異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第二話 【カトナの村】


「メルカパ、どうやら俺達はチート能力を持っているらしい」
「マジでござるか!?」

森から逃げ出して追いかけてこない事を確認してから、
人に見つからないように村の近くにやってくる。
今夜中に確認すべき事が多々あるからだ。
それは兎も角、日が暮れるまではあまり近づけないので、俺達は近くの崖に潜んで待つ事にした。
その間に俺は分かった事をメルカパに言う事にした。

「俺はどうやら色々な人やら物やらのステータスを見る事が出来るらしい」
「なんと、それは凄いですな、拙者も出来るのでござるか?」
「いいや、それは俺だけの能力だ」
「なんと……、達也氏(たつやうじ)が主人公でござったとは!?」
「いや、メルカパも能力はあるぞ」
「なんと!? どんなでござるか!?」
「共通魔法と召喚魔法を使えるらしい。
 共通魔法は魔法語の読み書き、発火の魔法、簡易結界の作成が可能とあった。
 召喚は発光玉だけのようだが、どちらも熟練度がある以上色々憶えるんじゃないかな」
「それは、一体どうやるのでござる!?」
「知らん」
「それはないでござるよ達也氏!!」
「いや、そうは言われても、あくまでそうステータスに書いてあるだけだしな」
「ふうむ、色々試しておくでござるよ」

神妙な顔でメルカパは考えているようだが、今試すわけにはいかない。
そろそろ日が暮れる、村の人達に見つかるのは色々まずい。
せめて、日本語でOKなのか現地語なのかそれだけでも確認しない事にはうかつに話しかけられない。

そんな事をしているうちに夜がやってくる。
村はそれぞれが明かりをつけて、炊事をやっているのだろう煙が上がっている。
俺達は村の方に近付いた。

「ステータス画面にはほとんどが村人表記だな、戦闘力は俺達より上のも何人かいるが、さほど強くは無いようだ」
「便利でござるな達也氏の能力は」
「まあな、だけど俺のは地味だけどな。他人には分からない能力だし」
「それはそうでござるが、色々使い勝手はよさそうでござる」
「それよりも、もっと村に近付こう。声を聞かない事には彼らが何語を話しているのかもわからない」
「そうでござるな」

観察眼、ステータスを閲覧できるこの能力の強力な所は人がどこにいるのか建物越しでも分かる事だ。
人どころか、石や草なんかも検索から除外しておかなければ全部表示される。
ただし、表示が不鮮明なものもある。
レベル差が大きいとなるのだろう、さっきのエルフの能力はほとんど分からなかった。

だがそれでも凄まじく便利な能力には違いない。
この能力があれば不意打ちされる危険はかなり低くなるし、警戒すべき人物も直ぐに分かる。
それにこうした隠密行動の時には、近くに人がいないかを知る事も出来る。
そうして、上手く人がいない場所を選んで進み、村の中に入り込んだ俺達は、
少し大きめの家に明かりがついている事を確認し、聞き耳を立てる事にした。
人がいる事はアイコンで確認できたが、寝てるか起きてるかの判別や声が聞こえるかどうかはわからない。
幸いここは窓があいているので、中から見えないように壁に張り付く形で話しを聞く。

「隣村のアルカンドは今年凶作になるかも知れんと言っていた」
「それは本当ですか?」
「ああ、場合によっては食べ物を融通する必要が出てくるな」
「領主様はなんと?」
「まだ問い合わせをした訳ではないからなんとも分からん。
 ただ、領主様はあの通りの御方だから……」
「望みは薄いのですね……」
「それどころか……近々増税するという話すら聞こえてくる」
「そんな! この村だって余裕がある訳ではないのですよ!?」
「ああ……、我々に草でも食っておけと言うつもりらしいわい……」

行き成り深刻な話しが浮き彫りになった。
ただ、これで日本語で会話が出来る事が確認できた。
同時にこの世界は完全な異世界ではなく、何らかの形で日本人なりなんなりが関係している可能性が高い事もわかった。
もちろん今関係しているのかは分からないが……。

(どうしてかは分からぬでござるが、ラッキーでござるな)
(後は、文化的な礼儀なんだろうけどそっちは……)
(協力者が必要でござるな……、正直当って砕けるほうがマシと言う気がするでござる)
(……確かに)

俺達は既に立っていなかった、座っているつもりだったがズリズリと寝っ転がって行った。
腹が減っていたし、擦過傷や打ち身といったレベルではあるが、怪我もしている。
正直今日野宿をするのは厳しいところだ、寝床も見つけられなかったし。
だが、村人に接触してよそ者として追い出されたり、変な人と間違われて捕まるのも御免だ。
正直俺達は既に詰んでいた、このまま寝てしまおうかとすら思った。
だからか、集中力が残っていなかったのだろう……接近する人影に気づかなかった。

「あら、家の前で倒れこんで、一体どうしたの?」
「え?」
「なんでござる?」
「見かけない顔ね? 旅人……にしてはボロボロね……何かあったの?」
「あっ、いや……」

現地の女性だろう、着ている服は地味なものでカーディガンの下にワンピースと言う感じだった。
だが、こちらを心配そうに覘きこむ顔は端正なものだった。
この世界の女性は美人ばかりなのだろうか?
といっても、まだエルフとこの女性しか見た事が無いので何とも言えないが。
俺は隣のメルカパを見た、そこには石造が鎮座していた……。
好みのストライクだったのだろうか?
ともあれ、このまま話をしない訳にも行くまい。
先ずステータスチェックをしてみるか。

+++++
名前:リディア・オルトレン
種族:人間
職業:村長の娘
強者度:3
生命力:21/23
精神力:4/5
筋力:13
防御力:10
器用度:11
素早さ:13
魔力:7
抵抗力:10
耐久性:12
<<術・技>>
農業:熟練度:2(初級農業者、畑の効率的な耕し方が分かり始めてきている)
<<装備>>
布の服
<<物品>>
財布(129D)
ハンカチ
++++++

村長の娘、そういえばさっき覘いていた2人の話を考えるとあの2人が村長夫妻か。
それから、エルフもそうだったが、彼女の財布にもDという通貨単位の金が入っているようだ。
エルフと人間共通の金と言う認識でいいのだろうか?
というかDって何の略だろう?
取りあえず固まっているメルカパを尻目に、俺はリディアと言う少女と話をする事にした。

「旅の途中だったのですが、盗賊に荷物を奪われ、逃げ回っているうちに道に迷ってしまい……。
 森やら山やらを駆け回る事数日、どうにかこうにか村を見つけたんです。
 でも、この村の人とは面識がありませんし、どうしたものかと考えているうちにへたり込んでしまった次第でして」
「それは大変ね……、見た所怪我もしてるようだし、今日は家にいらっしゃい」

そう言って安心させるようにほほ笑む様は、人懐っこそうな感じと相まって可愛い。
小さいけど元気のいい子という印象だ、赤毛も闊達な印象に合っていて魅力を高めていた。
村娘にしておくには惜しい、というか、それ以前に俺達はこの村の事を何も知らない訳だが。
ともあれ、そんな訳でさきほどの家に招き入れられた俺達は、家族に紹介される事に……。

「父さん、母さん、行き倒れの人達がいたから連れて来たよ!」

行き倒れは酷い……ってまあ、その通りだから否定のしようも無いけど。
すると、奥から先ほど話していた夫婦らしき人物が出てきた。
50代くらいかとも思ったが、考えてみたら最近と違い昔は老けこむのも早かったらしい。
それに、日本人の風体でもない、となれば外見から年齢を推し量るのは難しいだろう。

「名前はって……あれ? まだ自己紹介もしてなかったよね」
「あ、俺は渡辺達也(わたなべたつや)」
「鳴嘉巴(なりたよしとも)でござる」
「あたしは、リディア、リディア・オルトレンよ! リディって呼んでね!」
「……」
「……」

俺達とリディアが自己紹介が自己紹介をしている時、その両親は何か不思議そうな顔で俺達を見ていた。
いったい何なんだろう?
それは、敵意とか好意とかではないように感じたが……。
しかし、俺達が挨拶を終えるとその表情が嘘だったかのように、好意的な笑みを浮かべた。

「ワシはトーロット・オルトレン。この村、カトナ村の村長をしておる」
「私はエディナ・オルトレン。この子の母親よ。リディと仲良くしてあげてね」

どちらも不思議なほど好意的で、だからこそ俺はどうしていいのか分からなくなった。
だが……。

「これはうまいでござる! まさか、ニンジンがこれほど旨いとは思わなかったでござる!」
「よっぽどお腹すいてらしたんですね。よかったらお代わりもありますよ?」
「よろしくお願いするでござる!」

メルカパは既に順応して、リディアの母親にお代わりを要求していた。
俺はまだ怪我の治療が残っているため、食事は後回しになっている訳だが。
リディアのほうは、俺の傷を酒か何かの霧吹きでさっと消毒してから何だかわからない薬草をあてがった。
そしてそのまま包帯を巻く。
不思議と痛みが薄らいでいる、流石に霧吹きで消毒された時は痛かったが。

「はい、これでおしまい!
 転んだんでしょうけど、擦り傷は病気の元になるから気をつけて」
「ありがとう」
「どういたしまして♪」

リディアは、小柄で明るく、雰囲気を楽しくする才能があるようだった。
両親も人の好さそうな顔をしている、裏で話していた事も或る意味お人よしの発言でもあるし。
隣村の保証まで引き受ける、まあ、互いにそうする事で今までやってきたのかもしれないが。
それでも警戒からか、リディアの父親は俺達の事を知りたがった。

「ところで、貴方がたはどのあたりから来たんです?」
「あー、西の方にある森の反対側くらいじゃないかな」
「西にある森っていうと、リアドネ山脈の向こう側からっていうことですか!?」
「あー、まあ盗賊に襲われたからね」
「山脈の向こう側には王都があると言われています。
 私達は村から出た事がないのでよく知らないのですが」
「あー……、反対側といっても王都とさほど近い訳じゃないよ」
「そうなのですか」

まずい……、俺達はこの世界の地理なんて知らない。
しかし、何とかごまかさなくては……。
この村から追い出されたら野たれ死ぬ事になりかねない。
全神経を集中して会話する事にする。

「何分、外界から切り離されたような所にいたので、世情には疎いんですよ」
「へぇ、確かに服とか2人とも黒っぽい服だし、変わってるね」
「これは、我々の村では学生専用の服なんです」
「学生? えーっと、王都にある王立学院のような?」

うぐ!?
メルカパの奴が脇腹に肘をくれてきた。
ああ、確かに失敗のようだ。
ちょっと考えれば分かる事だよな、中世ヨーロッパの識字率はかなり低かったらしい。
20%に満たないレベルだったとすら聞いている。
つまり、日本の寺子屋に相当するような民間学校が出来たのはかなり最近の事らしい。
もしも、この世界が中世と同じ文明レベルなら、
民間人が学校に行くと言う事が奇異であると言う事は十分考えられる事だった。

「ちょっと変わった村でござってな。
 村は痩せた土地でござるゆえ、作物を作ってるだけではやっていけないのでござるよ。
 だから出稼ぎというか、外にいって仕事に就くのが慣例となっているでござる。
 そのため、外で直ぐ仕事につけるよう、学校を作っているのでござるよ」
「へー、凄いね! って言う事は2人とも出稼ぎ先を探して旅してるの?」
「その通りでござるよ。な?」
「ああ、だからというか。
 盗賊に襲われた時、金やら着替えやら食べ物やら全部持っていかれたから。
 早急に仕事しないと行倒れになってしまう」
「うーん、そうねー。じゃあ、一体何が出来るの?」
「失せ物探しとか、薬草集めとか、集めてくるべきものと大体の場所さえ教えてくれれば行けると思う」
「へー、面白そう! だったらちょっとやって見て!」

リディアが食いついてきた、頭のてっぺん辺りから生えているアホ毛が楽しそうに揺れている。
実際にアホ毛が生えている人を見るのは実は初めてだ。
っていうか、現実的にあんな細い束くらいで髪の毛が立つなんてポマードでバリバリ固めないと無理だろう。
だが、リディアのアホ毛は重力を無視するがごとく柔らかそうなまま空中を揺れている。
これも一つのファンタジー効果と言う奴だろうか。

「そうだなー、何か探してほしいものを言ってみてくれ。家の中にあるのなら探して見せるよ」
「何でも?」
「ある程度きちんとした情報があれば、行けると思うが」
「うーん、それじゃーね。この家にはオルゴールが1台あります。どこにあるでしょうか!?」
「オルゴールね……」

俺は、さっきまでor条件で合わせていたパーティ、敵というパラメーター表示の条件を変更。
オルゴールにしてみた。
こんな直接検索できるのかはわからないが……。
お、いけたな……、なるほどそう言う事か。

「この家、2階あったよな?」
「うん。あるけど」
「ちょっと行ってみてもいいかい?」
「いいよ?」
「じゃあ」

そう言って、リディアを引き連れたまま2階に。
だが、行ってみると、まだ上に表示されている。
うーん、もしかして。

「なあ、リディ。ここって屋根裏部屋ある?」
「物置ならあるけど」
「案内してくれる?」
「いいよ!」

なんだか楽しそうにリディアははしごを運んできた。
俺は、それを登って屋根裏部屋に。
凄い蜘蛛の巣でした……。

「流石に5年以上開けてないからなー。ごめんね?」
「いや、いいけど……」

俺はその中からオルゴールと表示されている物を取りだす。
流石に埃だらけになったものの、リディアが拭きとってくれた。

「流石だねー、あっという間に見つけるなんて!」
「まあ、分かりやすい物だったからな」
「いやいや、初めての家だよ! 良く分かったよね!」
「カンっていうのかな、俺昔から探すのは得意だったんだ」
「へぇ、なんか凄いね♪」

そうやって、何が出来るのかを話していく内に、
食事は和やかに進み、俺達は客間を与えられて休む事になった。
ただ、彼女の両親の話を考えるとこの先、食料事情は厳しくなる可能性が高かった。
そんな中で俺達のような得体のしれない人間を泊めてくれるばかりか食事すら出してくれるとは。
正直、恩義を感じない訳には行かなかった。

夕食の後、暫く談笑して客間に通される俺達。
遠慮はしなくていい、なんて言われているがそう言う訳にも行かない。
そもそも、山岳の村であるカトナ村にそんな余裕があるようには見えなかった。
だが、ベッドはありがたく使わせてもらう事にして、隣のメルカパに話しかける。

「優しい人達でよかったな」
「そうでござるな……」
「だが、このままってわけにはいかないよな」
「何がでござるか?」
「一応失せ物探しや、薬草とりなんかを仕事にしたいと考えているが……」
「いつもある仕事とは限らないでござるな」

メルカパはどこか渋ったような顔で言う。
確かに、実感がわかないのも分かる、俺自身この能力は本当に自分だけの能力かもわからないし。

「メルカパが魔法を使えれば多分色々できるんだろうけどな」
「今は無理でござろう」
「手引書でもあれはな……」

これも小さいながら懸案の一つ。
何せ俺達には、元手がない、旅に耐えられる装備もない。
なんとか村で金か、旅の装備を稼がないといけないわけだが……。

「どれくらい時間がかかるのでござろうな?」
「……難しい話しだな」

このカトナ村で農業以外の仕事がそう多くあるとは思えない。
僅か20戸程度なら100人もいない程度の村なのだから。
ならば少し無茶をしてでも規模の大きな町に行くべきかもしれない。
そうすれば、メルカパが魔法を使えるようになるかもしれない。

「魔法を使えるようになれば拙者もモテモテに!?」
「それは知らんけど……」
「この世界の人々は我々の世界みたいに情報が共有されてないでござる」
「ああ、そうだろうな多分」
「だったら、見た目偏重主義はまだ発生していないと言う事でござろう?」
「それは……、確かにそうかもしれないな」

女性がイケメンに走るのは何もそれだけが理由ではないだろうが、
それでも確かに、TV等は無いように思えるので、イケメンを見る機会は少ないだろう。
目が肥えている女性が減ると言う事は、見た目が多少悪くてもモテる可能性があると言う事かもしれない。
メルカパのある意味前向きな言葉に、流石だと一目置いた。
実際、苛めにも屈しなかったし、己を貫く事にかけては一流なのかもしれない。

俺だって、二枚目なんてとても言えない容姿ではある、並……くらいはあると信じているが……。
ただ、イケメンというのは神に愛された清四郎なんかを除けば、殆どは努力の結晶だと言う事は知っている。
運動したり、ダイエットしたり、化粧をしたり、アクセサリーを選んだり、見た目を磨き続けた結果なのだ。
それを怠ってきた俺達が、早々モテるとは思えないんだがな……。

「しかし、先立つ物がないというのは困った物でござるな……」
「同人誌……」
「へ?」
「同人誌を売ればかなりの儲けになるかもしれないぞ?」
「いやいやいや!?」
「そもそもこの世界、エロ本なんかそんなに沢山で回っているとは思えないだろ?
 それに、漫画そのものが知られていない可能性が高い。
 流石に言葉までは分からないかもしれないが、絵の方はかなり評価されるんじゃないか?」
「拙者の!! 拙者の命より大事なコレクションを売る事等出来るはずがないでござろう!!」
「……そうか、いいアイデアだと思ったんだが」
「もっと別の方法を考えてほしいでござる」

メルカパは不満そうに顔をしかめる。
寝返りを打ったメルカパの横に広い身体が波打つようになる。
まあ仕方ないとはいえ、一発逆転の方法だったんだがね……。

「となると細々稼ぐしかないな」
「多少不安はあるでござるが……」
「当面、この村を拠点に静や清四郎を探すしかないだろうな」
「そうでござるな、2人は大丈夫でござろうか……?」
「それはまあ、俺達が生き残れているんだ、あいつらがどうにかなるとは思えない。
 だが、安全な所に落ちたとも限らないし、ピンチの可能性も否定はできないな。
 だから、俺達で探してやらないとな」
「そうでござるな!」

そうして、異世界に来ての初日は終わった。
不運も多かったが、幸運も多かったと言える。
言葉が通じるのは魔法のせいか、異世界に来た時に何かがあったのか、それとも日本人が関っているのか。
それは不明だが、また明日でも考えよう、それに静や清四郎の事は清四郎が頑張ってくれると信じている。
だから、俺はメルカパとの話しが終わって直ぐに眠りについた……。










目を覚ましたオレの目に飛び込んできたのは静の半泣きの顔だった。
呼び声も最初は聞こえていなかったが、段々と大きくなる。
どうやらオレは気絶していたらしいな。

「せいちゃん! せいちゃん大丈夫!?」
「あっ……、ああ、ここはどこだろう?」
「わかんない……、こんな森近くになかったもの……」

オレ達がいるのはどうやら森の中らしい、そう言えば思い出してきた。
あのブラックホールのような何かに吸い込まれたのだと言う事を。
オレと静、それに達也と確かメルカパとか言ったかな。
4人で落ちたはずだ。

「達也達はどこに?」
「わかんない……、分かんないよ……」

静は不安そうな顔でオレに話しかける、思わず抱きしめたくなった。
セミロングに揃えた艶やかな黒髪、曇った表情ですらため息がつきたくなるほど可愛いと思う。
だが、これはきっとあいつを心配しているのだろう。
静は基本的に、最初にあいつの事を考える、ずっと近くにいたからか敵わないなと思う部分だ。

「兎に角、今のままじゃどうにもならない、森を脱出する事にしよう」
「うん……、でもたっちゃん達がいるかも……」
「見える範囲にはいないみたいだ。
 それに、同じように森の中にいるんだったらきっと出ようとすると思う」
「それは……うん……」

いつもの静とは思えないほど弱気になっている。
どうにか元気づけないと、今いる場所の情報を探す事もおぼつかないか。
全く一体何だって言うんだ……。
森の中を歩いていて、危険そうなものは先行して排除した。
やばそうなのは迂回し、兎に角急いで出るようにした。
中には、明らかに地球上の動植物とは思えないようなシロモノもあった。
もしかして……、違う世界にでも紛れ込んだというのか?

幸いというか、半時間も進んだ頃麓の道に出た。
もっとも、オレ達がよく見るアスファルト舗装の道ではなく、踏み固めただけの土むき出しのものだったが。

「ここ……どこかな……」
「恐らく、オレ達の知っている場所じゃない。
 あの黒い穴に飲み込まれたのが本当なら簡単に帰れるような所じゃないかもしれないね」
「そんな……」

事実として、街道に出て見つけた人間は黒髪や金髪、茶髪共違うオレンジ色や緑色の髪色をしていた。
コスプレ用のウィッグみたいな光を照り返すシロモノでもないから、地毛である可能性が高い。
さらに、町の方までやってきた時、日本で無い事だけははっきりした。

「西洋建築っていうのかしら……、大理石を掘り出したような家が多いみたいね」
「そうだね……」

だけど、見かけないものもある。
例えば、文字、明らかにアルファベットではない、かといってアラビア語でもロシア語でもない。
形としては、どこか日本語に近いものがあるように見えるが……。
カタカナも漢字もない、それだけに違和感がかなり大きい。
ひらがなを英語の筆記体風に表記したと言うのが恐らく一番感じがつかめるのではないだろうか。
意味も、分かりにくいものの頑張れば翻訳できなくもないレベルだ。
幸いと言うべきなのかどうかは微妙な所だが。

「これって、異世界なのかな……」
「盛大なドッキリや映画のセットってわけじゃないなら。恐らくは、地球じゃないね……」
「やっぱり……」
「だからって森に戻ったりしないでくれよ?
 今は情報を集めて、直ぐに帰れるのか、そうじゃないのか判断してから達也たちを探そう」
「そう……だね……」

静は達也の前だとやたら蓮っ葉なんだが、オレの前だと借りてきた猫みたいになる。
警戒されてる? ならどうしてオレの恋人になってくれたんだ?
告白してから常に思っている疑問、俺の事が嫌いと言う風ではない、達也への当てつけと言う感じでもない。
しかし、オレだけを見ている訳じゃない、彼女は恐らく達也の事を……。
聞いた訳じゃないが、行動を見ていればそう思わざるを得ない。
それでもオレは真相に対する問いを切りだす事が出来ずにいる。
答えを聞くのが怖い、それはいつも思っている事だ。
だからだろうか、オレは静に対し少し距離を置くようになっていた。
大学の事も、少しそう言う意味があった事は否めない。

だがそれはあくまで、それだけの事。
今の状況、先ずは生き残って行かないと始まらない。
オレ達が置かれた状況をいち早く理解しなければ。

「ねぇ、あれ、何かしら?」
「え……」

町の中央通りを綺麗に装飾された鎧に身を包んだ一団が歩いて行く。
その数100人前後だろうか。
町の人々はひれ伏して道を開ける。
明らかに支配階級の行列だろう、オレ達もばれないために近寄らないほうがいい。

「この通りから離れよう。トラブルのもとだ」
「そうね」

ああいった集団を率いるのは、権力者なのは間違いない、
ある意味情報を得るためには近づくべきではあるだろう。
とはいえ、日本語が通じる事以外、よくわからない場所でトラブルに会っても助けを呼ぶ事はできない。
まして、今は静もいる。
彼女を守る為にも危険を冒す事は出来ない。
だが、反対側の道まで出れば取りあえずは大丈夫だろう。

その時までオレはそう考えていた、いや、考えていられた……。

「お待ちしておりました勇者様」

煌びやかな衣装を身にまとった、その女がオレ達の目の前に立つまでは……。




あとがき
ストックが減ってきましたww
ともあれ、お話はまだまだ序盤、達也が軍事的に動き出すのは10話までに達成したいのですが。
実のところまだ読めない段階でして(汗)
今後のためにも色々急がねば。



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