異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第六話 【勇者の事情】


この世界に来てから一か月以上経つ、秋も深まりもう水浴びなんてとても出来ないようになった。
だが幸い、メルカパのお陰で火を起こす事に困らなくなったのが大きい。
お湯を沸かすのが楽なので、今は自前で風呂をやったりしている。
風呂は木組みのものなので普通は職人芸レベルの器用さが必要なんだろう、
水漏れ防止のために、魔法で強化したり、隙間に粘土をねじ込んだりとアルテが随分手伝ってくれた。
川から水を持ってきて大鍋で沸騰、風呂に注ぎ込む。
ある程度回数をこなさないといけないので毎日とはいかないが、やはり風呂はいい。
最も、俺は熱い風呂が苦手と言う事もあり、最後に入るのが慣例となっている。
村長達やリディも入りに来るので、順番的には村長、奥さん、リディ&アルテ、メルカパ、俺となる。
メルカパが美味しい所を持っていっているようにも見えるが、その辺仕方ないだろう。
因みに、風呂屋というのも考えたが、

「取りあえず、カウチ草を使って接近する事でキャウルの確保には成功したが……」

風呂で考え事、最後に入る人間の特権だ。
ゆっくり湯船につかれるのがいい、後は誰もいない気楽さがある。
まあ多少お湯に垢が浮いていたりするので捨てないとちょっと入りづらいが。

キャウルに関しては、他のモンスターを避けて連れ帰る事それなりに手間取ったが戦闘にならずに済んだ。
はっきり言えば、楽勝と言ってよかっただろう。
キャウルとかいう牛を一回り小さくしたようなモンスターは、最初警戒していたようだが、
カウチ草の匂いに引き寄せられるみたいについてきたからな。
ただ、一日カップ一杯の乳と言うのが問題だった。
この乳は常温でも直ぐに腐ると言う事はないようだが、直に飲んで飢えをしのぐには少なすぎる。

「乳搾りが終わったら次は売りに行く必要があるのですよ」
「そうだな、巡回してる商人相手じゃやっぱり足元見られるしな」
「ここからだと、やはり南にあるアードックの町辺りがお勧めなのです。
 ドランブルグ領では2番目に大きな町で街道も整備されていますので商人も集まっているのです」
「へーよく知ってるな、ってアルテ!?」
「おお、ノリ突っ込み乙なのです」

ソローっと入って来て会話に参加していたアルテはそのまま俺の入っている湯船にドポンと入る。
どう見ても小学3年生くらいの小柄なアルテは、しかし、俺の見ている前で段々変異していく。
とはいってもその実変わるのは肌の色が血色のいい色合いから透き通るような白へ、
そして、瞳の色と髪の色が光輝くほどの金色へと変化し、耳が長くなりぴょこんと飛び出しただけ。
大きい変化とは言えないが、印象はがらりと変わった。
そう、彼女はエルフ、それも恐らく普通のエルフじゃない。
あの杖やドレスの付与魔法から考えると貴族クラスの令嬢のはずだ。
まもっとも、見た目は10歳前後に違いないんだが。

「なんだか失礼な事を考えている目です!」
「いや、そんな事は……しかしいいのか?」
「大丈夫なのです。結界の魔法を敷きましたから」
「ほうほう、って結界!?」
「はい、ここでの相談ごとは外には漏れないのですよー♪」

無防備なアルテに注意しようと思ったら、実は俺の方が無防備でしたの図。
いたたまれない……。
というか、これだと年の離れた妹と一緒に風呂に入ってあげてるようにしか思えない。
はっきり言えば、萌えはするが下半身には響かなかった。

「むー、その顔はなんだか失礼な事を考えている目なのです!」
「否定はしない!」
「否定しやがれなのです!!」
「でっ、わざわざこんな所まで来たんだ。理由はあるんだろ?」
「むーむ〜〜〜、もうちょっとドギマギしてくれないと面白くないのです!」
「ふっ、当然だ。俺はロリコンじゃないからな!」
「仕方ないのです。話してやるから感謝しやがれなのです!」
「なんか急に横柄な態度だな」
「口を挟まないで欲しいのです!!」

アルテはぷっくりむくれた頬で俺に向き直る。
かわええのう……正直孫に小遣いをやりたくなるおじいちゃんの気持ちが良く分かる。
だが、それを口にすると余計拗ねそうなので口には出さないで置いた。

「たつにーさんは、この世界の人間ではないのですね?」
「ッ!?」
「その表情、間違いないのです」

アルテは先ほどまでの可愛い子供のような表情から、どこか透徹した雰囲気を持つ表情に変わっていた。
恐らく、この顔こそは、感情を切り離し、理性のみで考えている人間の特徴。
つまり、アルテは普通の育ちでない事を自分から証明したんだろうが、それはそれとして、
俺の事をここまでピンポイントに言い当てるとは……。

「何か確信でもあるのか?」
「確信に至ったのは昨日なのです。
 SLGとかチートとか、聞いた事のある考え方じゃないのですよ」
「それは……」
「それだけではないのです。他にも沢山のアルテが知らない知識を知っていたのです!
 たつにーさんとメルカパさんが売り払った服も、見た事もないものなのです!
 それに、たつにーさんがチンピラを5人も倒した時の動きもおかしいのです!
 まるで、相手が攻撃するのを先に読んでいたみたいな動きをしているのです。
 でも、動きは素人なのです!
 それらはどれもこの国どころか、周辺各国から噂も上がらないような事なのですよ。
 そしてこの国、ランベルト王国は妖精の国とは絶縁状態、東や南の小国とは敵対、
 そのせいで近隣の大国との国交もあまりなく、西には魔王が住むという荒れ地が広がっているのです。
 つまり、遠方の国からこの国に入り込むのは難しいのですよ」
「なるほどな……」
「それに、貴方達が出身地だと説明してるリアドネ山脈の近隣は、村なんてないのです。
 活火山とモンスターが多く住むあの土地で村があったとしても持たないのですよ。
 それに、山を下って反対側は王都に近く、文化圏もほとんど王都のものですから。
 移動したり噂を聞かない村の人ならともかく、旅人とか知識人に言うと胡散臭がられますよ?」

言ってみればバレバレだったって事か。
少なくとも、普通とはかけ離れた人間である事は。
実際、2週間近くもいるんだからそれは十分ありうる事だ。

「ああ、アルテの思った通りだよ」
「やっぱりそうなのですね……」
「それで? だとしたらアルテはどうしたいんだ?」
「もちろん、昨日言った通りなのですよ。アルテを連れて行って欲しいのです」
「何故と聞いていいかな?」
「おかしいとは思いませんか?
 アルテがこの村に来てから妖精の国から特に何も言ってこない事」
「それは……」

もちろん、思っていた。
2週間というのは、短い時間じゃない。
アルテがどういう人物だとしても妖精の国から何のリアクションもないというのはおかしい。
アルテの知識も魔法のかかった装備を持っていた事からも、一般人だったとは考えにくいしな。

「アルテのいた国は妖精の国という中途半端なネーミングになっていますが、
 ようはごった煮のような適当な国なのです。
 人間の国に攻められないために、沢山の妖精達が寄り集まって出来た雑多な国。
 でも、そんな国だからこそ指導者は必要です」
「それはそうだな」
「指導者は基本、大部族の長達が所属する議会で決まってたのです。
 中でもエルフ族は一番権威が強かったんですよ?」
「なるほど」

過去の話をしているアルテはおどけていてもどこか辛そうに見えた。
無理して言わなくていいと言ってやりたい。
だが、それをする事は出来ない。
それにアルテ自身も望まないだろう。
その目が俺に訴えかけていた、最後まで聞いて欲しいと。

「でも、先代の代表者になる頃、既にそれは形骸になっていました。
 理由は単純なもので、エルフは長寿である代わりに、子供がめったに生まれないからです。
 因みに、アルテの前に生まれたエルフは既に100歳を超えています。
 そして、そう言う状況の中で戦争が起こり、更にエルフの数は減りました。
 今やそう、エルフ全体でも300人くらいしかいないんです……」
「そんなに……」

元々の数は知らないが、それじゃ町も作れない。
勢力が弱るのも仕方ないのかもしれない。

「それはもう仕方ないんです。今や妖精の国はノームらが中心となって国を運営していますから。
 ドワーフやトロルはノームの派閥に属していますし、エルフ派閥そのものが崩壊しかかってます。
 でも、いえ、だからこそでしょうか。
 一部の派閥は、エルフを再度中心に据える事によって、逆転を狙っているんです。
 そして、エルフの古老達もかつての栄華が忘れられない……」
「なら、エルフは……」
「破滅の道を歩き始めているのかもしれないのです」
「アルテが逃げたのは神輿にされるのを恐れてと言う事か?」
「これでも一応、現エルフ派閥の党首の娘ですから……。
 神輿というより、人質にされる可能性が高かったからです」
「なるほど」

となると、表立って追手がかからないのはアルテの父親が止めているからだろう。
人質を取られれば、エルフ派閥が二分しかねないし、それ以上に神輿となれば破滅だ。
アルテは父の心配をして、自分から出てきたという事になる。
となれば当然……。

「たつにーさん、出来ればアルテを連れて逃げて欲しいのです。
 エルフ派閥の復権を願う過激派がいつこの村に潜り込んで来るか分からないのです。
 アルテがいてはこの村に迷惑になるかもしれないのです。
 もちろん、たつにーさんにもご迷惑だとは思うのです……。
 だから、アルテの事……好きにしていいのですよ?」
「何を言い出すかと思えば……」
「キャウルのミルクを売りに出せば恐らくこの村も安定するのです。
 たつにーさんに断られたら、一人で出ていくのですよ……」
「バ〜カ!」
「あいたッ!?」

俺は、アルテの頭をはたく。
かなり痛いだろうとは思ったが、容赦はしなかった。
ようは俺は見くびられていたと言う事だ。
もちろん、俺が大した奴だなんて自分でも思ってはいない。
しかし、こんな幼児体型に身体を差し出されて喜ぶ奴だと思われていたとは。

「たつにーさん、また何か失礼な事考えてる目してます?」
「まっ、まあ兎に角だな。
 そんな事しなくても助けてやるよ。
 俺はお前の相棒なんだろ?」
「えっ……。
 そっ、そうなのです!
 因みに相棒ではなくて相方なのです! 漫才とは人生なのですよ!」
「へえへえ、また頑張ってちょっと考えてみるかね」
「そしていつか、たつにーさんのいた世界に連れて行って欲しいのですよ……」
「ああ、帰れる方法が分かったらな」
「あ……やっぱり分からないのです?」
「そう言う事」

ちょっと気まずい、だがちょっと緩い感じの空気が広がった。
アルテもまさか本気で期待してたなんて事は無いと思うんだが。

「仕方ないのです。元の世界に戻る方法探しを手伝うのですよ。
 そうすれば持ちつ持たれつなのですよね?」
「そうだな、これからよろしくお願いするよ」
「はいなのですよ!」

互いに本音というか、素姓を明らかにした俺達はすっきりした顔をしていた。
だがまずい事を思い出す。
今は風呂場、俺の順番なのだから俺一人出る分には問題ない。
だが、アルテをどうするか。
アルテは恐らく既に一度風呂に入っている。
俺と一緒に出てくるのは当然問題外、前でも後でも怪しい。
かといって1時間も開けてから出るなんて事をすれば風邪をひいてしまうだろう。

因みに、一緒に風呂したのがバレた場合、当然責任は全て俺に来る。
俺は磔獄門とか、牛裂きの刑とまではいかないまでも牢屋行きだろう。
いや、もしかしたら今の時代はそこまで刑罰はきつくないのかもしれないが、
しかし、ほぼ確実に2度とアルテには近寄らないようにされる。
それでは色々不味い、今話していた事が全て駄目になる。
社会的に抹殺されるのも御免だ。

「と言う訳で、どうするか」
「気にする事無いのですよ。出る時だけ幻覚の魔法を纏えばいいのです」
「幻覚の魔法?」
「これでもアルテ色々持っているのですよ♪」

というとアルテは風呂場を出て、指先をくるくるっと回す。
すると、指先にいつもしているのとは違う指輪が出現していた。

「幻覚の指輪召喚なのです♪」

なんというか、びっくりする。
ステータスには反映されていなかった所を見ると特殊技能とかじゃないようだ。
どちらかというと指輪の方に仕掛けがあるのかもしれない。
そのまま、脱衣所に行き身体を拭いて服を着たアルテは指輪の力で透明化して出て行った。

「流石というか、ステータス見ただけで分かった気になるのはまずいな」

全く、これはステータスが見えるというアドバンテージが逆に固定観念に繋がりかねない証明だ。
何せ、今のように普段は装備していない何かを呼び寄せたり、魔法を時限発火にしたり。
俺の視界の外で色々されれば対処は出来なくなる。
ステータスが嘘をつくと言う事は無いかもしれないが、所詮は見える範囲の事と言う訳だ。
そう考え、俺は風呂を出て眠りについた……。









「勇者様! コカトリス討伐おめでとうございます!!」
「キャー勇者様よッ!!♪」
「こっち向いてー!♪」

勇者の凱旋、そういう位置づけでオレは返ってきた。
確かに、コカトリスとやらを討伐したのは事実だ、実際の所オレが役に立ったかどうかは怪しいが。
周囲には騎士アルバイン、魔法使いソルシェド、僧侶アルティーヌがいる。
彼らは実に優秀で、オレなんかがいなくても十分にコカトリスを狩る事が出来ただろう。
オレと彼らの実力差はかなりのものだ、何故俺が必要なのか。
その理由はむしろはっきりしている。

「流石勇者どの、素晴らしい人気ですな」
「よしてください……」
「そうだよ、実力が足りない事なんて気にしない気にしない」
「ぐ……」
「まだまだ時間はありますゆっくり成長してください。
 貴方は確かに我々等飛び越えて一番強くなれる素養はあるのですから」
「またそれですか……」

3人は1流でオレは3流、それが今の現実だ。
実際の所、このパーティで数度モンスターの討伐をしているが、オレが必要だった試しは無い。
確かに、成長している感じはある。
今のオレは普通の人間ではありえない強さにはなって来ている。
100mを鎧を着たまま9秒で走れるだろうし、鎧を着たまま2mくらい飛びあがれる。
バーベル上げなら400kgくらい行きそうでもあった。
元々の剣術にも更に磨きがかかった気がする。
それでも、オレと一緒にいる3人には遥かに及んでいない。
実力不相応に評価されるのは正直きつかった。

「さあ、凱旋が終わったら謁見の間へ向かいますぞ」

笑顔が妙に怖い伏し目がちの、頭頂部が少し寂しい銀髪の小男という印象であるソルシェドは、
魔法使いであると同時に政務管でもあり、権威的には貴族階級に属する。
実力と権威が両方ともなっているため、中央には少し煙たがられているとも聞くが。
しかし、その割にオレに好意的というか、不思議とよく気を回す。
彼なら恐らくオレがどういうつもりで勇者を引き受けているか知っているはずなのにだ。

「緊張めさるな、王とはいえ勇者殿が必要である事は事実、粗略には扱われませぬぞ」
「ああ、ありがとう……」
「そういう小心者な所も可愛いんだけどね♪」
「ぶっ!?」

直ぐにオレをからかいたがるのは僧侶のアルティーヌ、彼女は何故僧侶をやっているのかと言いたくなる。
実際、軽い人物でパーティのムードメーカーなのだが不用意な発言が多く、時々空気を凍らせる。
見た目もファッションモデルさながらで、ホーリーシンボルも腰から下げている。
ジーパンに巻いたシルバーチェーン等を想像してもらうと分かりやすいだろう。
化粧も割合濃く、しかし、それがよく似合っているため文句をつけづらい。
淡い紫色のふわふわした髪と好奇心を著したように金色に輝く瞳が印象的な女性だ。
ただ、彼女といて神聖な雰囲気を見る事はまずない。
その割に、法力は強力で、身体強化の勁というものも使い、戦闘力はオレよりはるかに上だ。
何と言っていいのか困る人物である。

「そろそろ謁見の間だ、口を慎め」
「はい」
「はーい」

騎士アルバイン、この中では一番真面目な人物だろう。
非常に献身的で、人を疑う事をせず、不言実行、有言実行を貫く男。
だが、多少融通の効かない所もあるようだ。
見た目がオレを越える2m近い巨漢で、赤銅色の肌と赤い髪を持つ。
いつも眉間に皺をよせているのが特徴的だ。
だからだろう、まだ会って一月程度だが、彼は信用できると思っている。

そんな3人を後ろに従え、オレは謁見の間に臨んだ。
謁見の間では、基本的にオレが代表として話をする事になる。
その評価はオレにだけ下されるようにも見える、何故なのかはわからない。
ただ、目の前の王はオレを見ていると言う事だけははっきりしている。

「コカトリス討伐が終わりましたゆえ、まかり越しましてございます」
「うむ、苦しゅうない、面を上げよ」

言われてオレ達は、片膝をついた状態で顔だけ上にあげて王を見る。
王は、少し神経質そうな、しかし、鋭い目をした男だった。
髪の色は黒髪、日系というわけでもないようだが、どこか東洋系の面差しではあった。
ただ、彼の興味は明らかにオレ一人に向けられている。
どういう意味なのか計りかねている間に一応の報告はすませた。
即ち、オレが全く役になっていない事を。
だが、その事をスルーし、あっという間に謁見は終わる。
未だにオレが何故ここまで表に出る事になているのか、不気味な限りだ。

「では、落ち着いたら私の離宮の方へいらしてください」

謁見の間から去り際声をかけてきたのは、国王の娘にして巫女であるサリュ。
正確には、サリュート=エルナディス=ファルディアという。
オレと静があの町で出会ったのが彼女だ。
お忍びというか、占いのようなもので先を見通す彼女はオレ達を見通し迎えに来たと言っていた。
ただ、不思議なのは、だったら達也達の事は何故分からないのかという点だが……。
所詮占いは占いだと言う事だろう、この世界に魔法があるとしても。

謁見の間を辞した後、パーティを一度解散し、オレは離宮へと向かう。
理由は言うまでも無い事だが、そこには彼女がいるからだ。
サリュに2人して連れられてきたオレ達は、勇者として働くように言われた。
危険だし、オレ達には関係の無い事だったので断ったのだが、るとサリュは交換条件を提示してきた。
この国に国賓として遇すると、達也達を探す手伝いもするし、帰還のための資料を集めもすると。
破格の条件と言ってよかった、ただし逆に胡散臭くもあった。
だが、旅の疲れと緊張感から静がダウンしたので選択肢が無くなったと言うのが実情だ。
もちろん、今は回復している。
だが今さら辞められる状況にも無かった。
今や静はここで生活をしているのだから。

「あっ、せいちゃんお帰りなさい!」
「静こそ元気にしてたかい?」
「うん、ここでの生活に不自由はしてないよ。
 どういう原理か知らないけど元の世界とそれほど変わらない設備があるから」
「確かに、水道とかどうやって引いてるんだろうね……」
「深く考えても仕方ないよ。それより外の様子教えて」
「うん」

そう、確かに静は今不自由のない生活をしている、しかし町に出る事は難しい。
いや、頼めば出る事は出来るらしい、但し護衛と称して兵士10人ばかりがついてくる。
もちろんそれは頼もしい事ではあるが、静の性格からしてあまり歓迎したい事じゃないだろう。
結果として引きこもりの様な今の生活になっている。
最も、それはこの世界の貴族達や王族達にとってみれば珍しい事でも何でもないらしいが。

「そう……手がかりとかは見つからなかったんだ」
「ああ、特殊な魔法か何かでオレ達が召喚されたのは間違いないそうだけど」
「この国の人が分からないんじゃ、私達が元の世界に戻る方法は……」
「……何、心配する事はないよ。
 折角権威のある所にいるんだ、利用しない手はない。
 この世界に来た以上何らかの方法で元の世界に戻れるはずだから」
「そうだね。あっ、そう言えば達也達の手がかりが見つかったって」
「何!?」

オレは心底驚いた、だって達也達がこの世界にいる可能性は半々くらいかと考えていたから。
もっと間近にいたなら兎も角、近辺にそれらしい痕跡はなかったからだ。
しかしそれでも、あいつがいるならそれは嬉しい。
静の事で少し複雑ではあるんだけど。

「せいちゃんが着てた学生服によく似た服が出回っていたって話だよ」
「学生服……だとすると」
「うん、きっとこの世界での生活費にするために売ったんじゃないかな」
「確かに」

逆に追いはぎにやられたりした可能性も考えたが、口に出す事もないだろう。
それにしても、学生服があるならあいつらもやはりこの世界に来ている可能性は高い。
だが、売買ルートを追って達也達を見つけるのは少々困難だ。
基本誰が売ったのかを漏らす商人はいないし、
商人は冒険者を除けば唯一国中を行き来する権利を持っている。
盗賊と取引しようが、貴族と取引しようが、基本的には自由となる。
もちろん勝手にそう言う事をしたのがバレれば首が飛ぶが、探すのは困難だ。
だから、本人が買い付けたのでもない限り、
転売を続けられた商品はもう経由した流通路が分からないケースが多いらしい。

「直接見つけるのは難しいかもしれないけど、これからはよく探してみる事にするよ」
「うん、お姫様にも頼んでおくね」
「ああ……」

姫様、つまりサリュの事だ。
彼女は確かに、見た目も神秘的だし、理知的な女性だろうと思う。
編みあげられたプラチナブロンドの髪、憂いを湛えたかのように潤む瞳。
透き通るような白い肌、3サイズも静に申し訳ないくらい完璧だった。
だが同時に酷く胡散臭い感じもうける、占いの事もだが、彼女の掌の中にいるような不安感。
3人のパーティメンバーも彼女が用意したものだ。
信頼しているし、助かってもいる。
しかし、何か不安がぬぐえないというのが実情だった。
あえて言えば、お膳立てがよすぎる。
そう、まるで舞台装置を全て整えた後、台本なしに役だけを与えられたとでも言うように。
考えていると、すっとこの離宮の主が顔を出す。

「あら、お早いおつきですね、勇者様。私の方が先に出たと思ったのだけれど」
「急いできましたから」
「可愛い彼女さんだものね。ちょっと焼けちゃうわ♪」
「お姫様ったら」
「うふふ♪」

同じこの離宮で生活している者同士であるからか、静とサリュは仲がいい。
サリュは勇者として活躍しなくてもここでいる事を保証はしてくれている。
だが、サリュ個人でそれを許しても恐らく長くいれば黙っていない人も多いだろう。
それどころか、勇者排斥に動いている貴族もいると言う話も聞く。
つまり、今のオレ達の立場はサリュがいなければ成り立たないと言う事であり、
勇者を逃げれば静が不味い立場に追い込まれると言う事だ。
オレは現状維持を続ける以外に方策を思いつかなかった。
達也、あいつなら何か方法を思いつくのだろうか?
時々そう思う。
どう考えても、現在が正常であるとは思えない。
だが、この状況が続けば当面安全ではあるし、元の世界への情報が入る可能性も高い。
静はオレを心配して2人で出ていく話をする事も多いが、オレは首を縦に振る事はしなかった。
静に苦労をかけるくらいなら、多少いびつでも安全と生活が保障される今の生活を守りたい。
オレはそう考えていた……。




あとがき
アルテがとうとうお風呂に侵攻。
ロリキャラは18禁にならないのがお得ですなw
ただこのままでは、10話までに旗揚げが怪しくなりそうな予感が(汗)



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