見える。
基準を考えるなら、そこそこかそれ以下、まあ、やり直しが出来ないならそんなものかもしれないが。
俺は思わずメルカパを見る。
メルカパは何をされてるのか分からないのだろう、不思議そうな顔で見返す。

+++++
名前:鳴嘉巴(なりたよしとも)
種族:人間
職業:異邦人
強者度:1
生命力:15/23
精神力:4/9
筋力:12
防御力:16
器用度:13
素早さ:8
魔力:14
抵抗力:9
耐久性:15
<<術・技>>
共通魔法:熟練度:1(魔法語の読み書き、発火、簡易結界使用可能)
召喚魔法:熟練度:1(発光玉の召喚が可能)
<<装備>>
学生服
<<物品>>
財布(6922円)
同人誌:3
++++++

メルカパは魔法の素養があるのか、俺のこの能力と似たようなチートなのかな?
どちらにしろ、現状では確かめようがない、それよりは今は面白そうな方を言おう!(笑
確かめるには丁度いいしな、俺はあえて口元をつりあげならメルカパに言う。

「なぁメルカパ、同人誌持ってないか?」
「え……あー、そうでござるな、落下の時に全部無くなってしまったでござる」
「へぇ、3冊ほど隠してるように見えるんだが?」
「ッ!? あっ、あげないでござるよ!」
「別にそんなつもりはないって、それより大声を出すなよ」
「すっ、すまんでござる。しかし何故……」
「なに、ちょっと確かめたい事があっただけさ」

詳しく話したい所だが、それは後にして俺は滝壺のあたりにいる女性に……あれ?
いつの間にかいなくなっていた。
まあ、さっきからドタバタしてたし、危険を感じた可能性はあるな。
というか、彼女が変える方向を考えると俺達やばい。
と言う事でメルカパと少し奥まで森に逃げ込んだ。
意識してみると、森はモンスターがかなりいる事がわかる、近くにこそ来ていないが、場合によってはやばそうだ。
しかし、この能力があれば、接近する前に知る事ができる、さっきほど危険に近寄らなくて済みそうだ。
そう思っていた時もありました……。

「メルカパッ、危ない!!」
「えっ!?」

俺は瞬間的にメルカパに飛びかかり押し倒す。
その上を何かが凄い勢いで飛び過ぎる、そして、メルカパの後ろにあった木に突き刺さった。
俺とメルカパはそれを見てうっとうなる、矢だ、そう、間違いないこれは弓矢の矢。
矢じりが木にめり込んでいる所から、当っていればメルカパは確実に大怪我をしていただろう。
俺が気がついたのは、周囲のパラメーターの一つから何か飛来するのが見えたからだ。
普段なら気がつかなかった、この能力のお陰で助かったと言えるだろう。

+++++
名前:リフティ・オルテーラ・ウィシネルド
種族:エルフ
職業:狩人
強者度:12
生命力:??/??
精神力:??/??
筋力:20
防御力:12
器用度:??
素早さ:??
魔力:??
抵抗力:16
耐久性:8
<<術・技>>
弓射術:熟練度:?
精霊魔法:熟練度:?
<<装備>>
エルフの弓
森の狩人服
?????
<<物品>>
矢筒(矢18本)
財布(325D)
???
???
++++++

エルフ……だと!?
もしかして、さっきの緑髪の姉ちゃんか!?
覘いたのは悪かったが殺されるような事じゃないだろ!?

「なんだって!? エルフってなんでござるか!?」
「うお!?」

どうやら心の声が漏れていたらしい。
我ながら動揺が激しいようだ。
しかし、メルカパは息を切らしながらも、何だか別の事に興奮しているようだ。
あー、そう言えばさっき……。

「もしかして追いかけて来てるのはエルフでござるか!?」
「その通りだよ! ついでに言えばさっき川で水浴びしてたのも!!」
「なんと!? しっかり目に焼き付けていなかったでござる! もったいない!!」
「しかし、裸見たくらいで殺そうとするか!?」

俺はさっきから飛来する矢を相手の位置と音から推察して避けている。
攻撃タイミングが近づいてくると相手のウィンドウが赤く染まる、ありがたい仕様だ。
それでもメルカパを庇いながら逃げるとなると無傷とはいかない。
掠ったり、回避のために色々な場所を怪我する羽目になっている。
草木も地面も怪我するような突起はいくらでもあるからだ。

「多分、違うでござるよ」
「何!?」
「森の中に入り込んだ事が問題なのでござろう!」
「チッ」

俺はメルカパを庇って伏せる。
どういう意味だ?

「森の中なら俺達が出てきたのも森じゃないか!」
「違うのでござる、さっきの太陽を基本とした場合、こっちは東側、拙者達が来たのは西側。
 恐らく、あのエルフはこっち側の森の番人なのでござろう!」
「なら森から出ればいいのか!?」
「ちょっともったいない気もするでござるが、その通りでござる!」
「なら走るぞ!」
「分かったでござる!」

メルカパは既に少しつらそうではあるが、早くしないと殺される。
エルフとのラブロマンスを期待しているのだとしても、現時点では無理というものだろう。
っていうか森の番人だとしても警告もないってのはどういう事だ!?
あー、その辺りは裸覘いたせいなのかもしれないな……。
俺達はそうして東の森を逃げ出したのだった。











私の名は、リフティ・オルテーラ・ウィシネルド。
妖精の森の守護者の一人だ、ここは妖精の王国の西端にあたる国境線も兼ねており、人間の国と明確な区切りがある。
それは人間と妖精の間の協定であり、破れば戦争になる可能性もある。
もちろん、緩衝地帯はある、人間の村からこの森の入口付近まではどちらが入り込んでもいいと言う事になっている。
そうしている理由は、人間側も妖精側も国境線に壁等を作る予算がないからだ。
まあ完全に敵対している訳ではないという点もあるにはあるのだけれど。
私は同僚のアルテアに警備を引き継ぎ、一度水浴びをしてから詰所に戻るつもりだった。
因みに、守護者とは人間で言う国境警備隊と同じものであるためそれなりに数がいる。
水浴びをする時には周囲に誰かいないかは事前に確認した。
まあ、見られて困るようなものではないのだけど、乙女の嗜みとしてあけっぴろげにする訳にもいかない。
水浴びが出来る場所が詰所にあればいいのだけれど……。
そうして暫くすると少し離れた所に気配が近づいてきた。
ここは緩衝地帯に属する為、人間だろうと咎めだては出来ない。
でも、このままでは裸を見られてしまう……、どうしよう?

「さっさと洗い流して出るしかないかな」

そうして、ささっと水浴びを済ませた私は、先ほどの気配が妖精の森の方に向かっている事に気づく。
まずい!
乙女の嗜みなんか考えている暇じゃなかった!
妖精の森の国境線を越えるだけでも重罪だけど、あの先には確か姫殿下の離宮があるはず。
もしも逃げ込まれたりしたら、私の首、いえ、妖精の森守護者全員の首が飛んでもおかしくない!
近衛隊にもしも見つかったら、あつらは当然として私達もお終いだ。

警告なんかしてる暇はない、何としてでも食いとめないと。
追いついて分かったのは、相手は肥った男と凡庸そうな男の2人組み、でも明らかにこの辺りの住人じゃない。
それどころか、隣にある人間の国に行った時に見たどの格好とも合致しない。
明らかに異邦人という感じね、あの焦り方からすると何かから逃げてる?
隣国に潜り込んでいた間者か何かかしら? だとしてもあの恰好は……。

いえ、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
私は急いで弓に矢をつがえ、放つ。
先ずは足止めのつもりで、図体の大きな方に向けて放った。
けれど一人がまるで見切ったかのようにもう一人を押し倒して回避する。
外した、と言う事は案外使い手ってこと?
その後、何度か足止めの矢を放つけど、一つも当らなかった。
気配を探ったりしているようにも見えないし、素人としか思えない動きなんだけど……。
まるで私の動きを先読みしているみたいに、射撃に合わせて回避する。

それどころか、凡庸そうなその男の目は常に私の位置を捕えていた。
木々の間に隠れていても、藪の中に潜んでも、その目は私がいる場所を常に見ていた。
そして、矢を放つ瞬間を見切って回避する……明らかに只者ではない。
しかし、男達は私の意図に気付いたのか方向を転換、森の出口に向かって走り出した。
私の使命は森に人を入れないようにする事、それ以上の命令は与えられていない。

でも……あの男、何者だったのだろう?

本当に間者だったのだろうか?

それにしては、潜入方法もお粗末にすぎた、それでいてあの強さ……。
私はその答えの出ない問いを何度も繰り返す事になった。




あとがき

いつの間にやら8周年と共に7900万HITを達成する事ができました!
ありがたい話です。
来年は早々に8000万HITに到達しそうですねw
流石に募集するには期間が短すぎるので諦めますが、2013年もいろいろありそうですw

さて、連載を開始してみたのはいいけど、他の作品の事も気になっておりまして。
この作品はストックがあるのである程度安定して週一にできると思います。
見てくれる人がいるかはわかりませんが、魔王日記も再開できるように頑張りますので時間をくださいね(汗)



押していただけると嬉しいです♪

<<前話 目次 次話>>

長文感想は掲示板をご利用ください。

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.