銀河英雄伝説 十字の紋章


第八話 十字、任官する。






「情報網にかかっていないのか?」

「はい、お嬢様の行動は外出時に途切れています」

「……護衛もついていたのだろう?」

「はい、表の護衛2人、周辺見張り4人、中距離監視4人、そして裏が2人の12人体制です」


表の護衛は見えるように護衛する、ごつい2人だ。

周辺見張りは、少し距離を置いて、周りで行動する見張り。

中距離監視は、ビルや店舗に入り少し距離を取って監視する護衛。

裏は文字通り見えないように護衛する近距離護衛。

これだけの護衛がついていて見失う?

それが可能だとして、内部犯が一番疑わしい。

配置がわかっていなければこれだけの目をくぐり抜けられるとは思えないからだ。


状況的にバーリさんが一番疑わしいようにも見えるが、恐らくそれはない。

彼女のような人間は指示を出す人間がいない限り動かないだろうからだ。

そして、彼女は一度俺を殺そうとしている。

エミーリアパパの命令でだ、それを考えるにどこかの二重スパイの可能性は低い。

なにせ、二重スパイなら俺についている事自体が無駄だからな。



「で、どういう経緯か予想はできるか?」

「冷静なのですね?」

「冷静……だと思うか?」

「飛び出していく位するかと思いました」

「お前こそ、まるで動じてない」

「私はそもそも。そういった感情で動いていませんので」



バーリさんがある種壊れた人間なのは知っているが。

まあ、考えても仕方ない。

それに、だからこそ安心もしているというべきか。



「なら判っているんじゃないか? 俺の心境は」

「私を信用しているということですか?」

「信頼はしてないがな」



勿体つけられてイライラしているのは事実だ。

だが、彼女が何も掴んでいないということはないはずだ。

もしも何も掴んでいないなら、バーリさんは俺を待って等いない。



「そうですか、では。私見になりますがよろしいでしょうか?」

「構わない」

「恐らく、地球教ではないでしょうか?

 若様と敵対している組織は地球教とその関係組織フェザーン、憂国騎士団あたりでしょうから」

「確かにな、なら薔薇の蕾内部に教徒がいたということか?」

「いたのでしょう。そうとしか考えられません」

「それまでと以後の事を考えれば、護衛に紛れてきたという事になるな」

「はい」



これは俺の破滅の引き金になりかねない大事だ。

もしも彼女の身に何かあれば、薔薇の蕾とインダストリアルグループ、亡命貴族を一度に敵に回す。

そうでなくても彼女には幸せになってもらいたいと思っている。

なら、急がねばならない。



「内部犯の特定はできているのか?」

「当たりはつけてありますが、証拠はありません」

「それでいい、合わせてもらえるか?」

「は」



引っ立てられてきた男は見覚えのない男だった。

恐らく、影の護衛の一人か?

まあ、薔薇の蕾の組織内に入り込んでいるのか、後から洗脳でもされたか。

どちらにしろ、ろくなものじゃない。

そして、特定されたということは、恐らく地球教に関する何かを所持していたのだろう。



「名は何という?」

「ロマネフ・ボルゾイという名です」

「ほう」



ロシア系みたいな名前だが、少しもじってあるか?

そんなのはまあ、どうでもいいのだが。

普通に尋問しても答えないだろうことは判っている。

宗教ってのは、耐える時に力を発揮するからな。



「お前は地球教徒なのか?」

「違う!」

「フム。昔の判別法にこういうのがあってな。これが今の地球だ。

 これを踏んだら信じてやる」

「えっ?」



地球をプリントした紙をそいつの前に置いて聞いた。

踏み絵による教徒の判別だ、もっとも、地球教徒でなくても普通に踏みたくはないが。

それでも、こいつの信仰具合がわかる。



「こっ、これを踏めばいいのか?」

「そうだ、簡単だろ? 地球なんて古い星だ。過去はどうあれ今はただの赤茶けた荒野の星でしかない」

「そっ、そうだな……」

「どうした? 踏まないのか?」

「……ッ!」



完全に黒だな。

だが、それとこいつがエミーリアの行き先を知っているかどうかは別だ。

そして、こいつはその事になれば、完全に口をつぐむだろう。

だが、地球教が関わっているなら、探す手口はいくらでもある。



「なるほどわかった。バーリさんそいつの処分は任せていいか?」

「お任せを」

「まっ、待ってくれ!」

「何かな?」

「聞かなくていいのか!?」

「何を?」

「お嬢様の行き先をだ!」

「お前が今白状してるじゃないか。犯人は地球教だって」

「えっ!?」



こいつ本当に諜報組織の人間か?

俺は視線でバーリさんに問いかける。

バーリさんは首を横にふる。



「それぞれ特化した役割分担をしておりますので。彼のような人間は知識をあえて与えていないのです」

「なるほど」



囮というか、捕まる事まで含めて護衛なのか。

流石諜報組織というべきかもしれない。



「今度こそ後は任せます」

「了解しました」



俺はそう言って、そいつから距離を取る。

ロマネフは既に運び出しに入っているようで、気を利かせてくれたのだろう。

それを確認してから、電話を入れる。



「今良いだろうか?」

『聖者様ッ!』



俺は最初に十字教に電話を入れ、リディアーヌ・クレマンソー大司教に連絡を取る。

彼女は俺の電話を直通にしているらしく、特に待たされる事もなく電話に出てくれた。

そう、以前のままの地球教相手ならともかく、今の地球教なら対処できなくない。

分裂して弱体化し、多数の新興宗教によって継続的に信徒が増えない状況にある今なら。



「可能か?」

『はい、誘拐なんて許されることではありません。十字教800万の信徒を動員してでも……』

「いや、そこまではいい。特定さえしてくれれば対処は可能だ」

『急ぎ特定を行います。ただ、地球教の上層部は大抵地方政府とつながっていますので』

「地方政府? 同盟政府ではなく?」

『同盟政府にも影響力はありますが、地方政府の場合市民がまるごと地球教徒なんてこともありますし』

「なるほどな」



むしろ、地方自治体のほうがやばいということか。

まあ俺のやることが変わるわけじゃない。

しかし何気にまだ信徒増えてるな十字教……。



『特定しました、指示を出したのはマテュー=フレデリク主教、ハイネセン区の代表ですね。

 現在、同盟にはまだ大主教がいませんので実質同盟内の最高幹部です』

「なんでそんな大物が動いている?」

『彼らからすれば、貴方ほど憎い存在はいないかと。地球教以外の宗教を示してみせたのですから』

「なるほどな、それで場所は?」

『現在はまだテルヌーゼンの倉庫街にいるようです。足止めは必要ですか?』

「直接敵対出来る戦力はいるか?」

『以前契約したプライベートアーミーがいます。しかし、護衛専門ですのであまり期待はできないかと』

「ならば、監視だけ頼む。通話はそのままつないでおく」

『わかりました、何かあったら連絡します』



バーリさんに情報を伝え、俺たちも行動を開始する。

メンバーは俺、バーリさん、俺の護衛3人、エミーリアの護衛10人。

そして、バックアップ要員も今回は導入する、先回り要員として10名。

普段は情報を集めてくれているメンバーから抜き出している。



「ああ、それからマスコミを集めておいてくれ」

『はい、懇意にしているマスコミを動員します』

「どうせ泥沼のマスコミ合戦になるだろうから、せめて先手を取らないとな」

『幾つかの新興宗教の代表にも意思表明という形で弾劾を表明させますね』

「頼む」

『いえ、貴方のお教えを学んだ結果です。同盟にとって地球教は足かせになりかねないですから』



彼女達がバイブルと漫画やアニメから吸収した教えというのは結局それだったんだろう。

まあ、俺のパチもんはそういうのばかりでもないが、身近なものを守る作品が多いのは事実だ。

そうこう話しているうちにも、俺達は倉庫街にやってきていた。

先行部隊は逃げられないように街路を固めているが、突入は俺達を待ってから行うようだ。


誘拐を実行した輩は全部で6人程度らしいが、なぜ逃げ込んだのかといえば、薔薇の蕾の警戒網にかかったからのようだ。

そして、十字教の人員達により他の街までの通路はほぼ封鎖されているらしい。

薔薇の蕾から逃げ出した事を考えれば優秀なのだろう。

もっとも、逃げ切れないのだから、現状逃す事はないとは思う。

問題は自棄になられることか、エミーリアを傷つけられてはたまらない。



「バーリさん、現状どうなっている?」

「立てこもっていますね。恐らく脱出が間に合わなかったんでしょう」

「それ程早く対処出来た気はしないが」

「いえ、初動は確かに出遅れましたが、テルヌーゼン脱出までに早期警戒網を引いた事。

 そして十字教によるローラー作戦で身動きが取れなくなったといった所でしょう」

「薔薇の蕾が優秀なおかげか、だが。俺も参加する。いいな?」

「良くはありませんが。お嬢様の事を考えれば。若様はできるだけ早く合流すべきでしょう」



向こうの切り札は間違いなく人質だ。

だから、隙を作って、突入隊を突っ込ませるしかない。

そして、隙を作るのは俺の役目だ。

だが正直、怖い役目でもある。

何せ、撃たれる可能性が高いからだ。

人質に手を出させないためにも、俺に怒りを向けさせねばならない。

そうすると自然とそうなる。

もちろん、防弾、防刃、耐熱等の処理を施したものを服の下に身に着けておくが。

だからといって楽観視できるはずもない。

頭は帽子を一応かぶっていくが、顔をかばう事はできない。

しかし、やるしかないんだ。



「地球教徒のテロリスト共! エミーリアを離せ!」



俺は建物に向かっていう、そうして建物に向けて走っていく。

倉庫街にある貸し倉庫の一つに地球教徒達は立てこもっている。

見張りは二人、一度俺を見てぎょっとし、それからレーザーガンを向けてきた。

俺は可能な限りジグザグに走りながら、同様にレーザーガンを抜く。

流石にゼッフェル粒子の散布はしていないだろう。

外で十分に爆破できるほどの濃度に散布する事は車載のタンク程度では無理だろうしな。



「貴様は! 教敵ジュージ・ナカムラ!」

「撃ち殺せ!!」



教敵か、現状を俺が仕掛けたことだと理解しているということか。

だが俺の元に薔薇の蕾がいることで、暗殺が難しくなっているという事か。

だから、薔薇の蕾に人を潜り込ませ俺への切り札を確保しようとした。



「銃はそれ程得意じゃないんだが」

「こいつ!?」



レーザーが俺に当たっても死なない事に気がついたのだろう。

その間に俺が撃ったレーザーが当たり一人沈む。

一応撃ち抜いたのは腕と太腿、殺しはしない。

何せ士官学校の学生が正当防衛だろうと殺しをするわけにはいかないからな。



「くっ来るな!!」

「来るに決まってるだろ!」



俺は体をひねってもうひとりに向かう、そして絞め技で絞め落とす。

そうしてから、内部に突入しようとした。

だが次の瞬間複数のレーザーを放たれ、外に飛び出して影に隠れる。

何発かかすったが、怪我をした所も浅いものがいくつか出来た程度。



「しかし、無茶苦茶するな……」



こんな事をすればお先真っ暗だろうに。

狂信者の考える事はさっぱりわからん。

ド・ヴィリエのような打算タイプの人間が極端に少ないせいだろう。

後はルビンスキーくらいだろうしな。

しかし、銀河英雄伝説の三悪人である、ド・ヴィリエとルビンスキーとヨブ・トリューニヒト。

全員繋がっているんだから笑える話だ。


ともあれ、先程の突入で恐らく薬で眠らされていると思しきエミーリアを発見したのだが。

問題は、残る地球教メンバーのうち、4人が彼女を囲んでいるという事だ。

俺に攻撃してきた4人をあわせて8人、行動不能にした2人を含めるなら10人だ。



「動くな! 動けば女を殺す!」

「ちぃッ!」

「武器を捨てろ!」



俺はレーザー銃を地面に投げる、やはり俺一人ではどうしようもない。

後はバックアップを信じるしかないんだが……。

時間は稼いで見せないといけないだろうな。



「エミーリアには手を出すな! お前達の目的は俺だろう!?」

「確かに教敵ジュージ・ナカムラを殺すのは我らの使命だ!」

「だが、貴様には先に絶望を味わってもらう!」



不味いな……お定まりのパターンではあるが、ご都合主義による助けは期待できない。

まあ、最悪の場合はバーリさんが突っ込んでくるんだろうが……。

どちらにしろ、彼女に被害を与えるわけにはいかない。

俺は覚悟を決めて一歩前に出る。

ビビった何人かが俺に銃を向けるが、意識して無視する。



「お前達は何故そこまで地球教にこだわる?!」

「それが天意だからだ!!」

「ええい、教敵と対話しようとするな。撃ち殺せ!!」



俺が歩を進め始めたことで焦りが出たのだろう。

エミーリアに銃を突きつけている一人以外は全て俺に銃を向ける。

我慢弱いのはありがたいな。

だが、7条の光芒が俺に向かって飛ぶ。

俺はとっさに顔だけは庇わねばと両手をあげた。

当然間に合わなかったが、顔をかすめたのは一条だけで残りは体に向かって飛んできた。

顔以外は防弾、防刃、耐熱なのでレーザーにも多少は耐えられるらしいが。

レーザーは熱線なので耐熱による軽減はあるが無傷というわけじゃない。

かなり熱いし、痛い。

どこまで信用出来るかはわからなかったため、そのまま体を沈めて回転した。



「こいつ! レーザーの対策をしてきてやがる!」

「レーザーは駄目だ! 手榴弾持ってるヤツは投げつけろ!」

「はい!」



流石に俺が怪我でダウンしないことが訝しいと思ったのだろう。

対処法を変えてきたようだった。

レーザーガンに手榴弾なら、当然火薬式の銃を持っている奴もいるんだろう。

どれもスーツに致命的なダメージを与えるものではないが。

手榴弾は厄介だ、むき出しの部分に直撃を食らう可能性がある。


俺は投げ込まれた手榴弾を拾って投げ返すことにした。

幸い4秒待ってからではなかったため、ギリギリ投げ返すモーションは間に合ったが。

スムーズにはいかず、俺が投げ返した直後に爆発した。

とっさに、顔をかばったが手榴弾には人を傷つけるための鉄片が多数含まれている。

爆発によってそれを飛ばすのが手榴弾の攻撃方法となる。

そのため、音速を超える鉄片が俺に降り注ぐ。



「ぐあぁぁぁぁッ!?!?」



防弾防刃の効果である程度怪我は軽減されているはずだが。

音速でぶつかるだけでも、人間にとってはかなりの打撃になる。

体中が痛い。

内出血や破片による傷が無数にできたのだろう。

まあ、その痛みのおかげで気絶は免れたが。

転げ回って泣き叫びたい。

意志の力で抑え込める限界を越えつつあるのを自覚していた。



「ハァッ……!! ハァッ……!!」



なんとか呼吸を沈めながら周囲を見る。

エミーリアとは距離があるため、よくはわからなかったものの。

俺の近くにいた地球教徒はあらかた片付いたようだ。

後は、エミーリアの近くにいる4人だが。

今の俺は立っているのが限界だ……。

正直痛すぎて、歩く事もままならない。


だが同時に、向こうもこの状況に混乱したのか、身動きしようとしない。

これこそ好機だろう、無茶をするべき時間だということだ。

俺はずりずりと足を引きずり歩き出そうとする。



「全く……ぶっ、物騒な……宗教だな……」



ほんの2歩ほど進んだ所で俺はひざをつく。

それ以上進むだけの気力はもうなくなってしまっていた。



「これで終わりだ!!」

「地球教に栄光を!!」

「教敵に神の裁きを!!」



それぞれ、構えて銃を撃とうとする。

しかし、次の瞬間。

彼らは背後からの奇襲に会い拘束されていった。

なんとか俺は時間を稼ぎきったようだ。

ちなみに、捕らえているのは軍警察に入り込んでいる薔薇の蕾のメンバーだ。

4人ほどおり、手際よく地球教徒達を拘束していく。

10人全員を拘束するのに3分もかからなかっただろう。

俺は視線だけでカメラの位置を確認した後、気が遠くなるのに任せる事にした……。




「ジュージ! ジュージ!!」

「んっ……」

「ジュージ! 起きた! 良かった……」



ぼんやり、視界が開けてくる。

最初に見えるのは女性の輪郭と聞き慣れた声。



「エミーリア……ぶ、無事か?」

「うん、無事だよ! ジュージのおかげで」



涙を浮かべ、俺を見ているエミーリア。

金色の髪が揺れ、エメラルドの瞳を濡らす雫がかかっている。

俺は思わず指を伸ばし、その雫をすくい取る。



「お互い無事だったんだから、泣くなよ」

「だって、だって……」



エミーリアに対し俺はある程度意図を持って接している。

だが、彼女は少なくとも俺を心配してくれるんだな。

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

恋や愛といったものに縁遠かったせいか、どう接していいのかわからなくなりそうだ。

俺は、とりあえず彼女の頭を撫でる事にする。

実年齢差のせいか、子供をあやす用になるのは仕方ない。

彼女が少しでも幸せであればいいのだが。


俺と付き合っていくなら、どうしても激動の時代に巻き込まれる。

ここまで来て止まれるはずもないのだから。

俺自身、色々保険をかけてはいるが、原作開始より前に死んでいる可能性も高い。



「こんな俺だけど、いいのか?」

「うん、貴方がいいの!」



俺達が正式に付き合うようになったのは、この時なのだろう。

なぁなぁだった今までと違い、彼女は家を持つ事を考えてくれた。

俺達は任官する前に、ハイネセンにそれなりの家を構える事を決めた。


家は、出来うる限りエミーリアの意見を取り入れ。

金の方は個人で使う上では有り余っている。

500万ディナール(5億5千万円)をかけ体裁を整えてから。

後は薔薇の蕾に色々整えてもらった。

バーリさんの部屋等もあるあたり、エミーリアも判っているのだろう。

俺がまともな仕事をしているわけじゃない事が。


十字教ハイネセン支部が近いのも選んだ理由だ。

いざという時、恥も外聞もなく逃げ込めるように。

この先何が起こるかはわからないのだから。



「これが2人の新居なんだね」

「ああ、可能な限り安全と利便性を考えたつもりだ」

「でもハイネセンで暮らすとか考えてなかったわけじゃないけど……」

「そうだな……早く周囲と馴染まないとな」

「うん!」



ともあれ、ここらあたりは高級住宅街だ、警備のほうも高級士官街よりむしろ上だから憂国騎士団程度ならどうとでもなる。

利便性もだが、バーリさん以外にも薔薇の蕾のメンバーを使用人として雇い入れている。

前回の失敗に基づき、地球教関連や政府とのつながり等、可能な限り思想や家族構成も把握している。

今まで少し隙があったと思わなくもないため、徹底してその当たりを強化した。



「後は士官学校の卒業だけだな」

「ジュージなら簡単だよ!」

「当然だな!」



お調子者みたいだが、実際ここで落ちると何のためにハイネセンに来たのかわからない。

順位はある程度仕方ないとしても上位でぬけないと。


それから、今回の襲撃の件はしっかり報道しておいた。

十字教と懇意にしているマスコミを使い、撮影した映像を全ての局に送りつけておいたのだ。

編集すればばれるので編集なしのものをだ。

編集の代わりに俺が芝居をしたわけだが、大根だったとしても怪我も人質も本当だ。

まして、十字教は元地球教徒も多いので誘拐犯が地球教徒としてどんな立場の人間かも注釈つきで教えられた。

結果として大反響になった地球教徒人質事件は、地球教によるトカゲの尻尾切りで一応は落ち着いたが、

やはり地球教の同盟内での人気が下がり、結果として離脱があいついだ。

それでもまだ五千万人近い教徒がいるが、俺が仕掛ける前は二億人以上いた地球教徒は壊滅に近い縮小を余儀なくされた。

そして、今回の事で受け皿となった回帰教と、十字教は規模を増やし各々一千万人を超える大規模な宗教となっている。



「これも全て聖者様のおかげです」

「聖者っていうのは正直やめてほしいが。もともと地球教の危うさは知っていたからな」

「はい、この先も油断せず信心を持って続けていくつもりですわ」

「頑張ってくれ。まだまだ頼む事も多い」

「はい!」



この事態を受けて、フェザーンも危機感を持ったのだろう。

同盟への資金投入が加速しているという話も聞く。

とはいえ、現状資金の投入は同盟にとってマイナスに働く事はない。

ただ、同盟が敗北する時の資金の動きには注目しなければならない。






それからも、基本的には士官学校とセーフハウスの往復で日々は過ぎていった。

せっかく買った家だが、流石に頻繁に帰るには遠い。

自然エミーリアもセーフハウスに来る事が多い。

俺が土日をセーフハウスで過ごすのと同じようにエミーリアも土日だけ来て過ごすという感じだ。

そんな日常が少し繰り返された頃、俺はまた校長室に呼び出された。



「ジュージ・ナカムラです」

「うむ、入り給え」



相変わらず厳しい顔をしたおっさんだ。

真面目で、ウィットに飛んだ話題を言えるユーモアもある。

だが、目をつけられた俺のようなのはやはり辛い。

彼の派閥に入れそうもないってことは、俺はヤン任せが出来ないってことだ。

仕方ない話ではあるが、やはり辛いな。



「私が何故君を呼んだかわかるかね?」

「いえ、わかりません」

「うむ、ジュージ・ナカムラ。君は私が言ってより校内で大金を使った買収行為をやめた。

 その事は評価しよう」

「買収といいますが。仲良くなるために使っただけで犯罪行為になるようなことはしていません」

「それも評価している、だから君に対し処分を保留にしているのだ。

 ただし、その行為によって君に関われば金になると思っている輩が多いのも否定すまい?」

「はい、その件は申し訳ないと思います」



まあ、言いたい事はわかる。

学生の人格形成を阻害するというのだろう。

もっとも、小金のために人生を誤る人間は多い、それを考えれば俺のやっていることはそれ程影響はないと思うが。

あくまで、手土産だけだ。

バグダッシュには情報料を払っているが。



「だが今回は別件だ。私が聞きたい事は君は宗教関係者なのかという事だ」

「関係者か関係者でないかと言われれば無関係ではないと答えますが」

「無関係ではないね。十字教という宗教は君の名前を冠しているようだが?」

「その宗教が勝手にやったことですよ。私は命名に関与していません」

「なるほど」



これは事実だ、俺の名前の宗教なんて小ぱずかしい事できればやめてほしい。

だが、今や一千万を超える信徒を持つ宗教だ。

今更なかったことにも出来ないだろう。



「しかし、無関係ではないと。君が軍に入った場合特定宗教の意図が反映される可能性があるという事かね?」

「どちらかといえば、それを排除するために頑張っているつもりですが」

「どういう意味かね?」

「地球教の弱体化及び力の分散です」

「ほう、何故そんな事をするのかね?」

「理由は今言ったことを問題視する校長なら理解してくれると思いますが」



流石というべきか、宗教の危険をいち早く理解しているとは。

といっても、既に地球教は蔓延しているわけだから、彼が何か対処できたわけでもないが。



「ふむ、つまり。君は地球教を弱体化させるために十字教を作ったということかね?」

「はい、実際。地球教の影響力は半減しているはずです。それを支持基盤とする政治家も減っているかと」



十字教だけを仕込んだわけじゃないが、言えば余計危険視されそうだしな。

聞かれなければ黙っているほうがいいだろう。



「しかし、そんな事をやってしまう君は何者かね?」

「何者かですか。今の所、自分で金を稼いで同盟を救おうとしている夢想家ですかね」

「ほう、君は英雄になりたいのかね?」

「英雄かあ、表に出るとは限らないので。英雄になるかどうかはわかりませんが。

 今は足場固めをしていることは事実ですね」

「ふむ……私には君がどういう存在なのか理解しきれないようだ。

 君が大人物か危険人物かバカなのか、それすら判断しかねるよ」

「それは、結果を見て判断してもらうしかないですね」



実際俺のやっている事は賭けの要素が強いからな。

今の問答も可能ならシドニー・シトレには味方になってほしいと思って話している事でもあるし。



「ならば、判断は保留にするしかあるまい。出来れば学生のうちに答えを出したかったが」

「世間に理解されようとは思っていません。出来ればシドニー・シトレという方には理解してほしかったですが」

「では、結果を出してくれたまえ」

「はっ!」



そうして、シドニー・シトレ校長による2度めの呼び出しは終わった。

結局俺は学生のうちに、彼に認められる事はなかったし、評価も上位陣の中では普通くらい。

卒業出来ただけでも凄いが、主席とか次席みたいな特別感はない。

それでも、エリートであることは事実で、卒業と同時に少尉任官が確定している。



数ヶ月の後、エミーリアに見送られ任地へと向かう俺の姿があった。

軍はアルバイトも副業も禁止であるため、俺の名義の会社は全てエミーリアに渡してある。

株はまだ俺が持っている物も多いが、漫画原案のほうは向こう20年問題ないように大量に送ってある。

漫画喫茶は軌道に乗ったため、次は一番稼げると思しきコンビニチェーン店の展開だ。

うまく行けば今までで一番稼げる会社になるだろう。

だが恐らく、軍が被害を出せば軍に真っ先に持っていかれるような存在を雇う関係上、戦争では負けられない。



ここまで長かった、

20年もかけて色々仕込んできた。

金も稼いだ、地球教も弱体化させた。

しかしそれでも、まだまだ同盟が有利になったというわけじゃない。

同盟内の地球教弱体化はフェザーンの介入激化を呼んでいる。

戦争はフェザーンの考えるバランスの内だし、同盟政治は戦争票をアテにする政治家ばかりだ。


だからこそ俺は、軍に入らねばならない。

優秀な存在を囲い込み、強い軍を編成し、帝国を蹴散らす。

フェザーンの経済力を封じるためにも。

急いで出世する必要がある。

全ては俺の安寧のためだ、ごまかす気もない。



「絶対やってみせる」



俺は小さく呟いた。








あとがき


ようやく任官まで行くことが出来ました。

5話くらいで終わらせる予定だった学生編も8話。

かなり膨らんでいます。


ですが、おかげで十字教なんてネタを仕込む事ができました。

この先も結構重要な役割を持っている存在だと思います。

ただ少し地球教を叩きすぎ、フェザーンの介入を呼ぶ事になりました。


結果として、状況に大きな変動がない状態になるでしょう。

それどころか、下手をすればフェザーンが同盟に余計に食い込んでしまうかも。

この先、バタフライ・エフェクトがどうなるか、頭を抱えている最中です(汗

ともあれ、これからも頑張っていきますね。



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