銀河英雄伝説 十字の紋章


第三話 十字、萌え文化を広める。






宇宙歴770年初頭、といってもこの星の自転速度や公転速度の関係から日数にズレはある。

因みに俺ことジュージ・ナカムラはまだ13歳である。

帝国と同盟の戦争はダゴン星域から変わらず、勇戦中らしいのでまあ膠着しているんだろう。

あんまり長く膠着するとミュッゲンベルガー当たりが出てきてやられそうだが。

大きな被害にならないことを祈りたい。

ともあれ、アレクサンドル・ビュコック氏も中佐から大佐に階級をあげているのでお先輩に祝いを送っておいた。



ともあれ、俺個人の事に限ればとんとん拍子でうまくいっていると言える。

エミーリアも言っていたが、エミーリアの父親がピンポイントで役に立つ人材というか……。

まさか、この周辺星系指折りの通信機器メーカーの社長だとは。

特にこの惑星パラスにおいては半分近いシェアを誇っているため、長者番付の10位以内に入るほどだ。

そんなのの娘が同じクラスにいるとは思わんだろ……。


後、つけてもらったバーリというメイド、うちで住んでいるんだが。

凄いの一言だった。

何がすごいって、エミーリアパパの言っていた通り、何でもできる。

家事をこなし、俺のスケジュール管理をし、ボディガード代わりもする。

同人誌のネット販売に関してはサイト管理までしてくれる万能ぶり。

おかげで2ヶ月で同人売り上げ額が10万(1100万円)ディナールを越えた……。

口は悪いが確かに能力は折り紙付きだ。


ネットは他の星にもつながっているので、どんどん売り上げが伸びる。

一冊追加するたびに1万ディナールくらい増える換算だ。

一冊5ディナールなので2000冊は売れている計算だ。

しかし、それでもまだまだインパクトも足りないんだろう。

内容も過激なものはできるだけやらないようにしているしな。

流石に18禁や露骨な政治風刺はまずい。



「そろそろミドルスクールに行くか」

「お供致します」



俺が学校に行く時もついてくるのは困りものだが、ボディガード兼監視なのだろうから仕方ない。

家族も彼女の万能ぶりから恩恵を受けており、母が最初に陥落し、父も堕ちた。

最近では酒に誘う父をするりと回避するバーリさんをよく見かける。

母にチクっておいたが。


ともあれメイド同伴で登校する俺を見て囃し立てる学友達をよく見かけたが、俺は逆にうらやましいだろと言って胸をはっている。

そうでもしないとやってられないというのが本音だが……。


「ジュージ殿の性癖に巻き込まないでください」

「うるせー、学生としちゃ他にどうしろっていうんだ」

「無視が適当かと」

「孤立するのが目に見えてるだろうが、おどけて振舞うしかないんだよ」

「変な所で気を配るのですね」


くっそ、波風を立てたくないっていうのもだが、今嫌われる行動はまずい。

俺の情報を調べられることになれば、スキャンダルに対しても強くないといけない。

なら疚しいと判断されることは決してできない。


「ジュージおはよう」

「おはようエミーリア」

「おはようございますお嬢様」

「相変わらずジュージにべったりなのね」

「はい、それが仕事ですので」



エミーリアのそれが嫉妬であるのは明白だが、それが何に対してのものかはまだわからない。

13歳でも恋愛はできるが、彼女の場合俺くらいしか友達がいないという点もある。

それに、単に俺とバーリさんに不潔な雰囲気を感じているだけかもしれない。

現時点では絞り込めないが、何にせよご機嫌をとっておかないと後々怖い。



「そういえば、この間の小説呼んだよ」

「あっ、うん。どうかな?」

「うん、題材はいいと思うけど、取材不足かな。ネットとかで調べられる範囲でもかなり調べられると思う。

 でもキャラは立ってるし、生き生きとしてるよ」

「そう、ありがと。だけど売れっ子作家さんと比べられると困るけどね」

「まー計画的なのは否定しない」



転生して目標をもって生きると決めた以上、多少は無茶する気でいる。

まー行き当たりばったりなのも事実なので、計画的というのは半ば嘘だが。

ダメならもう帝国とも同盟とも関係ない遠い星にでも逃げるしかない。

そのための準備をするにしても結局金、金が無いのは首がないのと同じだよな……。



「大丈夫?」

「すまない、最近あんまり寝てないからな」



ぼうっとしてたんだろう、エミーリアの顔が間近にあった。

俺は思わず少し引いたが、手を差し出し俺の額に手を当てるエミーリアに動けなくなる。

前世でも恋愛経験はほとんどない俺としてはかなり恥ずかしい状態だった。



「熱は……ないみたいね」

「お嬢様、熱々なのは結構ですが、他の生徒たちが見ているかと」



バーリさんに言われ真っ赤になるエミーリアに俺も反応して赤面してしまう。

不味いなこの思春期の体……ポーカーフェイスがうまくいかない。

ああ……なんというか、エミーリアをまともに見れない。



「遅刻しないうちに急ごう」

「うっ、うん」



互いに顔が赤いままミドルスクールに急ぐ、これって青春してるんだろうか?

しているな……、時間がないのに……。

大丈夫だろうか?



「先輩。ちょっといいっすか?」

「ジュージか、例の件だな」

「はい、絵を描きたいって人会わせてもらおうと思って」


アンリ・ビュコック先輩や一部の先輩達は既にハイスクールや士官学校等行先が決まっている。

だから、その余った時間で同人誌等をやりたいという人達がいるのだ。

質はまあ、俺のように前世での知識があるわけじゃないので高いかどうかはわからないが。

それでも俺は、今使っているネット販売ルートを使って彼らの作品を売り出そうと思っている。

もちろん、マージンはとるが。


「一応、売りに出す同人誌の内容はチェックさせてもらいます」

「内容か、問題になる基準は?」

「エロとグロと政治批判です」

「ほほー、結構お前の作品にも盛り込まれてたと思うが?」

「ですが、直接的表現は使っていません。

 表に出せないレベルの作品を中学生が作っていたというのは外聞が悪いですし」

「なるほど、だが政治批判については?」

「憂国騎士団に囲まれたくはないですからね」

「あれはハイネセン近郊にしかいないだろ」


そうでもないのだが、確かに目立った活動はしていない。

だが、俺はいずれハイネセンでも活動する予定だからな。

どちらにしても、憂国騎士団や地球教徒、極右や極左、政治圧力等と渡り合う必要は出てくる。

もっともそれを先輩に言うつもりはないが。


「ともあれ了解した、直接的な表現じゃなければいいのか?」

「エロは局部描写や行為描写、グロは内臓ですかね、政治表現は団体や個人名が特定できるもの。

 それらが入っていたら修正をお願いすることになると思います」

「注意しておくよ、で、とりあえず何冊くらいいける?」

「最初はそうですね見てくれる人の数もありますので10作品。

 それ以上は一週間様子見した後でということで」


結構な数のミドルスクールが参加するらしいので、その気になれば2、30冊はいきそうだ。

だがまだ、読者の獲得が足りないし絵のレベルもばらつきが大きいだろうしな。

ともあれ、一定の利益は出してくれる可能性は高いとみている。

彼らにとっても祭りのようなものだろうが、これで参加することに対するボーダーが下がれば助かる。

後は……。




2週間後、同人サイトは凄い賑わいを持っていた。

俺も、アシスタント等を雇い、かなりの数の作品を作ったが先輩達の作品もあらかた掲載した。

同人誌の数は一気に50を超えており、売り上げも以前の作品含めかなり売れていた。

俺の手元には以前の倍、つまり20万ディナール(2200万円)が入っており、下手な社会人でも持てない金額に膨れ上がっている。

だが、俺の目的の元手にすら全く届いてないのが現状ではある。

とはいえ、同人誌売買では限界に近いだろう。

このまま活動は続けるが、俺自身の作品はそろそろ減らしていくべきだな。


俺は次の活動に移るため、バーリを呼ぶ。

というか、ネット販売の調整が終わったところらしく、顔を出した。



「バーリさん、頼んでおいた件どうなった?」

「ご主人様の許可は得ています。しかし、本気でやるつもりですか?」

「ああ、幸いにしてネット活動ならそちらを経由している分立ち回りが有利だ」

「わかりました、でも知りませんよ?」

「大丈夫、大丈夫」



同人誌には限界がある、しかし、何か既にある雑誌に掲載することができたらどうだろう?

そう、雑誌連載をやろうというのだ、ただし、そうなれば俺レベルの絵ではきつい。

そのための専門の絵師が必要になる、当然雑誌社との契約もだが。

幸い雑誌社のほうはエミーリアパパの会社の傘下にいくつかあるらしい。

作品は大人でも楽しめるものにしないといけないが、そんな漫画も結構あったのを覚えている。

ただし、絵師のほうは正直心もとない。

とりあえずこのパラス星の美大のような所を片っ端から当たり、漫画家になってくれそうな子を探すしかない。



「そうそう、漫画家になってくれそうな人物を何人かピックアップしてあります。

 目を通しておいてください」

「……それは助かる」



バーリの得意技、先回り。

こちらの意思をくみ取って命令する前に実行するというもの。

正直ダメ人間にされそうで怖いが、こっちはいつも通りのようだな。



「全員を面接しておいてくれ、シナリオは全員分あるから、それぞれ描かせてみて決めよう」

「わかりました」



ともかく、一人でなんとかできる事には限界があるからな。

バーリさんの事務及びマネジメント能力は凄く助かっている。

まーきっちり一部料金はエミーリアパパの会社であるインダストリアルグループに入っているわけだが。

彼女はあくまでインダストリアルグループの人材派遣部門からの出向社員という事である。


帝国からの亡命者を多く受け入れているインダストリアルグループは当然少し毛色の違うコングロマリットで、

亡命貴族のグループからも距離を置いているため、立場的には非常に独立独歩な気質となっている。

同盟中央に対する進出は最小限にしており、あくまで地方企業特に通信及びメディア関連の企業集合体だ。


そのおかげで、この辺りのニュースは割合大本営発表が少なく極右でも極左でもないあたりに落ち着いている。

まだしも、他のところよりはマシな文化土壌を持っているといえた。

だからだろうか、ハイネセンに邸宅を持っているはずのビュコック家の子供達がここでミドルスクールまで通っているのは。

まあ実際、大きな官舎を借りたのは最近らしいが。





そうして半年がたつ頃、とうとう俺の貯金は100万ディナール(一億一千万円)を越えた。

俺は準備を始める事にする、このままでも日本のアニメや漫画等からシナリオを引っ張ってくれば稼げるだろう。

しかも、この先も成長していく産業だ、グッズにアニメ化等もすればさらに利益は上げられる。

今の10倍くらいならミドルスクールのうちに稼げるかもしれない、しかし、やはりその程度ではだめだ。

それに、これ以上そちらにかまけると漫画王みたいな一生になるだろう。

それはそれで悪くはないが、何のために鍛えているのかわからなくなるし。


何より、政治に届かない。

資産だけなら俺の1000倍はあるだろうインダストリアルグループだって同盟政治においてはほとんど影響力がない。

政治に影響力を得られるようにするには、兆ディナール単位の金を手に入れるか、億人単位の人に影響力を持つか。

もしくは、そういった大物に対して影響力を持つか。


ともあれ、このままミドルスクールを卒業するわけにはいかない、ハイスクールへは行かない予定だからな。

士官学校に入るとなればハイネセンへ行かないといけない、ここの士官学校に入ってもエリートコースには乗れないだろうしな。

勉強は今でも欠かしていないが、忙しくなりすぎるのもいけない、的を絞ってはいるが人間関係も重要だ。

トレーニングも欠かせない、漫画のシナリオもきちんとあげないといけない、現状でもギリギリに近い。

むしろ現在このバランスで破綻していないのはバーリさんのおかげといえる。



「さて」



俺は例のカードをポケットに入れる。

一応バーリさんには仕事をいいつけてある、もっとも彼女だけかどうかわからない以上、賭けになるが。

そして都市の外れの廃工場へとやってきていた。

人の気配はないと思うが、用心のために仕掛けはほどこしている。

電気は来ていなかったので軽油式発電機を持ち込んでいた。

ネットにつながっていないパソコンを起動、カードを差し込んでみる。



「……」



起動しただけではやはり碌に読み取る事もできない。

パスワードはあの時の会話から察する事ができたので、打ち込んでいく。

すると解析ソフトがシャッフル状態の暗号を解読可能なものにしてくれるはずだが、半分くらいしか見れない。

文字化け文章になっている。

流石に用心深いな、なら、思いついたものを片っ端から試してみるしかない。

1時間ほどでようやく内容を読み取る。

なるほど……原作知識だけじゃここまでは読めないからな。

ウォリス・ウォーリックならではの知識なんだろう。

これを生かすにはまだ骨が折れそうだが。

ともあれ、これじゃどうしようもないな。


そして、廃工場から出ようと振り向いた時、俺は銃を突きつけられていた。



「そのデータの暗号解読されたのですよね?」

「ああ」



俺に銃を突きつけているのはバーリさん。

彼女が俺に仕えていたわけじゃないのはわかっていたが。

彼女に頼りすぎになっていたのも事実だろう。



「なら、私の前で解読してみてください」

「……」


ズキューン! 


発射音と炸裂音が同時に出たような音とともに俺の足に穴があく。



「ギャァァァアァ!!!???」

「うるさいですよ」



俺は痛みと熱さで転げまわるが、それをさらに蹴りつけられる。

痛みの中でも一応確認したが、どうやら骨はいっていないようだ。

筋肉は多少傷つけられたようだが、全治3週間くらいか。

脂汗を垂らしながら、とりあえず余計な事を考える余裕は取り戻す。



「いっ……いきなり発砲とは酷いな」

「ッ!」



ズキューン!


「ガァアッァッ!!!???」



今のハンドガンは基本レーザーで音は小さい。

俺は今までの認識を全て排除し、ただ一度回避するということに全力を注いだ。

もちろん回避等できるはずもない、ただ急所に近い所からはずれたようでありがたい。


もちろん、冷静に分析しているふりをしているが、痛みで朦朧とし始めている。

このままでは殺される。

いや、わざと外してくれているはずだ……パスワードを俺が言うまでは。

だからと言って痛みが楽になるということはないが。



「ぱっ、パスワードは……」

「早く言わないと次を撃ちます」

「わっ、わかった……P・I・A……」



パスワードを読み上げていく、可能な限り時間をかけて。

もうバーリさんならわかっているだろう、俺が時間稼ぎに出ていると。

だから周囲を警戒している、そろそろか……。

俺は倒れるふりをして、地面のスイッチに体ごとぶつかる。

スイッチはカモフラージュに埃をかぶってまともに見えない。

そして、電撃床の罠が発動した。

ちなみに、俺事電流が流れる自爆技である。



「がぁぁぁっぁ!?」

「ぐっ!?」



部屋全体に流れた電流が止まった時、すぐさま侵入してくる影があった。

それも複数だ。



「ジュージ! 無茶しやがって。すぐ医者につれてってやるからな。

 その女は縛り上げておけ、背後関係をはかせる」

「おう、しかし銃で撃たれてるってのによくやるな」

「それだけ信頼してるってことだろアンリを」

「全く、信頼が重いよ」



そう、アンリ・ビュコック先輩とその友人達。

彼らには先行してここで隠れていてもらった。

バーリさんのことだから気づいていた可能性もあるが。

人数を派遣されていたらやばかったから、事前にはわからなかったのだろう。

そんなことをつらつら考えているうちに気が遠くなってきた。


とりあえず俺は賭けに勝った……。






「知らない天井だ……」


有名な台詞を吐きながら、俺は目を覚ます。

あれから3日ほどたったようだ。

誕生日も過ぎたので14歳になっただろう、しかしまあ綱渡りだった。

因みに電撃床の罠はアンリ先輩に頼んで作ってもらってあった。

一年近く前からだ、いつか使う事もあるかもしれないと思って準備しておいたのだ。

ウォリス・ウォーリックと接触があった事が全く知られていないとは限らなかったから。

訝しみながらもやってくれたアンリ先輩には感謝している。



「起きたのか!?」

「ジュージ!! あんたって子は!!」



両親が駆け込んでくる、俺ほど手間のかかる子もいなかっただろうから当然か。

とはいえ、心配してくれたのだろう。

親父にはげんこつを食らったが、何も言い返せなかった。

説教も含め一時間ほど話した、今回の事は偶然とかでは流石に済まされないだろうから。

裏事情はともかく、銃で撃たれた事に関してはかなり問題があった。

幸いにして、全治2ヶ月程度ですんだがリハビリも含めると今年の卒業がギリギリになりそうだ。

レーザーなので焼き切れて筋肉が使えないとかならずに済んでほっとしている。


その後俺はノートパソコンを取り出し作業を始める。

アンリ先輩とエミーリアに無事を報告しておかないとな。

それから……。



「やあ、少しいいかな?」

「丁度よかった。俺も貴方にあいたかった所だ」



ノックの音と共に現れたのは、エミーリアパパことハルトムート・フォン・ゾンマーフェルト。

今回の件の首謀者だ。



「今回は酷い目にあったね」

「ええ、まさか撃ってくるとは思いませんでした」

「私もまさか自分の身の回りを世話してくれていた女性がテロリストとは」



自分は無関係と主張する気なのだろう。

だが、それが通用しないことは半ばわかっているだろうに。



「まさか、貴方が知らなかったなんてことはないでしょう?

 対帝国諜報組織薔薇の蕾・連隊長ハルトムート・フォン・ゾンマーフェルト大佐」

「知っていたか」

「いいえ、知ったのはごく最近ですよ」



実際その可能性があると思っていた程度だ。

彼の父親がマルティン・オットー・フォン・ジークマイスターの部下である可能性は考えていたが。

彼がそのものを引き継いでいたとは思わなかった。

何せジークマイスター帝国軍大将が亡命したのはもう52年も前の事だからだ。

彼が見た目通りの年齢なら生まれてすらいなかったことになる。

だが、帝国からの亡命者やサイオキシン麻薬の流入に際して使われているヴァンフリート4−2の事情を考えるに。

まだ帝国と繋がっている組織が地球教徒以外にもいる可能性はあった。



「ウォリス・ウォーリックの残した情報の9割は自伝でした。

 しかし、その中で何度か出てきたのが薔薇の蕾。

 恐らくはブルース・アッシュビーに情報を提供していた組織なのだろうと当たりはつけていたようです」

「ふむ」

「そしてその捜索を始めてから、彼の人生は狂い始めた」

「……」

「他の730年マフィアもそうですが、最後は酷いものだったようですね。

 あと残っているのはアルフレッド・ローザスとフレデリック・ジャスパーそしてファン・チューリンの3人だけ。

 表舞台にいるのは今年統合作戦本部長になったフレデリック・ジャスパーくらいですか」



英雄である彼らだが、実際の戦績はあまり芳しくなかった。

勝敗で言えば勝利し続けたが、重要な局面で十分勝てなかったため境界線の取り合いに終始していた。

この辺り、フェザーンの思惑の中から出ていないと言える。



「そして、貴方の事も調べていたようですね」

「それで?」

「協力が欲しかったんでしょう、恐らくは」

「協力ね、我々はもうすでに散々協力してきたと思うのだが」

「まあ、本人が死んだ以上書かれていた事以外はわかりません」

「なるほどな」



一通り聞いた彼は次にどうするのか、俺は少し興味をもって見ていた。

しかし、彼は動かない、俺の次の言葉を待っているようだ。

俺からリアクションをしろということか。



「俺も正直貴方達の情報収集能力は欲しい。

 しかし、そのせいで壊されたくはないですからね」

「その方が利口だろうね」

「だから今のところは現状のままでいいですよ」

「現状のまま?」

「ええ、折角貴方々のおかげで儲けが出てますし。

 バーリさんは有能ですからね」

「殺されかけて、そのうえで使いたいと?」

「はい」



ハルトムート氏は驚いた顔をしてみせた。

本気で驚いているようにも見えたが、スパイ相手だ油断はできない。

どちらにしろ、現状俺の金も命も彼が握っているのだ。

もちろん予防線くらいは張っているが。



「因みに今君を殺して全てなかった事にすると言ったら」

「面白いことになりますよ」



俺はノートパソコンをハルトムート氏に見せる。

そこでは、相手の送信したメールが開かれていた。

その相手は某有名ニュースキャスターからのメール。

俺に同人誌や最近始めた漫画等について聞きたいとするもの。

そして、俺が何者かに狙われていないか心配だというもの。



「俺が死んでいたら痛くもない腹を探られるかもしれませんね」

「暴漢に襲われた事にでもすればいい」

「それこそ無理でしょう、貴方達がいることはわかっているはずです。向こうも」

「ッ!」



社畜スキル虎の威を借る狐、はっきり言って俺自身で彼に対処することはできない。

だから、わざと地球教と関わりがあると噂のニュースキャスターと繋がりを持っておいた。

実際向こうも表側の意味でも漫画に興味を持ってくれているようなので助かった。

これで俺が死んだ時の保険ができるというものだ。



「俺と手を組んでおいたほうが得だと思いますよ?」

「ふふっ、はははっ!! いやはやとてもミドルスクールの人間とは思えないな! 参ったよ、完敗だ」

「では」

「ああ、君の望むようにしよう。それと可能な限り君のバックアップを務めるよこれからは。

 君なら本当に、同盟に勝利をもたらしてくれるかもしれない」

「信じてもらえるなら助かります。これからよろしくお願いしますね」

「ああ婿殿」

「え?」



こうして何だかんだあったもののインダストリアルグループの協力を取り付けることができた。

そして裏の意味でも、だ。

もちろん全面的に信用はできないが、エミーリアの婿にしてもいいというくらいには認められたと喜んでおこう。

大丈夫……だといいなぁ……。











あとがき


3話にしてようやく、ジュージに必要な力の一旦を手に入れさせました。

とはいえ、ご都合主義全開なので非常に申し訳ないのですが。

ゾンマーフェルト家関連は全部でっちあげです。

マルティン・オットー・フォン・ジークマイスター元大将の部下の実行部隊。

その2代目か3代目あたり、という設定です。

帝国諜報部の一部がまるまる手に入るとはいえ、まだまだ同盟の勝利には程遠いのでこれからです。

ご都合主義に我慢できなくなったら申し訳ありません。

この先もこういう感じで進めていきますので、オリキャラが増える可能性があります。


次回あたりから版権キャラともからませていきたいと思っておりますが。

どうなりますやら……。



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