本日はお日柄もよく……。

というのはまあ冗談な訳だけど、クリスマスをレッド寮で男ばかりで過ごした俺だったが、

正月くらいは実家で過ごすかと、28日の今日返ってきた訳だ。

まあ、久々にというのは嘘で、初めて実家に来たと言うのが正しい。

何せ、俺がこの世界に来たのはほんの数か月前の事なのだから。

その後はずっとデュエル・アカデミアにいたしな。

両親とは手紙のやり取りをしていただけで、本当に会うのはこれが初めてだ。

まあ、住所も同じだし、家を見た感じ特別以前と変わった風でもない。

両親は実は異星人でしたというネタでもない限り問題ないだろう。



「ただいま」

「あら、佳克(よしかつ)お帰り」

「ああ、母さんただいま」



母さん、元の世界では少し病気がちだったが、元気そうで何よりだ。

父さんの方は元気にしているだろうか?



「父さんは……」

「どいてどいてどいてー!?」

「あら?」

「ぐぼぉ!?」



何かよくわからない物体が、俺の胸部に衝突した。

一瞬息が詰まりそうになりながら、下を見る。

そこには、見た事もない少女が存在していた。

誰だこいつは?



「あっ、おにーちゃん! おっひさしぶりー♪」

「なっ……誰だお前?」

「ぶぅ、もう、衝突したからっておにいちゃんひどいよー!!」



なんというテンプレ妹キャラ。

黒髪をツインテールにして、ミニスカとニーソで武装。

俺に無視されたと思ったのか頬を膨らまして抗議している。

更に言えば、瞳は大きく潤んでいる。

俺のテンションは100くらい上がりましたよ!?

ってのは置いておいて、確か俺は一人っ子だったはず……。

この世界の俺には妹がいたのだろうか(汗



「あっ、ああ……すまなかったな。えっと、名前なんだっけ?」

「もー!! 酷いー!!」

「佳克も雫(しずく)も! 玄関先で騒がないの! お客さんに失礼でしょ?」

「お客さん?」

「ええ、ほらこの間言ってた」

「……ペガサス会長っすか」

「いえいえ、イリーニャちゃんよ」

「にゃにゃ、お邪魔していますのです!」



おおう、イリーニャも来ていたのか。

ぺこりという挨拶が何ともほほえましい。

白人系の銀髪少女だが、髪の毛の半分が後ろ向きに飛んでいるのでちょっと特徴的だ。



「なんでもペガサスさんがお忙しいので預かることにしたのよー」

「伯父さんは年末調整が大変なのです」

「あーうん、なるほど」



お国によってその時期も変わるが、株価調整のためと税金対策のためにその辺はかかせないだろう。

ましてやインダストリアル・イリュージョン社だ、どれほどの経常利益を上げているのやら。

海馬コーポレーションほどではないかもしれないが世界の有数企業なのは間違いないだろう。

伯父馬鹿であるペガサス会長の嘆きが聞こえてきそうだ。

ただまあ、一人で家にいるよりはとこっちに寄こしたのはあの会長にしては気が効いている。



「あ、奨(すすむ)さん、さっ、佳克、お父さんに挨拶なさい」

「おお、帰ったか佳克。少しはデュエルも出来るようになったか?」

「ええっ、ってえええ!?!??」

「何だ、妹だけじゃなくて父親の顔も忘れたのか?」



いや、アンタ誰だよ?

本当に俺の親父か!?

俺の親父は中年太りのせいで体重は80キロオーバーなくせに身長160cm前後という、

何と言っていいのか典型的な運動不足で、酒好きなサラリーマンだぞ?

それがどうやったら紳士然としたダンディなおじさんになるんだ!?



「それともたった3年じゃまだ父親と認められないかい?

 妹とはこんなに早く慣れたのに?

 俺じゃ兄さんの代わりは無理なのかな?」

「そんな事ないわ奨さん、貴方はあんな人よりずっといい父親よ?」

「そう言ってくれると嬉しいよ♪」

「……」



奨(すすむ)だと……それに兄さんといったか。

確かに、親父には弟がいた気がする、海外で家族を持ったと聞いていたが。

それがどうなってここにいる?

それも、親父と離婚してその弟と母さんが再婚!?

この世界はいったいどうなっているんだー!?!?

俺はアイデンティティが崩壊する音を聞いた。

そんな状態のまま、イリーニャと雫の2人に引っ張られダイニングへと向かう。


なんというか、同じ人間がいるからと思って、何より家族だと思って油断していた。

こんなに違いがあるとはな……。

複雑な家庭事情の前にデュエルアカデミアみたいな全寮制学校に行きたくもなるだろう……。

こりゃ早めに自立して家を出ないと精神崩壊をおこしかねん……。



「にゃにゃ? ヨシカツさん何かお困り事でも?」

「おにーちゃん、雫の事きらいなの……?」

「いやいや、そんな事ないから。イリーニャも雫もありがとな」

「ほっ、よかったのです」

「それならいーけど」



こんなに可愛い子達に心配してもらえる。

ある意味至福の状態のはずなんだが……。

あれだな、ここが自分の家だと思うと複雑な気分だ。



「とっ、兎に角皆ただいま! 今夕食だったんだ、俺の分ある?」

「あるわよ、手を洗っていらっしゃい」

「ああ! 行ってくる」



兎に角、今は夕食だな。

他の事を考えるのは後にしよう。

そんな訳で、手を洗ってから食卓につく。

しかしこの配置……。

俺の正面には両親(父は知らないが)が、左右は雫という妹らしき少女とイリーニャという構図。

両手に花と言えば聞こえはいいが……なんというかプレッシャーが……。



「おにーちゃん! あーんして♪」

「にゃにゃ、こっちのほうがおいしいのです! ささヨシカツさん!」

「もーなんで食べてくれないの? あ、久しぶりだから刺激が足りなかった? じゃあ口移しで!」

「くっ、口移しなのです!? にゃにゃにゃ!? ファイト! なのです!

 行きます! ヨシカツさん!」

「二人ともストーップ!! 飯くらい一人で食べられるから。ね?」

「あらあら、3人ともすっかり打ち解けて」

「父さん嬉しいよ。ついでに私の事も父さんと呼んでくれないかな?」

「あ”−−−!?」



この状況でその反応って、アンタらも何かマヒしてるだろ!?

2人は年齢的にほほえましいで済むといえばそうだけど、明らかに行為はやばい領域だから!!

俺は素早く計算を巡らす。このままじゃ精神に深刻なダメージを負いかねない。

妹やイリーニャには悪いが、この際冬休みは家にこもってさっさとアカデミアに帰ろう。

そう思い、両親に寝場所があるのかを聞く事にする。



「所で俺の部屋ってまだある?」

「ある事はあるんですけど、困ったわね……」

「えっ、一体何が?」

「いえ、今は雫があの部屋を使ってるのよ。一人部屋がほしいっていうから」

「あー、うん、なら客間とかは?」

「イリーニャちゃんに使ってもらってるわ」

「ここは?」

「ごめんなさいね、布団とか用意してないのよ。それにここ夜は冷えるでしょ?」

「それじゃ、俺はどこに寝れば……」

「にゃにゃ! 客間ならもう一人くらい寝られるスペースがあるのです!」

「おにーちゃんは元の部屋で寝ていいよ! 久々に一緒に寝よーよ!」

「にゃ?」

「むっ?」



なんだろう、そこはかとなく背後に気合いの入っていない絵が浮かぶ。

レッサーパンダと白ネコがお互いに火花を散らしているかのような……。

タマとか呼んだら両方振り向きそうだな。



「むー、おにーちゃんは雫と一緒に寝るの!!」

「にゃにゃにゃ! ヨシカツさんは私と一緒にねるのです!」

「じゃあしょーぶだ!」

「わかったのです!」


「「デュエル!」」


イリーニャ:LP4000   雫:LP4000



えーっとあれ?

いつの間に2人ともデュエルディスクを装備したのかな!?

さっきまで一緒にご飯食べてたはずじゃ!?

なにっ、なんなんだこの展開はーーー!?!?



「雫のターン! どろー!

 雫はね、裏守備でもんすたーを出してカードを一枚伏せてターンエンドなの」

「にゃにゃ! 私のターンドローなのです!

 ヂェミナイ・エルフを攻撃表示で召喚! なのです!」

ヂェミナイ・エルフ:通常モンスター/星4/地属性/魔法使い族/攻1900/守 900


「ヂェミナイ・エルフで裏守備モンスターを攻撃なのです! ヂェミニ・ダブル・レジエーション!」

「ちょっ、食卓の上で!?」

「伏せていたのは見習い魔術師だよ!」

見習い魔術師:効果モンスター/星2/闇属性/魔法使い族/攻 400/守 800


「見習い魔術師ははかいされるとでっきから星2つまでのまほーつかいを裏向きでとくしゅ召喚するの!

 雫がとくしゅ召喚するのは、ものマネ幻想師なの!」

「にゃう、厄介なのです……」



なんというか、エルフの双子が食卓の上に浮いている……シュールだ。

俺は既に部屋の隅に逃げている、母は洗い物、奨とかいう人は書斎にいったようだ。

慣れている感じがする所を見ると、こういう事をするのは初めてではないのだろうか?



「私はカードを一枚伏せてターンエンドするのです」

「雫のターン! どろーだよ!」



しかしまあ10歳児がよくやるって……そういえば、早乙女レイも初登場時は10歳だったっけ……。

ううむ、ある意味奥深いのか底が浅いのかわからんなデュエルの世界。



「いくよ!! せかいは風につつまれるの! フィールドまほうデザート・ストーム!

 風のもんすたーは力が500あがるよ!」

「にゃにゃ! 貴方のフィールドには風属性のモンスターはいないのです!」

「これからよぶよ! 憑依装着ウィンをしょーかんなの!」

憑依装着−ウィン:効果モンスター/星4/風属性/魔法使い族/攻1850/守1500


「そして、ウィンのちからが500アップ!」

憑依装着−ウィン:攻撃1850→攻撃2350


「バトル! ウィンでヂェミナイ・エルフを攻撃だよ! グランティっクついすたー!」

「にゃう!? 速効魔法発動なのです! ディメンション・マジック!

 ヂェミナイ・エルフを生贄にサイバネティック・マジシャンを特殊召喚するのです!

 そして、第二の効果! 憑依装着ウィンを破壊するのです!」

サイバネティック・マジシャン:効果モンスター/星6/光属性/魔法使い族/攻2400/守1000


「トラップはつどうなの! まじしゃんずサークル!

 まほうつかいがこうげきする時、ちからが2000以下のまほうつかいをとくしゅ召喚できる!

 雫が召喚するのは、THEトリッキー!」

THEトリッキー:効果モンスター/星5/風属性/魔法使い族/攻2000/守1200


「にゃにゃ! マジシャンズサークルの効果は相手にも及ぶのです!

 私もデッキからTHEトリッキーを特殊召喚!」

THEトリッキー:効果モンスター/星5/風属性/魔法使い族/攻2000/守1200


「トリッキーは風もんすたーだから力が500あがるの!」

THEトリッキー:攻撃2000→攻撃2500


「にゃっ! それはこちらも同じなのです!」

THEトリッキー:攻撃2000→攻撃2500



なんつーか、とてもじゃないが食卓の周辺は一杯になってきた。

モンスターで足の踏み場もないと言う感じだ。

まあ、立体映像だから衝撃は殆どないとはいえ……。



「THEトリッキーでサイバネティック・マジシャンに攻撃なの! まじっく・ブラッシュ!」

「にゃ!?」

イリーニャ:LP4000→LP3900


「さらに雫はものマネ幻想師をおもてにするよ」

ものマネ幻想師:効果モンスター/星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0


「ものマネ幻想師ののーりょくはあいてのもんすたーとおんなじになるの!」

ものマネ幻想師:攻撃0→攻撃2500


「カードを一枚伏せてターンえんどなの!」



おいおい、もしかして今のマジシャンズサークルの効果を見越して、戦闘後にものマネ幻想師を反転召喚したのか?

相手のデッキ内のモンスターもおおよそ把握していないとできないぞ。

一体何回やりあってるんだ(汗



「私のターン、ドローなのです!」



今のフィールド状況は、互いに攻撃力2500のトリッキーが一体づつと、

同じく攻撃力2500のものマネ幻想師が雫のフィールド上に一体、伏せカードは互いに切らしている。

この攻防、一見雫が有利だが、実の所ターンがイリーニャに回ったので条件はさほど変わらない。

後は、イリーニャがこのターンで巻き返せるかどうかだ。

出来なければ、デュエルの流れは一気に雫に傾く。

だが、出来れば手札を減らしてしまった雫は不利になる。



「私は黄泉ガエルを召喚するのです」

黄泉ガエル:効果モンスター/星1/水属性/水族/攻 100/守 100


「そして、速攻魔法発動なのです! エネミーコン・トローラー!

 第二の効果発動なのです!

 黄泉ガエルを生贄に相手モンスターものマネ幻想師をこちらのフィールドに特殊召喚するのです!」

「ちょ、雫のものマネ幻想師さん取らないでよー!」

「にゃふふ、デュエルは少し意地悪でないと勝てないのです!

 バトル! ものマネ幻想師でトリッキーを攻撃なのです!」

「なーんちゃって! わな発動なの! マジックアーム・シールド!

 ものマネ幻想師の攻撃はイリちゃんのトリッキーに行くの!」

「にゃにゃ!? 雫ちゃん悪女なのですー!?」



イリーニャのフィールド上の2体のモンスターが同時に破壊され消えていく。

マジックアームシールド……むぅ、強力だが、使いづらいカードを使ってるな。

相手のモンスターに相手の攻撃を受けさせるトラップ、つまりダメージも相手に受けさせる。

効果は凄まじく強力だ、けれど、欠点もある。

相手モンスターが2体以上いて、自分フィールド上のモンスターが攻撃された場合にしか発動できない事。

攻撃力に差がある場合攻撃力の高いほうのモンスターが生き残る事。

つまり、条件が厳しい割にエース級のモンスターを破壊するには向かないのだ。

だから、その効果の強力さの割にデッキに入れているデュエリストは少ない。



「カードを一枚伏せてターンエンドなのです」



イリーニャも今のは少し落ち込んだようだな。

まあ、攻撃力2500のモンスター2体を同時に失ったようなものだしな。



「雫のターンどろーだよ!」



対してアドバンテージを稼いだ雫は元気いっぱいだ。

ただ、墓地に行ったモンスターの事までは頭が回っているのか?

小学生でそこまでやれたら凄いのだが。



「雫はまほうカード死者蘇生を使うよ! 穴からウィンをとくしゅ召喚!」

憑依装着−ウィン:効果モンスター/星4/風属性/魔法使い族/攻1850/守1500



イリーニャの墓地にはトリッキーもいるだろうにウィンに拘るな……。

あれ? 今ウィンクしなかったか? あのウィン……。



「さらに、デザート・ストームのこうかで力が500アップ!」

憑依装着−ウィン:攻撃1850→攻撃2350


「行くよー! ウィンで直接攻撃なの! グランティっクついすたー!」

「トラップ発動なのです! リビングデッドの呼び声!

 墓地からTHEトリッキーを特殊召喚!」

THEトリッキー:効果モンスター/星5/風属性/魔法使い族/攻2000/守1200



へぇ、イリーニャのトラップがこれだったとすると、雫の判断は間違っていない事になる。

トリッキーを召喚しようとした所にチェーンされると死者蘇生の使い損だもんな。



「そしてデザート・ストームの効果で攻撃力が500アップなのです!」

THEトリッキー:攻撃2000→攻撃2500


「むむむむ……イリちゃん……やるね……ウィンの攻撃はやめてトリッキーでトリッキーを攻撃するの!

 まじっく・ブラッシュ!」

「にゃにゃ! トリッキー! 応戦しなさいなのです! マジック・ブラッシュ!」



お互いに攻撃力同じなのがまた破壊された。

さっきから、モンスターの攻撃力がほぼ同じなのでダメージがほとんど通っていない。

これだけやり合ってイリーニャが100ダメージを受けただけだしな……。

どんだけ拮抗してるんだこいつら。



「カードを一枚伏せてターンえんどなの!」

「にゃにゃ! 私のターン、ドローなのです!

 自分フィールドにトラップマジックカードがない時、スタンバイフェイズに黄泉ガエルが特殊召喚されるのです!」

黄泉ガエル:効果モンスター/星1/水属性/水族/攻 100/守 100



正直言ってこのデッキではエリアよりもよほどキーカードな黄泉ガエル。

いつも素早く出してくるよな……。



「そして、黄泉ガエルを生贄に! 現れるのです! 氷帝メビウス!」

氷帝メビウス:効果モンスター/星6/水属性/水族/攻2400/守1000


「きちゃった……」

「氷帝メビウスの効果発動! フィールド魔法デザートストームと伏せカードを破壊! フリーズ・バーストなのです!」

「キャー!?」 



伏せていたのは炸裂装甲……どっちにしろ攻撃力で上回られる事は承知していたという事か。

それとも手札に来たから置いただけか? どっちにしろメビウスの前では無力だが。



「デザートストームがなくなった事に寄りウィンの攻撃力は500ダウンするのです!」

憑依装着−ウィン:攻撃2350→攻撃1850


「さらに氷帝メビウスでウィンに攻撃なのです! アイス・ランス!」

「うりゅ!?」

雫:LP4000→LP3450


メビウスの作り出した氷の槍に貫かれて消えるウィン。

結構忙しい奴である。



(忙しい奴は酷いと思うなー、少なくともエリアよりは活躍してるよ?)

「いつもやられてから出てくるのは仕様か?」

(ああ、エリアとは知り合いなんだっけ。

 でもそんなの当たり前じゃん、デッキでは順番待ちしてるし、戦闘中はフィールドにいるし。

 基本、マスター以外に話しかけられるのって、やられて墓地とか除外領域にいる時くらいだよ)

「本当に仕様なんだな……(汗)」



ちょうど今白熱のデュエル中で助かった。

変な奴として見られるのは困るしな。



(でもあの2人、普段は仲がいーんだけどね。ヨシカツの事になるとすぐこれだよ)

「……マジか」

(うん、好かれてるねー)

「うれしい……限りなんだがな……」

(年齢差とか気にする口なの?)

「……まあいろいろあるのさ」



イリーニャが12か13、雫が10歳、俺は見た目だけなら15歳。

後5年くらいすればいいカップルかもしれない。

しかし、心のほうはそうはいかない。

俺は今実年齢20を超えている、どうにもこう微笑ましいイメージしかわかないのだ。

いわゆる、イエス! ロリータ! ノータッチ! である。

まあ、彼女の出来た事が無い男であるため距離感が分からないと言う点もあるだろうしな。

そんな事を考えているうちにもデュエルは進んでいる。



「にゃにゃ……ターンエンドなのです」



ありゃ、カードを伏せるのを渋ったな、今。

確かにカードを伏せるとどうしても黄泉ガエルのアドバンテージを受けられない。

しかし、伏せカードがないと、相手の布石に対して対処が出来ないという欠点もある。

この場合雫が何をしてくるかにもよるのだが。



「雫のターン! どろーなの!! くっふっふー!」

「にゃにゃ!?」

(あらら、マスターのSっけが出てますねー)

「ほう、雫はSっけがあるのか」

(ヨシカツの前だと猫かぶってますからね)

「ぶっ」

「えっ、おにいちゃん……雫意地悪じゃないよ! ほら勝たないとおにいちゃんと一緒に寝られないし!」

「にゃ、いつも意地悪なのです!」

(そんな感じですー)

「ははは……」

「もう、おにいちゃん本当なんだからー!」



雫がデュエルを本気で忘れて俺をぽかぽか殴りに来る。

本気はあまり感じられない、ほっぺが赤くなっている所から恥ずかしいのだろうと言う事は分かった。



「ほらほら、デュエル中だぞ、イリーニャが待ってるじゃないか」

「もう、本当なんだからね!

 行くよ! 風のモンスターTHEトリッキーを穴からじょがいして、シルフィードをとくしゅ召喚するの!」

シルフィード:効果モンスター/星4/風属性/天使族/攻1700/守 700


「そして、シルフィードをいけにえに、風帝ライザーを召喚するよ!」

風帝ライザー:効果モンスター/星6/風属性/鳥獣族/攻2400/守1000


「風帝ライザーの効果はつどうなの!

 ふぃーるど上のカードを一枚でっきのいちばん上に戻すよ! ライジングうぃんどう!」


「にゃにゃにゃー?!?!」

「ふっふっふー、これでもうイリちゃんの所にはなにもないの!

 風帝ライザーで直接攻撃なのー!! うぃんどスラッシャー!!」

「にゃーーーーッ!?」

イリーニャ:LP3900→LP1500



こりゃあ確かに大きいな。

次の攻撃は決着になる可能性がある。

とはいえ、雫も問題点が残る、そう、これで手札切れだ。

後は半ば運勝負になってくるかもな。

因みに、風帝ライザーは2007年2月と、割と最近の発売である。

しかしまあ、どうせほとんどの帝は多分あるんだろうな……。

光帝が完成してない事を考えると、邪帝や、闇帝もまだの可能性は高いが。

問題はむしろ、どうやって雫が手に入れたのかだ。

正直帝のレアさ加減は……いやまてよ、確か何度もイリーニャが来てると言う事は。

何度もペガサス会長も来てるって事で……なるほどルートはよく分かった(汗



「ターンえんど! これでおにいちゃんは雫のものなの!」

「いや、雫のものになった覚えはないし……」

「うぇ?」

「そうです! 私のものです!」

「いやいや、俺は俺のものだから」

「えーしょうらいを決める決闘じゃないの?」

「そーなのです!」

「いやさっきと言ってる事が違うだろ(汗

 俺の寝る部屋を開けてくれる話なんじゃ?」

「うぅぅ……、今はそれで我慢する……」

「にゃにゃー、仕方ないのです……」



ナニコレ……すっごいモテっぷり……。

ニコポなんてレベルじゃねーぞ!

一体どうしたこの世界の俺!?



「とにかく、ターンえんどなの!」

「にゃ! 私のターン、ドローなのです!!

 スタンバイフェイズ黄泉ガエルが特殊召喚されるのです!」

黄泉ガエル:効果モンスター/星1/水属性/水族/攻 100/守 100


「そして、黄泉ガエルを生贄にデッキに戻っていた氷帝メビウスを再度召喚するのです!」

氷帝メビウス:効果モンスター/星6/水属性/水族/攻2400/守1000


「そーなるよねー、でもその先はどうするの?」

「にゃにゃ! さっき伏せなかったカードが効いてくるのです!

 速効魔法、突進! メビウスの攻撃力が700アップするのです!」

氷帝メビウス:攻撃2400→攻撃3100


「バトル! 氷帝メビウスで風帝ライザーに攻撃! アイス・ランスなのです!」

「いったーい、テーブルのかどにぶつけた!?(汗)」

雫:LP3450→LP2750



今ガインと言う感じのリアルな音がした。

こりゃ、勢いよくぶつけたな……。

ちょっと雫の額が赤くなっている気がする。



「えっ、雫ちゃん大丈夫ですか?」

「なんとか大丈夫なの! 愛の力は偉大なんだよ!」

「そうですね!」



何を納得し合っているんだか……。

さっきのリアクションのときテーブルに額をぶつけたようだな。



「まあ、ちょっと見せてみろ」

「はう!?」

「にゃにゃ!?」

「怪我とかはしてないな。ちょっと中断して額水で冷やしてこい」

「うん……いって来るね! おにいちゃん!」

「にゃう……」



かけ去っていく雫、なんだか嬉しそうにしていたな。

心配されただけで痛みよりもうれしさが上回るとは。

この世界の俺は人たらしの才能でもあったのかも知れん。

現代の秀吉になれそうだ……(汗)



「私にももっと優しくしてほしいのです」

「十分優しくしているつもりなんだが……」

「にゃにゃ! もっとなのです!」

「難しいな、頭でもなでればいいのか?」

「お願いしますのです!」



俺が頭をなでてやると、イリーニャはくすぐったそうにしながら。

しかし、喉をなでられた猫のように大人しく動きを止めている。

ううむ、もしかしてこの体には何かフェロモンのようなものが……。

それも、幼女にしか効かないとか(汗)

まあ娘みたいなもんだしなあ、この子らの精神年齢は……。



(これはあれだね、ナデポという奴だね♪)



それを言われると辛い……。

俺も実際にありうるとは考えていなかっただけに。

しかし、ウィンお前あれだな、ゴシップ好きだろう?



(うん♪)

(デュエル中ではないのでボクもお邪魔させてね!)

(あエリアじゃない)

(ウィン、そういえばガスタはどうしたの?)

(あれね、まだどっかで封印でもされてるんじゃない?)

(まあ、シンクロ召喚だしね、この世界じゃ出にくいか)

(リチュアだって似たようなものでしょ)



俺にしか聞こえないからってあまりメタな発言をしないでくれ……。

そんな目で2人を睨みつけると。



(へぇ今言っている事の意味わかるんだぁ?)

(ちょっと、ウィンそういう詮索はよくないよ)

(まあ、そうだね私たちはまださほど活性化していないから、使い手に見えなくても仕方ないんだよ)

(そうそう、何らかの要因で精霊界の力が大きく流入してくるとマスター達も認識できるようになると思うけどね)



要因、要因だと!?

そんなの、いくつもあるじゃないか……。

三幻魔の復活、光の教団の台頭、ネオスペーシアン達の地球への到達、

アカデミアの異世界転移に、12世界での十代達の旅、ダークネスによる世界の停止。

だがそれを口にする事は出来ない。

それに、彼女らが見えるようになる事が、雫やイリーニャ達にとっていい事なのかもわからない。

俺は一体どうすればいいんだ?



「あー! イリちゃんずるい!」

「にゃふふ、約得なのです!」

「おにーちゃん、雫もなでて!」

「あー、構わんがデュエルはどうするんだ?」

「あっ!」

「そうだったのです!」



こいつら完全に忘れてやがったな……。

まあ、目的が目的だ、どうでもいいのかもしれないが。

もうこの際こたつで寝てしまおうかな……(汗)



「にゃ、兎に角、ターンエンドなのです!」

「雫のターン、どろー! カードを伏せてターンえんどなの」

「私のターン、ドローなのです!

 そしてスタンバイフェイズに黄泉ガエルが特殊召喚されるのです!」

黄泉ガエル:効果モンスター/星1/水属性/水族/攻 100/守 100



互いに手札切れになっている現在、イリーニャの黄泉ガエルのアドバンテージは大きい。

何せ、あれさえいれば生贄要員を常に満たす事が出来るのだから。



「私は水霊使いエリアを召喚するのです!」

水霊使いエリア:効果モンスター/星3/水属性/魔法使い族/攻 500/守1500

「そして、エリアと黄泉ガエルを墓地に送り、デッキから憑依装着エリアを特殊召喚するのです!」

憑依装着−エリア:効果モンスター/星4/水属性/魔法使い族/攻1850/守1500
 

「バトル! 氷帝メビウスでダイレクトアタックなのです!」

「罠オープンなの! リビングデッドの呼び声! 風帝ライザーをとくしゅ召喚するよ!」

「そのままバトルを続行します! アイス・ランス!」

「ライザー迎撃なの! メビウスなんかに負けるな! うぃんどスラッシャー!!」 



まあ、気合い入れようが入れまいが、同じ攻撃力のモンスターは同時に破壊されるのが定め。

帝達は互いの攻撃を食らって破壊される。

しかしこれで互いに帝を復活させる術は出尽くした頃だろう。

現在の形勢は明らかにイリーニャ有利、手札が無い以上逆転の可能性も薄い。

後は、雫にディスティニードローがあるのかどうかだな。



「更に! 憑依装着エリアでダイレクトアタック! テンペストウエーブなのです!」

「あうっ、また頭うったー」

雫:LP2750→LP900


「嘘つかないでください! もう最終なんですから、先に決着をつけるのです!」



まあ今は確かに音もしてないしな。

雫もちゃっかりタイプのようだし、俺に何かリアクションを期待しているようだ。

なので、俺はダイニングを見渡し、笑顔で答えてやった。



「さっさと終わらせないと、片づけが大変だぞ」

「がっ、がんばるます」

「にゃにゃ……、早く終わらせてかたずけるのです。ターンエンドなのです」

「雫のターン、どろー!

 魔法カード強欲な壺を発動なの! でっきから2枚どろー!

 そして2枚目のウインをしょーかん!」

風霊使いウィン:効果モンスター/星4/風属性/魔法使い族/攻500/守1500


「カードを一枚伏せてターンえんどだよ」

「私のターン! ドローなのです!

 バトル! エリアでウィンに攻撃! テンペストウエーブなのです!」

「げいげきだよウィン! グランティっクついすたー!」



またしても同じ攻撃力でぶつかり合う2人、デッキは違うのになぜこんなに揃うんだ……(汗) 

とはいえ、今は雫の伏せカードと、イリーニャの手札が気になる所だな。



「罠おーぷん! 悪魔のサイコロ発動なの!」

「にゃにゃ、こっちは速攻魔法天使のサイコロなのです!」

「ぶっ!?」



なにそのものすんげーギャンブルカード……。

出た当初から本当に使えませんご苦労様でしたなカードじゃねぇか?

100から600の……いや、忘れてた……。

アニメ効果だったなこの世界……ってことは。

倍数なのか!?

ころころとサイコロが転がっていく。

正直倍数だと一体どうなるか想像もつきませんよ俺は(汗)



「出た目は2なの! だからエリアの力を2ぶんの1にするの!」

憑依装着−エリア:攻撃500→攻撃250(500 / 2 = 250)


「出目は……にゃにゃ!! 6なのです!! エリアの攻撃力は6倍になるのです!」

憑依装着−エリア:攻撃250→攻撃1500(250 * 6 = 1500)


「うそ!? イリちゃんつき過ぎ!?」

「いくのです! エリアでウインを破壊! そしてライフに1000のダメージなのです!」

「そっ、そんなー!?」

雫:LP900→LP0



試合は付いた……しかし何だろう、あの天使のサイコロ、巨大化なんかより数段凄いんですけど……。

6倍……確か攻撃力500以下という制限があったはずだけどそれでも500×6で3000までいく。

つまり、ウィンでブルーアイズと殴り会えるカード……。

悪魔のサイコロはさらに凄い、天使のサイコロのような制限がないため攻撃力の高いモンスターの天敵だ。

これは、禁止どころの騒ぎじゃないのでは……。



「あのな、そのサイコロ……」

「あっ、公式デュエルでは使わないのですよ。今度禁止に指定されるらしいので」

「もったいないよね、こんなに強いのに」

「いや、是非禁止にしておいてくれ……」



そうか、公式大会ではもう禁止になるのか……よかった。

あんなのが普通に出回ってたらデュエルが成立しなくなる……。

つーか、城之内……このカードもっとうまく使えば殆どの敵を瞬殺してたのでは(汗)


「では、ヨシカツさん一緒に客間で寝るのです!」

「ああ、片づけを終わらせてからな」

「はいなのですー!!」

「ふっふっふ、もうこうなったらよばいをけっこうするしかないね」



何と言うか、2人とも元気だよな……。

とりあえず俺は、後片付けの指揮を取りつつ、大掃除の下準備も兼ねて物を動かし始める。

まあ、こいつらは微笑ましいが、いろいろ考えさせられる事はあるな。

とはいえ、なんだか夜にまた騒がしくなりそうな予感がする……。

実家に帰ったはずなのに、アカデミアにいる時より神経使ってるよな俺。

あー、早くアカデミアに帰りてー!!





あとがき

氏ねって言われても仕方ないキャラになりつつある佳克w

まぁ、ほら。

オリ主だしw

という事でご勘弁を(汗



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