ランベルト王国北東にあるドランブルグ領。
ザーリス・バーラッハ・モルンカイト侯爵が治めるこの領土は、山岳部を多く含み作物の収穫量が少ない。
もちろん領土の広さに比してと言う意味ではあるものの、王都や中央の貴族の領土には及ぶべくもない。
モルンカイト侯爵はその事を疎ましく思っていた。
だから自ら領土を広げるべく、東部、南東部に隣接する小国や部族に小競り合いを仕掛けていた。
しかし、結果は芳しいものではなく、逆に軍事費がかさみ財政がひっ迫する始末。
そこでモルンカイト侯爵は増税と再徴兵を決意、しかし、徴税官達は着服するために誤魔化しを始める。
これはモルンカイト侯爵が特別無能だった訳ではない、徴税官達が着服していたのはどこも同じだった。
だが、戦時という認識の薄い徴税官達にとってこれは略奪の解禁とさほど変わらない申し出だった。
結果として村々は生活が出来ないレベルまで押し込まれた。
更に悪い事に、貴族領というものは国とほぼ同じであり、
国家すらその政治に口出しをする事は内政干渉としてあまり好まれていなかった。
対外的な失策ならば兎も角、領土内でどのような事をしようと早々裁かれる事は無い。
結果として、村々は乞食のように食料を求めて離散するか、飢え死にするかを選ぶしかなかった……。



異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第十一話 【派閥の起こり


「先ずは自己紹介を、マルド村村長、リーマ・ファブレラと申します」

優雅に一礼して見せたのは、目を閉じたままの少女。
黒髪がたなびく様はどちらかというと日本人を思わせる。
だが、姓名を見る限り関係ないのだろう。
服装はきちんとしており、路上生活に近い状態とは思えない。
もちろん各村でテントや有る程度の家を作ってはいたが、まだ行きわたっているとは言い難い。
それだけ彼女が権力を保持しているとも言えるが、少なくとも避難民には見えなかった。
楚々とした佇まいはチンピラ丸出しのトビーとは真逆の存在と言えるかもしれない。
しかし、それよりも気になる事がある。
目を閉じたままという事だ。俺はリーマ村長のウィンドウを開く。

+++++
名前:リーマ・ファブレラ(盲目)
種族:人間
職業:村長
強者度:4
生命力:26/26
精神力:18/18
筋力 :17
防御力:15
器用度:18
素早さ:14
魔力 :20
抵抗力:16
耐久性:13
<<術・技>>
共通魔法:熟練度:1
神聖魔法:熟練度:1
<<装備>>
礼服:固さ3:防御力補正3:守備力6
<<物品>>
司祭の杖:固さ4:詠唱補助:2
++++++

なるほど、僧侶系か。
盲目ね、目を閉じている訳だ。
見た目通りなのはいいが、さてその心中はどうか?
取りあえず質問はしておいたほうがいいな。
怪しまれてもいけない。

「失礼だが、リーマ殿。その目は?」
「先天的なものです。
 目は見えずとも貴方がたがどこにいて、何を考えているかはわかりますわ。
 渡辺達也殿」

これは主導権を握るための一種の脅しか、それとも本気なのか。
どちらにしろ、見た目通りの人物ではないらしい。
まあ、呼びに行くまで会議に参加しなかった事からもおおよそ普通ではないのが分かるが。

「ふむ、分かりました。では、続けさせていただきましょう」
「いえ、少々お待ちになってください」
「……といいますと?」
「その前に、何故貴方がこの場を仕切っているのか。その理由を教えて頂けますか?」

その問いかけは、誰かが必ずするだろうと思っていた問いかけ。
彼女はそれを知っているのか、それとも単なる意地悪なのかは分からないが……。
ともあれ、きちんと返しておかないといけない。
しかし、露悪趣味で伝えてもいけない。

「もちろん、革命を行う人々の代表としてです」
「ほう……。つまり、捕まれば見せしめとして殺される用意があると?」
「当然でしょう」
「そうですか……、しかし、私達は貴方を選んだつもりはありません」
「なるほど。確かに選んでいませんね。ならば貴方がなって見ますか?」
「御冗談を」

当然だろう。
あくまで今まで上手く行っていたのは、俺の実績が代表として選ばれるに十分だからだ。
というか、他にいないからというだけの事。
マルド村の村長だろうと俺と同じ場所に立って指揮が出来るようになるには実績が足りない。
もしも、実績を越えた所で代表に選ばれる事が可能な人物がいるとすれば……。
それは血筋、この時代だ。王族や貴族の血を引いているならそれなりの評価が得られるだろう。
駆け引きに出してきたという事はいるのか?

「代案があるなら提示してください。無いならばこのまま行きます。
 我々に時間がない、その事は貴方も御存知な筈だ」
「それもそうですね……。
 しかし、この事は迂闊に話して良いものではないのです。
 この場にいる皆さまは理解して頂けると思いますが、口さがない人間がいれば不味い事になります」
「では、口外しないと確約せよと?」
「はい、少なくとも地盤が固まるまでは」
「……余程の御方なのですね、その方は」
「これ以上は確約を頂けない限りお話出来ません」

これは不味い事になった、恐らくかなりの血筋を彼女は確保しているようだ。
だが、ここで主導権を渡す訳にはいかない。
貴族の御落胤だろうと王族だろうと、その力を十全に使えるくらいなら彼女らはここにいない。
とうに徴税官は排除されているだろう、それも合法的に。
それが出来ていないどころか、お目こぼしすらしてもらっていないとなれば、
その御落胤は間違いなく私生児、それも表に出せない類の。
そんな者を旗頭にしようものなら、味方を手に入れる前に敵に包囲される。
リーダーシップが十分に取れるならまだしも、現在までにこの場にいないなら村長である彼女の傀儡。
少なくとも、リーマが手綱を握っている事は間違いないだろう。
しかし同時に、リーマは村長として村を出る事しか出来なかった存在でもある。
今さらリーダーシップを取ろうとしている彼女の意図は読めないが、あまりいい傾向ではない。
何より、この場にいるのは良い所村長クラス、絶対の確約などは意味がない。
防諜の概念すら理解しているのか微妙な所なのだから。
それでも俺は、言わねばならないのだろう。

「お歴々の方々、先ず先に言っておかねばならないのは。
 ここでのあらゆる話は他言無用である事です。
 これから来る人物もですが、我らの話合いもまたまだ表に出せる段階ではない。
 御家族にも、友人にも、あらゆる人に言ってはならない事を伝えておきます。
 他言し、誰かの耳に届けばそれでこれからの作戦は成り立たなくなり、我らの死が確定します。
 また、酒等を飲むのも控えてください、特に睦言は控えてくだされば幸いです。
 それらもまた、口を軽くしますので」
「おい! 幾らなんでも縛り過ぎだろ!!」
「有体に言えば、しゃべるつもりが無くても酒と情事は口を滑らせる危険性があるって事だ。
 今まで絶対口外しないなんてやった事のある人の方がまれだろうから注意しただけの事。
 お前は知ってたか?」
「……ケッ」
「おにーさんは逆に何故そんなに詳しいのか知りたいのですよ」
「歴史に学ぶってところかな、そう言う失敗をした人はいくらでもいる」
「なるほどなのです。村長の皆さまはどうしますか?」

俺は視線を回して周囲の人々に確認した、特に異論のある様子はない。
トビーは先ほどの事もあり不貞腐れてケッと言っていたが、まさか反論もしないだろう。
異論が無い様子を確認した俺は、視線でリーマを促そうとして気付く。
そう言えば彼女は目が見えないんだったな、あまりに自然で忘れる所だった。

「全員の確約が取れました。お願いできますか?」
「……分かりました。ではデオム様。お越しいただけますか?」
「うっ、うん……」

思わずうわぁ……と声が漏れそうになった。
それくらいなんというか自信なさげなひょろっこい男が入ってきた。
年齢はリーマが二十歳前くらいなら、デオムは十代後半になるかならないか。
力関係は言うまでも無く、見た目からしてとてもリーダーが務まるタイプじゃない。
まあ、俺もあんまり人の事は言えないが、それでも酷いと言えた。

+++++
名前:デオム・アダトラ・モルンカイト
種族:人間
職業:私生児
強者度:1
生命力:15/15
精神力:1/1
筋力 :10
防御力:8
器用度:11
素早さ:8
魔力 :10
抵抗力:9
耐久性:8
<<術・技>>
なし
<<装備>>
礼服:固さ3:防御力補正2:守備力5
<<物品>>
紋章の指輪(モルンカイト家)
++++++

能力値も泣けてくるな、ガーソン徴税官殿より下とは……。
どこの御落胤かも分かった、ならば地盤を固めてからというのも頷ける。
領主の息子じゃな……。
だが確かに、彼ならば戦争終了後身内の争いでしたといって誤魔化しが効く。
ランベルト本国からの介入を防ぐための口実に使えると言う事か。
まあ、それは微妙なラインなんだが……。

「デオム様はモルンカイト侯爵の御落胤であらせられます。
 証明としては、デオム様。お願いしてもよろしいですか?」
「うっ、うん……これだよ……」

そう言って取り出したのはステータス上は物品に収納されていた。
紋章の指輪、俺には今一分からないがモルンカイト家の紋章らしい。
村長達の驚きを見る限り嘘ではないのだろう。

「御理解いただけましたでしょうか?
 確かに今回、徴税官を倒したのは彼の功績かもしれない。
 しかし、その事で我らが窮地に追いつめられたのも事実。
 そのような者をリーダーとして担がなくとも、我らにはデオム様がおられます。
 いかがでしょう? デオム様をリーダーに据えるというのは?」

村長達に動揺がいきわたったのを見たのだろう。
彼女は歌うように、デオムをリーダーにするという意見を出す。
確かに、そうすれば俺は楽を出来るが……。
そうして倒れられたら元も子もない、作戦が通らないなら意味がないのだ。
まあ、彼女が俺達より圧倒的に上手というなら、変わってもらうのも悪くないが……。
この村に来ている時点で、色々と問題外だろうと首を振る。
そして、俺が口を開こうとした時。

「お前、馬鹿だろ?」
「なんです? ゴロツキに言われる覚えはありませんが」
「単純な話、そいつ戦えないよな?」
「ひっ!?」

デオム様とやらが、トビーに睨まれ悲鳴を上げる。
トビーも特別強い訳でもないが、それでも自分で村を率いてきた自負もあるだろう。
それが、どこの誰とも分からない相手を行き成りリーダーにと言えば不満も出るか。

「別にリーダーが戦える必要はありません」
「何を言ってるんだ? 今から俺達は戦って俺達の食糧を確保するんだろ?
 戦えない奴がリーダーを出来る訳がねぇ」
「それで野盗に身を落しますか?
 大義が無ければ民は付いてきません、最終的には領主を打ち倒す必要がある事を忘れないでください」
「ちょっと待つでござるよ!」

それを止めたのは、事態を静観していたメルカパだった。
俺は思わず隣を向く。
メルカパの目には怒りがあった。
何に対してなのかは分からない、しかし、それは色々な方向に向けられている気がしてならない。
そう、不甲斐ない俺という存在に対しても……。

「こんな時に言い争っている場合ではござらんが、話が先に進まないので終わらせるでござる。
 先ずその御落胤、役に立つのでござるか?」
「その物言い無礼ですよ?」
「戦争について言っているのではござらんよ。
 御落胤を権威として我らの上に据えるのだとすれば、それに意味が無ければ無駄でござろう。
 そして、一番言わねばならぬ事は。
 御落胤がいるにもかかわらず何故貴方達はここにいるのでござるか?」
「なっ!?」
「権威を奮うまでも無く、御落胤がいると知るだけで徴税官は取り立てをする事が出来ないでござろう。
 彼らは権威に縋る亡者のようなもの、権威を見せられればすり寄る事はあれ、無視はしないでござる」
「それは……」
「恐らくその御落胤は、血筋を認められておらぬのでござろう?
 そうなれば、話は変わってくるでござるよ。
 旗頭としての意味はあまりないでござるし、逆に相手を怒らせるだけでござろう。
 結局、領主を下した後にしか彼は役に立たないでござる」

それでも、血筋を尊ぶ人間は多い。
頑張れば人は集まるだろう、しかし、それで色々な者が混ざってしまう危険もある。
機密の概念が薄い農民ばかりの団体だ、主義主張すら違うものになれば空中分解の可能性もある。
もちろん、俺が指揮したところで変わらないが、少なくとも俺はプロパガンダというものを知っている。
迂闊な方針変更はしないつもりだ。

「ですが、それでも渡辺達也殿をリーダーとするよりはいいと理解します」
「どういう事でござるか?」
「貴方達は、ランベルト王国の支配制度に反逆している。
 それは、貴族という制度の中にいるデオム様との決定的な違いです。
 デオム様ならば、一種の跡目争いで片付く問題も、達也殿では反乱となります。
 例え領主を打ち倒しても次はランベルト王国そのものと闘わねばならなくなる。
 知っていますか? 王都カルサレアには常備軍が1万もいるのですよ?
 もしも、このうち半分と周辺領地の兵を合わせ攻めてくる事になれば、
 恐らく3万以上の兵力となるでしょう。
 それらに対抗出来る術があるとでも言うのですか?」

3万……、俺達の現有兵力は200にも満たないだろう事を考えれば無謀な数字だ。
それどころか、ドランブルグ領内ですら恐らくこちらの20倍は兵力がいるだろう事は疑うべくもない。
戦力を勢いよく増強していかない事には息切れを起こすだろう。

「だとして、当のデオム様はやってくれるんですか?」
「どういう意味ですか?」
「はっ……、はい、リーダーを引き受けるつもりはあります」
「……そうですか」

これは多分教えていないな。
ランベルト王国の事を細かく知る訳ではないが、この国はほぼヨーロッパの貴族制度を取っている。
だとすれば、国王は余計な貴族の力を削いで、中央集権を目指しているはずだ。
そんな中で革命が成功したりすれば、国王は喜び勇んで介入し、監督不行き届きで領地召し上げをする。
そうするとトランブルク領は飛び地ながら直轄地に変わる事になるだろう。
そして、首謀者のデオムは良くて軟禁、悪ければ死刑となるはずだ。
リーマはそのためにデオムを利用しようとしている?

「その方が、渡辺達也殿、貴方もいいはずです。違いますか?」
「確かにな」

言いたい事は分かった、そして俺に泥をかぶせながら更に恩まで着せる算段と言う事だろう。
リーマか、僧侶で盲目、楚々とした美人さんかと思えば中々どうして腹は黒い事だな。
確かに、旗頭だけやってもらい実質はこちらで運営すると言う方法もなくはない。
ただ、その場合のリスクは、当然ながら新しく取り入る人間にある。
新しくやってくる人間にとって旗頭は傀儡ではない。
裏の権力構造を知っているならいいが、そうならない場合軋轢が生じる。

派閥が出来ると言う事だ。
これまでを考えるならリーマが派閥の事を計算に入れずに話しているとは思えない。
つまり、後々権力構造を返還し、俺達を追い出す算段までしている事になる。
この場合、罪を俺達に押し付ける事になるだろうから、利用されるだけ利用されて捨てられる事になる。

「だが御免被る」
「なっ!?」
「今回の決起は俺の意思で起こした事であって、その事で君達の意見を聞いてはいない。
 方々にも伝えておこう。
 この決起は食糧を得る事を第一としているが、
 もう2度と同じような事が起こらないようにするための決起なのだ。
 税を納めるならば、その税が何に使われているのか分かるように。
 無駄な税を納めていない事がわかるように。
 自分達が幸せになれるように。
 決起をする以上妥協をしてはならない!
 これからも決起軍を利用し何かを成そうとする者達は現れるだろう。
 その人々に俺が伝える事は、常に”否”だ!」
「なぜそのような!?」
「マルド村村長、リーマ・ファブレラ殿。
 貴方が欲しているのが何なのか、私には分からないが、
 少なくともデオム様を据えると言う事はデオム様の考えを主軸に動く事になると言う事。
 そして、その擁立者であるリーマ殿、貴方が決定権を得ると言う事となる。
 そうなれば既にこの村に集う事で出来ている連帯感にヒビを入れるのは間違いない。
 派閥が出来れば次はどうなるか、知らぬとは言わせない」
「……ではどうしても、受け入れられぬと?」
「俺の意見は変わらない、だが村長達全員が賛成してくれるのかはわからない。
 方々、申し訳ないが双方の意見に対し、方々がどう思うかお教え頂けないか?」

正直俺の考えは少し深読みしすぎかもしれないとは思う。
だが、俺は出来る限り彼女のようなタイプは排除しておきたいと考えた。
こんな軍隊でもない、一揆にすらなれるか分からない程度の決起内で権力を得てどうすると言うのだ。
間違いなく、彼女の目的はこの中で収まるものじゃないだろう。
頭を押さえつけるのはあまりいい方法とは言えないが、この場合はそれしかない。
もっともそれは、村長達の支持が必要となる。

「ワシは達也殿を押すよ。
 皆忘れておるのかも知れんが、この村に集った人々は達也殿を頼ってきた人ばかりじゃ。
 悪いがデオム様が本当に領主様の息子でも信用はできん」
「ケッ、まあお貴族様よりは俺達の事を考えてるってのは認めてやらあ」
「我らもまた達也殿を頼ってきた身、今さら他のものの指示で動きたいとは思わぬ」
「あ……あ……、貴方達は本当にそんなことで革命が成功するとでも思っているのですか!?」

カトナ、アルカンドの2つの村に追従するように、残る6つの村の村長も賛同していく。
その様を見て不気味に思えたのだろう。
その気持ちは分からなくもない、中世くらいなら血筋というのは半ば絶対的なものだろうから。
しかし、それも胃袋よりは絶対ではない。
俺は彼らに食料を供給した事により実績という権威を手に入れている。
あまり派手に使いたくはないが、それなりに彼らに影響力があると言う事だ。

「そもそも、デオム様はどういう方法で我らを救ってくださるつもりなのですかな?」
「そ……それは……」
「南部に隣接するオーランド公に救援を頼みます」
「オーランド公の領土は確かに南、どうやって動かすかとは問いますまい。
 しかし、ここから南下するとなれば街道を下り大都市アードック、
 そして領主様の街モルンカイト、更に南の砦モーファイスがある。
 これらを迂回していくのは困難かと思われますが、どうやって行くつもりですかな?」
「その為にお力を貸して頂きたいのです。
 オーランド公が絶対に動く切り札は持っております。
 しかし、そこまで行く手段が無く、我々は皆さんを頼るしかなかった」
「だが申し訳ないマルド村の村長。貴方はこの会議を遅刻しておられる。
 我らは同じ危機感を持っていると思っていた。
 しかし、貴方はどうやら違う考えをお持ちのようだ」
「それは……」

そう、恐らく今、殆どの村長はその違和感に気付いたのだろう。
つまりは、彼女には俺達と同じような明日をも知れぬ食糧難の危機感がない。
彼女らはつまり、俺達に食料を世話になっておきながら自分達の食べる分の確保は可能だったと言う事だ。
それどころか、最近川は凄い人数が使うようになり汚れて来ている。
上流から水を確保せねばならず皆大変になって来ていた。
だが、彼女やデオム様とやらの服装は綺麗なものだ。
つまり、彼女らは自前の食糧や水を、それも恐らく数日分程度ではないくらいに確保していると言う事。
そして、それを隠匿し、分け与えずにいたと言う事。

「結論から言わせてもらっていいかな?」
「は……はい……」
「君達には2つの選択肢がある。
 一つは、村を出て自分達で全て何とかする事。
 マルド村からの流出民の数は120人、全員をひきつれていってもいいし、君達だけ抜けてもいい。
 もう一つは、隠匿している食料や水を分配する事。どちらにする?」
「……」

食料や水の隠匿は無い訳ではない。
恐らく備蓄として少しくらいは持っている人が大半だろう。
だが、それでもいい所数日分あるかないか。
それも恐らく全員のを出して再配布しても1日分になるかどうかだろう。
だから俺達はあえて指摘した事はなかった。
だが、それにも限度はある。
服装や食糧事情等がまるで違うとなれば話は別だ。
罪に問う事まではしないが、上に立つ者のやる事ではないのは事実。

「マルド村の事を憂えていたのかもしれないが、
 他の村との連帯をまるで無視となれば流石に捨て置く事は出来ない。
 だが、強制的に執行したくはない、答えてくれないか?」
「……わかりました。食料や水の供出をします。
 しかし、私は見ての通り盲目です。他の人達と同じ扱いとなれば私には生きていく事は困難です。
 出来れば、その辺りは勘案してください……」
「分かった……」

正直、こんな事で会議が遅滞したのはイライラするし、
こうして愁傷にしているだけで守ってあげたいオーラが出てくるリーマという女性にも腹が立つ。
だが、彼女は出ていかない事を選んだ、もう少し彼女も頭に血が上っていると見たのだが……。
どうやら、警戒を解く訳にはいかないらしい……。
それでももうあれこれ考えている時間はない。
御落胤もそのままに会議を再開する事にする。
急いで周辺の事情を理解し、こちらに有利に動ける状態を作らねばならない。

「かなり遅滞してしまったが、周辺地域の状況を……」

最初に俺が行ったのは各村長から色々な情報を集める事。
残念ながら、俺もメルカパもアルテやリフティにした所で周辺地域の事情に明るくない。
それに、情報は共有した方がいい考えも浮かびやすいというもの。
各村長に確認していく中で、先ず兵士として連れて行かれた男達がどこに運ばれるかがわかった。
北東の国境を守る砦、バーラント国境砦に連れて行かれた可能性が高いらしい。
ここは、隣国アマツとの紛争地帯であり、妖精の国との国境もすぐ近くにある。
新兵の訓練をしつつ、砦の防衛をしているらしく、前線指揮官も詰めているそうだ。
総兵力はおおよそ2000人、最近の徴兵で連れて行かれた人間は訓練期間をここで過ごすとか。
おあつらえ向きに、税として集められた糧食等も一部ここに運び込まれるらしい。
位置的にも、この村から南東に向かえば1日と少しでつく距離だそうだ。
続けて、奴隷として連れて行かれた女性達はアードックに連れて行かれた可能性が高いとの事。
あの町は街道の交差点であるからこそ、奴隷を売りさばくのにも向いている。

おおよその位置関係は。

         ○カトナ村

               ■バーラント国境砦

       ●城郭都市アードック

こんな所だろうか。
因みに、上は北という事で御理解いただきたい。
時間も無いのでバーラント国境砦を一気に攻略したい。
だが正面戦力で10倍、質でも完全に負けている。
こちらが勝てる要素があるとすれば、相手が知らない戦術を持っているかもしれないと言う事。
こんなバカな事をやるとは思っていないだろうから奇襲になるだろうと言う事。
情報の重要さを知っていると言う事、もっともこれは相手によるが。
どれも酷く不安定で場当たり的な要素でしかない。
出来ればせめて諜報くらいはしっかりやりたいものだが……。

「砦の構造と、出来うる限りの人員配置を知りたい。知っている人はいるか?」

誰も返事がない。
こうなると仕方ないな、かなりきつい作戦になるが。
時間は押している、動くしかないだろう。

「では、リフティ先行偵察を頼む」
「いいだろう……砦の構造と人員配置だったな?」
「ああ、近づいてバレても困る、あまり無理はしなくていい」
「了解した」
「俺達は戦える人達を編成後、砦へ向かう。
 他の人達もゆっくりでもいいから出来るだけ連れてきてくれ。
 村に残るのは老人と小さな子供だけ、食料事情的にそれがギリギリだろう。
 今は時間が無い、食べる物は必ず用意する、俺についてきてくれ!」
「「「「「おおー!!」」」」」

こうして、明らかに色々な者が不足したまま、俺達は砦へと向かい進行を開始する事となった。
戦うのはどうにかかき集めた働ける人員200人、どうにかついて来れる人員600人。
戦力としては200人だけだと言っていい、装備もクワとかスキとか槌に斧。
対して、曲がりなりにも領主軍である敵は鎧と剣や槍を装備しているだろう。
この辺りは山岳部が多いため騎兵は気にしなくていいだろうからそれだけが幸いだ。
だが、この絶望的な戦力比でも俺はまだ負けるとは考えていなかった。
もちろん、相手がこちらの予想よりもはるかに用心深ければ勝ち目はない。
だが……幸いにして俺とメルカパにはチート能力がある。
そろそろメルカパの成果を見せてもらう頃だと俺は考えていた……。




あとがき
あり? リーマが思ったより小物臭くなってしまったww
まあ、一応彼女にも彼女の理由があり、ご落胤にもご落胤の考えはあります。
のちのちの展開でうまくフォローできればいいのですが(汗)
何にせよ、それなりに嫌な役を押し付ける事になるかもしれませんね。



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