テイルズ・オブ・キュモテリア 第六話 悪あがき


「やあ、アシェット君今日も頑張っておるかね?」


にこやかに一人の騎士に声をかける俺。

相手は兜の上からでも嫌そうな顔をしているのがわかる。

そりゃ、騎士団屈指の問題児と目されているキュモールに関わりたくないと思う奴は多い。

だがこいつ、ユーリの同期の騎士で意気投合していた奴らしい、多分能力もそこそこ高いはず。

なんとか関係性を構築したいものだ。


「これはキュモール隊長……何か御用でしょうか?」

「この前渡したあれ、どうだね?」

「はい……凄くいいものですね。もらってもよろしかったのですか?」


俺はアシェット君に魔導器(ブラスティア)をいくつか渡している。

幸いある程度金持ちであるので、その辺なんとかなっているが、そろそろ資金が底をつきそうだ。

どうせ、実家は姉と執事のせいでもう金らしい金は残ってないだろうから、アテに出来ないしな。

町を軌道に乗せても回収出来る時まで執政官ではいられないだろうし。

だから、その内魔物刈りに行く必要があるかもしれない。

まーそのことは置いておいて。


「所で君はユーリ・ローウェルと仲が良かったそうだが」

「それは……まあ、それなりに」

「別にその事を問題視しているわけじゃないから気にしなくていいよ。

 それよりも、ユーリ・ローウェルの友人なら相応に使い手なんだろ?」

「あいつらと同じにしないでください。同期でフレンとユーリはツートップだったんですから。

 ユーリは肌に合わないって辞めちまいましたが、いたら小隊長くらいなってましたよ」

「だが今も隊長首席であるシュヴァーンの隊にいるじゃないか」

「それこそ、シュヴァーン隊は隊長も殆どいませんからね。

 有象無象みたいな奴で溢れかえってますよ、知ってますか?

 シュヴァーン隊は今騎士団の2割近い人数になってるって」

「……え?」


なぜそんなことに……でもま、ゲームの時、シュヴァーン隊が世界中にいたのには疑問符がついたのも事実。

〜隊とついてる騎士や、アレクセイ本隊を除けばシュヴァーン隊というくらい一般兵っぷりだった。

平民出の騎士の駆け込み寺になってる感じがした、他の隊長以外で名前ありはフレン隊のソディアくらい。

だが、シュヴァーン隊はルブラン、アデコール、ボッコス、ヒスカ、シャスティル、アシェットと多い。

他の隊と同規模だったらちょっと考えられない数だ。


「何十人も隊長がいるのに2割ですよ。単純に5倍くらいの人数はいます。

 だからシュヴァーン隊はピンキリですよ、なんだかんだでルブラン小隊なんかは強かったりしますしね」

「あー彼らね」

「ええ、ルブラン小隊長なんか頭がもう少し柔らかければ隊長になってるのに」


まーあのおっさんは、ユーリを追いかけるとっつあ〜ん的立場だからなー。

あんまり地位が高いと別の理由とかが必要になるから、フットワークの軽い小隊長ってことにしてるんだろうし。

ルブランの部隊が妙に強いのも、技のチュートリアルのためにいろいろやるからだし。

ゲーム事情がそのまま適用されているのかねぇ……この世界は。


「兎も角、一つお願いがあってねぇ」

「おおう、もう褒めるの放棄したんですね……」

「あんまり真剣に否定されたら、どうしようもないからな。

 ただま、ようはあれだよ。バイトしないかってことだ」

「バイト? 騎士に副業は禁止されてますが」

「大したことじゃないよ。ユーリに会ったら手紙を2枚渡して欲しい。

 それだけ、何なら中身を確認してもいいけど?」

「ユーリにですか?」

「ああ、多分ここに来るからね」

「はぁ……分かりました。もし会ったら渡しておきます」

「よろしく!」


そう言って、詰め所から出て行く。

アレクセイが来たということはダングレストで一悶着あるということだ。

当然ながら、ユーリはそれに関わるだろう、ラゴウのこともある。

そう捕まってからラゴウの行動はかなり意味不明だ、実質無罪に近い結果を出せる権力があるのだ。

何故ダングレストまで騎士団のお供をしてるのか。

シナリオ的にそこら辺がちょうどいいのは判るんだが……。


因みに賛否両論あるラゴウやキュモールを暗殺したことだが。

よくよく考えてみると、RPGの主人公で人を殺したことがない主人公は少数派ではないだろうか?

特に、人間ドラマがメインとなるテイルズシリーズに於いては殺人をしないとクリア出来ないものが多い。

オブラートに包んでおり、戦闘で直接死んだことになっていないものもあるが、ボス戦は大抵殺す事になる。

それに、兵士の雑魚は殺しているのかいないのかオブラートのせいで見えないが経験点が入ることを考えると……。

それに、なんのかんの言いつつユーリは正面から暗殺(?)している。

つまり、ユーリのやったようなことは他のゲームでもよくあるということだ。

ただ、違いとしては2点、一つは相手有利ではなく自分有利な場で倒していること、もう一つは戦闘がないこと。

その2点くらいの差だ。


「まあ、とりあえず……」


俺は一度キュモール隊の宿舎に戻る、一応これでも隊に指示を出しておく必要がある。

なにせ、こいつら放置しておくとどこまでもだらけるからな。

しかも金遣いが荒いから、厄介なのだ。

一応、町の金もあるからなんとかなっているが、節約させないと不味い。

副隊長ラパンを呼びつけ、宿舎にキュモール隊を集めさせる。


「さて、分かっていると思うが今この町にアレクセイが来ている。

 それだけじゃない、ヨーデル殿下も来ておられる。

 お前たちもその事はわかっているだろう?

 問題行動を起こせば首が飛ぶぞ」

「ヨーデル殿下が来られているのですか!?」

「そうだ、別に何か持っていくのは構わんが恐らくアレクセイや近衛騎士に阻まれるだけだ。

 今は平民どもとの諍いや買い込みはやめておけ、庇ってやれんぞ。

 それどころか、下手をするとキュモール隊そのものに被害が及ぶかもしれん。

 分かっているな?」

「はっはい!」

「了解しました!」

「我ら貴族の鏡ゆえ問題行動等起こすはずもありません!」


口先だけだから普段なら心配だが、今問題を起こせば家ごと取り潰される可能性くらいは考えるだろう。

もともとキュモールそのものがそれの傾向が強かったが、今は俺になっているので多少薄くなっていると思いたい。

ただ、薄くなっているということは、アレクセイの警戒を呼ぶ可能性もあるということだから痛し痒しではあるが……。

まあ、キュモールがもともと駄目なやつであることから油断があることを祈ろう。


「さて、私はこれから殿下に拝謁し、ヘリオードの経過を報告してくる。

 ラパンお前が隊の管理をしていろ。

 くれぐれも問題行動を起こさせないようにしろよ」

「は! 重々承知しております。キュモール隊はキュモール様のために!」

「「「「キュモール様のために!」」」」

「おおぅ……頼むぞ」

「ははっ!」


どうやら、変な合言葉があるようであったが、キュモールのやつ何をやらせてたんだか。

まー、カリスマないもんな……俺もだが……。

どの道大半は内心では忠誠を誓ってるわけじゃないだろう、だがま言うことを聞いてくれるのはありがたい。

俺は早速最近完成したばかりの宿の方に向かおうとしたが、隠れるハメになった。

ユーリ御一行様も到着したらしい……。


不味いな……ゲーム内ではこの段階でユーリとキュモールは会っていない。

まあそもそも、亡き都市カルボクラムに行ってないので、それも問題なんだが。

あれは無理してまで行く必要もない、単に嫌われる発言をしに行くだけだし。

だが、ここで会うといろいろ聞かれそうだしな、この間までいたリタが合流してるようだし。


下手にここで良い奴ってことが分かるとユーリ達と直接関わる事になりかねない。

そうなると、アレクセイにバレる確率が跳ね上がる上に、下手に一緒に行動したりすると戦闘に巻き込まれかねない。

実感として、俺の成長度合いが明らかにメインと比べて低いので後半だと話にならない可能性が……。

死亡率高すぎてとても参加できない(汗


「だから〜、この魔核(コア)のエアル消費量は使い方によっては数十倍にもなるのよ!」

「エアルってあれだろ? 大気中にあるっていう魔道器の動力源」

「そうよ、だからこいつを作ったっていうアレクセイって騎士団長に一言いってやらなきゃ!」

「へいへい、お前の好きにすりゃいいだろ。俺は水道魔導器(アクエブラスティア)を探せりゃ文句ねぇよ」


あっ……ミスった!?

町のエネルギー供給用魔道器(ブラスティア)の魔核(コア)がアレクセイ制作だってことリタに言っちゃったよ!

リタの性格なら当然アレクセイを問い詰める事になるよな……。

そうした時のアレクセイの対応も何となく予想はつく、その場では鷹揚に返答するが裏で……。

教えた事をばらされると、俺の命がやばい……。

何せ、アレクセイが親友であるヘルメス(リタの父)の研究を引き継いでいる事を知っている者はごく一部なんだろうから。


「とりあえずアレクセイの目が俺に行かないようにする必要があるな……」


となると、2択しかない。

一つは、リタに言い含めてアレクセイに言いに行かないようにする事。

問題点としてはユーリ達と接触することになるし、アレクセイの警戒を呼ぶ事にもなる。

下手をすると一発切り捨てがありうる、何せ今までと正反対の行動と思われるからな……。


もう一つは問題行動を起こしてアレクセイを安心(?)させる。

可能か不可能かと言われれば可能だが、結果としてせっかく少しだけマシになっている評価を落す結果になるだろう。

その上ユーリにロックオンされる可能性が出てくる……。

どっちも死亡フラグ満載だ……。


「はぁ……」


アレクセイを警戒させないためには後者しかない。

だが、後々問題にならないようにアレクセイを呆れさせるのは骨が折れる。

一番楽そうなのは、原作と同じ魔道器の暴走だが、コアが普通の物に代わっている現在不可能だ。

となると、他のものを探すしかない。


「やっぱ、アレしかないか……」


俺は隠れていた路地から、ユーリ達のいるメインストリートに戻ってくる。

そして、正面から声をかけた。


「ユーリ・ロウェル! 貴様! まだこのお方を連れているのか!!」

「ん? なんだ、誰だと思ったらキュモールじゃねーか」

「私を呼び捨てにするとは、下民の分際で偉そうに!」


よし、今ユーリの中で俺がうざったい奴になった。

さっきまでは、一応恩義もあると思っていただろうが、評価が下がったのは間違いないだろう。


「エステルが付いてきたいって言ってるんだからしゃーねーだろ?」

「はい! ユーリ達に付いていきたいというのは私の意思です」


エステルもまあ、素直に返事してくれて。

まーそれでこそうざい奴になるのが楽なんだが。


「エステリーゼ様の言っている事が本当であっても、それを評議会が許すとは思えませんな」

「それは……」

「どうしてもと言うなら、評議会の承認を得てから動いてもらいましょう。

 さ、エステリーゼ様こちらへきてください」


俺は、少し怒り気味に見える表情と声音でエステルに言う。

そして強引に腕を引っ張ろうとして……ユーリに阻止された。


「キュモール、てめえはもうちょっと頭のいい奴かと思ったが。

 やっぱ税金泥棒だったみてーだな!」


そうして、俺はユーリの腕の一振りで、そのまま後方に弾き飛ばされる。

ように見せかけて、方向を制御し大通りの端、この町は大きな段差があるためつまり崖っぷちへ向けて転がって行く。

更にわざとらしく見えないように心がけながら、道から落下した。


「ん?」

「ユーリ!? もしかして」

「いや、そんなに強くは……」


と言うような声を聞きながら、地面に激突する。

一応頭部や胸部あたりには防御用の魔道器を装備していたため、手足にそこそこの傷を負っただけで済んだ。

あんまりうまく行ったとは言い難いが、アレクセイの間諜もこれは見ていただろう。

俺の評価はしっかり下がるはずだ。

後は、暫く静養して見せれば……。


「あの……すいません! ユーリのせいで。

 その、傷直しておきますね」

「え?」


大慌てで追いかけてきたエステルが俺に回復の魔道をかける。

おいおい、今満月の子だってバレたら不味いってのに。

一応、魔道器を使うフリはしているから、あまり疑われる事はないと信じたい。


「行くぞ、エステル」

「はい! それと、キュモールさんでしたっけ。私は旅を続けたいんです。

 ごめんなさい」


そう言ってユーリ達やエステルは去って行った。

よし、これで一応疑われる可能性は下がった……よね?

町中で目立つように一般人や騎士の見ている前でやったんだ、そうでなくては困る……。


とりあえず、この調子じゃヨーデルやアレクセイに報告するのは難しいだろう。

まあ、派手にやられたので療養中とでも言えばなんとかなるかもしれないが。

ただま、折角時間が空いたんだから、今のうちにやるべきことをやろう。


待機していた馬を走らせ、カプワ・トリムへと向かう。

距離的に急いでいけば一泊二日程度でいけるものと思う。

向かってくる雑魚は邪魔になる敵だけ剣で切り伏せる。

幸い馬のほうは悲鳴を上げて逃げ出すようなこともなく、そのまま走り抜ける。

軍馬は違うなやはり。


目的地、であるカプワ・トリムへは深夜にどうにかたどり着く事ができた。

もっとも、その店に入るのにはかなり苦労したが……。

正直よく、引き受けてくれたものだと思う。

まあ、ギルドの人なら殆ど思うことではあるだろうが。


そして、また俺はほとんど徹夜で戻っていくのだった。






野暮用を済ませて戻ってきた俺は急いで執務室へと戻る。

もしかしたら、アレクセイやその部下が来ている可能性も否定できない。

流石に今いることはないと思うが、一度来ていたりしたら俺の方から向かわねばならない。



「私が出ている間に何かあったかい?」

「いいえ!」

「じゃあ、執務室に戻っているから何かあれば報告しなさい」

「はは!」


どうやら、行きの間にアレクセイが訪ねてくるようなことはないということのようだ。

フェロー退治はまあ、フェローがダンクレストで出てからなんだろう。

そんなことを考えて、うつらうつらしているとノックがあった。


「どうした?」

「はは! そのう……エステリーゼ皇女殿下がいらしております!」

「は?」


不味い! 小細工しすぎたか……エステルがここに来ると流石にアレクセイも俺を疑うかもしれない。

っていうか、既に昨日謝ったじゃないか……。

なのに今日来るとは……。


「はぁ……通してくれ」

「分かりました!」


しばらくして、結構な人数の足音が聞こえてくる。

こりゃーパーティ全員でくる気か。

エステルが言えばお付きを通さないわけに行かないからな……。


「どうぞ」


俺がそう言って招き入れると、ラピード、ユーリ、エステル、リタ、カロルの順で入ってくる。

俺はとっさに、口笛を吹く。

一応、3パターンくらい考えた合図でゴーシュとドロワットに対するものだ。

その一つ、周囲に聞き耳立てる輩がいないかを探ってもらうものだ。

もしもいれば、ネズミのような鳴き声で知らせてくれる。

どうやら反応がないようなので、安心した。


「変な口笛だな」

「上手くなくて悪いね。それでエステリーゼ様。どのようなご用件で?」

「はい、先ほどの事を謝りたいと思いまして」

「はぁ……やっぱりね」

「ん? どういうこった?」


俺がため息をついたのを見てユーリが不信に思ったようだ。

まあ当然だが、現状なら少しくらい話してもいいだろう。

といっても全部を話すことは出来ない、取捨選択が難しいな。


「あれはわざとですから心配ありません」

「わざと? そういえば派手に吹っ飛んでたな、つまり自分から飛んだってことか?」

「そういうことだよ」

「何故そのようなことを?」

「それを言うのはかまいませんが、全員他言無用に出来ますか?」

「もちろん」

「あ〜カロル先生、大丈夫か?」

「でっ、出来るさ!」

「まーアタシはどうでもいいけどね」


まぁ混乱するのは仕方ない、ラピードが話すわけもないから一応全員の保証をもらったことになる。

カロルはかなり心配だが、失言多かったキャラだしな……。


「騎士団長アレクセイは世界を憂いています」

「え?」

「彼は、力による世界の再構成。まあ言えば己の王国を作る気です」

「おいおい。いきなり大きく吹くじゃねえか」

「別に、信用しないならそれもいいけども。最後まで聞きなさい」

「フンッ」

「実際、現在はいろいろ腐敗している。我ら貴族もそうだし、商人や力あるもの達、皆ルールを外れてきている」

「自分で認めるとは殊勝なことだな」

「そう言った、膿を出して自分の理想の国を作ろうというんでしょう」

「それが本当だとして、お前がどう関わってるってんだ?」

「私達は彼の言う膿そのものだからね。このままでは排斥されることになる」

「結構なことじゃねーか」

「そうだね、だが、彼の支配する世界は正しいものしか生き残れない。

 ギルド連合や、下町の貧民街等は当然消すつもりだろうね」

「下町が悪だって言うつもりか!!」

「ギルドは悪くないよ!!」

「下町はひったくりが多い、ギャングもいる。ギルドだって傭兵や武器商人がいる。

 アレクセイは中身が良い悪いを個人単位で調べたりしない。

 つまり……」

「チッ……」

「そんなことは……」

「なんでもいい、今私は目をつけられたくないんだよ。アレクセイに。

 そのためには馬鹿だと思ってくれていたほうがやりやすい」

「それで……」

「結局保身じゃねーか」

「まあね、わかったかい?」

「アレクセイがそんなことをしてるなんて信じられませんが。

 それでも、貴方の目立ちたくないと言う気持ちはわかりました」

「分かってくれれば何より」

「でっ、エステルといる俺たちとは表立って付き合いたくないってことか?」

「そういうことだね」

「それであんなことを……」

「まあ、一つ頼む」



こうして俺は一応事情を語る事ができた。

まー信じてくれたかは難しいところだが……。











あとがき

かなり無理矢理ですが、ユーリたちに事情の一端を話すことができました。

まーアレクセイがどう動くかはまだ決まってなかったりしますがw

この先、一気に展開していきたいところですが、なかなか進まない予感がします(汗)



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